ヒブワクチン

ヒブワクチンのお話

 小児科医が待ちに待ったヒブワクチン「アクトヒブ®」(製造:サノフィパスツール、販売:第一三共)が予防接種後進国の日本でもようやく接種できるようになりました。
 さて初登場のヒブワクチン、「???」という方が多いと思います。このワクチンは子どもの命に関わる重症感染症の「細菌性髄膜炎」を予防するものです。
 何回接種するのか、費用はいくらなのか・・・基本的なことをまとめましたので、参考にしていただければ幸いです。

番外編:「ワクチン後進国日本」と呼ばれる理由は?

日本におけるヒブワクチンの動向
 2003年:承認申請、2005年:小児科学会から厚生労働省に早期承認の要望書提出、2007年1月:認可、2008年12月:発売。

世界におけるヒブワクチンの動向
 WHOは1998年にすべての国に定期予防接種として採用することを推奨、2002年のWHO報告ではヒブワクチンを定期接種としている国は94カ国となっていて、アジア濇苦で採用されていない国は日本と北朝鮮を含む数カ国だけ。

 どうです、この違い。本来WHO勧告に従って国家主導で行うべきワクチン導入を放置してきた政府の責任は大きいと思います。

2011年2月より全国的に公的補助が始まりました

Q.「ヒブ」ってなあに?

A.「インフルエンザ菌b型」の略称です。
Haemophilus Influenzae type b:略してHibヒブ

 「えっ? インフルエンザって冬に流行るインフルエンザのこと?」と疑問を持つのもごもっとも。インフルエンザのワクチンは既にありますからね。
 しかし毎年冬に流行するインフルエンザは「インフルエンザウイルス」による感染症であり、ヒブと呼ばれる「インフルエンザ菌」とは全く異なる病原体です(このからくりは次項で解説)。
「インフルエンザ菌b型」と呼ぶとインフルエンザウイルスと紛らわしいので、あえて「ヒブ」と呼んで混乱を避けているのです。

<インフルエンザ菌について>

 インフルエンザ菌のすべてが恐ろしい強毒菌ではありません。実はほとんどが健康な子どもの喉や鼻にもいるありふれた菌(常在菌)なのです。しかし、ときに体の奥に侵入して病気を起こすことがあります。
 インフルエンザ菌は1種類ではなくいろんな仲間が含まれています。
 表面の膜(莢膜と言います)の有無により「莢膜型」と「無莢膜型」に分類され、無莢膜型はさらに a〜f型の6種類に細分類されます。ヒブは「莢膜型」の中の「b型」になるわけです。

無莢膜型中耳炎気管支炎・肺炎など局所感染症の原因になりやすい。
莢膜型 髄膜炎敗血症などの全身感染症喉頭蓋炎の原因になりやすい。

 上記のように「莢膜型」の方が重症化する傾向があります。特にヒブは怖い感染症である髄膜炎の原因になりやすく、数あるインフルエンザ菌類の悪玉代表といったところでしょうか。
 インフルエンザ菌による上記の病気に罹りやすいのは乳幼児です。保育園児がこの菌による中耳炎を繰り返して耳鼻科通院が長くなるのはよくある現象ですね。
 乳幼児期に軽い感染を繰り返して自然に免疫がついてきます。ふつう3歳を過ぎると抗体が増えてきて、インフルエンザ菌による感染症も減ってきます。
 水痘やおたふくかぜなどの「一生に一回しか罹らない」ウイルスと異なり、細菌感染という性質からインフルエンザ菌感染症は「反復感染」するのが特徴です。溶連菌と同じですね。
※ ヒブによる細菌性髄膜炎罹患後にも抗体価が十分上がらなかった例も報告されています。

Q. 細菌性髄膜炎ってそんなに怖い病気なんですか?

A. はい。細菌が脳脊髄液に侵入して増殖し脳にダメージを与える病気で、早期診断が難しく、治療を尽くしても重症化は避けられません。 

疫学;5歳以下に多い(半分は1歳未満)
 頻度は小児人口10万人につき年間約10人(日本全国では1年間に500〜1000人の子どもが罹患)
原因:小児ではほとんどがヒブ(まれに肺炎球菌)
□ 症状:高熱・頭痛・嘔吐・意識障害・けいれんなど
□ 治療:抗生物質ほか重症度に応じた集中治療
※ 近年ヒブの薬剤耐性化(抗生物質が効かない)が進み、さらに治療が難しくなってきています。
□ 予後5%は死亡し、25%に後遺症(聴力障害やてんかんなど)が残ります。

院長のつぶやき)同じ「髄膜炎」という病気でも「ウイルス性髄膜炎」は細菌性髄膜炎より軽症で後遺症の心配もほとんどありません。おたふくかぜに合併することが有名ですね。

院長のつぶやき-2)館林厚生病院小児科勤務時代の9年間に「インフルエンザ脳症」を3例経験しました。一方ヒブによる細菌性髄膜炎はこれより多く、年間1〜2人診療していました。幸い死亡例の経験はありませんが、重症化して脳の中に膿が溜まり手術に至った子どももいました。ショックに近い状態で入院する子どもがいたり、ホントに怖い病気なのです。小児科医は高熱でぐったりしている患者さんを見ると「細菌性髄膜炎かどうか」をまず判定する癖がついています。「熱ぐらいで夜病院に来るな!」と言い切れないのはこの病気の可能性が少ないながら存在するからであり、日本の小児救急の鬼門になっています。ワクチンで予防できるなんて夢のようです。ワクチンが普及して細菌性髄膜炎の不安が減れば、小児救急医療のストレスも軽減することが期待されます。

☆ インフルエンザ菌とインフルエンザウイルスの微妙な関係

髄膜炎の原因となるヒブ   → 細菌
冬に流行するインフルエンザ → ウイルス
 細菌の大きさはウイルスの約100倍で性質も異なる全く別の病原体です。

 紛らわしいネーミングには、涙ぐましい努力の積み重ねである病原体研究の歴史が隠されているのです。
 時は19世紀末、インフルエンザ患者から取れた痰を研究者が光学顕微鏡(理科の実験で使うアレ)で観察していてある細菌を見つけました。「これがインフルエンザの原因だ!」と彼は新発見に心躍らせ「インフルエンザ菌」と命名しました。
 しかしこれは研究者の誤解であり、インフルエンザ菌は真犯人ではありませんでした。1930年代に光学顕微鏡より解像度の優れた電子顕微鏡が発明され、ようやく研究者達はウイルスの姿を見ることができるようになりました。それとともに、原因がわからなかった感染症の多くがウイルスによるものであることが発見されたのです。
 そしてインフルエンザの原因もウイルスであることが判明しました。残念ながら光学顕微鏡でいくら観察しても見えなかったのですね。その後もなぜか「インフルエンザ菌」という名前は消えずに残りました。これが混乱の原因です。

院長のつぶやき)実は私も医学生時代に「インフルエンザウイルス=インフルエンザ菌」とずっと勘違いしていました。違いを知ったのは医者になって数年後(苦笑)。
 そうそう、有名な医学者である野口英世博士。彼は「黄熱」という病気の研究をしていて最後は自分自身が黄熱に罹って命を落としました。顕微鏡で研究を重ねるもついに病原菌は見つからず「わからない、わからない・・・」とつぶやきながら死んでいったと伝記に記されています。実は黄熱の原因はウイルスで、彼が研究で用いたのは光学顕微鏡でした。

Q. ヒブワクチンはどんなワクチンですか?

A. ヒブによる髄膜炎は前述の通り罹ったら最後、重症化を防ぐことは困難な病気です。

 さらに近年は抗生物質が効かない薬剤耐性菌が増えて問題視されてきました。この閉塞状況を打開すべく、ワクチンで予防する方法の研究が進みました。

1985年 米国で開発されたワクチンが初めて認可(PRPワクチン)
1987年 改良されて有効率が上昇し(ヒブ結合体ワクチン)
1990年 使用可能年齢が「生後2ヶ月以上」となる

とトントン拍子で進歩しました。
 このワクチンの導入によりヒブによる全身感染症が1/100に激減しました(ブラボー!)。ワクチンの素晴らしいところは薬剤耐性菌問題も解決してしまう点です。

WHOはヒブワクチンの有効性と安全性を評価し、1998年にすべての国に対してヒブワクチンを定期予防接種プログラムに組み込むことを推奨しました

 現在世界90カ国以上で定期接種プログラムに組み込まれており、それらの国々ではヒブによる細菌性髄膜炎が過去の病気になりつつあります。近隣の中国・韓国・香港でも既に定期接種として行われています。
 アメリカから遅れること20年、世界から遅れること10年、ようやく日本でも2008年12月に発売されました。しかし残念ながら、麻疹・風疹などと同じ定期接種ではなくおたふくかぜ・水ぼうそうなどと同じ任意接種(費用自己負担)という設定でのスタートとなりました。

Q. ヒブワクチンの具体的な接種方法を教えてください。

A. ちょっと複雑です。

 不活化ワクチンですので十分な免疫をつくるためには複数回接種が必要です。
 さらに他のワクチンと異なり「開始年齢により回数が変わる」という特徴があります。なぜかというと、前述の通りヒブに対する抗体は年齢とともに自然に獲得されていくからです。
 抗体量が不十分な乳児ではヒブによる全身感染症に罹る可能性が高いので低年齢ほど回数が多く設定されており、一方5歳以降は接種の必要が無くなります。では遅く始めた方が回数が少なくて済むから安く上がるのでいいな・・・と考えがちですが、一番怖いヒブによる細菌性髄膜炎は0歳児に多いので、あくまでも「生後2ヶ月以上〜7ヶ月未満に開始」が標準法です。

具体的には以下の通り;

【ヒブワクチンの接種スケジュール】

 ①の期間に開始するのが標準法です。その期間から遅れた場合(接種もれ)は、開始年齢が遅くなるほど回数が減ります。
2ヶ月以上 〜 7ヶ月未満  → 合計4回
 初回免疫3回(4〜8週間隔)+追加免疫1回(1年後)
ヶ月以上 〜12ヶ月未満  → 合計3回
 初回免疫2回(4〜8週間隔)+追加免疫1回(1年後)
1歳以上 〜 5歳未満  →1回のみ
(5歳以降は必要なし)

 小児科医の考える理想的接種方法は現行の3種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風・百日咳)と同時接種することです。すると予防接種のスケジュールが組みやすく、病院に行く回数も増えずに済みます。

院長のつぶやき)欧米では同時接種はごく普通に行われており、WHOも同時接種が可能であるという見解を示しています。しかし、日本では任意接種であり費用自己負担(1回7000〜8000円、4回合計約3万円!)なので・・・誰でもできるわけではありませんね。
「子どもの命を守る」ために定期接種化、あるいは公的補助を期待したいところです。
全国各地で、意識の高い市町村は公費補助を始めています。

院長のつぶやき)保育園に行っている乳幼児は中耳炎を繰り返し、耳鼻科通院がなかなか終わりません(私は「アリ地獄」と呼んでいます)。これはインフルエンザ菌や肺炎球菌の感染を繰り返し、一部は薬剤耐性化しているからです。ヒブワクチンは中耳炎を起こす無莢膜型のインフルエンザ菌には効きませんが、これから登場する予定の肺炎球菌ワクチン(7価あるいは11価)は中耳炎を予防する事が期待されるワクチンです(早く認可して!)。実はこの肺炎球菌、髄膜炎の原因第2位ですので、ヒブワクチンと両方接種すると小児科医の仕事が変わるとさえ言われています。早くその時代が来ないかなあ。

院長のぼやき)日本は現場の小児科医がイライラするほど遅れており、アジアで接種できない国はあの北朝鮮と日本だけと最近まで言われてきました。日本はなぜ定期接種化せず、任意接種(自己負担)で始めたのか・・・小児科医は歯がゆい気持ちでいっぱいです。やはりトラブルを回避したい腰の引けた予防接種行政がそこに見え隠れするのです。

Q. ヒブワクチンの副反応について教えてください。

ヒブワクチンの副反応(頻度順:添付文書より抜粋)

5%以上
  注射部位の発赤・腫脹・硬結・疼痛など
  易刺激性(不機嫌)、不眠
  消化器症状:食欲不振、下痢、嘔吐
0.1〜5%未満
  じんましん、発疹
  精神神経症状:傾眠、神経過敏、異常号泣
  口唇変色
  咳、鼻炎、鼻出血
  発熱、血色不良、結膜炎、皮膚肥厚
頻度不明(とても希ということ);
  ショック、アナフィラキシー様症状(じんましん、呼吸困難、血管浮腫、顔面浮腫、喉頭浮腫等)
  けいれん
  血小板減少性紫斑病
  過敏症反応、そう痒症、浮腫(顔面、喉頭等)、下肢浮腫
  注射部位の炎症症状

 わかりやすく言うと、100人に接種すると5人(+α)の子どもが注射した部位が赤く腫れ、不機嫌になったり気持ち悪くて吐いたり下痢したりすることがあります。ショック等の重篤な副反応の記載もありますが、他のワクチンと比較して頻度が多いわけではありません。

院長のつぶやき)実は皆さんがいつも飲んでいるかぜ薬(アスベリン、ペリアクチンなど)の添付文書にも「まれながらショックなどの重篤な副作用がある」と同じ事が書いてあります。全部読んだら薬が怖くて何も飲めなくなるかもしれません。

Q. ヒブワクチンについて、他に注意すべき事がありますか?

A. 知っておいていただきたいことが2点あります。

 ヒブワクチンには製造過程で欧米のウシ成分が混入しているのです。一応、欧米では安全と評価され、狂牛病類似疾患の発生はゼロですので心配はないということになっています。
 以下はワクチン添付文書からの抜粋;

 「本剤は,マスターシードロット製造時にフランス産ウシの肝臓および肺由来成分,ヨーロッパ産ウシの乳由来成分を使用している。また,培養工程で米国産ウシの血液および心臓由来成分を用いて製造されている。これらの米国産ウシ由来成分は米国農務省により健康であることが確認されたウシに由来し,欧州医薬品審査庁のガイドラインを遵守して製造されている。理論的なリスク評価により,本剤は一定の安全性を確保する目安に達していることを確認している。諸外国において本剤の接種によりTSEがヒトに伝播したとする報告はない。以上より,本剤によるTSE伝播のリスクは極めて低いものと考えられる。」

TSE(Transmissible Spongiform Encephalopathy、伝染性海綿状脳症):狂牛病、羊のスクレイピー、シカの慢性消耗病、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病などの総称。

 もうひとつ。
 ヒブワクチンはインフルエンザ菌感染症のすべてを予防できる万能ワクチンではありません。あくまでもヒブによる細菌性髄膜炎などの重症感染症が対象となります。無莢膜型のインフルエンザ菌が原因となる中耳炎や気管支炎・肺炎は残念ながら予防できません

院長のぼやき)アメリカでは同時接種が普及しており、一度に3箇所ブスブスブスと針を刺されることもまれではありません。留学した先輩医師の話では接種後に解熱剤を渡されて「これを○時に飲ませてください」と指示されるそうです(つまり熱が出るのが当たり前って事?)。ちょっと日本では考えられませんね。あ、その後実際に熱が出たそうです。日本では予防接種後に発熱すると大騒ぎしますが、かの国では「発熱は予防接種をやった証拠」くらいに捉えられているのでしょうか。
 日本でも「医師が必要と判断したときは同時接種してよい」と予防接種法に書かれてはいるものの、実際に行うと「危険なことは止めなさい」という天の声がどこからともなく聞こえてきます・・・ヤレヤレ。

Q. たけい小児科・アレルギー科ではいつから接種可能ですか?

 ヒブワクチン接種に至るプロセスは・・・

1.希望者は病院で予約
2.医師は製造メーカーに接種希望の患者情報をFAXで送付
3.メーカーが月単位で集計しワクチンを配布
 (ただし割り当てが病院は10人/月、開業医院3人/月

 というかつてない複雑な方法で開始されました。

 エッ? 開業医ではひと月に3人だけ???。
 それでは、当院で予約を開始した場合、30番目の人は10ヶ月後の接種ということに・・・100人以上予約が集まったら3年待ち?

 実は予想数よりたくさんの予約申し込みがあり、ワクチンが足りなくなり上記のような方法となりました。予約していただいても希望時期に接種することは困難な状況です。スムースに供給されるようになった時点で開始したいと考えていますので、もうしばらくお待ちください。

院長のぼやき)すべては「定期接種すべし」というWHOの勧告を無視した厚生労働省の責任だと思います。任意接種では何人分用意すべきか予測が難しく、ワクチン製造メーカーは困ってしまいます。造りすぎて余っても困るし・・・。ホントにもう、何とかならないのでしょうか、この日本の予防接種行政!

(2009.2.18初掲載)

追記:2009年5月にヒブワクチン予約を開始しました。

Q. 2011年3月の接種停止問題について教えてください。

 2011年2-3月にかけてヒブワクチン・肺炎球菌ワクチンを接種した子どもの死亡例が相次いで7件報告されました。
 これを受けて厚生労働省は、ワクチンの安全性について確認するため、一旦停止措置を取りました。
 問題となったのは、
① ワクチンそのものの安全性
② 同時接種の安全性
③ もともと心臓病など重い病気のある子どもへの接種の安全性
 などです。
 検討の結果、上記に関して問題なしと判断され、再開に至りました。

 では、死亡した子ども達の原因は何だったのでしょう?
 可能性として考えられることは乳児突然死症候群(SIDS, Sudden Infant Death Syndrome)の紛れ込みです。
 現在日本では年間約100万人の赤ちゃんが生まれています。そのうち、1年以内に死亡する赤ちゃんは2700人くらい。先天性の病気などが多いのですが、検査しても解剖しても原因不明の例が150人ほど存在し、これをSIDSと呼んでいます。つまり、3日に1人以上の赤ちゃんが原因不明のまま命を落としているのです。
 このSIDS例が、死亡前1週間以内に予防接種を行っていたらどうでしょうか。
 家族は「予防接種が原因」と疑いたくなります。
 しかし、接種後すぐになくなるアナフィラキシー・ショック以外の副反応でワクチン接種と死亡との間に因果関係を証明するのは困難です。
 そこで登場するのが統計学的手法です。
 ワクチンを接種していない何万〜何十万人の赤ちゃんと接種した何万〜何十万人の赤ちゃんを比較して、死亡率に差があるかどうかを検討します。
 すると、今回問題になった事例では差がなかったと判定されました。
 つまり、ワクチンの副反応で死亡したのではなく、紛れ込み自己と判断されたのでした。

 わかりやすく解説した新聞記事を引用します;

肺炎球菌とヒブワクチン接種再開… 子供の安全「懸念なし」(2011年4月21日 読売新聞)
 細菌性髄膜炎を予防する小児用肺炎球菌ワクチンとヒブ(インフルエンザ菌b型)ワクチンなどを同時接種した乳幼児の死亡が相次いだ問題で、一時見合わせていた両ワクチンの接種が1日に再開された。専門家でつくる厚生労働省の委員会が、「接種の安全性に懸念はない」との見解を示したためだ。
 委員会は、死亡した7人の症例や国内外の様々なデータを基に、両ワクチンの安全性について検討した。
 死因は、睡眠時に吐いた食べ物が気管に詰まったことによる窒息、ウイルス感染など、ある程度推定できたのが5人、不明が2人。いずれも接種と死亡との因果関係を示唆する材料がなく、「現時点では直接的で明確な因果関係は認められない」とした。
 海外での接種後死亡率(接種10万回あたりの死亡者数。因果関係の有無は問わない)は、国によって異なるが、肺炎球菌は0・1~1、ヒブは0・02~1程度だ。日本は、肺炎球菌が267万回で4人死亡、ヒブは451万回で7人死亡。死亡率はいずれも0・2未満で、海外と大差はない。
 全員が複数のワクチンを同時接種しており、それに問題がなかったか、同時接種後と単独接種後の副作用を比べたデータを基に検討。鹿児島大がヒブ1万1000回(同時接種5割)、肺炎球菌3000回(同6割)について調べた研究では、単独接種と同時接種で重い副作用の出現率に差はなかった。国内外の別の研究でも同様の結果だった。
 7人中3人に先天性の重い心疾患があった。重い基礎疾患を持つ子供について、米国の小児科学会は、健常児と同様の接種を推奨。委員からも「基礎疾患で体が弱い子供こそ、細菌性髄膜炎などの予防のために接種が必要」との意見が出た。
 ワクチンの品質について、兵庫の2人は肺炎球菌ワクチンの製造番号が同じで、製造過程での異物混入などの可能性が指摘された。だが、国立感染症研究所による、この製造番号のワクチンの品質試験や製造工程の調査では、異物混入などの異常はなかった。
 これらの議論を総合して委員会は、ワクチンそのものを始め、同時接種や基礎疾患を持つ子供への接種も「安全性に懸念はない」と判断した。
 一方、同時接種に関しては「医師は単独接種もできることを保護者らに示すこと」を求めた。委員の岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター長は「同時接種に問題はないと考えるが、保護者らの選択権を尊重した」と説明している。
 基礎疾患を持つ子供への接種は、子供の体調が万全でない場合は接種を見合わせるなど、より慎重な対応を呼びかけた。
 厚労省は接種再開に合わせてQ&Aを作成。例えば、接種見合わせの影響で決められた接種間隔を守れなかった場合、「再開後に早めに受ければ問題ない」としている。厚労省のホームページ(報道発表資料、3月29日)で見ることができる。