<予防接種ミニレクチャー・アーカイブ>

 地域の予防接種に関わる医療関係者を対象にミニレクチャーをしたときのスライド原稿を書き起こしました。
 内容は発表当時のものであることをご了承ください。

(2016年)「積極的勧奨の差し控え」を考える 〜予防接種行政の変遷〜

(2016年4月14日:館林市邑楽地区予防接種協議会にて)

小児科開業医という診療現場で仕事をしていると、毎年のように予防接種行政に振り回され悩まされます。
現在問題になっている、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の「積極的勧奨の差し控え」もしかり。
これは「接種中止」するほど危険ではないが、十分情報収拾しての検討結果が出るまでの中途半端な措置です。接種見合わせではなく、でも勧奨しないとは・・・どう考えればいいんだろう?
世間一般では「積極的勧奨の差し控え」=「接種差し控え」と受け取られがち。
現場の小児科医にも、「なぜこんなに厚生労働省の方針がぶれるのだろう?」という素朴な疑問がフツフツと沸いてきます。
その疑問を解く目的で、今年は日本の予防接種行政の変遷を調べてみました。すると、紆余曲折を経ながらたどり着いた微妙なスタンスであることが判明しました。

􀴮􀭸􁷥<本日の内容>
• プロローグ
• 予防接種行政の変遷
• 分岐点となったワクチン関連事件
• 「積極的勧奨差し控え」について

本日の内容です。
まず、プロローグとして予防接種行政の抱えるジレンマについて言及し、
次に、日本の予防接種行政の変遷を概観しながら、
その分岐点となったワクチン関連事件を紹介し、
積極的勧奨停止について考えてみたいと思います。

􀜤􀚃􀝣􀸭<参考資料>
1. 「戦後行政の構造とディレンマ」~予防接種行政の変遷~手塚洋輔著、藤原書店、2010年
2. 「ジフテリア予防接種禍事件」田井中克人著、かもがわ出版、2012年
3. 「予防接種被害の救済」ー国家賠償と損失補償ー、秋山幹男・河野敬・小町谷育子著、信山社、2007年
4. 特集「これからどうなる?日本の予防接種」小児科診療:2016年4月号、診断と治療社
5. 特集「ワクチンリテラシー」薬局、2016年3月号、
ほか、論文・小文レベルはネットで検索し得た情報も。

参考にした資料をスライドに示します。

1.「戦後行政の構造とディレンマ」

 日本の予防接種行政を政治学者が分析した書物です。医療関係本とは視点が異なり、新鮮な気持ちで読めました。

2.「ジフテリア予防接種禍事件」

 被害者である著者自身が事件を見つめ、またほかの被害者を訪問した記録です。この事件は戦後の混乱期に、ワクチン製造技術や物資環境が不十分な中で、GHQの強引とも云える方針に追従することにより、品質を確保できないまま出荷して起きた悲しい事件です。

3.「予防接種被害の救済」

 弁護士の視点で書かれた本です。目から鱗が落ちました。どういうことかというと、弁護士は依頼者(原告)を裁判で勝たせるのが仕事、商売なのですね。そこには科学的根拠をなおざりにしても、裁判に勝つにはどの法律を適用すべきかという議論がメインで、理系の私には納得しがたい内容もありました。
 ワクチン接種後の健康被害は、そのすべてが副反応によるものではなく、紛れ込みも存在します。その因果関係を深く検討することなく、「健康被害者イコール禁忌者であり、医師が気づかずに間違って接種した」「医師が間違ったのは、十分な予診時間を取れない体制を黙認した国の責任である」というすごい論法です。
 目の前の健康被害者を救済するために、医師を悪者にして、国に責任を取らせるという構図。これでは国が予防接種行政に及び腰になるのは当たり前ですね。いつか、司法の責任も追及されるべきでしょう。

 4と5は医学系雑誌の予防接種特集号です。タイムリーな発行でしたので目を通しました。
 ネット上の情報もたくさん参考にさせていただきました。予防接種行政に関しては厚生労働省が研修目的で作成したスライドが役に立ちました。􀷋􀴛􀤤􀞿

􀒖􀞥􁷌􁸃􁷢􁷆

プロローグ

感謝されにくい予防接種事業
• 予防医学は効果を実感しにくい
 ‣ 病気が治った > 病気に罹らずに済んだ
• 副反応ゼロのワクチンは存在しない
 ‣ 健康な子どもがワクチンのせいで病気に

会場の皆さんも日々実感していると思われますが、予防接種事業は感謝されにくい傾向があります。
一般的に、予防医学は効果を実感しにくいとされています。
病気が治った方が、病気に罹らずに済んだことよりもインパクトがありますね。
残念ながら副反応ゼロのワクチンは存在しないため、希に健康な子どもがワクチンによる健康被害を被ることもあり、その際は大問題となってしまいます。

􀚊􀣷􁷥􀸕􀡸􁷂􁸀􀘃􁷖

􁹙􁸙􁸫􁹝􁷥􀣯􀰫行政の立場から見たワクチンの是非
• 行う   → 副反応発生 → 責められる
• 行わない → 感染症流行 → 責められる
 どうしたら責められずに済むか・・・

行政の立場からワクチンを考えてみます。
・予防接種を行うと希ながらも副反応が発生し、国民から“こんな危険なものをなぜ許可した”と責められます。
・予防接種を行わないと防止できるはずの感染症が流行し、“無策”と責められるのです。
このような性質があるので、行政は「どうしたら責められずに済むか」という落としどころを模索することになります。

日本の予防接種行政の歴史

􀷋􀴛􀤤􀞿􀚊􀣷􁷥􀳅􀥑予防接種行政の変遷
• 感染症対策を重視 → 副反応対策を重視
 ‣ 感染症流行状況の変化
 ‣ 副反応(健康被害)に対する国民の意識
 ‣ 予防接種禍訴訟の司法判断

そのような視点で予防接種行政の変遷を辿ると、明治時代~昭和中期までは感染症対策を重視し、紆余曲折を経ながらワクチン副反応対策を重視するようになったことがわかります。
影響を与えた要因として、
・感染症流行状況の変化:患者多数→ 減少→ 激減
・副反応(健康被害)に対する国民の意識の高まり
・予防接種禍訴訟の司法判断:国の敗訴
などが挙げられます。

予防接種行政の年表

まず、年表に整理しておきますね(あとで見返すときに便利なので)。

(1876年)「天然痘予防規則」制定
(1897年)「伝染病予防法」制定
(1909年)「種痘法」制定
(1948年)「予防接種法」制定 ・・・ 罰則付きの強制接種、健康被害救済制度なし
(1951年)「結核予防法」制定
(1958年)「予防接種法」改正
(1976年)「予防接種法」改正 ・・・ 罰則廃止、健康被害救済制度制定
(1994年)「予防接種法」改正 ・・・ 接種義務を努力義務へ緩和(義務から勧奨へ、集団から個別へ)
(2001年)「予防接種法」改正 ・・・ 高齢者へのインフルエンザ予防接種支援
(2006年)「予防接種法」改正 ・・・ 結核予防法廃止に伴いBCGが予防接種法に戻る
(2013年)「予防接種法」改正 ・・・ Hib/肺炎球菌、HPVワクチンが接種対象に
(2014年)「予防接種法」改正 ・・・ 水痘、高齢者の肺炎球菌感染症を対象疾病に

日本におけるワクチン接種の歴史

1963年生まれの私自身はどんなワクチンを接種していたんだろう・・・なかなかわかりません(^^;)。

(1849年)長崎に痘苗が到着し日本の種痘が始まる
(1938年)BCG接種開始
(1954年)日本脳炎ワクチン勧奨接種
(1958年)百日咳・ジフテリア混合ワクチン開始
(1960年)ポリオ不活化ワクチン勧奨接種
(1961年)ポリオ生ワクチン緊急接種
(1962年)インフルエンザワクチン特別対策(集団接種)
(1964年)ポリオ生ワクチン定期接種
(1965年)高度精製日本脳炎ワクチン開始
(1966年)麻疹ワクチン(不活化・生ワクチン併用)開始
(1968年)DPTワクチン定期接種
(1969年)麻疹ワクチンが弱毒生ワクチン単独接種に変更
(1975年)DPTワクチン接種の一時中止
(1977年)風疹定期接種(中学生女子)開始
(1978年)麻疹定期接種(個別接種)開始
(1981年)ムンプス生ワクチン(任意接種)開始
(1981年)無細胞性DPTワクチン(DTaP)への切り替え
(1986年)B型肝炎母子感染防止事業開始
(1987年)水痘生ワクチン接種開始
(1987年)インフルエンザワクチン接種率激減
(1988年)組み替え沈降B型肝炎ワクチン認可
(1989年)MMRワクチン導入
(1993年)MMRワクチン中止
(1999年)定期接種用のゼラチン除去完了
(2002年)小1・中1のツ反、BCG再接種廃止
(2005年)日本脳炎ワクチンの積極的勧奨の差し控え(2011年に再開)
(2005年)MRワクチンによる風疹・麻疹ワクチンの2回接種
(2008年)MRワクチンの3期・4期の接種開始(2012年まで)
(2011年)Hib、肺炎球菌ワクチン接種一時中止
(2012年)生ポリオワクチンから不活化ポリオワクチンへの変更
(2013年)Hib、肺炎球菌、HPVワクチンが定期接種に
(2013年)HPVワクチンの積極的勧奨の差し控え
(2014年)水痘、高齢者肺炎球菌ワクチンが定期接種に
(2015年)B型肝炎ワクチンが定期接種に

予防接種法における対象疾患/ワクチンの登録と追加/削除

スクリーンショット 2016-04-24 11.49.51.png
※ 「予防接種制度について」(厚生労働省のスライド資料)より

予防接種関連法律の制定と改正の歴史

􀵰􀝳􀝰􀧩􁷥􀫕􀥙􀬕􀧫􀸚􀚊明治時代の天然痘流行
• 第1回(1885-87)死者32000人
• 第2回(1892-94)死者24000人
• 第3回(1896-97)死者16000人
• 大正時代は1919年の死者938人が最多

明治時代の感染症対策で最重要視されたのは天然痘です。
明治時代の大流行は3回記録され、死者は1万人単位であり、現在では考えられない重症感染症した。
大正時代には死者数が1000人を割り、1926年以降は第二次世界大戦後の混乱期を除いて年間死者数は100人以下にとどまり、1955年の患者を最後に発生していません。

􀫕􀥙􀬕天然痘の写真.jpg

(長崎大学熱帯医学研究所のHPより)

上の写真は天然痘の患者さんです(元はWHO資料らしい)。
思わず目を背けたくなる皮疹です。
しかし、そこが重要な点だと思います。
感染症が席巻して命を落とす時代ではなくなった現在ですが、感染症の怖さを忘れ、あるいは目を背けてはいないでしょうか?
マスコミはワクチンの危険性を報じる際には、必ず原疾患の危険性も合わせて報道して読者に判断を促すようにする義務があると思います。

【天然痘予防規則】1876(明治9)年制定
• 強制種痘開始
• 罰則(罰金)つき
• 「種痘済証」制度で管理
 ‣ 戸籍を移動する際に必要

明治時代の感染症対策で最重要視されたのは天然痘であり、最初期に制定された法律は明治9年の「天然痘予防規則」でした。
その内容は、天然痘の予防接種である種痘を強制する制度で、なんと罰金付きです。
「種痘済証」制度で管理し、戸籍を移動する際に必要とされるほど重要視されました。
★ 天然痘と日本の大学医学部の関係は深く、緒方洪庵が作った適塾・大阪除痘館は大阪大学医学部の前身、東京の神田お玉ケ池に種痘所は後の東京大学医学部です。

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【種痘法】1909(明治42)年制定
• 種痘の対象年齢改定
 ‣ 1期:戸籍簿で管理
 ‣ 2期:学齢簿で管理
• 種痘施行は市町村の義務

その流れで明治42年には「種痘法」が制定されました。
種痘の対象年齢を改定し、しかしやはり戸籍簿や学齢簿で厳重に管理され、種痘施行は市町村の義務という位置づけでした。
この時代は、とにかく感染症流行と死者を減らすために予防接種率を上げるという方針でした。

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【予防接種法】1948(昭和23)年制定
1.制定の経緯
• 感染症の患者・死者が多数発生
• 「種痘法」踏襲とGHQの意向を反映
 ‣ 占領下住民の健康よりも自国軍隊の保護を目的
 ‣ 権力的・強制的であるが合理的でもあり、結果的に日本の公衆衛生レベルを高めた。

時代は下り、昭和23年に「予防接種法」が制定されました。
当時日本はアメリカ軍の占領下という特殊な状況であり、感染症の患者・死者が多数発生する時代でした。
この法律は、GHQの意向を強く反映し、占領下住民(つまり日本国民)の健康よりも自国軍隊の保護を目的としたものでした。
軍隊は集団生活をするため、感染症が発生するとたちまち広がるので、その対策には敏感なのです。
予防接種法の内容は権力的・強制的ではありますが、合理的でもあり、結果的に日本の公衆衛生レベルと高めたと分析されています。
例を挙げると、当時の日本の人口は7800万人、そのうち6000万人(77%)に種痘を行い、患者数が激減した実績を残しています( 1947年:17000人→ 1948年:386人)。

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【予防接種法】1948(昭和23)年制定
2.感染症対策の側面
• 当時は世界で最も厳しい制度
 ‣ 対象疾患12種
 ‣ 罰則付き強制接種(3000円以下の罰金)
 ‣ 集団接種(医師一人1時間で150人接種)
• 救済制度設定なし
 ‣ 副反応被害者は「特異体質」

予防接種法の内容を感染症対策という視点から見てみます。
制定当時は世界で最も厳しい制度と評価されました。
対象疾患は12種類と多く、罰則付きの強制接種であり、集団接種を基本としました。接種数の上限は、医師一人1時間でなんと150人でした。単純計算では一人24秒で接種となり、これでは詳細な問診や診察など不可能ですね。
とにかく接種率を上げることのみを目的としたシステムです。
一方、救済制度の設定はなく、副反応被害者は「特異体質」と患者側の要因とされていました。

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【予防接種法】1948(昭和23)年制定
3.対象疾患
• 定期・臨時接種:
 ‣ 天然痘・ジフテリア・腸チフス/パラチフス・百日咳・結核
• 臨時接種のみ:
 ‣ 発疹チフス・コレラ・ペスト・猩紅熱・インフルエンザ・ワイル病

予防接種法制定当時の対象疾患を示します。
大きく定期・臨時接種に分けられており、現在とは種類がかなり異なります。
ただし、具体的な接種方法(対象年齢、接種量、接種間隔)は未定のものも少なからず存在し、とりあえず体裁を整えたという感が無きにしも非ず。
この中で、個人的に腸チフス/パラチフスには思い出があります。小学校の集団接種の際に予診票にいつも「腸パラで発熱した」といつも書かれていたのでした。副反応が強いワクチンだったようです。
あれ?「猩紅熱」という病名がある・・・これって、今で言う「溶連菌感染症」の重症型です。ワクチンをした時代があったんだ・・・と思いきや、調べてみると実際に行われていたわけではなく、後に削除されています。やっぱり。

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【予防接種法】1948(昭和23)年制定
4.副反応対策の側面
• ワクチンの国家検定を導入し安全性確保
 ‣ 1948の検定合格率は約6割にとどまる
 ‣ この製造環境・技術レベルが「京都・島根ジフテリア禍事件」(無毒化されないトキソイドが混入)の一因となった

副反応対策という視点からみると、はじめてワクチンの国家検定を制定して安全性を確保しました。ただし、当時の検定合格率は約6割にとどまったという記録が残されています。
現在では「made in Japan」は高品質の証ですが、当時は製造環境も劣悪で品質も高くありませんでした。それが「京都・島根ジフテリア禍事件」の一因となりました。

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予防接種行政の変遷:1950〜1970年
• 1958:「予防接種実施規則」制定
 ‣ 猩紅熱(溶連菌感染症)を削除
• 1961:ポリオを対象疾病に追加
• 1970:腸チフス・パラチフスを除外

予防接種法制定後の動きです。
それまで不確定要素が多かった実際の接種方法を定めた「予防接種実施規則」が制定されました。それとともに、予防接種法に名前があっても有効なワクチンがついに作れなかった猩紅熱は削除されています。
1961年にはポリオが対象疾病に追加され、1970年には腸チフス・パラチフスが定期予防接種対象から除外されました。

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予防接種行政の変遷:1960年代後半
副反応を認識
• 1967:種痘の副反応を厚生省が公表
• 1969:予防接種リサーチセンター設置
 ‣ 種痘調査委員会発足
• 1970:種痘禍の新聞報道
• 予防接種の被害者たちが訴訟を起こし、1970に全国被害者組織が結成

1960年代後半から1970年にかけての予防接種行政は大きく揺れ動きました。
1967年に、それまで「特異体質」で片付けられていた種痘の副反応を厚生省が公表したことを皮切りに、1969年に予防接種リサーチセンターが設置され、種痘調査委員会が発足しました。
1970年に種痘禍の新聞報道が増え、これをきっかけに、予防接種の被害者たちが訴訟を起こし、1970年に全国被害者組織が結成されました。

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予防接種行政の変遷 1970年代
1.被害者救済制度関連
• 種痘禍を受けての被害救済制度の創設
• 1970:予防接種事故に対する措置
 ‣ 法律ではなく閣議了解レベル
 ‣ 当初医療保障のみで生活保障がなかったが、1973年に生活保障型の「後遺症特別給付金」を新設

1970年代は予防接種行政は方針転換を迫られた時期です。
まず大きな変化として、種痘禍を受けての被害救済制度の創設が挙げられます。
1970年に医療保障を中心とした「予防接種事故に対する措置」が閣議了解として講じられ、1973年に生活保障も盛り込まれました。

予防接種行政の変遷 1970年代 
2.現場(市町村・医師)の動き
・定期接種対象者の厳格化と減量接種
 ‣ 接種期間が1日でも超過していると除外
 ‣ 問診票の記入内容による一律排除(疑わしきは接種せず)→ 「接種漏れ」がなんと4割!
• 接種後死亡例→ 医師の書類送検事件
 ‣ 集団接種ボイコット(一歩手前で中止)

種痘禍の際に発生した責任問題により、市町村と接種を担当する医師は過敏になりました。
副反応回避目的で、接種対象者の厳格化と減量接種で対応し、接種期間が1日でも超過していると除外したり、問診票で問題が発覚すると一律排除し(疑わしきは接種せず)、接種漏れがなんと4割に達したそうです。
また、この時期に接種後死亡例が発生して接種医が書類送検される事件が起こり、集団接種ボイコットが起きる一歩手前まで行きました。

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【予防接種法・1976年改正】
〜副反応対策重視へ方向転換〜
• 感染症の患者・死者が減少
• 1960年代後半に予防接種による健康被害(予防接種禍)が社会問題化
• 被害者救済制度再編と法制化
• 強制度緩和:罰則付き→ 罰則なし
・対象疾患の整理;
 除外:腸チフス、パラチフス、発疹チフス、ペスト
 追加:風疹、麻疹、日本脳炎

その流れの中で1976年に予防接種法が大きく改正されました。
これは、感染症の患者・死者が減少し、一方でワクチンの副反応による予防接種禍が社会問題化して全国で訴訟が頻発したことが影響しています。
被害者救済制度が再編、法制化されました。
予防接種の強制度が緩和され、罰則規定が削除されました。

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【予防接種法・1994年改正】
1.さらに副反応対策重視へ
• 感染症の患者・死者が激減
• 予防接種禍訴訟で国が敗訴判決
• 「接種義務」を「努力義務」へ緩和
 ‣ 集団・強制接種から個別・勧奨接種へ

さらに1994年に予防接種法が大きく改正されました。
感染症の患者・死者は激減し、一方、1990年代前半に予防接種禍訴訟の判決が出て、国の敗訴が相次ぎ、それを受けての改正です。
接種義務を接種努力義務へとトーンダウンし、具体的には集団接種を個別接種へ、強制接種を勧奨接種へと変更しました。
予防接種行政はこの改正で明らかに方向を転換しました。感染症対策より副反応対策を重視し、行政の責任を縮小して被接種者個人の責任を拡大し、現在に至る「萎縮した予防接種行政」「失われた20年(10年という人もいます)」がこの時に始まったのでした。

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【予防接種禍訴訟】
1.小樽訴訟-1
• 1970年に提起
 ‣ 生後6ヶ月男児が種痘により下半身麻痺と知能障害を発症
 ‣ 1982年(第一審)被害者勝訴
 ‣ 1986年(控訴審)被害者敗訴
• 1992年:最高裁で判決破棄・差し戻し
 ‣ 事実上、国の敗訴

1994年の予防接種法改正の原因になった予防接種禍訴訟についてお話しします。
口火を切ったのは小樽訴訟です。
生後6ヶ月男児が種痘により下半身麻痺と知能障害を発症し、1970年に提起されました。
1982年の第一審では被害者勝訴、1986年の控訴審では被害者が敗訴し、1992年の最高裁では控訴審判決を破棄し差し戻しされました。その理由として「特段の事情がない限り被害者は禁忌者に該当と推定すべき」という文言があり、事実上、国の敗訴となりました。

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【予防接種禍訴訟】
1.小樽訴訟-2
• 判決のポイント
 ‣ 健康被害者は禁忌者に相当する
 ‣ 接種医が禁忌者を見逃した
 ‣ 国は禁忌を予見する情報や予診の機会を十分与えなかったため、国の責任である

判決のポイントを示します。
まず、「予防接種には副反応・健康被害の発生が避けられない」という前提のもとに、

・健康被害者=禁忌者である。
・現場の医師が見逃した
・国は禁忌を予見する情報や予診の機会を十分与えていなかったため、国の責任である。

いかがでしょうか。何よりも、禁忌の条件を提示せずに「健康被害者は無条件に禁忌者だった」とみなしてしまう論理は受け入れがたい。
目の前の健康被害者を救済するために、理由をこじつけた感が否めません。マスコミが醸し出した時代の雰囲気が影響したのかもしれません。
今考えるとすれば、「予防接種には副反応・健康被害の発生が避けられない」なら、規定のルールで接種したならば、誰かに責任を負わせると方向ではなく、無条件に保障するという方向に進むべきでした(無過失補償制度)。
当時の日本の法律では、誰かが悪者にならないと、裁判で勝たないと補償が受けられないという事情もあったようです。

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【予防接種禍訴訟】
2.東京集団訴訟-1
• 1973年:26(後に62)家族により提起
 ‣ 対象ワクチン:種痘・インフルエンザ・ポリオ・百日咳・日本脳炎・腸/パラチフス
 ‣ 1984年(第一審)原告勝訴(損失補償論)
• 1992年(東京高裁)厚生大臣の「施策上の過失」と認定→ 上告断念

小樽訴訟に続き、1973年に東京集団訴訟が提起されました。
これは単一のワクチンを対象としたものではなく、いろいろなワクチンの副反応被害者が団結して起こした訴訟です。
1984年の第一審は原告が勝訴し、1992年の東京高裁では厚生大臣の「施策上の過失」と認定され、国は上告を断念しました。
副反応の存在を認めただけでなく、国が副反応のあるワクチンを謝って使用したという責任論が初めて言及されたことになります。

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【予防接種禍訴訟】
2.東京集団訴訟-2
• 判決内容:禁忌に関する行政責任
 ‣ 予診など集団運用の不備
 ‣ 医師に対する副反応知識の周知不徹底
 ‣ 一般国民への周知不徹底
• 「不適切に行ったから事故が発生した」と行政責任に言及

東京集団訴訟の判決内容は、接種禁忌事項に関する行政責任を問いかけました。
予診など集団運用の不備、医師に対する副反応知識の周知不徹底、一般国民への周知不徹底などが指摘されました。
この訴訟で初めて「不適切に行ったから事故が発生した」と行政責任に言及しました。

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【予防接種禍訴訟】
3.東京高裁の判断「健康被害者=禁忌者」
‣ 国は予防接種を強制していたが、予防接種の意義や副反応についての情報を国民に周知徹底していなかった。
‣ 担当する医師にも十分な情報を与えていなかった。このため、医師は十分な予診が行えず、禁忌を見逃したので重い健康被害が生じてしまった。

予防接種禍訴訟の東京高裁判決の要旨です。
小樽訴訟の判決内容を踏襲しています。

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【予防接種禍訴訟】
4.その他の訴訟判決
• 1993年:名古屋訴訟で和解成立
• 1993年:大阪・福岡で原告勝訴

感染症対策重視が糾弾され、予防接種制度の見直しへ
そのほかにも、各地の予防接種禍訴訟で国が負けるという事態が相次ぎました。
糾弾された政府は予防接種制度の見直しを迫られ、1994年の予防接種改正に至りました。

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予防接種法・1994年改正
2.禁忌者・接種要注意者の整理
• 予防接種を行ってはならないもの5項目
• 接種を行うに際し注意を要する者
• 病後、予防接種を実施できるまでの間隔

予防接種禍訴訟判決を受けての1994年改正では、禁忌関連事項の整理もスライドのように行われました。
接種禁忌者・接種要注意者・疾患罹患後に実施できるまでの間隔は、現在でも有効です。

􀷋􀴛􀤤􀞿􀳳􀐢􀣽􁽨􁽰􁽰􁽫

予防接種法・1994年改正
3.啓蒙活動の充実化
• 予防接種リサーチセンターによる広報活動
 ‣ 「予防接種ガイドライン」(行政・医師向け) 
 ‣ 「予防接種と子どもの健康」(保護者向け)

1994年の改正の際に、予防接種リサーチセンターによる広報活動が強化されました。
現在も続いている、行政の予防接種担当者と医師向けの「予防接種ガイドライン」と保護者向けの「予防接種と子どもの健康」はこのときに作成されました。

􀷋􀴛􀤤􀞿􀳳􀐢􀣽􁽨􁽰􁽰􁽫

予防接種法・1994年改正
4.対象疾患の削除と追加
• 削除:痘瘡、コレラ、インフルエンザ、ワイル病
• 追加:破傷風

対象疾患も整理されました。
痘瘡、コレラ、インフルエンザ、ワイル病を対象疾病から削除し、
破傷風を対象疾病に追加しました。􀷋􀴛􀤤􀞿􀳳􀐢􀣽􁽩􁽧

􀧔􀡩􀞐􀱘􁷢􀖄􀲠􁸉􀥵􀤧

予防接種法・2001年改正】 
対象疾患に区分を創設
• 公衆衛生水準、医療水準が向上
• Fluによる高齢者の死亡が社会問題化
 ‣ インフルエンザを対象疾病に戻す
• 対象疾病を一類と二類に区分

その後も小規模の改正が何回か行われています。
2001年(H13)の改正では、公衆衛生水準、医療水準の向上を受けての改正です。
・インフルエンザによる高齢者の死亡が社会問題化したことを受け、インフルエンザを対象疾病に戻しました。
・対象疾病を一類と二類に区分しました。

※ 疾病区分;
一類:感染力の強い疾病の流行阻止、又は致死率の高い疾病による重大な社会的損失を防止するために予防接種を実施(努力義務あり)・・・ジフテリア、百日咳、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、破傷風
二類:個人の発病や重症化を防止し、このことによりその疾病の蔓延を予防することを目的として予防接種を実施(定期接種については努力義務なし)・・・インフルエンザ(高齢者に限る)

􀷋􀴛􀤤􀞿􀳳􀐢􀣽􁽩􁽧􁽧􁽭

【予防接種法・2006年改正】 
結核医療の再編
• 結核患者の減少に伴い結核予防法廃止
 ‣ 結核対策は感染症法(二類感染症)へ
 ‣ BCGは予防接種法へ

結核患者の減少に伴い、結核予防法はその役割を終了したと判断、廃止されました。
それに伴い、疾病対策は感染症法へ、BCGは予防接種法へ移行されました。

􀷋􀴛􀤤􀞿􀐢􀣽􁽩􁽧􁽨􁽨

【予防接種法・2011年改正】 
新たな臨時接種を創設
• 2009年の新型インフルエンザ流行(A/H1N1)を踏まえて「新たな臨時接種」を創設
 ‣ 努力義務は課さないが、行政が勧奨する

2011年の改正では2009年の新型インフルエンザ流行を踏まえて「新たな臨時接種」を創設しました。これは、感染力は強いけれども、病原性は高くないという今までに想定してこなかったタイプに対応するものです。

􀷋􀴛􀤤􀞿􀐢􀣽􁽩􁽧􁽨􁽩

【予防接種法・2012年改正】
新型インフルエンザ対策特別措置法􀢡􀖹􁸎􁹝􁸿􁹕􁸒􁹝􁸠􀧔􀜊􀬿􀳀􀥢􀨸􀳳
• 新型インフルエンザ及び全国的かつ急激なまん延の恐れのある病原性の高い新感染症に対する対策の強化
 ‣ 行動計画の作成などの体制整備
 ‣ 発生時における特定接種の実施

2012年には「新型インフルエンザ対策特別措置法」が制定されました。
これは、病原性の高い新感染症(A:H5N1を想定)に対する設定です。

􀷋􀴛􀤤􀞿􀐢􀣽􁽩􁽧􁽨􁽩

􀢡􀖹􁸎􁹝􁸿􁹕􁸒􁹝􁸠【予防接種法・2013年改正】
ワクチン・ギャップ問題解消へ􀷋􀴛􀤤􀞿􀐢􀣽􁽩􁽧􁽨􁸙􁸫􁹝􀂢􁸘􁹍􁸭􁹁􀶔􀧮􀐖􀡏􁷯
• 定期接種の対象疾病追加
 ‣ Hib、小児用肺炎球菌、HPVワクチン
• 疾病区分の呼称変更:一/二類をA/B類へ
• 副反応報告制度(サーベイランス)の強化
• 評価・検討組織への意見聴取規定の創設

2013年には他の先進国との「ワクチン・ギャップ」が問題となり、その解消に向けた改正が行われました。
厚労省が重い腰を上げ、「失われた20年」を取り返す動きがようやく出てきた印象です。
Hib、小児肺炎球菌、HPVワクチンを定期接種対象に追加し、一類・二類疾病という呼称はA類・B類に改められました(感染症法の一類・二類感染症、学校保健安全法の第一種・二種感染症と紛らわしいとの指摘を受けて)。
ほかに、サーベイランスの強化、ワクチンの評価・検討組織への意見聴取規定の創設などが行われました

􀷋􀴛􀤤􀞿􀳳􀐢􀣽􁽩􁽧􁽨􁽫

【予防接種法・2014年改正】 
ワクチン・ギャップの更なる解消へ
• 対象疾病追加
 ‣ 水痘をA類へ
 ‣ 高齢者の肺炎球菌をB類へ

2014年にはワクチンギャップのさらなる解消へ向けて、対象疾病が追加されました。
しかしまだ宿題が残されています。

<まだ残る“ワクチン・ギャップ”>
・同時接種の一般化
・定期接種・任意接種の区別の解消(おたふくかぜワクチンの定期接種化)
・世界標準の接種間隔への変更(生-生ワクチン以外の接種間隔規定の撤廃)
・世界標準の接種方法(不活化ワクチンは筋肉注射が原則)への変更
・混合ワクチンの導入による注射回数減

さて、これらが解消されるのはいつのことやら・・・

􁴺􀤙􀕧􀫈􀒋􀠵􀛍􁷎􀙫􁶿􁴻􁸉􀚃

「積極的勧奨の差し控え」を考える

ここまで、日本の予防接種行政の変遷を概観してきました。その方針は、当初の感染症対策重視から、予防接種禍訴訟判決を受けて副反応対策重視に向かい、現在に至っています。その中で、「積極的勧奨の差し控え」とはどういう意味を持つのかを考えてみたいと思います。
まず、現行の予防接種の種類と勧奨度を表にまとめましたのでご覧ください。

予防接種の種類と勧奨度􀷋􀴛􀤤􀞿􁷥􀞿􀹌􁷟􀒋􀠵􀫷

努力義務 勧奨
定期A類
定期B類 × ×
臨時(従来)
臨時(新たな) ×

日本脳炎ワクチン、HPVワクチンは定期接種であり、表のA類に相当し、接種努力義務と勧奨対象です。

A類:ジフテリア、百日咳、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、破傷風、BCG、Hib、肺炎球菌(小児)、HPV、(痘瘡:生物テロを想定)
B類:インフルエンザ(高齢者)、肺炎球菌(高齢者)
従来の臨時接種:痘瘡、H5N1インフルエンザを想定
新たな臨時接種:新型インフルエンザ(A/H1N1)と同等の新たな「感染力は強いが病原性の高くない新型インフルエンザ」に対応

■ 差し控えの有無で何が違う? →  自治体から接種案内が来ないだけ

では接種勧奨される場合と、差し控えの場合は具体的に何が違うのでしょうか?
受ける側としては・・・単に自治体から接種案内が届かないだけなのですね。

■ 「積極的勧奨の差し控えは」よいこと? それとも わるいこと?

わかりにくい表現ですが、よい面と悪い面を考えてみましょう。

■ 「積極的勧奨の差し控え」の悪い面は?
􁴺􀤙􀕧􀫈􀒋􀠵􀛍􁷎􀙫􁶿􁴻􁸉􀚃􁶿􁸂• 行政(厚生労働省)の責任放棄
• 多くの保護者は“接種差し控え”あるいは“危険なワクチン”と捉え接種率が低下
• 感染症流行拡大の危険

􁶿􁸂 「差し控え」は行政(厚生労働省)の責任放棄であるという意見があります。
多くの保護者は「勧奨の差し控え」=「接種の差し控え」と捉え、「危険なワクチンだから接種しない」ことを選択して接種率の低下を招きます。
すると、感染症流行拡大の危険が発生します。

■「積極的勧奨の差し控え」のよい面は?
• 定期接種なので無料のまま、万が一の時も最高の補償制度が使える
• やるべきかどうかは、被接種者が情報を集めて判断してよい
 ある意味、理想的?

「差し控え」には悪い面だけしかないのでしょうか?
私は、この方針はある意味理想型だと思っています。
定期接種なので(原則)無料のまま、万が一健康被害を被っても最高の補償制度が使えます。
やるべきかどうかは、被接種者が情報を集めて判断してよいのです。
これって、被接種者の人権・権利を保障し、強制することもない予防接種・・・至って民主的ではありませんか?
しかし現状では「被接種者側(=保護者)の知識不足」という大きな問題があると思います。
「国にお任せ」してきた国民は、「自分で判断してください」と言われても、思考停止状態になってしまうのです。
ワクチンが予防している感染症の知識がなく、ワクチンがいかに感染症予防に有効であるかという知識がない状態のところに、「ワクチンは危険である」とマスコミに煽られると、ひとたまりもなく不安の塊になってしまいがちです。
感染症と予防接種の基礎知識があれば、副反応騒ぎが発生しても、より冷静に対処できるはず。
被接種者は“迷える子羊”状態からの脱却を図るべきです。
すべての判断を行政に“お任せ”するのではなく、「子どもの命を守るためにこのワクチンが必要かどうか」考える習慣が根付くと、予防接種行政が変わると思います。

日米英のHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の状況を比較

日米英におけるHPVワクチンの状況をリスクコミュニケーションという視点から比較検討した報告を紹介します。
※ 「HPVワクチンにみる日米英のリスクコミュニケーションの比較研究」くすりの適正使用協議会海外情報分科会により第89回日本感染症学会で発表

日米欧のHPVワクチン:接種率.png

まずは接種率の比較です。
日本は「積極的勧奨の差し控え」以降、接種率は激減しています。
米国は州により接種率が異なります。
英国は接種率が高く維持されています。この違いはどこから来るのでしょうか?

日米欧のHPVワクチン:教育.png

大きな要素として「ワクチン教育」の有無が挙げられています。
日本では接種する思春期の少女にまったく教育がなされないまま、某女優の訴え一つで決定した印象があります。このような見切り発車では、うまく行くはずがありません。
米国では一貫した教育制度は存在しないらしく、接種現場に一任されているのは日本に近いかもしれません。
接種率の高い英国では、保護者ではなく接種する少女自身を対象にした教育プログラムが存在します。疾患の知識、予防の知識がしっかり身についていることが、高い接種率に繋がっていると考えられます。

日米欧のHPVワクチン:一貫性.png

それから、各国政府のワクチンに対する方針の一貫性が違います。
クレーム回避主義の日本は、事ある毎にあたふたして方針が揺らぎがちなのはご存じの通り。
米国と英国ではベネフィット・リスクに対する国の判断は一貫性があり、ぶれることがありません。
大きな違いだと思います。

1994年の予防接種法改革で、教育・啓蒙が足らないと判断され、「予防接種と子どもの健康」「予防接種ガイドライン」が配布されるようになりましたが、これだけでは足りません。
子どもが生まれた保護者対象にとどまらない、義務教育期間からの健康教育を見直し、「子どもの健康を守る」から「自分の健康を守る」という意識を育てることが必要ではないでしょうか。

<参考にしたWEB資料>

【総論】
・「わが国の予防接種制度についての歴史的一考察」(渡部幹夫、民族衛生 第73巻 第6号 2007;73(6):243-252)
・「予防接種制度について」(厚生労働省)
・「予防接種行政の動向について」(H26.10.15:感染症危機管理研修会)
・「日本のワクチン政策に関する最新情報」(岡部信彦、PhRMA・日本医師会シンポジウム、2014.5.21)
・「過去・現在・未来で読み解く、日本の予防接種制度」(齋藤明彦、週間医学界新聞 第3058号 2014.1.6)
・「わが国のワクチン行政の現状と問題点」(中山哲夫、日耳鼻115:605-611,2012)
・「厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会)」(厚生労働省HP)
・「予防接種推進専門協議会
・「予防接種法」(平成25年12月13日最終改正)
・「戦後予防接種行政の変遷」(手塚洋輔、東京大学、2010)
・「特集:予防接種の国際比較」(海外社会保障研究 No.192 Autum 2015)
・「感染症と予防接種の基礎的事項」(平成27年度 予防接種従事者研修会)
・「MOTの視点から見た国内ワクチン産業の展望」(早稲田大学、山田敬則、2011)
・「予防接種:公衆衛生事業としての意義とわが国の課題」(医療経済研究 Vol.22 No.1 2010)
・「過去に定期接種の一時中止、積極的な勧奨の差し控えを行った公費助成のある予防接種」(個人ブログ「国際医療について考える」)
・「義務化された予防接種は「破傷風」だけ 世界中で活動する自衛隊の感染症対策は十分か」(DIAMOND online、2014.10.6)
【予防接種・ワクチンに関する訴訟】
・「予防接種ワクチン禍事件・第一審判決」(東京地方裁判所:昭和59.5.18)
・1948年京都・島根ジフテリア予防接種禍事件(栗原敦、新しい薬学をめざして、2007年)
その1)(その2)(その3
・「1948年ジフテリア禍事件の原因論」(和気正芳、社会医学研究.第23号.Bulletin of Social Medicine, No.23 2005)
【ポリオ関連】
・「ポリオ・ポリオ生ワクチン緊急導入の経緯とその後のポリオ」 平山 宗宏(小児感染免疫、Vol.19 No.2 189-196, 2007)
・「小児マヒとたたかう母と子」(河又松次郎氏のポリオ写真館)
・「ポリオ 日本根絶の記録」 上田哲(Polio Japan, Youtube) ・・・動画。当時の雰囲気が伝わってきます。
・「ポリオ・PPS・ワクチン」(第5回シンポジウム 現場からの医療改革推進協議会、2010)
【その他】
・「海外渡航のためのワクチン」(厚生労働省検疫所)
・「世界と日本の百日咳対策」(ラジオ日経:monthlyワクチンinfo, 2014/2月)
・「子宮頸がんワクチン問題」(WEDGE Infinity) ・・・科学的論証で一読の価値あり

(2015年) 予防接種「予診表」を読み直してみよう

プロローグ

 はじめに、私が経験したエピソードを紹介します。

予診票で何も問題ない患者さんが、実は○○○を内服していた!
・予防接種に幼児が来院、予診票問題なし
・診察で全身の湿疹を認めた
・口頭で確認すると、皮膚科へ通院し軟膏と内服薬(リンデロンシロップ!)使用中
 → 接種延期
★ 軽い病気での通院を書く項目が予診票にはない?

 予防接種を希望して幼児が来院しました。
 予診票ではとくに問題なく、診察すると体全体に湿疹があることがわかりました。
 聞くと皮膚科へ通院中とのこと。
 塗り薬とともに飲み薬も処方されていることを知り、おくすり手帳を確認すると、そこには「リンデロンシロップ」とありました。この薬はいわゆる「ステロイド」です。
 「この薬を飲んでいるとワクチンを接種しても免疫が付かない可能性があるので、飲み終わるまで延期しましょう。」
 と医師記入欄の「見合わせた方がよい」に○を付けましたが、お母さんは怪訝そうな表情。
 理由を説明するのに時間が掛かりました。

ステロイド(長期)療法中の予防接種の考え方(「日本小児腎臓学会の見解」2009)
・プレドニゾロン 2mg/kg/day 以上 → 接種禁忌 
・プレドニゾロン 2mg/kg/day 未満 → 接種可(ただし接種後の抗体価モニターと追加接種要検討)

 ちなみに、長期ステロイド療法中の予防接種の考え方が日本小児腎臓学会から公表されていますので紹介します。原文はもう少し複雑ですが、整理しますと、上記のようになります。
 「なぜ皮膚科通院の記載もれがあったのだろう?」と、もう一度予診票を読み直してみると、軽症疾患でほかに通院先がある場合にそのことを書く項目がないことに気づきました。
 3番目の質問「今日体に具合の悪いところがありますか」では、痒いだけで元気なので書く必要性を感じません。
 4番目の「最近1ヶ月以内に病気にかかりましたか」では、1ヶ月以上前から湿疹があるのでこれも当てはまりません。
 敢えて言えば「生まれてから今までに先天性異常、心臓、腎臓、肝臓、脳神経、免疫不全症その他の病気 にかかり、医師の診察を受けていますか」の「その他の病気」に該当するのでしょうが、その項目はもっと重い病気を書く欄というイメージなので違和感があります。
 上記のことがあってから、予診票の意義と問題点を再考してみる必要性を感じ、今回のテーマとしました。

<参考>
・プレドニゾロン=プレドニン®
・ 「ステロイドの力価の換算
・ 「経口ステロイド薬の種類、用量換算」(研修医.com)

本日の内容
・予診票の各質問項目の意味を再考
・想定外の回答の場合の対処法
・予診票比較「日本 vs 米国」

 本日の内容です。
 予診票の各質問項目の意味を再考し、想定外の回答であった場合の対処法を考察してみました。
 すると、結構「建前的」な項目があることを発見しました。
 では、アメリカの予診票はどうなっているんだろう、と疑問に思い比較してみました。
 すると、双方の予防接種に対するスタンスが垣間見えてきました。

参考にした資料
①「予防接種ガイドライン」2014年版(GL):予防接種ガイドライン等検討委員会監修、予防接種リサーチセンター発行
②「わかりやすい予防接種」改訂第5版、2014年:渡辺博著、診断と治療社
③「予防接種Q&A」改訂第3版、2013年:小児内科2013年45巻増刊号、東京医学社
④「予防接種のキホン」2015年:庵原俊昭/寺田喜平編著、中外医学社、2015年
⑤「Red Book」(※)

 参考にした資料を提示します。
 上記の他に「小児の臓器移植および免疫不全状態における 予防接種ガイドライン 2014」という本も読みたかったのですが、現時点で品切れにつき入手できませんでした。
 なお、以降のスライドの文章の引用資料を( )内に記しました。①のガイドラインのみ(GL)と記載しました。

※ Red Book:米国小児科学会により編集された小児感染症の手引き

日米の予診票のひな形
・日本:様式第二・・・乳幼児・小学生対象の一般の定期予防接種用
・米国:「Screening Checklist for Contraindications to Vaccines for Children and Teens」(CDC)
〜日本と米国の予診票比較し、以降のスライドで、アメリカの予診票にもある項目は「有」、無い項目は「無」と表示

 日本の予診票は「様式第二」をひな形とし、各市町村がそれをアレンジして使用しています。

※ ちなみに「様式第一」は予防接種台帳、様式第三はHPVワクチン用(保護者同伴/既婚者)、様式第四はHPVワクチン用(保護者同伴なし)です。

 米国の予診票はCDC(Center for Disease Control and Prevention)のHPで閲覧&ダウンロード可能です。
 以降のスライドで、米国の予診票にもある項目は「有」、無い項目は「無」と表示しました。

予診票の目的
「接種不適当者」と「接種要注意者」を抽出する

 予診票の目的は、ワクチンを接種してはいけない「接種不適当者」と、ワクチンを接種してよいが注意して行う「接種要注意者」を見つけることです。
 以前は「予防接種禁忌」と表現されていましたが、現在の表現に変更されました。かえってわかりづらいと感じるのは私だけでしょうか。

■ 「予防接種不適当者」
1.発熱(37.5℃以上)
2.重篤な急性疾患に罹患中
3.ワクチン成分によるアナフィラキシー既往
4.妊娠(風疹・麻疹ワクチン)
5.ケロイド体質(BCG)
6.その他

 まず「予防接種不適当者」6項目を提示します。
 ザッと目を通してみると、3と4はわかるのですが、1と2は「こういう理由だからダメ」と即答しにくく、また5は時代遅れという印象です。

1.明らかな発熱を呈している者
 ここでは、「明らかな発熱」とは37.5℃以上を意味します(私が医者になった頃は37.0℃でした)。
 37.5℃以上の発熱があるときは、感染徴候が認められたり、保護者が不安を訴える場合は延期します(資料②)。
 考えてみますと、予防接種目的で受診したという時点で、保護者は「元気だから接種に来た」というスタンスです。つまり親の目から見て風邪気味であっても重症感は乏しいということ。
 この状態でも微熱があるという理由だけで「不適当者」とするのは“紛れ込み事例対策”とか“建前”の要素が大きいものと私は感じます。

※ 米国では軽い病気に罹っている子どもではワクチン接種時に38℃(100.4°F)以上の発熱があっても、また発熱が無くても、獲得する免疫には変わりがなく、副反応が増強することもないので、発熱自体が予防接種の禁忌ではないとし、積極的なワクチン接種をすすめています(Red Book)。

2.重篤な急性疾患に罹っていることが明らかな者
 髄膜炎/敗血症/腎盂腎炎、川崎病、急性糸球体腎炎などの重篤な急性疾患に罹患している場合は、ふつう入院治療中なので接種対象として来院しません。逆に急性疾患でも「軽症」ならこの規定から外れることになり発熱のないかぜ症候群は接種不適当者にならないことになります(資料②)。

 しかし、1と2はまことにアバウトな表現であり混乱のもとになります。悪い意味で“日本的”ですね。

3.当該疾患に係る予防接種の成分によって、アナフィラキシーを呈したことが明らかな者
 これは当然危険です。
 なお、予防接種によるアナフィラキシーの報告は年間10件程度で、アナフィラキシーの発生頻度は数百万接種に1例程度だそうです(資料③)。

4.麻疹及び風疹に係る予防接種の対象者にあっては、妊娠していることが明らかな者
 妊婦への生ワクチンは胎児に影響が出る可能性(先天性風疹症候群、先天性水痘症候群など)が否定できないので、日米共に禁忌です。ただし、風疹ワクチン接種妊婦から先天性風疹症候群の児が生まれたという報告はないと聞いたことがあります。

 ではメカニズムとして“感染させない”不活化ワクチンはどうでしょうか。
 日本のGLには「不活化ワクチン、トキソイドの接種が胎児に影響を与える確証はないため、これらは予防接種を受けることが適当でない者の範囲には含められていない」とわかりづらい表現で許可されています。
 しかし実際には、ワクチンの添付文書に「妊娠中の接種に関する安全性は確立していない」と記載されており、妊婦または妊娠している可能性のある女性には予防接種による有益性が危険性を上回ると判断される場合のみに接種することとされています。

※ インフルエンザHAワクチンの添付文書より;
「6. 妊婦、産婦、授乳婦等への接種
 妊娠中の接種に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。」

 一方の米国では、基本的に妊婦に対する不活化ワクチンの接種制限はありません。季節性インフルエンザワクチン接種は、CDCではいずれの妊娠時期においても自然流産や疾患の重篤化を防ぐ目的で接種すべきであるとしています(資料③)。

5.BCG接種の対象者にあっては、外傷等によるケロイドの認められる者
 昔は(私が子どもの頃は)小学校1年生時にツベルクリン反応の再検査があり、陰性者にはBCGを追加接種していました。この文章はその時代の名残だと思われます。
 現在、BCG接種の定期接種は1歳未満が対象となっており、その年齢でケロイド体質が判明することはほとんどありません。

米国の「ワクチン接種禁忌」
1.ワクチン成分に対するアナフィラキシー既往
2.妊婦への生ワクチン
3.免疫不全者への生ワクチン

 一方、米国の「ワクチン接種禁忌」事項は単純明快で、「安全性低下・健康被害の危険」のみであり、日本のように「なぜなんだろう?」という疑問がわく項目はありません。
 3の「免疫不全者への生ワクチン」は日本にはない項目です。
 ワクチンは免疫反応を利用して病気に対する抗体を作らせることにより病気を予防する医療ですが、免疫不全状態では、弱毒化されたワクチン株でも、症状を伴って発症する危険が出てくるので、生ワクチンを接種するのは危険です。

「接種要注意者」
1.心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患を有する者
2.予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた者及び全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者
3.過去にけいれんの既往のある者
4.過去に免疫不全の診断がされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がいる者
5.接種しようとする接種液の成分に対してアレルギーを呈する恐れのある者
6.結核の予防接種にあっては、過去に結核患者との長期の接触がある者そのたの結核感染の疑いのある者

 次は「接種要注意者」6項目です。
 「要注意者」とは予防接種をする際に何らかの注意が必要となる基礎疾患ないしは既往がある人、です。
 各項目を見ると、なぜか「接種不適当者」よりもこちらの方が具体的でわかりやすいですね。
 米国では「禁忌」項目であった免疫不全が、日本では接種要注意者に入っていまるのが不思議です。
 各項目は、予診票のところで説明します。

※ 参考:「接種要注意者への予防接種」渡辺博先生(ラジオNIKKEI:2014.4.21日)

<各質問項目を読み直してみよう>

 各質問事項を「接種禁忌とどう繋がるのか?」「本当に必要な項目なのか?」と疑う視点から分類を試みました。

■ 「接種できない理由」を分類してみると・・・
 ① 危険(安全性低下)・・・ 副反応のリスク
 ② やり損(有効性低下)・・・ 免疫がつかない
 ③ その他 ・・・ 漠然とした内容で説明しにくい(建前?紛れ込み事例対策?)

 「接種できない理由」という視点から、私の独断で以下の3つに分けて考えてみると・・・

① ワクチンの安全性低下。これは健康被害の危険があるということ。
② ワクチンの有効性低下。これは接種しても免疫がつかない、“やり損”になるかもしれないということ。
③ その他。主に「紛れ込み事例対策」という印象があるもの。

 予診票の各項目がこれらの理由のどれに当てはまるのか、考えてみました。
 配布した予診票「様式第二」の質問項目に番号を振りましたので、是非、みなさんも考えてみてください。
 では、本題に入りましょう。

1.今日受ける予防接種について市町村から配られている説明書を読みましたか(無)
→ 「予防接種と子どもの健康」のこと。
・日本語を読めない外国人対策は? → 翻訳したものがネットからDL可能
 全文は5カ国語 ・・・英語・韓国語・中国語・タガログ語・ポルトガル語
 予診票は9カ国語 ・・・(上記+)アラビア語・イタリア語・インドネシア語・スペイン語・タイ語・ドイツ語・フランス語・モンゴル語・ロシア語


 質問1は「説明書を読んだことを確認」する内容です。
 来院するみなさんは例外なく○を付けてきますが、ほんとに読んでいるのでしょうか?
 さらに、最近多くなってきた外国人の方々も読んで理解しているのでしょうか?
 当院ではミャンマーやパキスタン、バングラディッシュの方も来院されますが、彼らの母国語は、上記の対応する言語に含まれていません。
 これに関しては検証されたデータを目にしたことがなく、建前という印象が拭えません。

質問1に対する私の評価は

2.あなたのお子さんの発育歴についておたずねします(無)
→ 分娩時/出生後/乳児検診での異常の有無を確認
・診断確定例は主治医の指示に従う
 ・・・発達遅延疑いで経過観察中だが診断名がついていない例が悩ましい
・紛れ込み事例を最小限にする目的(GL)

 質問2は「発達歴の異常」の確認です。分娩時/出生後/乳児検診での異常の有無を確認します。
 これは紛れ込み事例対策であることをGLが明記しています。
 診断が確定されている場合は主治医に指示に従うことになるので単純ですが、「乳児検診で発達遅延が疑われたが経過観察中で診断名がついていない」例は悩ましいですね。
 そのようなときは、検査・follow可能な総合病院へ紹介することも選択肢だと思います。

※ 重症心身障害児の予防接種(構成労働科学研究事業、ハイリスク児・者に対する接種基準と副反応に関する研究班、2003年→ 予防接種ガイドライン等検討委員会:予防接種ガイドライン・2005年改変):
4)乳幼児の発達障害で、原因が特定されていない例では、接種後、けいれんの出現や症状の増悪を認めた場合、予防接種との因果関係を巡って、混乱を生じる可能性があるので、事前に保護者への十分な説明と同意が必要である。

質問2に対する私の評価は

早産児への予防接種
→ 早産児(在胎37週以前に出生)、低出生体重児(出生体重が2500g未満)への予防接種の原則は正期産児と同じ
・接種量、接種時期は変わらない(暦年齢を適用)
・シナジス®前後で間隔を開ける必要はない

 質問2の関連事項として「早産児への予防接種」を取りあげます。
 早産児に対する予防接種では、在胎週数を反映させるのか(修正年齢)、出生後の月齢(暦年齢)を採用するのか、が問題になります。
 結論として、暦年齢を適用することになっています。
 また、身体が小さいから接種量を減らすべきか?という疑問に対しては、早産児でも正期産児と同じ量を接種することになっています。
 理由は、早産児の免疫力は弱い傾向があるので、減量すると免疫がつかない可能性が否定できないためです。

※ 極低出生体重児や在胎29週未満の早産児では、一部のワクチン抗原に対して免疫応答の減弱が指摘され、有効性の明確なエビデンスがないものもあるが、大部分のワクチンは規定回数の接種により感染予防に十分な防御抗体を獲得するとされている(資料④)。

RSウイルス感染予防に用いる、シナジス®(抗RSウイルス ヒト化モノクローナル抗体)は、他のウイルス抗体を含まないので、予防接種に影響はありません。

3.今日体に具合の悪いところがありますか(有)
→ 病気の種類により、医師が接種の可否を判断(GL)
★「発熱の有無にかかわらず、軽症疾患罹患時に予防接種をしても、副反応は増加せず、ワクチン効果は減弱しない」(Red Book)

 質問3は「接種当日の体の具合」についてです。
 これもファジーな質問です。風邪症状があるときにどう考えるべきか? 
 日本のガイドラインには明記されていません。医師の裁量に任せる、となっています。
 資料③には「急性期にある中等症・重症感染症からの回復を待つのは、ワクチンによる反応を原疾患の症状と勘違いしたり、原疾患による症状をワクチンによる副反応であると誤って解釈してしまうことを防ぐことになる」とあり、紛れ込み対策であると開き直って説明されています。
 繰り返しになりますが、米国の Red Book には「明らかな発熱がない軽症感染症であればワクチン接種は禁忌とはならない。発熱の有無にかかわらず、軽症疾患罹患時に、不活化ワクチンまたは生ワクチンを接種しても、副反応は増加せず、ワクチン効果は減弱しないことが多くの研究によって示されている。」とあります。
 この文章がすべてを物語っていると思います。

質問3に対する私の評価は

風邪の(希だけど重症な)合併症
・脳炎・脳症:発症してから数時間~数日後
・急性散在性脳脊髄炎(ADEM):感染してから数日~4週後
・急性心筋炎:発症してから、数日後(1~2週間後との記載も)

 質問3関連事項です。
 「まれな風邪の合併症の紛れ込み」という地雷があることを忘れてはいけません。
 小児科医をしていると、10年に1例くらいの頻度で、突然死例に出会います。元気だった子どもが、急に具合が悪くなり、あっという間に亡くなってしまうのです。原因がわからないこともありますが、ウイルス感染症(いわゆる“かぜ”)の合併症と診断されることもあります。
 重篤な合併症を提示しました。
 風邪の急性期だけでなく、回復期にも発症することがあります。もし、そのタイミングで予防接種に来院されたらどうでしょう。
 接種後に急変し診断がはっきりしない場合は、予防接種のせいにされ、接種医の責任が問われることになってしまいます。
 そのような事態に陥らないためにも、
・予診を尽くし
・診察をして記録に残して「接種不適当者」ではなかったという根拠を示し
・「接種後30分様子観察」
という“石橋をたたく”措置が必要とされていると私は理解しています。

風邪の合併症としての脳炎・脳症がワクチンの副反応に紛れ込む可能性
・日本では自然感染による脳炎・脳症が年間1000例発症
  0-2歳児では年間150例(これがもしワクチン接種後にたまたま発症したら?)
・ワクチン関連例の報告(接種後28日以内)
  DTaP(1件/2867万接種)
  麻疹(2件/421万)
  風疹(1件/460万)
  おたふく(1件/203万)
  MR(2.5件/100万)

 日本では自然感染による脳炎・脳症が全年齢では年間約1000例発症するそうです。原因がはっきりしている例もあれば、不明の場合もあります。
 予防接種の機会が多い、0〜2歳では年間約150例。
 もし発症がワクチン接種後28日以内だったら、そして原因となる病原体が検出されなかったら、ワクチンの副反応を疑うことになります。実際に、ワクチン関連例の報告では上記の通りですが、これが本当にワクチンの副反応なのか、紛れ込みなのかは誰にもわかりません。
 この際、同時接種と単独接種ではどちらが有利・不利でしょうか?
 毎月のように接種する必要がある単独接種では「常に接種後28日以内」ですから、確率は増えると考えられます。

※ 数字は、厚労省予防接種後副反応報告書による。「予防接種との因果関係の有無に関係なく予防接種後に健康状況の変化をきたした症例を集計したもの」であり、なかにはワクチンとは無関係なウイルスが分離された報告例もあって、予防接種の副反応による脳炎・脳症はさらに少数になると考えられる(資料③)。

4.最近1カ月以内に病気にかかりましたか(無)
・麻疹/風疹/水痘/おたふくかぜ → 開ける間隔:治癒後2~4週間(GL)
・突発性発疹/手足口病/伝染性紅斑 → 開ける間隔:治癒後1~2週間(GL) ・・・しかし「治癒判定基準」がない!

 質問4は「1ヶ月以内に病気に罹ったかどうかの確認」です。
 ウイルス血症をきたす発疹性感染症では一過性に免疫力が低下することが知られています。
 免疫力低下状態にワクチンを接種しても、免疫がつかない可能性があります。
 つまり、「やり損」ですね。
 それを避けるために、特定の感染症罹患後には接種間隔を開けることがGLに明記されています。
 ただし、突発性発疹/手足口病/伝染性紅斑(リンゴ病)は明確な「治癒判定基準」がないので悩ましいですね。

※ 「疾患罹患後1ヶ月以内に接種を行った場合に有害事象が発生しやすいといったことはこれまで確認されていない。疾患罹患後に予防接種による免疫の“つき”が実際に悪くなるかどうかについては確証はなく疑問もあり、この規定はあまり厳格なものではない。」(資料②)。

質問4に対する私の評価は

5.1カ月以内に家族や遊び仲間に麻しん、風しん、水痘、おたふくかぜなどの病気の方がいましたか(無)
→ 感染症の潜伏期にワクチンを接種するとどうなるか? 
・ワクチンと同じ感染症なら、発症予防/軽症化/やり損の3パターン
・ワクチンと違う感染症なら、有効性低下(干渉作用)
★ ワクチンの副反応と誤らないようにするため(GL)

 質問5は「家族や友だちの病気」に関してです。
 これも悩ましい質問です。感染症の潜伏期にワクチンを打つとどうなるか?
 GLで単に「紛れ込み対策」と記されていますが、色々なパターンが想定されます。

・接種するワクチンが流行中の感染症と同じものを対象としている場合は?
→ 感染症が発症した場合はワクチンが無駄になる。
→ しかし有害な問題が引き起こされることはない。

・接種するワクチンが流行中の感染症とは無関係な場合は?
→ 「干渉作用」で無駄になる可能性が否定できない。
→ 有害な問題が引き起こされることはない。

※ 米国小児科学会は感染症の潜伏期を理由としてワクチン接種を延期するのは誤った禁忌事項に含め、ワクチンを接種している。一方、日本では安全性を重視し、すべての種類のワクチン接種を延期する傾向にある(資料③)。

 それから、“友達”をどの範囲まで考えるか、という問題も悩ましい。
 仲がよくていつも一緒に居る友達なら感染している可能性が大でしょう、
 では同じクラスで流行しているレベルでは?
 圓の他のクラスで流行しているレベルでは?
 ・・・正解はありません。あったら誰か教えてください。

(例)もし仲のよい友達が水痘だったら?
・水痘の潜伏期に接種すると・・・
 水痘ワクチン接種 → 発症予防/軽症化/やり損
 おたふくワクチン → やり損の可能性
・生/不活化ともに有害事象のリスクは増えない

 では「仲のよい友だちが水痘だったら」と仮定してみましょう。
 既に感染して潜伏期状態にあり、その時に○○○ワクチンを接種をすると・・・
・水痘ワクチンを接種した場合、接触からの時間経過で72時間以内なら発症予防、それ以降ならやり損というパターンが考えられ
ます。
・おたふくかぜワクチンを接種した場合、ウイルスの干渉作用により免疫がつかない可能性(干渉作用)があります。
しかし、いずれにしても副反応/有害事象のリスクは増えず、そのような心配は必要ありません。

質問5に対する私の評価は

6.生まれてから今までに家族など身のまわりに結核にかかった方がいましたか(無)
・結核菌感染者にBCGを接種するとコッホ現象が出現
・BCG接種により結核感染が悪化することはない(資料④)

 質問6は「結核患者との接触歴」を確認する項目で、BCGに特化した内容です。
 読んだ資料の中に、結核感染している場合の安全性低下・有効率低下を示す文章はみつかりませんでした。
 この項目は、結核感染の可能性があれば、BCG接種より診断を優先するという意味以上の理由が見いだせません。
 これは結核患者発生時の健診をしっかり行っていれば必要ない質問ではないでしょうか?

質問6に対する私の評価は

※ 「コッホ現象」と「コッホもどき」の鑑別(資料③);
・初期の針痕部変化(発赤・膨隆・痂皮など)がきわめて強い場合はコッホ現象の可能性大、逆に針痕部ほ発赤が翌日には消失する場合は単なる局所の刺激による反応である可能性が高い。
・最初に見られた針痕部反応が明瞭に持続して、「正常の針痕部反応」と区別できない場合には感染が疑わしい。逆に初期の針痕部変化が1〜2週間でほぼ消失し、または明らかに軽度となり、その後「正常の針痕部反応」が出現すれば、結核感染が起こっている可能性はむしろ少ない。

7.1カ月以内に予防接種を受けましたか(有)
→ ワクチンを続けて接種したい場合、一定期間、接種間隔を開ける必要がある
・異なる種類のワクチン接種間隔:生ワクチンは27日/不活化は6日以上
・同じ種類のワクチンの接種間隔:各々設定期間あり
 ← 間隔が規定より短いとワクチンの効果が不十分となる可能性あり

 質問7は「1ヶ月以内の予防接種の有無」を確認する内容です。
 同時接種以外ではワクチンの接種間隔を一定のルールで開ける必要があります。
 異なる種類のワクチンの場合、生では27日、不活化では6日以上間隔を開けます。
 米国では、注射での生ワクチン同士の接種間隔は4週間以上あけるように規定されていますが、不活化ワクチンに関しては規定がありません。不活化ワクチンの接種間隔を開けるのは世界的に見ると「日本のローカル・ルール」です。
 一方、同じワクチンの接種間隔は、各々のワクチンで設定されており、これより短い間隔で接種すると免疫効果が不十分になる可能性があります。接種間隔が規定から外れた場合、長いよりも短い方が問題で免疫がつきにくいのです。

※ 日本における破傷風関連ワクチンやポリオ・ワクチンの最短接種間隔は3週間という設定があるが、これは海外では一切認められない。2回目は初回接種の28日目以降にすべきである(資料③)。

質問7に対する私の評価は

異なる種類の接種間隔:生ワクチン
・生ワクチン接種後は4週間開ける ・・・干渉作用(体内に入ったワクチン病原体による生体の反応が次に打つワクチンに対する免疫反応を邪魔する)を避けるため
★ 米国ではこのルールのみ!

 質問7関連事項として、ワクチンの接種間隔をもう少し詳しく解説します。
 混乱を避けるために、
・ワクチンが同じ種類か異なる種類か
・生ワクチンか不活化ワクチンか
 で整理する必要があります。

 まずは「異なる種類の接種間隔:生ワクチン」です。
 種類の異なる生ワクチン同士は4週間開けることになっています。
 これは「干渉作用」(体内に入ったワクチンの病原体による生体の反応が次に打つワクチンに対する免疫反応を邪魔する)を避けるためと説明されています。
 米国ではこのルールしか存在せず、以降は日本のローカル・ルール(日本の常識は世界の非常識!)に過ぎません。

異なる種類の接種間隔:不活化ワクチン
・生きた病原体は入らないので「干渉」の可能性はなく、接種間隔を開ける必要なし
・日本では「念のため」1週間開けている
 もし誤って1週間以内に次のワクチンが接種されても、ワクチンの効果に影響はない

 次は「異なる種類の接種間隔:不活化ワクチン」です。
 種類の異なる不活化ワクチン同士は、日本では1週間開けることになっています。
 しかし、その理由は不明です。
 生ワクチンのような「干渉作用」は不活化ワクチンでは理論的に起こりません。
 米国ではこのようなルールは存在せず、日本のローカル・ルールと云わざるを得ません。
 つまり、日本は「紛れ込み事例を避けるため」に念のため1週間開けているのです。
 もし誤って1週間開けずに別のワクチンを接種しても、ワクチンの効果に影響はないとされています。

同じ種類の接種間隔:不活化ワクチン
・1期:初回3-4週開けて2-3回 
 1回の接種では免疫記憶の確立を達成できるが、感染予防に必要なレベルの抗体獲得に至らず
 接種間隔を遵守(短いと免疫不十分の可能性)
・追加接種:4-12ヶ月後追加 
 1期だけでは数年で免疫が弱くなる
 追加接種により有効な免疫が5-10年に延びる

 今度は「同じ種類」のワクチンの接種間隔についてです。
 まずは不活化ワクチン(例:ヒブ、肺炎球菌、四種混合など)。

 最初に2〜3回、まとめ打ちをします。これを「1期」と呼んでいます。
 1回で免疫記憶は確立できますが、感染予防に必要なレベルの抗体獲得に至らず、これを達成するために複数回の接種が必要になります。
 接種間隔も重要です。各ワクチンに規定されている間隔を守ってください。もし、規定間隔より短くなると、免疫が不十分になる可能性があります。一方、規定間隔より長くなっても、回数がしっかりしてあれば、問題ありません。

 「1期」終了後に4〜12ヶ月開けて「追加接種」をします。
 1期だけでは数年で免疫が弱くなるためです。追加接種をすると、有効な免疫が5〜10年間確保できます。

 ん? 10年でまた弱くなる?
 すると、10年ごとに一生接種する必要があるのでは?という素朴な疑問が生まれますよね。
 実は、その通り。
 ただ、現実はそこまで手が回らず、小児期だけで終了してしまっているだけなんです。
 おそらく遠くない将来に社会問題化することが予想されます。

同じ種類の接種間隔:生ワクチン
・自然免疫に近いため当初免疫は一生続くと考えられたが、約5年で弱くなることが判明し、2回接種が標準に
・接種間隔はワクチンにより異なる

 最後に「同じ種類」の「生ワクチン」同士の接種間隔です。
 生ワクチンが開発された当初は、生ワクチンの効果は一生続くと考えられていました。
 しかし、ワクチン接種後10年以上経過した人に、感染し発症する例が出てきました。
 つまり、生ワクチン(弱毒化したウイルス)は自然感染と同じレベルの強い免疫を造れないことが判明したのです。
 その後、生ワクチンも2回接種が標準となり、現在に至ります。

 2回接種の間隔は、そのワクチンの有効率により規定が異なります。

 例えば、MRワクチンは1歳と年長児(5〜6歳)ですね。
 MRワクチンは有効率が95%と優秀ですが、一度ついた免疫は5〜10年で弱くなります(二次ワクチン不全:secondary vaccine failure)。
 以上より5年間隔が採用されました。

 一方、水痘ワクチンのように3ヶ月間隔で接種が推奨されるものもあります。
 水痘ワクチンは有効率が約80%とMRワクチンの95%より低い(一次ワクチン不全:primary vaccine failure)ので、MRワクチンのように1回接種後5年開けると2〜3割の子どもが実際に罹ってしまい、これでは流行が制圧できません。
 以上より短い間隔で接種して有効率を上げようという目的が優先されているのです。

2014年に Lancet に掲載された論文では、水痘ワクチン1回接種で65%、2回接種で95%の有効率

8.生まれてから今までに先天性異常、心臓、腎臓、肝臓、脳神経、免疫不全症その他の病気 にかかり、医師の診察を受けていますか(有)
・・・先天性異常、心臓、腎臓、肝臓、脳神経、免疫不全症、その他の病気
・継続治療を受けている場合は、原則としてその疾患に主治医から当該予防接種の実施に対する意見書又は診断書をもらってくるよう指導する(GL)
・主治医から「接種可能」との許可が出ても、病気の内容によっては専門医や予防接種センターへ紹介すべし(GL)。

 質問8は「生まれてから今までに罹った病気」に関する内容です。
 先天性異常、心臓、腎臓、肝臓、脳神経、免疫不全症、その他の病気の有無を確認します。病気の種類は多岐にわたるので、詳細は省略します(GLの「予防接種要注意者の考え方」p78~85 参照)。
 GLには、もし病気があって継続治療を受けている場合は、原則として主治医から予防接種の実施に対する意見書又は診断書を書いてもらうよう指導すると記されています。
 各疾患の説明は省かせていただきます。GLの「予防接種要注意者の考え方」を御参照ください。

質問8に対する私の評価は

慢性疾患のある子どもの予防接種
・小児科学会各専門分科会が見解を公表したものが、予防接種ガイドライン等検討委員会によりまとめられている。
・基本的に主治医の指示による接種

 質問8関連事項です。こちらも予防接種GLを御参照ください。

<GLより>
・心臓血管系疾患を有するもの:日本小児循環器学会の見解(2013年)
・腎臓疾患を有するもの:日本小児腎臓病学会の見解(2013年)
・悪性腫瘍を有するもの:日本小児血液・がん学会の見解(2013年)
・HIV感染者:日本小児感染症学会の見解(2013年)
・重症心身障害児(者):日本小児神経学会の推薦(2003/2005年)
・生物学的製剤使用者:日本小児リウマチ学会の見解(2013年)
・過去にけいれん/てんかんの既往のある者:日本小児神経学会の見解(2013年)
・過去に免疫不全の診断がなされている者:日本小児感染症学会の見解(2013年)

(自験例)肛門周囲膿瘍で小児外科通院中の乳児が予防接種の相談で来院
・反復するので十全大補湯内服中
★ 難治性肛門周囲膿瘍→ 免疫不全はないか?
 ・・・免疫不全症の種類によっては生ワクチン禁忌(1歳未満の生ワクチンはBCG)

 質問8の「免疫不全症」関連で、私自身が経験したエピソードを紹介します。
 肛門周囲膿瘍で小児外科通院中の乳児がBCG接種を希望されて相談に見えました。反復するので漢方薬の十全大補湯を内服中とのこと。
 小児科医は難治性肛門周囲膿瘍をみると免疫不全を疑うクセがあります。免疫不全症の種類によっては「生ワクチン禁忌」になるからです。しかし、外科系の先生にはそのような感覚はない様子で、小児外科学会の「肛門周囲膿瘍・乳児痔瘻」の項目にも免疫不全の文字は見当たりません。
 この患者さんは、改めて小児科に免疫不全のスクリーニング検査をしていただくよう紹介状を書きました。

慢性肉芽腫症 ・・・食細胞機能異常症(活性酸素産生酵素欠損)
・乳児期の肛門周囲膿瘍をきっかけに発見されることがある
BCG接種→ リンパ節炎、骨炎、全身播種
・対策:新生児免疫不全症スクリーニング導入

 小児科医が乳児の反復性/難治性肛門周囲膿瘍を見たとき、まず連想するのは食細胞機能異常症である慢性肉芽腫症です(ほかにもあります↓)。
 生ワクチンであるBCGを接種すると、リンパ節炎、骨炎、全身播種など重篤な副反応が発生する可能性があります。
 しかし、肛門周囲膿瘍を全例検査することは困難です。
 対策として外国の一部では「新生児免疫不全症スクリーニング」が導入されており、日本でも検討していただきたいと思いま
す。

※ 肛門周囲膿瘍の乳児全例で検査(好中球殺菌能、遺伝子検査など)をすることは困難である。肛門周囲膿瘍が陳旧性で増悪傾向がないこと、ほかに皮膚膿瘍が発生していないこと、家族歴をよくとって慢性肉芽腫症の人がいないか確認の上で接種し、その後の経過をよく観察する(資料③)。

BCG接種が問題となる免疫不全症
・T細胞免疫不全
・SCID(重症複合性免疫不全症)、DiGeorge症候群、Wiscott-Aldrich症候群、Ataxia Telangiectasia 等
・MSMD(メンデル遺伝型マイコバクテリア易感染症候群)
・CGD(慢性肉芽腫症)

 ついでに、原発性免疫不全症候群情報サイト「e-免疫.com」に掲載されている「原発性免疫不全症を疑う10の徴候」を引用しておきます。

原発性免疫不全症を疑う10の徴候(厚労省原発性免疫不全症候群調査研究班2010)
1.乳児で感染症反復し発育不良を伴う
2.1年に2回以上肺炎罹患
3.気管支拡張症発症
4.2回以上深部感染症に罹患
5.抗菌薬無効の感染症が2ヶ月以上遷延
6.重症副鼻腔炎を反復
7.1年に4回以上中耳炎罹患
8.1歳以降に真菌感染症遷延
9.BCGによる重症副反応など
10.原発性免疫不全症を疑う家族歴

 この中で注目すべきは「9.BCGによる重症副反応」です。
 BCG接種後の副反応が免疫不全発見のきっかけになるということ。
 できれば避けたい事態ですね。
 そのためにも、難治性肛門周囲膿瘍や皮下膿瘍を診た場合、積極的に鑑別診断しておく意義はあると思います。
 ラジオNIKKEIの「感染症TODAY」に「免疫不全症候群患者への予防接種」(九州大学周産期・小児医学教授:高田英俊先生)という小文を見つけました。その中に以下のような文章があります;
「特に強調したい点としましては。乳幼児期に難治性の鵞口瘡や気道感染症、慢性の下痢、難治性の肛門周囲膿瘍などが認められた場合には注意が必要であるという点です。そのような症状がある場合、重症複合免疫不全症や慢性肉芽腫症などの可能性があり、BCGなど生ワクチン接種によって重症感染症が起こる可能性がありますので、ワクチン接種を延期し、免疫能のチェックを専門施設に依頼する必要があります。」
 また、「国内での原発性免疫不全症候群の疾患名の内訳と頻度」「原発性免疫不全症候群患者への予防接種計画の原則」という表があり参考になります;

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 基本的に「細胞性免疫不全では生ワクチン禁忌、液性免疫不全ではすべてのワクチンが無効」です。
 診断されても、各患者さんの免疫力の程度によりアレンジが必要とされ、高次医療機関での診療が望ましいと思われます。

 それから、厚生労働省作成の「患者・家族のための原発性免疫不全症候群疾患概説書」から、役立ちそうな「表1:病原微生物と感染防御機構」「表2:病原体からみた免疫異常」も引用しておきます;

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外科手術と予防接種
・麻酔や手術の際には一過性に免疫力低下
・全身麻酔下の手術前後の予防接種は(資料③)
(手術前)生は3週間、不活化は2日間控える
(手術後)生/不活化ともに1週間あける

 GLの項目にはありませんが、「外科手術」も避けて通れない問題なので、質問8の関連事項としてここで触れておきます。

(術前)

 従来の基準では、
・生ワクチン接種後は4週間
・不活化ワクチン接種後は2週間
 開けてからの全身麻酔が一般的でした。
 しかし、最近の文献では全身麻酔の免疫系への影響はわずかで一過性であることが判明し、スライドの基準に変更されました(香川哲郎:予防接種、感染症と小児の麻酔.Anesthesia 21 Century 10:17-20, 2008)。

(術後)

 従来の基準では、
・全身麻酔後は小手術で2週間
・侵襲の大きい手術で4週間
 経てからでした。

 なお、予防接種を最近受けた小児の全身麻酔のリスクは通常小児と変わりはないとされています(資料③)。

「その他の病気」にも地雷あり!
→ 患者さんは記載しないことがあるので注意
(例1)皮膚科で湿疹の治療を受けている例は? …ステロイド薬内服例を経験
(例2)耳鼻科で中耳炎/副鼻腔炎の治療を受けている例は? …抗生物質連用による「低カルニチン血症

 質問8関連事項です。
 皮膚科でステロイド内服薬を処方されていた例は最初に紹介しました。この場合、ワクチンの効果が減弱して「やり損」になる可能性があります。
 もうひとつ、抗生物質連用による低カルニチン血症を取りあげておきます。近年認知されるようになった疾患で、ピボキシル基を有する抗生物質(フロモックス、メイアクト、トミロン、オラペネムなど)の連用により低血糖、意識障害、けいれん、脳症を発症し重症例では後遺症が残ります。
 もし、この疾患が紛れ込んだとき(予防接種後に発症し診断がはっきりしない場合)はワクチンの副反応にされてしまう可能性が否定できません。
 耳鼻科で抗生物質を長期連用している例は、主治医からの許可があっても「治療が終了してからにしましょう」と私は延期することがあります。

※ 「ピボキシル基を有する抗菌薬投与による 小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について」(2012年4月:PMDA)

9.ひきつけ(けいれん)をおこしたことがありますか(有)
・熱性けいれん(無):単純型なら2-3ヶ月開けて接種可、複雑型なら主治医と相談(GL)
・無熱性けいれん(有):主治医と相談(GL)

 質問9は「けいれんの既往」についての内容です。
 私が小児科医になった四半世紀前は、熱性けいれんを起こすと1年間は予防接種ができませんでした。
 その後、6ヶ月に短縮し、現在の2〜3ヶ月まで短くなりました。
 単純型と複合型熱性けいれんにおいて、とくに予防接種基準を変える必要はありません。ただし、長時間けいれん(15分以上)の既往者は慎重に対応する必要があります。
 ポイントは「発熱でけいれん発作が誘発されるかどうか」であり、危険な場合はダイアップ坐剤の使用を考慮することになりま
す。
 けいれん既往例に対するワクチン接種のリスクについての報告は、接種後の発熱に際してのけいれん誘発(例:乳児重症ミオクロニーてんかん/Dravet症候群)にほぼ限定されます。無熱性発作であるてんかんの場合、その発作頻度にかかわらず、予防接種後に発作が誘発されるとのエビデンスはありません(資料③)。
 最終発作から2〜3ヶ月の経過観察期間とは、初回発作でほかの疾患との鑑別を要する場合や、頻回に繰り返す熱性けいれんの場合を想定して、目安として設定されたものです(資料③)。

質問9に対する私の評価は

10.薬や食品で皮膚に発疹やじんましんが出たり、体の具合が悪くなったことがありますか(有)
→ アレルギーの原因となるワクチン成分と同じものか確認が必要
・鶏卵:インフルエンザ、黄熱
・チメロサール: 不活化ワクチン
・一部の抗生物質(カナマイシン/エリスロマイシン): 生ワクチン
★ ワクチンに含まれる成分と関係ないものは心配ない(GL)

 質問10は「薬や食品によるじんま疹の既往」を確認する内容です。
 アレルギーの原因となるワクチン成分には、鶏卵、チメロサール、抗生物質(カナマイシン/エリスロマイシン)などがあります。
 この成分と共通する薬や食品によるじんま疹の既往がある場合に、注意が必要であり、その症状の程度によっては接種中止することになります。
 それ以外の原因によるじんま疹は、接種に問題ありません。

インフルエンザ予防接種GLの記載の変遷(資料④);
(以前)「鶏卵摂取で強い即時型反応の既往がある場合や、主治医や家族の不安が強いときなどには、皮内テストを考慮する」
(2014年版)「鶏卵アレルギーのため、鶏卵完全除去中や鶏卵摂取後にアナフィラキシーを起こした病歴がある児など、摂取可否の判断が困難な症例の場合は専門施設へ紹介する。」

チメロサールについて
 エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム(チメロサール)はメチル水銀とは異なり神経毒性は低く、体内半減期もメチル水銀の1ヶ月(以上)よりかなり短い(1週間未満)。殺菌作用があることから1930年頃よりワクチンの細菌汚染防止目的で防腐剤として世界的に使用されてきた。2000年頃にチメロサールと自閉症との関連が問題視されたことがあったが、現在因果関係は否定されている。

チメロサールを巡るジレンマ
 チメロサール(エチル水銀)を含むワクチンは四種混合(DPT-IPV)、DT、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチンのそれぞれ一部です(2014年3月時点)。
 チメロサールなしのワクチンは個別包装化や無菌包装化の必要性から単価の上昇を招き、特に発展途上国での接種にコスト面から障害となることが問題視され、2012年にWHOよりワクチンに含まれるチメロサールの安全性を見直す声明が出されました(全世界の子どもたちに大切なワクチン接種を行きわたらせるためには、チメロサールは現在なくてはならない保存剤という位置づけ)。

質問10に対する私の評価は

鶏卵アレルギーの取り扱い
・鶏卵使用:インフルエンザ、黄熱ワクチン → アナフィラキシーのリスクがある例は接種しないか、皮内反応後に接種
・ニワトリ胚培養細胞使用:麻疹、MR、おたふくかぜワクチン → 皮内反応なしに接種してよい(資料②)

 質問10関連事項です。よく話題になる卵アレルギーの取り扱いについて説明します。
 以前は「卵アレルギーはインフルエンザ/麻疹/おたふくかぜワクチンは禁忌」とされていましたが、最近事情が変わってきました。
 ワクチンの製造過程で鶏卵そのものを使用しているのはインフルエンザと黄熱ワクチンのみです。MR、おたふくかぜワクチンは鶏卵そのものではなくニワトリ胚培養細胞が使われています。
 資料④(p59)によると、

・卵アレルギー児がワクチンによってアナフィラキシーを起こすオボアルブミンの投与量は600〜700ng以上
・日本のMRワクチンやムンプス・ワクチンに含まれるオボアルブミン濃度は1ng/mL以下
・インフルエンザワクチンに含まれる濃度は1ng/mL程度

であり、理論上、卵アレルギー児に日本のMR/ムンプス/インフルエンザワクチンを接種してもアナフィラキシーは誘発されない、と記されています。
 しかし現実的には、アナフィラキシーの既往がある、あるいは危険がある例では、接種しないか専門施設へ紹介すべきでしょう。

“アレルギー体質”は危険?
・危険なのは「ワクチン成分にアレルギー反応を起こすこと」であり、病名ではない
・アレルギー疾患(※)があっても病名だけで中止する理由にはならない
(*)喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症など
★ 接種要注意者は「接種後30分は院内で様子を見る」を遵守すべし

 質問10関連事項です。
 GLでは以下の規定あり;
(接種不適当者)接種液の成分によってアナフィラキシーを呈したことが明らかな者
(接種要注意者)接種液の成分に対してアレルギーを呈するおそれのある者
 重篤なアレルギー反応の病歴がある場合は、上記をチェックする必要がありますが、必ずしも重症喘息やアトピー性皮膚炎および食物アレルギーがハイリスクというわけではありません。

 資料③には「ワクチン接種により喘息発作が誘発される根拠はないが、偶発的な発作の紛れ込みを避けるために、発作後2〜4週間経ってから接種するのが無難である」と記されています。

※ 小児期のアレルギー疾患有病率は、乳児期のアトピー性皮膚炎、食物アレルギーで約10%、幼児期の喘息では5〜15%とされています(資料④)。

アレルギー疾患の家族歴
・あくまでも「接種される本人がワクチン成分に反応する例」を除外するのみ
・家族にアレルギー疾患を有する人がいる場合でも、それだけで予防接種を避ける理由にはならない。

(質問10関連)では、アレルギー疾患の家族歴のある場合はどうでしょうか。
 繰り返しになりますが、あくまでも「接種する本人がワクチン成分にアレルギー反応を起こす例」のみが問題です。
 家族にアレルギー疾患を有する人がいる場合でも、それだけで予防接種を避ける理由にはなりません。現在国民の3~4割がスギ花粉症という時代ですから、アレルギー疾患のない家族を見つける方が難しくなっています。 
 もし、この質問項目を採用するなら、例えば「花粉症のある親から生まれた子どもの何%が卵でアナフィラキシーを起こす」というデータを示していただきたい。
 そのデータがないと説明できませんので。

11.近親者に先天性免疫不全と診断されている方はいますか(無)
→ 近親者に免疫不全がいる場合、どうしたらよいのか?

 質問11は「近親者の免疫不全症」の有無の確認です。
 近親者に免疫不全がいる場合、どうしたらよいのか、どこにも答えは書いてありませんでした。
 私がそのような事例に遭遇したら・・・まず、先天性免疫不全症を疑う四徴(感染症の反復・重症化・遷延・日和見感染)のエピソードがあるかどうかを確認し、疑わしい場合や家族の不安が強い場合は遺伝相談を扱う大病院小児科を紹介すると思います。
 予防接種の予診時間ではとても解決できません。

質問11に対する私の評価は

12.これまでに予防接種を受けて具合が悪くなったことはありますか(有)
・エピソードのあったワクチンと当該ワクチン成分(添加物を含む)の共通性を確認(GL)
・同じワクチンなら、軽微な副反応(一過性発熱や局所反応)は接種禁忌には該当しない

 質問12は「予防接種による副反応の既往」の確認です。
 接種後2日以内の発熱や接種後の全身性の発疹出現といった副反応はワクチン毎に一定の頻度でみられますが、ワクチン接種後の発熱や発疹といった副反応が接種毎に繰り返し出現する、増強するといった報告はこれまでみられていません。

※ 以前のGLでは「以前に予防接種による副反応の既往があれば、同じワクチンは中止または減量する」という指示が記載されていました。改定された現在のガイドラインではこの指示は削除されています。アナフィラキシーを除く予防接種後の副反応既往者に対する接種は「注意しながら接種する」というスタンスでよいと考えられ、減量接種の根拠もなくなり、行うべきでありません(資料②)。

 つまり、アナフィラキシーの既往以外は注意して接種することになります。

質問12に対する私の評価は

13.近親者に予防接種を受けて具合が悪くなった人はいますか(無)
・体質が似ているので注意(GL)
・この項目だけ「異常あり」で他は何もない場合は、接種を中止する理由にならない(資料②)

 質問13は「近親者の予防接種副反応」の有無の確認です。
 この質問に「はい」という回答があったとき、どうすればよいのでしょうか?
 繰り返しになりますが、あくまでも「接種される本人がワクチン成分に反応する例」を除外するのみ。
 GLは「体質が似ているので注意」と漠然と不安を煽っているだけで、市販医薬品のCMでよく聞く「アレルギー体質の方はご注意ください」と同じレベルです。
 この項目、ホントに必要なのでしょうか?

質問13に対する私の評価は

14.6カ月以内に輸血あるいはガンマグロブリンの注射を受けましたか(有)
・生ワクチンの効果を減弱させる可能性あり(不活化ワクチンには影響しない)
・生ワクチンの中でもロタワクチンとBCGは影響なし

 質問14は「6ヶ月以内の輸血、ガンマグロブリン製剤の投与」の確認です。
 血液/ガンマグロブリンにはウイルスに対する免疫抗体が含まれており、ワクチン抗原が中和されてしまう可能性があります。
 ただし、局所での増殖が重要なロタウイルス・ワクチンとBCGは影響がなく、接種を遅らせる必要はありません。
 また、不活化ワクチンには影響しないので、接種間隔を開ける必要はありません。

□ 輸血およびガンマグロブリン投与が予防接種に影響を与える期間
・輸血または通常量のガンマグロブリン投与後3ヶ月
・ガンマグロブリン大量療法後6ヶ月 ・・・ 川崎病特発性血小板減少性紫斑病など
★ 予防接種後2週間以内のガンマグロブリン治療

 質問13の関連事項です。
 輸血およびガンマグロブリン投与が予防接種に影響を与える期間を説明します。
・(洗浄赤血球を除く)輸血、または通常量のガンマグロブリン投与後は3ヶ月
・川崎病や特発性血小板減少性紫斑病など、ガンマグロブリン大量療法後は6ヶ月(ガンマグロブリン1600~2000mgIgG/kgでは
11ヶ月)種種までの間隔を開ける必要があります。
 また、予防接種後2週間以内にガンマグロブリン治療を行った場合はワクチンの効果が得られないことがあるので、投与後3ヶ月以上経過してから同じワクチンを再接種することが望ましいとされています。
 ガンマグロブリンの使用に関しては、保護者が治療内容を正確に把握していなかったり、名前を忘れたりしていることもしばしばあるので、具体的に病名を挙げて「川崎病/血小板減少性紫斑病に罹ったことがありますか?」と聞くことが大切です。

※ 米国のルールでは、水痘の予防接種は輸血から5ヶ月以内は控える(Red Book)とされています。

質問14に対する私の評価は

15.今日の予防接種について質問がありますか(無)

 質問15は「今日の予防接種について質問」です。
 数年前に同時接種後の死亡例が社会問題になった際は相談が多くて繰り返し説明しましたが、最近はめっきり少なくなりました。

質問15に対する私の評価は

欄外項目

サイン
「保護者に対して、予防接種の効果、副反応及び予防接種健康被害救済制度について、説明をしました」
「予防接種の効果や目的、重篤な副反応の可能性、予防接種健康被害救済制度などについて理解した上で、 接種することに同意します」

 私は、予防接種外来で一人一人に「予防接種の効果」「副反応」「予防接種健康被害救済制度」について説明をしていません。すべてを説明しているとひとりに数十分かかってしまい、予防接種が進みません。
 質問1の「配付資料を読みました」と質問15の「質問はありません」が確認できれば、「読んで理解している」と見なしています。
 こんな経験があります。
 外国人の方が予防接種外来を受診し、予診/診察に問題なく予定通り接種しました。終了後にお父さんから「今日はなんの注射をしたんですか?」と聞かれ唖然とする私・・・。
 この項目にもしっかりサインがされているのに、まったく理解されていないという現実。サインさせるだけでは理解度が測れません。
 理解しているかどうかのミニテストを作った方が効果的ではないか、とさえ感じました。

■ ワクチンの接種方法
・米国では「生は皮下注、不活化は筋注」 ・・・ 効果と局所副反応を考慮
・日本では「すべて皮下注」 ・・・ 前回接種で局所反応が出現した場合、次回からの接種は、なるべく皮下深く接種(GL)
・例外的にHPVワクチンは日米ともに筋注

 日本では1970年代に発生した「大腿四頭筋拘縮症訴訟」後、筋肉注射を一切止めてしまいました。
 しかし、家族が現場で注射する「エピペン®」は筋肉注射をさせているという不条理さ。

 アジュバントを含む不活化ワクチン(四種混合など)は、局所反応が避けられません。
 しかし、これは筋肉注射へ変更するだけで一気に解決されます。
 日本で世界標準の注射方法が採用されるのは、いつになるやら・・・。

皮下注 vs 筋注(資料②)
・免疫に関係する樹状細胞やマクロファージ、各種リンパ球が豊富に存在するのは血流が盛んな筋組織で、ここへの接種で最も効率よく免疫系を刺激できる。

■ ワクチンの接種量
・加齢により増量:日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン
・加齢により減量:DTワクチン
★ 予約時と接種時で年齢が変わって接種量が変化する場合に注意

 加齢による接種量を増やすワクチン、逆に接種量を減らすワクチンがありますのでご注意ください。
 特に、予約時点と接種時で年齢が変わるときに間違う傾向があります。

□ 接種後の一般的注意
・副反応の出現に注意 …接種後28日間(BCGは3~4ヶ月)
・入浴は可 …以前はダメだった(1994年改正)
・過度な運動、深酒は避ける …避ける期間は「接種後24時間」、理由は③

 過度な運動、深酒を避ける理由はあるのでしょうか?
 資料によると、運動や深酒自体で体調が変化する恐れがあるためとされ、言い換えれば何か体調の変化が起こった場合、それが予防接種が原因か、過激な運動などが原因か判別できなくなる恐れがあるため、と記されていました。
 これも明らかに「紛れ込み対策」ですね。

まとめ

■ 予診票の質問項目分析結果(日本15 米国12)
① 危険 ・・・ 4(9)
② 無効 ・・・ 6(4)
③ 建前 ・・・ 5(0)
( )は米国

 各質問項目を、私が独断で「①危険/②無効/③建前」に分類した結果です(重複あり)。
 日本の15項目のうち、①4/②6/③5
 米国の12項目のうち、①9/②4/③0
 と、両国のスタンスが浮かび上がって興味深い結果となりました。
 ふだんの印象通り、日本では真の接種禁忌を直接問う質問項目より、建前/紛れ込み事例対策の質問がやたら多いのです。

■ 日本の予診票に「有」 米国の予診票に「無」
・発育歴
・1ヶ月以内の本人の病気、家族/友人の病気
家族/近親者の結核
近親者の免疫不全
近親者の予防接種副反応

 日本の予診票にあって、米国の予診票にない項目を抜き出してみました。
 色つき文字にした本人以外の家族/友人/近親者に関する質問が多いことが明らかで、これが「捉えどころがない、どう対応してよいのかわからない」の原因になっていると思います。
 もしこれらの質問項目に問題があっても、直接接種禁忌に繋がるというより、それを考えるきっかけになるレベルの事象です。
 採用するなら、GLに問題発生時の解決フローチャートを記載していただきたいですね。

■ 米国の予診票に「有」 日本の予診票に「無」
具体的な病名や薬を提示;
・がん/白血病/HIV・AIDS、ステロイド/抗がん剤/放射線治療、妊娠
・2-4歳時の喘鳴/喘息歴(←経鼻Fluワクチン対策)
・乳児の腸重積(←ロタウイルスワクチン対策)

 逆に日本の予診票になくて、米国の予診票にある項目を抜き出してみました。
 米国では、具体的な事象を挙げて、それに対応するワクチンも示されており、リスクを排除する目的が明らかでわかりやすいです。

<予診票の問題点のまとめ>
1.外国人対策が不十分
2.建前の質問項目が多い
3.軽症疾患でほかに通院していることを書き込む項目がない。

 私が感じた予診票の問題点のまとめです。

1.増加する外国人への対策が不十分

 言葉がうまく伝わらない例は、トラブルの元です。また、外国と日本を行き来する子どものスケジュールも今後問題になると思われます。

2.建前の質問項目が多い

 本日の内容そのものです。禁忌事項と直接結びつかない質問に関しては根拠を示していただきたい。それができないなら削除してもよいのではないでしょうか。

3.軽症疾患で他に通院していることを書き込む項目がない。

 「現在、医療機関に通院し診療・投薬を受けていますか?」という項目が必要です。

■ 日本小児科学会は何しているの?
過去に発表された提言・要望書
・同時接種の必要性(2011年)
・不活化ワクチンを筋肉内注射へ(2011年)
・異なるワクチンの接種間隔変更(2012年)

 さて、予診票の質問項目を検討する中で、「日本の常識は世界の非常識」状態を実感できたと思います。
 この状況を小児科専門医の集まりである日本小児科学会はどう捉えているのでしょうか?
 実は、上記のように政府に対して改善を求めた提言/要望書を繰り返し提出してきました。

日本小児科学会の提言・要望書
2011年1月19日「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方」
2011年6月16日「不活化ワクチンの筋肉内注射の添付文書への記載の変更について」
2012年9月19日「異なるワクチンの接種間隔変更に関する要望書」
2014年1月14日「予防接種の接種間隔指針作成に関する要望書」
2014年1月14日「予防接種の接種方法等の指針作成要望」

 しかし、政府は知らんぷり。
 メディアも予防接種事故は大々的に報道して扇動するのに、よいことは取りあげてくれません。
 残念ですが、これが日本という国と国民のスタンスです。

(2014年) “ワクチン拒否”を考える

プロローグ

メディアの影響も手伝い、ワクチンに不安や疑問を持つ保護者が増えています。
また、公然と「ワクチン反対」を唱える医師もいます。
出発点の「子どもの健康を願う気持ち」は同じなのに、どこですれ違うのかを私なりに考えてみました。

ワクチン反対の理由

ワクチン拒否にもさまざまなレベルがあると思います。私の独断と偏見により、説得しにくい順に4つに分けてみました。

1.子どもの体に異物を入れたくない。
2.ゼロリスクシンドローム(「副反応ゼロ」という理想のワクチンを求める)。
3.「自然」に感染することが最善の選択。
4.知識不足による漠然とした不安を持つ。

私の印象として、1と2は説得困難、3と4は正確な情報提供と啓蒙により説得可能ではないかと思われます。

ワクチン vs 自然感染

ワクチンの是非は自然感染と比較して決めることになります。
両者を天秤にかけると理解しやすいかもしれません。
その感染症の重症度が高く、そしてワクチンの有効率が高く、副反応が少ないなら採用、
感染症が軽症で、ワクチンの有効率が低く、副反応が強いなら不採用、と単純ですね。

しかし現実には、誤った情報、偏った情報があふれて客観的な判断が難しくなっています。
平和で医療が発達した日本に住む我々は、自然感染の脅威を過去のものとして忘れがちです。
一方で、メディアの報道の影響もありワクチンの有効性より副反応に目が向きがちです。
このような、客観性を欠いた知識・情報の偏りを矯正すれば、“ワクチン拒否”にある程度対応可能と思われます。

ワクチン反対派の根っこ

ワクチン反対派の本を何冊か読んでみました。
すると“ワクチン拒否”問題の根っこ(あるいは本質)が浮かび上がってきました。

予防接種とは健康な子どもの体にワクチンという医薬品を投与する行為です。
しかし副作用ゼロの医薬品はありません。
「子どものためを思って接種するのに、子どもを傷つけてしまう可能性がある」「まじめに接種してバカを見た」というジレンマを避けることができないのです。
これを解決し説得する方法が、果たしてあるのでしょうか。

ワクチンの短所を知る

長所は省略します(レクチャーではしっかり話しました・・・)。
ワクチンの短所も知る必要があります。以下の3点が挙げられます。

1,免疫が自然感染より弱い。

 接種しても有効率100%は期待できず、感染・発症する例があります。
 また、免疫が長期間続かないことが近年明らかになり、追加接種の必要性が問題になっています。

2.副反応をゼロにできない。

 これは医薬品の宿命です。

3.全員には接種できない。

 年齢による接種対象外や病気による接種不適当者が存在します。

こう並べてみると、なんだかワクチンの有り難みが感じられなくなりそう(苦笑)。

自然感染をワクチンに例えてみると?

視点を変えて、自然感染をワクチンに例えてみると、どうなるでしょう。
ワクチンは免疫システムに反応を起こさせるメカニズムゆえ、有効性が高いほど副反応も強い傾向があります。
副反応が弱い安全なワクチンは、有効性も低くなりがちです。副反応ゼロのワクチンは、有効率もゼロです。
そして有効率100%を求めると、副反応もさらに強くなります。自然感染はこの頂点に位置づけられる「最強&最悪のワクチン」に例えられます。
副反応が心配でワクチンを拒否する人が、一番副反応の強い「自然感染」を選択していることは、皮肉としか言いようがありません。

近年話題のワクチン副反応

現在の日本のような平和な時代に求められるのは、効果より安全性です。
感染症の流行で多数の死者が出る時代は去り、病気の怖さよりもワクチンの副反応が問題視されるようになりました。近年話題になった事として、

・生ポリオワクチンによるVAPP(ワクチン関連麻痺)
・HPV(子宮頸がん)ワクチンによるCRPS(複合性局所疼痛症候群)
・日本脳炎ワクチンによるADEM(急性散在性脳脊髄炎)

が挙げられます。これらについて最近の情報をお示しします。
この3つの中で、ポリオ・ワクチンによるVAPPは因果関係がはっきりしていますが、他の二つ(HPVワクチンによるCRPSと日本脳炎ワクチンによるADEM)は限りなく白に近いグレーだと私は捉えています。

生ポリオワクチンによるVAPP(ワクチン関連麻痺)

まず、日本における生ポリオワクチンの評価の変遷について知っておいていただきたいと思います。
日本では1960年にポリオが流行した際(ポリオ・パニック・・・患者数5606人、死亡数317人)、不活化ワクチンを導入したものの流行拡大を止められませんでした。ポリオを罹患した子どもの母親が「有効な生ワクチンを導入せずにポリオ患者が出るのは人災ではないのですか」と政府関係者に詰め寄る映像が目に焼き付いています。
その後、ソ連とカナダから生ワクチンを緊急輸入し流行は制圧されました。
その50年後、今度は生ワクチンによるVAPPが社会問題化し、「生ワクチンによるVAPP被害は人災」と糾弾されるに至りました。
ポリオ生ワクチンは50年の時を経て、日本国民から真逆の評価を経験したことになります。

2014年5月(まさに今月)、WHOがポリオ感染拡大に関して緊急事態を宣言しました(2009年の新型インフルエンザ以来)。
これは、従来のポリオ常在3カ国に加え、2014年に感染例が他の国からも報告されて合計10カ国となり、危機感を募らせた結果発令されたものです。
グローバル化された現代、いつ日本にもポリオが空輸されてもおかしくありません。その時、不活化ワクチンで対応できるのでしょうか。
50年前のようなポリオ・パニックが再現され、生ワクチンが復権することになるのでしょうか。

HPV(子宮頸がん)ワクチンによるCRPS(複合性局所疼痛症候群)

HPVワクチンによるCRPSは現在も議論中で結論は出ていません。
最近の情報として、統計学的データとしてHPVワクチン接種後のCRPS発生率は自然発生率より低いことが報告されています。HPVワクチンを導入以降、CRPSの発生数は増えていないのです(つまり統計学的には「関係ない」と判断可能)。
WHOも、他の国でも問題視していません。

日本脳炎ワクチンによるADEM(急性散在性脳脊髄炎)

日本脳炎ワクチンによるADEMについては、旧ワクチンと新ワクチンで、発生率に差が無くかつ自然発生率と差がないことが報告されています。
言い換えれば、日本脳炎ワクチンを打っても打たなくてもADEM発生数は変わりません(同じく統計学的には「関係ない」と判断可能)。
ワクチン反対派の本には、なんと「新ワクチンは旧ワクチンよりもっと危ない」と書かれていました。

取り残される“免疫弱者”

一方、ワクチンを受けたくても受けられない人たちがいます。
日本の医療現場で問題になっているのはこれらの「免疫弱者」です。その人達は常に感染症の危険に怯える生活を強いられます。

□ 胎児

本人が希望してもワクチンを接種できません(CRSは昨年話したので省略)。

□ 免疫不全状態

病気あるいはその治療で免疫不全状態に陥っている子どもたちは、生ワクチンを接種することができません。例えば白血病で闘病中の子どもが水痘に罹ると重症化して命に関わります。これは水痘のところで触れます。

□ 年齢

定期予防接種には接種対象期間が決められています。しかし、子どもは接種対象期間前から感染症に狙われています。一例として乳児の百日咳についてお話しします。

乳児の百日咳

3ヶ月未満の赤ちゃんが百日咳に罹ると重症化し、無呼吸発作・チアノーゼを起こして命に関わることがあります。
しかし、皆さんご存じの通り百日咳ワクチン(DPT-IPVのP)の定期接種は生後3ヶ月以降に始まります。一番ハイリスクの時期に間に合いません。
一方、近年大人の百日咳が社会問題化しています。慢性咳嗽の3割が百日咳という報告もあります。
生まれた赤ちゃんのお祝いに来た大人から感染する可能性があるのです。
米国ではこれを問題視し、大人用の3種混合ワクチン(Tdap)を導入して、妊娠30週前後の妊婦にTdapを接種する試みもされています。日本では、現時点で無策です。

「基本再生産数」「集団免疫(率)」を理解しよう

ワクチンを受けられない免疫弱者を守るためには「集団免疫」という考え方が必要です。
簡単に言うと「みんなでワクチンを受ければその感染症が流行しなくなるので、接種したくてもできない免疫弱者も守ることができる」ということです。
ワクチン反対本を読んでみて、“ワクチン拒否”する人たちにはこの視点が欠けているのではないかと感じました。

ここで、「基本再生産数」と「集団免疫率」という統計学用語を紹介します。
「基本再生産数」とは感染力の指標で、患者一人が何人に感染させるかを表す数字です。
この「基本再生産数」から「集団免疫率」、つまり「その地域から流行を排除できるワクチン接種率」が計算式で算出されます。
この数字を達成して維持することにより、免疫弱者を守ることが可能になります。
例えば水痘では、その集団の90%以上がワクチンを接種すれば、接種できない免疫弱者をも守ることができるという意味です。

<参考>
感染予防対策(埼玉県立小児医療センター感染免疫・アレルギー科:川野豊先生のスライド)

保護者からの質問に答える

保護者の方からよくうける質問に対する回答例を紹介します(あくまでも一例として)。
まず「できれば受けたくない」という不安に関する質問です。

Q. うちの子は元気だから受けなくてもよいのでは?

A. 重症化のリスクはワクチンより自然感染の方が高く、ふだん元気だからといって重症化しない保証は何もありません。感染症に罹ることは被害者になることですが、同時に加害者になることを認識すべきです。

Q. その病気に罹りたくない人だけ受ければよいのでは?

A. ワクチンの効果は100%なら罹りたくない人だけ受ければよいことになりますが、そのようなワクチンはありません。罹ってしまうと人にうつしてしまうことも考えてください。

Q. 感染症が少なくなっているので受ける必要がないのでは?

A. 少なくなっても消えたわけではありません。地球上から消滅した感染症は天然痘だけです。

★ 「ワクチン拒否は子どもの将来に影響する」事実も知っておいていただきたいと思います。
・海外生活や留学する際の足かせになります。
 国によってはワクチン接種証明書の提出を求められ、例えばアメリカでは規定の予防接種を受けていないと入学・進級できません。
・将来の就職先が制限されます。
 ワクチンを接種しない人は罹患して感染源になるリスクが高く、社会的責任を放棄しているという意味で医療・福祉関係、教育関係の仕事に就けない可能性があります。

次の不安は「予防接種の効果」についてです。

Q. 予防接種を打っても病気に罹るんでしょう?

A. 確かにワクチンの有効率は100%ではありません。しかし、罹っても軽くすみます。

Q. 予防接種の効果は何年くらいもつんですか?

A. 確かに終生免疫は得られません。導入当初は一生有効と考えられていた生ワクチンも5-10年で効果が減弱することがわかってきました。しかし、追加接種で維持可能です。これは全てのワクチンに当てはまることなので、今後の課題でもあります。

次は「予防接種の副反応」に対する不安です。

Q. 同時接種しても大丈夫ですか?

A. 同時接種は世界中で行われており、億の単位の子どもたちが受けていますが、それによる問題は発生していません。WHOやCDCも認めている方法であり、日本小児科学会も2011年に「同時接種によりワクチンの有効性、副反応の頻度に差は発生せず、本数に原則制限はない」と見解を出しています。
ヒブと肺炎球菌ワクチン同時接種再開後の調査でも、乳児死亡率の増加は認められていません。

Q. ワクチンは「劇薬」に指定されているってホント?

A. ワクチンは確かに薬事法で「劇薬」に指定されている医薬品です。
・「劇薬」とは薬事法で定められている規格で、一言で云うと「有効域と中毒域が近い薬物」です(急性毒性における致死量LD50が体重1kgあたり300mg以下、皮下注射で200mg以下)。ふつうの量で使用している限り、他の薬物と比較して危険なわけではありません。

※ 実は身近に「劇薬」は存在します。例えば小児にもっとも安全な解熱剤とされるアセトアミノフェン(商品名:アンヒバ坐薬、カロナール、コカール)も剤型によっては劇薬に指定されています。それからサリチルアミド。PL顆粒やLLシロップは複数の劇薬が含まれている総合感冒薬です。

Q. うちの子はアレルギー体質なので心配です。

A. 単なる、漠然とした「アレルギー体質」は問題ありません。そのワクチンの成分(例えば、MRワクチンの場合は卵)に対するアレルギーがある人は要注意であり対応が必要です。

Q. 肺炎球菌ワクチンは発熱の副反応が多いと聞いたけど・・・

A. 確かに30-50%と他のワクチンと比較して高い傾向がありますが、ほとんど一過性で重篤なのもではありません。
プレベナー13の添付文書から引用すると、37.5℃以上の発熱率は、1回目の32.9%から4回目の50.7%まで、回数を重ねると頻度は高くなる傾向にありますが、同じ子どもとは限りません。
また、発熱した子どもが回数を重ねる度に重症化しやすくなるというデータもないそうです(メーカーに確認済み)。
三種混合(DPT)と同時接種をしても、発熱頻度はほとんど変わりません。

エピローグ

私が考えた“ワクチン拒否”の理由4つを再掲します;

1. 子どもの体に異物を入れたくない
2. ゼロリスクシンドローム
3. 自然感染が最善の選択
4. 知識不足による漠然とした不安

最初に「1と2は説得困難、3と4は正確な情報提供と啓蒙により説得可能」とお話ししました。
今日の話を聞いて、皆さんはどこまで説得できそうですか。
1は宗教的な理由の場合もあるのでやはり困難と思われますが、2になんとか食い込めないかと頭をひねりました。

するとやはりこの壁にぶつかります。
「子どものためを思って接種するのに子どもを傷つけてしまう可能性がある」
これを正面突破するアイディアがありましたら、ぜひ教えていただきたいです。
私には無理そうなので、天秤にかけての相対的な価値判断に逃げたいと思います。

天秤にかける一方は副反応被害者。
もう一方は自然感染の犠牲者のはずでしたが、現在の日本ではむしろ免疫弱者の方が説得力があると判断し変えました。

ワクチンを接種すれば、一定の副反応被害者が発生します。
ワクチンを接種しなければ免疫弱者が犠牲になります。

どちらを重視すべきなのか? 正解はあるのか?
これは時代により、社会環境により判断が異なることなのかもしれません。

しかし道筋はあります。予防接種の目的を再確認してみましょう。
以下のように4つのステップに分けられます。

1. 接種した個人を守る
2. 接種した集団を守る
3. 集団を守ることにより感染症の流行を阻止し接種できない免疫弱者を守る
4. 感染症を地球上から根絶する

1の「個人を守る」から始まり、最終目標は4の「感染症根絶」です。
ちなみに、根絶に成功した感染症は今のところ天然痘だけです。
4という大きな目標を達成するためには、1の「個人を守る」にとどまることなく、2と3へ進む必要があります。
集団免疫は避けて通れない道なのです。
つまり、先のスライドの天秤の正解は、副反応被害者を救済しつつ、勇気を持って「免疫弱者を守る集団免疫」を選択することではないか、というのが私の結論です。

(2013年)「風疹流行」を読み解く

 この1年間に話題となった予防接種関連問題を取りあげ、その問題点を皆さんと一緒に考えていこうと思います。

■ 本日の内容
1.過去の副反応(?)その後:
・日本脳炎ワクチンによるADEM(アデム)
・肺炎球菌/ヒブワクチン同時接種の危険性
2.今、話題の副反応:
・HPVワクチンによる複合局所疼痛症候群(CRPS)
・日本脳炎ワクチン接種後死亡問題
3.風疹流行を読み解く

 本日の内容です。
 まず「過去の副反応その後」として日本脳炎ワクチンによるアデム問題、肺炎球菌/ヒブワクチン同時接種の危険性は現在どうなっているのかを説明します。
 次に「今話題の副反応」として、HPVワクチンによる複合性局所疼痛症候群(略してCRPS)と、昨年秋に発生した日本脳炎ワクチン接種後死亡問題を取りあげ、最後に現在進行形の風疹流行について解説します。

■ 用語解説:「有害事象」と「副反応」

有害事象と副反応.png

 その前に、この二つの用語の違いを知っておいていただきたいと思います。
 「有害事象」とはワクチン接種後の全ての健康被害を意味します。一方、「副反応」とは有害事象の中でワクチンと因果関係があるものを指します。因果とは、原因と結果という意味です。
 つまり、有害事象を大きな円で表現すると、副反応はその中のほんの一部ということになります。

日本脳炎ワクチンとADEM(アデム)

■ 日本脳炎ワクチンによるADEM ~ 新ワクチンになって減ったのか?
・2005年、日本脳炎ワクチン接種後に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の発症が相次いだことで、厚労省は接種の積極的勧奨を差し控えた。
・製造法を変更(マウス脳→ 細胞培養)した新ワクチンの登場を待って2010年に勧奨を再開。
・ADEMの頻度;
 旧ワクチン:70万~200万回に1例
 新ワクチン:131万回に1例(11例の報告あり)

 2005年、日本脳炎ワクチン接種後に急性散在性脳脊髄炎(略してアデム)の発生が相次いだことで、厚労省は接種の積極的勧奨を差し控えました。
 その後製造方法を変更した新ワクチンの登場を待って2010年に勧奨を再開しました。
 さて、アデムの頻度は新ワクチンに変更後に減ったのでしょうか。統計によると、旧ワクチンでは70~200万回に1例、新ワクチンでは131万回に1例の頻度と、発生率は変わっていません。
 しかし、マスコミは全く取りあげません。不思議です。

同時接種

■ 同時接種の危険性、その後
・2011.3.24、厚生労働省医薬品等安全対策部会安全対策調査会、子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会が「小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンの安全性の評価結果について」報告。
・「ワクチン同時接種と死亡との間に、直接的な明確な因果関係は認められない」と結論づけた。
・当地域では予防接種を扱う医療機関の約40%が同時接種を施行(2012年6月のアンケート)。

 こちらも話題になった「同時接種の危険性」はその後どうなっているのでしょう。
 2011.3.24にスライドのような長い名前の厚労省の検討会が最終報告を提出し「ワクチン同時接種と死亡との間に、直接的な明確な因果関係は認められない」と結論づけました。それ以降も、この判断をくつがえすような報告はありません。
 なお、昨年のアンケート調査によると、当地域で予防接種を扱う医療機関の約40%が同時接種を行っています。

HPVワクチンの副反応

■ HPVワクチンによる副反応のまとめ(厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会)
・2010年11月~2013年3月の統計 …・接種者(サーバリックス+ガーダシル):328万人
・副反応:総数 1196件(0.036%)、うち重篤例 106件(0.003%) ・・・ 疼痛、筋力低下など
・評価:症状が多岐にわたることや接種から発症までにかかる時間が症例によって大きく異なるなどの理由から、医学的データが不足しており早急に情報収集が必要。
・この時点での判断:定期接種は中止せず

 次に、今話題になっているワクチンの副反応を取り上げます。まず、HPVワクチンから。
 5月に開催された厚労省の検討部会によると、統計を取り始めてから1000件を超える副反応(0.036%)が報告され、うち約100件(0.003%)が重篤例でした。
 しかし症状と発症までの時間が一定ではなく副反応と認定するには医学的データが不足しており、この時点では定期接種を中止するほどの根拠がないと判断されました。

■ HPVワクチン接種後の「失神」
症状:顔面蒼白、血圧低下と徐脈、意識消失他
 接種後5分以内に約52%、15分以内に約70%
 発生頻度:約10万人に6人(0.006%)。
病態:痛み、恐怖、興奮などに引き続く血管迷走神経反射(ワクチン成分は関係ない)
要注意対象:10歳以上(とくに女性)、注射への恐怖心が強い人、起立性調節障害を有する人

 HPVワクチンの副反応として以前は「失神」が有名でした。
 症状は皆さんご存じの通りなので省略します。
 その病態は痛み、恐怖、興奮などに引き続く血管迷走神経反射であり、ワクチン成分とは関係がありません。
 注目すべきは「要注意対象」です。10歳以上(特に女性)、注射への恐怖心が強い人、起立性調節障害を有する人、とあり、受ける側の素因があって初めて発症するということを認識していただきたいと思います。

■ 14歳女子中学生の副反応例
中学1年の時にサーバリックスを接種;
 接種後左腕の腫脹、疼痛、しびれがあり、その他、左肩、左足、右腕、右足にも疼痛が間欠的に生じた。
 夜間には肩から肩甲骨、指先まで痛みが広がり、疼痛のため歩行困難となった。
医療機関に入院し「複合局所疼痛症候群」(CRPS:complex regional pain syndrome)と診断された。
退院後も脚のしびれで車椅子を使う状態が続き、しばらく通学できなかった。
 現在は通学を再開したが関節痛と頭痛は続いている。

 次にCRPSについて。
 スライドは現在話題になっている事例です。
 女児は中学1年の時にサーバリックスを接種後、接種した部位の主徴・疼痛・しびれだけでなく、その他の部位の疼痛が出現し、夜になると更に広がり疼痛のために歩行困難となりました。
 医療機関に入院し「複合性局所疼痛症候群」(略してCRPS)と診断されました。 現在も症状は残り、不自由な生活を余儀なくされています。

■ 複合性局所疼痛症候群(CRPS: complex regional pain syndrome)
概念
 外傷・骨折・注射針などによる組織損傷後に、その原因の程度とは不釣り合いな強い痛みが長期にわたって持続する慢性疼痛症候群。
 つまりワクチン成分が原因ではない!
 浮腫、皮膚血流変化、発汗異常のいずれかを伴う。
頻度
 献血では1/50万人(0.0002%)
 HPVワクチン接種後は830万接種中3例(0.000036%)

 さて、このCRPSとは何でしょうか。実は私も初耳でした。
 調べたところ、その概念は「外傷・骨折・注射針などによる組織損傷後に、その原因の程度とは不釣り合いな強い痛みが長期にわたって持続する慢性疼痛症候群で、浮腫、皮膚血流変化、発汗異常のいずれかを伴う」とありました。
 つまりワクチン成分が原因ではないのです。
 頻度は献血では50万人に1人(0.0002%)、HPVワクチン接種後は830万接種中3例
※(=276万回に1回)(0.000036%)と献血より低い頻度です。
※ 2013年4月9日日本産婦人科医会「子宮頸がん予防ワクチン(HPV ワクチン)副反応報道について」より

■ 2013年5月時点での見解
・日本産婦人科医会「子宮頸がん予防ワクチン副反応報道について」:
 CRPSは、ワクチンの成分によって起こるものではなく、外傷、骨折、注射針などの刺激がきっかけになって発症すると考えられている。
・厚生労働省の見解:
注射針を刺すことが影響している可能性がある。中止するほどの重大な懸念はない。

 今年5月時点で、日本産婦人科医会※1、厚労省※2 が見解を発表しており、両者共に注射針による痛み刺激を問題視しています。※1)日本産婦人科医会「子宮頸がん予防ワクチン(HPV ワクチン)副反応報道について」(2013年4月9日)
※2)厚生労働省「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」(2013年5月16日)

■ CRPSの認識と対応
被害者連絡会の嘆願書より:
 自治体が勧奨行為に使用する「ご案内」、接種する医師からの説明ではまったく不十分。
 「検査で異常なく精神的なものと言われた」「匙を投げられた」「ただ親身に話を聞いて治療してくれる医師が知りたい」 等、医療機関の対応への不満。
対策:
 まず接種医師がCRPSを理解することが必要。
 HPV接種では276万回に1回、献血でも50万回に1回の頻度で起こりえることを事前に説明。
 発症した場合はペインクリニックを紹介。

 CRPSへの対応を考える前に、何が問題なのかを認識する必要があると思います。
 被害者連絡会の嘆願書を読みますと、「説明が不十分」「医療機関の対応への不満」という文言が目立ち、これは医師側の知識不足により不十分な対応が原因となり医療不信に陥っている要素の存在が読み取れます。
 対策として、まず接種医師がCRPSを理解することが必要です。加えて、HPV接種では276万回に1回、献血でも50万回に1回の頻度で起こりえることを事前に説明し、発症した場合はペインクリニックへ紹介する、などが考えられます。

■ 「失神」と「CRPS」は副反応?
・共に注射という「痛み」がきっかけで起きる。
 時間関係からみると接種後の「有害事象」であり、相関関係はある。
 しかし因果関係はない(ワクチン成分が直接の原因ではない)。
・「痛み」を理由に「ワクチンは危険」と判断されると予防接種事業のみならず医療全体が成り立たなくなる。

 さて、「失神」と「CRPS」はワクチンの副反応なのでしょうか。
 共に注射という「痛み」がきっかけで起こる現象です。時間関係からみると接種後の「有害事象」であり「相関関係」はあります。しかしワクチン成分が直接の原因ではないので原因と結果という意味での「因果関係」はありません。
 「ん?」 これらは新しいタイプの副反応と捉えて対処すべきです。
 「痛み」を理由に「ワクチンは危険」と判断されると、予防接種のみならず医療全体が成り立たなくなる可能性があります。

■ 2013.6.13 HPVワクチンに関するWHOの声明
・日本で5人報告された慢性頭痛について、HPVワクチンとの直接の証拠はないという分析結果を報告。
・世界でHPVワクチン接種が増加する中で慢性頭痛の報告はほとんどなく「現時点ではHPVワクチンを疑わしいとする理由はほとんどない」との見解を示した。

 海外ではHPVワクチンの副反応はどう捉えられているのでしょうか。
 欧米では定期接種化後5年が経過し、億を超える回数が接種されていますが、安全性への懸念により承認が取り消された国はありません。
 2013.6.13に発表されたWHOの声明でもスライドのように安全宣言を出しています。
■ WHOの公式声明「HPVワクチンに関するGACVSの安全性最新情報」の日本語訳配布について( http://smap-leap.jp/upload/00000040.pdf )

2013.6.14 HPVワクチン積極的勧奨中止

 そこに2013年6月14日、HPVワクチン積極的勧奨中止というニュースが飛び込んできました。これは、2005年の日本脳炎の時と同じ措置で「希望すれば定期接種として公費負担で可能であるが、必要かどうかは自分で判断してください」というスタンスです。
 「国は無責任」と批判する声もありますが、私は病気とワクチンについて勉強し「我が子に本当に必要なワクチンかどうか」考えるよい機会と捉えることも可能だと思います。
 皆さんはどう感じましたか?

日本脳炎ワクチン接種後死亡例問題

■ 日本脳炎ワクチン接種後 死亡した10歳男児例(2012年10月)
・事前の問診:問題なし
・ワクチン接種:児が落ち着かないため、母親と看護師が両脇から抑えた状態で行った。
・接種5分後に異変が発生
 意識がおかしいことに気づき、心停止状態を確認し心臓マッサージを開始。
 母親は広汎性発達障害として他院で投薬治療を受けていることを接種医に告げた。
・救急搬送し2時間蘇生を試みるも一度も心拍再開なし。

 次に昨年秋に発生した日本脳炎ワクチン接種後死亡事例についてお話しします。報道された内容からわかる範囲で経過をまとめました。
 まず、事前の問診では問題はありませんでした。
 ワクチン接種は児が落ち着かないため、母親と看護師が両脇から抑えた状態で行ったようです。
 接種5分後に異変が生じました。意識がおかしいことに母親が気づき、医師が心停止状態を確認して心臓マッサージを開始しました。このタイミングで、母親は児が広汎性発達障害として他院で投薬治療を受けていることを接種医に告げました(事前申告せず?)。
 その後救急搬送し2時間蘇生を試みるも一度も心拍は再開しないまま死亡しました。

■ 男児に何が起こったのか?
・アナフィラキシー・ショックは否定的?
 接種から発症までの時間が短い。
 呼吸器・消化器・皮膚など他の症状がない。
・小児であれば蘇生に反応して一度は心拍が再開する。心臓自体に問題があったとしか思えない。
・司法解剖でも原因を特定できず。
・手がかりは、児が服用していた複数の薬剤。

 男児に何が起こったのでしょうか。
 ワクチン接種後に意識を失った場合、まず疑うのがアナフィラキシーショックです。しかし、接種から発症までの時間が短すぎること、咳込みなどの呼吸器症状、嘔吐などの消化器症状、蕁麻疹などの皮膚症状が認められないことから否定的です。
 また救急専門医からは、小児であれば蘇生に反応して一度は心拍が再開することがふつうであり、心臓自体に問題があったとしか思えないとのコメントがありました。
 司法解剖でも原因を特定できませんでした。 唯一の手がかりは、児が服用していた複数の薬剤です。

■ 処方薬は「併用禁忌」だった ~向精神薬併用により不整脈のリスクが上昇~
・アリピプラゾール(エビリファイ®):抗精神病薬
 副作用(1%未満)に期外収縮やQT延長など心電図異常。
・ピモジド(オーラップ®):抗精神病薬
 SSRIとの併用禁忌。心電図異常に続く突然死も報告されているので、特にQT部分の変化があれば中止すること。
・セルトラリン(ジェイゾロフト®):抗うつ薬(SSRI)
 オーラップ投与中の患者にはQT延長を引き起こすことがあるので投与禁忌であり併用禁忌。

 男児が服用していた3つの薬剤です。 エビリファイとオーラップは副作用としてQT延長などの心電図異常と不整脈の記載があり、ジェイゾロフトはこの2剤の代謝を阻害して血中濃度を上げるため、とくにオーラップとの併用は禁忌とされています。 全ての薬剤で「QT延長」という単語が登場し、これがキーワードになりそうです。

■ QT延長症候群
定義:心電図のQT時間が延長
 Torsade de pointes(トルサード・ド・ポアンツ)という心室頻拍を生じることがあり、致死的な心室細動へ移行しやすい。
症状: 失神発作、突然死
誘因:急激な精神興奮(恐怖・立腹など)、激しい身体労作
先天性と後天性(主に薬剤性)がある

 さて、QT延長症候群とはどんな病気なのでしょう。
 心臓の再分極異常により心電図のQT時間が延長することで定義され、それにより心室頻拍や心室細動という不整脈を起こす病態です。
 症状は不整脈による失神発作や突然死です。誘因として急激な精神興奮、激しい身体労作が挙げられ、また先天性と薬剤性を含む後天性に分類されます。
 黄色文字で示した「突然死」「恐怖」「薬剤性」は男児例に見事に当てはまります。

■ ワクチン成分ではなく、痛み刺激が原因か ~国立成育医療研究センター名誉総長、加藤達夫氏の総括~
日本脳炎ワクチンそのものというより、ワクチン接種による痛み刺激によって背景に存在した可能性のあるQT延長に伴う心室性不整脈( 薬剤性QT延長症候群)が死因になったと推測される。

 現時点での小児科医を代表する見解を紹介します。
 「日本脳炎ワクチンそのものというより、ワクチン接種による痛刺激によって背景に存在した可能性のあるQT延長に伴う心室性不整脈(薬剤性QT延長症候群)が死因になったと推測される。」
 つまり、この事例もワクチン成分が原因ではない可能性が高いと考えられているのです。
 ただし、死後の血液検査では薬剤の血中濃度は成人の有効域と同等であったとの情報もあり、確定診断には至らずに迷宮入りとなりました。

■ 本事例の教訓と対策
・主治医ではない、別の医師がワクチン接種を担当するリスク
 他の医療機関へ通院している場合は主治医の許可を確認すべし。
・ショックや不測の事態に備えてAEDを設置。
 QT延長症候群の心室細動にも有効。

 私が考えた本事例の教訓と対策です。 まず、主治医ではない、別の医師がワクチン接種を担当するリスクが挙げられます。これに対して、当院では他の医療機関へ通院している場合は、主治医の許可を確認することにしました。 次にショックや不測の事態に備えてAEDを設置しました。これはQT延長症候群による心室細動にも有効です。

■ 「痛み」関連副反応への対策
・ワクチン成分ではなく痛みが原因であることを一人一人が理解する。
・接種前の必要十分な説明で不安を軽減。
・リスク分析とそれに応じた措置。
・将来的には痛くないワクチンの開発 …飲むワクチン、 貼るワクチン等

 今回取り上げた副反応はすべてワクチン成分が直接の原因とは考えにくく、むしろ注射手技による「痛み」の関与が強く疑われるものでした。対策として以下のことを考えました。
 まず、ワクチン成分ではなく痛みが原因であることを国民一人一人が理解すること。
 接種前の必要十分な説明で不安を軽減すること。
 失神のようにハイリスク対象がいるかどうかを分析し、それに応じた措置をとること。
 そして将来的には痛くないワクチンの開発が望まれます。現在、貼るワクチンが開発途中であり5~10年後に実用化が期待されているそうです。

風疹と先天性風疹症候群

■ 風疹について
風疹ウイルスによる感染症(別名「三日ばしか」)
・潜伏期:2~3週間
・ウイルス排泄期間:発疹出現前後7日
・症状:約3日間の発熱と発疹、頚部リンパ節腫脹。
 不顕性感染が成人で15%(小児で30%)存在する。
・治療法:なし
・隔離期間(学校保健安全法):皮疹が消退するまで
★ 問題は妊婦感染による先天性風疹症候群(CRS)

 では最後の話題である風疹について。
 風疹は風疹ウイルスによる感染症で、三日はしかと呼ばれることもあります。
 潜伏期は2~3週間、ウイルス排泄期間は発疹出現前後7日間です。
 症状は約3日間の発熱と発疹、および頚部リンパ節腫脹です。
 罹っても症状が出ない不顕性感染が成人で15%、小児で30%存在します。
 特効薬はありません。
 学童は皮疹が消退するまで隔離が必要です。
 以上が風疹の概要ですが、熱も高熱になることは少なく、罹った本人は軽い症状で済む感染症です。 問題は妊婦感染による先天性風疹症候群の発生です。

■ 先天性風疹症候群 Congenital Rubella Syndrome, CRS
女性が妊娠初期に風疹に罹患することで胎児に感染した結果生じる障害の総称。
・症状:先天性心疾患,難聴,白内障、他
・不顕性感染、再感染でもまれに生じうる。
・妊娠週別発生率;
  ~4週:50%〜
  5~8週:35%
  9~12週:15%
  13~16週:8%
  20週以降:(0%)

 先天性風疹症候群(以降、略してCRSと呼びます)は、女性が妊娠初期に風疹に罹患することで胎児に感染した結果生じる障害の総称です。
 症状は心臓・耳・目に出るのが特徴です。
 不顕性感染、再感染でもまれに生じるので、妊婦さんがいくら気をつけても限界があります。
 妊娠週別発生率は表の通りで、妊娠初期ほどハイリスクになります。
 臓器別では妊娠初期ほど心臓と目が侵されやすく、3ヶ月以降は耳の障害のみとなる傾向があります。

■ 用語解説「不顕性感染」
・感染しても症状が出ない状態(しかし他人にうつす感染力はある)。
→ 症状の出た人だけ隔離しても無意味。

不顕性感染率.png

 何回か出てきた不顕性感染という用語の意味を確認しておきましょう。
 感染しても症状が出ない状態を指しますが、しかし他人にうつす感染力があるので始末に悪いのです。つまり症状の出た人だけ隔離しても無意味です。
 各ウイルス感染症の不顕性感染率を表に示します。インフルエンザやノロ/ロタウイルス性胃腸炎も不顕性感染が20~30%存在しますので、症状のある人だけ隔離しても流行は抑えられないことがわかります。

■ 用語解説「再感染」
・自然感染で免疫ができたはずなのに、また罹ること。
 近年、小児期に麻疹に罹ったにもかかわらず、成人後に再感染した事例が経験される。
・自然感染をワクチンに置き換えると、流行=追加ワクチンの役割
 ワクチン接種率が低い時代はしばしば起こる麻疹流行により免疫が強化された(ブースター効果)。
 ワクチン接種率が上がり、流行が抑制されるとその機会がなくなり、免疫が漸減して再感染例が出てくる。

 自然感染で免疫ができたはずなのに、また同じ病原体に感染することを再感染といいます。近年、小児期に麻疹に罹ったにもかかわらず、成人後に再感染した事例が経験されるようになりました。
 この現象は、自然感染をワクチンに置き換えると、感染流行が追加ワクチンの役割を担っていると説明できます。
 ワクチン接種率が低い時代はしばしば起こる麻疹流行により免疫が強化されました。これをブースター効果と呼びます。
 ワクチン接種率が上がり流行が抑制されるとその機会がなくなり、免疫が漸減して再感染が出てくるとされています。

■ 米国における1964年の風疹大流行
概要:
 感染者数:1250万人
 風疹脳炎:2000人
 妊婦感染:3万人(CRS患者:2万人)
対策:1969年にアメリカは風疹ワクチンを導入し全幼児に接種する米国方式で風疹・CRS患者を激減させ、2004年には排除宣言。

 米国では1964年に今では信じられない規模の風疹大流行がありました。
 感染者数1250万人、風疹脳炎2000人、妊婦感染3万人という大流行が発生し、CRS児が2万人生まれました。
 対策として、1969年に風疹ワクチンを導入し全幼児に接種する米国方式で風疹・CRS患者を激減させ、2004年には風疹排除宣言をするに至りました。

■ 日本における風疹流行
・1964年沖縄で大流行:米国占領下の沖縄で風疹が流行し、翌1965年に408人のCRS児が生まれた。
・その後も1990年代に風疹ワクチンが定期化するまで5~6年ごとに流行。
・2004年に流行し感染者約4万人、CRS10人。
 厚生労働省研究班が「緊急提言」を発表。
・2012年後半から流行、CRS13人。

 日本における最大の流行も1964年で、場所は沖縄です。米国での大流行から遅れること半年、占領下の沖縄で風疹が流行し、翌1965年に408人のCRS児が生まれました。
 その後も1990年代に風疹ワクチンが定期化するまで5~6年ごとに流行しました。
 その後は一旦沈静化されたように見えましたが、2004年に10歳代以上で流行してCRSが10例発生し、厚生労働省研究班が組織され緊急提言を発表しました。
 その内容は妊婦とその周囲のワクチン接種を推奨、定期接種の強化など、現在の方針と同じですが、残念ながら予防接種行政に反映されず、2012年にまた流行が始まり現在に至っています。
 このように、風疹を制圧した米国とは大きく異なる経過をたどりました。

■ 日本の風疹ワクチン行政の歴史
・1977~1995年
「妊娠前の免疫獲得」を目的に中学生女子へワクチン接種(英国方式)したが、CRSの発生を防ぎきれず。
・1995~2005年
 対象が男女幼児(米国方式)へ変更され、経過措置として2003年まで男女中学生にも実施された。
 勧奨接種・個別接種のため接種率は低迷し500万人の感受性者を残した(彼らが現在の流行の主役)。
・2006年~ 
 MRワクチン2回接種方式へ

 なぜ日本は風疹流行を制圧できないのでしょうか。 日本における風疹ワクチン行政の歴史を振り返ってみましょう。
 1977~1995年は中学生女子のみを接種対象にする英国方式で開始しましたが、CRSの発生を防ぐことはできませんでした。
 1995~2005年は対象が米国方式の男女幼児へ変更され、経過措置として2003年まで男女中学生にも実施されました。しかし、それまでの集団接種から個別接種へ変更したため、接種率は低迷して500万人の感受性者を残し、彼らが現在の流行の主役を担っています。
 2006年からは現行の方式と同じMRワクチン2回接種となりました。

■ 風疹ワクチンの「谷間の世代」

風疹のワクチン接種状況.jpg

(NHKニュースより)
 NHKニュースで使われていた図がわかりやすいので拝借して説明します。横軸は年齢で、上段が男性、下段が女性です。 25~34歳世代は中学生の時の個別接種で接種率が50%未満にとどまり、男女ともに感受性者がたくさんいます。34~51歳では女子中学生のみ集団接種の世代であり、男性は1回も接種していません。 ということで、赤く炎上している部分が現在の流行の主役になっている「谷間の世代」です。

■ 2012年からの風疹流行の実態
・2011年から微増し2012年後半からブレイク、2013年6月時点で患者数が1万人を突破。
・年齢層:成人中心
 男性:20~40歳代、女性:20歳代
 男性:女性=3.5:1
・すでにCRSが13例発生。

 2011年のアジアにおける大流行が飛び火して日本でも微増、2012年後半からブレイク、2013年6月時点で患者数1万人を越えました。 年齢層は先ほど述べた予防接種の「谷間の世代」です。 すでにCRSが13例発生しています。

■ 風疹累積報告数の推移 2009~2013年

風疹累積報告数の推移 2009~2013年.png

 過去数年間の風疹患者数の年間推移グラフです。
 2012年後半から立ち上がり、2013年に入り急増していることが読み取れます。
※ NIID国立感染症研究所 感染症発生動向調査(IDWR)より  http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/idwr/latest.pdf

■ 都道府県別病型別風疹累積報告数

都道府県別病型別風疹累積報告数.png

 2013年第1~40週の都道府県別の発生数です。 東京を中心とする関東圏、大阪を中心とする関西圏に目立ちます。

■ 年齢群別接種歴別風疹累積報告数(男)

年齢別接種歴別風疹罹患数:男性.png

 2013年第1~40週 年齢別発生数、まずは男性です。
 20~40歳代に多く発生しています。
 棒グラフの色にご注目ください。黄色はワクチン接種なし、紫は不明です。ブルーは1回接種済みで4%、オレンジは2回接種済みで1%と少ないながらも免疫があるはずのワクチン接種者も罹っていることがわかります。

■ 年齢群別接種歴別風疹累積報告数(女)

年齢別接種歴別風疹罹患数:女性.png

2013年第1~40週の女性の年齢別発生数です。
 20歳代の妊娠可能年齢が中心です。
 こちらでもブルーの1回接種者が9%、オレンジの2回接種者が3%存在します。

~ 先天性風疹症候群対策 その1「コクーン戦略」〜
・ワクチンを接種できない弱者を、その周囲の人がワクチンを接種することにより守る方法。
・妊婦を風疹感染から守る:妊婦の1/4は感受性者
 妊娠前の女性はワクチン接種
  接種前後で避妊が必要(前1ヶ月、後2ヶ月)
  接種後に妊娠が判明しても人工中絶は不要(厚労省)。
 妊婦の風疹抗体価(HI)が16倍以下なら家族にワクチン接種。産後は妊婦自身にワクチン接種。

 風疹対策の究極の目標はCRS発生阻止です。 CRSを防ぐためにはどうしたらよいでしょうか。 2つの方法に分けて説明します。 その1として「コクーン戦略」。これはワクチンを接種できない弱者(この場合は胎児)をその周囲の人がワクチンを接種することにより守る方法です。 胎児に一番近い存在である妊婦を風疹感染から守るためには、妊娠前にワクチン接種し、妊婦の風疹抗体価が低い場合は家族にワクチンを接種します。 ただ、英国方式の考え方に近いこの方法では流行を制圧できず、CRSをゼロにはできません。

~ 先天性風疹症候群対策 その2「集団免疫」〜
 … 流行を抑制できるワクチン接種率
感染症  基本再生産数  集団免疫率
麻疹    16~21    90~95%
百日咳   16~21    90~95%
ムンプス  11~14    85~90%
水痘     8~10     90?
風疹     7~9    80~85%

 その2は全員にワクチンを接種する集団免疫です。
 感染症流行を抑制できるワクチン接種率を集団免疫率と呼びます。
 その数字はウイルスにより異なり、感染しやすさの指標である基本再生産数から数式で計算される値です。
 感染力の強い麻疹や百日咳では90~95%、風疹では80~85%に保つと流行を阻止できることになります。
 米国方式である集団免疫はCRSの発生を限りなくゼロに近づけることが可能です。

■ ワクチン接種率を上げる要素の検討
各要素の接種率上昇効果
「風疹の流行」 → 18%上昇
「強い勧奨」  → 12%上昇
「集団接種」  → 10%上昇
「休日夜間接種」→ 3%上昇
(「ワクチン費用助成」 → ?)
…あの手この手の啓発作戦を展開してもワクチン接種率の上昇にはつながらない。

 いろいろな要素のワクチン接種率上昇効果を検討した報告を紹介します。
 流行は18%、強い勧奨は12%、集団接種は10%、休日夜間接種は3%・・・と思ったほどの効果は期待できないようです。

■ 今、風疹対策に必要なことは?
ワクチン接種率85%以上を達成するぞ!という国の覚悟・決意

 今、風疹対策に必要なことは、ワクチン接種率85%以上を達成するぞ!という国の覚悟・決意です。

■ コスタリカの成功例
・1999年に成人層に大流行しCRSが30例発生。
・保健省は緊急接種キャンペーンを実施。
 2001年5月の1ヶ月間で全国民の42%を占める成人層へのMRワクチン接種率≧80%を達成し、これ以降風疹の国内報告ゼロ。
 接種は医療機関、ショッピングモール、大学、職場で行われ、過疎地域では巡回して接種。

 南北米国大陸では全体的に風疹対策が進んでおり、米国に先んじて風疹排除に成功したコスタリカの例を紹介します。
 1999年に成人層を中心に風疹が大流行しCRSが30例発生しました。
 保健省は成人対象に緊急接種キャンペーンを実施し、2001年5月の1ヶ月間で国民の42%を占める成人層へのMRワクチン接種率80%以上を達成し、それ以降風疹の国内報告ゼロとなりました。
 接種は医療機関だけでなく、ショッピングモール、大学、職場で行われ、過疎地域では巡回して実施しました・・・これくらいまでやらなければダメなんですね。 日本政府の対応はどうでしょうか。
 流行してもしびれを切らした自治体のワクチン費用助成を見物しているだけ、そしてワクチンの準備不足が露呈・・・とお粗末としか言い様がありません。

■ 医療従事者の風疹抗体チェックの現状 ~ 北里大学和田先生の報告(2013年)~
医師や看護師が入職する際に風疹抗体検査を実施する病院は3割程度
風疹抗体陰性の場合にワクチン接種と行う病院は45%
費用病院負担は56%、全額個人負担は23%

 行政を攻めてばかりいるが医療機関の対応は万全なのか、という声が聞こえてきそうです。それに応える報告を見つけました。 医師や看護師が入職する際に風疹抗体検査を実施する病院は3割程度しかないそうです。さらに、風疹抗体陰性の場合にワクチン接種を行うという病院は45%に過ぎません。
 何ともお粗末な数字に私自身がガッカリしました。

■ 日本の風疹流行に対する海外の反応
日本はアジアやアフリカの予防接種拡大プログラム(EPI)にもたくさんお金を出してサポートしているのに、自国の子どもたちは守らないのか?
風疹はVPDのひとつとして、このような大騒ぎをすること自体が「想定外」。
香港、台湾、グアム、カナダは日本への渡航に注意喚起。

 さて、このような日本の状況を海外はどう見ているのでしょうか。
 「日本はアジアやアフリカの予防接種拡大プログラム(EPI)にもたくさんお金を出してサポートしているのに、自国の子どもたちは守らないのか?」という意見や、「風疹はVPDのひとつとして、このような大騒ぎをすること自体が想定外」という冷めた意見が聞こえてきます。
  また、香港、台湾、グアム、カナダは日本への渡航に注意を喚起しています。

■ ワクチンの役割の変遷
・過去:感染症流行の阻止・重症化抑制
 有病率・死亡率低下は実証済み
・現在:感染症の脅威<ワクチン副反応の脅威
 知識不足による「罹った方がいい」という発想
・未来:自分ではない誰か(ワクチンが接種できない弱者)を守るという発想

 今回、スライド準備中に感じたことをまとめてみます。
 ワクチンの役割は時代と共に変遷してきました。
 過去は感染症流行の阻止と重症化抑制が重視され、ワクチン導入により有病率・死亡率が低下したことは実証済みです。
 現在は医療も発達したことも手伝って、感染症そのものの脅威を忘れがちでむしろワクチン副反応を脅威と感じて振り回され、知識不足による「罹った方がよい」という発想さえ生まれています。マスコミに踊らされないしっかりした教育・啓蒙の必要性を強く感じる次第です。
 そして未来に期待されるのは、自分ではない誰か(とくにワクチンが接種できない弱者)を守るという発想に進化していくことです。
 今回の風疹流行は、日本人にこのようなワクチンのとらえ方ができるかどうか試す踏み絵のように感じられてなりません。

■ ワクチン導入後の患者数の変化(米国)

ワクチン導入前後の患者数変化.png

 今更ながらですが、ワクチンの効果を示すデータを紹介します。 米国では、ワクチン導入前の年間平均患者数が、導入後にほぼ100%の著明な減少率を達成しています。

■ ワクチン導入による死亡数の変化(米国) 前:1900年代前半、後:1999年

ワクチン導入損五の死亡数変化.png

 ワクチン導入前後の死亡率の減少率です。こちらも100%に近い数字を実現しています。
 これがワクチンの効果なのです。
 しかし現在、感染症が猛威をふるった時代を知らない我々は、病気の怖さやワクチンのありがたさを忘れがちです。
 このことを教育により基礎知識として浸透させる必要性を切に感じます。
※ CDC: Ten great public health achievements - United States, 1900-1999. MMWR, 48(12):241-243,1999より

■ 大病院小児病棟を脅かす水痘問題
・水痘は白血病患者にとっては致死的感染症
 近年、(水痘死亡数)>(麻疹死亡数)
・検査目的で入院した患者が水痘を発症!
 対応(ワクチン接種、抗ウイルス薬予防内服、免疫グロブリン注射)にてんやわんや。二次感染対策として最低3週間は病棟閉鎖状態。
・対策:予定入院者に「水痘ワクチン2回接種」
 現実は任意接種なので接種率30%・・・

 もう一つ、皆さんに考えていただきたい事例を紹介します。
 水痘は「罹った方がよい」と考えがちな軽症の感染症ですが、じつはこの水痘を巡って困った事態が発生しています。
 小児科医にとって、水痘は白血病などの免疫不全者にとっては命に関わる感染症です。近年、日本における水痘による死亡数が麻疹による死亡数を上回ったというショッキングな事実を知りました。
 大病院小児病棟では白血病で闘病生活を送る子どもたちが入院しています。その病棟に検査目的で入院した患者さんが水痘を発症したらどうなるでしょうか。 病棟は対応に追われててんやわんや。さらに二次感染対策として水痘の潜伏期間である3週間は病棟閉鎖状態となり、このようなエピソードが繰り返されると小児病棟の機能が麻痺してしまうのです。
 対策として病院側は予定入院者に「水痘ワクチン2回接種」を課しましたが、任意接種である水痘の接種率は30%にとどまり、綱渡り的病棟運営が続いているという状況です。
 この事例も「ワクチンを希望しても接種できない子どもたちを守るために集団接種率を保つ発想」に切り替えることができるかどうか、日本人に問うているのです。


 最後のスライドになりました。 これは2009年に新型インフルエンザ(H1N1 pandemic)が流行した際にワクチン接種キャンペーンとしてつくられたオーストラリアのポスターです。

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 「Protecting you. Protecting the community.」訳すと「ワクチンによる感染症予防は自分を守り、そして同時に自分の大切な人や社会を守ること」。
 いかがでしょうか。
 皆さんのワクチンに対する考えが少し変わったでしょうか。

(2012年) 予防接種の現状と最近の話題

昔のものなので、スライドのみです。
内容は当時のままなので、現在と異なる事項があることをご了承ください。

■ ワクチン接種現場からのメッセージ
• 同時接種は安全です
 - 同時接種への誤解と不安を解消
• ワクチンデビューは生後2ヶ月
 - 子どもの命を守るために、早期から計画的な予防接種を

■ 本日の内容
• ワクチン後進国ニッポン
• 予防接種の現場から
 - 同時接種をめぐる混乱
• 接種手技と副反応と接種事故
• 最近認可されたワクチン
 - ヒブ/肺炎球菌、 ロタ、 不活化ポリオ

■ 感染症を激減させてきた日本の予防接種

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■ 「ワクチン後進国ニッポン」
• 世界から20年遅れた予防接種行政
 - 予防接種副反応訴訟で敗北し、積極性喪失
 - ワクチンの効果より副反応を強調するマスコミ
• 医療事情が予防接種軽視を助長
 - 日本:医療費は無料、ワクチンは有料 → ・・・
 - 米国:医療費が高く、ワクチンは無料 → ・・・

■ WHO推奨ワクチンと日本の状況
★ WHO推奨ワクチン(基本10種):BCG ポリオ DPT 麻疹 風疹 Hib 肺炎球菌 HPV  ロタウイルス HBV
• (+α)日本脳炎 インフル おたふく
• (意外な事実)水痘は推奨されていない

※ 日本脳炎ワクチンは「限定された地域に向けて推奨」
※ おたふくかぜ、インフルエンザは「国ごとの予防接種計画に基づいて接種するよう推奨」
※ 肺炎球菌(成人)、水痘は推奨ワクチンに指定されていない。
※ ロタウイルスワクチンは2009年に推奨対象となった。
※ 日本はラインナップがようやく世界標準に近づいたところ。任意接種(有料)が多いのでまだ十分とはいえない。

■ 先進国の予防接種状況

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●:定期接種(国の基本的ワクチンプログラムに組み込まれている)
▲:任意接種(国の基本的ワクチンプログラムに組み込まれていない)

★ 日本で任意接種ワクチンすべてを行うと15万円かかる。任意接種のワクチンに関しては、地方自治体では勧奨接種ワクチンではないとして、一般には住民にそのVPDとワクチンの必要性を現在でも説明していない。
★ WHOが勧告している(recommended)ワクチンは9種:BCG、B型肝炎、ポリオ、DTP、Hib、肺炎球菌(結合型)、麻疹、HPV、ロタウイルス(2010年に追加)

■ 乳幼児期に必要なワクチンは12種類、接種回数は合計29回

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■ アメリカの接種スケジュール ~ 同時接種が前提 ~

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■ 米国での1歳未満児への接種部位
<参考>「Anatomic Sites for Immunization

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※ アメリカではDPTはすべて筋注で乳幼児は大腿部、他は三角筋部とされている。1997年版RED BOOKには「DPTなどのアルミニウム塩を含むワクチンは皮下注射をすべきではない」とある。
※ 現在、海外では生ワクチンを除くほとんどのワクチンは原則筋注で実施されている。今後、複数ワクチンの同時接種やアジュバント入りのワクチンが増えてくれば、その局所反応を減らすために筋注の普及が不可欠となる今後、生ワクチンと日本脳炎以外は世界の標準的な方法である筋注にシフトしていくことが望ましい。

■ 日本の予防接種現場の混乱 ~ それは同時接種拒否から始まった ~
• 単独接種にこだわり接種スケジュールが立てられない家族が続出
• 医院スタッフに丸投げ
• 予防接種外来はパンク状態で予約は1~2ヶ月先
• 煩雑なため接種事故のリスク上昇

■ 同時接種後死亡問題について
• 2011年3月にヒブ/肺炎球菌ワクチンを含む同時接種後に死亡例が相次ぎ、一旦中止となる
• 検討の結果「予防接種と関係なし」として4月に再開
• しかしその後も同時接種に消極的・・・

■ では死亡の原因は?
• SIDS(乳児突然死症候群)の紛れ込みの可能性
 - 元気な赤ちゃんが突然死亡し、解剖しても原因不明の時につく病名
 - 日本ではSIDSで年間150人の赤ちゃんが死亡している(2-3日に1人ペース)
 - その数日前に予防接種をしていたら・・・

■ 同時接種は安全? 〜「同時接種 ≒ 混合ワクチン」
• 一度に複数の免疫をつける方法(同時免疫)
• 針を刺す回数が違うだけで、体内で起きている免疫反応は同じ
 - 同時接種が危険なら混合ワクチンも危険?
• WHO、日本小児科学会ともに安全宣言
 - 日本以外では同時接種問題は存在しない

★ WHOは乳児期の定期接種に関して同時接種を推奨している。
★ 日本の現状:「定期の予防接種実施要領」には「2種類以上の予防接種を同時に同一の接種対象者に対して行う同時接種は、医師が特に必要と認めた場合に行うことができる」と記載されている。

■ 世界の同時免疫の現況 ー DPTと同時に接種する数 ー
 ・・・「DTPのみ」は日本です。

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★ WHO Vaccine Preventable Diseases Monitoring System 2010年8月版より。岡田純一Dr作成物を改変。
ワクチンの種類は、DTP, PV, HB, Hib, Pneu, RV, Men。

■ 専門家からの接種計画の提案 〜WHO推奨に順次、かつ同時接種を前提としている
日本小児科学会
KNOW*VPD
 - VPD:Vaccine Preventable Disease
国立感染症研究所は3パターンを提示(受診回数)
 - ① 単独接種(29)
 - ② 2つまでの同時接種(18)
 - ③ 3つ以上の同時接種(14)

■ 現場の混乱への処方箋 ー 情報不足による不安への対応 ー
• 正しい知識を繰り返し啓蒙
• 「生後2ヶ月がワクチンデビュー」を目標
 - 現在の新生児訪問ではタイミングが遅い
 - 出生前から母親学級を利用して情報提供
 - 1ヶ月健診・4ヶ月検診でもチェック
• 医療機関の同時接種対応の整備も必要

■ 同時接種の実際
• それぞれを別部位に接種~ 混注は禁!
• 注射する場所は上腕および大腿。
 - 大腿部は2012年に解禁
• 2箇所以上に注射する場合は少なくとも2.5cm(1inch)以上離す。
 - DPTを含む時はできるだけ離して接種。

■ 皮下注射 vs 筋肉注射 ~ 日本の常識は世界の非常識 ~
• 世界では不活化ワクチンは原則筋注
 - 抗体上昇がよい、発赤・腫脹が少ない、接種後の痛みが少ない
 - 米国では「DPTは皮下注禁」とされている・・・
• 日本ではなぜか皮下注
 - 過去の大腿四頭筋拘縮症訴訟のトラウマ

★ ACIPはアジュバントを含むワクチンは筋肉注射を指示(効果と局所副反応のため)
・アルミニウム塩はDPT、DT、A型肝炎(米国製)、B型肝炎ワクチンに入っている。

■ 接種間隔の謎 ~日本の常識は世界の非常識2~
・・・同時接種問題も皮下注問題もワクチン間隔設定も医学的理由で決まっていない?

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★ 接種間隔の根拠;先に行った予防接種による副反応が出るかもしれない期間を余裕をもって避けるということと、生ワクチンの場合は間隔を開けないと効果が上がらない恐れがある、という理由から。

■ 接種手技 ー BCG ー
・管針法(経皮接種)
・上腕外側かつ三角筋下端

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★ 「上腕外側のほぼ中央部」以外の場所への接種は、定期接種の対象外になる。BCGワクチンの添付文書にも「肩部に行うとケロイドを生じやすいので絶対に行ってはならない」と記載されている。
★ 小・中学生に再接種が行われていた頃には、赤ちゃんよりも小・中学生に高い頻度で瘢痕が見られましたが、これは年齢の要素よりも「再」接種であることの要因が大きかったと考えられます。事前のツベルクリン反応検査で陰性の児童を選んで接種するのですが、ツベルクリン反応検査で検出できないような弱い感作が残っていてBCG接種により強く反応した結果だと考えられます。とりわけ、初回の接種と同じ側に接種した場合にはかなり強い瘢痕形成が見られました。

■ BCGの注意点・問題点
• ケロイド対策:
 - 肩に近い部位は避ける(1997年に訴訟問題化)
 - 接種の際「ひねる・ねじる」はしない。
• 接種後に針の跡が少ないのが心配?
 - 「免疫はできているから大丈夫」
• 接種した場所が化膿した?
 - 正常反応・経過の説明不足による誤解(次のスライド)

★ ケロイド形成は、小・中学生への再接種が行われていた時期に再接種を受けた児童で見られることがほとんどで 現在、再接種は原則として行われなくなり生後6ヵ月未満の赤ちゃんへの1回接種のみになりましたので、ケロイドの発生頻度はもっと少なくなっています。押し方が強かったり、垂直な押しでなく「ひねり」が加わったりすると瘢痕が大きく、あるいは醜くなります。
※ ケロイドや瘢痕の発生率:三角筋付着部10%、肩は40~70%。

■ BCG接種後の正常の経過 ~ 局所反応のピークは接種後1-2ヶ月 ~
<参考>「BCG接種後の注意事項」(結核予防会宮城県支部)
・10日以内に針痕が化膿 → コッホ現象
・正常の経過:
①接種後4週間:接種後の数日間は局所には何の反応も見られませんが、その後10日~2週間頃に針痕に一致した発疹・膨隆が生じ、徐々にその変化が強くなります。
②接種後6週間:針痕に一致した丘疹は大きくなり硬結を伴い化膿する傾向を示します。この頃が局所変化の一番強い時期です。
③接種後2ヶ月:局所反応の最も強い接種後1~2ヶ月を過ぎると発赤・硬結は徐々に消退し、可否の形成が進み、局所は乾燥した状態になります。

■ 接種手技 ー 皮下注射 ー
・推奨は2箇所
 上:三角筋部
 下:上腕後側(伸側)下1/3
・橈骨神経を避ける
・刺入角10~30°(→ 45°?)

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★ 浅くより深く接種した方が痛みが少なく局所副反応も軽い傾向がある。

■ 皮下注射部位
<引用>「プレベナーの使用方法」より

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■ 大腿前外側部への皮下接種
★ 大腿前外側(上前腸骨棘と膝蓋骨を結ぶ線の中点付近で、これより内側〈脛側〉にはかたよらない)

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■ 大腿部への皮下注射
<引用> 「How to Administer Intramuscular (IM) Vaccine Injections」より

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■ 大腿部への筋肉注射
<参考> 「Infant vaccination (vastus lateralis)」より

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■ 接種手技 ー筋肉注射ー
• 肩峰先端から3横指下の三角筋中央部に接種
• 刺入角90°
• 筋肉内に達しないと痛みが増強する傾向あり

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★ 子宮頚癌ワクチン(サーバリックス)は接種部位を「上腕三角筋」と指定しているので、大腿や臀部へ接種してはいけない。

■ ワクチンの副反応 ー 生と不活化に分けて考える ー
• 生ワクチン
 - 軽い感染症状(人にはうつりません)
• 不活化ワクチン
 - 感染症状は理論的に出ない
 - 接種後の発熱と局所反応(ほとんど一過性)
 - HPVワクチン接種後の失神(?)

■ ワクチン接種後の発熱の取り扱い
• 日本では39℃以上の発熱は副反応報告
 - 添付文書では「接種要注意者」
• 米国では予防接種後の発熱は当然のこととして解熱剤を渡されることがある 
 - 免疫反応が起きている証拠(?)程度の捉え方

■ 肺炎球菌ワクチン接種後に発熱次はどうする?
• 1回目発熱者は2回目にも発熱するか?
 - (回答)接種回数による発現率の増加はない
• 1回目より重症の副反応が出現するか?
 - (回答)同上
• 経験的には、熱は出たり出なかったり

■ 局所反応対策
• 肘を超えて片腕全体が腫脹
 - 専門医または予防接種センターへ相談
• 皮下注の場合、深い方が軽度
 - 限りなく筋注に近い皮下注を心がける
• 接種後のマッサージ
 - 皮下注・筋注ともに必要なし

★ 以前は皮下注射、筋肉注射の後、接種部位を揉むことが推奨されていましたが、免疫獲得への影響に差がないことや副反応の増加の可能性から、現在では軽く圧迫する程度にとどめることが推奨されています。

■ HPVワクチン接種後の失神
• ワクチン液自体の問題ではなく、恐怖・痛みが原因の 血管迷走神経反射 。
• 対策:
 - 接種後30分前後は座らせるなどした上で、被接種者の状態を観察する。
 - 可能性が高い場合は、あらかじめベッドに寝かせて接種する。

★ 血管迷走神経反射というのは、自律神経系の突然の失調のために、血圧や心拍数が下がり、脳に行く血液循環量を確保できないために、失神や目まいなどの症状が起こる病気です。
 血管迷走神経反射は、長時間の立位、温暖下での激しい運動、恐怖感や情緒的不安定、激しい痛みなどによって誘発されます。極端な場合は失神(意識喪失)が起こりますが、失神の前兆としては、ふらふら感、虚弱感、発汗、視野のぼけ、頭痛、吐き気、熱感や寒気などがあります。また、顔色が悪くなったり、あくび、瞳孔の拡大、おちつきがなくなることもあります。
★ 失神の好発時間は、接種後 15 分以内であるが、それ以降の発生もみられ、転倒による頭蓋骨骨折、脳出血、 交通事故などを来たした症例もある。その結果、海外では、失神症例の約 14%は入院に至っている。

■ わかりにくい副反応の救済 ー 予防接種の行政分類により異なる ー
• 3種類存在;補償額は ①=③>②
 - ①(定期)予防接種法による救済
 - ②(任意)医薬品副作用被害救済制度
 - ③(行政措置)全国市町村予防接種事故賠償保険
• 適用はワクチン副反応認定&入院例のみ
 - 健康被害(有害事象)=真の副反応+紛れ込み
• 誤接種による事例は医師の責任?

A保険:予防接種賠償責任保険= 「過失に よる健康被害」の賠償保険
【 予防接種を行う上での過失によって健康被害が起こったときに、 市または市から委託を受けた医師が法律上の賠償責任を被った場合 の損害を填補(てんぽ)する保険】
具体的には
・注射針挿入時に不注意で針が折れ障害を与えた。 ・注射部位のあやまりにより神経麻痺になった。 ・法で予防接種不適者とされている者に予防接種させ、死亡させた。
填補限度額は、1事故につき1億円、保険期間中3億円まで。
B保険:法定救済措置費用保険=定期接種保険
【予防接種法および結核予防法に基づく健康被害救済措置により 市が負担する費用を填補する保険】
予防接種法による救済措置の保険金(死亡保険金または障害保険 金)の市負担分(全体の4の1)をまかなうものです。
C保険:行政措置災害補償保険
【法に基づかず市が自らの判断で行政措置として行う予防接種によって生じた健康被害に対し、法に基づく救済措置と同程度の補償を行うためにかかる費用を填補する保険】
死亡の場合、予防接種法に基づく救済措置と同程度(4,280万円) の死亡補償保険金が保険から支払われます。

■ 接種事故にご用心
• 使用期限切れ
 - 予約を取ってから発注
• ワクチンの間違い
 - 兄弟が一緒にするとき
 - 外国人も危ない
 - 肺炎球菌は小児用と成人用がある

※ ニューモバックスの適応は2歳以上

■ 接種事故にご用心・その2
• 接種量の間違い:年齢により異なる
 - 日本脳炎 インフル B型肝炎 DT
• 接種間隔の間違い
 - 家族の勘違い(母子手帳確認は必須)
 - 不活化は1週間開ければ何でもできる?
• 接種部位の間違い・・・添付文書遵守

※ HBワクチンは10歳以上は0.5mlを皮下注あるいは筋注であるが「10歳未満の者への接種経路は皮下注射のみ」となっているので注意。
※ サーバリックスは「上腕三角筋」のみだが、ガーダシルは「上腕三角筋または大腿四頭筋」が接種部位に指定されている。

■ 最近導入されたワクチン

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※ 任意接種は「予防接種と子どもの健康」のスケジュール表に載らない → 同時接種のイメージが湧かない

■ 各ワクチンのターゲット
• ヒブ→ H.Influenzae type B 感染症
 - 細菌性髄膜炎、喉頭蓋炎、(肺炎)
• 肺炎球菌→ 肺炎球菌感染症
 - 細菌性髄膜炎、(肺炎、中耳炎)
• ロタウイルス→ 白色便性下痢症
• ポリオウイルス→ ポリオ(小児麻痺)
 - OPV(生)からIPV(不活化)へ移行

■ 細菌性髄膜炎 ~小児救急で見逃しが許されない病気~
• 年間500例発症(半数が1歳未満)
• 原因:ヒブが60%、肺炎球菌が30%
• 症状:発熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれん(しかし早期診断困難)
• 治療:抗生物質ほか(耐性菌問題)
 - 治療開始が1時間遅れると予後が異なる
• 予後:死亡5%、後遺症30%

※ 日本での年間発生は、小児癌2500人、川崎病13000人、細菌性髄膜炎800人、このなかでワクチンが有効なのは細菌性髄膜炎のみ(園部Drの言葉)。
※ 小児救急の現場で問題なのは、扱う発熱の多くはウイルス感染症(いわゆる風邪)であるが、その中に希ながら細菌性髄膜炎の児が紛れ込んでいることで、かつその予測はしばしば困難なことである。そのリスクを背負って診療することが小児科当直医の大きなストレスとなっている。

■ ヒブワクチン ~ 小児救急医療の救世主 ~
• 1988年に開発され、1997年にWHOが乳児への接種を勧告(本邦導入は2008年)
• 米国ではヒブによる髄膜炎などの重症感染症が導入前の1%へ減少
• 乳児早期の接種が重要
 - 生後4ヶ月からの髄膜炎好発期に備える
 - 「ワクチンデビューは生後2ヶ月」

※ ヒブへの抵抗力は3歳以降急速に上昇するので、5歳以上のワクチン接種は必要ない。
※ ヒブによる髄膜炎を罹患した後も3歳未満では抗体価は必ずしも上昇していないので、接種を受けるべき。

■ 髄膜炎ワクチンは小児救急医療を変える? 
( )内は当直小児科医のつぶやき  → はヒブ/肺炎球菌ワクチンを接種していた場合の話
• 生後5ヶ月、体温39.0℃の男児が受診
 - (ただの風邪だったらいいなあ)
• 家族にかぜひきがおらず喉も赤くない
 - (も、もしかして・・・菌血症?) → ワクチン接種歴を確認
• 検査:炎症反応(WBC、CRP)弱陽性
 - ぐったり感なし、大泉門膨隆なし
 - (でも髄膜炎は否定できない・・・) 
 - 「明日も受診してね」(不安な一夜) → まあ、大丈夫でしょう

■ ヒブ/肺炎球菌ワクチンの接種スケジュール

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自然に免疫ができるので年齢とともに必要回数が減少
接種回数が少なくて済むから1歳まで待つのは危険!

■ ヒブ/肺炎球菌ワクチンの落とし穴
• 肺炎球菌ワクチンは2種類存在
 - 成人用(23価):ニューモバックス
 - 小児用(7価):プレベナー
• 間違いやすい追加接種の時期
 - ヒブ:初回3回接種後おおむね1年
 - 肺炎球菌:初回3回接種後60日以上の間隔で12ヶ月齢後

■ ロタウイルス胃腸炎(白色便性下痢症)
• 乳幼児に流行する感染性胃腸炎
 - 胃腸炎入院例の一番多い原因
 - 小児の95%が5歳までに罹患する
 - 途上国を中心に毎年60万人が死亡
• 臨床像
 - 症状:嘔吐と白色水様便、発熱(3~5割)
 - 合併症:腎不全、脳炎・脳症

■ ロタウイルスワクチン
• 経口生ワクチンで2種類存在(互換性なし)
 - ① ロタリックス(1価)・・・2回接種
 - ② ロタテック(5価)・・・3回接種
• 効果:重症化予防率90%
• 注意事項
 - 副反応:腸重積(小腸が大腸に潜り込む病気)
 - 禁忌:先天性消化管障害、腸重積既往、免疫不全児

1価ワクチン:ヒトロタウイルスを弱毒化したもので血清型G1P[8]
5価ワクチン:ウシーヒトロタウイルスのリアソータントでG1P[5],G2p[5],G3p[5],G4p[5],G6P[8]が含まれる。

■ ロタウイルスワクチンの問題点
• 接種期間が限定される
 - 初回投与:生後6週間~15週未満
 - 最終投与:①24週まで、②32週まで
 - 上記期間を過ぎたら接種禁(腸重積対策)
• 単独接種ではスケジュールが組みにくい
• 量が1.5mlと多い(ポリオは0.05ml)
• 費用は合計約3万円と高い

※ ロタウイルスワクチンに関してはcatch-up接種(定期接種スケジュールを超えた年齢への接種)は腸重積の危険性から行わない(許可されていない)。

■ ポリオワクチン OPV(生ワクチン) vs IPV(不活化ワクチン)
• 効果;OPV> IPV
 - IPV:個人を守るが流行を防げない
• 副反応;OPV > IPV
 - OPV:弱毒化ワクチン株の毒性復帰
 440万接種に一人の割合で麻痺患者(VAPP
 580万接種に一人の割合で家族内患者が発生

※ VAPP:vaccine-associated paralytic poliomyelitis(ワクチン関連麻痺性ポリオ脊髄炎).
※ 今回単独不活化ワクチンが2ヶ月で承認され7ヶ月で発売されるのは異例の速さ。アクトヒブでは、6年かかった(承認申請2003年3月、承認2007年1月、国家検定を経て実際に発売されたのは2008年12月)。

■ 日本におけるポリオの流行の歴史
• 1950年代まではポリオが流行していた
• 不活化ワクチンを導入したが、流行が止められないために生ワクチンを緊急輸入して制圧した経緯あり
• 1981年以降ポリオ患者は発生していない

■ ポリオワクチン計画 ~ 流行状況に応じたワクチンを選択 ~
• 生で開始→ 流行制圧→ 不活化へ変更
 - 先進国では不活化が常識
 - アジアでも生を使用しているのは日本、北朝鮮、モンゴルのみ
• 日本もようやく不活化へ
 - 単独は2012年9月、4種混合(DPT-IPV)は11月に導入予定

■ 「ワクチン後進国」返上に向けて
• WHO推奨ワクチンの定期接種化
 - 同時免疫(同時接種<混合ワクチン)の推進
• 思春期・成人の追加接種導入
 - 百日咳(Tdap)など
 - 生ワクチンの2回接種
• 日本版ACIPの設立
 - 国民の命を守るための提言をする独立機関

■ <WHOの提言>
「すべての子どもはVPDに罹ることなく生きる権利がある」