針刺し事故対策

(参考資料:感染対策ICTジャーナル Vol.8 No.1 2013 winter「今日の針刺し切創・血液体液曝露対策」)
「針刺し切創・血液体液曝露後の被災者の対応」(藤谷好弘:自治医科大学臨床感染背インター)

Step1:曝露部位への処置
Step2:曝露状況の評価
Step3:曝露源の評価
Step4:被災者の免疫状況
Step5:曝露後予防対策の必要性
Step6:報告書の提出

Step1:曝露部位への処置

・速やかに石けんと流水で洗い流す。
・「血液を絞り出す」ことによって感染リスクを減らすという科学的根拠はない。

Step2:曝露状況の評価 〜Step3:曝露源の評価 〜Step4:被災者の免疫状況

<感染リスクを評価する上で考慮すべき要素>
1.曝露のタイプ
・経皮的創傷
・粘膜曝露
・傷のある皮膚
・咬傷による血液曝露
2.体液・組織の種類や量
・血液
・血液を含んだ体液
・感染の可能性のある体液や組織
・濃縮されたウイルス浮遊液への直接接触
3.対象機材
・中空針
・針の太さ
・メスの刃
・血液、体液による汚染の程度
4.曝露源の感染状況
・HBs抗原陽性
・HCV抗体陽性
・HIV抗体陽性
5.被災者の免疫状況
・HBVワクチン接種歴とその反応
・HBV、HCV、HIVの抗体の有無

Step5:曝露後予防対策の必要性

・HBV、HIVの感染リスクが高いと判断された場合は速やかに曝露後予防策を講じる。
・HCV曝露の場合は、強く推奨される曝露後予防策はなく、継続的なfollow-upを行う。

Step6:報告書の提出

・なぜ曝露してしまったのか、今後の再発予防策を話し合う。
・労災としての報告目的。
・書式には「エピネット日本版」(職業感染制御研究会)などがある。

HBV曝露後の対応

・HBV職業上曝露による感染率はHBe抗原陽性の場合、約30%。
・被災者にHBs抗体がない場合、HBV高力価免疫グロブリン製剤(HBIG)およびHBVワクチンの投与が必要になる(85〜95%有効)。曝露後可能な限りすぐ(24時間以内)投与することが望ましい。妊婦・授乳婦も禁忌ではない。
・被災者がHBVワクチン未接種およびHBs抗体がないと判明した場合、たとえ曝露源がHBs抗原陰性であったとしてもワクチンシリーズを開始すべきである。
・HBVワクチンは幼児・小児・成人いずれにも安全であることが知られており、妊婦に接種しても胎児に危険性はない。

被災者のワクチン接種歴と
抗体産生の状況
 
対応
曝露源がHBs抗原陽性 曝露源がHBs抗原陰性 曝露源不明/検査不能
ワクチン未接種 HBIG(※ 1)を1回投与し、HBVワクチンシリーズを開始
HBVワクチンシリーズを開始
HBVワクチンシリーズを開始
ワクチン接種歴あり 抗体産生あり(※ 2) 曝露後予防は不要
曝露後予防は不要
曝露後予防は不要
抗体産生なし(※ 3) HBIGを1回投与して再度ワクチンシリーズを開始、およびHBIGを2回投与 曝露後予防は不要 曝露源の感染リスクが高い場合はHBs抗原陽性として対応
抗体産生不明 被災者のHBs抗体検査
1)抗体量が十分であれば、曝露後予防は不要
2)抗体量が不十分であれば、HBIGを1回投与して、HBVワクチンを追加接種 
曝露後予防は不要 被災者のHBs抗体検査
1)抗体量が十分であれば、曝露後予防は不要
2)抗体量が不十分であれば、HBVワクチンを追加接種し、1〜2ヶ月後に再度抗体検査 

※ 1)HBIG:HBV高力価免疫グロブリン製剤
※ 2)抗体産生あり:HBs抗体が10mIU/mL以上
※ 3)抗体産生なし:HBs抗体が10mIU/mL未満

<参考HP>
□  針刺し事故後のHBV感染防止対策(広島市医師会)
□ 「B型肝炎について(一般的なQ&A)」内「針刺し事故とHBV感染」(ウイルス肝炎研究財団)
□ 「B型肝炎について(一般的なQ&A詳細版)」内「B型肝炎ウイルスと保健医療従事者」(厚生労働省)

HCV曝露後の対応

・HCV職業上曝露による感染率は約3%であり、ほとんどが中空針による針刺し事故である。粘膜や皮膚(傷の有無にかかわらず)への血液曝露による伝播はまれである。
・有効な予防策はない。
・曝露直後はベースラインとしてHCV抗体とASTを検査し、定期的にフォローアップする。早期診断のために4〜6週後にHCV-RNAを検査してもよい(自治医科大学では曝露1ヶ月後・3ヶ月後にHCV-RNA、6ヶ月後・12ヶ月後にHCV抗体を検査)。

HIV曝露後の対応

・HIV職業上曝露による感染率は、経皮的刺傷:0.3%、粘膜曝露:0.09%・傷のある皮膚への曝露や血液以外の体液曝露による感染リスクはきわめて低い(報告例はある)。
・CDC(米国疾病管理センター)は曝露後予防内服(Post-Exposure Prophylaxis, PEP)を推奨している。
・PEP開始の際の注意点;
① 可能な限り速やか(2時間以内)に開始。
② 被災者がもともとHBV感染者ではないか。
③ 被災者に腎機能低下はないか。
④ 被災者が妊娠していないかどうか。
→ 近隣のエイズ治療拠点病院と連携して緊急対応の体制を整えておく。
・PEPの有無にかかわらず、HIV抗体検査は曝露後少なくとも6ヶ月間(6週間後、12週間後、6ヶ月後)は施行すべきである。