夏風邪(ヘルパンギーナ、プール熱、手足口病)のおはなし

 風邪は冬の病気と考えがちですが、子どもの間では夏には夏の個性的な風邪が流行ります。インフルエンザを代表とする冬の風邪と比べると、発熱・喉の痛み・発疹が目立ち、咳があまりでなくて吐き気などのお腹の症状の方がでやすいことが特徴です。
 代表的な病気はヘルパンギーナプール熱手足口病の3つで、犯人はすべてウイルスです。
 夏風邪の原因となるウイルス(エンテロウイルス、アデノウイルスなど)はお腹の腸の中で増殖し、増えきってから発熱などの症状を出すことが知られています。症状が消えると呼吸器系からの感染力はなくなりますが、実はお腹の中(消化管)にはしばらく居座るので、感染力がゼロになるまで数週間〜最長1ヶ月かかります。これがなかなか流行を押さえられない理由です。
 各病気の特徴を概説しました。なお、典型的な症状が揃わないことがあります。また、同じウイルスが複数の病態を示すこともあるのも夏風邪の特徴です。
(例)コクサッキーA16はヘルパンギーナと手足口病の原因になる。
 まれに重い合併症の報告もありますが、ほとんどが自然に治る一過性の軽い病気です。
 下記症状と比べて熱が長く続いたり、他のつらい症状が目立つときは医師の診察を受けましょう。

■ 夏風邪と隔離について

 ふつう治れば(症状がなくなれば)ヒトにうつす力は無くなると思いこみがちですが、そう単純なものではありません。病原体の種類によっては症状出現前から(水痘、おたふくかぜ等)、そして症状が無くなってからも数週間は伝染力が残り続けるもの(感染性胃腸炎、夏風邪等)があります。
 知れば知るほど、乳幼児期の集団生活の場では感染予防対策は困難であることがご理解いただけると思います。

 夏風邪の原因はお腹の中で増殖するウイルス感染です。
 プール熱はアデノウイルス、ヘルパンギーナ・手足口病はエンテロウイルスが代表的ですが、原因となるウイルスは1種類ではありませんので繰り返し感染します。
 発疹が出たり、目が赤くなったり・・・いつまで園を休めばいいのか正確に知りたいところですね。プール熱は「症状が落ち着いて2日間自宅安静」と学校保健法で決められていますが、ヘルパンギーナと手足口病は「感染力が無くなるまで」としか書いてありません(感染症法)。この裏事情を説明させていただきます。

ウイルス排泄期間

 感染した体からウイルスが検出される期間を「ウイルス排泄期間」と呼びます。夏風邪の場合、喉から1~2週間、便からは2~4週間もウイルスが排泄され続けます。
 意地悪に考えれば、最長4週間は他人への感染力ありとして隔離が必要になります。

不顕性感染

 これは「感染はしたけど症状が出ない」状態です。外見上は健康そのもの。 しかし困ったことに、この「不顕性感染」状態でも他人へ感染させる力があるのです。 エンテロウイルスでは60~80%が不顕性感染でありアデノウイルスでも多いとされています。

 言い換えれば、流行期には風邪が治って登園してきた友達からも、元気に過ごしている友達からもかぜをもらう可能性があるということになります。つまり症状が消えるまで患児を休ませただけでは流行拡大阻止は不可能なのです。
 ではどうしたらよいか?・・・日々の感染対策に尽きます。乳幼児のオムツとそれを扱った保育者の手洗い、給食配膳係の手洗い、 幼児自身のうがい、 排便後の手洗い、 食事前の手洗いが大切です。

プールの消毒について
 「プール熱(咽頭結膜熱)」の原因となるアデノウイルスはその昔プールの水を介して爆発的に流行したのでこの名前が付けられました。しかし、近年は水質が管理されているプールでは流行は起きていません
 現在、学校プールの水質基準は「消毒用の残留塩素が0.4~1.0mg/L」と定められています。この濃度が維持されれば、アデノウイルスは死滅し、プール熱が流行することはありません。プール熱が流行したときの残留遊離塩素濃度は0.1mg/Lくらいが多く、0.7mg/Lまで上げると流行が収まったという報告があります。
 家庭の水道水の残留塩素は0.1mg/Lだそうです。
 庭先でビニールプールに水道水を入れて友達みんなで遊ぶと夏風邪ウイルスをあげたりもらったりするかもしれませんね。

■ ヘルパンギーナ

原因:コクサッキーウイルス、エコーウイルスなどのエンテロウイルス(RNAウイルス)
感染経路:飛沫&接触感染
潜伏期:2〜4日
症状
・発熱(突然の高熱2〜4日間)
・咽頭痛
・食欲低下・嘔吐
・カラダの痛み(年長児以降で多くなる訴え)
治るまで:3〜6日
治療:特効薬なし(抗生物質無効)、対症療法のみ
生活指導:(3疾患共通)

水分補給:麦茶、イオン飲料などあっさりしたものを。
喉が痛いのでのどごしの良い食べ物・飲み物を!
 → プリン、ゼリー、アイスクリーム(ほどほどに)、おじや、柔らかいうどん、豆腐、グラタン等
※ 体温より熱いもの、味の濃いもの、刺激のある味、しょっぱい・酸っぱいものはしみて痛がります。オレンジジュースなど柑橘系も嫌がります。
入浴:高熱でぐったりしているときは避けましょう。微熱で機嫌も悪くなければ、お風呂で汗を流してすっきりするくらいはかまいません。体力を消耗するような長湯は禁物です。

合併症:非常に希に髄膜炎、熱性けいれん
感染対策:(3疾患共通)

トイレ・食事前後の手洗い、吐物処理・おむつ交換時の手洗い励行、タオルの区別。
さらに感染力の強いプール熱では洗濯物を家族と別にしましょう。

登校・登園基準:症状がなくなるとほとんど感染力が亡くなり、元気になれば登園可能です。しかし前述の通りウイルスは便の中に約1ヶ月間居座ります。園でも感染対策を励行しましょう。

■ プール熱(咽頭結膜熱)

原因:アデノウイルス(DNAウイルス)3型他
疫学:好発時期は夏季、しかし近年の報告では通年性の傾向がでてきました。
感染経路:飛沫&接触感染+めやにでうつります!
 アデノウイルスは物理化学的に抵抗性が強く(4℃で数週間、-25℃で数ヶ月間感染性が失われない)、感染力も強いことが特徴です。

※ 「プール熱」という名前の由来はその昔、プールの水に溶け出した「めやに」で爆発的に流行した歴史があるためです。近年は公的に管理されたプールでは十分な塩素消毒がなされているのでプールの水を介した流行はみられなくなりました。あ、水道水の塩素濃度ではウイルスはやっつけられません、悪しからず。

潜伏期:5〜7日(2〜14日という記載も)
症状
・発熱(高熱が4〜5日)・・・けっこう長い。
・咽頭痛
・結膜炎(目の充血、目やに)・
・時に嘔気・腹痛・下痢

プール熱アデノウイルス性咽頭炎」?
 プール熱の原因で一番多いのがアデノウイルス3型です。
 しかし、アデノウイルス3型感染症で、典型的なプール熱(結膜充血、滲出性扁桃炎、発熱)は1/3しかありません。他は「夏風邪」と診断されていることになりますね。
 結膜炎を伴うプール熱は眼脂で感染するので学校伝染病に指定されていますが、アデノウイルス感染症は学校伝染病ではありません。何かヘンですけど、法律ってこんなもん?

検査所見:ウイルス感染症では例外的に白血球数・CRPなどの炎症反応が陽性になります(このため、細菌感染症との鑑別が困難な例が出てきます)。
治るまで:5〜7日
治療:特効薬なし(抗生物質無効)、対症療法のみ
生活指導:(ヘルパンギーナの項を参照)
合併症:非常に希に重症肺炎、髄膜炎、脳炎
感染対策:(ヘルパンギーナの項を参照)
 アデノウイルスはアルコールに抵抗性があり速乾性擦式手指消毒薬では簡単に殺菌できません。塩素系消毒薬は有効です。
登校・登園基準:夏風邪の中でこのプール熱だけは別扱いです。学校伝染病に指定されており、麻疹や水痘と同じ扱い、つまり「隔離期間」が発生します。「症状消失後2日間は自宅安静」とし集団生活に戻るには医師の治癒証明が必要です。

<他のアデノウイルス感染症>

 アデノウイルスには55種類の型があり、多彩な疾患を起こします。いくつか例示します;

肺炎アデノウイルス7型が原因となる肺炎は重症化しやすいことが特徴です。ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、多臓器不全、死亡例も報告されています。日本では1995年から約5年間、全国的に流行しました。

流行性角結膜炎:幅広い年齢層にみられ、結膜充血、眼脂、眼掻痒感、羞明(かすみ)等を起こします。

腸管感染症:子どものウイルス性下痢症の原因は、①ロタウイルス、②ノロウイルス、③アデノウイルスです。下痢が主症状で、高熱、嘔吐を伴うこともありますが、一般的にロタウイルスより軽症です。
 現在腸管のアデノウイルスを検出する迅速診断キットが発売されていますが、アデノウイルスによる呼吸器感染症に罹った後、数周〜数ヶ月の間便中に排泄されるため、陽性の場合も単純に判断できないジレンマが存在します。

■ 手足口病

原因:コクサッキーウイルスA16、エンテロウイルス71他・・・原因ウイルスは複数なので、何回も罹る可能性があります。
疫学:幼児から学童期に多く、2歳以下が半数を占めます。

※ 大人は子どもの時に感染して免疫ができていることが多いので、罹りにくい傾向があります。

感染経路:飛沫&接触感染・・・感染源は唾液、便、水疱内容物
潜伏期:2〜7日(3〜5日)
症状
・発熱(約1/3にみられ、38℃以下の微熱が1〜3日間)・・・他の2つの夏風邪より勢いはありません
・発疹:手・足・口の中(時に膝・おしり)に直径数mmの水疱性丘疹

※ 皮疹は水痘のように治るときに痂皮(かさぶた)を作りません。

エンテロウイルス71が検出されたシーズンでは脳炎のリスクが増えます:頭痛・嘔吐・高熱・2日以上続く発熱などの場合には要注意です。

治るまで:2〜7日
治療:特効薬なし(抗生物質無効)、対症療法のみ
生活指導:(ヘルパンギーナの項を参照してください)
合併症:髄膜炎、小脳失調症、脳炎、心筋炎

※ 腸管で増殖したウイルスが血行性に中枢神経系(特にエンテロウイルス71)、心臓(特にコクサッキーウイルスA16)などに到達して発症します。

※ 1990年代(1997〜2001)にはアジアで中枢神経系合併症(脳炎)による死亡者が報告されました。1997年マレーシアで30例以上大阪でも3例死亡が確認され、1998年台湾で78例の死亡を確認。多くの例は、急激に進行する肺水腫をきたし、入院後24時間以内に死亡するという劇症型の経過をとりました。死亡例からはエンテロウイルス71が検出されています。このウイルスによる流行年は要注意!という認識が小児科医にはあります。

コクサッキーA6による手足口病の非典型的症状
 従来の典型的手足口病は手掌・足底の水疱を伴う発赤疹+口内炎でしたが、2011年頃から膝や肘周辺に水疱疹が目立つ手足口病を見かけるようになりました。ウイルス分離の結果、コクサッキーA6というウイルスが原因であることが判明しました。皮疹の目立つ例では、治癒後に一過性の爪の変形や脱落を認めることが報告されています。
■ 「手足口病後に脱落した爪からのコクサッキーウイルスA6型の検出―和歌山県」(IASR Vol. 32 p. 339-340: 2011年11月号)
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<速報>2011年のコクサッキーウイルスA6型感染による手足口病の臨床的特徴―静岡県((IASR 2011/7/20))
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感染対策:(ヘルパンギーナの項を参照してください)
登校・登園基準:症状がなくなるとほとんど感染力が亡くなり、元気になれば登園可能です。しかし前述の通りウイルスは便の中に約1ヶ月間居座ります。排便後の手洗いを徹底させ、園でも感染対策を励行しましょう。

<夏風邪関連ニュース>

 夏風邪に関するニュースを拾い読み。

■ まさか、大人がかかるなんて…!? 子どもの夏かぜQ&A(2013年08月07日)New_Icon_rd_01.png

 ビジネスパーソンが注意するべき“病気”について、専門家に解説をしてもらう連載。今回はビジネスパーソンが最も「自分とは関係ない」と思いがちな「子どもの夏かぜ」について、ナビタスクリニック立川院長 久住英二先生に解説してもらいます。

 すでに各メディアで取り上げられていますが、今年は一昨年に次いで患者の報告数が多いという「手足口病」など、「子どもの夏かぜ」が流行しています。子どもの、と聞くと成人には関係ないと思うかもしれませんが、子どもがひいた風邪が大人にうつることはまれではありません。子どもがかかった風邪より悪化するケースや、感染を拡大するケースもあります。
 今回は大人こそ知っておきたい、「子どもの夏かぜ」を解説していきます。

Q1 子どもの夏かぜって何?

 夏季に流行するウイルス感染症の代表的なものを総称して、「夏かぜ」と呼びます。とくに医学的な定義はありません。
【1】ヘルパンギーナ【2】手足口病
【3】プール熱
がこれにあたります。もちろん、夏にはこれ以外の感染症にならない、ということはなく、夏場でも普通の風邪をひくことはあります。いずれもウイルス感染症なので、ウイルスそのものを殺す薬はなく、治療は、症状を抑える対症療法と、休養や栄養などの養生しかありません。また、人にうつさないようにすることも大切です。

Q2 まさか大人もかかるなんて……?

会社員Aさん38歳の場合
 昨日から微熱がでて休日診療所を受診したけれど、「熱中症かも」と言われ、水分を摂って休むようにとの指示だけ受けた。
 ところが今日になって、手足に赤いブツブツが出てきたため受診し、手足口病と診断。
 子どもの間ではやっているとニュースでやっていたから(関連リンク)知っていたけど、まさか大人がかかるなんて思いもしなかった。

 じつは、成人の手足口病の発生状況は、まったく統計がとられていないのでわかりません。
 小児科では、定点医療機関といい、特定の医療機関での患者数をカウントすることで、流行の程度が調査されています。これによると今は、過去5年間の平均と比べて、手足口病は流行しているけど、咽頭結膜熱は同等で、ヘルパンギーナは少ないことがわかります。 しかし、大人にはこのような調査システムはなく、「子どもで流行しているから、まあ、大人でもうつっちゃう人が出るでしょうねぇ」という程度しか情報がないのです。
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Q3 ヘルパンギーナってどんな病気?

 ウイルスが体に入ってから2~4日ほどの潜伏期間を経て、突然の高熱と咽頭痛で発症します。咽頭の赤みが出現し、やがて口蓋垂(のどちんこ)周囲の咽頭粘膜に水疱ができます。水疱は破れて潰瘍(粘膜がむけた状態)となり、強い痛みが生じます。熱は4日ほどで下がり、1週間ほどで咽頭の潰瘍は治ります。
 原因は「A群コクサッキーウイルス」で、ウイルスはだ液(つば)と糞便に排出されるため、接触感染(だ液や便を触った手にはウイルスがついている)や飛沫感染(しゃべったり、咳に伴ってウイルスを含む、だ液のしぶきを飛ばす)により感染します。症状がなくなっても、4週間ほどは便へのウイルス排泄が続きます。子どもはお友だちとの遊びを4週間も我慢できないので、感染しやすいのです。季節としては、日本では5月から増加しはじめ、6~7月にかけてピークとなり、減少します。
 患者のほとんどが4歳以下の子どもで、1歳台がもっとも多いです。発熱時に熱性けいれんを起こすことがあります。また、のどの痛みからつばを飲むこともできなくなり、不機嫌となります。ほ乳および食事や水分摂取を拒否し、脱水症となることがあります。
 ウイルス感染症ですので、ウイルスは全身に散らばっています。ときに髄膜炎心筋炎を起こすことがあります。髄膜炎を起こすと、頭痛や嘔気が生じます。心筋炎では、特有の症状がなく、いつもの風邪に比べて元気がない、嘔吐などの症状で気づかれることがあります。脱水症でも同様の症状を呈することがあります。点滴や入院が必要になることもあります。
 熱と咽頭痛のほかに、急に子どもがぐったりするようなら、かかりつけの小児科もしくは家庭医を受診しましょう。

Q4 手足口病はヘルパンギーナとどう違う?

 ウイルスが体に入ってから3~5日ほどの潜伏期間を経て、口の周りの皮膚や口腔粘膜、手掌、足底に水疱ができます。膝やお尻にできることもあります。前腕や、下腿にあまり水疱のできない、赤いブツブツのできる方もいます。水疱は痛みますが、破れることはなく、1週間ほどで消えます。口腔粘膜の水疱は、ヘルパンギーナと異なり、のどの奥のほうでなく、手足口病では唇に近い部分にできることが多いとされていました。しかし、近年はヘルパンギーナと同様に、咽頭周囲に水疱ができるケースが増えています。発熱は軽度で、まったく熱の出ない場合も多いです。

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 原因は「A群コクサッキーウイルス」や「エンテロウイルス71」で、ウイルスはだ液(つば)と糞便に排出されるため、接触感染(だ液や便を触った手にはウイルスがついている)や飛沫感染(しゃべったり、咳に伴ってウイルスを含む、だ液のしぶきを飛ばす)により感染します。症状がなくなっても、4週間ほどは便へのウイルス排泄が続くのはヘルパンギーナと同様です。
 患者のほとんどが4歳以下の子どもで、2歳以下が半数を占めます。
 ウイルス感染症ですので、ウイルスは全身に散らばっています。エンテロウイルス71髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺を起こすことがあります。A群コクサッキーウイルス心筋炎を起こすことがあります。髄膜炎や脳炎を起こすと、頭痛や嘔気、意識障害、けいれんが生じます。心筋炎は、ヘルパンギーナの場合と同様です。
 やはり急に子どもがぐったりするようなら、かかりつけの小児科もしくは家庭医を受診しましょう。

Q5 かかると出席停止にも! プール熱とは

 咽頭結膜熱といい、プールで感染することも多いため、プール熱と呼ばれています。
 ウイルスが体に入ってから5~7日ほどの潜伏期間を経て、発熱、頭痛、だるさ、咽頭痛、結膜炎による結膜充血、眼の痛み、まぶしさを強く感じる羞明(しゅうめい)、涙、目やになどの症状を呈し、5日ほど続きます。首のリンパ節が腫れたり、腹痛や下痢を生じることもあります。
 原因はアデノウイルスです。アデノウイルスは51種類もあり、その中の数種のウイルスが咽頭結膜熱を起こしますが、おなじウイルスでも、咽頭結膜熱でない症状を起こすこともあります。アデノウイルスは胃腸炎、膀胱炎、肺炎などさまざまな症状を起こします。
 ウイルスはだ液(つば)や目やに、糞便に含まれ、接触感染(だ液や目やに、便を触った手にはウイルスがついている)や飛沫感染(しゃべったり、咳に伴ってウイルスを含む、だ液のしぶきを飛ばす)により感染します。プールでの感染では、水がウイルスで汚染され、それが直接結膜に侵入します。症状がなくなっても4週間ほどはウイルス排泄が続きます
 患者の大半が5歳以下の子どもです。ほかの夏かぜと異なり、咽頭結膜熱は学校保健安全法で学校感染症とされており、主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止となります。

Q6 夏かぜに打つ手なし!? 治療は?

 夏かぜにかかった場合の治療は、残念ながら、対症療法しかありません。

[1]咽頭痛

 アセトアミノフェンや、イブプロフェンなどの鎮痛薬が有効です。漢方薬では、桔梗湯は味があまりしないので、子どもも飲みやすいでしょう。
 錠剤は飲みにくいですから、坐薬やシロップが良いでしょう。ドライシロップ、粉剤や顆粒は微温湯に溶かして服用すると、ノドへの刺激が少なくなります。
 ヘルパンギーナで咽頭に潰瘍ができている場合は、口腔内を清潔に保つことが必要です。歯磨きは大切です。歯垢はバイ菌の塊ですから、歯磨き粉はつけずに、小さなブラシで歯垢を落としましょう。歯垢をそのままにしておくと、潰瘍に二次性の細菌感染を起こしやすくなり、潰瘍が治りにくくなります。うがいは30℃くらいの微温湯を使えば、痛みが少なくてすみますが、ティースプーン1/2くらいの食塩を溶かすと、より刺激が少なくなります。また、ハチアズレという含嗽薬(うがい薬)は痛みが少なくて有効です。イソジンうがい液は、潰瘍部への刺激が強いので、避けるべきです。
 食事が困難になるので、軟らかい、おかゆや重湯、葛湯などでエネルギー源となる炭水化物(米やくず粉=デンプン)をとりましょう。温度は、体温に近い方が痛みを感じにくいです。水分は、フルーツジュースなど酸を含む物は痛みを誘発します。飲めれば、何でも飲ませて構いませんが、やはり冷たい物は刺激になります

[2]発熱

 アセトアミノフェンや、イブプロフェンなどの鎮痛薬が有効です。悪寒がなければ、体を温める必要はありませんので、エアコンで過ごしやすい室温に調節してあげましょう。

[3]手足口病の手足の水疱

 痛みやかゆみを感じることもありますので、痛みに対してはアセトアミノフェンやイブプロフェンなどの鎮痛剤を内服、ウフェナマートという非ステロイド系抗炎症剤を局所に塗布します。かゆみは、抗ヒスタミン剤(ポララミンなど)内服や、外用でコントロールします。

[4]脱水に注意

 夏場は、ただでさえ発汗による脱水を起こしやすいです。発熱により脱水が悪化しやすいので、普段より積極的に水分を摂らせましょう。発汗により塩分も失うので、スポーツドリンクや経口補水液(OS-1など)、塩分を含む飲み物も有効です。
 スポーツドリンクやフルーツジュースは酸が含まれます。飲んだ後はうがいをしておかないと、歯のエナメル質が酸で溶けてしまいます。気をつけましょう。

Q7 夏かぜは予防できる?

 とにかく、手洗いにつきます。外出後や食事の前には石けんをつけて30秒くらいこすり洗いしましょう。

ユニセフ「世界手洗いの日」ウェブサイト⇒http://handwashing.jp
ユニセフ 世界手洗いダンス⇒http://handwashing.jp/library_dance

 家族が感染している場合は、タオルやコップなどを共有しないことが必要です。
 また、感染症にかからないためには、日頃から規則正しい生活をする、バランス良く栄養をとる、体を疲れさせない、など免疫を維持するよう気をつけることも重要です。
 夏は暑熱自体が体の疲労を招きますし、子どもの夏休みで出かけたりする機会が多く、疲れが溜まっています。大人も子どもも同じですから、無理なスケジュールを立てないことや、お出かけの合間合間に、しっかり休息する日を設けるなどの配慮も必要です。

(文/ナビタスクリニック立川 院長 久住英二)

■ 手足口病大流行の兆し 予防策は(2013年7月18日:NHK)

 毎年夏場に流行する「手足口病」の患者が、東京都内で小さな子どもを中心に急激に増え、この時期としては、過去10年で最も多くなっています。
 どんな注意が必要か、報道局の松岡康子記者が解説します。

手足口病大流行の兆し

 手足口病は、その名のとおり、手や足、口の中などに発疹ができ、主に小さな子どもがかかるウイルス性の感染症です。
 通常は1週間ほどで症状は治まりますが、まれに髄膜炎や脳炎を起こして重症化することがあります。
 東京都によりますと、今月に入ってから患者が急激に増え、今月14日までの1週間に報告された患者数は、1つの医療機関あたり10.97人で、この時期としては、過去10年で最も多くなっています。
 大流行となった平成23年を超えるペースです。
 患者のほとんどは、6歳以下の子どもで、このうち3分の2は2歳以下だということです。
 東京・中野区にある小児科医院では、今月に入ってから手足口病の子どもが増え、この1週間は、毎日5人ほどが手足口病と診断されています。 このうち、3歳の男の子は、先週、39度の高熱が出て、翌日から手や足、おしりなどに水ほうのある発疹が出始めました。
 母親は「通っている幼稚園ではやり始めていたので、赤い発疹が出てきたのを見て手足口病だと思った」と話しています。
男の子は1週間経って発疹がかさぶたになり、症状は治まりました。
しかし、診断した三輪小児科医院の三輪操子医師は「軽症の場合は自然に遊びながら治るが、中には、体調を崩して入院しなくては治らないという状況になることもある」と注意を呼びかけています。

脱水に注意

 手足口病は、エンテロウイルスやコクサッキーウイルスが主な原因ですが、抗ウイルス薬はありません。
 特別な治療を必要としないことがほとんどだということですが、三輪医師は「脱水」に注意が必要だと言います。口の中に発疹ができるため、痛みで食事や水分が取れなくなる子どもがいるためです。
 この暑さの中で、脱水状態になって症状が悪化する子どももいるので、食事がとりやすいように、薄味にしたり、柔らかくしたりするなどの工夫をし、水分補給を心がけることが大切です。

感染を広げないために

 手足口病は、患者のせきやくしゃみ、つばなどの飛まつやウイルスがついた手を介して広がります。発疹などの症状が治まったあとも、3週間から1か月ほどウイルスは便の中に含まれ、体から出続けます
 このことが感染をさらに拡大させる原因にもなっています。
 このため、手洗いを徹底し、おむつの取り扱いに十分な注意が必要です。
 幼稚園や保育園など子どもたちが集団生活する場所で広がりやすく、おもちゃなどを通じて感染することがあります。
 東京・中野区の保育施設では、感染を予防するため、手洗いやうがいを徹底するだけではなく、子どもたちが遊ぶおもちゃを消毒するなどの対策をとっています。
 今月に入り2人の子どもが発症し、医師の許可が出るまで、休んでもらっていますが、予防するためのワクチンもないため、対策には限界があると考えています。
 施設長の小林葉子さんは「早めに保護者に知っていただいて、まずは保護者のところで対応していただく。園としては、手洗いやうがいなど、できることをしっかりやっていくという対応策しかないです」と話しています。
 手足口病は、例年、患者数がピークとなるのは、夏休みシーズンの7月下旬から8月上旬です。
 東京都感染症情報センターの杉下由行課長は「過去10年、20年で、これほど増えたことはありませんので、今回、非常に大きな流行だと考えています。濃厚な接触によって、感染が広がりやすくなるため、家族内で感染を防ぐことも重要になります。タオルの共用を避け、こまめに手を洗うなど予防に努めてほしい」と注意を呼びかけています。

■ マスクと上手につき合う(2012/1/25:日本経済新聞)

 風邪やインフルエンザの流行に、花粉症――。この時期、手放せないのがマスクだ。ただ、種類が多すぎてどれを選んでいいかわからないという人も少なくない。「うっとうしい」「化粧が落ちる」などと敬遠する人も。選び方から正しい着用法、意外な活用法まで、マスクのあれこれを調べてみた。
 マスクには様々な種類がある。どんな時にどんなタイプを使うのが適しているのか、健康関連商品のインターネット通販を手がける「ケンコーコム」に聞いてみた。
◇            ◇

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 マスクには主に、一般マスク、機能性マスク、防じんマスクの3タイプある。風邪予防には不織布でできた使い捨ての一般マスクで十分だが、インフルエンザやノロウイルス、花粉症が流行しているときは、ウイルスや花粉対策用の機能性マスクを使ったほうがよい。新型インフルエンザが流行したような場合は、ウイルスを通さない防じんマスクが向く。
 マスク選びを間違えると、使いづらさに悩むことになる。話がしづらいようであれば、平らな形のものより立体構造タイプを選ぼう。耳が痛くなる場合は軟らかいゴム、丸い形状のゴムが付いたものを選ぶといい。耳ゴムのない特殊粘着タイプもお勧めだ。
 眼鏡が曇るなら、鼻当てワイヤ付きがいい。「日常的に使う予防用マスクは使い捨てにしたくない」という人は洗って陰干しできるタイプやガーゼマスクを使う手もある。サイズ選びや着用方法は図を参考にしてほしい。
 女性にとって気になるのがメークだ。東京医科歯科大学非常勤講師で美容ジャーナリストの宇山恵子さんは「ノーメークでは老けて見えるのでしっかりアイメークを。眉は太めに描くと元気な印象に。鼻から下も化粧するならメークが落ちにくいタイプのマスクを選ぶといい」と助言する。「メーク前に顔に合わせてマスクを成形し、鼻や肌を圧迫しないよう整えてヒダを伸ばしておくことも大切」
 マスク着用のマナーにも気をつけたい。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんは「マスクはお互いの健康を守るうえで不可欠。敬遠せず、受け入れ合いたい。ただ、人と接するときは『マスクをしたままで失礼いたします』と一言添える配慮を」と話す。
 このとき、「ひどい風邪をひいているので」など、相手に不安感を与える説明は不要だ。かわりに「喉を痛めていまして」などと話すと無難だろう。接客業の人は「マスクをつけたまま○○させていただいてよろしいでしょうか?」と疑問文で声をかけると、よりソフトな印象になる。
 「目上の人に会う時は、予防のために着けているなら外すのがマナー。風邪などをひいているなら丁寧にことわり、深く一礼を」。周囲に不快感を与えない心配りも大切だ。「お茶を飲むときマスクを外す場合は、新しいものに着け替えると不潔感を与えない」(西出さん)
◇            ◇
 マスクといえば、「うっとうしい」と敬遠されがちだが、前向きに活用する方法もある。宇山さんは「紫外線を遮断し、肌や喉の乾燥を防ぐうえでも効果的。ついでにマスクで隠れる部分をお手入れし、“養生”しては」と提案する。マスクでパックをするつもりで美容液やリップクリームを多めになじませておく。
 「目力」を鍛えることもできる。西出さんは企業の接遇研修のとき決まってマスクを利用するそうだ。「マスクで口元を隠し、目の表情だけで『笑顔』を表現する。思いを込め、顔の筋肉を動かさなければ魅力的な目の表情は生まれない。鏡でチェックしながら練習してもらっている」
 マスク着用中はとかく無表情になりがちだが、口元が隠れていることを逆手にとり、このようなトレーニングをするのも一手だろう。
 ますます身近になっているマスク。基本をおさえたうえで自分流に活用しても楽しい。

(ライター 西川 敦子)

■ 「風邪」予防の常識・非常識 (2011/1/18:日本経済新聞)

 寒くなり、せきが出たり微熱が出たりする風邪がはやる季節になった。頻繁に使う言葉だが、「風邪」は医師が診断する病名ではない。一見同じような風邪の症状でも、原因や経過が異なる複数の病気に分かれていてそれぞれの病名で診断されるからだ。知っておきたい「風邪の常識」をまとめた。

マスクは病気が広がるのを防ぐのに役立つ

 昨年11月、東京都内在住の公務員、A子さん(29)は、体がだるくのどが痛いのに気がついた。頭痛もあり熱を測ると37度程度の微熱があった。近所の薬局で購入した漢方薬を服用した。平日はマスクを着けて仕事へ行き、休日は一日中家で寝ていたところ2~3日で楽になった。熱を測ると平熱に戻っていたので治ったと思い安心した。

病名でない風邪

 一般にせきやくしゃみ、軽い発熱などがあると「風邪」と言うことが多い。ただ、「風邪という病気はない」と永寿堂医院(東京都葛飾区)の松永貞一院長は説明する。
 風邪にはウイルスや細菌などの病原体の感染による「感冒」と、「寒い日におなかを出したまま寝ていた」といった寒さなどの生活環境による「寒冒」がある。ほとんどが前者で、そのうちの多くの原因がウイルスだ。
 風邪を引き起こすウイルスは少なく見積もっても250種類以上ある。通常、ウイルスに一度感染すると免疫ができて次に感染しにくくなるが、これだけたくさんの原因ウイルスがあるので何度も風邪を引くというわけだ。せきや発熱のような同じような症状でも季節によって流行するウイルスが異なり、冬は子供の気管支炎などの原因となるRSウイルスなどが多い。
 腹痛や下痢、嘔吐(おうと)などの症状があると「おなかの風邪」といわれることも。これは感染性胃腸炎と診断される。大腸菌などの細菌のほか、冬はノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスが原因になることが多い。
 これだけ多くの原因を持つ風邪。予防はどうするのか。
 まず予防接種をする。ただ1つのワクチンで防げる病原体は通常1種類。インフルエンザウイルス、肺炎を起こす肺炎球菌といった重い病気を引き起こす病原体に対するワクチンはあるが、ほとんどの風邪の病原体を防ぐワクチンはそろっていない。
 日常的にできる対策はやはり「マスク」「手洗い」「うがい」だ。普段からよく食べて睡眠をとるといった健康管理も欠かせない。それぞれ目的が異なるので、「何に役立つかを覚えておくと、周りで流行しているものに対して予防対策をとりやすくなる」(国立感染症研究所の安井良則主任研究官)。
 マスクは、せきやくしゃみなどで感染が広がるインフルエンザなどの病気が拡大するのを防ぐのに役立つ。手洗いは感染性胃腸炎を起こす病原体を洗い流して体内に入るのを防ぐ。
 うがいはのどや口の中にある病原体を洗い流したり、保湿をしたりする働きがある。ただ、「うがいだけではウイルス感染を防ぐことはできない」(安井主任研究官)ため、ほかの方法と組みあわせる必要がある。

3日続けば受診

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 風邪にかかってしまったらA子さんのように軽い症状の場合は、医療機関へ行かず、市販の薬を飲んだり自宅で療養したりしてよくなることもある。健康な人では、もともとの体の免疫の働きがウイルスなどを排除する。市販の風邪薬や解熱剤は鼻水や発熱など風邪のつらい症状を抑えるので、免疫を付けるのに必要な食事や休養をとりやすくなる。
 ただ、市販の風邪薬は原因のウイルスや細菌をやっつける治療薬ではないので注意が必要。症状が軽くても「3日たってよくならなかったら、すぐに医療機関へ行って」と松永院長は語る。
 風邪とあなどっていると、思わぬ合併症を引き起こすこともある。例えば、発熱やのどの痛みがある溶連菌感染症。早めに医療機関で抗生物質などの治療を受ければよくなるが、放っておくと腎炎などの重症になることもある。
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インフルエンザは高熱に

 先月、本格的なインフルエンザの流行期に入った。風邪と同じようにせきが出たり発熱したりするが、どのように違うのだろうか?
 インフルエンザは38度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などがある。風邪はのどの痛みやせき、鼻汁といった呼吸器の症状がメーンだが、インフルエンザは全身の症状があるのが特徴だ。また発熱もインフルエンザのほうが高くなる。
 特に高齢者や小児では悪化すると肺炎や脳症を起こすことがある。ただ健康な大人では、典型的な症状ではなく軽いこともあり多くの人では特に治療をしなくても1週間ほどで自然に治る。「軽いと風邪の症状と区別が難しい」(安井主任研究官)。
 「今年も大きな流行になる可能性がある。新型は健康な成人でも注意が必要。インフルエンザを疑ったら、すぐに医療機関へ行ってほしい」とけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は注意を呼びかけている。

■ 感染症を防ぐ正しい手洗い法 指はねじるように洗う

(2011年12月20日 朝日新聞)

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手にはどれくらいの細菌がいる?正しい手洗いの手順 <グラフィック・くぬぎ太郎>

 12月も半ば、インフルエンザや感染性胃腸炎が流行のピークを迎える時期です。手洗いは基本の予防策の一つですが、自己流で洗ったつもりは禁物。正しい手洗い法を調べました。
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 手で鼻や口の周りを触ることでウイルスや細菌が体内に入ることを「接触感染」と呼ぶ。インフルエンザのほか、ノロウイルスやロタウイルスによる感染性胃腸炎、腸管出血性大腸菌などによる食中毒も、手が感染の橋渡しをする病気だ。
 接触感染を防ぐためには、見た目の汚れを落とすだけでは不十分。群馬県衛生環境研究所(前橋市)を訪ねた。
 「まずはいつも通りに手を洗って見せて下さい」と担当者。洗い残しがないかどうか、ひと目でわかるように、ブラックライトという特殊な光に反応するクリームを両手に塗る。暗い部屋でこの光を当てると、両方の手のひらも甲も、手首までクリームで真っ白になっていた。
 この状態で手を水でぬらし、泡状の液体せっけんをつけて、手のひらと甲をそれぞれ2往復ずつこすり合わせた。その後、指の間や手首をなでるように洗い、水で流した。かかった時間はすすぎも含めて30秒ほどだ。
 改めて両手にブラックライトを当てると、手のひらや甲は白色がやや薄くなっていたものの、指や手首は真っ白のまま。
 次は、教えられた方法で洗ってみる。手のひらから甲、指、手首へと進み、それぞれ心の中で1~10まで数えながら洗った。約2分かかった。
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 再びブラックライトの下に手を入れると、手のひらや甲はクリームがほぼ落ちていたが、指先や指の関節の周り、しっかり洗ったつもりだった手首はまだ白さが残っていた。
 「指はもっとねじり洗いするといいですよ」と言われ、片手の指1本ずつをもう一方の手で包み込んで回転させながら洗う。今度は、ほぼ完全に落ちた。洗った手はペーパータオルか、自分専用のタオルで拭くのが一番いい。自宅で常にタオルを使い分けるのは難しいが、家族の誰かが感染症にかかった時は手間を惜しまないようにしたい。
 静岡県立大の内藤博敬助教(微生物学)の研究室は、人間の身の回りの物に付着する細菌の数を調べている。例えば、携帯電話なら10平方センチメートル当たり1216個、エレベーターのボタンで490個、電車のつり革からは190個という結果が出た。
 見つかったのは、健康な人には病気を起こさない「一般細菌」がほとんどだったが、食中毒や院内感染の原因になる菌もわずかにいた。
 内藤さんは「アルコールなどの薬剤による消毒が必要な感染症もあるが、ふだんの生活ではまずは手洗いでしっかりとウイルスや細菌を落とすことが予防の基本です」と話している。(南宏美)

 ◆インフォメーション

 洗剤や消毒剤メーカーのサラヤが運営するウェブサイト「みんなの手洗いサイト」(http://tearai.jp/tetete/)は、イラストやクイズで、正しい手洗い法を楽しく学べる。子どもにおすすめ。杏林製薬による「ミルトンママクラブ」(http://www.miltonmama.jp/)も手洗いなど、家庭でできる感染症の対策を紹介している。

■ 【医の手帳】子どもと感染症(2011年11月:朝日新聞の特集)

(1)新潟大学大学院医歯学総合研究所・斎藤昭彦教授(小児科学)

 今年も、インフルエンザの季節がやってきました。2年前の今ごろは、2009 A/H1N1インフルエンザ(当時の新型インフルエンザ)が大流行しました。昨年のシーズン前には、その更なる流行が心配されましたが、大きな流行はなく終わりました。今年はどの型が流行するのか。その予想が難しいのがインフルエンザの特徴です。
 インフルエンザは、数日間の高熱、頭痛、呼吸器症状、全身倦怠(けんたい)感、関節痛などをきたす病気です。かかるととてもつらいですし、学校などを数日間は休まなくてはいけません。肺炎、脳炎などの合併症をきたすこともあり、後遺症を残したり、死亡したりする人もいます。かかる前に、予防することが最も重要です。
 インフルエンザウイルスは、感染した人のせきやくしゃみで飛び散ります。それから身を守るため、二つの重要なことがあります。一つは、外から帰った時にしっかりと手を洗うこと。水ですすいだ後、せっけんをつけ、よく泡立てた後、手のひらと甲、洗い忘れやすい指先、親指、指の間、手首を洗い、水でよくすすぎます。洗った後、きれいなタオルなどで拭き取ることも大切です。せきなど呼吸器症状のある人は、マスクを着け、他の人にうつさないよう心がけて下さい。
 もう一つは、インフルエンザのワクチンです。ワクチンは、インフルエンザにかかった場合に重い症状や合併症にならないこと、そして、かからないように予防する効果もありますので、ぜひ、接種を心がけましょう。また、皆がワクチンを接種することで、様々な理由でワクチンを接種できない人たちを守ることもできます。
 今年のワクチンには、昨年のワクチンと同じ三つの株が含まれており、2年前に流行した2009 A/H1N1インフルエンザ株が含まれています。流行の始まる前から接種しておくことが重要ですので、早めの接種をお勧めします。

<参考HP>

(日本鼻科学会)

 山中昇先生による上記ガイドラインの解説記事