熱性けいれん

 子どもが高熱を出して手足がピクつくと・・・イヤですねえ。親は身が縮む思いです。
「敵の正体を知れば恐るるに足らず」です。正しい知識を持って対処しましょう。

 実は私の長女も目の前で熱性けいれんを起こしました。小児科医という自分の立場もすっかり忘れて「早く止まってくれ!」と子どもを抱きながら祈ったことも今は懐かしい思い出となりました。
 かく言う私自身も幼児期に熱性けいれんを起こした経験があり、驚いた父親が私の口に割り箸を突っ込み(*)抱きかかえて医者に駆け込んだそうです。
 親の気持ちって、いつの時代も変わらないものなんですね。
「割り箸を突っ込み」は今はやってはいけない行為とされています。よく言われた「舌が喉に落ちて窒息する」可能性はとても低く、かつ口内を刺激するとけいれんの緊張を助長するため、というのがその理由です。

どんな病気?

 定義は「38℃以上の発熱に伴って乳幼児期(生後6ヶ月〜6歳)に生じる発作性の病気、ただし他に発作の原因(脳炎、脳症、代謝異常など)がない場合」というもの。
 熱性けいれんの原因となる感染症としては、インフルエンザA型、エンテロウイルス(特にコクサッキーA群・・・ヘルパンギーナなど)、突発性発疹が有名です。

※ 未熟な脳が「高熱」という刺激に反応して電気的にショートするイメージで、幼児期を過ぎて脳が成熟すると起こしにくくなる一過性の病気です。

特徴

頻度:日本人は7〜10%「10〜15人に1人」と多い(欧米では3〜4%)
家族歴:あり(兄弟・両親に熱性けいれんの既往を認めること多し)
発熱の原因:突発性発疹、麻疹、インフルエンザなどで起こりやすい。
発作時の体温: 発作直後は39℃以上のことが多く、ほとんどが発熱後12時間以内で体温が急上昇するときに起こします。

発作の様子

典型的(別名:単純型、定型的)
・全身の強直間代けいれん(強直=こわばる、間代=ガクガクする)
・意識消失:呼びかけに返事なし
・顔色が悪くなる(チアノーゼ)
・持続時間:数分以内(長くても5分程度)
非典型的(別名:複雑型、複合型、非定型的)
・体の一部のけいれん(部分発作)、意識低下のみでけいれんがみられない発作
・15分以上持続
・24時間以内に繰り返す

また起こす? 脳に後遺症が残る?

□ 「熱性けいれん患児の70%は、一生に1回しか発作を起こしません
 1回起こした児が2回目を起こす確率は約30%
 2回起こした児が3回目以降を起こす確率は約30%(全体の9%)
□ 「熱性けいれんの発作は神経学的異常を残しません
 単純型を反復しても脳に後遺症は残りません。非典型的(複雑型、複合型)であっても神経学的異常や発達異常を認めなければ、将来神経学的異常を来すことはほとんどありません。
□ てんかんへの移行・・・約5%(一般の約5倍)

熱性けいれんを起こした後の予防接種はいつからできますか?

 典型的発作の場合は、最終発作から3ヶ月の観察期間をおけば接種可能です。
 非典型的(複雑型)発作の際は、小児神経専門医に相談してください。

ひきつけた時はどうしたらいいの?

■ 家庭での応急処置
あわてない:数分で止まります。命に関わることはまずありません。
何もしない:歯を食いしばっているときでも口の中にものを入れない。大声で呼んだり、体を揺すったり、押さえつけたりしない。
楽な姿勢:衣服をゆるくし、特に首の周りをゆるくする。
嘔吐対策:横向きに寝かせるか、吐きそうなとき顔を横に向ける。
観察する:体温測定し、持続時間と様子(左右差、目の動き)を観察・記録する。後の診察のとき、医師に説明できるように。
意識回復を確認:意識がはっきりするまでは口から薬・飲み物を与えない。
■ 救急車を呼ぶ必要があるとき
① 発作が5〜10分以上続き、止まる気配がないとき
② 短い間隔で繰り返し発作が起こり、この間意識消失が続くとき
③ 全身ではなく体の一部だけ、あるいは部分的に強い発作のとき
④ 他の神経症状を伴うとき(意識の戻りが悪い、麻痺など)
⑤ 初めての発作でパニックになりどうしてよいかわからないとき(医学的というより社会的適応)

ダイアップ坐剤による予防

 前述の通り、熱性けいれんは一生に1回だけのことが多いのですが、中には繰り返す子どもがいて親は熱が出るたびにハラハラドキドキしなくてはなりません。
 下記のような場合は抗けいれん薬で予防をする方法がありますのでご相談ください。

■ 適応
① 非典型的発作(15分以上持続、短時間に反復、部分発作)
② 発作が2回以上で家族歴がある時(両親・兄弟の熱性けいれん既往・てんかん)
③ 熱性けいれん発症前からの神経学的異常・発達遅滞の存在
■ 使用の実際
くすりの知識:ジアゼパムという抗けいれん薬。けいれんが止まらなくて救急車で病院へ行ったときに注射で止めますが、それと同じクスリです。
使うタイミング:発熱に気づいたら(37.5℃が目安)1回肛門内に挿入し、8時間後も熱が続いていたらもう1回使います(2回でワンセットです。これ以上の連続使用は禁!)。
 解熱剤の坐薬も使いたいときはダイアップを先に入れ、30分開けて使用。
何年使う?:約2年間、あるいは5〜6歳まで。
注意点:眠くなったりふらついたりすることがあります。転んで頭をぶつけたりしないよう注意して観察しましょう。

解熱剤を早めに使ったり頻回に使ったりしてもけいれんを予防することはできません

新ガイドラインのダイアップ坐剤投与基準

2015年3月に発汗された日本小児神経学会の「熱性けいれん診療ガイドライン」では、次のように変更になりました;

 発熱時のジアゼパム(ダイアップ坐剤®)投与の適応は、
遷延性発作(15分以上)の既往がある場合
または、
(1)焦点性発作または24時間以内に反復
(2)熱性痙攣出現前より存在する神経学的異常・発達遅滞
(3)熱性痙攣またはてんかんの家族歴
(4)生後12カ月未満
(5)発熱後1時間未満での発作
(6)38℃未満での発作
─のうち2つ以上を満たした熱性痙攣が2回以上反復する場合
である。

…つまり、15分以内の短い熱性けいれん(いわゆる「単純型」)は、何回繰り返してもダイアップ予防の対象にならない、ということです。従来より条件が厳しくなり、対象者は減ることが予想されます。 
 このような大事なことは、本を買って読むのではなく、HPに公開すべきだと思います。

(2016.4.15)先日、上記GLがネット上に公開されているのを見つけました。私の声が届いたのかな?(^^;)
■ 「熱性けいれん診療ガイドライン2015

熱性けいれん関連ニュース
■ 熱性けいれん…発症時 横向きに寝かせる(2015年5月22日 読売新聞)

 乳幼児期の発熱で起こる発作「熱性けいれん」について、日本小児神経学会が今年3月、診療指針をまとめた。発症時の対応や、注意が必要な薬など、親が気になる点を整理した。

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 東京都内の会社員女性(33)は、当時、生後9か月だった長男が、初めて熱性けいれんを起こした時を振り返る。両手が万歳のようにぴーんとあがったままかたまり、全身が震えた。
 熱性けいれんは、主に生後6か月~満5歳に起こる。国内では8%前後が経験する。脳が発達段階にある乳幼児では、38度以上の発熱をきっかけに脳内が興奮し、熱性けいれんが起こる。体の片側がけいれんしたり、白目をむいたり、全身ぐったりしたりすることもある。
 熱性けいれんを起こしたら、安全な場所に横向きに寝かせ、慌てず見守ることが大切だ。多くは3分以内に自然に治まる。けいれんが治まらない場合、病院で、けいれんを抑える薬物治療を受ける。
 けいれんは、脳や脊髄を覆う膜に細菌が感染して起こる髄膜炎などでも起こる。区別するには、多くは全身麻酔で、脊髄液を取り出す髄液検査などが必要だが、子どもへの負担が大きい。診療指針では、髄膜炎が強く疑われる「激しい頭痛」などがある場合に髄液検査を行うとした。けいれん患者に必ず行う検査はない。
 熱性けいれんを起こした子の親は、再発が不安だ。

 指針によると、再発の確率は約15%でも、
〈1〉両親いずれかが熱性けいれんを経験した
〈2〉1歳未満
〈3〉発熱から発作までがおおむね1時間以内
〈4〉発作時の体温が39度以下
――のいずれかに該当すると約30%に倍増する。

 解熱鎮痛薬は、けいれんの再発を防ぐという科学的根拠はない。発熱時、けいれんを起こす前に、けいれんを抑える座薬を使う方法は効果があるものの、眠気やふらつきの副作用もある。指針では、15分以上続くなど脳への影響が懸念される熱性けいれんを起こした子どもらに限って推奨した。
 冒頭の男児は、再発したが5分以内だった。次男(4)、三男(2)は、20分続く熱性けいれんを起こしたので発熱時には座薬を使う。
 熱性けいれんが起こる時期は、予防接種の時期と重なる。接種により発熱の恐れがあるものの、予防接種は、発熱を引き起こす様々な感染症を防ぐ利点があり、すべて接種して良いとした。
 指針の策定委員長を務めた名古屋大教授の夏目淳さん(障害児医療学)は、「予防接種前に限らず、日ごろから、いざという時の対応法を小児科医から教えてもらって」と助言する。
 熱性けいれんを起こした子どもに注意が必要な薬がある。風邪やアレルギーの治療で使う抗ヒスタミン薬のうち、眠気を誘うタイプは、脳の活動が鈍り、けいれん時間を長引かせる恐れがある。順天堂大練馬病院小児科教授の新島新一さんは「熱性けいれんを起こしやすくするとの報告もあるため、熱性けいれんの経験がない子どもも、眠くならないタイプの薬を使ってほしい」と呼びかける。

■ 子どもの急病 娘が熱性けいれん 動転(2010年12月6日 読売新聞)

 記者の娘、紀代香(5)が最初に熱性けいれんを起こしたのは1歳半のある夜のことだった。突然、白目をむいて、両手が硬直し、口から泡をふく。唇はみるみる紫色に変色した。私は突然、ぐらっと地面が揺れたような感覚に襲われた。「死んじゃう!」。1分くらいだったと思うが、動転し、何もできなかった。
 ほとんどの熱性けいれんは一度きりで済むのだが、娘の場合はその後も数か月に1度、けいれんを起こした。2回目以降は、ゆるやかに手足を震わせるもので、何分も止まらない。医師は「5分以上続いたら救急車を呼んで」と言ってくれ、けいれんを予防する座薬「ダイアップ(一般名ジアゼパム)」を処方された。
 熱性けいれんは、高熱になる直前に起きるので、体温が37度5分になったらダイアップを1回入れ、8時間後に38度以上あれば2回目を使う――のだという。
 ところが、少し体調が崩れただけで、体温は37度5分に上がった。便秘や厚着など、明らかに病気ではない、と思うことも多かった。悩んだ末にけいれん後に入れることに勝手に決めた。
 救急車も悩みの種だった。到着時に発作が収まっていることも多く、気恥ずかしい。だが、タクシーを使うと車中が不安だった。
 結局、何度か病院に駆け込んだが、着いた時には止まっており、何もせず経過をみるだけだった。
 連載を機に、熱性けいれんに詳しい京都第二赤十字病院(京都市)小児科副部長の長村敏生さんに聞いた。
 長村さんによると、ダイアップは完全に吸収されるまで15分程度かかるので、使うなら、けいれんが起きる前に使う。体温が高めなら、「平熱より1度高い時」でよい。ほとんどのけいれんは発熱後数時間以内に起きるが、2回使えば24時間は効果が続く。薬を使ってもけいれんが起きることはあるが、使わない時に比べ、発作は軽くて済む。
 「お母さんは心配でしょうが、30分から1時間程度続かないと脳への影響はありません。ただ、万一のことを考えて、5分以上続いたら、救急車は遠慮なく呼んで」と長村さん。けいれん後、意識が戻らない時も救急車を呼ぶ。それ以外でも心配なら、自家用車などで病院へ行って良い。
 丁寧な説明に、長年の疑問は氷解した。子育てをしていて、親は、病院でなかなか細かいことを聞けないと痛感している。子どもの身近な病気や事故についてリポートする。(館林牧子)
 【熱性けいれん】 高熱に対する脳の生理的な反応で、乳幼児の6~8%程度に起きる。約3分の1程度は再発するとされる。

□ 情報プラス
<熱性けいれん以外のけいれん>
 京都第二赤十字病院小児科の長村敏生副部長によると、乳幼児のけいれんの7~8割は熱性けいれんだが、そのほかにもてんかん、急性脳炎・脳症、髄膜炎、軽症胃腸炎関連けいれんなど、様々な原因でけいれんは起きる。
 てんかんの場合は、通常は熱がない時にけいれんが起きるが、高熱や睡眠不足、抗てんかん薬の飲み忘れなどで誘発されてけいれんが起きることもある。子どものてんかんは、抗てんかん薬を3~4年以上服用する必要があるが、7~8割は薬で治る。
 急性脳炎・脳症、髄膜炎でも、熱とともにけいれんが起きることがある。多くは、感染症が原因で、ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、はしかやインフルエンザ、おたふくかぜなど感染症の予防接種を受けておくことで、発症の可能性を減らすことができる。
 軽症胃腸炎関連けいれんは、生後6か月から3歳の乳幼児がロタウイルスやノロウイルスなどのウイルス性胃腸炎にかかった時に起き、5分以内のけいれんを短期間に繰り返す。熱がない時に起こることが多いが、熱があって起きる場合もある。胃腸炎が治ると、けいれんも止まる。

<けいれんが起きたら>
1.熱、光、音など刺激の少ない場所に子どもを移動させ、あおむけに寝かせて、タオルなどを丸めて首の下に入れます。
2.けいれん中に吐いたり、つばを誤嚥したりすることがあるので、窒息しないようにあおむけの姿勢で顔を横に向けるか、左側が下になるように横向きに寝かせます。
3.衣服を緩め、楽にします。
4.けいれん中に転落したり、周囲の物にぶつかったりしないような場所に寝かせます。けがの原因になるような家具や置物は遠ざけておきます。
5.けいれん中に口の中に指やスプーンなどの物を入れるのは危険。ただし、食事中にけいれんが起きた場合は取り出せる範囲内で取りだします。
6.5分以上続いたら救急車を呼びます。
7.携帯電話やビデオがあれば、けいれんの様子を動画で記録しておきます。

(京都第二赤十字病院 長村敏生副部長による)

■ 医療相談室 1歳孫、けいれん繰り返す(2008年8月17日 読売新聞)

Q. 1歳の孫が生後10か月のころにけいれんを起こし、その後も、繰り返しています。てんかんなのでしょうか。てんかんの場合は治るものなのでしょうか。(55歳女性)
A. 状態観察し医師に伝えて 

久保田英幹(ひでもと) 国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター診療部長(静岡市)

 けいれんがあるからと言って、てんかんだとは限りません。
 1歳前後のお子さんが起こすけいれんには、てんかんのほかに、熱が急激に上がる時に起こす「熱性けいれん」、下痢に伴うけいれん、大泣きした時になる「泣き入りひきつけ」などがあります。発熱や下痢、大泣きなどがなくても起こるけいれんもあります。
 てんかんは、脳の神経細胞に流れている電気信号が過剰放電し、けいれんや突然意識を失うなどの発作を繰り返す病気です。
 てんかんが疑われたら、脳波検査やコンピューター断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像(MRI)などの画像検査を受け、けいれんの原因が脳にあるかどうか調べてください。
 また、診断にはこれまでの経過や発作の起こる状況、症状なども大切です。
 お子さんがけいれんを起こしたら、慌てないで冷静に状態を観察してみてください。
 「どのような状況で始まったか」、「目や顔が左右どちらかに寄っていないか」、「手足はどのような姿勢になっているか」、「けいれん後、一時的なまひなどが手足に生じなかったか」など、具体的であるほど診断に役立ちます。
 てんかんと言っても、治りやすいものから、一定期間、服薬を続ける必要のあるものまで様々です。治療の方法や期間はさらに詳しい診断により決まります。
 てんかんかもしれないと思ったら、小児神経科医やてんかんを専門とする医師を受診しましょう。

<参考になるHP>

島袋智志先生(沖縄県立南部医療センター)

阪南中央病院HPより

粟屋豊先生(聖母会聖母病院小児科)

奥村彰久先生(順天堂大学小児科)