インフルエンザの傾向と対策 2010

(2010年11月1日掲載)(11月4日最終更新)

■ インフルエンザ(新型&季節性)の基礎知識

原因

 インフルエンザウイルスの感染により発症します。ウイルスの種類は4種類(A香港型、Aソ連型、B型、新型)あります。

疫学

 感染形式は飛沫・接触感染です。
① 飛沫感染:ウイルスが含まれた咳やクシャミをあびる
② 接触感染:ウイルスが付着したもの(ドアノブなど)を触れた後に目・鼻・口などに触れる

 潜伏期間・感染期間・隔離期間は以下の通り(報告により少し幅があります)。


新型 季節性
潜伏期間 2〜7日間 2〜3日間
感染期間

学童以上:発症1日前から発症後約5日間

乳幼児 :発症1日前から発症後約7日間

隔離期間

学童以上:解熱後2日間

乳幼児 :解熱後3日間

(あるいは発症翌日から7日間、の長い方)

症状

 発熱・頭痛・咳・関節痛・筋肉痛・全身倦怠感などが中心です。咳は約1週間つづきます。咽頭痛・鼻汁、嘔吐・下痢・腹痛などの消化器症状が出ることもあります。

 ふつうの風邪と違うところは、「節々が痛い、だるくてつらい」こと。
 発熱は39℃前後の高熱が悪寒を伴って突然始まり、2〜4日間つづきます。一方、大人では微熱で終わることもあり「症状が軽いからインフルエンザではないと云えない」のが難しいところです。

診断

 その地域の流行状況を参考に、症状・診察所見から疑い、迅速診断キットで確認検査をします。迅速診断キットではA型・B型の区別が可能ですが、新型と季節性の区別はできません。ただし、今シーズンは新型かどうかだけを確認できるキットも発売されました(2回鼻グリグリをやらなければならないので現実的ではありませんが)。
 迅速診断キットの感度は100%ではありません。また、発症早期では陰性に出ることがあるので、発症後12〜24時間してからの検査をお勧めします。

合併症

肺炎:高齢者では二次的な細菌性肺炎が多く、小児ではインフルエンザウイルスそのものによる肺炎が多い傾向があります。
中耳炎:小児で多く認めます。
熱性けいれん:就学前までの小児で認めます。
筋炎:歩けなくなるほど筋肉痛が強いときに疑います。
心筋炎:心臓の筋肉が侵され、心臓が上手く動かなくなり息切れ・顔色不良など重症化します。
脳症:下記2種類あります。

インフルエンザ脳症
 主に5歳以下の乳幼児がかかります。発症後1〜2日内に意識障害・けいれんで始まり、脳が侵されて重症化します。
 死亡率15〜30%、後遺症(脳障害、てんかんなど)が残る確率が約30%です。
 強い解熱剤(ポンタール、ボルタレンなど)により重症化することがあります。

Reye(ライ)症候群
 回復期に起こる脳症で、アスピリンなどの解熱鎮痛剤を使用するとリスクが高くなります。危険な薬剤を使わなくなり激減した歴史があります。
 しかし現在も発売されている総合感冒薬のPL顆粒、ピーエイ錠、ペレックス顆粒にはアスピリンに似た薬物が入っており、小児のインフルエンザ患者に使うことは禁じられています(間違って処方されることがありますが飲まないよう注意を!)。

治療

1.抗インフルエンザ薬

 この10年間に4種類の抗インフルエンザ薬が開発されました。すべて「ノイラミニダーゼ阻害薬」の仲間であり、作用機序は同じなので併用はできません。
 ノイラミニダーゼ阻害薬を使用すると、未使用の場合より約1日熱が早く下がります。しかし、インフルエンザ排泄期間は短縮しないので、熱が下がってもウイルスをまき散らす状態が残るのでやっかいです。というわけで感染対策として解熱後2日間(乳幼児は3日間)は隔離が必要です。

■ オセルタミビル(商品名:タミフル) ・・・内服

 5日間内服
 カプセル:成人および37.5kg以上の小児
 ドライシロップ:1歳以上の小児
※ タミフル内服後の異常行動が問題となり、10歳代には原則投与禁止となっています。
※ 2009年に1歳未満のタミフル使用量も発表されていますので、重症感が強いときは使用することが可能です。

■ ザナミビル(商品名:リレンザ) ・・・吸入

 5日間吸入
 適応は5歳以上(10歳代にも使用制限はありません)

■ ペラミビル(商品名:ラピアクタ) ・・・点滴

 2010年1月に発売された新薬。2010年10月に小児への使用も認められました。
 1回の点滴でタミフル5日間内服と同じ効果が得られます。

■ ラニナミビル(商品名:イナビル) ・・・吸入

 2010年10月に発売された新薬です。
 1回のみの吸入でタミフル5日間内服と同じ効果が得られます。

2.対症療法薬

 症状に合わせて処方され「つらい症状を和らげて治るのを待つ」というスタンスの薬です。
 咳・鼻水止め、解熱剤、下痢止めなどですが、このうち解熱剤の中には脳症と関係が指摘されているものがあり注意が必要です(↓)

インフルエンザ脳症と関係する解熱剤
□ 危険:
ポンタール、インダシン、ボルタレン ・・・インフルエンザ脳症を重症化
アスピリン、サリチルアミド ・・・Reye症候群のリスクを増加
□ 安全:
アセトアミノフェン(商品名:アンヒバ、アルピニー、カロナール、コカールなど)

予防

ワクチン

 先シーズンは季節性と新型に対応するため2種類のワクチンを接種する必要があり大変でした。また、優先順位も設定され、混乱を招きました。
 今シーズンは優先順位の設定はなく、希望者は予約順に接種可能となりました。また、季節性と新型がひとつになった混合ワクチンが開発されましたので、1種類で済みます。従来の季節性インフルエンザワクチンも3種類(A香港型、Aソ連型、B型)を含む混合ワクチン(3価ワクチンと呼びます)でしたが、このうちAソ連型を抜いて代わりに新型をいれたものが今年のインフルワクチンです。

※ それ以外にも、新型インフルエンザだけに有効な「1価ワクチン」も発売され、希望により使用可能です。国産と輸入品があり、接種方法が異なるので注意が必要です。

 ワクチンは年齢により接種量・回数が異なります;
・6ヶ月〜1歳未満 :0.1mlを2回接種(1〜4週間隔)
・1歳以上6歳未満 :0.2mlを2回接種(同上)
・6歳以上13歳未満:0.3mlを2回接種(同上)
・13歳以上    :0.5mlを1回接種

 ワクチンの効果は、接種後(2回接種者は2回目接種後)2週間から5ヶ月間程度と考えられています。

(院長のつぶやき)子どもは大人量を2回に分けて接種すると捉えることもできますね。この方法、実は世界標準とは大分違います。アメリカでは生後6ヶ月から6歳までは0.25mlを2回接種、それ以降は大人と同じ0.5mlを1回接種です。乳児では日本のなんと2倍以上の接種量です。日本でも今シーズンからアメリカと同じ接種方法を採用する予定でしたが、諸般の事情で従来法に据え置かれました(残念)。
 アメリカでは鼻の穴に噴霧する「経鼻ワクチン」が導入され、注射するワクチンより高い有効率が得られていますが、日本には未だ導入されていません。

抗インフルエンザ薬

 予防にだけ使う薬剤はありません。治療薬の半量を倍の期間で投与する方法を採用しています。
 予防医療は保険が効かないので、患者さんの全額自己負担になります。

タミフル
 2007年にタミフルカプセル、2009年にはタミフルドライシロップに予防効能が追加されました。同居者がインフルエンザに罹った場合に予防使用が可能です。
 予防対象は、65歳以上の高齢者とハイリスク患者(慢性呼吸器疾患、代謝性疾患、腎機能障害者など)です。治療量の半分を倍の期間(10日間)で使用します。

リレンザ
 2007年に予防効能が追加されました。同居者がインフルエンザに罹ったときに使用可能で、対象者はタミフルと同じです。量も治療量の半分を倍の期間で吸入します。

感染予防対策

手洗い:15秒以上かけてていねいに洗い、流水でよく流しましょう。
咳エチケット:咳がでる人はマスクをするのが基本です。マスクが手元にないときはティッシュかハンカチ、あるいは自分の肘で受け止めましょう(そのあと洗ってね)。
・うがい:科学的な評価は低く、残念ながら「やらないよりまし」程度です。

Q&A集

Q. 今シーズン流行するのは、新型? それとも季節性?

 新型インフルエンザ(正式名称は「パンデミックH1N12009」)が登場した2009年は、1年間単独で流行し、ほかの季節性インフルエンザ(A香港型、Aソ連型、B型)は散見するのみでした。
 さて、今シーズンはどうでしょう。10月末現在、既に各地で学級閉鎖措置がとられる小流行が散見されますが、その原因ウイルスは新型A香港型が混在しており、単一ウイルス型の流行にはならないようです。歴史を振り返ると、A香港型が流行しなかった翌年は猛威を振るうので、両方に備える必要があります。

Q. 新型インフルエンザと季節性インフルエンザは何が違うの?

 当初強毒性が疑われた新型ですが、1年過ぎてみて基礎疾患()のある患者さんを除くと重症度は季節型とそれほど変わらないことがわかってきました。特徴として季節性と比べると「新型は潜伏期間や感染期間がやや長い」「新型は消化器症状が多い」傾向があります。

新型インフルエンザが重症化しやすいハイリスク患者さん
・慢性呼吸器疾患(喘息など)
・慢性心疾患
・代謝性疾患(糖尿病など)
・腎機能障害(透析患者など)
・ステロイド内服などによる免疫機能不全
・その他:妊婦、乳幼児、高齢者、肥満者

Q. 今年のワクチンの中身は? 新型も入っているの?

 従来の季節性インフルエンザ・ワクチンの中身は「Aソ連型」「A香港型」「B型」の3種類入りの混合ワクチンでした。
 昨年は新型インフルエンザが登場し、従来のワクチンの他に新型用ワクチンを接種する必要があり、子どもは2×2の合計4回接種という忙しいスケジュールとなり混乱したことは記憶に新しいですね。
 さて、今シーズンのワクチンの中身は「新型(H1N1pdm)」「A香港型」「B型」の3種類入り。つまり、従来のワクチンから「Aソ連型」を抜き去り代わりに「新型」を入れたのですね。Aソ連型は流行しないだろうという予想の元に決定されました。
※ 今年も「新型インフルエンザ単独ワクチン」も発売されてはいます。

Q. 昨年罹ってもワクチンを接種する必要がありますか?

 昨年新型インフルエンザに罹ったお子さんにも接種をお勧めします。
 理由は、ウイルスが少しずつ変化して昨シーズンの免疫が十分効かないというインフルエンザの性質のためです。
 また、今年のインフルエンザワクチンは前述の通り「新型(H1N1pdm)」「A香港型」「B型」の3種混合ワクチンですから、昨年流行しなかった型の免疫を付ける必要性から、やはり接種すべきでしょう。
 過去も未来もインフルエンザワクチンは「毎年接種」が基本です。

Q. ワクチンの効果はどれくらいもつのですか?

ワクチンの効果は接種後2週間〜約5ヶ月間と云われています。

 2回接種する小児では2回目接種後から2週間で効果が期待できると考えてください。

いつ接種すべきか・・・早めの10月、遅めの12月?

 インフルエンザは例年11月〜3月に渡り流行します。10月にワクチンを接種すると、5ヶ月後の3月にはワクチンの効果が弱くなり効かないんじゃないか、と心配になるのもごもっとも。
 それでも私は早めの接種をお勧めします。

 従来、流行するウイルスの型は12〜2月がA香港型、3月がB型というパターンがふつうでした。そして、残念ながらワクチンはB型にあまり効かないのです。しかしB型はA香港型に比べると軽症例が多く、インフルエンザ脳症のリスクが高いA香港型を想定して早めに接種するようお勧めしてきました。
 ただし、新型が登場した昨シーズンは流行時期・パターンが従来とは異なりましたので、今年もどうなるのが誰にもわからないのが現状です。

Q. 医療機関をいつどんなタイミング受診したらよいですか?

 発熱当日に受診しても、検査はできないし(陽性になりにくい)、でも子どもは辛そうだし・・・明日まで待つべきかどうか迷うところです。
 持病のあるハイリスクの患者さんは家でガマンせずに早めに受診してください。
 ふだん元気な子どもは、下記の症状を目安に受診を考えましょう。

病院を受診する目安
○ 呼吸が速い、息苦しそうにしている。
○ 顔色が悪い。
○ 嘔吐や下痢がつづく。
○ 落ち着きがない、遊ばない、反応が悪い。
○ 症状が長引いて悪化してきた。

 タミフルの抗インフルエンザ薬は発症後48時間以降は効果が期待できないので、つらそうならその前に受診してください。

Q. いつから登園・登校していいんですか?

 インフルエンザに罹ると、基本的に1週間は人にうつす状態が残るので隔離が必要です。
 抗インフルエンザ薬の登場により早く解熱する方法を手に入れたのは喜ばしいのですが、ウイルスを排泄する期間は余り短縮しないようです。つまり「元気だけどウイルスをまき散らす」困った状態の患者さんがたくさん発生することになりました。
 熱が下がって元気になったら学校へ行きたい、仕事に戻りたい、というのが普通の感覚ですね。
 でも、ちょっと待って!
 隔離期間を守らないと流行が止まらないのです。また、ハイリスクでインフルエンザに罹ると重症化する心配があるお子さんも園や学校にいることを忘れないでください。

 2009年8月にアメリカのCDC(Center for Disease Control)が発表した隔離期間;
一般向け:「インフルエンザ様症状のある人は、体温が37.8℃以下になってから、あるいは解熱剤を使用せずに熱感がなくなってから24時間経過するまで自宅にとどまることを推奨する」
医療機関向け:「症状出現後7日間、あるいは症状が消失してから24時間のいずれか長い方の期間、自宅待機することを推奨する」

 2009年に厚生労働省が設定した日本の基準;
・少なくとも熱が下がってから2日目までは、外出しないようにする。
・発熱や咳・喉の痛みなど、症状が始まった日の翌日から7日までは、できるだけ外出しない。

 上記に加えて、いくつか注意すべきことがあります。
□ 乳幼児は感染期間(ウイルス排泄期間)が長い:
 このため、乳幼児は上記基準より1日長く、つまり「就学前児の隔離期間は解熱後3日間」と設定します。
□ インフルエンザの自覚がない軽症患者さん:
 軽く済む患者さんも珍しく無いことが判明しています。インフルエンザに罹っていても微熱程度で、医者に行かず診断もされておらず、本人の自覚がないまま社会生活(園・学校・会社)を続けている困った患者さんが流行期には街にあふれている可能性があるのです。ふだんからの手洗いをしっかり習慣づけましょう。

(院長のつぶやき)昨シーズンは混乱を避けるために地域医師会に依頼して標準隔離期間を設定してもらいました。守っていただけない医師もいましたが・・・。

Q. 解熱剤を使うと危ないって聞きました。全部ダメ?

 一部の解熱剤はインフルエンザ脳症との関連で、発症リスクを上げたり重症化させたりする可能性が指摘されています(下表参照)。
 効果が強いもの(よく効く)の方がリスクが高い傾向があります。小児科で処方されるアセトアミノフェンは安全とされています。
 解熱剤は病気を治すわけではなく高熱でつらいのをやわらげるだけですから、熱の数字で投与するのではなく、「かわいそうで見ていられないほどつらそう」なときに使用してください。

インフルエンザ脳症と関係する解熱剤
危険
ポンタール、インダシン、ボルタレン ・・・インフルエンザ脳症を重症化
アスピリン、サリチルアミド ・・・Reye症候群(急性脳症の一種)のリスクを増加(
安全
アセトアミノフェン(商品名:アンヒバ、アルピニー、カロナール、コカールなど)

)解熱剤の他にも、注意すべき風邪薬があります。
 インフルエンザの合併症として、1900年代後半にReye(ライ)症候群という病気がありました。統計的にアスピリン使用者に多いことが判明し、この薬を使わなくなってからライ症侯群は激減したのです。
 では、ライ症侯群は過去の病気と思いきや、アスピリンと似た薬が現在発売されている風邪薬の中にも含まれているのでやっかいです。
 総合感冒薬のPL顆粒、ピーエイ錠、ペレックス顆粒にはアスピリンに似たサリチルアミドという薬物が入っており、小児のインフルエンザ患者に使うことは禁じられています(小児科専門医以外では間違って処方されることがありますので、飲まないよう注意を!)。

Q. タミフルなどの抗インフルエンザ薬の安全性はどうなってますか?(準備中)

<関連ページ>

★ 新型インフルエンザの部屋 2009

 基礎知識からQ&A、医学メモなどをまとめました。

<参考ホームページ>

 厚生労働省作成の平成22年度板Q&Aです。

 クイズ感覚で知識がつきます。

 日本の流行状況が一目でわかります。

 知識・情報を網羅してます。

 やたら量が多くて読む気がなくなるお役所からの情報。

 在外邦人向けの情報発信。

 外岡先生の有名なHP。

 情報収集力に脱帽!