漢方について

 私は小児科医には珍しく漢方薬を使います。
 といってもはじめから使うわけではなく、西洋医学の治療に限界を感じたら「試してみますか?」とお勧めし、希望される方に処方する程度です。気がつくと、数割の通院患者さんに使用していました。西洋医学だけでは解決できないことが多いのかもしれませんね。
 さて、漢方医学に関しては現在も修行中の私です。今後も診療範囲を広げていく所存ですが、現況を以下に記しましたので、興味のある方はどうぞ読み進めてください。

■ 私と漢方薬との出会い

 小児科医なのに漢方を使っているなんて珍しい、と思われる方も多いでしょう。
 私自身も小児科医になって15年間は漢方薬とは無縁の、いわゆる西洋医学中心の診療をしていました。
 漢方医学の存在は知っていましたが、学生時代は講義もなかったし、なんとなく「怪しいもの」考えがちで縁遠い分野でした。

 きっかけはとある漢方セミナー。
 たまには気分転換に良いかな、くらいの軽い気持ちで参加しました。
 講師の話を聞いていても「病気の性質は気・血・水で考える」など、その考え方があまりにも西洋医学とは異なるのでやはり「怪しい」と思わざるを得ませんでした。

 さてお昼の後に漢方薬を煎じたお茶が供されました。「補中益気湯」という名前でした。
「食後に眠くなりやすい人にいいんですよ。」との説明。
 実は私、お昼を食べると眠くて仕方が無く、午後の予約外来をいつもつらく感じていました。
 そしてお茶を飲んだ後の午後の講義は暗い部屋でスライド上映、居眠り必発の状況です。
 ところが・・・あれ?眠くない!
 ビックリしました。
 その後病院に戻り「補中益気湯」を処方してもらい、お昼に服用してみると・・・午後の外来がつらくなくなりました。漢方薬の効果を自ら実感した瞬間でした。

 その後は身内に試してみました。
 膝が痛くて整形外科へ通院するも「年だからあきらめてください」と見放された母に「防已黄耆湯」をいう漢方薬を飲ませたら明らかに痛みが軽減し、跛行がなくなりました。
 妻は生理痛に悩む人でしたが「温経湯」という漢方薬で軽く済むようになりました。
 スギ花粉症持ちである私は「小青竜湯」を試しました。それまでは西洋医学の抗アレルギー剤を使用していましたが、漢方の方がよく効きました。

 そして自分が診療している子ども達にも使えないか考えました。
 子どもの漢方薬に関する教科書はなかなか見つからず、漢方セミナーがあるたびに参加して講師に質問し、少しずつ情報を集めました。
 そうこうしているうちに書籍も集まり、「小児漢方懇話会」や「小児東洋医学会」や「東京小児漢方研究会」などを知るに至り、参加するようになりました。
 まだまだ修行中の身ですが、西洋医学では「検査で異常がないので治療が必要な病気ではありません。様子を見ましょう。」としか言えなかった体の不調に対応できる漢方薬がたくさんあることを知るにつけ、ふだんの診療の中に少しずつ取り入れるようになりました。

 漢方医学を知ってから自分の診察方法が丁寧になったような気がします。
 漢方の基本的診察方法を「四診」と呼びます。
 「望聞問切(ボウブンモンセツ)」がその内容です。

 「望」は視診で視覚から得る情報、
 「聞」は聴診で聴覚から得る情報、
 「問」は問診で患者の言葉から得る情報、
 「切」は患者に触れて得る情報。

 優先順位は言葉の順番通り。
 つまり、手を体に当てて得た情報より目で見て耳で聞いた情報を大切にするのです。
 検査の数字より自分の五感を駆使して得た情報を信じるということです。
 血液検査など無かった時代に発達した医学ですから、当然といえば当然ですけどね。

 漢方的診察方法で特徴的なのはお腹の診察です(「腹診」と呼びます)。
 西洋医学では膝を立てて、お腹の緊張を解いて、内臓の形や大きさを手で確認する方法です。
 でも漢方医学では膝を立てません。足を伸ばしたままお腹に手を当てます。
 そして皮膚の状態・温度や緊張の程度、血管の拍動などあらゆる情報を得る努力をします。
 一言でいえば「体の声を聴く」感じですね。

 漢方医学を知ってから自然とお腹の診察に時間をかけるようになりました。
 するとその子どもの体力や性格さえも垣間見えてくるようです。
 お腹の筋肉が緊張している子どもは虚弱でふだんから緊張しがちな性格。
 朝お腹を痛がり幼稚園へ行けない子どもはみぞおちが硬くなりがちです。こんな小さな子どもがストレスで身をこわばらせているのを感じると涙が出そうになります。

豆知識:漢方の歴史ー漢方は日本の伝統医学です
 漢方はその昔中国から伝わった医学ですが、鎖国状態だった江戸時代に日本独自の発展を遂げました。その時点で中国医学とは一線を画する日本の伝統医学が形成された歴史があります。
 西洋医学が日本に伝わった幕末に、オランダ医学を「蘭方」と呼ぶようになり、それまでの日本の伝統医学を「漢方」と呼ぶことになりました。ですから、「漢方」は日本の伝統医学なのです。
 明治維新は欧米に追いつき追い越せという考えで日本古来の伝統を否定し始めました。医学も西洋一辺倒となり、西洋医学を勉強した人間でなければ「医者」になれないという法律を作ってしまいました。漢方医学不遇の時代がしばらく続きました。
 しかし昭和時代に入り、細々と伝えられていた漢方が見直され、カリスマ医師会長の武見太郎さんの尽力で漢方薬が保険収載されるに至り、復権の時代を迎えました。でも、私の医学生時代は漢方の講義はゼロ。講義が取り入れられるようになったのはまだ最近のことです。

(院長のつぶやき)明治維新以降、日本の伝統をないがしろにして西洋崇拝が始まってから日本という国がおかしくなったきたような気がします・・・私だけ?
 一万円札の肖像は「学問のススメ」の福沢諭吉より「和をもってと尊しとなす」の聖徳太子の方が良いと思います。

■ 漢方薬のススメ

 下記のような症状でお困りの方、漢方薬の効果が期待できますのでご相談ください。
 現代医学では病気と捉えない症状にも対応する薬が用意されています。漢方薬は「体を調整して望ましい状態に近づけ、病気に対抗できる体を作る」イメージです。ですから、同じ病気でも子どもの状態(体質・体力)により効く漢方薬は異なってきます。

【夜泣き・泣き入りひきつけ・寝ぼけ・夢遊病】
 現代医学では病気と考えないので「時期が来れば治まります」としか言われませんね。でも夜泣きは毎日のことなのでお母さん・お父さんは参ってしまいます。漢方では昔から「疳の強い子」に使う薬、「寝ぼけ」に使う薬などが用意されています。

【水いぼ】
 「水いぼ」や指にできるカサカサしたいぼ(尋常性疣贅)に効く漢方薬があります。
 急いでいるときは皮膚科で「いぼ摘除」するしかありませんが、時間的余裕があるなら1〜2ヶ月くらい試してみる価値があります。有効率は50%くらいでしょうか。

【汗っかき・寝汗】
 ふだんから汗をかきやすく、毎晩着替えが必要、あせもになりやすい、手の湿疹がなかなか良くならない、という子どもに「黄耆」という生薬が入った漢方薬が効きます。
 汗をかきやすいことは漢方的には「皮膚が弱い」「体力がない」ことの目安になります。私は西洋医学の治療法ではコントロール不良のアトピー性皮膚炎患者さんにも使用しています。

【風邪を引いてばかり・・・】
 「保育園・幼稚園へ行き始めてから風邪の引きっぱなし。うちの子どこか悪いんじゃないでしょうか?」・・・よく聞く話です。虚弱児に体力をつける漢方薬を長期服用させることにより風邪を引きにくくし、引いても軽く済むことが期待できます。
 当院のレギュラーメンバーになっているお子さん、試してはいかがでしょうか。

【花粉症】
 現代薬の抗アレルギー薬はたくさん発売されており、それで満足できている方は良いのですが、「効くけど眠くて困る」とか「鼻づまりがつらくて」などでお困りの方、「授乳中なので薬が飲めないと言われた」お母さんは漢方薬がお勧めです。花粉症に使う漢方薬は基本的に眠くなりません(かえって目が覚めます)。体質・体力により約10種類を使い分けます。

【便秘】
 現代医学では「下剤」を使いますが、漢方では「痛みを和らげながらお腹を温めて腸の働きを助ける」とか「食欲が出てその結果便通が良くなる」という薬を使用します。
 長期にわたり下剤を手放せいない子ども、下剤を使うとお腹が痛くてつらい場合は試す価値があると思います。また、ストレスがお腹に来やすい(毎朝登園時間になるとお腹が痛くなる)、下痢と便秘を繰り返す、外出先でお腹が痛くなるなどの「過敏性腸症候群」も漢方薬の良い適応です。

<小児漢方関連研究会>

 私(院長)がよく参加する研究会を挙げておきます。HPは「日本小児東洋医学会」しかなく、まだまだマイナーですねえ。

日本小児漢方懇話会
講演を記録した書籍集の紹介。

■ 東京小児漢方研究会
漢方に興味のある小児科医の集まり。