感染性胃腸炎

 感染性胃腸炎とは病原微生物により引き起こされる胃腸炎(嘔吐下痢)のことです。
 病原微生物の種類は、ウイルス(ノロ、ロタ、アデノなど)や細菌(病原性大腸菌、サルモネラ、キャンピロバクターなど)が有名です。

■ 感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルス)

 秋から冬にかけて胃腸炎が流行します。「嘔吐下痢症」「お腹の風邪」「感染性胃腸炎」などの名前で呼ばれますが、すべてウイルスが原因の胃腸炎です。
 代表的なものはノロウイルスとロタウイルスです。医療機関を受診する頻度は、①ロタウイルス(約30%)、②ノロウイルス(20〜30%)だそうです。
 忘年会で生カキを食べて食中毒を起こすことが有名な秋〜冬に流行するのがノロ、乳幼児に多く脱水症で入院することもあるのがロタですね。
 以下に概要を記します。

【ノロウイルス】

□ 流行時期 11〜3月
□ 疫学 乳幼児〜学童〜大人(何回も罹り、家族全滅になりやすい)
 感染力が強く、極微量(数十〜100個)のウイルスで簡単に感染します。不顕性感染もあります。
□ 感染経路
 接触感染(糞口感染:下痢便・吐物→ 口へ)、飛沫感染(空気感染の可能性も指摘されています)。
 ヒトからヒトへ感染が広がるパターンと食中毒パターンがあり、集団発生の際は分析する必要があります。
※ ノロウイルスはRNAウイルス。
□ 潜伏期  1〜2日間(12〜48時間)
□ 重症度  軽症〜中等症
□ 症状   嘔吐(突然始まる)・下痢、筋肉痛・頭痛、発熱は少ない(20〜30%)
※ 血便になることはまれです。
合併症  軽症下痢症に伴う群発けいれん、まれながら脳炎・脳症も
□ 治るまで 数日
□ 治療   経口補液、対症療法
※ 抗生物質は無効であるばかりか下痢を遷延させることもあります。
□ 感染期間 発症後少なくとも1週間は便中にウイルスが排出され感染源となります(症状消失後、数週間〜1ヶ月は便の中にウイルスが検出されるとの記載も)
隔離期間
 ノロ・ロタウイルスによる感染性胃腸炎は下痢が落ち着いて元気になれば登校・登園可能ですが、上の表の通り便の中にはしばらくいますので感染力はゼロではありません

※ あえて数字で示すと・・・(「小児感染症ー最新カレンダー&マップ」中山書店、2011年発行より)
 登園・登校の目安は症状消失後3日目以降でかつ発症後1週間経過
 給食関係者では職場への復帰は発症後7日目以降

□ 免疫獲得 一度罹って免疫ができても半年後にはなくなってしまい、毎年罹る可能性があります。
一家全滅」に注意が必要です。
□ 予防
・おむつ交換、トイレの後、食事前の手洗い(流水と石鹸で)
・貝の生食を避ける(85℃以上1分間以上の加熱が必要)
消毒
 0.1%次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度1000ppm)を10分以上作用させることが有効です。アルコールはノロウイルスに有効ではありません。

汚物の処理
 使い捨ての手袋やマスクを着用し、手袋は原則として1処理ごとに交換します。汚染部位はまずペーパータオルなどで覆い、0.1%次亜塩素酸ナトリウムをよく浸潤させ、10分間ほど放置した後拭き取ってゴミ袋に入れます。その後、同部位を水洗いし拭き取ってゴミ袋に入れます。最後にマスクと手袋を入れ密閉して破棄します。
汚染された衣服・リネン類の処理
 汚物を十分に落とした後、ポリバケツなどに入れて1箇所に集め、0.1%次亜塩素酸ナトリウムに10分以上浸すか熱湯消毒した後に洗濯します。最後に手袋とマスクを廃棄します。

・次亜塩素酸ナトリウムは漂白作用があるため、色物の衣類やカーペットなどには熱湯消毒やスチームアイロン(1箇所辺り2分間)を使用します。調理器具、ドアノブなどの環境の消毒にも使用できますが、金属腐食性があるため最後に水洗いが必要です。
・次亜塩素酸ナトリウムは作り置きすると効果が低下するので、使用直前に原液から希釈する必要があります。

【ロタウイルス】

□ 流行時期 12〜4月(従来は1〜3月がピーク、近年は2〜4月にずれてきています)
□ 疫学   乳幼児が罹りやすい
※ 世界を見渡すと発展途上国を中心として1年間に約50万人の子どもがロタウイルス胃腸炎で死亡しています(日本では10人前後で基礎疾患を持つ子どもが多い)。
□ 感染経路 接触感染(下痢便・吐物→ 口感染)。空気感染の可能性も?
□ 潜伏期  1〜2日間(2〜4日という記載も)
□ 重症度  比較的重症
□ 症状   嘔吐・下痢(白色調〜レモンイエロー)、発熱
※ 大人を含めた家族発症(一家全滅)を認めた場合はロタよりノロウイルスの可能性を考えます。
※ 「白色下痢」はロタウイルスだけの症状ではなく、ほかの胃腸炎でもみられます。
□ 治るまで 1週間
□ 治療   経口補液(↓)、対症療法(抗生物質は無効)
※ かつてはミルクを薄めるとかして飲ませることがありましたが、現在は下痢があっても飲食ができるようなら通常の食事で開始した方が栄養と腸機能の回復が早い、と考えられるようになりました。
□ 感染期間 数週間〜1ヶ月間は便の中にウイルスが検出されます
□ 免疫獲得 一度罹ってできた免疫は長期間有効で、乳幼児期に罹ったヒトは大人になって罹ることはまれ(罹っても軽く済みます)。
□ 予防   おむつ交換、トイレの後、食事前の手洗い
※ 70%エタノール液で不活化されます。

 冬以外の胃腸炎では細菌(病原性大腸菌、サルモネラ、キャンピロバクタなど)が原因になることもあります。発熱や血便が特徴であり、抗生物質を用いることがあります。
 なお、感染性胃腸炎は下痢が落ち着いて元気になれば登校・登園可能ですが、上の表の通り便の中にはしばらくいますので感染力はゼロではありません。トイレの後(オムツの処理後も含めて)、食事の前には十分手を洗って感染予防する必要があります。

軽症下痢に伴う反復性けいれん(軽症胃腸炎関連けいれん)
 下痢をしている乳幼児が無熱性けいれんを短時間に繰り返すことがあります。けいれんは5分以内で1日以内に複数回起こすこともまれではありません。
 ロタウイルス、ノロウイルスで多く報告されています。
 一般的なけいれんの治療薬は効きにくく、カルバマゼピン(商品名:テグレトール)という抗てんかん薬が有効です。
 一旦落ち着けば、その後の生活の中で繰り返すことはまれであり、後遺症も残しません。

 ★ 嘔吐下痢の自宅療養 〜 経口補液

嘔吐下痢の治療は「脱水予防」

 残念ながらウイルス性胃腸炎に特効薬はありません。対症療法で症状を和らげ、脱水に気をつけながら落ち着くのを待つことになります。
 従来は「嘔吐してグッタリすると点滴が必要」というイメージがありましたが、軽度の脱水なら次項の「経口補液」が有効であり、針を刺して泣かせる必要はありません。

「経口補液」ってなあに? 

 一般家庭で行われてきた水分補給を医療レベルに高めた方法です。といっても、塩分・糖分が適切な濃度に調整された経口補水液(ORS, oral rehydration solution)を少しずつ飲ませるだけ。逆に、単なる水分(湯冷まし、お茶)の補給は脱水治療とは言えません。
 正式には経口補液療法(ORT, oral rehydration therapy)と呼び、点滴(静脈輸液)の一歩前の治療法に位置づけられます。点滴と比較して経口補液は安全・簡便・安価な方法ですね。

経口補水療法(ORT)の歴史
 ORTは当初、発展途上国におけるコレラによる乳幼児の脱水症を治療するために開発されました。1960〜1970年代に行われた研究により、ORTは点滴と同等の効果があることが証明されました。コレラに罹った子ども達の命をたくさん救ったのです。
 1975年にWHOにより経口補水液の望ましい組成が発表され(WHO-ORS)、さらに2002年には組成を再調整した改訂版が発表されました。また、アメリカ小児科学会(AAP)やヨーロッパ小児栄養消化器肝臓学会(ESPGHAN)でもORTに関するガイドラインが作られています。残念ながら日本にはまだガイドラインがありません(涙)
 ORSは嘔吐下痢で失われる体液成分(水分・塩分・糖分)が吸収されやすい最適濃度で調整された飲み物です。これは「ナトリウム・ブドウ糖共輸送説〜塩分(ナトリウム)の吸収はブドウ糖の添加により促進される〜」という1950〜1960年代の基礎的な生理学の研究の成果が根拠になっています。

「経口補水液」はどこで手に入るの?

① 病院で処方・・・「ソリタ-T顆粒( T2とT3 )」
② 薬店で購入・・・「OS-1」「アクアライトORS」等
③ 自宅で作成(↓)

★ 経口補水液を自作しよう!
湯冷まし1リットルに、塩:小さじ1/2杯、砂糖:大さじ1杯を溶かす、+α(レモン汁等)
注意)塩と砂糖の量を間違わないようにしましょう。「砂糖の方が多い」のですよ!

※ 日本の伝統的な治療食(重湯に塩を加えるみそ汁の上澄みを与えるなど)は、実は優れた経口補液法であったと近年評価されています。

ソリタ-T顆粒2号は梅干し様の芳香、ソリタ-T顆粒3号はサイダー様の芳香があります。飲みづらいときはカルピスなどを少し入れると飲みやすくなるようです。

スポーツドリンク、イオン飲料や他の飲みものではダメ?

 市販のスポーツドリンク類は、あくまでも健康な人の喉の渇きや軽いスポーツ時の水分補給に適している飲料で、経口補水液に比べると塩分・ミネラルが少なく(WHO推奨濃度の1/2〜1/3)、糖分が多すぎて嘔吐下痢の治療には向かないとされています。水道水・清涼飲料水もナトリウム濃度が低くため、水分吸収率が悪くなります。

生理食塩水:ナトリウム濃度がヒトの体液より高く、濃すぎてもやはり水分吸収率が低くなります。

経口補液の具体的な方法は?

 嘔気・嘔吐の始まりは水分も受けつけません。数時間は様子を見て、少し落ち着くのを待ちましょう(程度が強ければ吐き気止めを使用)。
 えづくのが落ち着いてきたら経口補液開始です。経口補水液をスプーンで与えましょう。一度にゴクゴク飲ませると刺激で吐いてしまいます。「口から点滴するつもり」で少量頻回に与え、徐々に増量するのがコツです。

※ もっと細かく数字で知りたい方へ・・・

添付文書の記載
「初回は約20ml投与し、嘔吐がなければ30〜60分後に20〜100ml追加し、以降数時間毎に投与」

各文献より;(やりやすいと思う方法を選びましょう)
・軽度・中等度の脱水に対して、
発症4時間以内:50-100ml/kgを飲ませる
発症4時間以降:下痢や嘔吐の度に、体重10kg未満では60-120ml/回、体重10kg以上では120-240ml/回を飲ませる
・ORSは乳児は30-50ml/kg/日、幼児:300-600ml/日、学童〜成人:500-1000ml/日を目安に飲ませる。
・ORSは下痢1回につき、体重10kg未満の小児には100ml、体重10kg以上の小児には150mlを目安に補給する。
・水様便1回につき、10ml/kgのORSを補給し、嘔吐1回につき、2ml/kgのORSを補給する。

 飲ませてもまた吐いてしまうこともありますね。その時は1時間程度待って、またトライしてください。 なお、投与総量が多すぎて問題になることはまずありません。
 水分がお腹に治まり吐かなくなったら固形物を再開しましょう。
 経口補液の目安は数日間です。下痢が一日数回程度に減ったら終了し、好きな飲み物にかえてください。

!脱水症に注意
嘔吐が続いて口の中が渇き、オシッコが半日近く出ていないときは脱水症が疑われ、また他の病気が隠れている可能性もあります。医師の診察を受けてください。

下痢の時、食事で気をつけることは?

 従来は「下痢がひどいときは絶食」と指導されてきましたが、何日も絶食すると腸のダメージの回復が悪いことがわかり、近年は「食事は早期に再開」が世界の常識となりました。
 吐き気が治まれば「好物で消化の良さそうな食事」を選んで少しずつ与えましょう。
 赤ちゃんの母乳・ミルクはそのまま続けてかまいません。ただし、下痢が1週間以上長引くときは「2次性乳糖不耐症」を疑い、酵素製剤を服用したり、乳糖除去ミルクを使用することもあります。

【参考】急性胃腸炎の適切な治療を行うための7つの原則(アメリカ、CDC)

1.脱水是正には経口補水液(ORS)を使用。
2.経口補水は迅速に行う(3〜4時間以内)。
3.迅速な栄養再補給のため、脱水が是正されたらすぐに患者の年齢にあった非制限の食事を与えること。
4.授乳中の乳幼児に対しては、母乳を継続して与えること。
5.乳児用ミルクを用いている場合、薄めたミルクは推奨されず、特殊ミルクも通常は不要。
6.下痢で継続的に水分が喪失している場合、経口補水液を追加して与えること。
7.不必要な臨床検査や投薬は行わない。

嘔吐下痢の漢方療法

 嘔吐下痢は漢方薬のよい適応となる病気です。
 嘔気・嘔吐がつらい初期には「五苓散」が有効です。特に「水分を欲しがるけど、飲ませると吐いてしまうとき」によく効きます。水に溶かして少しずつ飲めば、吐き気が治まってくるのです。
 ある小児科医は五苓散を溶いた液を浣腸のようにお尻から注入して治療するそうです。「8割の確率で嘔気が治まり、顔色が良くなって帰宅できる」と聞いています。
 胃がつかえて、お腹がグルグル鳴る下痢の時は「半夏瀉心湯」がよく効きます(院長愛用薬・・・トイレから離れられるようになるのです)。
 下痢が長引いて、お腹が冷えて衰弱してくるようなら、お腹を温めて回復をサポートする「人参湯」「啓脾湯」などを用います。

<新聞記事より>

 感染性胃腸炎に関する記事を拾い読み。

■ 夏から続く怪しい下痢(2012.9.5:日経トレンディネット)

(文/ナビタスクリニック川崎 岩本修一)

Q1 下痢の原因の感染性胃腸炎って何?

 下痢で医療機関を受診する人で一番多いのが、感染性胃腸炎。いわゆる「おなかの風邪」です。飲食物や手を介して感染し、吐き気や嘔吐、発熱、腹痛、下痢を起こします。
 感染性胃腸炎は、病原体によりウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎の2つに分けられます。

ノロ、ロタ、腸管アデノウイルス……ウイルス性胃腸炎とは

 ウイルス性胃腸炎は日本における感染性胃腸炎の80~90%を占め、ノロウイルス、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなどが主な原因です。
 ノロウイルスは少ないウイルス量でも感染が成立します。その上、氷点下から60℃までの幅広い温度範囲で生存できるため、感染しやすいウイルスです。また、ノロウイルスは遺伝子の形を変えやすい性質を持っているので、一度かかっても繰り返し感染してしまいます。(NEJM 2009;361:1776-85.)したがって、ウイルス性胃腸炎の中で最も多いのがノロウイルスです。1年中発生しますが、とくに冬に多い(12月~1月がピーク)です。
 ロタウイルスは、ノロウイルスに比べて、嘔吐や下痢の症状が激しいのが特徴です。発生は、冬の終わりから春に多く、3月~4月にピークとなります。
 腸管アデノウイルスは、ノロウイルスやロタウイルスより潜伏期間が長いのが特徴です。発生の季節性はありません。

腸炎ビブリオ、サルモネラなどが原因菌! 重症化する可能性のある細菌性腸炎

 細菌性腸炎は少数ですが重症化することがあります。代表的な原因菌は、腸炎ビブリオとサルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌です。
 腸炎ビブリオの主な感染源は生の魚介類です。腸炎ビブリオは海水中に生息しており、魚介類の表面には付着しています。温度管理が不十分だと増殖して、汚染された刺身などを食べることで体内に入り、感染します。なお、食中毒を起こす程度に菌が増殖していても、見た目や臭いにはまったく変化がないそうです。高温となる夏場に多く、魚介類を食べた翌日に嘔吐・下痢の症状があれば、腸炎ビブリオによる食中毒を考えなければなりません。
 サルモネラ菌は卵や肉類に付着しており、汚染された生卵や、加熱が不十分な焼肉などを食べることで感染し、数日後に発熱や嘔吐、下痢をおこします。自然状態では、サルモネラは家畜(牛、豚、鶏)の大腸に棲んでいます。肉は、屠殺して内臓を取り出す際に、腸の内容が漏れ出て、汚染されます。また、鶏卵は、卵自体が汚染されます。食品以外では、ミドリガメなどの両生類や、は虫類にも付着しており、これらの生き物を触った手で食べ物にさわることでも感染します。
 カンピロバクターは、鶏肉や牛乳を摂取した数日後に発熱、腹痛、下痢、ときに血便を来たします。サルモネラと同様に、家畜の腸管や生殖器、口腔内にすみついています。2005年の厚生労働省のデータによると、市販の鶏肉(冷蔵肉)の7割がカンピロバクターに汚染されています。カンピロバクターの発生は5月~6月と9月~10月がピークですが、近年冬季の発生も増えてきています。
 病原性大腸菌による感染症の多くは、毒素原性大腸菌による下痢です。この菌は小腸上部に感染して、コレラ様の毒素を産生し、腹痛と水様性の下痢を引き起こします。症状が重く、重要なのは腸管出血性大腸菌による感染症です。最近では漬け物やユッケによる食中毒の事例が報道されていたので、ご存知の方が多いと思います。大腸菌は菌の表面にある抗原の種類によって分類され、O-157O-111のほかに、O-26、O-128、O-145などが、ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌です。腸管出血性大腸菌は、腎不全や貧血をおこす溶血性尿毒症症候群を引きおこし、高齢者や小児では死亡率が高く、危険な菌です。
 大腸菌も、その名前が表しているように、動物の大腸に常在菌として生息しており、肉は汚染されています。また、海外でも野菜での感染事例が多く報告されており、肥料から汚染されている可能性があります。
 黄色ブドウ球菌は、弁当やおにぎりを食べた30分~6時間後に激しい嘔吐、腹痛、下痢で発症します。黄色ブドウ球菌はヒトの40%が保有していて、鼻やのどに生息しています。調理の際に食べ物に混入した黄色ブドウ球菌は、毒素をつくります。この毒素によって食中毒をおこします。調理の際、食べ物に直接手で触れないことが求められます。

表1:感染性腸炎の潜伏期間と代表的な食べ物
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Q2 感染性胃腸炎の予防法は?

 感染予防に一番有効なのは、手洗いです。すみずみまで洗うことで物理的に病原体をおとし、せっけんが細菌に効果を発揮します。
 最近よく目にするアルコール消毒は、ウイルスや一部の細菌に無効です。また、手に汚れがついていると、アルコールの消毒効果が弱まってしまいます。したがって、石けんでの手洗いが原則で、付加的にアルコール消毒を用いるべきです
 腸炎ビブリオはほとんどすべての魚介類についていますが、低温環境下では増えることができないため、4℃以下で冷蔵保存し新鮮なうちに食べれば予防できます。
 サルモネラやカンピロバクター、腸管出血性大腸菌は熱に弱いので、75℃以上で1分以上加熱すれば死滅します。卵料理や肉料理ではしっかり火を通しましょう。
 黄色ブドウ球菌は、菌自体より毒素が問題となります。菌は熱に弱いのですが、毒素は100℃30分間の加熱でも無毒化されません。夏の時期は、できるだけ「できたて」を食べるようにしましょう。

Q3 海外旅行に行くと下痢になる!? 予防対策はないの?

 海外旅行中、または帰国後に下痢になることもあります。これを旅行者下痢症(Traveler’s Diarrhea : TD)と言います。特に発展途上国では、不衛生な環境のため感染症が日常的に流行しており、1カ月の滞在で3~7割の旅行者がTDにかかります
 TDの80~90%は細菌性胃腸炎です。もっとも多いのが毒素原性大腸菌で、カンピロバクター、サルモネラ、赤痢菌などが続きます。A型肝炎やマラリア、ジアルジア症でも下痢をします。
 TDは1カ月以上続くことがあります。原因として、クロストリジウム・デフィシル感染症(Clostridium difficile infection:CDI、もしくはCD感染症)や感染後過敏性腸症候群(Post-infectious Irritable Bowel Syndrome:PI-IBS)があります。
 CD感染症は、抗生剤治療によって正常な腸内細菌が減って、抗生剤が効きにくいCD菌だけが増えておこる感染症です。治療には、メトロニダゾールなどの特殊な抗生剤を使います。
 PI-IBSは、感染によっておきた炎症がおさまらず、下痢や便秘などの胃腸症状が続く病気です。旅行者下痢症の一部に、PI-IBSが続発し、中には1年以上続くこともあります。(Am J Gastroenterol 2012 Jun; 107:891.)治療は通常の過敏性腸症候群と同様におこないます。

海外に行きたい人の旅行者下痢症の予防法は?

 まず、食べ物と飲み物に気をつけましょう。

[1]屋台やビュッフェ形式の食事は避ける
[2]フルーツはカットされたものを避け自分で皮をむいて食べるようにする
[3]水はミネラルウォーターや炭酸水などのボトルドウォーターを、自分で開封して飲む
[4]なるべく加熱してあるものを食べる
[5]氷は汚染されていることが多いので避ける
[6]歯磨きもボトルドウォーターを使う

 もちろん、手洗いも重要です。
 A型肝炎やマラリアは、ワクチンや内服薬で予防できます。トラベルクリニックや渡航者外来で相談しましょう。

Q4 感染症以外の下痢の原因……クローン病や潰瘍性大腸炎とは?

 下痢は感染症以外の原因でもおこります。
 クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患もその一つです。炎症性腸疾患は、腸の慢性炎症により下痢や腹痛をおこす病気です。原因ははっきりわかっていませんが、免疫の異常により、自分の腸管粘膜を敵と勘違いして攻撃してしまうと考えられています。10~20代の若年者で発症することが多く、よくなったり悪くなったりを繰り返します。「腸」疾患でありながら、関節炎、口内炎、皮膚や眼の異常(結節性紅斑、ぶどう膜炎)など腸以外の症状が出ることもあります。

表2:クローン病と潰瘍性大腸炎の比較
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出典:メルクマニュアル医学百科最新家庭版より抜粋 

 体力低下や「冷え」も下痢の原因になります。疲れがたまり元気がない状態では、胃腸の機能も低下し、下痢になることは以前説明いたしました(関連記事:熱中症って結局なに? 夏バテの“負のスパイラル”対策は?)。同様に、冷たいものの食べ過ぎも胃腸を冷やし、下痢になります。
 化学物質による下痢もあります。マグネシウムカフェインは便の通過速度を速くする作用があります。そのため、マグネシウムを多く含む硬水や、カフェインを含むコーヒー、紅茶、コーラなどが原因で下痢になることもあります。香辛料には胃腸を刺激し動かす作用があり、これも下痢をおこします。

Q5 どんな下痢がヤバイの?

 下痢や嘔吐で、人体は脱水状態になります。重度の脱水症を伴うときは、失神や不整脈をおこすことがあり、病院での治療が必要になります。とくに乳幼児や高齢者では、脱水症が重症化しやすいので注意しましょう。

表3:脱水症の重症度
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出典:WHO, The Treatment of Diarrhoea より抜粋

 ほかにも、以下に該当する人は医療機関を受診しましょう。

表4:こんな下痢に注意!!

・水分がとれないとき
・下痢に血がまじるとき
・38.5℃以上の高熱を伴うとき
・1日に6回以上の下痢が3日以上続くとき
・激しい腹痛を伴うとき
・70歳以上
・免疫の異常がある方
・慢性疾患をもっている方
・妊婦

※出典:Up To Date, Approach to the adult with acute diarrhea in developed countriesより抜粋

Q6 下痢になってしまった! 自分でできる対策と専門的な治療とは?

自分でできる対策

 まず、自分でもできることは、脱水症対策です。
 軽度の脱水症で水が飲めるのであれば、水分と電解質の補給で改善します。有効なのは、経口補水液(Oral Rehydration Solution;ORS)です。
 ORSは、1リットルの水に、食塩3gと砂糖40gを混ぜてつくることができます。最近では、OS-1(オーエスワン)などの既成品も販売されています。ただし、がぶ飲みは吐き気を誘発するので、少しずつ水分を摂るようにするといいでしょう。
 また、下痢の原因となるマグネシウムやカフェイン、香辛料などの摂取があれば中止しましょう。

医療機関を受診したらどんな下痢の治療をする?

 炎症性腸疾患には専門的な治療が必要なので、医療機関を受診しましょう。
 感染性胃腸炎の場合、細菌性かウイルス性かで治療が変わります。
 ウイルス性胃腸炎では抗生剤は不要です。一方、細菌性胃腸炎では抗生剤を使って治療する場合もあります。ただし、想定する細菌の種類によっては、抗生剤投与によって悪化したという報告もありますので、(NEJM 1987;317:1496-500)手持ちの抗生剤を自己判断で服用したりしないようにしましょう。
 症状に対しては、整腸薬や吐き気止めなどを使います。下痢止めは病原体の排出を妨げることになるので、極力使わないほうがいいです。

「夏の下痢」まとめ
・感染性胃腸炎にはウイルス性と細菌性がある
・日本での感染性胃腸炎の原因は、ノロウイルスをはじめとしたウイルスが多い
・旅行者下痢症の原因は、毒素原性大腸菌をはじめとした細菌が多い
・感染症以外にも、下痢の原因がある
・脱水症対策が大切
・抗生剤はむやみに使わない

■ 胃腸炎(2012年1月 読売新聞の特集)

(1)激しい下痢 O111抗体検出(2012年1月9日 読売新聞)

 富山県内の女性(16)は、2011年4月、経験したことのない激しい腹痛と下痢に襲われた。
 「最初は原因もわからず、どこかで悪いものを食べたんだろうと、軽く考えていました」と話す父(46)。だが症状は翌日になっても続き、学校を休んで、自宅でトイレに何度も駆け込んだ。大便に血が混じり、やがて出てくるのは、ほとんど血ばかりになった。
 近くの診療所を受診したところ、「血便が気になるので、大きな病院で調べてほしい」と言われ、病院の救急外来に駆け込んだ。
 詳しい検査を受けた結果、医師から「細菌かウイルスに感染して大腸から出血している」と告げられ、急きょ入院することになった。
 入院手続きを終えて帰宅した父親は、娘が3日前に食事をした焼き肉店で食中毒が発生したとのニュースを知った。その後、娘の血液からも腸管出血性大腸菌「O111」の抗体が検出された。
 腸管出血性大腸菌は、牛や鶏など家畜の腸内などに生息。加工する過程で菌が付着した肉を、十分に加熱せずに食べた場合などに感染する。菌が出す毒素(ベロ毒素)が、大腸内の粘膜を傷つけ、激しい腹痛や血便などの症状が表れる。
 父親によると、娘は焼き肉店で牛の生肉のユッケを食べていた。入院後も栄養や水分補給の点滴や、痛み止めの治療を受けたが、激しい腹痛と血便はなかなか治まらなかった。
 腸管出血性大腸菌の治療について、旧厚生省研究班は1997年、適切な抗生物質を早期に投与された患者は重症化しにくいとする「手引」をまとめている。東京都保健医療公社・荏原病院(東京・大田区)感染症内科部長の角田隆文さんは「発症から3日以内なら抗生物質の飲み薬を服用することで菌の量を減らせ、回復も早い」と話す。
 ただし「手引」では、抗生物質が菌を破壊した際に毒素があふれ、かえって増加したとの研究結果にも言及している。抗生物質を使用するかどうかは、患者の状況などを踏まえた、主治医の判断に委ねられているという。
 父親は自分でもインターネットで調べ、腸管出血性大腸菌の感染が重症化すると、命に関わる恐れがあることを知った。
 「何とか、持ち直してほしい」。祈るような思いだった。

 2011年4月、焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」でユッケを食べた客が、腸管出血性大腸菌(O111)による集団食中毒を発症。富山県のまとめ(11年12月現在)で、富山、福井、石川、神奈川の4県で計181人の患者を出し、富山で4人、福井で1人の計5人が死亡した。

胃腸炎(2)毒素で脳症や呼吸困難も(2012年1月10日 読売新聞)

 焼き肉店でユッケを食べ、腸管出血性大腸菌(O-111)に感染して2011年4月、緊急入院した富山県の女性(16)は、血尿が出て、腎臓の機能の低下もみられるようになった。赤血球が減り、血小板の数も健康な人の基準値を大きく下回った。父親(46)は担当医から、「HUS(溶血性尿毒症症候群)」と説明を受けた。
 腸管出血性大腸菌が吐き出すベロ毒素が、血液中の赤血球を破壊し、血管を傷つけて血小板の減少や腎機能の低下を招き、尿毒症を引き起こすのがHUSだ。菌はO157が代表的で、O26など多くの種類がある。
 東京都保健医療公社・荏原病院感染症内科部長の角田隆文さんによると、HUSには、輸血や人工透析などによって貧血や腎不全の悪化を防ぎつつ、回復を待つ治療を行う。だが毒素が脳や肺を攻撃すると、脳症や呼吸困難などを起こし、重い後遺症や命にかかわることもある。
 女性は入院して3日後、病院の勧めで医療スタッフや設備が整った大きな病院に転院した。血便と激しい腹痛は続いていた。
 父親が医師から受けた説明によると、5月になると、呼吸の状態を示す血液中の酸素濃度が低下し、肺には血がたまっていた。血小板が減って自然出血しやすくなり、肺の細かい血管が破れたためとみられた。
 呼吸困難が続き、集中治療室(ICU)に移った。人工呼吸器を付け、輸血が続けられた。たくさんのチューブにつながれた娘の姿に、父親は涙が出そうになり、「もう覚悟しなければならないのかな」と思った。
 急変に備えてそばの待機室で寝泊まりすることになったが、1日たつと、赤血球や血小板の低下が落ち着き、血中の酸素濃度も安定しはじめた。翌日にはICUから一般病棟に戻り、その後は順調に回復。しだいに普通の食事もとれるようになった。
 女性は5月下旬、1か月近くの入院生活を終え退院した。その後は通院で、赤血球や血小板の数も徐々に回復し、10月には通院も不要となった。
 今回の焼き肉チェーンの食中毒の被害者の中には、意識障害やけいれんを起こして亡くなった人、退院後も腎不全で人工透析を続けたり、運動機能の障害が残ったりと、後遺症に苦しむ人もいる。
 父親は「牛の肉は生でも食べられると思っていたし、飲食店が出すものは安全だと信じていた。娘のあの姿を見てからは、もう食べません」と語る。

胃腸炎(3)店任せだった生肉提供(2012年1月11日 読売新聞)

 富山県の焼き肉チェーンで2011年に発生した腸管出血性大腸菌(O-111)による食中毒事件で、菌のベロ毒素による溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した患者は32人、全体の17・6%に上る。従来、腸管出血性大腸菌のHUS発症率は3、4%とされるのに比べ、突出して高い。
 富山県衛生研究所や国立感染症研究所などによる研究班は、12年3月までに調査結果をまとめる予定だ。
 同県衛生研究所主幹研究員の綿引正則さんは「患者からは別の型の腸管出血性大腸菌O157も同時に検出された。また、菌の摂取量が多かった可能性もある。大きな被害を招いたことと関係あるのかどうか、探り出したい」と話す。
 この事件を機に、食中毒の引き金となった生肉の規制も強化された。
 厚生労働省が1998年に設けた生食用の食肉の衛生基準では、菌が付着しやすい肉の周囲を切り取る「トリミング」などについて定められた。
 しかし実際には、基準は形骸化。少なくとも2008~10年度に基準を満たした出荷実績があるのは、馬肉や馬のレバーのみで、牛肉はゼロだった。生肉を出すかどうかは店任せなのが実態だった。
 そこで厚労省と消費者庁は新たな基準を作り、11年10月に施行された。
 新基準では、枝肉から切り出した肉の塊を真空パックで密閉。さらに、塊の表面から深さ1センチ以上の部分を60度で2分間以上加熱殺菌し、冷やすといった処理を経なければ、生食用と表示して販売できない。
 飲食店が提供する際は、生肉は食中毒の危険性があり、抵抗力が弱い子供や高齢者などに対しては食べることを控えるよう、店頭やメニューで明記することを義務づけた。
 また、厚労省の調査では、従来存在が確認されなかった牛のレバーの内部からも、腸管出血性大腸菌が検出された。このため同省は、生レバーの提供を食品衛生法で禁止することも検討している。
 生レバーの規制について議論している同省薬事・食品衛生審議会「乳肉水産食品部会」委員の甲斐明美さん(東京都健康安全研究センター微生物部長)は、「魚介類の刺し身などの生食文化は日本人に根強い。だが、現時点で生の食肉の安全性が確保されていない以上、食べることを控えるのはやむを得ないのではないか」と指摘する。

胃腸炎(4)生の鶏肉にも病原体(2012年1月12日 読売新聞)

 生の食肉は、腸管出血性大腸菌のほか、カンピロバクターの感染にも注意が必要だ。
 カンピロバクターは鶏や牛などの腸内に生息している細菌だ。解体処理の過程で汚染された生の鶏肉や牛レバーなどから感染する。食中毒の原因病原体として、近年ではノロウイルスに次ぎ多い。
 東京都内で2006年11月、専門学校生7人が、鶏の刺し身や鶏わさ、鶏のから揚げなどを飲食店で食べた後、3日の間に下痢や腹痛、発熱を訴えた。保健所が、学生たちの便を調べたところ、全員からカンピロバクターが検出された。店が通常出している鶏の刺し身などからも見つかった。
 厚生労働省の食中毒菌汚染実態調査(10年度)によると、鶏のミンチ肉のカンピロバクターの汚染率は36%に上り、鶏たたきなど加工された半生の鶏肉は17%、生食用として販売されている牛レバーでも10%あった。
 東京都食品安全情報評価委員会は09年に、20歳以上の1000人を対象に、生肉がどれぐらいの人に食べられているかの実態調査を行った。その結果、3か月以内に食肉を生で食べた人は40%おり、よく食べているのは、牛肉のユッケ、鶏のたたきなどが多かった。
 一方、食肉を生で食べることで食中毒が起こる可能性について、「知っていた」「食肉の種類によっては知っていた」と答えたのは75%で、「食肉の鮮度にかかわらず発生することがある」ことを、「初めて聞いた」と答えた人も44%いた。
 カンピロバクターに感染しても通常は1週間程度で治る。ただし、まれに感染後1~3週間で手足のまひや呼吸困難などが起きる「ギラン・バレー症候群」を発症する例も報告されており、死亡例もある。
 実態調査に関わった東京医大兼任教授の中村明子さん(微生物学)は「特に抵抗力の弱い子どもが生肉を食べて、カンピロバクターに感染すると、重症化する恐れがある」と話す。
 湯引きした鶏肉も、時間が短いと中まで熱が十分通っておらず、菌が検出されることがある。鶏のつみれなど鍋物などに用いられるミンチ肉も菌に汚染されている恐れがあり、中までよく熱を通すことが大切だ。菌を死滅させるには、中心部を75度以上で1分間以上加熱する必要がある。
 専門学校生が06年に食中毒を起こした飲食店は、仕入れた鶏を店内で当日中にさばいており、「新鮮であれば細菌は少ない。鮮度には自信があり、自分の店は大丈夫」と誤解していた。
 中村さんは「鮮度の問題ではない。鶏の生肉には病原体が存在するのが当たり前と考え、食べないことが重要です」と指摘する。

胃腸炎(5)ノロ対策 適切な手洗い(2012年1月13日 読売新聞)

 関西地方の特別養護老人ホームで2005年12月、80歳代の入所者の女性が就寝中に突然、嘔吐
し始めた。翌日の昼食時には、別の入所者2人も激しく嘔吐し、さらに職員の間にも広がっていった。
 3日後には、発症者が10人に達し、施設では症状からノロウイルスの集団感染の可能性があるとみて、保健所に通報。職員と入所者4人の便の検査で、ノロウイルスが検出された。
 ノロウイルスは冬に流行しやすい感染力の強い病原体。少ない量でも感染する恐れがあり、発症すると、激しい嘔吐や下痢に襲われる。潜伏期間は2日前後と短く、ワクチンや治療薬はないが、通常は3日程度で自然に治る。だが、下痢などで脱水症状を起こしやすくなるため、こまめに水分補給することが大切だ。
 ウイルスは、加熱が不十分な二枚貝や、感染した人の大便や吐物に潜んでいる。子供や高齢者などが多く集まる施設では、床に飛散した患者の下痢便や、吐物の衛生管理などが不十分な時、指などに付着したウイルスが口に入ることで集団感染を招く恐れがある。
 腹痛や下痢が治まっても1週間程度は便にウイルスが潜んでいることもある。排便後の手洗いを徹底し、食品などを扱う時は使い捨ての手袋を着用するなどの注意が必要だ。
 東京都内で11年11月中旬、老人福祉施設の職員や看護師など約50人が参加し、感染症対策セミナーが開かれた。ノロウイルスなど施設内で集団発生しやすい感染症の予防や、発生時の対策について学んだ。
 実習では、便に見立てた液状の物質に特殊なクリームを混ぜ、オムツを処分する作業を体験。紫外線ランプに当てると青白く浮かび上がるクリームの性質を利用して、便に触れたかどうかが確認できる。
 参加者がランプの下に手をかざすと、便が手に付着してしまっていることが多かった。また、手全体にクリームを塗った後で手洗いをしてもらった実習では、洗い残しが浮かび上がった。老健施設に勤める40歳代の女性は「自分は大丈夫と思っていたのに、意外と汚れが落とせていないので、ショックです」と話す。
 講師を務めた感染管理認定看護師の森下幸子さんは「衛生管理に意識の高い介護職の人たちでさえも、なかなか難しい。繰り返し、適切な手洗いの方法を指導することが必要です」と強調する。(野村昌玄)

■ 感染症を防ぐ正しい手洗い法 指はねじるように洗う

(2011年12月20日 朝日新聞)

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手にはどれくらいの細菌がいる?正しい手洗いの手順 <グラフィック・くぬぎ太郎>

 12月も半ば、インフルエンザや感染性胃腸炎が流行のピークを迎える時期です。手洗いは基本の予防策の一つですが、自己流で洗ったつもりは禁物。正しい手洗い法を調べました。
    ◇
 手で鼻や口の周りを触ることでウイルスや細菌が体内に入ることを「接触感染」と呼ぶ。インフルエンザのほか、ノロウイルスやロタウイルスによる感染性胃腸炎、腸管出血性大腸菌などによる食中毒も、手が感染の橋渡しをする病気だ。
 接触感染を防ぐためには、見た目の汚れを落とすだけでは不十分。群馬県衛生環境研究所(前橋市)を訪ねた。
 「まずはいつも通りに手を洗って見せて下さい」と担当者。洗い残しがないかどうか、ひと目でわかるように、ブラックライトという特殊な光に反応するクリームを両手に塗る。暗い部屋でこの光を当てると、両方の手のひらも甲も、手首までクリームで真っ白になっていた。
 この状態で手を水でぬらし、泡状の液体せっけんをつけて、手のひらと甲をそれぞれ2往復ずつこすり合わせた。その後、指の間や手首をなでるように洗い、水で流した。かかった時間はすすぎも含めて30秒ほどだ。
 改めて両手にブラックライトを当てると、手のひらや甲は白色がやや薄くなっていたものの、指や手首は真っ白のまま。
 次は、教えられた方法で洗ってみる。手のひらから甲、指、手首へと進み、それぞれ心の中で1~10まで数えながら洗った。約2分かかった。
    ◇
 再びブラックライトの下に手を入れると、手のひらや甲はクリームがほぼ落ちていたが、指先や指の関節の周り、しっかり洗ったつもりだった手首はまだ白さが残っていた。
 「指はもっとねじり洗いするといいですよ」と言われ、片手の指1本ずつをもう一方の手で包み込んで回転させながら洗う。今度は、ほぼ完全に落ちた。洗った手はペーパータオルか、自分専用のタオルで拭くのが一番いい。自宅で常にタオルを使い分けるのは難しいが、家族の誰かが感染症にかかった時は手間を惜しまないようにしたい。
 静岡県立大の内藤博敬助教(微生物学)の研究室は、人間の身の回りの物に付着する細菌の数を調べている。例えば、携帯電話なら10平方センチメートル当たり1216個、エレベーターのボタンで490個、電車のつり革からは190個という結果が出た。
 見つかったのは、健康な人には病気を起こさない「一般細菌」がほとんどだったが、食中毒や院内感染の原因になる菌もわずかにいた。
 内藤さんは「アルコールなどの薬剤による消毒が必要な感染症もあるが、ふだんの生活ではまずは手洗いでしっかりとウイルスや細菌を落とすことが予防の基本です」と話している。(南宏美)

 ◆インフォメーション

 洗剤や消毒剤メーカーのサラヤが運営するウェブサイト「みんなの手洗いサイト」(http://tearai.jp/tetete/)は、イラストやクイズで、正しい手洗い法を楽しく学べる。子どもにおすすめ。杏林製薬による「ミルトンママクラブ」(http://www.miltonmama.jp/)も手洗いなど、家庭でできる感染症の対策を紹介している。

■ ロタウイルス:冬~春に流行の感染性嘔吐下痢症、ワクチン早めに(2011年11月:毎日新聞)

 ロタウイルス感染を予防するワクチン「ロタリックス」が、21日から各地の医療機関で接種できるようになる。ロタウイルスは冬から春に流行する感染性胃腸炎の主な原因となる。病気の特徴やワクチン接種の注意点をまとめた。【田村佳子】

 ◇重症化を予防/国の承認、生後6カ月まで

 東京都中央区の熊本真由美さん(44)は7月、鹿児島県内の実家に里帰り中に、妹(41)の次男(1)のロタウイルス感染に遭遇した。幼稚園児の長男(3)が2日ほど嘔吐(おうと)・下痢を繰り返し、治ってほっとした直後に次男が朝食を吐き、ひどい下痢が始まった。
 地元のこども病院を受診し、吐き気止めの点滴を受けても嘔吐。その日の夕方には別の救急病院に入院した。本人はぐったりして泣く気力もなかったという。「下痢が1日10回以下になれば退院」と言われたが回復は遅く、8日目にようやく退院できた。
 その間、妹を中心に交代で看病し、熊本さんは便で汚れた衣類の消毒・洗濯、妹夫婦の弁当作りや長男の世話にも追われた。「小さな体に点滴が痛々しかった。入院中は自営業の妹夫婦の生活もめちゃめちゃだった」と振り返る。退院後に妹らも感染した。
 「ワクチンがあるなら勧めたい。重症化したら本人も家族も大変です」
     *
 ロタウイルスの感染症は「嘔吐下痢症」とも呼ばれるように、嘔吐と下痢を繰り返す。便が白っぽくなるのも特徴だ。感染力が非常に強く10個以下のウイルスでも発症する。患者の便や吐しゃ物1グラムには最大1兆個のウイルスがあり、保護者や保育園内に感染が広がることも多い。
 感染性胃腸炎の原因ではノロウイルスが有名だが、「ロタの方が症状は重い」と日本小児感染症学会の田島剛理事は話す。5歳までにほぼ全員がかかり、初めの感染時の症状が重くなりやすい。ワクチンは重症化を防ぐとされ、効果自体は約3年間続く。
 WHO(世界保健機関)はロタウイルスワクチンを「すべての子どもに接種を勧める」としている。衛生状態の良い日本ではその怖さが軽視されがちだが、毎年10人弱の死亡が報告され、2万~7万人強の乳幼児が入院していると推計される。
 同学会理事長の森島恒雄・岡山大学教授は「年間約1000例の急性脳炎のうち、ロタウイルスによるものは約40例。うち4%が死亡、38%に寝たきりなど重い後遺症が出ており、インフルエンザ脳症に比べても予後が良くない。ロタはけいれんを起こしやすく止めにくいこともあり、発症を防いだ方がいい」とワクチン接種を勧める。
     *
 ワクチン「ロタリックス」は生後6週から接種が可能。弱毒化した生ワクチンの液体1・5ミリリットルを、中4週間以上空けて2回、口から接種する。
 発売元のグラクソ・スミスクラインによると、国内では約500人に臨床試験を行い、2歳までにロタウイルス胃腸炎の発生を8割、重症化を9割以上減らした。接種後30日間の副作用の報告で多かったのはぐずりや不機嫌の37件、下痢18件、せきや鼻水17件。偽薬(プラセボ)を与えられた257人と比べると、副作用が有意に違う点はなかった。接種直後に胃腸炎を発症したとみられるケースは臨床試験でも海外の利用例でもないという。また、ベルギーではロタウイルスワクチンが定期接種に導入され、8割以上が接種を受け、流行が大きく抑えられた。
 注意すべきなのは、遅くとも生後5カ月までに接種開始が必要なことだ。過去に海外で使われた別のワクチンが腸重積(腸管の一部が腸管に入り込む病)を起こす可能性を指摘されたため、このワクチンは腸重積の自然発生が増える生後6カ月までしか国の承認を得ていない。それ以降は原則接種できず、接種を強行しても副作用が起きた場合に国の補償を受けられない。
 また、生ワクチンの接種後4週間はほかのワクチンが接種できないため、重症化しやすい髄膜炎を防ぐためにも「日本小児科学会などが勧めるように、生後2カ月でヒブ、肺炎球菌ワクチンなどとの同時接種を行うのが標準的な方法」と森島教授は勧める。
 国が行う定期接種ではないため、費用は原則、自己負担だ。病院によって多少異なるが、1回1万数千円と予想される。北海道幌加内町のように公費補助の方針を示す自治体は少ない。田島理事は「自治体や家庭の財政力によって、接種を受けられる子と受けられない子が出るのは明らかな問題。ほかの任意接種ワクチンとともに、国による無償の定期接種に切り替えるべきだ」と訴えている。

<参考HP>

(日本鼻科学会)

 山中昇先生による上記ガイドラインの解説記事