「小児科医が診る中耳炎」

(2009年3月作成)

はじめに

中耳炎を繰り返して耳鼻科へ通院しているお子さんがたくさんいらっしゃることと思います。
「餅は餅屋」という諺があるがごとく「耳は耳鼻科へ」がよいのでしょうが、風邪に伴って中耳炎を併発することは日常茶飯事ですから、なんとか小児科医も中耳炎診療ができないものか・・・と日々考えてきました。

私が小児科医になった昭和の終わり頃は「中耳炎=細菌感染症=抗生物質で治療」という時代でした。
つまり、中耳炎と診断されると抗生物質が処方されるのが当たり前。
長らくそれが常識だったのですが、ここ10年くらいで様子が変わってきました。
「ウイルスによる中耳炎もあるらしい。」
「抗生物質に聞かない細菌が増えてきた。使い過ぎ?」
とこんな声が聞かれるようになりました。
そして2000年以降、小児の中耳炎治療ガイドラインが小児科と耳鼻科から相次いで発表され、新たな時代を迎えた感があります。
先日ふと読んでいた医学雑誌に下記文章を見つけました。耳鼻科の先生が書かれたものですが、現在の状況をよく表していると思います:

「細菌感染が主体と考えられていた急性中耳炎だが、最近ではウイルス感染がその発症に関与していることが判明してきた。日本では急性中耳炎の治療に抗生物質を安易に使用してきた経緯があり、それが主要な起炎菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌の薬剤耐性化と、それによる急性中耳炎の重症例増加の大きな要因と考えられている。その反省から抗生物質使用の見直しが勧められており、急性中耳炎がウイルス性なのか細菌性なのかを識別し適切な治療を選択することは、非情に重要な課題である。」

というわけで、中耳炎の治療をめぐって色々な問題がありそうです。
私なりに調べ、自問自答した結果を以下に記してみました。

子どもの中耳炎の特徴

子どもは大人より中耳炎に罹りやすい事実は古くから知られています。
生後1歳までに60%、3歳までに80%の子どもが少なくとも1回は急性中耳炎に罹ると言われています。
その理由として以下の要因が指摘されています;
・中耳の解剖学的構造
・免疫力の未熟性
・母乳保育の低率化
・母親の喫煙率増加、など

特に2歳未満の乳児は一度罹ると反復しがちです。
たいてい保育園(風邪のるつぼ)に預けている子どもですね。
この時期に耳鼻科通院が始まるとエンドレス。
私はこの現象を「耳鼻科のアリ地獄」と呼んでいます(決して耳鼻科の先生の責任ではありません)。
2歳未満児では免疫力が未熟なので、この時期に集団生活を始めると風邪を引きがちです。
喉・鼻は炎症を反復して常にダメージを抱えている状態なので、病原菌が増えやすい条件が揃っていて悪循環から抜け出せません。さらに保育園には薬剤耐性菌が蔓延しているので、治療にも難渋します。

院長のつぶやき)かくいう私自身も幼児期に中耳炎を反復し、耳鼻科の常連でした。鼓膜切開とか、吸入とか、やったなあ。シュッと鼻の中に吹き付ける霧(実は血管収縮剤)がしみてイヤなんですよね。扁桃腺を取る取らないという話になり「手術は怖いからどうしよう・・・」と両親が迷ったあげく、結局取らずに今も大きめの扁桃腺が喉に鎮座しています。耳鼻科の椅子に座ると自分が医者であることを忘れてすっかり患者の気分になってしまいます。

風邪と中耳炎の微妙な関係

まず、誤解されがちな風邪と中耳炎との関係からお話しします。
風邪と中耳炎は全く別の病気というわけではありません。
なにせ、喉と耳はつながっていますから。
風邪の原因の90%はウイルスですが、ウイルスが増殖して喉に炎症を起こすと、常在菌のバランスが崩れて細菌が繁殖する傾向があります。
その菌が「耳管」(喉の奥と耳をつなぐトンネル)を通って耳に辿り着き、そこでさらに増殖して炎症を起こすのが中耳炎です。
ですから実際には「風邪を引いて数日経過後に中耳炎を合併することがある」というケースが多いのです。
風邪症状がないのに「耳が痛い!」と訴えることはあまりありません(例外はありますけど)。

院長のつぶやき)風邪を引いて小児科で薬をもらったけど、熱が下がらなくて耳を痛がるので耳鼻科へ行ったら中耳炎と診断された・・・あの小児科はヤブ医者だ!と小児科医を責めないでくださいね・・・中耳炎は風邪の途中から合併するのです。

中耳炎の起こるメカニズムと病原体について

前項の内容は私が学生時代に受けた講義の内容。
じつは、中耳炎の解説はこれだけで終わらないことが最近わかってきました。
ウイルスそのものも耳管を通って中耳炎を起こすことが判明したのです。
つまり中耳炎が起きるメカニズムは次の2通り存在することになります;

1.ウイルスが直接耳管を通って中耳へ侵入する場合
2.ウイルスが耳管や中耳の粘膜障害を引き起こすことにより鼻の奥にいた細菌が中耳に侵入して細菌性中耳炎に進展する場合

まずウイルス感染ありきで、その上に細菌が便乗して悪さすることがあるということになります。
しかし従来は急性中耳炎の原因は「細菌」でありウイルス性中耳炎の存在は知られていませんでした。
なぜでしょう?
実は検査技術が未熟だったためにそこにいるはずのウイルスが見つからなかったのです。
悲しい理由ですね。
歴史を少し紐解くと・・・

ウイルス検出法の発達の歴史:

1950年以前:ウイルス検出が技術的に困難な時代でした。
1950年代:初めて中耳貯留液からインフルエンザウイルスが検出されましたが、その方法は感度の悪い「ウイルス分離」であり中耳炎の数%のウイルスの存在を確認できる程度でした。
1980年代:分離技術が進歩とEIA法などウイルス抗原検出法の開発により、ようやく急性中耳炎の約20%程度にウイルスの存在が確認されるようになりました。
その後PCR法が開発され、中耳貯留液の70%からウイルスが検出されたとの報告も出てくる時代になりました。
※ PCR法は感度が良すぎて検出されてウイルスが本当に原因なのかどうか?という議論もあります。

中耳炎の原因となる細菌;

3種類の細菌で75%を占めており、「三大起炎菌」と呼ばれています。その3つとは・・・
・「肺炎球菌(約35%)」
・「インフルエンザ菌(約20%)」(無莢膜型)
・「モラキセラ・カタラーリス(約20%)」。
実はこの3つとも子どもの喉にふだん健康なときからいる「常在菌」です。
生後1歳までにどの子どもの喉にも居着くことがわかっています。
なぜいつもいる友達のような菌が病気を起こすのだろう?と素朴な疑問が生まれます。
「常在菌」はいろいろな菌のあつまりで、微妙なバランスの中で力関係が維持されています。
その中のある菌が増えそうになると他の菌がそれを抑えるコントロール能力を持っているのです。
ですから外から新たな菌が入ってきても排除する能力があります。
腸内細菌と同じですね。
しかし、ウイルス性の風邪を引いて喉の粘膜がダメージを受けると常在菌間のバランスが崩れてしまいます。元々あった菌でも数が増えると病原性を発揮して炎症を起こし得ます。真夏にペットボトルを一日抱えて少しずつ飲んでいると、自分の口から入った菌が繁殖してお腹を壊すのと同じ現象です。
そして耳管を通して中耳に侵入した細菌が中耳炎を起こすのです。

上記をまとめると、

「ウイルス性の風邪 → ウイルス性中耳炎合併 → 細菌性中耳炎合併」

という流れがあることがわかります。
なお、菌による重症度の順位は、
①肺炎球菌、②インフルエンザ菌、③モラキセラ・カタラーリス、だそうです。
鼓膜所見により原因菌がわかるのかな? と疑問を持ちつつ本を読みましたが、記載は見あたりませんでした。

中耳炎の原因細菌の歴史的変遷:記録によると100年前は溶連菌が主役(約50%)、肺炎球菌が第二位(約30%)でした。インフルエンザ菌が検出され始めたのは1950年代、モラキセラ・カタラーリスは1965年と新参者です。

風邪ウイルスの感染に伴う急性中耳炎

 乳幼児が風邪(呼吸器ウイルスによる気道感染症)をひくと、20〜40%で急性中耳炎を合併することがわかってきました。

風邪ウイルス感染症における中耳炎合併率(省略しましたが数字にはすべて「約」がつきます);
 R S       :50%以上
 インフルエンザ :20%
 アデノ     :20%
 ヒトヘルペス  :24%
 麻疹      :20%

※ ヒトヘルペスウイルスは突発性発疹を起こすウイルスです。
なお合併率は年齢によっても異なり、2歳以下の乳幼児では高くなります。

 重症化しやすいウイルスと細菌の組み合わせもわかってきました。
 インフルエンザウイルスと肺炎球菌が同時に感染すると重症化する傾向があると報告されています。

RSウイルスに合併する急性中耳炎

代表例としてRSウイルスを取り上げてみます。
RSウイルスは赤ちゃんがゼーゼーする冬に流行する風邪の原因で、時に重症化(急性細気管支炎)して入院することもある感染症です。
前述のようにRSウイルス感染症は他のウイルスと比較して急性中耳炎を高率に合併します。
また、年齢により合併率が異なり、2歳未満では約70%で2歳以上の約30%より遙かに高率です。
さらに一度治癒した後の中耳炎再発頻度が高い傾向があり、治癒後1ヶ月以内の再発率は約30%とされています。
RSウイルス感染症に合併するから中耳炎もウイルス性なんだろう・・・と思いがちですが「RSウイルス感染に伴う中耳炎=すべてがウイルス性」というわけではありません。
RSウイルスが中耳貯留液から検出されるのは70%、時に細菌も検出されます。
当初はウイルス性だったものが、経過中に細菌感染を合併することもあります。
実際にRSウイルスによる細気管支炎で入院した患者さんが、細菌性中耳炎を合併して入院期間が長引いたとの報告を受けることがあります。
というわけで、現実に起きていることはそう単純ではなさそうです。

治療のジレンマ:ウイルス性?細菌性?

治療を考える上で、「ウイルス性か細菌性か」の判断を迫られることになります。
なぜって、治療が違ってきますので。
繰り返しますが「ウイルス性中耳炎」に有効な薬はありません。
「細菌性中耳炎」には抗生物質が効きます。
区別はどうするのか?
一般には鼓膜所見で経験的に判断しています。
 鼓膜が赤いだけなら細菌はいないだろう、
 鼓膜が赤い上に色が濁って膿が溜まって腫れている時は細菌が検出されやすいので疑おう、と。

残念ながらウイルスと細菌を区別できるような迅速検査はありません。 
診察室で「鼓膜所見だけでウイルス性と細菌性を区別するのは完全には無理」なのです。
溜まっている膿に細菌がいるかどうか調べれば白黒がつきますが、これは「培養検査」といって最低4日間かかります。
患者さんを目の前にして「ウイルス性か細菌性か調べますから4日後に来てください。今日はわからないので薬は出せません。」とは言いにくい。

じゃあ、どちらかわからないのであれば抗生物質を使っておけば安心じゃない? と考えたくなりますね。
しかしそうやって「とりあえずビール」のように「とりあえず抗生物質」という治療が広まったために
薬剤耐性菌の増加」という新たな問題が発生しました。
抗生物質が効かない菌の登場です。
すると、より新しい強力な抗生物質を使う必要が出てきます。
でも数年後にはそれにも負けない耐性菌が生まれます。
こうして細菌と抗生物質のいたちごっこが永遠に続くのです。
人類の知恵の成果である抗生物質は細菌に勝てるのでしょうか?
細菌は数十億年間、この地球で生きながらえてきた生命体です。強敵です。

悩ましい薬剤耐性菌問題

中耳炎が難治化した理由の一つであり、避けて通れない問題です。
以前は抗生物質の内服で治っていた中耳炎。
近年治りが悪くなり、内服だけでは熱が下がらずに入院して点滴治療をした、という話も聞かれるようになりました。世界的にはどうなのでしょう・・・以下のデータを見つけました。

ペニシリン耐性肺炎球菌の比率(省略しましたが数字にはすべて「約」がつきます);
 アジア    :60%
 オセアニア  :20%
 南アメリカ  :40%
 北アメリカ  :30%
 東ヨーロッパ :40%
 西ヨーロッパ :20%
 全世界平均  :35%

あれ?って思いませんか。
欧米より日本を含めたアジアの方が耐性菌の比率が高い。
何となく先進国の方が抗生物質をたくさん使用しているので耐性菌も多いのではないかと考えがちです。
実はアジアの方が抗生物質をたくさん使用しているのです。アジアの多くの国では医師の処方なしに薬局で抗生物質を自由に購入できるからです。耐性菌が増えるのは当然ですね。

ヨーロッパの中でもオランダがもっとも優秀です。
耐性菌率5%! この数字は驚異的です。
これは1990年代初めに「中耳炎には抗生物質は必要ない」という考え方を基本とした治療ガイドラインを設定して実行してきた成果だと評価されています。
日本でも近年薬剤耐性化が社会問題化して「抗生物質の適正使用」が謳われるようになりました。
「必要なときはしっかり使用し、不必要なときは使わない」をストイックに守ろう、というものです。

でも現状はどうでしょうか。
あなたのお子さんが風邪で医院を受診すると、処方薬の中に当たり前のように抗生物質が入っていませんか? 
ご両親も処方薬の中に抗生物質が入っているとなんとなく安心していませんか?
抗生物質には「耐性菌問題」以外にもたくさん副作用が報告され、その添付文書に記載されています。
自分の子どもの命を守るためには、処方された薬の副作用も知っておく必要がありますよね。
医者任せではいけません。
下記ホームページで処方された抗生物質の名前を「一般名・販売名」のところに入力して検索してみてください。副作用欄には「ショック」「肝機能障害」「急性腎不全」等々・・・飲ませたくなくなりますよ・・・。

医薬品の添付文書情報: http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html

私の治療方針

さて、本題に戻りましょう。
小児科医はどう治療すべきか。

実際の外来では私は単純に、
・鼓膜が赤いだけで痛みも軽度→ 「鼓膜炎」あるいは「ウイルス性中耳炎」と考えて経過観察
・鼓膜が赤く膿が溜まって腫れている→ 「細菌性中耳炎」の可能性を考えて抗生物質投与
としています。耳垢で鼓膜が観察できないときは耳鼻科受診を勧めています。

3歳以上では治療開始後1週間間隔で通院していただき、鼓膜所見の改善を確認します。
発赤・腫れは改善しやすいのですが、膿〜液が消えるまでには時間がかかります。
3週間後にも水が溜まっているとき(この時点から「急性」ではなく「遷延性」と呼ぶことになっているそうです)は慢性中耳炎・滲出性中耳炎への移行の可能性を考えて耳鼻科受診を勧めています。聴力低下の可能性が出てきますので。
3歳未満では治療を開始をしますが「良くなっても1週間後に耳鼻科で治癒を確認してもらってね」と誘導しています。
1歳未満では私の使用している耳鏡(耳の中を見る器具)ではよく観察できないので、「風邪症状と熱が続いてぐずりがち、でも咳はひどくない」場合は耳鼻科受診を勧めています。

耳鼻科医による「小児急性中耳炎診療ガイドライン2006」

2006年に「小児急性中耳炎ガイドライン」が発表されました。
これは「耳鼻科医による耳鼻科医のための」ガイドラインという位置づけで、何となく「小児科医は蚊帳の外」という印象が否めません。
まあ、すねても仕方がないので内容を見てみますと・・・
患者さんの年齢・症状・鼓膜所見を点数化して重症度分類を行い、それにより治療法の選択をするよう設定されています。
年齢は3歳未満と3歳以上に分けられており、3歳未満はそれだけで3点加算され重症扱いとなります。
また、積極的に「鼓膜切開」を行い排膿して中耳内の通気改善を図ることも特徴です。
では現在の私の診療スタンスをそれに当てはめて検証してみましょう。

例1)5歳の男の子が風邪症状に伴い昨夜「右耳が痛い」と訴えて来院。熱は微熱。診察時は「もう痛くない」と言う。鼓膜を観察すると部分的に赤くなっているが、色が濁ったり膿が溜まっている様子はない。

私の診療
「鼓膜に炎症がありますが膿は溜まっていないので中耳炎までは行っていません。あえて言えば鼓膜炎です。バイ菌が悪さしている可能性は低いので、痛み止めで様子を見ましょう。痛み止めの効きが悪いほどつらい時はまた診せてください。」
ガイドラインの治療
 この例を重症度分類に当てはめると・・・
  年齢  :「5歳」なので0点、
  症状  :「痛みあり」で1点、「微熱」で1点、
  鼓膜所見:「鼓膜の発赤」で2点、
 以上の合計4点ですから「軽症」と評価されます。
ガイドラインでは「軽症」例に対して「抗生物質投与しないで3日間経過観察、悪化した場合は対応」となっていますので私の診療は問題なさそうです(ホッ)。

例2)1歳の女の子。風邪症状に伴い38℃前後の発熱が続き、咳がひどくない割には機嫌が悪いために来院。鼓膜を観察すると全体的に淡く発赤し、黄色く濁って盛り上がって見える。

私の診療
「鼓膜の内側に膿が溜まっているので中耳炎です。炎症が強くバイ菌が悪さしている可能性がありますので抗生物質で治療しましょう。薬を飲み終わったらきちんと治ったかどうか一度耳鼻科の先生に診てもらってください。」
ガイドラインの治療
 この例を重症度分類に当てはめると・・・
  年齢  :「1歳」なので3点、
  症状  :「38℃以上の発熱」で2点、「不機嫌」で1点、
  鼓膜所見:「全体の発赤」で4点、「部分的な膨隆」で4点、
 以上の合計で12点となり「重症」と評価されます。
ガイドラインでは「重症」例に対して「抗生物質投与5日間+鼓膜切開」し「5日後に改善なき場合は抗生物質を変更し鼓膜再切開」となっています。
・・・ウ〜ン、鼓膜切開が必要なのか・・・最初から耳鼻科に紹介すべきなのですね。

まあ、当たらずとも遠からず、といったところでしょうか。

残念ながら「鼓膜切開」という処置は小児科医はできません。さらに慢性化して耳の奥に水が溜まる「滲出性中耳炎」では「チュービング」といって鼓膜に細い管を通し、通気をよくする処置が必要になることもあります。これも耳鼻科の先生しかできません。

※ 2008年12月に「小児急性中耳炎診療ガイドライン2009」が発売されました。2006年版をバージョンアップしたものです。

小児科医による「中耳炎に対する抗菌薬使用ガイドライン2005」

外来小児科学会の先生方が中心となり2005年に「小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン」が公開されました。
下記アドレスで誰でも読むことができます。

小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン:
 http://www004.upp.so-net.ne.jp/ped-GL/GL1.htm

世界の論文を分析してまとめた力作です。
そこに書かれている中耳炎の治療方針は前項の耳鼻科医によるガイドラインと驚くほど異なります。
まず、「中耳炎のほとんどは自然治癒する疾患である」という前提から始まります。

根拠はオランダの医師 van Buchem による論文です。
中耳炎に対して
 ①無治療で様子観察した患者さん
 ②抗生物質で治療した患者さん
 ③鼓膜切開をした患者さん
を比較したところ経過はほとんど変わらなかったという報告。つまり、抗生物質を使ったからと言って早く治るわけではない、では耐性菌問題もあるから使わない方が良いんだ!という論法です。
オランダは「基本的に抗生物質を使わないガイドライン」を1991年に作成して実行し、その結果先進国の中では薬剤耐性菌の検出率が驚異的に少なく抑えられたという実績を示し世界中から注目されるに至りました。
これにならって、アメリカも2004年にそれまでの「まず抗生物質ありき」という治療方針を改め、初めから抗生物質投与は行わないという基本方針に変えました。

小児科医による本ガイドラインはオランダのガイドラインに準じて作成されています。
現在の日本の抗生物質使用状況から鑑みると非情にストイックな治療方針です。
中耳炎の痛みに関しては鎮痛薬が有効であり、これでしのいで治るのをじっと待つのが基本という考え方。
ただし、これを実行するには数日間隔での注意深い鼓膜の観察が前提となります。
2〜3日後にも症状の改善がない場合、耳漏(耳だれ)が7日以上続く場合は抗生物質投与を検討します。
使う場合は中途半端な量ではなく大量に使い切ります。
さらに外科的処置である「鼓膜切開」の効果に対しても否定的です。

まとめを引用します。

 急性中耳炎は大多数が自然治癒する予後良好の疾患である。多くの研究からの結論は,抗菌薬の投与でわずかな短期効果(耳痛や発熱の改善)がみられるが,聴力の低下に直接関係する長期効果(中耳貯留液の消失)はないことである。このため耐性菌の増加を考慮すれば経口抗菌薬を制限した治療方針を基本とすべきであり,治療は患児のQOLに関係する耳痛の軽減および重症合併症の防止を目指したものとなる。また,わが国は海外諸国に比べ外来受診が容易で恵まれた医療状況にある。このため,患児のQOLや安全性を損なうことなく抗菌薬の使用を制限した方針の実行は十分に可能であると思われる。

院長のつぶやき)小児科医である私にとっても、非常にストイックな方針です。医院へのアクセスがよく、抗生物質を処方しやすい環境(あるいは患者さんが抗生物質処方を希望する)の日本で実行するのはなかなか・・・。

小児科医が発表したガイドラインを評して高名な耳鼻科医がこう書いています:
「欧米では家庭医が中耳炎の治療を行うという診療上の違いから、欧米のガイドラインをそのまま本邦に応用することは実情に当てはまらない。」「薬剤耐性化の比率(北欧:10%、日本:50%!)、低年齢保育の普及率、鼓膜所見の評価方法、抗菌薬の種類・投与量が大きく異なる。」

院長のつぶやき)やはりここでも「専門外の医者が中途半端なことはやるな!」と言われているような気がして・・・ひがみかなあ。

耳鼻科医と小児科医の考え方の違い

ここまで知ると薬剤耐性菌に挑むスタンスが耳鼻科医と小児科医で異なることに気づきます:

耳鼻科医 「耐性菌にはさらに強力な抗生物質で対応し、ダメなら伝家の宝刀鼓膜切開」
小児科医 「耐性菌を作らないよう必要最低限の抗生物質使用にとどめて自然治癒を待つ」

さらに抗生物質使用期間に対する考え方の違いもあります。
調べていくうちに以下のようなイメージが沸いてきます;

耳鼻科医 「中耳に水が溜まっている間は再燃しやすいので抗生物質治療続行が必要」
小児科医 「症状が改善し中耳所見も改善傾向にあればよしとする、完全正常化するまで抗生物質を投与する必要はない」

さて、どちらが正しい選択なのでしょうか?

手元にある耳鼻科の先生が書いた本(小児中耳炎のマネジメント:山中昇先生著)に以下の記載がありました。
「Q. 抗菌薬は耳痛や発熱がおさまったらやめてよい?」
「A. ウソ。臨床症状が改善しても鼓膜所見が残存した急性中耳炎が治癒していないことが多い。」
そして、同ページに掲載している鼓膜所見の経過グラフからは、
「鼓膜所見正常化率は5日後:20%、10日後:35%、14日後:50%、26日後:70%程度にとどまる」
と読めます。
ということは残り30%の患者さんは1ヶ月以上抗生物質で治療が必要になるのでしょうか?
この辺が「耳鼻科通院はエンドレス」の理由なのかもしれませんね。

中耳炎を予防することが可能か?

一部可能です。方法はワクチンと抗ウイルス薬。
現在得られるデータを列記します。

インフルエンザワクチンと急性中耳炎

 不活化インフルエンザワクチン(日本で接種しているタイプ)によりインフルエンザに伴う急性中耳炎の発症が32〜83%減少することが報告されています。
 低温馴化弱毒経鼻生ワクチンによりインフルエンザの発症とそれに伴う急性中耳炎の発症は30%抑制され、結果的に抗生物質の使用頻度が減少したことが報告されています。

抗インフルエンザ薬と急性中耳炎

 抗インフルエンザ使用により急性中耳炎発症が44%減少したと報告されています。また、臨床現場でも重症中耳炎症例が減少したと実感されています。

★ RSウイルスに対するモノクローナル抗体製剤パリビズマブ(商品名:シナジス)では合併する急性中耳炎の予防効果は得られませんでした。理由は不明。
※ 以前開発されたRSウイルスワクチン(ホルマリン処理)では中耳炎予防効果が確認されました。しかし接種に伴い感染の重症化・死亡例が出たことから開発は頓挫しています。

日常生活上の注意点

・・としては「子どもが中耳炎を起こしやすい理由」から逆転の発想をして・・・
母乳栄養:「母乳中の細菌特異的分泌型IgA抗体が乳児における鼻咽腔内コロニーの形成を阻害して(つまりバイ菌が増えるのを邪魔してくれる)中耳炎を予防する効果がある」と報告されています。
子どもの近くでタバコを吸わない
などが考えられます。中耳炎を繰り返してお悩みの方はご検討ください。

今後の展望

急性中耳炎のきっかけはウイルス性の風邪です。
ウイルス性中耳炎に罹らないことは風邪を引かないということと同じくらい難しい。
ワクチンで予防できる風邪はほんの一部(例:冬に流行するインフルエンザ)ですし、低年齢乳幼児が集団保育する流れは時代の要請で増えていくでしょうから、「ウイルス性の風邪 → ウイルス性中耳炎の合併」という現象に関しては残念ながら有効な対策がありません。

「肺炎球菌ワクチン」に期待が持てます。

中耳炎の3大起炎菌の一つである肺炎球菌ワクチンが既に外国では普及しています。
現在高齢者中心に使用されている「ニューモバックス」とは別の子ども用ワクチンで、ワクチン後進国の日本にももうすぐ導入されるという情報があります。
すると肺炎球菌による中耳炎が減ることが期待されます。耐性菌にも悩まされなくなります。
素晴らしい!
でも、他の起炎菌である「インフルエンザ菌」「モラキセラ・カタラーリス」に対するワクチンは用意されていません。2008年に開始された「ヒブワクチン」はインフルエンザ菌に対するワクチンではありますが、その中の強毒性の「莢膜型の中のb型」にしか効きません。中耳炎の原因となるインフルエンザ菌は弱毒型の「無莢膜型」が圧倒的に多いのです。
最近「肺炎球菌ワクチン+インフルエンザ菌ワクチンの合体ワクチン」が欧米で認可されたとのニュースが流れました。この分野の今後の発展が期待されます。

院長のつぶやき)もしこの合体ワクチンが日本で使用できるようになると、小児科医の仕事内容が変わるでしょう。2008年に認可されたヒブワクチンと合わせると、インフルエンザ菌・肺炎球菌が主な原因となる子どもの細菌感染症(細菌性髄膜炎、肺炎、中耳炎)が過去のものとなり、小児救急のストレスも軽減することが期待されます。早くそんな時代が来ないかなあ。

漢方薬の出番は?

さて、私が好きな漢方薬の出番はあるでしょうか?
以下の病態に使用が可能だと思います。

★ 風邪を繰り返す子ども
風邪を繰り返す虚弱な乳幼児に対して用意されている漢方薬があり、長期投与により風邪回数が減り、軽症で済むことが期待されます。つまり「ウイルス性風邪の予防」ですね。

★ 急性中耳炎の炎症・痛み軽減
喉・耳周囲の熱を冷まし炎症を抑える漢方薬があります。抗生物質との併用が基本です。

★ 滲出性中耳炎
耳の奥に水が溜まる滲出性中耳炎には「水をさばく」漢方薬が有効であるとされています。
当院に耳鼻科通院に疲れた患者さんが相談にこられた時は、耳鼻科と併診を条件に処方しています。

終わりに

結局小児科医は外科的処置ができませんので、耳鼻科に渡すタイミングを図りながらそこに至らないようにいかに薬を上手く使うか、そのさじ加減で腕が試されるような気がします。
私自身は抗生物質の使用にストイックな方だと自認してきましたが、こうして調べてみると小児科医より耳鼻科医の作成したガイドラインに近いスタンスだったことに気づき、驚いた次第です。

<中耳炎に関する新聞記事>

 ネットで見つけた中耳炎、小児耳鼻科関係のニュースを拾い読み。

■ 小児の副鼻腔炎に新指針 【米国小児科学会】(2013年7月2日 m3.com)

2001年のガイドラインを改訂

 米国小児科学会(AAP)は6月24日、小児の急性細菌性副鼻腔炎の治療に関する新しいガイドラインを発表した。Pediatrics誌7月号に掲載。
 今回発表されたのは「1-18歳の小児における急性細菌性副鼻腔炎の診断と管理に関する臨床ガイドライン」。AAPが旧ガイドラインを発表した2001年以降の医学文献を基に作成し、技術報告書も付記している。
 急性上気道感染を来たした小児において症状が10日以上続く場合、あるいは発熱、鼻漏などの症状が連続3日以上重篤に発症する場合、急性細菌性副鼻腔炎と診断する。新ガイドラインではこれに加え、上気道感染を来たした小児において鼻漏、咳、発熱が一旦寛解した後、再び増悪する場合も同様に診断することを新たに記載。2001年の旧ガイドラインが、急性細菌性副鼻腔炎と診断された全ての患児に抗菌薬治療を勧めているのに対し、2013年版ガイドラインでは、症状が10日以上続く患児をさらに3日間経過観察することを認めている。発症が重篤な患児あるいは症状が悪化する経過を取る患児には、抗菌薬を投与する。第一選択薬はアモキシシリンだが、症状が悪化するか72時間後も改善しなければ他の抗菌薬に変更してよい。また合併症のない急性細菌性副鼻腔炎患児に画像検査を行う必要はなく、AAPはこれを勧めていない。

【関連リンク】 AAP Issues New Guideline on Treating Acute Bacterial Sinusitis in Children

■ 小児急性中耳炎の診断・治療(2013.4.18:MTPro)

喜多村 健 氏
東京医科歯科大学副学長/同大学大学院耳鼻咽喉科学教授

 急性中耳炎は耳鼻咽喉科領域の代表的な上気道疾患です。小児急性中耳炎については,わが国の現状に基づいた検討と統一された評価の必要性から,日本耳科学会,日本耳鼻咽喉科感染症研究会,日本小児耳鼻咽喉科学会の3団体が中心となり,小児急性中耳炎診療ガイドライン(GL)2006年版,次いで2009年改訂版の日本語版,英語版が作成されました。さらに,現在は改訂版を作成中です。GLの主眼である重症度判定法と重症度に基づいた診療を急性中耳炎の診療の際には念頭に置いてほしいと思います。

重症度をスコアで分類

 GLでは,急性中耳炎を「急性に発症した中耳の感染症で,耳痛,発熱,耳漏を伴うことがある」と定義し,15歳未満の小児急性中耳炎で発症1カ月前に急性中耳炎ならびに滲出性中耳炎がない症例,鼓膜チューブ非留置例,頭蓋・顔面奇形のない症例,免疫不全のない症例を対象としました。顔面神経麻痺・内耳障害などの合併症を呈する急性中耳炎ならびに急性乳様突起炎に伴う耳介聳立,Gradenigo症候群といった急性中耳炎は除外しました。
 急性中耳炎の代表的鼓膜所見としては,発赤,膨隆,光錐減弱,肥厚,水疱形成,混濁,穿孔,中耳腔の貯留液,耳漏,中耳粘膜浮腫などが挙げられます。鼓膜所見の観察のために,手術用顕微鏡,内視鏡などを用いた観察を推奨しました。
 さらに,鼓膜所見と臨床症状から軽症,中等症,重症に分類しました。この重症度の判定に用いる項目として,鼓膜所見では発赤,膨隆,耳漏,光錐を選択しました。臨床症状としては,耳痛,発熱,啼泣・不機嫌が挙げられます。低年齢は重症化,遷延化の危険因子となることから,24カ月未満を重症度の項目として選択しました。これらのスコアの合計点で軽症は0〜9点,中等症は10〜15点,重症は16点以上としました。重症度を診療時に判定するスコアシートの例を図に示します。

M46160201-P02.jpg

重症度に応じた診療を推奨

 治療のアウトカムについては,発症から3週間の時点で急性中耳炎と診断される鼓膜所見の改善とし,重症度に応じて推奨される治療アルゴリズムを作成しました。その中で,軽症例に限って3日間は抗菌薬の投与を行わず,自然経過を観察することを推奨しました。
 多くの急性中耳炎は抗菌薬非投与で軽快すると報告されています。しかし,抗菌薬耐性菌による急性中耳炎症例が増大しているわが国の現状から,抗菌薬を投与しない場合は正確な鼓膜所見の観察による軽症の診断と厳重な経過観察が大切です。
 わが国では抗菌薬耐性菌の検出頻度が高く,肺炎球菌の約50〜65%,インフルエンザ菌の約50〜70%を耐性菌が占めています。こうした薬剤耐性の現状を把握し,起炎菌の感受性に基づき,急性中耳炎の重症度に応じて,経口剤としてはアモキシシリン(AMPC),クラブラン酸/アモキシシリン(CVA/AMPC1:14製剤),セフジトレンピボキシル(CDTR-PI),注射剤としてはアンピシリン(ABPC),セフトリアキソン(CTRX)を推奨しました。もちろん,他の抗菌薬の使用を推奨しないというのではなく,現時点におけるわが国での薬剤感受性を考慮した抗菌薬の推奨となります。
 中等症,重症例では,抗菌薬を5日間投与しますが,3〜4日目に病態の推移を観察することを推奨しました。抗菌薬は,5,7日間,あるいは10日間投与されることが多いですが,起炎菌,投与された抗菌薬の効果に応じた投与期間を推奨しています。
 また,耳痛は,急性中耳炎の治療対象となる主要な臨床症状です。耳痛に対する抗菌薬による鎮痛効果は相反する結果が報告されており,その効果は不明です。耳痛に対する鎮痛薬の効果も十分検討されていません。GLではこれらのデータを考慮した上で,わが国の現状から3歳以下の小児の鎮痛薬にはアセトアミノフェンを選択肢としました。
 急性中耳炎の病態は,中耳の炎症と貯留液であり,鼓膜切開による排膿,排液は病巣の治癒促進に有効です。鼓膜切開が急性中耳炎を有意に治癒促進するという報告は少ないものの,鼓膜切開が無効という成績ではありません。GLでは,鼓膜切開を急性中耳炎の重症度に応じた選択肢としました。なお,軽症,中等症,重症の各治療アルゴリズムで,3次治療でも軽快しない例は難治例としました。難治例の診療については,本GLでは対象としていません。

反復性中耳炎の診療について提案

 反復性中耳炎については,「過去6カ月以内に3回以上,12カ月以内に4回以上の急性中耳炎罹患」と定義しています。そして,反復性中耳炎の病態は,単純性の急性中耳炎を繰り返すタイプと,滲出性中耳炎に罹患している患耳が急性増悪として単純性の急性中耳炎を繰り返すタイプに分類しました。その上で,反復性中耳炎の診療に当たって注意する項目を提案しました。
 反復性中耳炎の危険因子としては,低年齢,起炎菌の耐性化,罹患者の免疫能,生活・環境要因が報告されています。そのうち,2歳未満の低年齢は,遺伝学的背景も危険因子になるとされています。起炎菌では,多剤耐性肺炎球菌が原因との報告もあります。抗菌薬の効果の低下に伴って,鼻咽喉からの不十分な除菌が反復化の要因の1つと考えられています。宿主の起炎菌に対する低い免疫応答の関与も重要です。母乳として母体から得られる免疫能と反復性中耳炎の発症の関連も推測され,母乳哺育の欠如が反復性中耳炎発症の高いリスクと考えられています。生活・環境に関する要因としては,兄弟あり,保育園児,おしゃぶりなどが挙げられています。
 これらが,反復性中耳炎発症の危険因子と想定されますが,特に起炎菌の耐性化に対しては抗菌薬投与の前に必ず細菌感受性検査を行い,GLで推奨される適切な投与量の抗菌薬を選択する必要があります。生活・環境の要因に対処するには,集団保育の中止と母乳哺育が望ましいとしています。
 また,欧米では肺炎球菌ワクチンの接種が反復性中耳炎の予防に用いられています。わが国でも,2010年に認可された7価蛋白結合型肺炎球菌ワクチンは,わが国の小児急性中耳炎例の中耳貯留液から分離された肺炎球菌の血清型の60.6%,薬剤耐性菌の87.0%をカバーしており,肺炎球菌に対しては34.4〜62.5%,薬剤耐性肺炎球菌に対しては39.8〜49.1%の予防効果が見込まれています。交叉反応性も含めると,急性中耳炎全体として7.6〜9.4%の予防効果が期待されます。
 外科的治療のアデノイド切除術については,ランダム化比較試験で反復性中耳炎の頻度を減少させることはなく,予防効果もないと報告されています。一方,鼓膜切開術については国内の症例対照研究で反復性中耳炎の発症頻度低下に有意な効果は認められていないものの,鼓膜換気チューブの1年あるいは1カ月の短期留置で罹患頻度が有意に低下したとされています。

鼓膜の詳細な観察が重要

 以上のように,GLでは詳細な鼓膜観察を推奨し,鼓膜所見と臨床症状から軽症,中等症,重症に分類しました。また,治療は重症度に基づいて行い,軽症例では抗菌薬の投与を行わず自然経過を観察するものの,正確な鼓膜所見の観察による軽症の診断と,抗菌薬非投与の場合でもその後の厳重な経過観察が重要であるとしています。
 一般に,急性中耳炎の診断は耳痛,耳漏のある場合は比較的容易といえます。しかし,急性中耳炎が好発する乳児については,耳痛の有無の把握は必ずしも容易ではありません。その一方で,炎症に伴う中耳貯留液や炎症変化を伴った鼓膜の視診は,診断と重症度の判定に必須となります。したがって,プライマリケア担当医でも,鼓膜の詳細な観察が急性中耳炎の診療には重要です。

■ 〜急性中耳炎〜自然治癒率が高いため抗菌薬の投与は慎重に(2013.1.31:MTPro)

〔独マールブルク〕マールブルク大学病院小児・青少年科のSiegfried Waldegger教授は「急性中耳炎(AOM)では自然治癒率が高いにもかかわらず,誤診や不要な治療が行われているケースが多い」と同院が開催した第2回小児耳鼻咽喉科大会で報告。AOMの診断と治療に際して注意すべき点を説明した。

乳児では腹痛が現れることも

 AOMは小児がかかりやすい疾患の1つで,典型的な症候には上気道感染症の徴候の他,耳痛,発熱などがある。また症状を訴えられない乳幼児は不機嫌になる場合もある。しかし,Waldegger教授は「上気道感染症の徴候はほぼ必ず認められるが,耳痛や発熱を呈したり,不機嫌になるのは患児の約半数にすぎない。また乳児では,啼泣や食欲不振,腹痛,嘔吐が主な症状となりうるため,臨床症候だけでは誤診されることも多い」と説明。その他,耳をこするのはAOMを示唆するサインであるが,耳を引っ張るのは,典型的なサインではないとしている。
 一方,ドイツ小児感染症学会のガイドラインは,
(1)突然発症
(2)鼓膜全体の発赤と耳痛がある
(3)耳鏡検査における内耳の滲出液貯留を示唆する所見(鼓膜の膨隆,気泡)または耳漏やティンパノメトリーで異常所見が見られる
−といった3つの基準を満たす場合,AOMと診断することができると定義している。ただし,同教授は「滲出液や耳垢により鼓膜を詳細に観察できず,(2)の基準を判定することが困難なことが多い。そのため,推測でAOMと診断されているケースがあまりにも多い」と指摘。小児に処方されている抗菌薬の約40%がAOMと診断されたことによるもので,これは耐性菌の増加にもつながっているという。

鼓膜穿刺も慎重に

 Waldegger教授は「AOMの自然治癒率は70〜90%と高いため,むやみに抗菌薬を投与すべきではない」と忠告。また,起炎菌を検出するための鼓膜穿刺についても,「乳様突起炎や髄膜炎を合併している,抗菌薬が著効しない,または免疫不全や新生児であるなど,限られた場合のみ行うべきである」としている。耳痛がある場合は鎮痛薬が第一選択薬となる。
 一方,ドイツ小児感染症学会は,以下のAOMの場合に,抗菌薬投与を治療の第一選択とするよう推奨している。

1)重度(過去24時間以内に39℃以上の発熱があり,激しい耳痛と全身状態の明らかな低下が見られる)
2)耳漏を伴う(鼓膜穿孔の可能性)
3)生後0〜5カ月の乳児
4)生後6〜23カ月の乳幼児で,上述の3つの診断基準を満たしている(ただし,この場合は経過観察も可能)
5)2歳以下の乳幼児で,両側性AOMを有する
6)危険因子(免疫低下,インフルエンザ,重度の基礎疾患,再発,過去30日以内に抗菌薬療法を実施,頭蓋・顔面奇形)がある

 コクラン・レビューによると,そのうち抗菌薬投与が最も有効となるのは,両側性AOMまたは耳漏を伴う2歳以下の乳幼児であるという。同ガイドラインは,上記に該当しない2歳以上の患児に対して,まずは対症療法を実施し,24〜72時間後にその効果を検証するよう推奨している。抗菌薬については,アモキシシリンが第一選択薬であるが,代替薬としてセフロキシムも使用できる。

ワクチンにより予防も可能

 AOMは,ある程度予防することも可能である。インフルエンザワクチンの接種により,AOMの発症率を30%低下させることができ,肺炎球菌ワクチンの接種にも幾らかの予防効果があるといわれている。
 また,アデノイド増殖症がある場合には,アデノイドの切除もAOMの予防につながる。さらに,6カ月以内にAOMを3回以上発症した患者には,アモキシシリンを半年間あるいは気道感染症の際に予防的に投与することも可能である。その他,受動喫煙やおしゃぶりの使用は,AOMの危険因子となるため,こうした危険因子を除去することも大切である。

■ 中耳炎の予防にも期待 肺炎球菌ワクチン

2010.12.28(共同通信)、2011.1.5(産経新聞)

 2010年度補正予算が可決され、子宮頸がんワクチンとインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの接種に対する国の助成が決まった。このうち、小児用肺炎球菌ワクチンは、子どもに身近な感染症である中耳炎にも一定の予防効果があると期待されている。
 小児用肺炎球菌ワクチンは、死亡や重い後遺症につながる髄膜炎、血液に細菌が入る菌血症、肺炎が主な予防対象。欧米では中耳炎も予防対象に含まれているが、日本では「承認外の効能」とされている。
 目白大クリニック (さいたま市)の坂田英明院長(耳鼻咽喉科)によると、中耳炎は内耳に肺炎球菌やインフルエンザ菌などが侵入して起こり、3歳までに約8割がかかる。鼓膜の内側に水がたまり、強い痛みで子どもが泣き叫ぶことが多く、小児救急患者の原因疾患の10位以内に入る"常連"という。
 特に最近は抗生物質の耐性菌が増え、治療もいたちごっこ。長引くと難聴や言語障害の原因にもなり、髄膜炎の6割が中耳炎から悪化したものだとする報告もある。
 神谷斉・国立病院機構三重病院名誉院長らの研究によると、6歳未満の急性中耳炎の患者から分離した691の細菌株のうち約32%が肺炎球菌。そのうち、認可されたワクチンが対象とする菌のタイプは約63%だった。
 ワクチン接種により、米国では急性中耳炎が7%、フィンランドでは6%、それぞれ減少したとの報告がある。
 坂田院長は「日本では中耳炎が3割ほど減る可能性がある。重症化を防いで難聴も防止できる」と期待している。菌のタイプが異なるため、ヒブワクチンによる中耳炎予防効果はないとされる。

■ 患者を生きる【中耳炎】(朝日新聞の特集:2010年4月)

1 レーザーで鼓膜に穴、膿出す

 静岡県の片山幸成(かたやまこうせい)くん(5)は、生後数カ月のころから、鼻汁が絶えなかった。
 母の有美(ゆみ)さん(30)は市販の器具を使ってこまめに鼻汁を吸い取り、多い時は週に5日、吸引のために医師を受診した。
 1歳を過ぎると、ぐずって泣き叫ぶことが多くなった。抱き上げても、授乳しても泣きやまない。有美さんは、どうしていいかわからなかった。名前を呼んでも反応しないことがあるのも気になっていた。
 「中耳炎になっていますね」。2006年5月、かかりつけの、かみで耳鼻咽喉(いんこう)科クリニック(静岡県富士市)で、上出洋介(かみでようすけ)院長(59)に言われた。急性中耳炎だった。
 子どもの場合、風邪などで鼻汁がたまると、細菌やウイルスが耳管を通じて中耳に入りやすい。炎症が起きて熱や痛みを伴う急性中耳炎は乳幼児の多くが発症するが、1~3週間で治る。
 上出院長は抗生物質を処方し、鼻汁の吸引を続けた。鼓膜の様子を見ていて、治りにくく、長期化しやすいケースだと判断した。そこで、レーザーで鼓膜に穴を開け、チューブを入れて膿(うみ)を外に出す治療を提案した。
 この方法は、出血がほとんどない。レーザーの機械に入力することで、穴の大きさを細かく設定できる。
 有美さんは診察のたび、耳の中を映したモニター画面で説明を受けていたので、幸成くんの状態がよくわかっていたし、上出院長のことも信頼していた。
 ただ、「レーザーで鼓膜を焼くなんて、かわいそうかな」と心配もした。「良くなるならやってもらったほうがいい」という夫の言葉で、決心できた。
 中耳炎の診断から約10日後、有美さんは幸成くんを後ろから抱えた姿勢で、クリニックのいす型の診療台に座った。動かないよう、看護師が幸成くんの頭をおさえた。
 上出院長は、麻酔がかかった耳の中に機械の細長い先端部を入れ、鼓膜にレーザーを当てた。1秒もかからなかった。その後、直径0.9ミリ、長さ12ミリのフッ素樹脂製のチューブを差し込んだ。
 治療の間、有美さんは「これで治るから。頑張って動かないでね」と心の中で言いながら、大声で泣く幸成くんの体を抱きしめた。約15分の治療が終わると、有美さんはびっしょりと汗をかいていた。

2 生後6カ月で耳にチューブ

 静岡県の片山幸成くん(5)は2006年5月、急性中耳炎を治療するため、レーザーで鼓膜に穴を開けてチューブを入れた。
 チューブをつたって、中の膿(うみ)がじわじわと出てくる。かみで耳鼻咽喉(いんこう)科クリニック(静岡県富士市)に定期的に通い、たまった膿を取ってもらった。その後も一度、中耳炎になったが、短期間で治った。
 母の有美さん(30)は、クリニックで顔見知りになった母親たちが同じ治療を受けるかどうか迷っていると、「一瞬で終わるし、子どももすごく楽になるよ」と助言した。
 07年に生まれた弟の快誠(かいせい)くん(2)は、生まれてすぐ、ひどい鼻づまりになった。
 15分おきに夜泣きする息子をあやしながら、有美さんは「鼻と耳がつらいから泣いているんだろうな」と思った。上出洋介院長(59)にも「きょうだいができたら、同じようになるかも知れないね」と言われていた。
 快誠くんは数カ月ごとに中耳炎を繰り返した。1歳半になるころには、幸成くんと同じように治りにくいケースと判断され、レーザーで鼓膜に穴を開けてチューブを入れる治療を受けた。
 チューブは約1年間、耳の中に入れたままにしておき、自然に抜け落ちるのを待つ。昨年6月に治療を受けた快誠くんの耳には、いまもチューブが入っている。治療してからは一度も中耳炎にかかっていない。
 一番下の弟の優星(ゆうせい)くん(7カ月)も今年3月、同じ治療を受けた。生後3カ月で急性中耳炎と診断され、数週間たっても症状が改善しなかった。
 生後6カ月でチューブを入れるのは、同院でも早いほうだった。上出院長は兄2人が中耳炎を繰り返してきたこともあり、早めにチューブを入れたほうがいいと判断した。
 有美さんに抱えられていす型の診療台に座った優星くんは、顔を真っ赤にして泣き叫んだ。有美さんは治療の必要性を十分にわかっていたが、「まだ1歳にもなっていないのに」と胸が締めつけられる思いがした。
 治療から10日が過ぎた日の深夜。有美さんはふと目が覚めた。いつもなら泣き始める時間なのに、優星くんはぐっすり眠っていた。
 昼間のぐずりも減り、兄たちが優星くんの泣き声で不機嫌になることがなくなった。仲良く遊ぶ3人の姿に、「治療を受けてよかった」と有美さんは実感している。

3 ぜんそく診断10年後、違和感

 神奈川県に住む西村はるみさん(60)=仮名=の自宅の押し入れには、肌触りのいいシルクや羽毛など、違う素材の布団がいくつも並ぶ。
 体の不調と向き合いながら寝具店で20年近く働き、熱心に商品を研究してきた証しだ。
 37歳のとき、急にせきが止まらなくなり、呼吸するのさえ苦しくなった。病院でぜんそくと診断され、「子どもだけじゃなく、大人もぜんそくになるんだ」と驚いた。
 ぜんそくになると発作を繰り返し、普通の生活を送れないというイメージがあった。「娘たちを育てていけるだろうか」。不安に駆られた。夫に先立たれ、当時、10代の娘2人を働きながら一人で育てていた。
 医師に言われた通りに薬を飲み、炎症を抑えるためのステロイドの吸入を続けた。せきが治まらず二度入院したほか、きつい発作はなく、生活に大きな変化はなかった。
 夫を亡くしてから、「子どもの前では、いつも生き生きしていよう」と心に決めていた。どんなに疲れていても弱音を吐かず、つらいときも涙を見せなかった。日々の生活に追われ、ぜんそくと診断された時のショックや不安を、いつのまにか忘れてしまった。
 音楽大学を卒業した長女は、音楽を教える仕事に就いた。若い頃、音楽の仕事にあこがれていた西村さんはうれしかった。次女も就職し、休暇になると一人でも海外に出かけた。その行動力に、西村さんは感心した。
 診断から10年以上たった2000年秋。勤務先の寝具店は、改装セールのため、商品の整理で忙しかった。
 突然、左耳に違和感を覚えた。耳の中で水が動くような感じがし、人の声がくぐもって聞こえた。
 すぐに職場近くの耳鼻咽喉(いんこう)科医院に行くと、医師は「耳の中に水がたまっています。滲出(しんしゅつ)性中耳炎ですね」と言った。
 耳の痛みや発熱を伴うものの数週間で治まる急性中耳炎と違い、痛みや熱がないまま粘液がたまった状態が長く続くタイプの中耳炎だった。
 粘液が吸い出されると、耳の中の違和感は消え、それまでと同じように音が聞こえた。
 時間がたって再び聞こえにくくなると受診し、たまった粘液を抜いてもらうことを繰り返した。聴力検査の結果は正常だったから、聞こえなくなるとは予想していなかった。

4 補聴器で「また生きられる」

 神奈川県の西村はるみさん(60)=仮名=は2000年秋、「滲出(しんしゅつ)性中耳炎」と診断された。聴力検査でも異常はなく、「薬を飲んで水を抜いてもらえば治る」くらいに考えていた。それから1年余りが過ぎた。
 地元の寝具店で販売員として働いていた。新年を前に寝具を買い替える人が多いのか、師走は毎年忙しかった。ようやく年末年始の休みに入った30日の朝。「左耳が全然聞こえない」と感じた。
 大みそかを迎えても状況は変わらなかった。当番医を調べると、地元の耳鼻咽喉(いんこう)科医院は元日に当たっていた。不安を抱えたまま年を越し、受診した。
 耳の中は、どろりとした粘液でいっぱいだった。医師は粘液をとった後、「私の手には負えません」と言った。紹介された医院に通ったが、左耳の聞こえは良くならなかった。
 店で接客に立つと、客の言葉が聞き取りづらいことがあった。つい体を近づけてしまい、けげんな顔をされた。気分が落ち込んで、おどおどするようになった。
 職場の同僚に、自分の状態を正直に話した。心配した社長に連れて行かれた別の耳鼻咽喉科医院で、補聴器の使用を勧められた。「もっと年上の人が使うもの」と思っていたが、試してみることにした。
 片方だけ使う場合は、よく聞こえる側の耳に着けるという説明だった。右耳に入れると、業者の男性の「聞こえますか?」という声がはっきり聞こえた。
 「これでまた生きられる」と思った。
 ただ、使い始めると不都合もあった。西村さんが使うのは、耳にかけるタイプ。耳穴にすっぽりと収まるタイプに比べ、位置がずれやすいのが難点だった。
 耳の中ですき間ができると、「ピーピー」という嫌な音が鳴った。補聴器のスピーカーから出た音を再びマイクが拾ってしまうためだった。
 喫茶店や雑踏など人の多いところでは、目の前の人の声よりも周囲の音の方が大きく聞こえた。最初は戸惑ったが、「聞こえないよりはいい」と思った。耳鼻咽喉科医院に通い続け、数年が過ぎた。
 ある日突然、主治医から「すぐに帝京大の飯野(いいの)ゆき子先生のところに行って下さい」と言われた。「何かいい治療法があるのかも知れない」と期待した。

5 私は働く、みんなに支えられ

 滲出(しんしゅつ)性中耳炎と診断されていた神奈川県の西村はるみさん(60)=仮名=は2005年、帝京大病院の飯野ゆき子医師=現・自治医大さいたま医療センター耳鼻咽喉(いんこう)科教授=を受診するよう、主治医に強く勧められた。
 飯野医師が診察すると、炎症を起こした細胞が集まってできた肉芽が鼓膜の穴から飛び出し、耳だれも出ていた。内服のステロイド剤と抗菌薬を処方し、肉芽を取って調べたら、白血球の一つ、好酸球が見つかった。病名は「好酸球性中耳炎」に変わった。
 好酸球はぜんそくのほか、中耳炎や副鼻腔(ふくびくう)炎も引き起こすらしいことが研究でわかってきていた。飯野医師も論文を発表していた。主治医は論文を読み、西村さんに受診を勧めたようだった。
 06年になって飯野医師が自治医大さいたま医療センターに移ったため、西村さんは自宅から片道2時間半かけて通うことにした。
 検査したら、聞こえが良かった方の右耳の聴力が落ち、全く聞こえなくなっていた。新しい補聴器を注文し、今度は左耳に着けた。
 すでに中等度の難聴になっていた左耳の聴力を保つため、受診の度にステロイド剤を耳の中に注入する治療が続いた。だが、その左耳の聴力もどんどん落ちていると感じたことがあった。
 「このまま両方とも聞こえなくなったらどうしよう」。飯野医師に、不安を打ち明けると、「まだ治療法はありますから大丈夫ですよ」と返ってきた。
 内服のステロイド剤を追加すると、言葉通り、1カ月半後には聞こえが戻った。「先生を信じて、前向きに生きよう」と思った。
 以来、1カ月に1回程度の通院を続けている。診察には長女や次女が数回付き添った。
 寝具店では、同僚たちと同じように働いているが、相手の声が聞きとりにくいため、電話の応対だけは、ほぼ任せっきりだ。
 雨やどんよりとした曇り空の日は、聞こえが悪くなる。逆に、晴れた日はよく聞こえる。そんな事情をよく知る同僚たちは時々、こんな冗談を言う。「今日は天気がいいから、うわさ話はできないね」
 その度に「私の耳のことをよく理解するみんなに支えられている」と実感する。
 すでに還暦を迎えたが、まだまだ働き続けるつもりだ。「よく眠れた」というお客の笑顔をもっと見たい。

6 情報編 発熱・ぐずりに注意

 中耳炎は、鼓膜の奥にある中耳に炎症が起きたり粘液がたまったりする病気だ。
 急性中耳炎は3歳までに7~8割の子どもが発症するとされ、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの感染が原因になる。原因不明の熱が続いたり、空腹や眠気以外の理由で頻繁にぐずったりするときは急性中耳炎の可能性があり、耳鼻科を受診したほうがいい。
 2009年に日本耳科学会などが改訂した診療ガイドラインは、鼓膜の状態や耳の痛みなどの症状に応じ、重症度を三つに分類。それぞれについて抗菌薬の処方、鼓膜の切開といった対処法を示している。
 「患者を生きる 中耳炎」で紹介した片山幸成くんたちのように、なかなか治らないケースでは、メスかレーザーで鼓膜に穴を開け、換気して膿(うみ)を外に出すためのチューブを耳の中に入れる治療もある。
 薬が効きにくい「耐性菌」が出ており、症状が長期化する原因になっている。老木(おいき)医院(大阪府和泉市)の山本悦生(やまもとえつお)医師(72)は、自然には治りにくい中等症以上の子には「耐性が出にくく、主な細菌に効く抗菌薬を最初から処方することが重要」という。
 一方、好酸球性中耳炎は、粘着性のある耳だれや肉芽ができるのが特徴で、強い耳づまりや難聴につながる。粘液には白血球の一種である好酸球が多く含まれる。好酸球はぜんそくの原因にもなることが知られ、患者の多くはぜんそくも発症している。
 治療はステロイド剤の内服や耳の中への注入が中心だが、根治は難しい。炎症で鼓膜に穴が開いたり、中耳の骨が壊れてしまったりした場合は、「鼓室形成術」という手術で修復させることもある。
 自治医大さいたま医療センターの飯野ゆき子教授からこの手術を受けた東京都の男性(61)は「以前は職場の会議も聞き取れないほどだったが、術後は耳だれがとまり、聞こえが戻った」と話す。
 ただ、全国では術後に聴力が悪化した例もある。飯野さんは「男性のように細菌感染を取り除けない特別なケース以外、むやみにしていい手術ではない」と言う。

■ 治りにくくなった中耳炎 耐性菌増加が原因 ペニシリンで効果的治療

2007.12.4(共同通信)

  耳が痛くなって発熱、聞こえにくくなるなどする子どもの急性中耳炎は、以前に比べて治りにくくなった。治療薬が効きにくい耐性菌が増えたのが原因だ。それでも「ペニシリンを有効に使えば、耐性菌を増やさずに治療できる」と専門医は指摘する。

 ▽2種類の菌

 「急性中耳炎は、肺炎球菌が原因だと23.0%、インフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは別の細菌)だと14.7%が再発する」。和歌山県立医大の山中昇教授(耳鼻咽喉科)は、この2種類の病原菌対策が重要だと話す。
 2つの菌は、1歳までに5―3割の子どもで鼻に常在するようになる。肺炎球菌は肺炎や髄膜炎の原因にもなり、高齢者も注意が必要だ。子どもでは、鼻と耳をつなぐ耳管を通って中耳に感染すると中耳炎を発症する。
 治療にはぺニシリンやセフェム系の抗生物質を使うが、山中教授によると、中耳炎の子どもから分離した肺炎球菌の8割、インフルエンザ菌の6割は、耐性菌になっている。

 ▽鼓膜にチューブ

 保育園に通う7カ月の女児が発熱、抗生物質と解熱剤を処方され、熱はいったん下がった。だが1週間後に再び高熱が出て、耳の後ろが大きく腫れた。重症の急性中耳炎だ。そこで山中教授らは、鼓膜を切開してうみを出し、ペニシリンを注射。女児は回復し、5日後に退院した。
 神奈川県の耳鼻咽喉科クリニックには、発熱、鼻水、耳が聞こえにくいといった症状の子どもを連れた親が相次いで訪れる。中耳炎も多く、医師は耳だれを検査し病原菌を特定。特に治りにくい場合は、局所麻酔をして、鼓膜内からうみを出し、中を乾かすためのごく細いチューブを入れる処置をする。
 治療の際に子どもが泣くとかわいそうだが、この医師は「小学校高学年まで再発を繰り返す子どもが多くなっており、こうした方法を使わざるを得ない」と話す。
 山中教授によると、急性中耳炎の3分の1は1カ月たっても治らない。「うみを出し、薬で十分たたく。そうすれば耐性菌も増えない」。切開した鼓膜は、間もなくふさがるので心配ない
 1日3回の薬を2回しか飲まないのは駄目。薬は必要な回数を守らないと効果がない。耐性菌は抗生物質を多用するほど増える傾向があり、欧米に比べセフェム系の使用量が多い日本では、ペニシリンの耐性はセフェム系より少ない。耐性菌に対しても十分な濃度のペニシリンは効くという。

 ▽鼻をきれいに

 日本耳科学会などは2006年、鼓膜の状態から重症度を分類、軽症の場合は3日間抗生物質は投与せずに経過をみて、中等症以上ではペニシリンなどを使うなどとする小児の急性中耳炎診療ガイドラインを定めた。
 山中教授らはガイドラインに先立ち、2000年から切開とペニシリン投与を基本とする治療を開始。効果があると確かめていたが、この方法は耐性菌も増えにくい。
 耐性につながる肺炎球菌の遺伝子変異を調べると、この方法の導入後の4年間で、全国平均では遺伝子変異がないのは7%だが、和歌山県では21%だった。ただ下痢が起きやすくなり、途中で服用をやめると耐性菌を増やす結果になる。
 子どもが鼻に入れた指を介して菌は周囲に広まることが多く、山中教授は予防には手洗いが重要と強調する。また中耳炎を起こしやすくする鼻詰まり対策として、鼻水を吸い取る器具などを使い「親は子どもの鼻をきれいに保つようにしてあげてほしい」と話している。

<参考ホームページ>

(政府公報)

(外来小児科学会編)
 専門的なので、一般の方には敷居が高いかもしれません。

(日本耳科学会)
 その後出版物として販売されています。

(米国小児科学会他編)

(日本耳鼻咽喉科学会)

(アボット感染症アワー)