肺炎球菌ワクチン

肺炎球菌ワクチンのお話

 ヒブワクチンに引き続き小児科医待望の肺炎球菌ワクチン「プレベナー®」がようやく陽の目を見ました・・・2009年末に認可され、2010年2月末に発売となりました。アメリカに遅れること10年、「ワクチン後進国日本」の面目躍如です(苦笑)。
 さてこのワクチンのメイン・ターゲットは子どもの感染症で一番恐い「細菌性髄膜炎」です。小児科医が一番恐れる感染症で、数は多くないものの死亡率・後遺症残存率はトップランク。
 「あれ?細菌性髄膜炎はヒブワクチンがターゲットにする感染症では?」
と気づかれたあなた。そうなんです。この二つのワクチンは同じ病気をターゲットにしています。実は肺炎球菌ワクチン&ヒブワクチンでこの細菌性髄膜炎が90%以上抑制できることが既に証明されているのです。
 その他にも薬剤耐性菌による反復性中耳炎の減少など、子どもの健康に役立つ効果が期待できます。
 Q&A集を作りましたので、ご参考にどうぞ。

☆ ヒブ&肺炎球菌ワクチン定期接種化で日本の小児救急医療が変わる!?

 高熱を出してグッタリしている子どもの相談を受けると「大丈夫、心配いりません」とはなかなか当直小児科医は云えません。それは取りも直さずこの細菌性髄膜炎が頭をよぎるからです。見逃すと重症化は避けられず、しかし早期診断が困難な感染症。そのリスクが激減すると当直医の心理的負担も激減し、発熱だけで救急外来へ飛び込む患者さんも激減し・・・日本の小児救急医療が変わることが期待されます。

(院長のつぶやき)予防できる病気で後遺症が残ったり命を落とした子ども達・・・日本人はこの事実を見つめ、予防接種行政の遅れを取り戻す必要があると思います。「ヒブと共に肺炎球菌ワクチンを任意接種(費用は自己負担)としたのは歴史的な失政」と眉をひそめられる時代が来ることでしょう。

Q. 肺炎球菌ってどんな菌なんですか?

A. 子どもにとって「細菌性髄膜炎」「中耳炎」の原因として重要です。

 実は肺炎球菌はどこにでもいるありふれた細菌です(ほとんどの子どもの鼻の中にいます)。しかしそれがふとしたきっかけで体の奥に入り込んで増殖するといろんな病気を引き起こします。以下の病気の原因として重要です;

細菌性肺炎:乳幼児期と老年期に多い
① インフルエンザ菌(50%)
肺炎球菌(30%)
③ モラキセラ・カタラーリス(10%)

急性中耳炎:乳幼児期に多い
肺炎球菌(40%)
② インフルエンザ菌(25%)
③ モラキセラ・カタラーリス(15%)

細菌性髄膜炎:乳幼児期に多い
① ヒブ:インフルエンザ菌b型(60〜70%)
肺炎球菌(20〜30%)

 そして、肺炎球菌による髄膜炎はヒブによる髄膜炎と比較して頻度は少ないのですが、より重症で恐いのです。

肺炎球菌性髄膜炎の特徴
・頻度はインフルエンザ菌の1/4
死亡率(約8%)に後遺症率を加えると30%を超え、急速な経過(電撃型)で死亡する症例がある
・ヒブと同様に耐性菌が増加し抗生物質の選択が困難になりつつある

(院長のつぶやき)髄膜炎患者さんから検出された菌が「肺炎球菌」と判明した、その瞬間、小児科医の頭には「後遺症」の3文字がよぎります。治療を尽くして、あとは無事に治るよう祈るだけでした。

肺炎球菌についてちょっと詳しく・・・ 
・グラム陽性球菌。莢膜多糖体抗原により90種類の血清型に分類される。
・莢膜(外側を包んでいるカプセル)をもつ強毒菌(S型菌)と莢膜のない菌(R型菌)があり、S型菌は白血球による貪食に抵抗性を有する。
・咽頭常在菌で細胞外寄生菌であり、それ自身で細胞内に侵入し感染症を発症することはない。感染の成立には菌の生体内侵入が不可欠であり、細菌の浸潤形態には経気道性と血行性とがあるが、細胞への付着が必須である。肺炎球菌は喰細胞を殺す pneumolysin を産生するため、生体内に侵入した菌は白血球に貪食されずに増殖する。その結果、菌血症を起こし血行性に標的臓器(髄膜、肺など)に達し発症する。

Q. ワクチンを受けるメリットは?

A. 肺炎球菌による細菌性髄膜炎のリスクが激減します。

 ワクチンによりどんな得があるか・・・以下の3つが挙げられます;

侵襲性肺炎球菌感染症の減少

 いかめしいネーミングですが、これは髄膜炎、菌血症・敗血症などの重症感染症を指します。

耐性菌の減少

 20世紀後半の感染症対策はペニシリンを中心とする抗生物質・抗菌薬が中心でした。一時は「細菌感染症は抗生物質で駆逐できる」とさえ信じられましたが、その後「薬剤耐性菌」の逆襲を受けていることは周知の事実です。近年の肺炎球菌のペニシリン耐性率は約70〜80%と高率です。
 1990年代から世界の流れは「抗生物質からワクチンへ」方向転換をしました。ワクチンは耐性菌に無縁だからです。しかし、日本はワクチンの副反応裁判で国が負けてから予防接種行政がそこで萎縮してストップし、世界から取り残されてしまいました。

反復性中耳炎の減少;
 良い例が保育園児の反復性中耳炎です。一度中耳炎に罹ると風邪を引く度にぶり返し、延々と耳鼻科がよいが続いて疲れているお母さんをよく見かけます。この原因は「薬剤耐性肺炎球菌」が多いのです。肺炎球菌ワクチンを接種することによりこの悪循環が断ち切れる可能性があります(私が期待している効果のひとつです)。

高齢者の肺炎球菌感染症(主に肺炎)の減少

 日本人の死因は・・・①癌、②心疾患、③脳卒中、であることは周知の事実です。
 では第4位は? ・・・答えは「肺炎」。
 特にインフルエンザに合併する高齢者の肺炎の死亡率が高いのです。そしてこの肺炎の原因菌で最も多いものが肺炎球菌です。インフルエンザ・ウイルスによる気道上皮の損傷は肺炎球菌の侵襲を起こしやすいと云われています。
 そして乳幼児の肺炎球菌感染を抑制することにより、周囲の高齢者の肺炎球菌感染を間接的に抑制できることが明らかにされています。

(院長のつぶやき)これはインフルエンザワクチンの学童集団接種が間接的に高齢者の死亡率を抑制していた歴史的事実と似ていますね。

Q. どんなワクチンなんですか?

A. 子ども用に特注で造られた不活化ワクチンです。

 実は肺炎球菌ワクチンには2種類あり、混乱しがちです。以前からある「莢膜多糖体ワクチン」と今回発売された「結合型ワクチン」・・・さて、この2つの違いは?

莢膜多糖体ワクチン
 ヒトの免疫システムでは様々な細胞が働いていますが、その中でもリンパ球のT細胞B細胞が大切な役割を演じています。しかし、2歳未満の乳幼児はB細胞機能が未熟です。
 従来の莢膜多糖体ワクチンは肺炎球菌の莢膜(カプセル)を精製してつくられたポリサッカロイド(多糖体)を用います。多糖体はB細胞を直接刺激して免疫抗体を産生させるシステムなので、残念ながら乳幼児には十分な効果が期待できません。適応も「2歳以上」となっています。

☆ ニューモバックス®NP(製造・販売:萬有製薬)

(参考HP)

 23価多糖体肺炎球菌ワクチン(pneumococcal polysaccharide vaccine, PPV23あるいはPPSV23
 23価とは23種類の血清型(1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9B、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23F、33F)を含んでいるという意味です。
 このワクチンのターゲットはずばり「高齢者」(脾臓機能が不十分など、免疫機能に問題がある子どもも対象となります)。
 高齢者がインフルエンザに罹ると肺炎を合併して重症化することが知られていますが、この肺炎の原因で一番多いのが肺炎球菌です。事前にニューモバックスNPを接種することにより、肺炎を予防することが可能です。

結合型ワクチン
 一方、新たに開発された結合型ワクチンは莢膜多糖体をCRM197(毒性のない変種のジフテリア毒素)というタンパク質に結合させて作成されました。タンパク質と結合させることによりT細胞を介して免疫が成立するようになり、乳児でも効果が期待できるワクチンになったのです。

☆ プレベナー®(製造:ワイス、販売:武田薬品)

(参考HP)(2010年6月現在、メーカーの再編成によりリンクが切れています)

 7価結合型肺炎球菌ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine, PCV7)。7種類の血清型(4、9V、14、19F、23F、18C、6B、1、5、7F)を含んでいます。
 髄膜炎などの侵襲性感染症から分離された肺炎球菌の血清型の75%をカバーし、薬剤耐性肺炎球菌だけでみると90%がカバーできるとされています。肺炎では血清型の71%、中耳炎では61%をカバーしています。

肺炎球菌ワクチンは現在も進化中!

 7価ワクチンでは不十分として10価・13価ワクチンが開発され、一部の国では認可されつつあります。
 13価ワクチンは2009年7月に南米チリで初めて承認され、アメリカでは2010年2月に認可され7価から変更されることになりました。イギリスでも2010年4月に7→13価へ変更されます。
10価:4,9V,14,19F,23F,18C,6B,1,5,7F, +1,5,7F
13価:4,9V,14,19F,23F,18C,6B,1,5,7F, +1,5,7F, +3, 6A, 19A ・・・カバーできる血清型は、肺炎で81%、中耳炎で81%、髄膜炎でなんと91%!

Q. ワクチンの効果は?

A. 抜群です。

 血清型が合えば、侵襲性肺炎球菌感染症に対する予防効果は95%以上とされています。結合型ワクチンは、肺炎球菌の鼻や喉の粘膜への定着も阻害することや、中耳炎、副鼻腔炎などの予防効果も期待されています。
 アメリカでは2000年に7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV-7)が定期接種として導入されました。その結果、以下の現象が認められました;

5歳未満児のワクチン血清型による侵襲性肺炎球菌感染症(髄膜炎など)の発症率が94%減少
○ 5歳未満児の非ワクチン型も含めた侵襲性感染症の発症率も75%減少
○ 5歳以上児(ワクチン対象外)でもワクチン血清型の侵襲性感染症の発症率が62%減少

 このワクチンは、粘膜での免疫も引き出します。その結果、ワクチンの血清型と一致する肺炎球菌の鼻や喉への定着を減らし、感染症を少なくします。

ワクチンの血清型と一致する肺炎球菌による中耳炎の予防効果は、
・肺炎球菌による中耳炎に対して34%
・ワクチンの血清型と一致する肺炎球菌による中耳炎に対して57%

※ ワクチン血清型以外による中耳炎の割合は増加、との報告もあります。この現象に対抗して、対象となる血清型を増やした「10価」あるいは「13価」ワクチンが開発されています。つまり、抗生物質同様イタチごっこの始まり?

Q. どうして10歳以上は必要なくなるんですか?

A. 自然に免疫がつくからです。

 肺炎球菌は子どもの喉や鼻にいる常在菌でいつも悪さをしているわけではありません。また、すべての子どもに重症感染症(侵襲性肺炎球菌感染症)を起こすわけでもありません。上気道炎を繰り返す中で自然に肺炎球菌に対する免疫が獲得されていきます。
 この辺が、麻疹や水痘など一生に一回のウイルス感染と異なるところですね。

(院長のつぶやき)勤務医時代、一年に数人の細菌性髄膜炎患者さんを診療しました。とても重症でけいれんを起こし意識を失い、治療にも難渋しました。あの病気がワクチンで予防できるなんて夢のようです。あ、ヒブワクチンのところでも同じ事を書きましたね(苦笑)。

Q. 世界の接種状況は?

A. 承認している国は100カ国以上、すでに45カ国で定期接種に導入されています。

 ヒブワクチン同様、WHO(世界保健機関)が最重要ワクチンとして、すべての国で定期接種にすべきであると2007年に勧告しています。
 2010年1月時点で、世界の101の国・地域で承認され、45の国・地域で定期接種となっています。

Q. なぜ今まで日本にはなかったのですか?

A. あったのですが、日本の採用・承認が遅れただけです。

 日本は先進国でありながら、承認は98番目と激しく出遅れました(しかも定期接種になっていません)。

Q. こわい副反応はありますか?

A. 接種局所の腫れと一過性の発熱程度です。

 承認の際の副反応報告では、注射部位の局所症状(発赤・腫脹)を6〜8割と多く認めています。
 また、接種後37.5℃以上の発熱を1〜2割で認めています。
 上記副反応はいずれも数日程度の経過で自然軽快しています。
 国内試験ではアナフィラキシーショックの報告はありません(海外ではあるようです)。

Q. 具体的な接種方法・スケジュールは?

A. 接種方法は「皮下注射」、対象年齢は「生後2ヶ月〜9歳まで」、回数は年齢によって異なります。

生後2ヶ月〜6ヶ月4回

 1歳までに27日以上あけて3回接種、
 その後60日以上あけて1歳〜1歳3ヶ月の間に1回追加接種

生後7ヶ月〜11ヶ月3回

 27日以上あけて2回接種、
 その後60日以上あけて1歳過ぎたら1回追加接種

1歳〜2歳未満2回

 1歳で1回目接種、その後60日以上あけて2回目を接種

2歳〜9歳未満1回

 1回接種で終了

基本は「生後2〜6ヶ月に開始し4回接種」であり、その他は「接種漏れ」扱いです。

(院長のつぶやき)小児科が考える「子どもの命を守る」最強の接種スケジュールは・・・「生後3ヶ月からDPT・ヒブワクチン・肺炎球菌ワクチンの同時接種!」・・・しかし現状ではヒブと肺炎球菌ワクチンは有料なので費用がかさみ、誰でもできるわけではありません。
 また、接種当日の発熱率が高くなるでしょう。同時接種が当たり前のアメリカでは解熱剤を持たされて帰るそうです。さらに「発熱が24時間以上続いたら医療機関を受診するように」指導されることもあるそうです。発熱は「ワクチンを受けた証拠」くらいの捉え方なのでしょうか。ワクチン副反応に過敏な日本国民には受け入れられないかな・・・。

Q. 値段は高いんですか?

A. 1回1万円前後です。

 本来はWHOの勧告に従って定期接種(公費補助)が望ましいのですが・・・。
 費用の内訳を説明しますと、ワクチン納入価格が7000円弱。それに診察料・注射手技料・事務手数料などを乗せてこのような値段になります。プロが責任を持って行う診療行為であり、ボランティアではありません。
 また、自由診療となりますので、値段は医院毎にバラバラです(一律同じ値段だと法律違反!)。
 一方、各自治体による公費補助の和が広がりつつあります。下記HPを参照してください。

Q. たけい小児科・アレルギー科で受けられますか?

A. 2010年4月に予約受付を開始しました。

 ヒブワクチンのような供給量制限はなく、ご予約いただければ迅速に接種可能です。

参考記事

参考ホームページ

 「KNOW☆VPD」による解説です。

 プレベナー製造会社であるワイスによる解説です。