RSウイルス感染症

 RSウイルスは乳幼児期に何回も罹る呼吸器感染症です。
 生まれてから最初の冬に初めて罹った時は重症化しやすく、ゼーゼーして呼吸がつらくなる傾向がありますので要注意。
 繰り返す度に軽く済むようになり、幼児期以降はふつうの風邪で経過します。

■ RSウイルス感染症(急性細気管支炎)

 毎年寒い季節になると赤ちゃんがゼーゼーする風邪が流行ります。始まりはふつうの咳ですが、数日後には咳が悪化してゼーゼー苦しそうな呼吸となり家族を心配させるイヤな風邪です。この風邪の原因で一番多いのがRSウイルスです。どんな病気なのか、まとめてみました。

どんな病気?

 秋から冬にかけて流行する風邪(呼吸器感染症)で、ほとんどの子どもは2歳までに少なくとも1回はRSウイルスに罹ります。初回の感染は重くなりやすい傾向があります。
 1歳未満ではゼーゼーする下気道炎(喘息様気管支炎、細気管支炎、肺炎)になりやすく、少ないながら入院が必要になるほど重症化することもあります。
 その後も繰り返し感染しますがだんだん症状は軽くなり、3歳以降では重症化はまれで、大人では「咳の頑固な風邪」として経過します。

原因

 RSウイルス(RNAウイルス)

感染径路

 ヒトの気道分泌物(痰、唾液)の飛沫・直接接触

疫学

生まれたばかりの赤ちゃんも罹る・・・お母さんからもらった免疫は無効。
みんな罹る・・・全乳児の2/3が初めての冬に罹患し、2歳までにほとんどの乳児が感染します。
何回も罹る・・・終生免疫は成立せず、何回も罹るので繰り返し流行します。大人も罹ります。ひとシーズン内で再感染する子どももいます(回復後2〜3週で再感染可能となるそうです)。
季節性:晩秋〜春(沖縄では夏にも流行します)。インフルエンザの流行が始まるとRSウイルス患者は減少する傾向が以前から指摘されています。

潜伏期間

 2〜8(通常4〜6)日間

ウイルス排泄期間

 3〜8日間(※)・・・初感染と再感染では期間が異なるようです。
乳幼児では3〜4週間も気道からのウイルス排泄が続くことが報告されています。つまり、乳児を預かる保育園では症状が落ち着いて登園してきた子ども達からも感染が広がる可能性があると言うことです。しかし、1ヶ月も園を休むことは現実的ではありませんし・・・悩ましい問題です。

症状 

発熱:必発ではなく、高熱が続くことはむしろ希です。
鼻汁鼻水が多いのがRSの特徴です。始まりから終わりまで続き、次第に粘稠かつ多量になります。
咳/喘鳴(ゼーゼー):炎症が喉にとどまっているときは咳だけですが長く続き「頑固な咳」です。後鼻漏(鼻が喉の奥に垂れる)が原因の咳も目立ち、起床時や臥床後にみられ、多量になると夜間睡眠中にも見られます。
 乳幼児では炎症が気管支に達するとゼーゼーし、もっと奥に進行して「細気管支炎」を起こすと呼吸困難(多呼吸・陥没呼吸)に陥ることがあります。

※ 子どもがゼーゼーすると「喘息では?」と心配になります。簡単な見分け方は、喘息では気管支拡張剤(ベネトリンやメプチンなど)の吸入が有効ですが、RSによるゼーゼーでは無効なことです。ちなみに1歳未満で喘息と診断されることはほとんどありません。

乳児期の初感染の特徴
 発熱、鼻汁、咳などの上気道炎症状ではじまり、
 ①(70%)数日で軽快・治癒
 ②(30%数日後に喘鳴、時に呼吸困難などの細気管支炎の症状を呈します
 ③( 3%)重症化し入院治療が必要になります
 生後1ヶ月以内の乳児が感染すると哺乳不良、不機嫌、傾眠など咳以外の症状が目立ち「無呼吸発作」を起こして重症化することがあります。

年齢による症状の違い
・細気管支炎 ・・・生後6ヶ月未満に多い
・喘鳴を伴う肺炎 ・・・3歳未満に多い
・喘鳴を伴う気管支炎(いわゆる喘息様気管支炎) ・・・4歳未満まで見られます
・喘鳴を伴わない肺炎 ・・・5歳未満まで見られます

(院長のつぶやき)冬季に受診する咳のひどい患者さんで、聴診器で肺雑音が聞こえると気管支炎と診断して幼児期以降であれば抗生物質を処方します。治る患者さんは細菌感染かマイコプラズマ、治らずに病院へ紹介する患者さんはたいていこのRSウイルスによる気管支炎です。

合併症

中耳炎(30〜80%!):耳を気にするしぐさや再発熱/発熱遷延例で疑います。
・脳症

診断

・迅速診断キットがあります。
※ 従来保険適応は入院患者のみでしたが、2011年に外来でも使用できるようになりました。
※ 症状からは流行期が重なるインフルエンザと見分けることは困難です。

治療

 RSウイルスを退治する特効薬は日本にはありません(※)。
 「薬が効かないのがRSウイルスの特徴」と云ってもいいくらいです。咳止め、痰を切る薬、鼻汁・痰の吸引など、症状を和らげる対症療法が中心です。
 呼吸困難感が強く、顔色が悪い状態では入院治療が必要となります。入院すると点滴や気道吸引の他、必要に応じて酸素吸入・人工呼吸管理などが行われます。

リバビリンという薬が外国では発売されていますが効果の評価は定まっていません。他の抗ウイルス物質として、アンチセンス薬や short interfering RNA の臨床応用が期待されています。

予防

手洗いの励行・・・患児の鼻汁に含まれるウイルスは皮膚や衣服、おもちゃなどの物品や器具、それらに接触した手指においても感染性を持ち続けます(物品では5時間、手指では30分とのデータ有り)。
・ワクチンは現時点ではありません。1960年代に開発されたことがありますが失敗したそうです。

※ パリビズマブ(商品名:シナジス®)について;
 特にハイリスクなのは低出生体重児、生まれつきの心臓の病気、肺の病気、免疫力が低下する病気の子どもで、早期産児では修正月齢4週間までハイリスクです。主治医から予防措置(シナジス®の筋肉注射)の説明があるはずです(適応は<医学メモ>参照)。
 シナジスの有効性:入院率の減少効果として評価すると、早期産児では78%、慢性肺疾患(CLD)児では39%、重症先天性心疾患児では45%という報告があります。

予後

 RSウイルスによる細気管支炎にかかった子どもはその後も風邪を引く度にゼーゼーする傾向がありますが、数年の経過で減少します。将来喘息発症の引き金になるかどうかは学会レベルでも議論中で結論は出ていません

★ RSウイルスと似た「ヒトメタニューモウイルス」感染症

原因:ヒトメタニューモウイルス(hMPV)・・・2001年に発見されたニューフェイス。RNAウイルス。
疫学:小児のウイルス性呼吸器感染症の5〜10%、成人の2〜4%の原因となっています。
・好発年齢:1〜2歳(平均年齢は2歳6ヶ月)・・・血清抗体陽性率の解析より、母親からの移行抗体が消失する頃から初感染が始まり、遅くとも10歳までに一度は全員が感染を経験しています。
・流行季節:3〜6ヶ月
・集団感染:インフルエンザ、RSウイルスと同様に家族内感染・施設内感染を発生させます。
・不顕性感染率:不明
・再感染:罹っても十分な免疫を獲得できず、何度も再感染を起こし、繰り返していくうちに免疫力が強くなり軽症化していると考えられています。
感染様式:飛沫感染&接触感染
潜伏期:4〜6日(ウイルス排泄は1〜2週間持続)
症状:ゼーゼー(喘鳴)を伴う気管支炎(いわゆる喘息様気管支炎)が一番多いパターンで、その他に上気道炎、気管支炎、肺炎が続きます。
・発熱(90%以上)・・・平均5日(RSVより長い)で高熱のため熱性けいれんを起こすこともあります。ふつう1週間程度で改善し、それ以上長引くときは細菌性中耳炎や下気道感染を疑うべきです。
・咳嗽(90%以上)・・・呼気時の笛様音(ゼーゼー/ヒューヒュー)と吸気時のゼロゼロが特徴であり、症状だけではRSV感染症と見分けるのは困難です。
 以上より、臨床症状の特徴と診断については以下のように表現できそうです;

 インフルエンザのような高熱の持続とRSV感染症のようなゼーゼーが一緒になった症状。乳幼児が春に喘鳴、発熱を伴う気道感染で受診し、RSウイルスが陰性の場合にhMPVを疑います、

合併症
・中耳炎(数十%、主に細菌の二次感染)
・喘息発作の悪化因子:小児ではライノウイルスが有名ですが、hMPV感染症患者の10〜15%に喘息発作の悪化が観察されています。
治療:特効薬はなく、対症療法のみ。
予後:(RSウイルスと入院率を比較したデータは見あたりませんでした)
・免疫不全状態(白血病、移植患者)では重症化し致死的下気道感染症に注意が必要です。

<新聞記事より>

 RSウイルス感染症に関する記事を拾い読み。

■ 親の65%が知らない、乳児にとって最も危険な感染症・RSウイルスの対策とは? [2013/08/28:マイナビ]

 感染症の中で最も頻度の高い重要な病気と言えば、インフルエンザを想起する人が多いだろう。しかし、乳幼児に関していうと、重病化のリスクが高いのみならず、一生にも影響する感染症として、医師は「RSウイルス感染症」への注意を促している。では実際、どのような感染症で、どう予防・治療ができるのだろうか。

初期症状は風邪と同じ

 そもそも、「RSウイルス」とは何か。東京女子医科大学東医療センター・周産期新生児診療部の長谷川久弥先生によると、感染すると咳(せき)や鼻水、発熱などと通常の風邪と同じ症状(上気道炎)に加え、ゼーゼーという雑音を含む喘鳴(ぜんめい)や陥没(かんぼつ)呼吸が見られる症状(下気道炎)だという。
 大人が感染した場合、症状は風邪程度で収まるが、乳児の場合は下気道炎にまで重症になりやすく、乳幼児期の呼吸器感染症としては最も重要な疾患とされている。米国で1990年~1998年に集計されたデータによると、全体ではインフルエンザ患者の方が死亡者が多いが、1歳未満ではRSウイルス患者の方が死亡者が多いという報告もある。
 また、RSウイルスは永続性抗体をつくりにくいため、現在、有効なワクチンがなく、何回も感染する恐れがある。加えて、将来的に肺機能に影響を及ぼすため、喘息(ぜんそく)になりやすく、気道が閉塞状態になる「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」のリスクを高めてしまう可能性が指摘されている。

2013年の感染は過去最高を予想

 RSウイルスは、本州では9月~3月にかけて活発になる。近年、RSウイルス患者は増えており、2012年は過去最高の患者数となった。2013年は2012年のペースを越えており、既に過去最高になることが予想されている。
 進入経路は通常のウイルスと同様、鼻粘膜や眼瞼結膜(がんけんけつまく)からで、接触・飛沫(ひまつ)によって感染する。潜伏期間は2~8日(平均4~5日)であり、排出は通常入院後より5~12日だが、1週間で排出されるインフルエンザと異なり、長い例では3週間以上かかる場合があるという。
 医薬品企業であるアッヴィは2013年6月に、2歳未満の乳幼児を持つ両親1,030人(母親824人、父親206人)を対象に、乳幼児の感染症に関する調査を実施した。その調査では、RSウイルス感染症がどのような症状なのかを理解している人は37.1%にとどまり、名前は聞いたことがあるという人は41.7%、知らないという人は23.2%で、6割以上の人がどんな症状なのかを知らないという結果となった。

うがい・手洗いとともに受診の判断も

 長谷川先生はRSウイルス感染症が重病化しやすいリスク要因として、「早産児もしくは在胎期間が35週以下」「気管支肺異形成症(BPD)」「先天性心疾患(CHD)」「免疫不全」「染色体異常」を挙げている。その他、日常生活におけるリスク要因は以下である。

・兄弟姉妹がいる
・保育施設を利用している
・家族に喫煙者がいる
・男児である
・RSウイルス流行期前半に出生している
・母乳保育期間が短い

 これらの項目は、RSウイルスが接触・飛沫によって感染することや、呼吸系を弱めてしまう原因であること、また、免疫力の低下などが背景にある。特に乳幼児は家族内感染が主な感染ルートとなるので、注意が必要である。では実際、どのようにして予防・対策ができるのか。長谷川先生は以下の方法を推奨している。

・家族全員に手洗いを励行する
・親子ともに、風邪を引いた人との接触を避ける
・特にRSウイルス流行期には、次のような場所・行動を避ける
 - 受動喫煙の環境
 - 人の出入りの多い場所
 - 保育所の利用
 - 乳幼児と兄弟(学童、幼稚園児)との接触
・室内を適度な温度(26~28度)、湿度(40%以上)に保ち、こまめに換気・掃除をして清潔を保つ
・感染しやすい乳幼児の寝室を他の家族と別にする
・先天性心疾患や慢性肺疾患など、ハイリスク乳幼児の風邪症状に留意し、症状が認められたら直ちに受診させる

健康保険が適用される場合もある

 初期症状は風邪と同様のため、RSウイルス感染症か判断に迷ったときは、病院で検査することも大切だ。現状、RSウイルスに対するワクチンはないが、感染後の重症化を防ぐ注射薬「パリビズマブ(商品名:シナジス)」は日本でも認可されている。この注射薬は毎月の投与が必要となり、医療費も高額(生後3カ月・6kgの乳児への投与は1回15万2,000円程度)となるが、早産児や先天性心疾患などのリスクファクターを有する乳児に対しては、健康保険が適用される。
 注射薬の投与が受けられる病院は、スモールベイビー.comより検索することができる。長谷川先生によると、RSウイルスは乳幼児の時期における感染数が多いほど、将来的な肺機能障害へのリスクが高まるため、とりわけ2歳未満の乳幼児に対しては、インフルエンザ以上に予防を徹底する必要があるという。流行期を迎える前に乳幼児をとりまく環境を見直し、適切な対策を心がけたい。

■ 千葉 福祉施設でヒトメタニューモウイルス集団感染を確認(2013-07-11 ハザード・ラボ

 国立感染症研究所は11日、今年4月下旬から5月中旬にかけて、千葉県千葉市内の高齢者福祉施設で、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)により、53人が集団感染していたとの報告を発表した。
 hMPVは、従来「風邪」とされてきた「発熱、のどの痛み、せき」などの呼吸器症状の原因ウイルスの一種として2001年に発見されたもので、大人の場合はせいぜい気管支炎などの比較的軽い症状ですむが、乳幼児や高齢者が感染すると悪化して肺炎になったり、時には脳炎や脳症を引き起こす危険性があると言われている。
 また最近は、このhMPVがぜんそくの誘因になっている可能性があるとの研究も報告されている。
 今回の調査によると、4月27日から5月20にかけて、千葉市内の福祉施設の入所者51人、職員2人の計53人が「発熱、のどの痛み、せき」などの症状を訴え、うち15人が重傷化し肺炎症状となった。
 肺炎症状となった15人のうち14人は62歳以上の高齢者。
 同集団感染は、感染拡大防止策として、施設内の消毒や、発症者の隔離などを行なうことによって5月20日に終息したとのこと。
 hMPVは2月から6月にかけて流行するが、千葉市内では3月から5月にかけて、上気道炎などと診断された別の8人からもhMPVが検出されている。
 なおこのhMPVに対する有効なワクチンは現在のところ発見されていない。

■ ヒトメタニューモウイルス感染症に注意(2013. 3. 12:日経メディカル

 RSウイルスやインフルエンザと症状が似ており、2~4月に流行のピークを迎えるヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染症。認知度の低い感染症だが、まれに脳炎・脳症などの重篤な状態に陥ることがある。プライマリケア医は的確に鑑別し、症状の経過を把握する必要がある。
 山形大感染症学講座准教授の松嵜葉子氏が、2009年12月~2010年5月までに山形市立病院済生館(山形市)へ呼吸器感染症で入院した小児の患者258人の病原ウイルスを調べたところ、hMPV感染症患者は全体の18%にも上り、30%を占めるRSウイルス感染症に次ぐ多さだったことが分かった。「hMPV感染症はあまり知られていない急性呼吸器疾患だが、RSウイルス感染症と同様に患者数が多い。重症化する患者もいるため、しっかり鑑別する必要がある」と松嵜氏は言う。
 hMPVは、2001年にオランダで発見されたパラミクソウイルス科に属するウイルスで、RSウイルスと遺伝的に近縁であることが明らかになっている。遺伝子型はA1、A2、B1、B2の4つが知られており、いずれもRSウイルス感染症のような症状を呈する。国内ではまだ分離や培養が難しく、認知度の低い疾患だ。

流行時期、年齢、症状が鑑別のポイント

 hMPVの感染は生後6カ月ごろから始まり、2歳までに約半数、遅くとも10歳までにほぼ全ての小児が初感染する。主に発熱と咳が生じ、1~3歳の小児では38~39℃の熱が4~5日続く。1回の感染では、十分な免疫を得られないため、成人でも再感染を繰り返す。
 小児は、咳や熱を来す様々なウイルス感染症にかかりやすい。そのため、hMPV感染症と他のウイルス感染症との鑑別は容易ではない。鑑別には「ウイルス感染症の流行時期、患者の年齢、臨床症状を参考にすることが重要だ」と松嵜氏は言う。
 呼吸器感染症の原因ウイルスは、季節によって異なる。主に夏を中心に流行するコクサッキーウイルスやエンテロウイルスなどによるウイルス感染症では、扁桃炎や発疹、手足口病など様々な症状を呈する。一方、冬から春に流行するのは、咳症状を生じるケースが多いインフルエンザやhMPVなどによる感染症だ。
 山辺こどもクリニック(山形県)院長の板垣勉氏は「地域によって流行時期は多少異なるが、11~12月はRSウイルスやパラインフルエンザが流行。その後の1~3月にインフルエンザの患者が来院する。hMPVの流行時期は2~4月ごろと理解しておくと鑑別しやすくなる」と言う。
 ただし松嵜氏らが、2005年1月~2012年10月に山形県衛生研究所へ届けられた検体から分離されたインフルエンザA型とhMPVの流行時期を比較したところ、流行が重複する時期があることが明らかになった(図1)。板垣氏は「発熱後に咳が出て、年長児では咽頭にイクラ様所見があればインフルエンザが強く疑われる。臨床所見や簡易キットを用いてインフルエンザが否定された場合、hMPV感染症である可能性が高い。症状がよく似ているRSウイルスとは流行時期がずれることが多い」と鑑別のポイントを説明する。

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図1 A型インフルエンザとの流行時期の比較(提供:松嵜氏)
2005年1月~2012年10月に山形県衛生研究所へ届けられた検体から分離されたA型インフルエンザとhMPVの数から流行時期を比較した。

3歳未満に多い発症

 hMPV感染症は発症年齢にも特徴がある。松嵜氏らが、2004~2007年に山辺こどもクリニックを急性呼吸器感染症で受診し、鼻咽腔吸引液からhMPVが分離された小児131人を検討した結果、発症の平均年齢は3歳4カ月で、ピークは1~2歳だった。また、発症者の68%が3歳未満で、1歳未満は少ないことも明らかになった。
 「罹患年齢は、1歳未満に多いとされるRSウイルスよりもやや高い。通園または通学施設で集団感染する例が多いようだ」と松嵜氏は言う。

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図2 hMPV感染症による年齢別の有熱日数(提供:松嵜氏)

 臨床症状は、罹患年齢が高くなるとともに軽くなる(図2)。1~3歳の発症者では、咳が出ると同日か翌日に発熱し、鼻汁が出る。発熱は5日前後続き、咳は1週間以上続く例が多い。発熱後3~4日くらいには喘鳴やラ音が聴取され、気管支炎や下気道炎を起こす症例もある。白血球数、CRPなどの血液検査値は、一般的なウイルス感染症と違いはない。感染時に鼻咽腔に存在するウイルス量は5日以降に減少する。再感染を繰り返すため、年齢が高くなるとともに症状は軽くなり、発熱は1~2日前後で収まるようになる。
 なお、6カ月未満の小児では、母親からの移行抗体の影響からか発熱するケースは少ない。ただ、1歳未満の小児は「解剖学的に気道や鼻腔が狭いため、鼻閉による呼吸苦を伴う場合がある。呼吸状態が悪い例や患者家族が不安を訴えたら入院を考慮したい」と板垣氏は語る。
 鼻咽腔吸引液はRSウイルスと同様に、粘性が強く透明から乳白色の鼻汁が多く認められる。アデノウイルスでは黄色に近い色の吸引物、ライノウイルスでは“青っ鼻”と呼ばれるような青みがかった色の鼻汁を呈する患児が多いため、このような臨床所見も鑑別の参考になる。

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山辺こどもクリニックの板垣勉氏は、「地域によって流行時期は異なるが、2~4月ごろがhMPVの流行時期と理解しておくと鑑別しやすい」と話す。

 報告数は少ないものの、hMPV感染症に伴い脳炎・脳症を来した症例もある。また、RSウイルスなどの他のウイルスや細菌との混合感染によって重篤な肺炎を来した例が報告されている。そのため医師は「経過をこまめに観察する必要がある。細菌感染などによる2峰性の発熱がないか、肺炎を合併していないかなども的確に判断しなければならない。熱が5日以上続く患児では細菌感染を合併している可能性が高いため、抗菌薬の投与を考慮する」と板垣氏は話す。

確定診断はRT-PCR法や簡易キットで

 これまで、hMPV感染症の確定診断には、ウイルスの分離やRT-PCR法などを用いた診断が実施されていた。しかし、ウイルスの分離・培養には熟練を要する上に2週間以上かかり、RT-PCR法は専用の機器が必要となる。こうした問題を解消したものとして、昨年4月にはイムノクロマトグラフィー法による迅速抗原検出キット「チェックhMPV」(販売:Meiji Seika ファルマ)が発売された。このキットを用いれば15分で診断が可能なため、診療所でも容易に確認ができる。
 松嵜氏らが、2007~2008年に複数施設で同キットを使用した結果をリアルタイムPCR法と比較したところ、感度は82.3%、特異度は93.8%で、発熱から4日以内に採取した検体を用いた場合は感度90%と良好な成績が得られた。ただし、簡易キットを用いたhMPV感染症の診断は保険適用外である上、キットは1検体に付き2000円と高価だ。そのため、「疑われる患者全例をキットで診断するのは困難だ」と松嵜氏は話す。

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症例1 ヒトメタニューモウイルス感染症を来した11カ月男児(提供:板垣氏、松嵜氏)

 hMPV感染症は幼稚園や保育園、小学校といった施設内での感染や、家族内感染が多い疾患である。そのため、「流行時期に数例の患児をキットなどを用いて同定しておけば、同じ施設内での流行を把握できる。家庭内や通っている保育園などの施設に同様の症状を来していた発症者がいなかったかなどの情報を集めることが重要だ」と松嵜氏は説明する。
 特に罹患者の家庭内に他の乳幼児がいる場合は、5~6日後に乳幼児が同様の症状を来す可能性が高い(症例1)。「患者家族に事前に伝えておくべきだ」と板垣氏は指摘する。
 治療は、鼻汁の除去や痰の排泄助長など、症状の重症度に応じた対症療法が基本となる。板垣氏は「全例で鼻汁吸引を実施しているほか、気管支拡張薬や去痰薬を使用している。鼻閉が強くなる1歳以下、アレルギー性鼻炎や喘息のある患児では抗ロイコトリエン薬を処方するケースもある。また喘鳴のある患児には、クロモグリク酸ナトリウム(商品名インタール)とプロカテロール(メプチン他)吸入液の混合吸入療法を併用する場合もある。粘性の強い鼻汁があり、咳によって咽頭痛と嗄声が起きた4歳以上の症例にはジヒドロコデインリン酸塩を就寝前に頓用することもある」と言う。ブデソニド(商品名パルミコート)の吸入などを使用している施設もあるほか、重症のhMPV感染患者にリバビリン(レベトール他)や免疫グロブリンを使用し有効だったという報告もある。

高齢者施設での集団感染報告も

 一方、小児だけではなく高齢者でも多くの発症者が報告されている。鳥取県西部の介護老人保健施設で2006年4月21日~5月8日の18日間に26人が急性呼吸器感染症を発症したケースについて、西伯病院(鳥取県南部町)内科副部長の田村啓達氏が患者から検体を採取してRT-PCRを実施したところ、hMPVが検出された。
 発症者の8割が咳嗽を生じ、3割が呼吸困難、2割が低酸素血症を来していた。田村氏は、「違う施設で2003年3~4月に集団感染が起きたRSウイルス感染症と比較すると、臨床病型から重症度は低い印象はあるが、基礎疾患として心不全や気管支喘息がある患者では、急性増悪や肺炎を起こす可能性が高い」と語る(表1)。
 松嵜氏も「RSウイルスと同じように低出生体重児や臓器移植患者、免疫力の低下した高齢者などでは重症化し、死亡する可能性がある。的確に鑑別を行い、症状の経過を把握した上で診療すべきだ」と話している。

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表1 RSウイルスとhMPVによる臨床病型の比較(提供:田村氏)
鳥取県内のそれぞれ違う施設で発生したRSウイルス集団感染とhMPVウイルス集団感染の事例を比較した。

■ 5歳未満入院の0.1%にヒトメタニューモウイルスが関係(2013. 3. 5:日経メディカル)

NEJM誌から

ウイルスによる疾病負荷はインフルエンザ並み

 2001年に発見されたヒトメタニューモウイルス(HMPV)が、米国の5歳未満小児の入院1000件当たり1件、外来受診1000件当たり55件に関係していることが明らかになった。米Vanderbilt大医学部のKathryn M. Edwards氏らの調査結果で、論文は、NEJM誌2013年2月14日号に掲載された。
 HMPVはパラミクソウイルス科に属し、小児や高齢者、慢性疾患患者などの急性呼吸器疾患と入院に関係すると考えられている。ただしこれまで、乳幼児の入院と外来受診にHMPVがどの程度の影響を及ぼしているかは明らかになっていなかった。
 著者らは米国の3郡で住民を対象とする前向き調査を行い、03~09年の6回の流行期(各11~5月まで)における5歳未満小児のHMPV感染関連入院や外来受診、救急部門受診の件数を調べた。
 急性呼吸器疾患または発熱で入院した患者を48時間以内に登録。並行して、外来受診患者を週に1~2日、救急部門を受診した患者についても週に1~4日間調査を行い、急性呼吸器疾患または発熱の患者を登録した。対照群は同じ3郡に住む5歳未満の健康な小児とした。臨床データと人口統計学的データは医療記録から、また質問票を用いて患者と保護者から入手した。HMPVは鼻または喉から採取したスワブ標本を対象にRT-PCR法で検出した。
 条件を満たしたのは1万518人で、HMPV感染が確認されたのは、そのうち646人だった。対照群でも、10人で無症候性ながら感染を確認した。
 入院小児では、3490人中200人(6%)がHMPVに感染していた。HMPVが陽性だった入院小児は、HMPVが陰性だった入院小児に比べ、年齢が高く(中央値はそれぞれ生後13カ月、6カ月、P<0.001)、ハイリスクとなる併存疾患(喘息や慢性肺疾患など)を有する割合が高く(40%、30%、P=0.002)、酸素補給を必要とした患者が多く(53%、36%、P<0.001)、集中治療部門(ICU)滞在期間は長く(4.5日、2.0日、P=0.01)、胸部X線検査を受けた割合も高かった(86%、70%、P<0.001)。また、入院中に肺炎と診断された患者はHMPV陽性群に多かった(50%、22%)。ただし、入院期間に有意差はなかった。
 5歳未満全体における年間のHMPV関連入院率は、入院1000件当たり1件だった。月齢で分けると、生後6カ月未満で3件、6~11カ月で2件と年齢が低いほど入院率が高かった。
 著者らによると、この入院率は、インフルエンザウイルス関連の感染症や、1~3型のパラインフルエンザウイルス関連の感染症による入院率と同じで、RSウイルス(RSV)感染に関係する入院率(1000件当たり3件)より低いという。すなわち、HMPVが5歳未満の小児の入院に及ぼす影響は、他の一般的な呼吸器ウイルス感染とほぼ同様と考えられた。また、米国の人口データから、5歳未満の小児約2万人が毎年HMPV感染で入院していると推計された。
 外来受診についても同様の分析を行った。HMPV陽性者は小児3257人中222人(7%)で、陽性者では陰性者より肺炎や喘息と診断された患者が多かった。HMPV感染関連の年間外来受診率は、5歳未満全体の外来受診1000件当たり55件だった。月齢別では、6カ月未満では58件、6~11カ月で102件、12~23カ月で75件、24~59カ月で39件だった。
 救急部門を受診した小児では、3001人中224人(7%)がHMPVが陽性だった。HMPV感染関連の救急部門受診率は、5歳未満全体では1000件当たり13件だった。月齢別では、6カ月未満で16件、6~11カ月で29件、12~23カ月で17件、24~59カ月で9件だった。
 外来受診1000件当たり55件、救急部門受診13件という数字は、RSV感染の外来受診80件、救急部門受診28件より少なかった。インフルエンザによる受診率と比べると、シーズンによっては同じだった。人口データから推定すると、HMPV感染は年間100万件の5歳未満の外来受診と26万3000件の救急部門受診に関係していると考えられた。
 また、1歳を超えると受診率が大きく低下するRSVとは異なり、HMPVはインフルエンザウイルスと同様に、幅広い年齢の幼児に受診を必要とする症状をもたらし、小児の入院と外来受診に大きな負荷を与えていることが明らかになった。
 なお、HMPV感染の82%が1~4月に発生していた。特に4月は急性呼吸器疾患患者の10%がHMPV陽性を示した。

■ 乳幼児のRSウイルス感染に注意(2011.8.31 産経新聞)

 2歳までに乳幼児のほとんどが感染するとされるRSウイルス。例年は秋から春にかけて流行する感染症だが、今年は7月から患者が増えているという。ただ、インフルエンザなどに比べて認知度は低く、予防するためにも、専門家は認知度の向上を課題に挙げている。(森本昌彦)

◆低い認知度

 「今年は7、8月にRSウイルス感染症で入院するお子さんが非常に増えています」。昭和大学医学部小児科の水野克己准教授は話す。
 RSウイルス感染症は秋から冬にかけての長い期間にわたって流行し、12~1月がピークとされてきた。昨年までは同時期にRSウイルスに感染した子供はそれほど多くなかったという。
 RSウイルスについて、水野准教授は「以前に比べると増えたが、10人のお母さんに話して1人ぐらいが知っている程度です」と認知度の低さを懸念する。
 事実、医薬品大手「アボットジャパン」(東京都港区)が7月に実施した調査によると、妊娠8カ月以上の妊婦でRSウイルス感染症がどのような病気かを知っていたのはわずか2・4%。名前は聞いたことがあるのは27・1%で、7割が名前すら知らなかった。乳幼児(2歳未満)を持つ母親でも同様で、どのような病気かを知っているのは3割以下。インフルエンザについては妊婦の83・7%、母親の91・2%がどのような病気かを知っており、大きく差が開いている。
 こうした現状について、水野准教授は「RSウイルスは1カ月未満の子供でもかかる。妊婦さんが知っておかなければいけないウイルス感染症の一番はRSウイルスです」と警鐘を鳴らす。

◆普段から予防を

 RSウイルス感染症は、なぜ乳幼児にとって危険なのか。RSウイルスは何度も感染し、悪化すると肺炎などを起こし、最悪の場合は死に至ることもあるからだ。特に重症化しやすいのは、生後6カ月以内の乳児や早産児、慢性肺疾患や先天性心疾患などの基礎疾患を持っている乳幼児とされる。
 幼い頃にRSウイルス感染症が重症化し、肺などの下気道感染症になった場合は、将来的な不安もあるという。水野准教授は「長期にわたって、喘鳴(ぜんめい)(気管が狭くなり、呼吸時にゼーゼーというような音がする状態)、ぜんそくになるリスクが高くなる。小さいときにRSウイルス感染症が重症化しないようにすることが大事だ」と話す。
 ただ、RSウイルスは一度感染しても持続的な免疫ができにくく、予防ワクチンや特効薬もないのが現状だ。このため、RSウイルスに感染しないよう、普段の生活で対策を取ることが重要になる。
 感染を防ぐため、普段の生活での注意点として、水野准教授は、手洗い・うがいを徹底する▽接触感染を防ぐため、流行期に子供が集まる場所になるべく行かない-ことを挙げる。
 また、母乳で育てることや妊娠中の積極的なビタミンD(魚・キノコなどに多く含まれる)の摂取も有効という。重症化を防ぐ手段としては「シナジス」と呼ばれる抗体製剤の投与があるが、100ミリグラムで約15万円と費用が高いのがネック。ただ、29~35週の早産で6カ月以下の新生児や乳児などは健康保険が適用され、重症化のリスクが高い早産児には投与を勧めている。

【用語解説】RSウイルス感染症
 Respiratory Syncytial Virus(呼吸器合胞体ウイルス)の略で、風邪の原因となる一般的なウイルスの一つ。乳幼児が最も感染しやすいウイルスで、1歳の誕生日までに70%の乳児が初感染し、2歳までにはほとんどの乳幼児が感染するとされる。通常、健康な乳幼児が感染した場合、38~39度程度の発熱、鼻水、せきなどの症状が出て、多くは8~15日ぐらいで治まる。発熱症状がないこともある。