薬膳

 今から3000年以上前の周代の資料「周礼」(しゅれい)によると、当時の医師は食医(食事を管理する医師)、疾医(内科医)、瘍医(外科医)、獣医の4種類しか存在せず、その地位もこの順番だったそうです。
 つまり皇帝の食事を管理する「食医」の地位が一番高かったのです。現在に例えれば、管理栄養士が近いでしょうか。その任務は、肯定の体の状況に合わせて細かい食事指導をすること、皇帝が病気になってから治療をするのではなく、毎日の食事に配慮する方が重要であるという考えが根底にありました。
 私は現在「疾医」ですが、少しでも「食医」に近づくべく研鑽を積む日々です。

薬膳とは

<参考文献>「こども薬膳」(辰巳洋著)緑書房、2010年発行

 健康維持や老化防止、病気の予防や治療・回復に関わる膳食をまとめた概念。
 「薬」は治病の草、植物の野菜・穀類・果物などを意味する。
 「膳」は羊肉をはじめ、豚・牛・鶏・鴨などの肉を食べることを意味する。
 「薬膳」の文字は、植物も動物もバランスよく食べることを表しており、健康的な食事を意味する。
 薬膳には必ず目的がある。
 中医薬膳学の基本として、食生活における「食用」「食養」「食療」「薬膳」「食忌」がある。

■ 薬膳の基本内容

1.食用

 季節や時間、場所、人物により性格に食材を選択肢、食材・中薬の量を調整すること。

(例)
・子どもが1回当たりに食べる量が少なければ、回数を増やす。
・夏は暑いので、子どもにはよく熱を冷やすスイカを食べさせ、冬は寒いので鍋料理や煮物をよく食べさせる。

2.食養

 食材を用いて体を養う、食養生のこと。

(例)
・脳の発育を促進するために魚をよく食べさせる。
・身長を伸ばすために豚骨・スペアリブ・乳製品を食べさせる。
・消化促進のために穀類や野菜を食べさせる。

3.食療

 食材の効能により、病気を治療すること。

(例)
・子どもが風邪を引いた時には温かい粥、雑炊、スープなどを食べさせ、体を温めて風邪を治す。
・食べ過ぎの時には大根、カブを食べさせ、消化を促進する。

4.薬膳

 伝統的には、食療による治療が十分に効かなかった時に、しょうが、ねぎ、大葉、板藍根、ききょう、くちなし、なつめなどの中薬を加えて作る、病気を治す料理を指した。
 現在では薬膳の普及により、健康維持や病気の予防や治療に関わる膳食を、全てまとめて薬膳と呼んでいる。

5.食忌

 体質や病気によって、食べてはいけない、あるいは避けた方がよい食材があること。

(例)
・子どもが風疹、水痘、麻疹などの発疹性疾患にかかっている時に、魚、エビ、鶏肉は発疹を悪化させやすいので食べさせてはいけない。
・下痢の時に辛いものや油っこいものを食べさせるのはよくない。

■ 食材と中薬の五気六味

 五気六味とは、食材・中薬が本来持っている性質と味を指し、薬膳料理の効能は食材の五気六味によって達成する。
 加熱した物理的な温・熱性、または冷蔵庫で冷やした寒・涼性ではない。
 味も酢・砂糖・塩のような調味料の味ではない。

1.五気

 伝統的には寒・涼・温・熱を四気と呼び、平性を加えて五気となる。
寒性:体の熱を取り、冷やす性質。夏と高熱の時によく使う。
涼性:体の熱を取り、冷やす性質だが寒性よりは弱い。晩春から初秋の間によく使う。
温性:体を温める性質。秋から春の間によく使う。
熱性:体を強く温める性質。冬によく使う。
平性:体を冷やす力も温める力もない中立的な性質。一年中使用可能で、他の食材と組み合わせしやすい食材。

五気の性能・食材例
五気 寒性 涼性 平性 温性 熱性
効能 体内の熱を取り、体を潤し、毒を排除し、便通をよくする。 陰陽のバランスをとる。
体を温める、痛みを緩和し、気血の循環をよくする。
症状への適用 発熱・顔の赤み、のどの渇きと痛み、食欲過多、多汗、便秘 微熱、過度の興奮、不眠、高熱の回復期
他の食材と合わせやすく、他の食材の作用を緩和する。 食欲不振、元気のない時、寒気、発熱、頭痛、咳、発疹
冷え、頭痛、寒気、腹痛、下痢
食材 苦瓜、まこも、じゅん菜、豆腐、バナナ、スイカ、のり、昆布、しじみ、カニ 小麦粉、大麦、あわ、セロリ、きゅうり、茶、リンゴ、マンゴー 米、白菜、山東菜、キャベツ、里芋、山芋、大豆、小豆、とうもろこし もち米、ねぎ、みょうが、にら、カボチャ、クルミ、エビ、羊肉 ピーマン、ししとう、唐辛子、シナモン、山椒、コショウ


食品の「寒熱」分類例>(参考資料②)
サイズ 寒性(涼性も含む) 平性 熱性(温性も含む)
野菜・果物 キュウリ、ゴボウ、サツマイモ、椎茸、春菊、セロリ、大根、タケノコ、トマト、ナス、白菜、ほうれん草、三つ葉、モヤシ、レンコン、レタス
イチゴ、柿、キウイ、スイカ、ナシ、バイナップル、バナナ、メロン、ユズ、レモン 
イチジク、リンゴ、人参
キャベツ、カボチャ、小松菜、ジャガイモ、タマネギ、ネギ、ニラ、ピーマン、ヤマイモ、ラッキョウ
アンズ、梅、サクランボ、ブドウ、ミカン、モモ 
豆・穀類 粟、小豆、大麦、ソバ、豆腐 うどん、米、小麦、トウモロコシ、大豆、エンドウ豆、そら豆
 もち米
肉類・卵 馬肉、豚肉、若鶏肉、スッポン、アヒルの卵、鶏卵
 鹿肉、牛肉、羊肉、老母鶏肉、ウズラの卵
魚介類 アサリ、アワビ、イカ、貝柱、牡蠣、カニ、クラゲ、昆布、シジミ、ドジョウ、海苔、ハモ、マグロ スズキ、イシモチ、コイ、フナ 穴子、ウナギ、エビ、タチウオ、ナマコ 
調味料・飲み物 氷砂糖、塩、白砂糖、豚のラード、醤油
ウーロン茶、ドクダミ茶、緑茶、牛乳 

 カレー粉、黒砂糖、コショウ、ゴマ油、酒類、山椒、生姜、酢、唐辛子、菜種油、ニンニク、ハチミツ、味噌、羊乳、ロイヤルゼリー、ワサビ
杜仲茶 

2.六味

酸味:酸っぱい味。肝に入りやすい。
苦味:苦い味。心に入りやすい。
甘味:甘い味。脾に入りやすい。
辛味:辛い味。肺に入りやすい。
鹹味:塩辛い味。腎に入りやすい。
渋味:味をはっきりと持っていないもの。脾を中心として五臓に入りやすい。
芳香:食材と中薬が持っている香り。気分を爽やかにしたり、精神を安定させたり、食欲を誘う働きがある。

六味の効能・食材例
六味

辛   淡
酸っぱい 苦い 甘い 辛い 塩辛い ない
五臓 五臓
効能 慢性の’漏れる’症状を引き締める、よい水分を生じさせる。 消化を促進し、熱を清め、毒を排泄し、便通を良くする。 体を補い、痛みを緩和し、消化機能を調節する。 体を熱くし、寒気を取り除き、気血の流れを促進する。 固まりを柔らかくし、便通をよくし精血を生じさせる。 排尿を促進し、詰まった穴を通じさせる。消化機能を助ける。
症状への適用 多汗、のどの渇き、夏ばて、慢性の咳・喘息、頻尿、下痢 発熱、皮膚病、消化不良、便秘 体質虚弱、元気のない時、痛み、病気の回復期 かぜ、寒気、機嫌がよくない時 痰が多い、咳、喘息、のどの渇き、肥満、便秘、元気のない時 鼻水、鼻づまり、意識不明、昏睡、排尿困難
食材 梅、杏、ザクロ、レモン、酢 苦瓜、山菜、タンポポ、茶葉、アロエ 米、サツマイモ、ジャガイモ、蜂蜜、イチゴ 唐辛子、しょうが、ねぎ、にんにく、胡椒 昆布、海藻、ホタテ、アサリ、イカ、豚のレバー はと麦、とうがん、白菜、ゆば

■ 食材の組み合わせ

1.同じ効能を持つ食材を一緒に使う

 効果の増加が期待できる。

(例)
・臓腑の働きを補うサツマイモとジャガイモを組み合わせて使うと効能が高まる。

2.目的に合わせてメインとなる食材を決める

 中心になる食材は効能の強い食材を選択肢、他の食材がそれを補佐する形の組み合わせ。

(例)
・鶏肉とキャベツの組み合わせでは、ともに体を補う力があるが、その力は鶏肉の報が強い。一緒に使うとキャベツの助けにより鶏肉の強壮する効能がより高くなる。

3.副作用を消したり、軽減したりする食材もある

(例)
・刺身とわさび・大葉の組み合わせでは、生ものの刺身の体を冷やす作用や腐敗しやすさが、辛くて温性のわさび・大葉により抑えられる。
・ナスやインゲンとニンニクの組み合わせ。

★ 逆に組み合わせにより副作用が生じたり、互いの作用が低下することもあるので注意。

(例)お茶と柿:一緒に食べると便秘になりやすく、涼性の茶と寒性の柿で体を冷やす力が一層強くなるので、成長期の子どもには勧められない。

こどもの体の特徴

■ 中医学からみる体の構造

 中医学では体の構造を五臓を中心に捉える。
 一つの臓が一つの腑とつながり、液体も感情もその臓に合わせている。体内にあるその臓が必ず体表のある器官とつながっているため、体表からその臓の働きを観察することができる。

(例)
・感情を管理する肝(臓)は胆(腑)と爪とつながり、肝の液体は涙、感情は怒り。この関係から、目と爪から肝状況の良い悪いをみることができる。

液体 感情 つながる器官 現れる体表 働き




感情を管理
小腸



血液循環を促進
消化機能を司る
大腸 皮毛 気体交換を行う
膀胱 生殖機能、水の代謝を行う

■ こどもの生理の特徴

1.元気に満ちている「純陽の体」

 子どもの体は「純陽(麻の太陽のようにどんどん昇り調子の意)の体」と表現される。身長が伸び、脳が発達し、臓腑も発育するなど、全面的に成長が速く元気がいっぱい満ちている。

2.「臓腑嬌嫩」「形気未充」

 「臓腑嬌嫩」とは臓腑が柔らかいという意味。
 「形気未充」とは臓腑の組織の形と働きが不十分で弱いという意味。

①「腎気未充」

 腎気は腎の陽気で腎の働きを指す。未充は充実していないことで、腎気が充実していない状態を指す。
 子どもは成長が現れる10代に入るまでは腎気が成長する時期であり、腎気が充実していない状態にある。そのため、夜尿、尿回数が多い。

②「肝常有余」

 有余は「有り余る、程度が甚だしい」ということ。肝の働きが常に興奮しやすい状態を指す。
 中医学では肝は脳・神経・感情や筋の働きと関わると考える。子どもは特に肝が興奮しやすい特徴があるので、感情が不安定で、すぐに笑ったり、泣いたり、起こったりする。さらに高熱が出やすい、けいれんが多いのも「肝常有余」の表れである。

③「脾常不足」

 脾は消化機能を指し、胃・小腸・大腸・甘草・胆嚢・膵臓の働きを全て含む。
 子どもの消化器系の働きはまだ弱くて不十分であり、すぐ食欲が落ちたり嘔吐したり、腹痛・下痢になるのはこのためである。

こどものための薬膳の考え方

■ お勧めの食材

1.温性の食材を選ぶ

 子どもは「純陽の体」をもっていますが「腎気未充」「脾常不足」でもある。
 このような生理的特徴を十分理解し、温かい性質の食材を選び、温かい料理を食べさせることが大切。

(例)もち米、米、にら、カボチャ、鶏肉、豚肉、牛肉、タチウオ、イワシ、サケ、エビ、モモ、ミカン、クルミ、松の実、クリなど。

2.平性の食材は組み合わせやすい

 中立的な性質で温性・熱性・涼性・寒性のどの食材にも組み合わせやすく、一年中どんな体質にもどんな病気の時にも利用可能。
 子どもは「肝常有余」なので肝を穏やかに発育させるために平性の食材を用いる。

3.涼性の食材を上手に応用する

 暑い夏に用いることはもちろん、子どもの精神不安定、興奮している「肝常有余」の状態、発熱のある時にも用いる。

(例)小麦、大麦、はと麦、ソバ、クリ、セロリ、ほうれん草、チンゲンサイ、キュウリ、トマト、冬瓜、ナス、大根、鴨肉、おから、緑豆、リンゴ、ナシ、ビワ、マンゴー、オレンジなど

4.甘味の食材と砂糖を使い分ける

 甘味の食材は体を補い、消化機能を調節するので勧められるが、砂糖を使う必要はない。穀類、イモ類、野菜、果物などの食材に含まれている自然の甘味で子どもの成長に十分な糖分を供給できる。

砂糖の取り過ぎに注意
 甘いものを食べすぎると消化器系の胃・大腸・小腸の働きが妨げられ、食べたものが滞り、食欲不振、消化不良、偏食、肥満などの症状が現れる。もともと未熟なこどもの消化機能は甘いものを取り過ぎると高湿という日本の気候の影響で更に働きが鈍くなり虚弱になり食欲不振、嘔吐、下痢肥満、失神、アトピー性皮膚炎などの皮膚病などを発症する原因となる。
 子どもは砂糖の甘味を覚えると、盛んに欲しがるようになる。小さい時から砂糖漬けの食生活を送ると、湿が体内に滞りやすい虚弱な体質となるので要注意。

5.鹹味の食材は元気の素

 鹹味を持つ食材は腎に入りやすく、精血を作り、脳の発達を促進し、知能を高め、身長を伸ばし、性機能の発育を促進する働きがある。

(例)魚介類、鶏肉・牛肉・豚肉・豚骨・豚の腎臓・豚のレバー、鮫、タラ、イワシ、カツオ、ナマズ、イシモチ、マナガツオ、スズキ、サバ、タチウオ、ウナギ、ホタテなど。

■ その他の食材

1.寒性の食材

 寒性の食材は、猛暑の季節や高熱の症状がある時に一時的に使い、症状が緩和したら止めるように使用する。
 特に寒性の食材を冷蔵庫に保存し、調理する際に冷蔵庫から出してすぐ使うことは、子どもの陽気を傷めるので避ける。

(例)寒性のスイカは冷蔵庫に入れると更に美味しくなるが、中医学ではスイカを「天然の白虎湯」と呼び、熱を取り体を冷やす力がとても強いので、室温の状態で保存して食べるべきである。

2.熱性の食材

 熱生保食材は体を温め、発汗を促し、気血循環をよくし、痛みを緩和し、興奮させるなどの働きがある。
 機嫌が悪い時や元気をなくした時に一時的に使うと気分が伸びやかに愉快になるが、感情が不安定で興奮しやすい子どもには辛いものはたくさん使わない方が良い。

3.酸味の食材

 夏の暑さで子どもがたくさん汗をかき、のどの渇きを訴え、脱力している時に用いる。
 慢性の咳や喘息、頻尿、夜尿にも用いる。

4.苦味の食材

 苦い味は子どもが受け入れにくいためあまり利用されない。
 しかし、熱と毒を取る働きがあるので、高熱・のどの渇きと痛み、皮膚の赤みや腫れ、下痢や便秘などの症状の時に一時的に用いる。

5.辛味の食材

 辛味は風邪の時や機嫌が良くない時に、気血循環を浴し体を温める。
 発汗を促す、興奮させるなどの効果があるが、病気ではない時はなるべく避ける。

■ 年齢に応じた食事の提案

 薬膳の主目的が養生、病気の予防・治療の為の食事であっても、薬を飲むことと違い、見た目の楽しさ、食べる時のおいしさがないと膳とは云えない。
 子どもの消化機能を順調に成長させるために、調理方法を重視するのは当然のことで、目的に合わせて食材を選び、形を整え、適切な調理方法で料理の色・香り・美味しさを強調する。
 調理方法は子どもの消化機能が未発達であることを考慮し、粥、うどん、そうめん、餃子、煮物、蒸し物、卵焼きなどの、加熱して作る料理を勧める。

年齢 食事の提案 食事の回数
薬膳学からのアドバイス
1〜3ヶ月 新鮮なジュース 随時
市販のものではなく、手作りする。量は少なめ。
4〜6ヶ月 重湯、糊状の粥、卵黄、すりつぶした魚、加熱した野菜 母乳が中心だが食事をはじめる時期。食事は少量で1日1回。
1週間に1種類ずつ増やしていく。こどもの消化器系は弱いので、卵黄の量は1/6から開始する。アレルゲンに注意する。
7〜9ヶ月 やわらかいそうめん、粥、ビスケット、卵、魚、加熱した野菜 母乳を減らし、食事を1日2〜3回にする。 アレルゲンに注意。歯が生え始め、歯茎が痒いので、ビスケットやせんべいを与える。
10〜12ヶ月 濃い粥、やわらかいご飯、そうめん、パン、茶碗蒸し、ワンタン、豆製品、挽き肉、レバー、魚、加熱した野菜 母乳を減らして食事を1日3回にする。 食べる量は音なの1/3〜1/2になる。嘔吐・下痢などの消化不良に注意する。
1〜2歳  粥、やわらかいご飯、麺、餃子、パン、豆製品、やわらかい肉、加熱した野菜 1日に食事3回、おやつ2回とする。 脳の発達を良くするため、おやつとしてクルミ、胡麻、松の実、クリ、アーモンド、マカデミアナッツなどの木の実を用いた下肢を与える。気血を養うためにナツメ、落花生、カボチャなどを与える。
3〜6歳 粥、ご飯、麺、餃子、肉まん、パン、豆製品、肉、魚、加熱した野菜、乳製品 1日に食事3回、おやつ1回 身長の伸びに関心が向きがちだが、肥満に注意する。

<薬膳・食養生関連ニュース>

 ネット上のニュース、記事を拾い読み。

■ みんなの○○:薬膳料理(毎日新聞 2013年10月)

1 旬の食材、体調に合わせて(毎日新聞 2013年10月21日)

 秋が深まるにつれ、空気が乾燥して風邪をひいたり、体の冷えがひどくなったりして体調を崩しやすくなる。そこで、食べ物の力を借りて体の調子を整える薬膳料理に注目した。秋冬を元気に乗り切るため、国際中(こくさいちゅう)医師(中国政府による中国伝統医学の認定資格)で上海中医薬大学付属日本校(大阪市北区)の薬膳講師、赤堀真澄さん(43)に、薬膳の上手な取り入れ方を聞いた。
 薬膳の考え方では、食材にはそれぞれ特性や効能があり、体調に合わせて食材を選ぶことで体質改善や強化、病気予防などの役割を果たす。
 まずは食材選びだ。薬膳料理は日本ではまだなじみが薄く、「漢方を使った中国料理」というイメージが強い。赤堀さんは「漢方を使ったり中華風の味付けにしたりしなくても薬膳料理は作れる。季節の旬の食材、食べる人の体の状態に合った食べ物を選ぶことが大切です」と話す。
 旬の食材は、季節に対応して体に起こるトラブルを改善する働きを持っている。例えば、夏野菜は体の火照りを取り、水分補給をしてくれる。春が旬のタケノコは、冬の間に体にため込んだ老廃物を解毒する作用を持っている。乾燥する秋には潤いを補給する食材、寒い冬には体を温める食べ物を選べばいい。
 薬膳の世界では、食材を「青、赤、黄、白、黒」の各色に分類する「五色」という考え方があり、それぞれの色ごとに違う働きがあるとされている=表。自分や家族の体調に気を配っていると、どんな食材を取り入れればいいのかが分かってくる。
 赤堀さんが約7年間暮らした香港では、乾期になると梨が飛ぶように売れる。香港の人たちは、白い食材の梨が体に潤いを補給し乾燥から守ってくれることを知っているからだという。「香港では食の知恵が代々受け継がれ、皆が実践している。食べることで病気を予防することを意識してほしい」と赤堀さん。
 薬膳は続けることが大事。自分に合った食材が見つかったら、刻んでみそ汁に入れたり、ご飯に炊き込んだりして、毎日続けられる方法を探してみよう。【倉田陶子】

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 ◆五色の食材と働き

 ◇青

食材:サバやイワシなど青背の魚、ホウレンソウや小松菜など緑の濃い野菜
働き:血をさらさらにする。肩こりや血の巡りが悪い人に向いている

 ◇赤

食材:トマト、パプリカ、スイカ、赤ピーマン、カツオやマグロなど赤身の魚、赤色の強いラム肉や牛肉。ナツメやクコの実も
働き:血を補い全身に送る。貧血やふらつきなどの症状がある人にお勧め

 ◇黄

食材:豆、クリ、トウモロコシ、カボチャ
働き:消化機能を整え、元気を補う。体がだるい、やる気が出ないなどの症状を改善

 ◇白

食材:ユリ根、大根、レンコン、白キクラゲ、カブ、豆乳、豆腐、梨
働き:潤いを補給する。空気の乾燥で空ぜきが出るときに。肌をみずみずしくする効果もある

 ◇黒

食材:黒豆、黒ゴマ、黒キクラゲ。ナマコやアワビ、カキ、エビなど海からとれるものも含まれる
働き:成長や発育を促し老化を防止する。虚弱体質の改善やアンチエイジングに効果的

2 冷え改善、せき止めにレンコン(毎日新聞 2013年10月22日)

 国際中医師(中国政府による中国伝統医学の認定資格)の赤堀真澄さん(43)に、冷え性改善効果のある食材と薬膳料理2品を紹介してもらう。
 冷え性に効く食材は、アナゴ、エビ、カボチャ、キンカン、クリ、クルミ、黒砂糖、コショウ、サクランボ、サケ、日本酒、サンザシ、シソ、シナモン、ショウガ、酢、玉ネギ、陳皮(ちんぴ)、唐辛子、鶏肉、ナツメ、ナマコ、ニラ、ニンニク、ネギ、〓瑰花(まいかいか)(バラ科の花のつぼみ)、松の実、ミョウガ、もち米、モモ、ラム肉、ライチ、ラッキョウなど。種類が豊富なので、自分の好みに合わせて食材を選ぼう。
 赤堀さんのお薦めは、「レンコンのあったか団子汁 大葉とショウガの風味」だ。メイン食材のレンコンは「五色」の白い食材にあたり、体を潤す働きがある。大葉やショウガは体を温めてくれる。「レンコンはせき止めにも効果的。空気が冷えて呼吸器が乾く秋冬を、このスープで元気に乗り切ってほしい」と赤堀さん。くず粉でとろみをつけることで、風邪を追い出す効果が加わるのがポイントだ。
 具材が豊富な「八宝薬膳おこわ」は炊飯器で簡単に作れる。
 洗ったもち米とうるち米各100グラムを3時間水に漬け、水をきって炊飯器に入れる。細かく切った豚薄切り肉30グラム、1センチ角に切った干しシイタケ(水で戻す)2枚とニンジン20グラム、5ミリ程度に切った黒キクラゲ(水で戻す)5グラム、ゆでギンナン8粒、クコの実5グラム、ナツメ2個を加える。
 干しシイタケの戻し汁と水計200ccを入れ、薄口しょうゆ、和風だしのもと、塩で味を調えて混ぜたら、あとは炊飯器で炊くだけだ。ゆでたキヌサヤを斜め切りにして添えれば、彩りも美しくなる。
 赤堀さんは「もち米は、冷え性改善の薬膳に出番が多く、気力や体力をつけてくれる温め食材」と太鼓判を押す。ナツメ、クコの実、ニンジン、黒キクラゲ、ギンナンなどは、薬膳で「宝」と称されるほど薬効が高い食材だという。【倉田陶子】

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 ◇レンコンのあったか団子汁 大葉とショウガの風味

《主な材料》4人分

▽レンコン(皮をむいてすりおろす)150グラム
▽かたくり粉           大さじ4
▽塩、コショウ          少々
▽だし汁             900cc
▽薄口しょうゆ          大さじ1/2
▽みりん             小さじ1
▽塩               適量
▽大葉              3枚
▽ショウガのしぼり汁       大さじ1
▽白煎りゴマ           大さじ1
▽くず粉             適量

《作り方》

<1>ボウルにレンコン、かたくり粉、塩、コショウを加えて手でよくこねる。
<2>だし汁を火にかけ、ぐらぐらしてきたら(1)を手で丸めて落とす。
<3>レンコン団子に火が通るまで中火で煮て、薄口しょうゆ、みりん、塩で味を調える。水溶きくず粉でとろみをつける。
<4>器によそい、吸い口に大葉の千切り、ショウガのしぼり汁、白煎りゴマをトッピングする。

3 黒い食材でアンチエイジング(毎日新聞 2013年10月23日)

 冬になると、薬膳の世界では寒さに弱い「腎」を守ることが重視される。腎は腎臓などの泌尿器系や生殖、免疫系に関係し、人の成長や発育、老化をつかさどると考えられている。
 国際中医師(中国政府による中国伝統医学の認定資格)で上海中医薬大学付属日本校薬膳講師の赤堀真澄さん(43)は「腎が弱ると、下半身の冷え、腰や膝の痛み、頻尿や失禁、白髪や抜け毛の増加、精力減退などさまざまな老化現象が出てきます」と話す。冬こそ腎を強化して、アンチエイジングに取り組みたい。
 腎を守る食材は、黒豆や黒ゴマ、黒キクラゲなど「五色」の中の黒い食材が中心だ。また、ナマコ、アワビ、スッポン、カキ、エビなど海からとれる食材、クルミやクリ、シナモン、ニラも腎を強めてくれる。
 赤堀さんお薦めの薬膳料理「魚介とキノコの豆〓(トウチ)炒め」は、老化を防止する魚介類がたっぷり。キノコは免疫力を高めてくれる。カキが主原料のオイスターソースや黒豆を発酵させた「豆〓醤(ジャン)」など、調味料もアンチエイジングにぴったりだ。
 あっさりとした甘さで腹持ちがいい「ハスの実入り黒米の滋養しるこ」は、おやつとして食べられそうだ。
 4人分の作り方は、黒米50グラムを500ccの水に30分間漬け、漬け汁ごと鍋に入れて火にかける。軟らかく形が少し崩れるまで弱火で煮る。ココナツミルク200ccを加えて、氷砂糖(30〜50グラム)で好みの甘さに。氷砂糖が溶けたら完成だ。トッピングのハスの実は3時間水に漬け、軟らかくなったら、蓮子芯(れんししん)(中にある緑色の芯)を取り除く。水からゆでて軟らかくなったら、しるこに乗せる。
 「ハスの実はゆでた状態で冷凍保存しておくことができ、滋養強壮や心を落ち着かせる作用がある」と赤堀さん。黒米はアンチエイジングに効く黒い食材で、血管の老化を防ぎ、血の流れを改善する役割も持っている。漬け汁ごとゆでるのがポイントだという。【倉田陶子】

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 ◇魚介とキノコの豆〓炒め

 《主な材料》4人分

▽ホタテ貝柱        4個
▽ブラックタイガー     8匹
▽スルメイカ        1/2杯
▽魚介の下味として、かたくり粉大さじ1、酒大さじ2、塩コショウ少々
▽エリンギ         2本
▽シメジ          1パック
▽水            大さじ2
▽ニンニクみじん切り    小さじ2
▽ゴマ油          大さじ2
▽酒            大さじ2
▽しょうゆ         大さじ1
▽オイスターソース     大さじ1/2
▽豆〓醤          小さじ1
▽砂糖           小さじ1
▽松の実          大さじ1と1/2
▽付け合わせのチンゲンサイ 2株

 《作り方》

<1>エビは殻と尾、背ワタを取り背中側から開く。イカは皮を取り筒切りにし、ホタテやエビとともに下味に絡める。エリンギは根元を落として縦四つに割く。シメジは小房に分ける。
<2>フライパンでゴマ油大さじ1とニンニクみじん切り小さじ1を火にかけ、(1)のホタテ、エビ、イカをさっと炒めて一旦取り出す。
<3>同じフライパンでゴマ油大さじ1とニンニクみじん切り小さじ1を火にかけ、エリンギとシメジを炒める。水大さじ2を加えてさらに炒め、しんなりしてきたら、ホタテ、エビ、イカを戻す。調味料と松の実を加えて汁気が少なくなるまで炒める。
<4>ゆでたチンゲンサイとともに皿に盛り付ける。

■ うつ病予防の鍵は「食」にあり、「健康日本食」の効果とは(2013.08.05:メディカルトリビューン)

国立国際医療研究センター・南里明子室長に聞く
精神疾患にも「医食同源」を!

 病気の治療と日常の食事は根源が同じとする「医食同源」は、中国の「薬食同源」思想に着想を得て、1970年代初めに日本で造られた言葉だという。すでに一般社会でも知られている発想だが、精神疾患と「食」の関連についての研究が本格的に行われてきたのはここ十数年と、まだ日は浅い。とはいえ、ようやく国内外から研究の成果が集積されつつある。国立国際医療研究センター臨床研究センター(東京都)栄養疫学研究室の南里明子室長に、うつ病予防の観点から栄養や食事パターンとの関連について聞いた。南里室長が推奨する「健康日本食」のうつ病予防効果とは?

コーヒー・緑茶で39~46%の抑うつリスク低下

――代表的な栄養素と精神疾患との関連は?

 私自身が取り組んできた研究結果からも、いくつかの代表的な栄養素とうつ病や抑うつ症状との関連が示されています。
 まず、気分障害(うつ病や双極性障害など)との関連が報告されている葉酸について。21~67歳の日本人の男女530人を対象に検討した結果、女性では関連が示されなかったものの、男性では血液(血清)中の葉酸濃度が最も低い人と比べて高い人ほど抑うつ症状が47~67%減少しました(「European Journal of Clinical Nutrition」2010; 64: 289-296)。3年後に同じ人たちを対象に同じ検討を行ったところ、男女ともに葉酸濃度が高い人で抑うつ症状が減っていました「Psychiatry Research」2012; 200: 349-353)。
 また、血液(血清)中のビタミンD濃度(25ヒドロキシビタミンD=カルシフェジオール)は、夏場でも冬場でも統計学的に意味のある差ではなかったものの、冬場では抑うつ症状が減少する傾向が見られました(「European Journal of Clinical Nutrition」2009; 64: 289-296)。
 この論文を発表した当時(2009年)、ビタミンDと抑うつ症状の関連を調べた研究があまり報告されていませんでした。しかし、近年は報告数が増えており、カナダ・聖ヨゼフ病院のRebecca E. S. Anglin氏らの研究では、ビタミンD濃度が高い人たちに比べ、低い人でうつ病を発症するリスクが2.21倍、それまでの研究をまとめて解析した結果でもうつ病リスクが1.31倍に上昇していることが分かっています(「British Journal of Psychiatry」2013; 202: 100-107)。

――具体的な食品や飲料との関連については?

 緑茶・コーヒーと抑うつ症状について検討した私たちの研究があります。20~68歳の日本人の男女530人超を対象に検討したところ、緑茶またはコーヒーを飲む量が増えるほど抑うつ症状のリスクが下がっていきました「Public Health Nutrition」2013年3月4日発行電子版)。
 コーヒーについては、砂糖やミルクを入れているか、ブラックなのかについてまでは検討をしていません。ただ、この研究の筆頭著者である当研究部特任研究員のNgoc Minh Pham氏が担当している別の研究では、加糖飲料や砂糖の摂取量が多いほど抑うつ症状のリスクが上がるという結果が出ているようです。

「健康日本食」は抑うつ症状リスク56%下げる

――食事とサプリメント(栄養補助食品)による違いは?

 栄養素を食事から取るかサプリメントから取るのかについては、おそらく、単体の栄養素を摂取するサプリメントに対し、さまざまな食材の食べ合わせにより複合的に栄養素を摂取できる食事では、より大きな効果が生まれるのではないかと推察しています。
 「食」といえば、食事の時間なども関係してくると考えられ、私自身も大変興味を持っています。摂取時間やスピードなどとうつ病との関連についても検討してみたいと考えていますが、現時点ではまだ解析できていません。

――今後の研究における課題は?

 食事が先かうつ病が先かの順序を明確にすることと、本当に予防可能かどうかの検証が必要です。また、特定の栄養素だけでなく、食事全体と精神疾患の関連についても調べて行きたいと思っています。
 これまでに私たちが行った食事全体を検討したものとしては、日本人の男女約500人を対象に行った研究があります。食事内容を(1)「健康日本食」、(2)肉・魚中心の「動物性食」、(3)パンなどの「洋風朝食」―の3つのパターンに分け、その頻度と抑うつ症状との関連を見たところ、健康日本食のみで、割合が多いほど抑うつ症状のリスクが56%低下しました(「European Journal of Clinical Nutrition」2010; 64: 832-839)。
 ちなみに、上記の研究で「健康食」とはせず、あえて「健康"日本"食」としたのには理由があります。どの国でも健康食には野菜や果物が含まれますが、日本食にはキノコ類や大豆食品、小魚などが含まれているためです。
 これまで栄養素や食事パターンなどとうつ病との関連をテーマに研究を行ってきましたが、結局、食事のバランスが大切であることをあらためて感じています。上記で示唆されたような「健康日本食」によるうつ病の予防効果についても、今後は介入研究による検証を進めていきたいと思います。

■ 食器の色で食べ物の味が変わる(2013/07/12:CareNet)

 食器の大きさ、重さ、形、色が食べ物の味に影響を及ぼす可能性がある ことが、英オックスフォード大学のVanessa Harrar氏とCharles Spence氏の研究で示唆され、研究論文が「Flavour」6月26日号に掲載さ れた。
Harrar氏らは、「この結果は、食べ物の分量や塩分の量を減らすことに よって食習慣の改善に役立つ可能性がある。食べ物を味わうということは、味、食感、香り、見た目などいくつもの感覚が関わる。食べ物を口に入れる前にも、脳はそれを判断する」という。
 研究の結果、被験者は、ヨーグルトをプラスチックのスプーンで食べた場合、より濃厚で高価に感じた。白いスプーンを使うと、白いヨーグルトのほうがピンク色のヨーグルトよりも甘く、好ましく、より高価と評価した。黒いスプーンを使うと、この効果は逆転した。また、ナイフ、スプーン、フォーク、爪楊枝でチーズを食べると、ナイフを使った場合が最も塩辛く感じた。
 Harrar氏は、「食事の方法や食器類のわずかな変化が食事の楽しみや満腹感に影響しうる。食事を 出すとき、食物の色はその背景によって異なって見え、味も変わることに注意すべきである」とい う。以前の研究では、皿の重量と色が食べ物の濃厚さ、塩辛さ、甘さの感覚を変える可能性があるこ とが示されている。