肺炎マイコプラズマのおはなし

 マイコプラズマは不思議な細菌で、乳幼児が罹ってもふつうの風邪で済みますが、年長児以降はこじれて肺炎を起こしやすくなります。乳幼児が重くなりやすいRSウイルスとは逆ですね。
 近年、抗生物質が効きにくい耐性菌が増加し、治療しても熱が長引く例が多く経験されるようになってきました。

■ 肺炎マイコプラズマ

原因

 肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という細胞壁を有さない小型桿菌(ウイルスと細菌の中間くらいの大きさ)

疫学

・成人では肺炎を起こしやすいが、幼小児期では上気道炎症状にとどまり、肺炎の病像を取らないことが多い・・・つまり低年齢ほど軽く済む傾向があります(RSウイルスと逆です)。

※ 昔は数年周期で流行を繰り返してました。オリンピックイヤーに一致して流行したので「オリンピック病」「オリンピック肺炎」と呼ばれたこともありました(最近は聞かなくなりました)。

病態

 「免疫発症」:マイコプラズマにより肺炎が起きるメカニズムは他の病原体によるものとちょっと違います。そこに病原体が増殖しているわけではなく、人の免疫システムが過剰に反応して病変を形成していることが近年わかってきました(免疫発症)。
 マイコプラズマ自体は、感染細胞内に活性酸素を過剰に産生させ、粘膜上皮を軽く損傷させるほかには、ヒトに対して直接的な細胞傷害性を持ちません。マイコプラズマの細胞膜構成成分であるリポ蛋白は、強力なサイトカイン誘導物質であり、マクロファージに作用してIL-18を産生させ、次にこのIL-18が司令塔となってTh-1型あるいはTh-2型サイトカインの産生を誘導し、肺炎や喘息などの肺病変を惹起します。すなわち、宿主(ヒト)の免疫反応が肺炎の病像を作っているのです。

感染様式

 飛沫感染

感染力のある期間

 発症2〜8日前から発症後数週間(13週間というデータあり)

潜伏期

 2〜3週間

症状

 初期は咳が目立たず、発熱・頭痛・気分不快・倦怠感などのよくある風邪症状。
 咳は数日後に始まり、徐々に悪化し、乾いた咳(鼻水、痰は少ない)が止まらなくなります。熱が下がった後もしばらく咳がつらい状態が続きます。

※ 「肺炎」のイメージは高熱が続き、咳が止まらなくて苦しそう・・・が一般的ですが、マイコプラズマ肺炎では高熱は珍しく寝込むことはまれです。なので、典型的ではないという意味で「非定型肺炎」「異型肺炎」あるいは「歩く肺炎(walking pneumonia)」と呼ばれることがあるくらいです。
※ マイコプラズマはウイルスと異なり気道の上皮細胞を大量に破壊せず、また粘液の産生を増やさないため「乾いた咳」が特徴です。

診断

血液検査(抗体検査):従来は病原体そのものを検出する検査は一般的ではなく、感染の結果産生された抗体を検出する血液検査が中心でした。
抗原検査:ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction, PCR)を用いた核酸増殖による病原体検出は正確ですが、保険外で時間がかかるため日常診療では使いにくい検査。LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法は核酸増殖法の一つであり2011年10月に保険収載され、普及しました。
迅速診断(抗体検査):その後IgM抗体を検出する迅速診断キット(イムノカード®マイコプラズマ抗体が発売されましたが発症初期には陽性になりません。信頼できる結果は発症後1週間以降とされ、治療に反映しにくい欠点があります。また、マイコプラズマ抗体は一度感染して産生されると半年〜1年以上陽性が続くので、健康な人に検査しても30%は陽性になることが報告されており、結果判定には注意を要します
迅速診断(抗原検査):近年登場した抗原を検出する迅速診断キット(※)が有用です。プライムチェック®は感度の低さが問題であり、リボテスト®は感度・特異度両面における更なる改善が求められるところです。
※ マイコプラズマの抗原迅速検査(参考資料③より)

商品名 リボテスト® プライムチェック®
プロラスト®
販売 旭化成ファーマ アルフレッサファーマ
LSIメディエンス
検体 咽頭ぬぐい液 咽頭ぬぐい液
咽頭ぬぐい液
原理 イムノクロマト法 イムノクロマト法 イムノクロマト法
判定時間 15〜30分 5〜15分 15分
認識部位 L7/L12蛋白 P1蛋白 DnaK蛋白
感度 57.6% 91.7% 44.9%
特異度 91.6% 92.7% 98.0%

※ 「新規マイコプラズマ抗原検査キット―プロラスト®Myco」生物試料分析 Vol. 38, No 5 (2015)

→ この論文を読んで、当院では2016年10月にプロラストMycoを導入しました。

合併症

・呼吸窮迫症候群
・(肺外発症)脳炎、心筋炎

治療

・第一選択薬:マクロライド系抗生物質・・・ EM, CAM, AZM(近年耐性化が問題になりつつあります)
・第二選択薬:8歳未満ではオゼックス®(TFLX)、8歳以上ではミノマイシン(MINO
・それでも解熱しない難治例・重症例は血清LDH高値(目安は480IU/L、410IU/Lなどの報告あり)を指標にステロイド治療を考慮

※ MINOは歯牙形成期にある8歳未満の小児に投与した場合、歯牙の着色・エナメル質形成不全、一過性の骨発育不全を起こすことがあります。

マクロライド(ML)耐性率(参考資料③):
 2014年時点の報告では日本国内で30〜50%と推定されています。外国のデータでは、中国:63〜97%、台湾:23%、韓国:8.7〜62.9%、カナダ:12.1%、ドイツ:3.6%、フランス:8.3%と国により差があります。
マクロライド(ML)感受性株とマクロライド耐性株による有熱期間の差異(参考資料③):
・ML耐性株感染者はオゼックス®(TFLX)に比べてMINOでは解熱する確率が37倍高い。
・ML耐性株にML系抗菌薬(CAM、AZM)を使用した場合、ML感受性株に比べて発熱が平均3.4日長引く。
・治療開始後2日以内に解熱する症例の81%はML感受性株であり、発熱が3日以上持続する症例の83%はML耐性株であった。
・ML感受性肺炎マイコプラズマによる呼吸器感染症ではAZM,CAM、MINO、TFLXのどれを使用しても抗菌薬開始から解熱までの日数に有意差はないが、ML耐性肺炎マイコプラズマによる呼吸器感染症ではMINOのみ発熱期間が有意に短くなった。

小児マイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方のポイント> (参考資料②より抜粋)
1. 急性期の血清抗体価陽性所見のみでは、肺炎マイコプラズマ感染症の診断が困難な場合も多いため、急性期の確定診断には、肺炎マイコプラズマ核酸同定検査(LAMP 法)を実施することが望ましい。
2. マイコプラズマ肺炎治療の第一選択薬に、マクロライド系薬が推奨される。
3. マクロライド系薬の効果は、投与後 2~3 日以内の解熱で概ね評価できる。
4. マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシン(商品名:オゼックス)あるいはテトラサイクリン系薬(商品名:ミノマイシン)の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である。
5. これらの抗菌薬の投与期間は、それぞれの薬剤で推奨されている期間を遵守する。
6. 重篤な肺炎症例には、ステロイドの全身投与が考慮される。ただし、安易なステロイド投与は控えるべきである。

抗菌薬と耐性菌の微妙な関係(参考資料③より)
 1988年までの4年周期がみられていた時代はエリスロマイシン(EM)やミノサイクリン(MINO)などの静菌的薬剤が使われていました。1991年に殺菌的薬剤であるクラリスロマイシン(CAM)が登場し、それ以降周期性が消失しているようにみえます。
 1990年代の10年間は、マイコプラズマ肺炎は流行も耐性菌もないいわば「安定期」でした。
 そして2000年、アジスロマイシン(AZM)が導入され、その後マクロライド耐性菌が出現し急増しました。その内訳は、A2063G(23SリボソームRNAドメインVと呼ばれる部位の2063番目のアデニンがグアニンに変異した菌)が野生株の95%以上を占めていました。理由として、AZMが2063の部位に遺伝子変異を入れやすい(頻度はCAMの約4倍)という性質が重要なポイントと考えられます。これに関連して、ノルウェーの呼吸器感染症ガイドラインでは、耐性誘導の危険性が高いことを理由にAZMの使用は控えるべき旨が記載されています。米国においてもAZMの頻用による耐性マイコプラズマの拡大が危惧されています。
 マクロライド少量長期療法については、1984年頃から導入され、1990年頃には確率されていますが、少なくともマイコプラズマ肺炎の疫学に大きな影響を与えているようにはみえません。

予後

 肺炎を発症しても、基本的に3週間程度で自然治癒します。

園/学校生活への復帰

 学校伝染病に指定されているわけではなく、明確な隔離期間の規定はありません。厚生労働省の考え方を以下に示します;
「学校で流行がおこった場合にその流行を防ぐため、必要があれば、学校長が学校医の意見を聞き、第3種学校伝染病としての措置を講じることができる疾患のうち、条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病のひとつとして例示されている。登校登園については、急性期が過ぎて症状が改善し、全身状態の良いものは登校可能となっており、流行阻止の目的というよりも、患者本人の状態によって判断すべきであると考えられる。

★ マイコプラズマと似ている「クラミジア感染症
・・・クラミジアも「非定型肺炎」を起こしますが、他のウイルス、マイコプラズマと症状だけでは区別困難です。やはりマクロライド系抗生物質が有効です。特徴を挙げますと、
① 発熱が軽度である
② 受診までの期間が長い(治るかな〜と様子を見ていたけど治らないので受診)
③ 寒性咳嗽が遷延することが多い、咽頭痛が比較的強い
④ 肺炎例は2歳未満はまれで、3歳以降徐々に頻度が高くなり、学童期になると成人と同程度になる。

<参考HP>

<新聞記事より>

 マイコプラズマに関する記事を拾い読み。

■ 日本小児科学会「小児マイコプラズマ肺炎の第一選択はマクロライド」(2013年2月20日:MTPro)

耐性株流行で混乱

 日本小児科学会は昨日(2月19日),「小児肺炎マイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方」を発表。2011年ごろから国内で流行が続く肺炎マイコプラズマ感染症(以下,マイコプラズマ肺炎)において,マイコプラズマのマクロライド高度耐性化が進んでいることが報告された。これを受け,第一選択薬として推奨されているマクロライド系薬ではない抗菌薬が一般臨床において,広く一次治療として用いられるようになっている。同学会はマクロライド系の投与なしに二次,三次治療が行われていることを問題視。「診断や治療に混乱が生じている」として,今回あらためて,マクロライド系薬の前投与がない場合のマイコプラズマ肺炎に同薬を第一選択とすることを推奨した。

LAMP法による確定診断求める

 今回の考えで示された小児のマイコプラズマ肺炎の診断と治療のポイントは次の通り。

1.急性期の血清抗体価上昇所見のみでは,マイコプラズマ肺炎の診断が困難な場合も多いため,急性期の確定診断には,肺炎マイコプラズマ核酸同定検査(LAMP法,2011年に保険収載)を実施することが望ましい。
2.マイコプラズマ肺炎治療の第一選択薬に,マクロライド系薬が推奨される。
3.マクロライド系薬の効果は,投与後2~3日以内の解熱でおおむね評価できる。
4.マクロライド系薬が無効の肺炎には,使用する必要があると判断される場合は,トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし,8歳未満には,テトラサイクリン系薬は原則禁忌である。
5.これらの抗菌薬の投与期間は,それぞれの薬剤で推奨されている期間を遵守する。
6.重篤な肺炎症例には,ステロイドの全身投与が考慮される。ただし,安易なステロイド投与は控えるべきである。

「高度耐性化」は既にマクロライド投与された入院肺炎例が対象の報告

 今回の考え方が示された背景には,2011年10月に国内でマクロライド高度耐性マイコプラズマの検出率が90%に達していたとの報告を機に,耐性菌治療を目的としたテトラサイクリン系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬の使用が広まったことがあるようだ。
 しかし,2011年の報告は既にマクロライド系薬の投与を経て,基幹病院に入院となった肺炎例が対象で,一次医療機関の実態を反映していなかった。そのため,翌2012年に単一の一次医療機関を対象とした調査結果が報告。肺炎マイコプラズマのマクロライド耐性率は50%以下との結果が示された。
 この2つの報告あるいはこれまでの知見から,今回,マクロライド系薬の前投与がない場合は,マクロライド系薬を第一選択薬として推奨。マクロライド系薬耐性株であっても,一部は同薬により2~3日以内に解熱することが分かっている他,マクロライド系薬の効果は投与後2~3日以内の解熱でおおむね評価できるとしている。

トスフロキサシン,テトラサイクリン系薬,ステロイドの安易な使用に警鐘

 さらに「考え方」では,現在一次治療として使用が広まっているトスフロキサシン,テトラサイクリン系薬はマクロライド系薬に比べ,肺炎マイコプラズマに対する最少発育阻止濃度(MIC)が高く,治療終了時に気道に菌が残り感染を広げる可能性が指摘されており,「第一選択とするような安易な使用は控えるべきである」と述べられている。
 テトラサイクリン系薬は一過性骨発育不全や歯牙着色などの副作用から8歳未満には原則禁忌である他,トスフロキサシンを含むキノロン系薬は耐性を容易に来しやすい性質があり,安易な使用により薬剤の標的とならない細菌叢の耐性化の原因となることから,適正使用が厳しく求められていることも強調されている。
 さらには,ステロイド全身投与についても「現時点の適応はあくまでも有効な抗菌薬が投与された重篤な肺炎症例で,診断や抗菌療法が不確実な症例への安易な投与は控えるべき」との注意喚起も行われている。

■ 今さら聞けない+ マイコプラズマ(2012.2.4:朝日新聞)

(抜粋です。わかりやすい記述に感心しました。)
 マイコプラズマは、究極まで無駄をそぎ落とした「最小の生命」といわれ、大きさは大腸菌の10分の1ほどしかありません。遺伝子の数も生物の中で最も少ないグループに入ります。
 ふつうの細菌にある「細胞壁」がなく、細胞膜がむき出しになっているのも翁特徴です。70種以上いるマイコプラズマの仲間はみな、ウシやブタなどの哺乳類や鳥類の体内に寄生し、人間の肺や口、尿道、生殖器などからも十数種類がみつかっています。しかし、肺にいる種類以外はふつうは病気を起こさず、人間と共存しています。
 マイコプラズマ肺炎で乾いた咳がでるのは、その寄生の仕方に原因があります。他の細菌やウイルスによる肺炎では、粘液やたんが混じった湿った咳が出ますが、これは人間の肺や気管支の粘膜細胞が破壊されるためです。一方、マイコプラズマの場合は細胞に付着するだけで、細胞を攻撃しません
 ところが共存していた人間の免疫系がなぜか、マイコプラズマの細胞膜の部品に刺激され、過剰反応を起こすことがあるのです。それで炎症が起き、発熱や咳の症状が出ると考えられています。
 肺炎の治療には、細菌の細胞壁の合成を邪魔するペニシリンやセフェム系という抗菌薬がふつう使われます。しかしマイコプラズマには細胞壁がないので、たんぱく質や遺伝子の合成を邪魔するタイプの抗菌薬を使うしかありません。
 マイコプラズマは増殖力も弱く、菌の培養による確定診断が難しいのです。このため治療開始が遅れると、咳が長引くことになります。推奨されている抗菌薬が効きにくい耐性菌が増えたことも、完治を遅らせる原因です。
 さらに悪いことに、抗菌薬でマイコプラズマを殺しても、細胞膜の部品は残ります。ダニを殺虫剤で退治しても、死骸がカーペットに残っているとアレルギーが治らないのと同じで、金はいないのに炎症が続くことになるわけです。
 怖いのはマイコプラズマが、肺以外の場所で炎症を起こす「肺外発症」です。ほかの感染症が合併したりして粘膜細胞が弱ると、マイコプラズマが細胞同士のすき間に入り込み、血液に乗って全身に回ります。肺炎や髄膜炎、急性膵炎、心筋炎などが起きます。
 マイコプラズマはせっけんや加熱に弱いので、ほかの感染症と同様に手洗いやうがい、食材の加熱などの対策が有効です。せきやくしゃみで感染するため、咳のエチケットを守ることが大事です。

■ マスクと上手につき合う(2012/1/25:日本経済新聞)

 風邪やインフルエンザの流行に、花粉症――。この時期、手放せないのがマスクだ。ただ、種類が多すぎてどれを選んでいいかわからないという人も少なくない。「うっとうしい」「化粧が落ちる」などと敬遠する人も。選び方から正しい着用法、意外な活用法まで、マスクのあれこれを調べてみた。
 マスクには様々な種類がある。どんな時にどんなタイプを使うのが適しているのか、健康関連商品のインターネット通販を手がける「ケンコーコム」に聞いてみた。
◇            ◇

マスクの正しいつけ方.jpg

 マスクには主に、一般マスク、機能性マスク、防じんマスクの3タイプある。風邪予防には不織布でできた使い捨ての一般マスクで十分だが、インフルエンザやノロウイルス、花粉症が流行しているときは、ウイルスや花粉対策用の機能性マスクを使ったほうがよい。新型インフルエンザが流行したような場合は、ウイルスを通さない防じんマスクが向く。
 マスク選びを間違えると、使いづらさに悩むことになる。話がしづらいようであれば、平らな形のものより立体構造タイプを選ぼう。耳が痛くなる場合は軟らかいゴム、丸い形状のゴムが付いたものを選ぶといい。耳ゴムのない特殊粘着タイプもお勧めだ。
 眼鏡が曇るなら、鼻当てワイヤ付きがいい。「日常的に使う予防用マスクは使い捨てにしたくない」という人は洗って陰干しできるタイプやガーゼマスクを使う手もある。サイズ選びや着用方法は図を参考にしてほしい。
 女性にとって気になるのがメークだ。東京医科歯科大学非常勤講師で美容ジャーナリストの宇山恵子さんは「ノーメークでは老けて見えるのでしっかりアイメークを。眉は太めに描くと元気な印象に。鼻から下も化粧するならメークが落ちにくいタイプのマスクを選ぶといい」と助言する。「メーク前に顔に合わせてマスクを成形し、鼻や肌を圧迫しないよう整えてヒダを伸ばしておくことも大切」
 マスク着用のマナーにも気をつけたい。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんは「マスクはお互いの健康を守るうえで不可欠。敬遠せず、受け入れ合いたい。ただ、人と接するときは『マスクをしたままで失礼いたします』と一言添える配慮を」と話す。
 このとき、「ひどい風邪をひいているので」など、相手に不安感を与える説明は不要だ。かわりに「喉を痛めていまして」などと話すと無難だろう。接客業の人は「マスクをつけたまま○○させていただいてよろしいでしょうか?」と疑問文で声をかけると、よりソフトな印象になる。
 「目上の人に会う時は、予防のために着けているなら外すのがマナー。風邪などをひいているなら丁寧にことわり、深く一礼を」。周囲に不快感を与えない心配りも大切だ。「お茶を飲むときマスクを外す場合は、新しいものに着け替えると不潔感を与えない」(西出さん)
◇            ◇
 マスクといえば、「うっとうしい」と敬遠されがちだが、前向きに活用する方法もある。宇山さんは「紫外線を遮断し、肌や喉の乾燥を防ぐうえでも効果的。ついでにマスクで隠れる部分をお手入れし、“養生”しては」と提案する。マスクでパックをするつもりで美容液やリップクリームを多めになじませておく。
 「目力」を鍛えることもできる。西出さんは企業の接遇研修のとき決まってマスクを利用するそうだ。「マスクで口元を隠し、目の表情だけで『笑顔』を表現する。思いを込め、顔の筋肉を動かさなければ魅力的な目の表情は生まれない。鏡でチェックしながら練習してもらっている」
 マスク着用中はとかく無表情になりがちだが、口元が隠れていることを逆手にとり、このようなトレーニングをするのも一手だろう。
 ますます身近になっているマスク。基本をおさえたうえで自分流に活用しても楽しい。

(ライター 西川 敦子)

■ 大流行中のマイコプラズマ肺炎,マクロライド高度耐性化率が約90%(2011年10月26日:MTPro)

国立感染症研究所感染症情報センターが速報

 今年(2011年)は小児や学童のマイコプラズマ肺炎の流行期といわれている。慶應義塾大学感染制御センターの岩田敏氏らが2000~今年にかけて行った同肺炎患者621例を対象とした調査で,2002年にはゼロであった同肺炎患者からのマクロライド高度耐性マイコプラズマの分離率が,今年に入り89.5%にまで増加していることが明らかになった(10月25日感染研感染症情報センター病原体情報)。同氏らはまた,十分な治療効果を期待できる抗菌薬がないとしており,一番効果が期待できるミノサイクリンも必要最小限にとどめるよう呼びかけている。

マクロライド系薬「マイコプラズマそのものには無効なはず」

 マイコプラズマ肺炎は幼児から青年期に多く見られる感染症で,通常の細菌性肺炎とは違い,比較的重症感が少なく,X線所見も異なることから,過去には「異型肺炎」ともいわれていた(IDWR感染症の話マイコプラズマ肺炎)。
 通常は秋から冬が日本における流行期とされるが,岩田氏らの報告によると今年は春から流行が始まり,最近再び勢いを増しているという。同氏らの調査では,患者から分離されたマクロライド系薬耐性菌の割合は約90%と過去最高を記録している。同氏らは「この耐性化は全国規模で見られており,ひとたびあるクラスで発症者が出ると,潜伏期間や咳嗽の強さもあって瞬く間に周囲へ拡散している」と述べている。感染研の情報では学校保健法上,マイコプラズマ肺炎による流行防止に対する積極的な措置の規定はないようだ。
 また,同氏らが菌の耐性獲得状況を調べたところ,現在マイコプラズマ感染症に適応を有する主要なマクロライド系薬すべてに高度耐性化が見られたほか,他のすべての同系薬において交叉耐性が確認された。「以前は優れた臨床効果が見られていたにもかかわらず,遷延化例や重症化例が増えているのはこのため」であり,「同系薬はマイコプラズマそのものには無効なはず」との見解を同氏らは示している。
 さらに,同感染症への適応を有する,もう1つの抗菌薬ミノサイクリンについても「耐性菌は認められていないが,抗菌力が非常に優れているというわけではない」と同氏ら。なお,同薬は歯牙着色の副作用があるため,8歳未満の小児に対しては慎重な投与が求められている。
 同氏らはミノサイクリンを投与する場合の使用期間は通常3日,長くても5日以内にとどめたいとしている。

■ 「風邪」予防の常識・非常識 (2011/1/18:日本経済新聞)

 寒くなり、せきが出たり微熱が出たりする風邪がはやる季節になった。頻繁に使う言葉だが、「風邪」は医師が診断する病名ではない。一見同じような風邪の症状でも、原因や経過が異なる複数の病気に分かれていてそれぞれの病名で診断されるからだ。知っておきたい「風邪の常識」をまとめた。

マスクは病気が広がるのを防ぐのに役立つ

 昨年11月、東京都内在住の公務員、A子さん(29)は、体がだるくのどが痛いのに気がついた。頭痛もあり熱を測ると37度程度の微熱があった。近所の薬局で購入した漢方薬を服用した。平日はマスクを着けて仕事へ行き、休日は一日中家で寝ていたところ2~3日で楽になった。熱を測ると平熱に戻っていたので治ったと思い安心した。

病名でない風邪

 一般にせきやくしゃみ、軽い発熱などがあると「風邪」と言うことが多い。ただ、「風邪という病気はない」と永寿堂医院(東京都葛飾区)の松永貞一院長は説明する。
 風邪にはウイルスや細菌などの病原体の感染による「感冒」と、「寒い日におなかを出したまま寝ていた」といった寒さなどの生活環境による「寒冒」がある。ほとんどが前者で、そのうちの多くの原因がウイルスだ。
 風邪を引き起こすウイルスは少なく見積もっても250種類以上ある。通常、ウイルスに一度感染すると免疫ができて次に感染しにくくなるが、これだけたくさんの原因ウイルスがあるので何度も風邪を引くというわけだ。せきや発熱のような同じような症状でも季節によって流行するウイルスが異なり、冬は子供の気管支炎などの原因となるRSウイルスなどが多い。
 腹痛や下痢、嘔吐(おうと)などの症状があると「おなかの風邪」といわれることも。これは感染性胃腸炎と診断される。大腸菌などの細菌のほか、冬はノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスが原因になることが多い。
 これだけ多くの原因を持つ風邪。予防はどうするのか。
 まず予防接種をする。ただ1つのワクチンで防げる病原体は通常1種類。インフルエンザウイルス、肺炎を起こす肺炎球菌といった重い病気を引き起こす病原体に対するワクチンはあるが、ほとんどの風邪の病原体を防ぐワクチンはそろっていない。
 日常的にできる対策はやはり「マスク」「手洗い」「うがい」だ。普段からよく食べて睡眠をとるといった健康管理も欠かせない。それぞれ目的が異なるので、「何に役立つかを覚えておくと、周りで流行しているものに対して予防対策をとりやすくなる」(国立感染症研究所の安井良則主任研究官)。
 マスクは、せきやくしゃみなどで感染が広がるインフルエンザなどの病気が拡大するのを防ぐのに役立つ。手洗いは感染性胃腸炎を起こす病原体を洗い流して体内に入るのを防ぐ。
 うがいはのどや口の中にある病原体を洗い流したり、保湿をしたりする働きがある。ただ、「うがいだけではウイルス感染を防ぐことはできない」(安井主任研究官)ため、ほかの方法と組みあわせる必要がある。

3日続けば受診

風邪にまつわる常識.jpg

 風邪にかかってしまったらA子さんのように軽い症状の場合は、医療機関へ行かず、市販の薬を飲んだり自宅で療養したりしてよくなることもある。健康な人では、もともとの体の免疫の働きがウイルスなどを排除する。市販の風邪薬や解熱剤は鼻水や発熱など風邪のつらい症状を抑えるので、免疫を付けるのに必要な食事や休養をとりやすくなる。
 ただ、市販の風邪薬は原因のウイルスや細菌をやっつける治療薬ではないので注意が必要。症状が軽くても「3日たってよくならなかったら、すぐに医療機関へ行って」と松永院長は語る。
 風邪とあなどっていると、思わぬ合併症を引き起こすこともある。例えば、発熱やのどの痛みがある溶連菌感染症。早めに医療機関で抗生物質などの治療を受ければよくなるが、放っておくと腎炎などの重症になることもある。
◇            ◇

インフルエンザは高熱に

 先月、本格的なインフルエンザの流行期に入った。風邪と同じようにせきが出たり発熱したりするが、どのように違うのだろうか?
 インフルエンザは38度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などがある。風邪はのどの痛みやせき、鼻汁といった呼吸器の症状がメーンだが、インフルエンザは全身の症状があるのが特徴だ。また発熱もインフルエンザのほうが高くなる。
 特に高齢者や小児では悪化すると肺炎や脳症を起こすことがある。ただ健康な大人では、典型的な症状ではなく軽いこともあり多くの人では特に治療をしなくても1週間ほどで自然に治る。「軽いと風邪の症状と区別が難しい」(安井主任研究官)。
 「今年も大きな流行になる可能性がある。新型は健康な成人でも注意が必要。インフルエンザを疑ったら、すぐに医療機関へ行ってほしい」とけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は注意を呼びかけている。

■ 感染症を防ぐ正しい手洗い法 指はねじるように洗う

(2011年12月20日 朝日新聞)

手にはどれくらいの細菌がいる?.jpg
手にはどれくらいの細菌がいる?正しい手洗いの手順 <グラフィック・くぬぎ太郎>

 12月も半ば、インフルエンザや感染性胃腸炎が流行のピークを迎える時期です。手洗いは基本の予防策の一つですが、自己流で洗ったつもりは禁物。正しい手洗い法を調べました。
    ◇
 手で鼻や口の周りを触ることでウイルスや細菌が体内に入ることを「接触感染」と呼ぶ。インフルエンザのほか、ノロウイルスやロタウイルスによる感染性胃腸炎、腸管出血性大腸菌などによる食中毒も、手が感染の橋渡しをする病気だ。
 接触感染を防ぐためには、見た目の汚れを落とすだけでは不十分。群馬県衛生環境研究所(前橋市)を訪ねた。
 「まずはいつも通りに手を洗って見せて下さい」と担当者。洗い残しがないかどうか、ひと目でわかるように、ブラックライトという特殊な光に反応するクリームを両手に塗る。暗い部屋でこの光を当てると、両方の手のひらも甲も、手首までクリームで真っ白になっていた。
 この状態で手を水でぬらし、泡状の液体せっけんをつけて、手のひらと甲をそれぞれ2往復ずつこすり合わせた。その後、指の間や手首をなでるように洗い、水で流した。かかった時間はすすぎも含めて30秒ほどだ。
 改めて両手にブラックライトを当てると、手のひらや甲は白色がやや薄くなっていたものの、指や手首は真っ白のまま。
 次は、教えられた方法で洗ってみる。手のひらから甲、指、手首へと進み、それぞれ心の中で1~10まで数えながら洗った。約2分かかった。
    ◇
 再びブラックライトの下に手を入れると、手のひらや甲はクリームがほぼ落ちていたが、指先や指の関節の周り、しっかり洗ったつもりだった手首はまだ白さが残っていた。
 「指はもっとねじり洗いするといいですよ」と言われ、片手の指1本ずつをもう一方の手で包み込んで回転させながら洗う。今度は、ほぼ完全に落ちた。洗った手はペーパータオルか、自分専用のタオルで拭くのが一番いい。自宅で常にタオルを使い分けるのは難しいが、家族の誰かが感染症にかかった時は手間を惜しまないようにしたい。
 静岡県立大の内藤博敬助教(微生物学)の研究室は、人間の身の回りの物に付着する細菌の数を調べている。例えば、携帯電話なら10平方センチメートル当たり1216個、エレベーターのボタンで490個、電車のつり革からは190個という結果が出た。
 見つかったのは、健康な人には病気を起こさない「一般細菌」がほとんどだったが、食中毒や院内感染の原因になる菌もわずかにいた。
 内藤さんは「アルコールなどの薬剤による消毒が必要な感染症もあるが、ふだんの生活ではまずは手洗いでしっかりとウイルスや細菌を落とすことが予防の基本です」と話している。(南宏美)

 ◆インフォメーション

 洗剤や消毒剤メーカーのサラヤが運営するウェブサイト「みんなの手洗いサイト」(http://tearai.jp/tetete/)は、イラストやクイズで、正しい手洗い法を楽しく学べる。子どもにおすすめ。杏林製薬による「ミルトンママクラブ」(http://www.miltonmama.jp/)も手洗いなど、家庭でできる感染症の対策を紹介している。

〈ニュースがわからん!〉マイコプラズマ肺炎って?(2011年11月30日:朝日新聞)

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<マイコプラズマ肺炎の患者数の推移>

■マイコプラズマ肺炎が流行してるね

 アウルさん 「マイコプラズマ肺炎」が流行しているようね。
 A 今年の患者数は、統計のある1999年以降で最も多く、6月下旬からずっと高水準の流行が続いている。天皇陛下が感染したことでも注目されたね。
 ア どんな病気なの?
 A 患者のせきやくしゃみを通じて、マイコプラズマという病原体が体内に入ることで感染する。感染から症状が出るまで2、3週間。最初は熱が出たり、全身がだるく感じたりする。たんのない乾いたせきが出るのも特徴で、1カ月近く続くことがある。
 ア 子どもがかかりやすいのかしら。
 A うん。患者の8割は14歳以下だ。20~39歳の患者も1割いる。小さい子をもつ親世代だしね。高齢者は少ないが、かかると重くなりやすく注意が必要だ。
 ア なぜ今年は大流行?
 A はっきりした理由はわからない。治療で最初に使う抗菌薬の効かない「耐性タイプ」が増えていると報告されている。このため症状が長びいたり重症化したりして、大流行につながっているのでは、という見方がある。ただ「耐性タイプ」は何年も前から増えているから異論もあるんだ。
 ア 薬が効かないなんて、こわいわね。
 A 「耐性タイプ」と分かれば、別の抗菌薬を使って治療できる。ただ、新たに耐性ができないよう、医師の指示通りにきちんと薬をのむことが大切だ。
 ア まだこれからも流行は続くのかしら?
 A インフルエンザだと冬にはっきりとした流行のピークがある。でも、マイコプラズマ肺炎は年間を通じて流行し、11、12月に患者数がやや増えるのが特徴だ。国立感染症研究所は「年末まで流行が続くのではないか」とみている。
 ア 気をつけなきゃ。
 A 重い肺炎に進行することもあるので、せきが長びくなどの症状が出たら、すぐに受診したほうがいいよ。(南宏美)

■ 【医の手帳】子どもと感染症(2011年11月:朝日新聞の特集)

(1)新潟大学大学院医歯学総合研究所・斎藤昭彦教授(小児科学)

 今年も、インフルエンザの季節がやってきました。2年前の今ごろは、2009 A/H1N1インフルエンザ(当時の新型インフルエンザ)が大流行しました。昨年のシーズン前には、その更なる流行が心配されましたが、大きな流行はなく終わりました。今年はどの型が流行するのか。その予想が難しいのがインフルエンザの特徴です。
 インフルエンザは、数日間の高熱、頭痛、呼吸器症状、全身倦怠(けんたい)感、関節痛などをきたす病気です。かかるととてもつらいですし、学校などを数日間は休まなくてはいけません。肺炎、脳炎などの合併症をきたすこともあり、後遺症を残したり、死亡したりする人もいます。かかる前に、予防することが最も重要です。
 インフルエンザウイルスは、感染した人のせきやくしゃみで飛び散ります。それから身を守るため、二つの重要なことがあります。一つは、外から帰った時にしっかりと手を洗うこと。水ですすいだ後、せっけんをつけ、よく泡立てた後、手のひらと甲、洗い忘れやすい指先、親指、指の間、手首を洗い、水でよくすすぎます。洗った後、きれいなタオルなどで拭き取ることも大切です。せきなど呼吸器症状のある人は、マスクを着け、他の人にうつさないよう心がけて下さい。
 もう一つは、インフルエンザのワクチンです。ワクチンは、インフルエンザにかかった場合に重い症状や合併症にならないこと、そして、かからないように予防する効果もありますので、ぜひ、接種を心がけましょう。また、皆がワクチンを接種することで、様々な理由でワクチンを接種できない人たちを守ることもできます。
 今年のワクチンには、昨年のワクチンと同じ三つの株が含まれており、2年前に流行した2009 A/H1N1インフルエンザ株が含まれています。流行の始まる前から接種しておくことが重要ですので、早めの接種をお勧めします。