「漢方薬を飲めたよ&効いたよ!」経験談集

 当院では西洋医学のくすりを使っていても効果が今ひとつ、西洋医学では病気と考えないけど日々つらい思いをしている、などの悩みに対してご希望により漢方薬を処方しています。
 でも味が苦かったり酸っぱかったりで「飲ませる」ことが大きなハードルになりがちです。
 処方する際に飲ませるコツを説明していますが・・・はて、飲めた子ども達はどんな工夫をしているんだろう、どんな風に効いたんだろう、と疑問に思い、漢方とお友達になれた子ども達の経験談を書いてもらいました。ご協力いただいた皆さんに感謝します。

<ご注意> 漢方薬は万能ではありません!
 経験談中に漢方薬の名前をそのまま記載しましたが「この症状にはこの漢方薬が効く」と早合点しないでください。同じ病名・症状でも、その子どもの体質・体調により薬の種類を替え、最適の治療に辿り着くまでに、実は長い道のりがあるのです

小柴胡湯加桔梗石膏「いびきがなくなりました」(Hくん、5歳)New_Icon_rd_01.png

(2014年4月掲載)

 4歳頃からイビキが目立つようになり、風邪を引くと悪化して無呼吸も出るようになりました。5歳時に溶連菌性咽頭炎に罹り、抗生物質と一緒に小柴胡湯加桔梗石膏を処方されました。飲み始めた翌日から寝ている時にイビキ・無呼吸が気にならなくなるほど改善して驚きました。ふだんよりよくなった感じです。

飲ませ方の裏技公開!

 薬を粉状にして少量のお湯で溶かし、100%リンゴジュースに混ぜました。飲ませるときに「呼吸が楽になってよく眠れる薬だよ」と言い聞かせて飲ませ、飲めたらご褒美として本人の好きなカルピスなどの甘いジュースを飲ませました。ココアやミロを勧められましたが、好きではないので試しませんでした。

院長のコメント
 H君はもともとアレルギー体質があり、魚を食べるとじんま疹が出たり、風邪を引くとゼーゼーしやすい傾向がありました。4歳の時にはスギ花粉症も発症しました。また、扁桃腺や頚部リンパ節などのリンパ組織(ワイダイエル輪)が過剰に発達し、息の通り道を狭くしてイビキをかくことも気になっていました。
 あるとき、溶連菌性咽頭炎に罹り、ふだんのイビキがさらに悪化して無呼吸も起こすようになってしまいました。
 そこで、スタンダードなペニシリン系抗生物質とともに、のどの痛みを和らげ炎症の熱を冷ます小柴胡湯加桔梗石膏を併用することにしました。上記の通り、期待以上の効果が得られました。

抑肝散「母子同服で夜泣きを乗り切れそうです」(Mくん、1歳)

(2013年8月掲載)

 1歳を過ぎた頃から夜泣きがひどくなり、夫婦共に寝不足で困っていました。たけい小児科を風邪で受診した際、ついでに夜泣きのことを相談すると漢方薬を勧められました。それも子どもと母親が同じ薬を飲むとより有効であると説明され「抑肝散」という薬を処方されました。
 飲み始めたその晩から効果が現れ、夜泣きがなくなり夫婦で驚きました。母親の私も同じ抑肝散を飲み、子どもが寝てくれることも手伝って気分がとても楽になりました。私は1週間程度で薬を止め、子どもは続けています。

飲ませ方の裏技公開!

 牛乳に溶かして飲ませました。指示量の半分程度でもよく効いて寝てくれます。

院長のコメント
 風邪症状で受診したM君を抱いて診察室に入ってきたお母さんの表情がとても疲れているように見えました。風邪の診療が一段落したところでそれを指摘すると「1歳過ぎから毎晩夜泣きがひどくて眠れていない。もう限界です。」と悩みを打ち明けられました。夜泣きはシクシクタイプかキーキータイプか尋ねるとキーキータイプとのこと。抑肝散を処方し、古くから伝わる母子同服(お母さんも子どもと同じ薬を飲む治療法)を試すことにしました。
 次の受診の時、お母さんの表情がとても明るくなったことが印象的でした。飲ませたその晩から寝てくれるようになったとのこと。「助かりました。」と感謝されました。抑肝散が適応になる教科書的な典型例でした。

辛夷清肺湯「鼻づまりが解消しスヤスヤ眠るようになれました」(Mちゃん、2歳)

(2013年7月掲載)

 赤ちゃんの時からよく風邪を引く子で、そのたび、鼻水・鼻づまりで苦しそうにしていました。肺炎を繰り返して病院へ通院したこともありました。
 今年の3月、風邪を引いてやはり鼻汁・鼻閉・痰がらみの咳が長引いていた時に、武井先生から「辛夷清肺湯」を処方され、飲ませてみるとズルズルだった鼻水が止まり、夜もスヤスヤと寝ることができました。
 朝夕と飲ませていましたが、薬の効き目が切れる時間になると、またズルズルズル・・・そしてまた飲ませると楽になるのがわかりました。
 この薬の効き目を実感しています。

飲ませ方の裏技公開!

 お薬の好きな粉ので、飲ませるのに苦労しませんでした。
 最初の頃はスプーンの裏でつぶして、お水で溶かしてあげていました。
 今では大人と同じように、そのまま口に入れ、自分でお水でゴックンと飲んでいます。

院長のコメント
 Mちゃんは1歳の時に肺炎を繰り返して病院へ通院し、肺炎/無気肺の陰が消えるまで半年ほど治療を受けていました。
 通院が終了して当院に戻ってきてからも、ふだんから膿性鼻汁ズルズル傾向あり、風邪を引く度にさらに鼻汁が増えて、湿性咳嗽がひどく、治るまでに時間がかかるタイプ。
 西洋医学の定番薬「アスベリン、ペリアクチン、ムコダイン」を使っていても埒があかないのです。とくに「鼻づまり」は鼻水がたまっているだけではなく、鼻の粘膜が炎症を起こしてむくんでいる要素がありますが、西洋医学ではこのむくみに効く薬はありません(実は点鼻薬があるのですが乳幼児には全身性副作用のリスクがあり使いにくい)。

「膿性鼻汁」「鼻閉」「湿性咳嗽」という症状で頭に浮かぶのが辛夷清肺湯です。肺の熱によるこれらの症状を、熱を冷ます(清熱)することにより和らげる方剤です。副鼻腔炎による鼻閉・膿性鼻汁のみならず咳嗽まで出てきた時に選択しています。
 処方したところ、苦労なく飲めて有効とのこと。私が舐めると苦味が強く、簡単に子どもが飲める薬とは思えませんが、「体に合う漢方はまずく感じない」というセオリーがここでも生きているのかもしれません。

黄耆建中湯「外出先のトイレ探しから解放されました」(Mちゃん、7歳)

(2012年1月掲載)

 小さいときから下痢をしやすく、お腹が痛いと泣きながらトイレにこもることが多い子でした。外出先ではトイレを探して飛び込むこともあり、最近では外出も消極的になりがちで困っていました。それからアトピーがあり皮膚科へ通院治療していましたが、なかなかよくならずこちらも悩みの種でした。
 そんな時、たけい先生のHPを発見し、翌日早速受診しました。
 漢方薬を処方され、飲み始めるとすぐに効果が現れました。さらに数ヶ月後には下痢も便秘もしなくなり、アトピーも少しずつ良くなってきました。お陰様で、子どもも「お腹が痛くならない、痒くならない」ととても喜んでいます。私(母親)が忘れていると催促するくらいです。

飲ませ方の裏技公開!

 お湯で溶かして牛乳を混ぜたらミルクティーみたいでおいしいと喜んで飲んでいます。

院長のコメント
 Mちゃんが「お腹を壊しやすいので体質改善したい」とお母さんといっしょに受診されたのは7歳になる前でした。もともとアトピー性皮膚炎(皮膚科通院)と軽い喘息もありました。
 一見して体の線が細く(当時17kg)、話を聞くと食も細く、便通が不安定で過敏性腸症候群の「便秘・下痢交代型」に当てはまる症状です。おまけに乾燥肌〜手足の関節には湿疹もありました。
 「食が細い」「線が細い」「便通不安定でお腹を痛がる」とくれば小建中湯の証ですが、それに「乾燥肌&湿疹」が加わると黄耆建中湯が頭に浮かびます。
 というわけで黄耆建中湯を開始したところ、
(2週間後)皮膚のかゆみが減り、食欲が出てきた
(1ヶ月後)下痢しなくなった、湿疹が落ち着き皮膚科通院せずに済むようになった
 とうれしい報告を受けました。
 こんな風に、漢方は弱い子どもの味方になってくれます。
 話が脱線しますが、TVアニメの「ちびまる子ちゃん」の登場人物に同級生の「山根」君がいます。オフィシャルHPのキャラクター紹介文は以下の通り;
ちょっとでも気になることがあったり緊張したりすると、すぐに胃腸が痛くなってしまう男の子。強くたくましい男になることを憧れていて、熱血になることもあるけれど、胃腸のことが心配でなかなか思い切った行動がとれない。
 彼にぜひ小建中湯を飲ませてみたいなあ。絶対効くはず。

抑肝散「かんしゃくが治まり別人のよう」(Kちゃん、1歳)

(2012年1月掲載)

 生まれたときから敏感な子で睡眠が浅く短く、いつでも大声で泣き叫んでいる状態でした、1歳になっても変わらず寝ぐずり、夜泣き、日中のイライラは続きました。力が強くなるにつれ、頭をガンガン壁に打ちつけたり、部屋中ゴロゴロ激しく転がったり、母子共々参っていました。
 風邪でたけい小児科を受診した際に何気なくこのことを話したところ、漢方を処方していただき試してみました。その時は良くなったかな程度で、期待したほどの変化はありませんでした(1歳3ヶ月時)。
 一旦お休みし、やはりかんしゃくがひどくて困り果て再度試したところ(1歳6ヶ月時)、今度は劇的な変化が!
 遊びに来たおばあちゃんが「こんなにおとなしくなって・・・どうしたの?」と驚いたほどです。一日中穏やかに過ごせるようになり、ふつうに会話が楽しめるようになりました。
 本当に漢方に感謝です。

飲ませ方の裏技公開!

 お湯で溶かして、麦茶で割って飲ませました。他の漢方薬もこのやり方で飲んでくれます。

院長のコメント
 Kちゃんは1歳過ぎに夜泣き/かんしゃくの相談をされ、抑肝散を処方しましたが、この時は効果は?でした。
 それから3ヶ月後、突然怒り狂うように泣き出し、泣き止まない状態が繰り返され、お母さんが参っているのを見かねて再度抑肝散を処方しました。ふつう、抑肝散が効かない例には第二選択として甘麦大棗湯を考えるのですが、Kちゃんの様子を聞くとやはり抑肝散の方が合いそうなので再投与してみました。すると今度は周囲が驚くほどの効果が得られました。
 なぜ最初は効かなくて、再投与の時は著効したのか、私にも分かりません・・・。
 抑肝散が終わって3日くらいすると夜泣きが再燃すると報告を受け、現在はまとめて処方しておいて、飲ませるペースはお母さんに任せています。

葛根湯加川芎辛夷「鼻閉・イビキが改善」(Mちゃん、2歳)

(2011年7月掲載)

 風邪をひくたびに、鼻水・鼻づまり・イビキ・口呼吸に悩まされ、耳鼻科で「アデノイド肥大」と診断され「十分手術適応の大きさです」と云われました。
 そんな時に武井先生からこの漢方を処方してもらい飲ませ始めたところ、徐々に鼻の症状が軽くなりいびきもほとんどかかなくなり、口呼吸も気にならなくなりました。その後も何度か鼻風邪を引きましたが、以前より軽くすんでくれる感じです。
 今まで長々と続く鼻のいろいろな辛い症状に夜眠れなかったり、食事や授乳にも集中できなかったりと本人だけでなく私もイライラして大変でしたが、今は風邪を引いても心穏やかに過ごせています。

飲ませ方の裏技公開!

 お湯に溶いてレンジで20秒チンしてスポイトで飲ませています。
 初めは水飴に溶かしたり、ヨーグルトと混ぜたりといろいろ試してみましたがうまくいかず、結局一番オーソドックスな方法が娘には飲みやすいことに気づきました。

院長のコメント
 Mちゃんは生後1歳を迎える頃から鼻汁が止まらず、耳鼻科へ長らく通院し「副鼻腔炎」「アデノイド肥大」と診断されていました。2歳を過ぎた時に風邪を引いた際、やはり耳鼻科で治療を受けるもイビキ・鼻づまりがあまりにも辛そうなので当院にも相談に来られました。
 一見して鼻づまりが辛そうで口で呼吸しています。器械で鼻水を吸い出すと、青色鼻汁が大量に吸引されました。
 既に耳鼻科で「副鼻腔炎」という診断を受けており、「鼻閉」がつらいのであれば、まず葛根湯加川芎辛夷という漢方が思い浮かびます。早速処方したところ、よく効いてくれました。
 例の如く、あまりおいしい薬ではありませんが「鼻が詰まっている患者さんはニオイがよくわからないので何とか飲んでくれる、鼻が通ってニオイがわかるようになり嫌がったら止めるタイミング」と漢方仲間の小児科医が教えてくれました。
 Mちゃんのお母さんはこの漢方薬を飲ませるためにはりきっていろいろ工夫されたようですが、「お湯に溶かす」という一番シンプルな方法で解決? ・・・「体に合う漢方はまずく感じない」という言い伝えがここでも生きているようです。
 その後はある程度まとめて処方しておいて、使い方は家族にお任せしています。Mちゃんは鼻が辛くなると「おくすり飲む」と葛根湯加川芎辛夷を欲しがるそうです(まだ2歳なんですけど)。

黄耆建中湯「水いぼが消えて皮膚がツルツル」(Yくん、6歳)

(2011年1月掲載)

 「水いぼを飲み薬で治したい」と希望して処方していただきました。数ヶ月で水いぼが消えました。それ以外にも、季節の変わり目に手足をはじめとして全身を痒がっていたのが全くなくなり、風邪も引きにくくなりました。武井先生が「水いぼが消えたからおしまいにしましょうか?」と聞かれましたが、上記のように子どもの体調がよくなるので希望して継続しています。

飲ませ方の裏技公開!

 ポットのお湯で溶かすだけ。抵抗なく飲んでいます。

院長のコメント
  Yくんは乳幼児期に喘鳴を反復し、いつもドライスキンで痒がるアレルギー体質です。水いぼができたとき、皮膚科受診を勧めましたが「むしり取るより飲み薬があれば試したい」と希望され、黄耆建中湯ヨクイニンを併用したところ、水いぼの増える勢いが止まり、3ヶ月程度で消えました。終了しようとしたところ「この漢方薬を飲んでいると風邪を引きにくく引いても軽くすむことを実感している。毎年悩まされているドライスキンもなぜかつるつる、この夏はあせもも軽く済んだので続けたい。」と希望されたのでした。
 他にも黄耆建中湯を飲み続けている患者さんが何人かいるのですが、冬の乾燥する季節になっても一目見てわかるほど皆皮膚がツルツルなんですよねえ。

黄耆建中湯&甘麦大棗湯「アトピー・夜泣きが改善」(Hくん、1歳)

(2010年12月掲載)

 乳児期に湿疹が出てからたけい小児科・アレルギー科にお世話になっています。
 生後5ヶ月頃から痒い湿疹に悩まされ、アレルギー検査で卵白・ミルクアレルギーが判明し「食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎」と診断されました。1歳までのアレルゲン除去と保湿ケア&ステロイド軟膏の治療を始めましたが、なかなか湿疹はよくならず、飲み薬を使うことになりました。はじめに補中益気湯という漢方薬を処方されましたが、症状は一進一退。その後、口にミルクが付着したら唇が腫れるというエピソードも経験しました。
 生後7ヶ月の時に黄耆建中湯へ変更となり、この薬は効いて乾燥肌と湿疹が軽くなりました。でも、夏の暑い日には赤味が増し湿疹が悪化してしまいます。消風散という薬を追加し、これも効きました。黄耆建中湯をベースに悪化時は消風散を併用するという方法で皮膚はよい状態に保てるようになり、気がつくとそれまで手放せなかったステロイド軟膏を1ヶ月ほど使用せずに済んでいることに気づきました。うれしい驚きです。真っ赤だった肌が今ではツルツル・スベスベ。
 1歳を過ぎて、夜泣きが目立つようになりました。ぐずりがひどく、体を反らして泣くのです。相談したところ、抑肝散というくすりを処方され、これも効きました。数ヶ月間は落ち着いていたのですが、また夜泣きが出てきたので再度抑肝散を飲ませたところ、なぜか今度は効きません。武井先生に相談して甘麦大棗湯というくすりに変更したところ、こちらの方が効きました。「気持ちが落ち着くくすりだよ」という言葉通り、興奮していた感じがなくなり、ゆったりした感じで寝ることができるようになりました。
 というわけで、その時その時に応じて様々な漢方薬を処方していただき、その都度効果を実感しています。

飲ませ方の裏技公開!

 飲み始めた生後5ヶ月の頃は離乳食開始前でまだ食材が使えず、マルツエキス(乳児の便秘薬)をお湯に溶かした漢方に入れて飲ませました。現在、黄耆建中湯は味付けせずにお湯に溶かしただけで飲んでいます。というわけで「裏技を使う」ほどは苦労していません。

院長のコメント
 最近は私自身がベースの薬(本治)と悪化時併用する薬(標治)の組み合わせを少し使いこなせるようになってきました。アトピー性皮膚炎のHくんも黄耆建中湯だけでは有効ではあるものの今ひとつで、悪化時に炎症の熱を冷ます消風散を追加することにより乗り切り、あとはお母さんに任せてうまくいっている状況です。黄耆建中湯が合うお子さんは「本当にアトピーだったっけ?」と思うほど改善します。調子がよいので「そろそろ終了しましょうか」と聞くと、継続を希望されます。「風邪も引きにくいし元気に過ごせているのは漢方のおかげ」を実感しているようです。
 夜驚症〜夜泣きにはいくつかの漢方薬を使い分けているつもりですが、これが効きそうだと処方しても必ずしも当たらず、2番目・3番目の処方で有効、という経験を繰り返しています(苦笑)。一般的に、かんしゃく持ちでキーキー泣くタイプには抑肝散、シクシク泣くタイプには甘麦大棗湯とされていますが、実際に使用してみると必ずしもそうではないのです。ヒットする確率を上げるべく、日々悪戦苦闘しています。

黄耆建中湯&消風散「アトピーの保湿ケアに手抜き可能?」(Rくん、4歳)

(2010年9月掲載)

 2歳頃からアトピー性皮膚炎が悪化し「たけい小児科・アレルギー科」を受診しました。その前に通っていた医院と同様の治療(抗アレルギー剤を飲んでステロイド軟膏を塗る)を受けるも、湿疹は一進一退。
 勧められた黄耆建中湯という漢方薬がよく効きました。
 飲み始めて1週間くらいから肌に張りが出てきて、湿疹も改善し保湿剤だけでほぼ大丈夫。もう手放せません。それでも汗の季節になるとかゆみが増し湿疹が出たりしたのですが、追加処方された消風散で改善しツルツルの肌を保てています。保湿ローションも今は1日1回でも大丈夫になり、本当にうそのよう・・・肌の手入れが楽になりました。

飲ませ方の裏技公開!

黄耆建中湯:湯に溶かす、牛乳に溶かすことで飲めました。
消風散:少し苦いらしく黄耆建中湯のようにはいきませんでした。ミロ+牛乳に溶かす、あるいはヤクルト系飲料に溶かすとゴクゴク飲んでくれます。

院長のコメント
 アンケートの回答は「ほめ殺し」のような文章ですね(苦笑)。
 Rくんもアトピー性皮膚炎治療ガイドラインに沿った西洋医学の診療(抗アレルギー剤内服+スキンケア+ステロイド軟膏)では今ひとつで、漢方薬を併用して改善した例です。
 お母さんが書かれた「肌の手入れが楽になりました」という文言こそ、私が目標としていたこと。
 アトピーのスキンケアは大変です。毎日複数回、子どもの体に保湿クリームと軟膏を塗ることはたくさんのエネルギーが必要であり、それが長く続くと家族も本人も疲れてしまいます。
 漢方薬を併用することにより、スキンケアに少々手抜きをしても大丈夫な状態がつくれればいいな、と考えています。
 最近、1種類ではなくて複数の漢方薬を併用し始めました。ベースに体質改善の薬、さらに悪化時の薬を上手く組み合わせると、治療効果が増すことが実感できています。

抑肝散&甘麦大棗湯「夜泣きが止まりました!」(Oくん、1歳)

甘麦大棗湯湿疹の痒み:生後3-4ヶ月頃、眠くなったり眠りが浅くなったときに頭や顔をひっかき、肌がひどく荒れてしまいました。その際、保湿剤と一緒にこの漢方薬を処方してもらい飲ませたら、ひっかくことがピタッと止まり肌も回復しました。
小青竜湯ガンコな鼻汁:シロップの鼻水止めを飲んでいてもなかなかよくならず、1週間様子を見た後にこの漢方薬を処方してもらいました。鼻の奥のグジュグジュが見事に治りました。
抑肝散夜泣き:昼夜問わずの寝ぐずり、夜泣きに効きました。眠たくなると頭をグシャグシャ掻きむしり、どう抱いても体を反らしてつっぱりなかなか寝てくれず、一旦寝ても目を覚まして大きな声で泣き、体を反らせて・・・という日々が続き母子共に参ってしまいました。この漢方薬を処方してもらったところ、その晩からピタッと夜泣きが無くなりました。
 ひと安心していると、また夜泣きが・・・でも今までのかんしゃくを起こしたような泣き方ではなく、シクシク泣きで抑肝散を飲ませても治まらず困りました。先生のアドバイスで甘麦大棗湯に戻したところ、またぐっすり眠れるようになりました。
 ひどいときは寝不足で目の下にクマまでできていたので、漢方に巡り会えて感謝しています。

飲ませ方の裏技公開!

 いろいろ試してみました。
① 少量のお湯に溶かしてスプーンで。少しずつ口の中に入れます。
② 3段階の味を順に口にさせ、ごまかしごまかし。ヨーグルト→イチゴのソース→漢方の繰り返し。長期間飲んでいたので慣れてくるのか、最後の方は直接そのままサラサラと口の中へ入れ、その後にミルクを飲ませる方法に落ち着きました。

院長のコメント
 赤ちゃんの夜泣きに西洋医学ではどう対処するのでしょう。
 私が調べた範囲では、お腹が空いていないか、おむつが濡れていないか、部屋の温度は適切か、服がきつくないか・・・等々チェックし、それでも原因がわからず泣き続けるなら抱っこして安心させましょう、と書いてあります。裏技としてレジ袋をもんでガサガサ音を立てると落ち着くらしい(お母さんのお腹の中にいたとき聞こえた音に似ているとの説)。
 一方、漢方医学では数種類の薬が用意されています。
 赤ちゃんがキーキー泣くときは疳の虫を抑える抑肝散、シクシク泣くときは甘麦大棗湯、もう少し大きくなって恐い夢を見たかのように泣き叫んだり歩き回ったりしたときは桂枝加竜骨牡蛎湯柴胡加竜骨牡蛎湯など。
 Oくんはかんしゃくを起こしたように泣きぐずると聞き、最初は抑肝散を処方したところよく効きました。しかし、しばらくするとまた夜泣きが出てきましたが、抑肝散を飲ませても効かないと相談されました。聞くと今度は以前と異なりシクシク泣くような感じらしい・・・それでは、と甘麦大棗湯に変更してみたところ、見事に夜泣きが治まりました。
 同じ患者さんの夜泣きでも、その様子により効く漢方薬が異なることを私も勉強させていただきました。なお、甘麦大棗湯はパニック障害にも有効な方剤として、抑肝散は認知症の異常行動(徘徊など)に有効な薬剤として近年注目されています。

小柴胡湯「ガンコな便秘が解消しました」(Rちゃん、4歳)

(2010年8月掲載)

 赤ちゃんの頃からガンコな便秘に悩まされ、ずっと下剤(ラキソベロン)を使ってきました。それでも3日に1回程度しか出なくて、出ても硬いので痛そうでした。漢方薬も何種類か処方してもらいましたが効いた感じはありませんでした。カマという下剤を使うと出るのですが下痢になってしまい困り果てました。最後に使った小柴胡湯という薬が良く効き、苦しまずに出るようになりました。併用していた下剤の使用回数も激減し、今は漢方だけで済むようになりました。

飲ませ方の裏技公開!

 エキス剤の粉をそのまま口に入れ、麦茶で飲んでいます。「ウンチが出る薬だよ」と言い聞かせて飲ませました。

院長のコメント
 Rちゃんが初めて便秘のくすりを使ったのは2歳の時です。痩せがちの体型を参考に、このときは小建中湯を使用しました。しかし嫌がって飲んでくれず、西洋医学のラキソベロンという下剤で治療しました。3歳の時、やはり便秘に苦しみ、乾燥肌もあったので黄耆建中湯を処方しました。今度は飲めましたが、肌は改善したものの便秘はウンともスンとも云いません。カマという下剤で治療しましたが飲むと下痢をしてしまい、なかなかうまくコントロールできませんでした。
 下剤に頼る治療をやめたい、漢方薬でなんとかならないか、との家族の要望があり、あらためてお腹を触ってみました。するとやせ形の体格に似合わず、結構しっかりしたお腹です。小建中湯より小柴胡湯の証に近いと判断して処方したところ、著効しました(今までの苦労はなんだったんだ?)。
 小柴胡湯はいろんな病気に使用される薬です。西洋医学の病名で云うと、咽頭炎、中耳炎、おたふくかぜ、肝炎、子どもの便秘など一見関係ない名前が含まれるので不思議な感じがしますが、漢方医学ではみぞおちに張りがあって熱と湿がこもった「小柴胡湯の証」があるときに使われる薬です。

子どもの便秘に効く漢方
 これで子どもの便秘に有効な漢方薬のラインナップが私の頭の中で揃いました;虚弱系・緊張系には小建中湯〜桂枝加芍薬大黄湯、お腹が冷えてしまりがないときは大建中湯、比較的しっかりしたお腹には小柴胡湯・・・この3種類を使い分ければ、たいていの子どもの便秘に効きそうな手応えを感じています。

葛根湯加川芎辛夷「繰り返す発熱&頭痛が減りました」(Kくん、6歳)

(2010年6月掲載)

 息子は2歳頃からひと月に2〜3回は発熱し頭痛を訴えることをず〜っと繰り返していました。複数の小児科・耳鼻科に通院し様々な薬を使いましたが、あまりよくなりませんでした。
 昨年転居してきて、漢方治療をしている「たけい小児科・アレルギー科」の噂を聞き、ワラをもつかむ思いで受診しました。はじめに使用した漢方薬は効いた感じはありませんでしたが、次に処方された漢方薬を飲み始めてからは、発熱はするものの何日も寝込むことが無くなり、頭痛も軽く済むようになりました。初めての手応えです。それから、いつも少量の鼻水が出ていてクンクンするクセがありましたが、気がつくとそのクセがなくなっていました。

飲ませ方の裏技公開!

 飲みづらい薬と説明され、薬局でオブラートを買ってそれに包んで飲ませてみましたが、口の中にくっついてしまい飲みづらそうでした。その後色々試してみました。現在は口の中に少し水を含ませ、そこに薬を投入し、さらに水を飲んで流し込む方法に落ち着いています。

院長のコメント
 K君が初めて当院に来たのは6歳の時ですから、幼児期から約4年間、毎月数回の発熱と頭痛に悩まされてきたことになります。お母さんの苦労も並大抵ではなかったことでしょう。
 すでに病院でアレルギー検査、血液検査、画像診断(MRI)を施行し「異常なし」と判断されていて、かえってどうしたらよいのかわからずに困っていました。
 当院初診時は溶連菌性咽頭炎を合併していたので、抗生物質と共に小柴胡湯加桔梗石膏を処方しました。これは耳鼻科領域の炎症や熱を冷ます目的で使うエキス剤です。しかし、飲んでいてもやはり再度発熱し、頭痛を訴えて来院しました。
 次に試したのが、葛根湯加川芎辛夷です。これは蓄膿症や花粉症により慢性化した鼻閉に有効なエキス剤です。処方して1ヶ月後に再診されたときは「発熱と頭痛の頻度・回数は変わらないけど何日も寝込んでいたのが1日休めば登校できるようになりました」と症状の軽減を報告してくれました。
 漢方薬を続けたいとの希望あり、初めて有効感のある治療に出会えてお母さんの表情も明るく見えました。

小青竜湯「ティッシュの大山が小山になりました」(Kちゃん、11歳)

(2010.5月掲載)

 幼児期にアレルギー性鼻炎を発症し、一年中鼻水と鼻づまりに悩まされていました。どこへ行くにもティッシュが必需品で、学校の先生に「ティッシュが落ちているその先には必ずKちゃんがいる!」とまで言われるほど。使用済みティッシュがいっぱいになりポケットからはみ出て落ちてしまうのです。自宅でのティッシュの消費量も半端ではありません・・・このまま成長して年頃になっても鼻をズーズーしていたらどうしよう、と心配する日々。
 いくつかの病院で治療を受けましたがなかなかよくならず、半分あきらめ気分でいました。
 ところが11歳の時に「たけい小児科・アレルギー科」を受診した際、勧められるまま漢方薬を飲み始めたところ、ガンコだった鼻づまりが改善するのを実感しました。何よりティッシュの大山が小山になったことに母子ともども喜びました。
 調子いいと飲み忘れてしまいがちですが、しばらくするとまたティッシュの山と鼻づまり&頭痛が始まります。この娘には漢方が欠かせません。

飲ませ方の裏技公開!

 錠剤なので、なんとかガマンして飲めています。

院長のコメント
 Kちゃんは通年性のアレルギー性鼻炎で春先には花粉症の症状も重なります。今まで一通りの西洋医学の治療を受けても「よくならない」と当院を受診されましたので、はじめから漢方薬を使いました。
 まずアレロックに小青竜湯を併用。
 効きました。
 上記の通り「ティッシュの大山が小山になった」と言われたことがとても印象に残っています(笑)。
 しかしその後、風邪を引くと鼻閉〜前頭部頭重感(鼻の奥と両耳の奥が痛い)の訴えが目立ち、小青竜湯を葛根湯加川芎辛夷に変更したところ、こちらの方がさらに良い感じとのこと。現在も続行中です。

小建中湯「冷え性と便秘が一気に解決しました」(R君、2歳)

(2010年5月掲載)

 ふだんから手や足が冷たく、便の出が悪くて3〜4日出ないことが多かったのですが、漢方薬を飲み始めてから1週間くらいで便通がよくなり、食も細かったのが以前より食べるようになり、体も活発に動かすようになりました。

飲ませ方の裏技公開!

 次の順番で試しました;
① 少し水を入れてレンジでチンして溶かしてからヨーグルトに混ぜて飲ませる
② やはり溶かしてからクラッシュタイプのコンニャクゼリーに混ぜて飲ませる
③ 口にお茶や水を含ませ、そのまま口に薬を入れてしまう。「シャリシャリするよ〜」と言いながら飲めたらすぐに褒める。

院長のコメント
 R君の漢方初体験は1歳の時。
 手足がいつも冷たくて冷えると下痢をしやすいとのことで、お腹を温めて下痢を治す人参湯を試したところ、手足が温かくなり便性も改善しました。
 次に使ったのは上記の便秘の相談時。
 硬便で出すときも肛門が痛くて泣いていたそうです。この時は小建中湯を使用しました。お腹を温めて発達を促す子ども用の漢方薬です。
 すると、食欲が出て元気が出て便通もよくなるという、理想的な効き方をしました。「食事に30分くらいかかっていたのが半分の時間で済むようになった」とお母さんが喜ばれていたのが印象的に残っています。
 以降、小建中湯がなくなる頃に顔を見せがてら薬をもらいに来ます。自己調節して調子が悪いときに頓服で使用しているようです。

自己調節の可否
 西洋医学では決められた服用方法を守らないと医師に叱られますよね(苦笑)。でも漢方では、有効な薬が見つかったら基本的に自分で調節してかまいません。けっこうマニアックに「朝はこれ、夜はこれ、調子が悪くなったらこれも併用」と使い分けている人もいます(実は私自身)。

小柴胡湯加桔梗石膏「溶連菌性咽頭炎の反復がストップ」(R君、10歳)

(2010年5月掲載)

 小学校一年生の時の話です。春から溶連菌に何回も罹り、その都度学校を休んでいたので夏休みに扁桃切除の手術をした方がよいと言われ、耳鼻科に紹介状を書いてもらいました。でも検査さえ恐くてできず、「手術は絶対イヤ!」と子どもが拒否するので困って武井先生に相談しました。
 「漢方薬を試してみましょう」と勧められ飲み始めたところ・・・なんとそれ以降一度も溶連菌に罹らなくなったのです。他の風邪も引かなくなり、家族一同驚きました。この薬のおかげで手術をせずに済みました。本当によかったです。

飲ませ方の裏技公開!

 エキス剤をお湯に溶かして麦茶を混ぜて飲みました。本人は飲みやすいと云ってます。

院長のコメント
 R君は当院における溶連菌性咽頭炎の最高記録保持者で、なんと12回!
 検査で溶連菌が陽性になるとペニシリン系の抗生物質を10日間服用してもらい、一旦治るのですが、しばらくするとまた「先生、喉が痛い〜」と受診し、再検査するとまた陽性・・・このエンドレスの繰り返しに私もサジを投げ、耳鼻科に紹介状を書きました。
 案の定「手術で扁桃を取りましょう」と言われて帰ってきました。
 しかし本人がどうしても手術はイヤだと言い「何とかなりませんか?」とお母さんに泣きつかれました。
 抗生物質の投与では解決しないことはわかっていたので、漢方薬を試すことにしました。頭頸部の熱を冷ます小柴胡湯加桔梗石膏というエキス剤です。この薬はおたふくかぜで耳下腺が腫れ痛くて食事が取れないときも有効です。喉の痛みが続く風邪に一番効くと、当院のスタッフに評判のよい薬でもあります。
 さて、飲み始めて・・・あれ? 溶連菌にならない?!
 反復していた溶連菌性咽頭炎がピタリと止まってしまったのです。
 家族も驚きましたが、処方した私自身もビックリ。こんなに効くなんて・・・その後、確かに風邪で通うことも激減しました。
 薬は1年間継続し、終了としました。近年は年に1〜2回、風邪で顔を見せる程度のふつうの患者さんになっています。

葛根湯加川芎辛夷「鼻で息ができるようになったよ!」(Y君、11歳)

(2010年5月掲載)

 幼児期から慢性のアレルギー性鼻炎があり、いつも鼻が詰まって口で呼吸をしている状態でした。いくつか抗アレルギー薬を試しましたがウンともスンとも云わず、漢方薬を併用し始めたら改善を実感しました。旅行などで服用を忘れると、途端に口呼吸に戻ってしまいます。ふだんは(効いているのかな〜)と思ったりしますが、じんわり効いているなあと思います。粉薬は飲めないので、錠剤タイプの漢方薬というのは飲ませる方(親)としてもありがたいです。

飲ませ方の裏技公開!

 錠剤なのでふつうに飲めています。

院長のコメント
 電車好きのY君は通年性のアレルギー性鼻炎と春先の花粉症があります。お母さんの書くとおり、一年中鼻閉が強く口で呼吸していました。
 8歳の時、当院で治療を始めました。どんな薬を使ったかというと・・・
 抗アレルギー薬のアレジオン → 有効感なし
 アレロックへ変更 → ちょっといいかな?
 アレロック&小青竜湯 → 効いた!けど鼻閉はそのまま・・・
 小青竜湯増量&プランルカスト追加 → まあまあ・・・
 小青竜湯を葛根湯加川芎辛夷へ変更 → 鼻で息ができた!
 と長〜い経過を辿りました。幸いなことに、小青竜湯(※)と葛根湯加川芎辛夷は錠剤が用意されています(粉を固めただけの大きいモノですが)。
 そして現在、アレロックと漢方の併用に落ち着きました。漢方薬は小青竜湯と葛根湯加川芎辛夷を鼻汁/鼻閉の程度で使い分けています。
※ その後、小青竜湯の錠剤は飲みにくい「クラシエ製」から表面のコーティング処理がされて飲みやすくなった「オースギ製」へ替えました。

大建中湯「ガンコな便秘が解消しました」(H君、2歳)

(2010年4月掲載)

 乳児期からガンコな便秘で一日中息んでいるときもあり、下剤を使用してやっと出すという日々が続いていました。漢方薬を処方していただいたところ、3つ目の薬がよく効いて、ほぼ毎日、順調に便が出るようになりました。

飲ませ方の裏技公開!

 くすりをヨーグルトプリンに混ぜ、一緒にすり潰したものを飲ませました。

院長のコメント
 H君の便秘治療はカルテの記録では1歳過ぎからです。当初西洋医学の下剤を2種類併用していましたが、大人量まで増やしてようやく排便があるガンコな便秘でした。食生活もパン中心から米中心にするようアドバイスしましたが便秘は変わりません。
 1歳10ヶ月のときに初めて漢方を処方しました。まずは小建中湯。食が細く、線が細く、虚弱でおなかのトラブルが多いと子どもに良い薬です。
 でも、手応えは感じられませんでした。
 続いて、小建中湯の強化版である桂枝加芍薬大黄湯を試しました。これは小建中湯の組み合わせに「大黄」という下剤成分を追加した方剤です。
 これも手応えがありません。う〜ん、困った。
 もう一度、よく診察してみました。
 H君は発達がマイペースで運動量が少なく、線が細いというよりどちらかというとぽっちゃり系。お腹は柔らかいのですが、小建中湯系の柔らかさではなく、しまりがないかんじのフニャフニャ感です。おへそのあたりを触るとひんやり冷えています。
 これは小建中湯の「証」(漢方の診断名)とは違うな・・・
 と気づき、腸の動きが気が悪いときに使う大建中湯へ変更してみました。
 実は、この薬は外科の領域では有名な漢方です。お腹の手術をして腸が麻痺状態になった際、このくすりを使うと回復がよいことが認知されています。
 そして・・・上記の通り、驚くほどよく効きました。
 辛くて飲みにくい薬なのに、お母さんの工夫で難なく飲めている様子。
 同じ「便秘」という訴えでも、状態(「証」)により効く漢方薬が異なることを患者さんから教えていただきました。感謝!

桂枝加黄耆湯「アトピーの軟膏は皮膚科、漢方は小児科」(K君、16歳)

(2010年3月掲載)

 小学5年生頃からアトピー性皮膚炎がひどくなり、皮膚科へ通院していました。中学生になってから処方されたステロイドの塗り薬が効かなくなり、かゆみもひどくて悩んでいました。
 そんな時、武井Dr. から漢方薬を勧められ、服用するようになってからは皮膚症状も落ち着き、塗り薬で湿疹が抑えられるようになりました。

飲ませ方の裏技公開!

 最初に口にぬるま湯を含むと飲みやすいようです。
 くすりの味がどうしてもイヤなら、オブラートで包んでしまうのがよいようです。

院長のコメント
 K君とは勤務医の頃からの長い付き合いですが、私が開業してからはしばらく縁遠くなっていました。
 上記のごとくアトピー性皮膚炎で皮膚科へ通院し、ステロイドを含む軟膏と抗アレルギー薬内服で治療していたようです。
 たまたま当院を風邪で受診したとき、体中に1cm弱の丸くて硬めの赤い湿疹がたくさんできて、顔は目のまわり全体が赤くなっている状態でした。
 見るに見かねて「漢方を試してみる?」と聞いたところ、飲んでみたいとのこと、最初に使用したのが桂枝加黄耆湯です。桂枝湯という風邪薬に皮膚を強くする黄耆という生薬が入った薬です。
 効きました。
 この時から「軟膏は皮膚科、飲み薬(漢方薬)は当院で」という不思議な治療が始まりました。ふつう、皮膚科の先生は嫌がるパターンですが、心の広い先生らしく「患者さんが良くなればOK」というスタンスで、ダブル通院も大目に見てくれました。
 しかし、中学生時代はあまり熱心に通院せず、漢方薬がなくなって湿疹が悪化すると受診するペースで湿疹は一進一退。いつも目のまわりが赤かったのが印象に残っています。
 途中、目のまわりに湿疹が残っているときに使う梔子柏皮湯という薬を処方したことがあります。
 反応は「最低の味!」と拒否されてしまいました(苦笑)。この薬に入っている黄柏という生薬がとても苦いのです。
 症状には波があり、部活で汗をかくと悪化する傾向がありました。夏季に汗で悪化する皮膚病に使う消風散という薬を一時併用したところ、よりよいコントロールが得られました。
 高校生になった現在は一人で通院しています。お母さんの前ではあまりしゃべらない少年でしたが、随分しっかりした青年となりなした。
 治療は桂枝加黄耆湯をベースに増悪時は消風散追加、というパターンで自己調節してもらっています。

小建中湯「季節の変わり目の体調不良が解消」(Sちゃん、8歳)

(2010年3月掲載)

 季節の変わり目に微熱が出やすく、食欲が落ちて「気持ちが悪い」と訴えることが多くなります。かかりつけ医のDr. 武井に勧められて2009年秋から漢方薬を飲み始めました。すると訴えが減り、冬になっても風邪らしい風邪を引かず、熱を出すこともなく過ごすことができました。以前と比べると食欲も出て、便通もよくなりました。漢方のおかげと思っているのですが・・・。

飲ませ方の裏技公開!

 くすりが苦手でそのままでは飲めませんでした。「漢方薬の上手な飲ませ方」に書いてある「オブラートを使う方法」でうまくいきました。エキス剤をオブラートに包んで、お湯を入れたカップの中に入れ、スプーンですくって飲んでいます。

院長のコメント
 Sちゃんは小さい頃から通っているなじみの患者さんです。食が細く、線が細く、目の周りのクマが目立ち、虚弱な印象がありました。虚弱児を元気にしてくれる小建中湯がいかにも効きそうだなあ、とひそかに思っていたところ、「気持ちが悪いとか、お腹の症状を時々訴えるんですよねえ」とお母さんから相談されました。
 (待ってました!)
 とばかりに早速小建中湯を処方したところ、2週間後にはお腹の訴えが減ってきました。その後の経過は上記の通りです。
 漢方薬をオブラートに包んで口を閉じ、水の中に沈めて表面をヌルヌルさせて、水と一緒につるっと呑み込む方法は某漢方セミナーで教えていただいた方法です。ホントに味を感じることなく飲めてしまいます。飲ませたいけど飲んでくれない、学童以降のお子さんには是非お試しあれ!

小青竜湯「イネアレルギーのじんま疹から解放」(T君、8歳)

(2010年3月掲載)

 幼児期から春夏になるとじんま疹に悩まされ、皮膚科に通っていました。「もしかしたらアレルギー?」と思い「たけい小児科・アレルギー科」を受診し、血液検査をしたところイネ科のアレルギーが判明(アレルギー体質も強いとわかりました)。漢方薬を始めてから鼻水・鼻づまりが改善しただけでなく、じんま疹も出なくなりました。
 その後、スギ花粉症もデビューしてしまい、1年中漢方薬のお世話になっています。花粉症の症状も大分楽になったようです。

飲ませ方の裏技公開!

 はじめは粉薬だったのでお湯で溶かして飲んでいました。今は錠剤となり、難なく飲めています。かなり大きい錠剤が3錠ですけど、平気みたいです。

院長のコメント
 T君が春夏のじんま疹に悩まされ始めたのは3歳の頃から。鼻水・鼻づまりのアレルギー性鼻炎症状もあったようですが、皮膚科で抗アレルギー薬内服治療をしていました。
 当院初診時に血液検査をしたところ、アレルギー体質の目安であるIgEが2000を越える高値!、かつラスト検査ではイネ科の花粉であるハルガヤ・カモガヤ・ほそ麦・オオアワガエリの値がクラス6(生データでは100以上)と針が振り切れている状態でした。
 じんま疹に対しては、別の抗アレルギー薬へ変更し、鼻症状もつらそうなので小青竜湯を併用することにしました。すると鼻症状が楽になっただけでなく、じんま疹まで消えてしまいました(想定外!)。
 小青竜湯は鼻・喉に水がたまっている状態を絞り出してくれるイメージがある漢方薬で、あまりじんま疹を目標に使用する薬ではありません。ただ、広く「皮膚表面近くの水をさばく」と捉えると、じんま疹も皮膚表面に体液がたまった状態ですから、カバーしてくれたのかもしれません。
 そういえば、思春期の女子に花粉症の治療として小青竜湯を投与したところ、ニキビがよくなったと喜ばれたこともありました。
 さて、6歳のときにスギ花粉症もデビューしてしまったT君。鼻づまりがつらくて一時期葛根湯加川芎辛夷に変更しましたが、少し良くなると本人希望により小青竜湯へ戻しています。このくすりが気に入っているようです。
 実はT君のお姉さんのMちゃん(11歳)も小青竜湯愛用者です。通年性アレルギー性鼻炎で耳鼻科へ通院していましたが、弟が漢方薬を飲み始めて良くなったのを見て、当院で治療をされました。始めは苦くて嫌がったのですが、鼻水・鼻づまりが以前より楽になったのを実感し、今は渋々飲んでいるようです(笑)。鼻をかむ回数も減ったとのこと。

漢方薬の錠剤
 漢方薬のエキス剤はインスタントコーヒーのようにフリーズドライ状態になっています。もともと煎じ薬(生薬の煮出し汁を漉して飲む)でありお湯に溶かして飲む方法が望ましいのですが、その味とニオイを体が受けつけず、どうしても飲めない方がいらっしゃいます。そのような人のために一部のエキス剤には錠剤が用意されています。ただし、粉をそのまま固めたのではないかと思われるほど大きい(1cmくらい)のが玉にキズです。

黄耆建中湯「今までのアトピー治療で一番有効」(Aちゃん、2歳)

(2010年3月掲載)

 赤ちゃんの頃からアトピー性皮膚炎と診断され他の医院で治療を受けていましたが、なかなか良くなりませんでした。特に手の湿疹がひどく、がさがさゴワゴワしてかゆみが強くかわいそうでした。
 1歳9ヶ月のときに「たけい小児科・アレルギー科」を受診し、勧められて漢方薬を始めたところ、2週間後には湿疹が目立たなくなり、かゆみも随分楽そうになりました。
 現在もスキンケアをしっかりしないとすぐ悪化してしまう状態ではありますが、以前よりは悪化しづらいことを実感しています。

飲ませ方の裏技公開!

 お湯で溶いた後、市販のカラメル・シロップを入れて、冷蔵庫で冷やします。ジュース感覚で飲めるので、小さな子どもでも嫌がらずに飲んでくれます。

院長のコメント
 Aちゃんは乳児期発症のアトピー性皮膚炎で、卵アレルギーもありました。軟膏療法、抗アレルギー薬内服の治療を他院で受けていましたが一進一退だったとのこと。
 当院初診時は顔・体よりもとにかく手の湿疹がひどかった。全体が赤くてカサカサでゴワゴワ(苔癬化と呼びます)。これはステロイド軟膏でも強めのものを使わないと効きません。
 今までの経過も考慮し、スキンケア・軟膏療法に加えて漢方薬併用をお勧めしました。皮膚が弱く、風邪を反復しやすい虚弱系の子どもに使う黄耆建中湯を2週間分処方したところ、再診のときには手の湿疹が明らかに改善していました。かゆみも減って楽そうとのこと。
 子どもに薬を飲ませるときに「冷やす」のは成功率の高い方法です。
 人間の味覚は温度により感じ方が変わります;苦味・甘みは冷たいと感じにくくなり、酸味は冷たい方が感じやすくなります。ですから、苦い薬は冷たい方が飲みやすいと云うことになりますね。
 Aちゃんはその後、乾燥の季節である冬を迎えると、湿疹が勢いを増し、かゆみも強くなりがちで、抗アレルギー薬の併用も開始したところです。体全体の赤みも目立つので経過により「熱を冷ます」漢方薬の併用なども検討したいと考えています。

柴胡清肝湯「やっとアトピーに合う漢方に出会えました」(H君、5歳)

(2010年3月掲載)

 乳児期からカサカサしたかゆい湿疹が出始め、アトピー性皮膚炎として軟膏と飲み薬の治療を受けていました。
 4歳の頃悪化し、勧められて漢方薬を試しました。しかし、なかなかよくなりませんでした。数種類試し、4つ目がよく効きました。現在は2つの漢方薬を併用することで皮膚の状態は良好に保てています。

飲ませ方の裏技公開!

 始めの頃はプリンをスプーンですくい、その上に漢方薬をトッピングして食べさせていました。最近は「コレを飲むとかゆいのがよくなるんだよ」と説明するとガマンして粉をそのまま口に入れ、水で飲んでくれるようになりました。

院長のコメント
 H君は乳児期に卵アレルギーとアトピー性皮膚炎を発症、4歳で喘息と診断された筋金入りのアレルギー体質です。
 漢方薬初体験は2歳のとき。下痢が治療にもかかわらず1ヶ月以上長引きました。下痢が遷延してお腹が冷えて衰弱したときに使う人参湯を処方したところ有効だったとカルテに記されています。
 4歳のときにアトピー性皮膚炎に対しては漢方を試し始めました。通常の保湿ケア&ステロイド軟膏&抗アレルギー薬内服にてもかゆい湿疹がよくならず、困っての選択でした。
 最初は「寝汗をかきやすい」をキーワードに桂枝加黄耆湯・黄耆建中湯を処方しましたが、無効。
 次に、複数のアレルギー疾患で数年以上悩まされて疲れた体をいたわる目的で補中益気湯を試したところ、少しよい感じでしたが「有効!」と判定するほどではありませんでした。
 4つ目に選んだのは柴胡清肝湯。長年の乾燥肌と湿疹で皮膚が浅黒くなった、ちょっと神経質なやせ気味の少年に効く漢方です。でも味が苦くなかなか飲んでもらえないので、出番の少ない薬でした。
 これは効きました。乾燥性湿疹がかなり改善しました。
 しかし、汗をかくとその度に悪化するパターンが残りました。そこで、夏に汗をかくと悪化する湿疹(あせもも含む)に対して使う消風散を併用したところ、これもよく効いてくれました。
 というわけで、柴胡清肝湯ベースに、悪化時は消風散という組み合わせに落ち着いたのでした。漢方薬を試し始めてから1年が経過していました。
 H君は苦い薬もがまんして飲んでくれました。体に合う漢方が見つかってよかったね。辛抱強くお付き合いいただいたご家族にも感謝する次第です。

黄耆建中湯「ゴワゴワだった皮膚がキレイになりました」(I君、7歳)

(2010年3月掲載)

 膝と肘周辺に発疹ができてかゆみが強く、掻き壊しを繰り返すうちに皮膚がゴワゴワになってしまいました。皮膚科で軟膏治療を受けましたが一進一退。「たけい小児科」で漢方薬を勧められ、飲み始めてからかゆみが無くなり、発疹も消えてキレイな皮膚になりました。
 今では冬の乾燥するときでもキレイな肌です。漢方なので安心して飲み続けています。

飲ませ方の裏技公開!

 粉を口に入れて水で流し込むように飲んでいます。
 始めは少しずつ数回に分け、時間をかけて飲みましたが、今では1回で飲めるようになりました。

院長のコメント
 I君は乳児期に喘息と診断され、吸入器も所有しており、現在も治療中です。
 5歳の時に体全体に赤い発疹ができました。中心に硬い芯のあるかゆい湿疹です。当院で十味敗毒湯を試しましたが無効。皮膚科へ通院し治療を受けるもなかなかよくならず、6歳のときに再度当院で漢方を試すことにしました。2番手は黄耆建中湯。その時のカルテの記録では「下腿に乾燥性湿疹〜苔癬化病変(※)がびまん性に分布」とあります。開始後しばらくすると湿疹が徐々に落ち着いてきました。一旦中止するも再燃し、再開して現在に至ります。

苔癬化病変:湿疹が慢性化してゴワゴワ硬くなった状態。

黄耆建中湯「冬の乾燥肌・湿疹が軽く済んでます」(T君、3歳)

(2010年2月掲載)

 昨年の冬は乾燥肌と湿疹に悩まされ、保湿ケアを熱心にしたのですがかゆみから消えませんでした。漢方薬を飲み始めてから皮膚の状態が落ち着いてきて、今年の冬は乾燥肌の症状が軽くなり、ステロイド軟膏をほとんど使用することなく過ごせています。

飲ませ方の裏技公開!

 現在のくすり(黄耆建中湯)は水に溶かしておいしく飲んでいます。

院長のコメント
 T君の漢方初体験は赤ちゃんのとき。唾液が多く、喉につばがたまって苦しそうと相談され、人参湯を処方したところ、その症状が軽減したとカルテにあります。
 1歳過ぎに夜泣きに対して甘麦大棗湯を試しましたが、これはあまり効きませんでしたね。
 お尻がかぶれやすく、当初サトウザルベとステロイド軟膏を交互に使用していましたがなかなか落ち着かず、漢方の軟膏である紫雲膏に替えてから悪循環を断ち切れました。
 2009年の冬は乾燥肌〜湿疹が目立ち、保湿ケアとステロイド軟膏でもコントロールできず、黄耆建中湯を試したところ有効感あり。よくなったので止めたら再燃し、その後内服を続けています。今年は上記の通り、昨シーズンより軽く済んでいるようです。

黄耆建中湯「便秘と皮膚のかゆみが一気に解決!」(Fちゃん、6歳)

(2010年2月掲載)

 4歳頃から便秘に悩むことが多く、勧められて漢方薬を飲み始めました。すると快食・快便となり元気も出てきて風邪で通院する回数も減りました。皮膚のトラブル(かゆみなど)も多く、漢方薬を変えてもらったところ、乾燥する季節になっても以前より皮膚の状態がよい感じです。かゆみの訴えも減りました。
 ほかに、アレルギー性鼻炎でガンコな鼻づまりがありました。こちらも別の漢方薬で軽減し、その後はひどいときに頓服で飲ませています。

飲ませ方の裏技公開!

小建中湯・黄耆建中湯:味が嫌いではないので、そのまま50cc程度のお湯に溶かして飲んでいます。
小青竜湯:酸味が嫌いらしく、リンゴやパイナップルジュースなどに混ぜて飲ませました。

院長のコメント
 Fちゃんは5歳の時に喘息と診断し、抗アレルギー薬も内服しています。発作の時、テオドールという気管支拡張剤を飲むと気持ち悪くなってしまうので、漢方薬(麻杏甘石湯、五虎湯)を使ってよい感触を得ています。
 ガンコな便秘に使用したのは小建中湯です。風邪を繰り返す虚弱な子どもの健康を底上げする薬でよく効きました。Fちゃんは毎週風邪を引いて通うレギュラーメンバーでしたが、通院回数も減りました。その後冬を迎えると肌が乾燥して痒がりましたので、類似薬の黄耆建中湯に変更したところ、皮膚の状態も落ち着き一石二鳥となりました。
 通年性のアレルギー性鼻炎もあり、鼻の穴を覗くと粘膜が腫れてピッタリ塞いでいます。小青竜湯が効きましたが、数種類の薬を毎日飲むのが大変なので、今は鼻づまりがつらいときだけ頓服で使用しています。

麦門冬湯「ガンコな咳払いが止まりました」(Sちゃん、5歳)

(2010年2月掲載)

 一度咳が出始めると「咳払い」がクセのようになって薬を飲んでも何ヶ月も止まらなかったのですが、漢方薬を内服したら落ち着きました。

飲ませ方の裏技公開!

 甘い薬なのでふつうに飲めました。

院長のコメント
 Sちゃんは赤ちゃんの頃からかかりつけです。アレルギー体質があり、乳児期の卵アレルギー、幼児期には喘息アレルギー性鼻炎
 カルテをひもとくと、漢方初体験は乳児期の鼻づまり麻黄湯を舐めさせて楽そうになったと記載されています。
 3歳の時は夜泣き甘麦大棗湯を用いて静まったとも。
 さて、問題の咳払いは4歳の時。昼間はず〜っとコンコン咳をし続けるのです(診察中もそうでした)。これには周りの家族がまいってしまいました。でも睡眠中はピタッと止まるのが不思議です。1月に始まり、抗生物質や喘息の薬をあれこれ使いましたが治まらず、数ヶ月続きました。耳鼻科に紹介して喉の奥を内視鏡で覗いてもらいましたが、返事は「異常なし」。
 困り果てた私は漢方薬を試してみました。まず柴朴湯。喉がつかえるような咳に効く薬で喘息にも適応があります。残念ながら咳払いは変わりませんでした。
 次に麦門冬湯を試しました。喉のイガイガ感を潤して楽にしてくれる薬です。飲み始めてから徐々に咳が治まってきましたが、このときは自然経過なのか薬が効いたのか、よくわかりませんでした。
 秋になると、また例の咳払いが始まりました。今度は始めから麦門冬湯を使いました。すると飲んでいる間は治まり、やめてしばらくするとまた咳が出てくるので「有効」と判定できました。

黄耆建中湯「アトピーの痒みで眠れなかった夜が・・・」(Mちゃん、3歳)

(2010年2月掲載)

 全身にかゆみが強いアトピーで、今までは夜中に頻回に目が冷めてかゆがり、睡眠も十分に取れていませんでした。「たけい小児科・アレルギー科」で処方された漢方薬を始めてから夜中に起きる回数がかなり減り、朝も普通に起きられ、かゆみを訴えることが少なくなりました。

飲ませ方の裏技公開!

 水で飲んでいます。苦い薬ではありますが、かゆみが解消するのであればと、一生懸命に飲みます。
 時には「もっと飲みたい」と言ったこともありました(もちろん飲ませませんでした)。

院長のコメント
 Mちゃんは乳児期発症のアトピー性皮膚炎で、近くの小児科に通院していました。
 2歳の時、風邪を引いて当院を受診されました(かかりつけ医が休診だったらしい)。その時のカルテには「ドライスキンが強く、カサカサの赤い湿疹と膿を持ったようなブツブツが体全体に広がる」と記載されています。確か「皮膚科へ行った方がいいのでは?」と誘導した記憶があります。
 次に受診されたのは約1年後の3歳の時。この時はアトピーの治療を希望されました。やはり体全体に赤い湿疹が広がり、触るとデコボコして炎症の強さを物語っています。頑固なタイプで、塗り薬だけではなかなかコントロールできないことが経験上わかっているので「やはり皮膚科専門医へ・・・」と内心思った私ですが、漢方治療を試してみたいとのこと、ここからチャレンジが始まりました。
 比較的飲みやすく、子どもの漢方入門として使う小建中湯関連処方の黄耆建中湯を抗アレルギー薬と併用で始めました。効果は意外にも早く現れ2週間後には赤い湿疹とかゆみが明らかに減りました。抗アレルギー薬を中止して漢方だけにしても、その1ヶ月後には湿疹が目立たなくなり、ご家族が明るい表情になりました。
 ただ、赤い湿疹が完全に消えたわけではなく、乾燥がきつい日はかゆみが増して掻き壊してしまうとのこと。今後も最適の治療を検討していく必要があります。
 経験談のアンケートを読ませていただくと、患者である本人と家族が長い間アトピーに悩まされてきた経過がうかがえて胸が苦しくなります。
 痒がって眠れないわが子をみるご両親はさぞかしつらいことでしょう。また、かゆみが減るからと苦い薬を「もっと飲む」と頑張るMちゃんも立派です。
 漢方薬がお役に立ててよかったです。
(2010年3月)後日談です。
 冬期、湿疹が悪化し体全体に広がる赤い湿疹〜触ると少しデコボコするようになってしまいました。かさつき潤し、熱を冷ます生薬を組み合わせた温清飲というエキス剤を併用したところ「赤みが引いてよくなりました」と笑顔の報告を受けました。

葛根湯加川芎辛夷「ガンコな鼻づまりが改善」(Rちゃん、8歳)

(2010年2月掲載)

 幼児期から近所の開業医で喘息とアレルギー性鼻炎の治療を受けていましたが、頑固な鼻づまりに悩まされていました。「たけい小児科・アレルギー科」に通い始めていくつかの薬を試し、2年かかって現在の治療に落ち着きました。今は鼻づまりも楽そうで落ち着いています。

飲ませ方の裏技公開!

 最初のうちはお薬ゼリーに混ぜて飲んでいました。今はお湯に溶かして飲めるようになりました。

院長のコメント
 Rちゃんは4歳頃に喘息とアレルギー性鼻炎と診断され、近くのアレルギー科標榜医院へ通院後、6歳のとき当院を初めて受診されました。治療を開始したところ、抗喘息薬は秋だけの使用で済みました。しかし、アレルギー性鼻炎に関してはいろいろな薬(↓)を試しても頑固な鼻づまりはウンともスンとも言いません。
 アレジオン、セルテクト、プランルカスト、
 小青竜湯葛根湯加川芎辛夷
 最後に辿り着いた組み合わせが「セルテクト+プランルカスト+葛根湯加川芎辛夷」でした。ステロイドの点鼻薬も併用しています。小青竜湯は「鼻汁〜鼻閉」によく効き、葛根湯加川芎辛夷は「頑固な鼻閉」によい印象があります。私は耳鼻科医ではないのであまり経験がありませんが、蓄膿症(=副鼻腔炎)の鼻づまりにも使用される漢方薬です。

黄耆建中湯「ステロイド軟膏が必要なくなりました」(Wちゃん、1歳)

(2010年2月掲載)

 乳児期から皮膚がカサカサになりかゆい湿疹ができて近くの小児科で軟膏をもらっていましたがなかなか良くなりませんでした。
 生後10ヶ月の時に「たけい小児科・アレルギー科」を受診し、はじめは保湿剤とステロイド軟膏を処方されて塗っていましたが、よくなったり悪くなったりの繰り返しでした。
 でも、漢方薬を飲み始めてからは湿疹やカサカサが良くなり、ステロイド軟膏を塗らなくても保湿剤だけで皮膚の状態が良好に維持できるようになりました。
 それから、食欲も出てきました。

飲ませ方の裏技公開!

 くすりをスプーンですりつぶして、ジュースすり下ろしたリンゴに混ぜて飲ませました。

院長のコメント
 Wちゃんは生後1ヶ月頃から湿疹ができはじめ、体全体に広がりました。近医で処方されたワセリンを塗っていましたがよくならず、当院を受診されました。
 初診の時に聞いた話では、お母さんの自己判断で食事制限(卵、小麦)をしていました。食べると湿疹が悪化する明らかなエピソードがなければ制限する必要はないことを説明し、制限をゆっくり解除するよう指導しました。
 湿疹はベースに乾燥肌があり、かゆみを伴い、慢性的に経過していることよりアトピー性皮膚炎と診断しました。
 保湿ケア&ステロイド軟膏療法を指導したところ、お母さんは熱心に実行し受診時はいつもしっとり肌でしたが、湿疹の状態は一進一退。そこで飲み薬の併用を考えました。西洋医学の抗アレルギー剤はかゆみはやわらぎますが湿疹が改善する印象はないため、私は漢方薬を選択します。ふだんから便秘傾向もあるようなので、黄耆建中湯を選択しました。
 黄耆建中湯は食が細く虚弱な子どもの健康を底上げする小建中湯に皮膚を強くする黄耆という生薬が加わった薬です。
 飲み始めて1ヶ月で湿疹が徐々に落ち着いてきて、お母さんの言うとおりステロイド軟膏を使わずにコントロールできるようになりました。そういえば食物アレルギーの検査はしていませんね・・・忘れていた、というより必要を感じませんでしたので今後もやる予定はありません。
 なお、便秘は解消したわけではなく、下剤も併用中です。

黄耆建中湯「水いぼが消えました!」(K君、4歳)

(2010年2月掲載)

 3歳の時、小さな水いぼがいくつもできて増えてきました。皮膚科に行くべきか Dr.武井に相談したところ、「小さくて取りづらそうだから、まず飲み薬を試してみては?」と勧められ、漢方薬を始めました。すると増えるスピードが鈍り、元々あった水いぼも萎んできて数ヶ月で消えてしまいました。
 風邪を引いたときも漢方薬を処方してもらってます。鼻水と痰が絡んでつらそうなときによく効きます。

飲ませ方の裏技公開!

 苦味がないので普通に飲んでいます。
 そのまま「カッ」と飲めるんです。

院長のコメント
 K君の漢方初体験は生後5ヶ月の時。風邪を引いて鼻閉がつらくて母乳が飲めなくなり、麻黄湯を試して少し改善したとカルテの記録にあります。
 今回水いぼ(医学名は『伝染性軟属腫』)に試した漢方は黄耆建中湯です。黄耆という生薬は皮膚免疫を強くするとされています。内服開始後3ヶ月で消えました。本来治るまでに1年くらい罹りますから効いたのでしょう。飲んでいる間は食欲も出て元気になったというおまけ付き。
 実は、西洋医学には水いぼを治す飲み薬がありません
 皮膚科に行くと摘除(むしり取る)、冷凍凝固、硝酸銀塗布など、その先生によりいろいろな方法で処置しているようです。最近「何もしないで様子観察」という先生も出てきました。
 この黄耆建中湯、試してみて半分くらいの患者さんに効く印象があります。残念ながら全員ではありません。「痛い思いをする前に試してみては?」というスタンスで処方しています。

小青竜湯・麦門冬湯「鼻はこの漢方、咳はこの漢方」(S君、2歳)

(2010年2月掲載)

 風邪を引いて、鼻水・鼻づまりがつらそうと訴えたら「漢方薬を試してみますか?」勧められました。飲ませたら夜の鼻づまりが軽くなり眠れるようになりました。
 別の風邪を引いて、今度は夜間の咳込みがつらそう。痰が切れそうで切れなくてかわいそうで見ていられません。相談したところ、今度は違う漢方薬が処方されました。これもよく効きました。

飲ませ方の裏技公開!

 おくすり大好き、漢方大好きな子なので苦労はしませんでした。
 お湯に溶かしてそのまま飲んでます。

院長のコメント
 S君は鼻汁/鼻閉がつらいときは小青竜湯痰が切れない乾いた咳込みがつらいときは麦門冬湯を処方して、両方よく効きました。特に小青竜湯の効き目はよかったようで、お母さんが子どものくすりを拝借して飲んでしまったと告白されました(笑)。
 現在は、残りの漢方をストックしておいて、症状の種類により使い分けているようです。
 実は、風邪に使う漢方薬は10種類をゆうに超えます
 体力のあるなし、風邪の初期・中期・回復期、症状により細かく使い分けます。風邪の症状は日々変わっていきますから、本来は自分に合う漢方薬を数種類常備しておいて、引き始めはコレ、長引いたらコレ、この症状の時はコレ、と使い分けるのがベストと思われます。
 例えば体力が見かけほどない私の場合・・・熱の出始めには桂枝湯、数日経ってもよくならないときは柴胡桂枝湯(頭痛や体が痛くてつらいとき)、小柴胡湯加桔梗石膏(喉の痛みが続く時)、他に鼻風邪の時は苓甘姜味辛夏仁湯、喉がいがらっぽくて声が出なくなる時には麦門冬湯・・・等々。

小柴胡湯加桔梗石膏「扁桃炎と中耳炎の回数が減少」(U君、3歳)

(2010年2月掲載)

 扁桃腺が大きく、のどが赤くなるとすぐ熱を出していましたが、漢方薬を飲み始めてからは熱を出す回数が減りました。
 鼻水が出るとすぐに中耳炎に罹っていましたが、それも減りました。

飲ませ方の裏技公開!

 お湯に少し浸して、そのまま飲ませました。

院長のコメント
 U君は1歳で保育園へ入園した頃から中耳炎を反復し、長らく耳鼻科通院をしていました(鼓膜切開を何度も経験済み)。良くあるパターンですね。
 虚弱な印象から黄耆建中湯を試してみましたが、元気にはなったものの中耳炎・扁桃炎は相変わらず。3歳時に扁桃肥大からくる無呼吸もみられるようになりました。耳鼻科系の感染症によいとされる小柴胡湯加桔梗石膏を試したところ、上記のような効果が得られました。
 しかし、いびき〜無呼吸が消えたわけではなく、今後耳鼻科で扁桃摘出手術が必要かどうか相談する予定です。
 この薬、咽頭痛が長引く風邪には当院スタッフの一番人気です。
 この薬を処方する度に思い出す患者さんがいます。小学校低学年の男児で、溶連菌性咽頭炎を12回(当院の新記録)も繰り返し、私の手に負えず耳鼻科を紹介しました。案の定「扁桃を手術で取りましょう」という話になりましたが、どうしてもイヤだと戻ってきてしまいました。「飲み薬で何とかなりませんか?」と頼まれ、いろいろ調べたところこの薬に辿り着きました。苦い薬ですが「手術を避けたい」という気持ちで本人は頑張って飲みました。するとどうでしょう。その後1回も起こさなくなったのです。これには家族も驚き、処方した私もビックリしました。半年内服して終了としましたが、その後はたまに風邪を引いて顔を見せる程度です。もちろん、手術はしていません。

麦門冬湯「喉頭炎が軽く済むようになりました」(R君、2歳)

(2010年1月掲載)

 息子はのどが弱く、赤ちゃんの頃「クループ(喉頭炎)」で2回入院しました。今でも風邪を引くと声がかすれ、呼吸もゼーゼーしてしまうことが多く、とても心配していました。そんな時「たけい小児科・アレルギー科」で漢方薬を処方していただき、症状もやわらいでとても安心できました。

飲ませ方の裏技公開!

 「飲ませるコツ」(※)を教えていただき、小さい子どもでも嫌がらずに喜んで飲んでくれます。一番気に入っている飲み方は、くすりをコップに入れ、水を少量加えてから電子レンジで数十秒加熱し、砂糖を加えてよく混ぜて、冷ましてから飲ませます。

※ 「飲ませるコツ」は右側の「上手な飲ませ方」をご参照ください。

院長のコメント
 R君は喉頭炎(のどの奥の声帯付近の炎症が強く、声がかすれてケンケン・ゼーゼーする風邪)で乳児期に2回入院歴がありました。夜悪化して家族が切なくなるイヤな風邪です。
 当院を受診されたとき、やはり声がかすれ気味。のどを潤すと楽になるかな、と考え麦門冬湯を試したところ、夜間の咳が軽く済んだようで何よりです。以降、風邪を引くたびに処方を希望されています。
 R君以外にも喉頭炎になりやすい子、結構いますね。
 さて、麦門冬湯は本来、風邪が長引いて乾いた咳・痰が切れそうで切れない咳が連続してつらいときに使用する漢方です。潤って痰が切れるようになり、咳込みも軽減します。以前、百日咳の咳込みで眠れず「夜が来るのが怖い」と訴えていた大人の患者さんに処方したら「どの薬よりも効いた」と喜ばれた経験があります。
 実は私も時々この薬のお世話になっています。外来診療が混んでしゃべりすぎで声がかすれて出にくくなったときに飲むと、のどが潤って楽になるのです。
 選挙カーのウグイス嬢の声がれにも効くと聞いています(笑)。

小青竜湯「鼻水・鼻血が減りました」(K君、7歳)

(2010年1月掲載)

 風邪薬として処方された漢方薬がよく効いて、長く飲んでも大丈夫と聞きしばらく続けてみたところ、以前から気になっていた鼻症状(鼻汁・鼻出血)に悩まされなくなりました。
 漢方薬という安心感もあり、子ども自身も喜んでいます。飲み始めてから活発な動きが見られるようになり、続けて飲んでいきたいです。

飲ませ方の裏技公開!

 錠剤なので飲ませる苦労はありませんでした。
 ただ、飲んだことを褒められると、次に飲むときに「平気だよ」という様子を親にアピールしながら飲んでくれます。

院長のコメント
 K君は1歳の頃発症した喘息で入院したこともあります。当院を受診されたのはつい最近の小学1年生の秋。ふだんから朝方痰が絡んで、それが切れるまでスッキリしないとのことで西洋医学の抗アレルギー薬を開始したところ、痰が減りました。喘息のくすぶりだったのですね。
 しばらくして鼻風邪を引き、しかし喘息児にはふつうの鼻水止めは喘息発作の悪化因子になり得るので漢方薬の小青竜湯を勧めました(この薬は例外的に錠剤もあります)。これは鼻〜喉〜気管支にたまった余分な水を捌いてくれるイメージの薬で、喘息にもアレルギー性鼻炎・花粉症にも用いられます。すると効果てきめん、しばらく続けたいとの希望あり。数ヶ月後の使用感は「鼻症状は楽になるし、鼻血もでなくなった」と喜ばれでいます。アレルギー性鼻炎だったと思われます(小児喘息の約8割に合併します)。さらに意外なことに、「元気が出てきた」とのうれしい報告もありました。夜熟睡できて目覚めがよくなったのかな?

葛根湯加川芎辛夷「1年中続く鼻水・鼻づまりが改善」( T君、8歳 )

(2010年1月掲載)

 幼児期に「通年性アレルギー性鼻炎」と診断され耳鼻科やアレルギー科に通院しましたが、鼻づまりがなかなかよくならず、8歳の時に「たけい小児科・アレルギー科」を受診しました。西洋医学のくすりと漢方薬を併用することでかなり楽そうになりました。

飲ませ方の裏技公開!

 元々、粉も錠剤も嫌がるので飲ませるのに苦労しています。
 粉の場合、量が多いので1/3づつオブラートに包んで飲みました。錠剤の場合は大きい粒(1cm弱)を1回3錠なので、一粒ずつ飲みます。どちらの場合も本人が飲みやすい量に分けて、あわてずに飲むと失敗が少ないようです。

院長のコメント
 T君は当院受診前にアレルギー性鼻炎に対する一通りの西洋医学的治療を経験済みでした。そこで、漢方薬の小青竜湯を併用したところ、今までにない効果が得られました。抗アレルギー薬は種類によっては眠くなる副作用が出やすいのですが、小青竜湯はどちらかというと目を覚ましてくれるので「眠気は差し引きゼロ&効果は2倍」とおいしいところ取りの治療です。
 さて、T君の後日談です。
 やはり鼻づまりがつらいときがあり、小青竜湯を葛根湯加川芎辛夷へ替えてみました。すると「鼻で息ができるようになった!」と喜びの声。鼻の穴を観察すると、いつも粘膜が腫れてふさがっていた穴に隙間ができているではありませんか!

小青竜湯「鼻水ジュルジュルがよくなり眠れるように」(S君、0歳)

(2010年1月掲載)

 生後4ヶ月頃から毎月のように風邪を引くこの子。毎回咳よりも鼻水がすごくて処方されたシロップのくすりを飲んでいましたが、なかなかよくなりませんでした。1週間以上長引いたときに「漢方薬を試してみますか?」と勧められて飲ませたところ、数日でよくなったのでビックリしました。その後は風邪を引いて鼻水がひどいときは漢方薬を飲ませることで早く治っているのを実感してます。

飲ませ方の裏技公開!

 ミルクを飲ませる前に指につけて口の中に入れていたのですが、ザラザラ感がイヤそうだったので、お湯に溶かして飲ませたら、アラ意外(!)、おいしそうに飲んでくれました。

院長のコメント
 S君の漢方初体験は生後5ヶ月の時でした。風邪を引いて鼻水/鼻づまりが苦しくて熟睡できないときに麻黄湯を少量ずつ飲ませたところ、鼻づまりが楽になった様子。
 次は生後7ヶ月のとき(上記)。鼻水/鼻づまりに加えて痰の絡んだ咳〜ゼーゼーの風邪(おそらくRSウイルス感染と思われます)。診察時は多量の鼻汁でジュルジュルゼロゼロ溺れかけている感じ。一般の西洋医学薬では効果が得られず、小青竜湯を併用したところ、鼻症状が改善に向かい乗り切ることができました。
 乳幼児に飲ませるために、お母さん方はいろいろ工夫して味をごまかす涙ぐましい努力をされています。しかし子どもの味覚は不思議なもので、ヘンに甘くするより、お湯に溶かすだけでゴクゴク飲んでしまうことも珍しくありません。「体に合う漢方薬はおいしく飲める」と言い伝えられてはいますが・・・。

黄耆建中湯「冬のカサカサかゆい肌が改善」(M君、3歳)

(2009年12月掲載)

 毎年冬になると肌が乾燥して痒いと言い出し、特にお風呂上がりと寝るときはたいへんなのですが、咋秋から漢方薬を飲み始めて痒がる頻度が減りました。
 それから、ひどいと便が4日も出ないくらい便秘症なのですが、漢方薬が効いているようで、最近は2日に1度は便が出るようになりました。

飲ませ方の裏技公開!

 少量のミルクココア(ホット)に混ぜて飲ませています。
 ミルクココアの量が多すぎると残してしまうので注意!

院長のコメント
 M君の漢方初体験は1歳の時でした。「食が細い、体重がなかなか増えない」との訴えに小建中湯を処方したところ、飲めて食欲が出たとカルテの記録にあります。
 その後、かゆい湿疹に悩まされ皮膚科へ通院するも改善と悪化を繰り返し、当院へ相談に見えました。アトピー性皮膚炎治療ガイドラインに沿って診療してもやはり皮膚の状態は落ち着かず、漢方薬を試してみることにしました。数種類試した後(飲めなかったり効かなかったり)、便秘がちであることに着目し黄耆建中湯を処方したところ湿疹と便秘の両方が改善してニコニコ。
 最近は時間が来ると「おくすりのまなきゃ」と自ら進んで飲んでいるそうです(笑)。そのかわいい姿が目に浮かびます。

<漢方関連記事>

 漢方・東洋医学に関する新聞記事を拾い読みしました。

■ 小川恵子の漢方で健康生活(2012年2月〜読売新聞の特集)

小川恵子(おがわ けいこ)
愛知県名古屋市生まれ
金沢大学附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 和漢診療外来 特任准教授

 小児科関係+私の興味のあるものを抜粋しました。

漢方の現代医療における役割とは

 初めまして。これから3か月間、漢方のコラムを担当する小川恵子です。
 初回は、簡単な自己紹介として、なぜ私が漢方を学び始めたか、私が感じている漢方の現代医療における役割についてお話しします。

漢方を学び始めたきっかけ

 私は10年間、小児外科医として働いていました。その中で、西洋医学的知識だけでは乗り越えられない多くの問題を目の当たりにし、臨床の幅を広げられないかと模索するうちに漢方に出会いました。例えば、腸の手術をした後はお通じをつけることが重要なのですが、一般的な下剤を用いると下痢や腹痛が起こることがあります。そんな時、大建中湯(だいけんちゅうとう)などの漢方薬を使用すると排便をおだやかに調節することができます。  
 また、腸の手術後は、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)を守るため、可能な限り抗生剤を使わないようにしなければなりません。風邪の初期に漢方薬を適切に使うと、抗生剤の使用を減らすことができます。このように漢方薬は手術後の腸管の機能改善を助けることができるのです。また、漢方薬を継続して服用することにより、風邪を引きにくい体質にすることができます。このような、漢方の「患者さんによりそう」効果にすっかり魅せられて、漢方の勉強を始めました。

子供は元気が当たり前?

 私は現在子育て中で、子供への処方から、いろいろ学んでいます。実際に自分が子供を育てる中で、子供は本来、非常に元気だと実感しました。小児外科で入院していた子供たちは、それぞれ病気はありますが、病棟で追いかけっこをしたり、クリスマス会の練習をしたりしている姿は、当時の経験不足な私には元気に見えました。
 でも、病気のない子供たちに比べると、元気がなかったのです。漢方専門医になった後、そのような症状に対し、小児外科や小児科からご紹介を受ける機会が多くなり、小児外科医時代とは異なった形で子供たちと関わるようになりました。例えば、学校行事が忙しくなると熱を出したり、テストになるとおなかを壊してしまう、いわゆる虚弱体質の子供たちが、漢方薬服用によって、睡眠の質が改善したり、風邪を引きにくくなったり、おなかが丈夫になったりしました。人生の節目を乗り越えていくお手伝いができたと感じています。
 このような漢方の役割や効果を、ぜひ多くの方に知って頂きたいと思います。
 寒さが厳しくなって来ました。漢方では、冬は特に養生が必要だと言われています。暖かくして、おいしい温かいものを召し上がってお過ごし下さい。

冬風邪

 漢方では、病気を引き起こす原因を邪気といいます。季節によって邪気が違うので、ひきやすい風邪のタイプも違うと考えられています。

冬風邪の特徴

 冬風邪の典型的な初期症状は、寒気、発熱、頭痛、体が痛む、関節の痛みです。これは、「寒」という邪気によるものと考えられています。冬の寒さで体が冷えることにより、ウイルスが侵入しやすい状態になります。また、寒によって気血の循環が悪くなって、痛みの症状が出やすいという特徴があります。
 冬風邪の基本的な治療は、体を温めて汗を出させて気血の循環を改善させるという治療法である「辛温解表(しんおんげひょう)」です。
 食材としては、生姜(しょうが)、葱(ねぎ)、にら、唐辛子、山椒(さんしょう)、黒砂糖などが良いとされています。少しぞくっ、とする程度の風邪で、生姜湯を飲んだら少し汗をかいて治った、という経験をお持ちの方も多いのではないかと思います。
 漢方では、冬風邪のひきはじめには、桂枝湯(けいしとう)、葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)といったお薬が使われます。中でも有名なお薬は葛根湯でしょう。漢方はあまりよくわからないけれど、葛根湯は飲んだことがある、という方も多いのではないでしょうか。
 また、同じ風邪でも、漢方は体調や症状によって使い分けます。中でも守備範囲が広いので使いやすい葛根湯と麻黄附子細辛湯の使い方についてお話しします。

葛根湯の使い方

 具体的に患者さんを例に挙げて説明します。Aさんは22歳の男子大学生です。朝から少し頭が重かったのですが、我慢していたところ、夕方4時頃から頭痛が強まり、熱感も出てきました。午後5時に近所の内科にかかりました。体温は38.5度、汗はかいていなくて、後頭部から背すじにかけて強く凝っていました。葛根湯を一服して布団に入ったところ、身体が温まり、続いて気持ちのよい汗が出て、そのまま寝入ってしまいました。朝になったらすっかり爽快な気分になって治りました。
 葛根湯は、このように、基本的には元気で、食欲もあり、汗をかいていない、風邪の初期によく効きます。しかし、胃が丈夫でない人や、動悸(どうき)がしやすい人は注意して服用しなければなりません。また、既に汗をかいている人は、汗をかきすぎてだるくなってしまうことがあるので、葛根湯はおすすめできません。

麻黄附子細辛湯

 風邪をひいて、だるくて寝ていたい、元気がない状態になってしまった場合には葛根湯は適していません。このような場合には麻黄附子細辛湯が適しています。
 具体的に患者さんを例に挙げて説明します。Bさんは46歳の男性です。最近、残業が続いて疲れていました。寒い中を外回りの仕事を終えて夕方、会社に帰った頃から、背中に寒気がして、喉が痛くなりました。帰宅後、たいへんだるくて寝ていたいという状態になりました。麻黄附子細辛湯エキスを服用して30分後、寒気が無くなり、しっとり汗をかきました。3時間後、2服目を服用したところ、喉の痛みが和らぎ、だるさも取れてきました。
 このように、麻黄附子細辛湯は、背中がぞくぞくして、喉がいたくて、だるくて寝ていたいと思うような風邪によく効きます。この患者さんも、疲労がたまっていない状態であれば、葛根湯が効いたかもしれません。
 同じ風邪でも、漢方は体調や症状によって使い分けるのです。中でも葛根湯と麻黄附子細辛湯は、守備範囲が広いので使いやすい漢方薬です。
 風邪はひきはじめの手当てが大切です。寒気やだるさといった体調の変化を見逃さないよう、気をつけてお過ごしください。

漢方医学の概念について

 漢方についてお話しすることになり、できる限り、わかりにくい用語は使わないようにしてきました。でも、漢方医学が伝統医学であるという事実からして、その概念をお話しした方が結局、わかりやすいと思い直しました。というわけで、今回は、漢方医学の基本的概念について簡単にお話ししたいと思います。

日本漢方医学の診察法

 日本の漢方医学は、“証”の医学体系であり、漢方薬は証に対応して決まります。一種のマッチングシステムです。この証を決定するために、漢方医学的診察(四診)が必要です。 
 四診とは、視覚による「望診」、聴覚と嗅覚による「聞診」、患者さんから病状や自覚症状を聴く「問診」、そして、実際に患者さんに手を触れて診察することによる「切診」の四つの診察法のことです。そして、証を決定する際には、気血水、陰陽、五臓という概念に基づいて考えます。

「気」、「血」、「水」

 生命の基本になる生命活動の根源的エネルギーを「気」、生体の構造を維持する赤色のものを「血」、無色のものを「水」とした理念が気血水です。気血水の異常を図1に示しました。
 例えば、何か頭にくることがあったとき、何かが頭の方に上ってくる感じがして、動悸(どうき)がしたりしませんか? それが気逆(きぎゃく)です。
 また、落ち込んだときには、おなかや胸のあたりが張った感じがして、ついついため息が出てしまいますよね? それが気鬱(きうつ)です。ご自分はどれに当たるでしょうか。

「陰」と「陽」

 生体内では、バランスが乱されると、これを元に戻そうとする反応が起きます。この反応が、活動的で熱性の場合を「陽証」、非活動性で寒性の場合を「陰証」と呼びます。このほかに、虚実、寒熱、表裏という概念があり、陰陽とあわせて八綱といいます。

「五臓」

 五臓とは、宇宙にあるすべてのものが木火土金水(もっかどこんすい)の五つの成分から成り立ち、互いに関連しあっているという五行論の影響で成立した概念です。
 木火土金水の五行に肝心脾肺腎(かんしんひはいじん)の五臓が相当します。明治時代に、西洋医学が日本に導入された際に、もともとあった漢字を当てはめたという歴史があり、漢方における五臓と現代医学における臓器とは意味が違います。おのおのが独立して存在するのではなく、促進したり抑制したりする関係、すなわち相生(そうしょう)相尅(そうこく)関係を形成します。五臓にはそれぞれ関連した感情があります。例えば、肝は怒りと関連します。
 一見難しそうですが、この概念を知っておくと漢方薬の使い分けがわかり、自分の身体のバランスがどのように崩れているのかを知るのに役立ちます。今回は、何となくわかった気になれば大丈夫です。今後の参考にしてみてください。

漢方でストレスに強くなろう!

 実は先日、かなり落ち込むことがあり、とたんに食欲がなくなりました。食事がおいしく食べられないなんて困る!と抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)という漢方薬を飲んだところ、気分も落ち着き、食事もおいしく取れるようになりました。
 今回は、漢方薬でストレスに強くなる、というお話をします。

ストレスとは?

 現代社会では、社会的・心理的ストレッサーとして、不安、恐怖、緊張などが重要視されるようになってきましたが、その他にも寒さや暑さなどの気候、運動のしすぎや風邪、睡眠不足などもストレスの原因になります。
 漢方医学では、2000年前からすでにストレスの影響の重要性について考えていたのです。古い本には、病気になる原因として、怒・喜・思・憂・恐・悲・驚の七つの感情による影響、気候や環境、生活上の不摂生、けが、病気が記されています。

ストレスによる疲れを癒やすには?

 ストレスが積み重なって疲労や倦怠(けんたい)感があるときは、気血を補う「補剤」を用いることによって回復が早くなります。よく病院で使われているのは、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、六君子湯(りっくんしとう)です。特に十全大補湯は、手術の前から服用すると、手術後の体力の回復が早くなることが知られていますし、研究で示されています。また、補中益気湯は、普段から服用していると、インフルエンザにかかりにくくなることが動物を使った実験で示されています。残業が続いて疲れていると、風邪を引きやすくなったり、些細(ささい)なことで怒りっぽくなったりしますよね。もちろん、その人に合った漢方を選ぶのが一番ですが、ひとまず試してみるにはよいお薬です。

ストレスを発散するには?

 Aさんは、ストレスがあると胃が痛くなり、近所の内科でいろいろな薬を処方されましたがよくなりませんでした。漢方の考え方では、消化吸収を行う「脾(ひ)」は感情をコントロールする「肝」に抑制されますので、いろいろ頭にくることがあると、胃が痛くなりやすいのです。そこで、食欲を出して元気を出す六君子湯に、感情を発散させる四逆散(しぎゃくさん)を併用しました。四逆散と六君子湯を組み合わせると、柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)というお薬に近くなります。これによって、いらいらすることが少なくなり、余裕を持って考えることができるようになりました。それと共に胃の痛みも和らぎ、少しのストレスでは胃の不調を訴えることがなくなりました。このようなからだの不調を整えて、良い循環を作ることができるのが漢方のよいところです。また、漢方では、元気を出す薬ばかりを飲むよりは、巡りをよくしたり、発散させたりする薬を併用することで、より効果が高くなると考えられています。
 漢方薬をきっかけに、生活をより快適にできるかも知れません。
 最後に、先日、読者の方から漢方治療と心の病についてのご質問をいただきましたので、簡単にお答えしたいと思います。
 漢方薬は、ストレスやそれに伴う不安、不眠などの症状にも効果があります。漢方の考え方では、心身一如(しんしんいちにょ)、すなわち心と体は切り離せないものですから、心の問題は得意分野と言ってよいでしょう。身体にも症状が出た場合でも、心身のバランスを整えることによって一つの処方で対処することができます。例えば、六君子湯は、胃腸の調子が悪い場合によく使われますが、最近の研究で抑うつ作用を併せ持っていることがわかっています。
 ただし、その効果には個人差があります。例えば、自殺したいと思うような場合や、不安感で外出できないなど、病がひどくなってしまっている場合には、精神科の薬物治療と並行して漢方治療を行うことが必要です。私の外来でも、漢方治療を開始することによって、精神科のお薬が減り、もしくは中止できた方は大勢いらっしゃいます。心の問題は特に繊細ですから、自己判断せず、専門医にかかることをおすすめします。
 今後、具体例を挙げて、漢方薬の「心」に対する効果についても取り上げていきたいと思います。

ストレスに用いられる漢方薬
抑肝散加陳皮半夏 (よくかんさんかちんぴはんげ)
十全大補湯 (じゅうぜんだいほとう)
補中益気湯 (ほちゅうえっきとう)
六君子湯 (りっくんしとう)
四逆散 (しぎゃくさん)
柴芍六君子湯 (さいしゃくりっくんしとう)

【参考:漢方薬に関する詳細は、QLife漢方(キューライフ)へ】

漢方と食養生

 衣食住、という言葉があるとおり、食は生活の重要な部分です。今回は、食養生のお話をしたいと思います。医療現場では、糖尿病や肥満に対する栄養指導が行われています。しかし、「病気」になる前の「未病」のうちに、このような指導を受けることはまれでしょう。
 では、身体・精神のバランスを整える食事とはどのようなものなのでしょうか。その答えは一言ではとてもご説明できませんので、このコラムを通じて、より多くの方々に、食の大切さを知っていただき、特に、季節や体調に合わせて、どのような食材や、調理法を選択したらよいのかをお伝えできれば幸いです。

食医とは?

 古代中国の西周(紀元前11世紀から8世紀)には、すでに医師という役職がありました。中でも最も重要とされたのが、「食医」と呼ばれる、病気の治療や予防のために食事の管理までを行う医師でした。食が健康の根源をなすということが、古代中国でもすでに認知されていたのです。
 しかし、忙しい現代社会では、食生活が身体・精神の健康に重要だということがわかっていても、理想的な食生活を実践するのは難しいものです。私は、そのお手伝いができないものかと考え、国際薬膳師の資格を取りました。そして、食材などを日本の事情に合わせて、それぞれの患者さんの体質に合わせた食養生のお話をしています。例えば、同じ大根でも、大根おろしでは、「消食」という、消化を助ける働きが強くなります。また、煮た大根では、「下気寛中(かきかんちゅう)」という、おなかの緊張を緩めて、気を下ろす働きが強くなります。ですから、飲み過ぎ、食べ過ぎでおなかがもたれる場合には、煮た大根よりも大根おろしが適しているわけです。

漢方を上手に使うと

 食事には、栄養を摂取する以外の意味も多く含まれており、生きていく上でとても重要ですが、食事をおいしく取るためには、漢方薬の助けが必要なこともあります。漢方薬が作られた時代には点滴はありませんでしたから、食事が取れないということは、命に直結することでした。そのため、漢方薬は食事がおいしく取れるようにも工夫されてきました。代表的な漢方は六君子湯(りっくんしとう)や半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)です。
 私が小児外科医として働いていたときの患者さんで、3歳のAちゃんという女の子がいました。その子は生後まもなく脳梗塞となり、脳の半分の機能を失ったため、のみ込む力に問題がありました。そのため、食べることは大好きでしたが、気管に食べ物が入って起こる誤嚥(ごえん)性肺炎を繰り返していました。栄養士さんたちが、のみ込みが苦手なAちゃんのために食事にとろみをつけたり、つぶしたりと工夫してくれましたが、それでも肺炎になってしまうため、食事が取れなくなっていました。そこで、Aちゃんに半夏厚朴湯を飲ませたところ、誤嚥性肺炎の回数が少なくなり、おいしく食事が取れるようになりました。
 いまでも、食事をしているときのAちゃんあの笑顔が忘れられません。

花粉症の漢方治療

 春らしくなってくると、なんだかうれしい気分になります。でも、そこに影を落としてくるのが花粉症です。鼻炎症状が出ると、仕事や勉強に集中できませんし、特に女性の方はお化粧崩れが気になります。花粉症の発症率は年々増加傾向にあり、現代の春の風物詩といえます。
 最近では、花粉症に対する薬や治療法が発展してきたので、不快な症状から解放された方も多いと思います。薬の副作用である眠気もずいぶんと改善されてきました。それでも、お薬を服用すると眠気がひどくて服用できない、薬を服用してある程度は効くけれどすっきりしない、などの症状を訴える方もいます。そのような時に漢方薬を併用すると症状改善に役立つことがあります。今回は、花粉症の漢方薬の使い方について、簡単にお話ししたいと思います。

葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)・辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

 主に鼻詰まりがひどい場合には、葛根湯加川芎辛夷が第一候補になります。おなじみの葛根湯に川芎と辛夷を加えることにより、より鼻の通りが良くなります。蓄膿、すなわち慢性副鼻腔炎もある場合にも使いやすいです。また、鼻が詰まって首筋がこったり、頭痛がしたりする場合にも効果があります。葛根湯加川芎辛夷の中には麻黄という生薬が含まれていて、皮膚や粘膜など表面の浮腫を改善するといわれています。
 より鼻詰まりがひどくなって、喉の方に鼻汁が流れてくる、後鼻漏(こうびろう)がひどくなると、辛夷清肺湯が効くことが多いです。

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)と苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)

 鼻汁が水様で多く出る場合には、小青竜湯がよく使われます。これは、小青竜湯が、もともと「水」のめぐりが悪くなりやすい体質の人が、花粉という刺激を受けて花粉症になってしまったような場合に有効だからです。同様な症状で、より手足が冷え、寒がりの方には、苓甘姜味辛夏仁湯の方がよい場合が多いです。小青竜湯の中には麻黄という生薬が含まれているのですが、麻黄が胃もたれを起こしたり、動悸(どうき)を起こしたりすることがあります。その点、麻黄が入っていない苓甘姜味辛夏仁湯は、おなかが弱い方でも服用しやすいのです。
 花粉症に効く漢方はたくさんありますが、個人個人の体質に合ったものがもちろん一番よく効きます。今回は、中でも守備範囲の広いこの4種類を厳選してご紹介してみました。この他にも、100種類近い漢方エキス製剤がありますし、時には組み合わせることもあります。
 漢方薬は、長く飲まないと効かないとか、効き目が穏やか、すぐに効果が表れない、というイメージがあると思いますが、花粉症の場合は、1週間で効果の有無がわかります。一度試してみられてはいかがでしょうか。
 最後に、2月21日にご質問いただいた「気の異常」について、簡単にお答えしたいと思います。
 気の異常がひどくなると、動悸・呼吸困難・胸痛、原因不明の痛みなどさまざまな症状が現れます。そのような各々の症状を治すのではなく、気の異常を治すことにより、全体的に症状を改善するのが漢方です。
 ご自分の症状に対する漢方に興味をお持ちでしたら、一度、漢方専門医にかかって説明を受けられるのが最も早いと思います。お話を聞くだけよりも、診察をした方がその患者さんの状態がよくわかるからです。また、服用したことによる体の変化を感じることができると思います。
 また、漢方医学というものにご興味を持たれたのでしたら、漢方医の伝記をお奨めします。森鴎外の「渋江抽斎」や有吉佐和子の「華岡青洲の妻」などはいかがでしょうか。

髪の毛の話 ~少ない、薄いに用いる漢方~

 私が医学部に合格した時、親戚の叔父が「恵子ちゃん、おめでとう。医者になったら、おじさんのはげを治す薬を絶対研究して発明してね。」と、満面の笑みで言いました。私は笑いをかみ殺しながら、「わかりました、絶対研究します」と、安請け合いをしたのでした。

東洋医学からみた髪

 髪は東洋医学では血余(けつよ)と言います。以前お話しした通り、東洋医学で身体の構造を維持する働きをする赤い液体と定義されている「血」は、現代で言うところの血液の意味も含んでいます。この「血」が、髪の毛には非常に重要です。「血余」の「余」は余裕のことです。「血」が不足し、循環が悪くなると、髪を美しく保つことができないのです。
 髪は、「腎」とも密接な関係があります。漢方でいう「腎」とは、生命力・生殖力の貯蔵場所です。腎の機能は老化に伴って次第に低下し、精の蓄えが減少していきます。これを腎虚といいます。髪の毛が少なくなることだけでなく、髪につやが無くなり、白髪が増えるのも腎虚の症状です。ですから、髪の毛を健やかにするためには、「血」「腎」を補う治療をすればよいことになります。
 血について、腎についてはこちらをご覧下さい。

加齢に伴う脱毛の場合

 加齢に伴って髪の毛が薄くなってくる場合、「血」「腎」を補います。代表的な漢方薬は、八味地黄丸、六味地黄丸、牛車腎気丸です。実際の症例を挙げてお話しします。Aさんは、70歳の男性です。65歳で定年となってから、何となく腰が重だるく、夜トイレに行く回数も2~3回となり、手足が冷えるようになりました。また、地肌が目立つようになり、先日、とうとうお孫さんに「おじいさん、頭のてっぺんはげてるよ」といわれてしまいました。ショックを受けて漢方外来を受診、八味地黄丸を服用し始めたところ、3か月ほどで、頭頂部の髪の毛が増えて、手足の冷え、夜間尿などの症状がすべて消失しました。
 個人差はありますが、服用を続けていると髪の毛が増えてきた、太くなってきた、という方は多いです。腎を補うことは、古典的アンチエイジングといえるかもしれません。

円形脱毛症の場合

 ストレスによる円形脱毛症は、長期間のストレスによる血虚、腎虚による場合が多いです。しかし、同時にストレスに対処することも必要です。そんな時には、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)という、精神を落ち着けて腎を補う漢方薬を使います。また、いらいら感が強い場合には、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、女性には加味逍遥散(かみしょうようさん)がよい場合もあります。そして、血や腎を補う漢方薬を併用するとより効果的です。
 あれから時は流れましたが、漢方治療を通して叔父との約束を少しは果たせているのかと思います。早速、叔父には漢方薬をすすめてみました。

加齢による薄毛に用いる代表的な漢方薬
八味地黄丸(はちみじおうがん)
六味地黄丸(ろくみじおうがん)
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
円形脱毛症の場合に用いる漢方薬
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
加味逍遥散(かみしょうようさん)

【参考:漢方薬に関する詳細は、QLife漢方(キューライフ)へ】

髪の毛の話 その2 髪を美しく

 最近は、髪を美しくすることに対する関心がますます高まり、頭皮ケア、ヘッドスパなどが話題になっています。今回は、髪の毛を健やかにするために役立つ漢方薬と食養生、頭皮マッサージの方法をご紹介します。

髪のぱさつき

 加齢に伴って髪の毛がぱさついたり、つやがなくなってくる場合、補うだけでなく、巡りを良くすることが大切です。前回も登場した八味地黄丸、六味地黄丸、牛車腎気丸で補い、気血の巡りを良くする漢方薬を併用すると効果的です。
 実際の症例を挙げてお話しします。Bさんは、38歳の女性です。37歳で2人目の子供を出産してから抜け毛が増えました。授乳が終わって一段落しても抜け毛はあまり減りません。また、子育ての疲れで身体が重だるく、手足が冷えるようになりました。漢方外来を受診、八味地黄丸を服用し始めたところ、1か月ほどで、手足の冷えなどは消失しました。抜け毛も減ってきましたが、まだ髪のぱさつきが気になります。また、元気にはなってきたのですが、まだ身体が重い感じと、おなかが張るような感じが続いていました。そこで、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を併用したところ、3か月ほどで髪の毛も健やかになり、おなかの張りや体の重い感じも改善しました。
 個人差はありますが、Bさんの場合、補剤で元気になった後、血の巡りを良くする「駆瘀血剤(くおけつざい)」を併用することで、効果がさらに良くなったと考えられます。古典的アンチエイジングには、巡りを良くすることも大切なのです。

食養生について

 偏りなく、おいしく食事を取ることが最も大切です。特に補腎したり、血の巡りを良くしたりする食材を挙げてみます。参考にしてみてください。
 ・腎によいもの
 昆布、わかめ、ほうれんそう、かぼちゃ、黒豆、黒ごま、黒きくらげ、黒くわい、貝柱、かき、なまこ、えび、かに、さざえ、牛乳、くるみ、栗
 ・血を補い、巡らせるもの
 なつめ、プルーン、ぶどう、貝類、うなぎ、すっぽん、レバー、ごま、卵、紅花などです。

頭皮マッサージについて

 頭には、いくつかの経絡(気血の通り道)があります。この流れを促すようにマッサージすると良いです。まず、親指を耳の穴に入れて固定し、耳の周りから順番に頭頂部へともんでいきます。短時間でも、続けて行うと効果が感じられると思います。髪の毛のためだけでなく、頭部の血流が良くなって、すっきりすること間違いなしです。
 花粉症や風邪の時には、漢方薬の効果はすぐにわかるとお話ししましたが、髪の毛に関しては、数か月単位で服用しないと効果がよくわからないことが多いです。また、漢方専門医に相談することで、よりよい処方が決められると思います。体の中から髪を健やかにしてみませんか。

香りの話 しそとシナモンの効用

 石鹸(せっけん)の香り、紅茶に浸したマドレーヌの香り、百合の香り…様々な香りの中に、記憶のかなたにあった出来事や人を思い出すことはよくあります。香りを感知する嗅覚は、最も原始的な感覚だと言われています。私は、おいしいお店を探す時、嗅覚に頼ります。これで今まであまり外れたことはありません。食いしん坊の本能でしょうか(笑)。
 さて、漢方薬は独特な香りがするので苦手、という方も多いと思います。でも、漢方薬では、この香りにも効果があるのです。今回は、この香りについてお話ししたいと思います。
 日常生活で一番なじみがある香りのある食物といえば、しそ(蘇葉:そよう)ではないでしょうか。シナモン(桂皮:けいひ)はお好きですか? これらは、漢方薬の中に生薬(しょうやく)としてよく使われています。

しそ(蘇葉)

 お刺し身に名脇役として必ずと言っていいほど登場するのが、しそです。漢方では、もっぱら葉を使いますので、蘇葉(そよう)と呼びます。これは、単に香りをつけてお刺し身をおいしくするだけではなく、魚介類の解毒に効果があると言われています。解毒作用の他に、気を巡らせたり、発散させたりする作用があります。よく、のどの違和感やおなかの張りなどの気鬱(きうつ)に使われる香蘇散(こうそさん)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)にも蘇葉が含まれています。

シナモン(桂皮)

 ドーナツやアップルパイ、八つ橋など、スイーツには欠かせないシナモンですが、漢方では最もよく使われる生薬の一つです。汗をかきやすくし、痛みを和らげ、むくみを取り、気分を落ち着け、体を温める作用があります。以前にお話ししましたように、風邪の初期には、汗をかくことによって邪(病気の原因)を発散させるのですが、そのときに重要な働きをするのが桂皮です。葛根湯(かっこんとう)、桂枝湯(けいしとう)、麻黄湯(まおうとう)など有名な風邪の処方に含まれています。桂皮の香りの中に含まれる成分がインフルエンザウイルスの増殖を抑えることを示した研究もあります。また、気逆(きぎゃく)による動悸(どうき)や不眠にも効果的です。桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)などに含まれています。
 このように考えると、漢方の香りも楽しめるのではないでしょうか。エキス製剤でも、お湯に溶かしてみると、生薬の香りがします。生薬の香りを楽しめるようになれば、漢方薬がより効果的になるかもしれません。

香りの話 ミントとセリ

 先回から、香りのお話をしています。香りはお料理をおいしくいただくためにも大切です。その証拠に、風邪や花粉症で鼻が詰まっているとお料理のおいしさが半減してしまいますよね。シンプルに見えるお料理も、少し香りのあるハーブなどを加えるだけで、味に深みが増しておいしくなります。漢方薬の香りは苦手だけどハーブは好き、という方も多いと思います。そこで今回は、ミント(薄荷:はっか)、セリ(当帰:とうき)の効能についてお話ししたいと思います。

ミント(薄荷)

 日常生活で一番なじみがあるすっきり系の香りのある植物といえば、ミントでしょう。眠気覚ましのミント味のガムや飴(あめ)、すっきりさせたいときに使うシャンプーやデオドラント製剤などにも入っています。ミントティーを愛飲している友人(男性です!)は、ストレスがたまるとミントティーを飲みたくなると言っていました。また、お肉料理に少し加えるとさっぱりとした感じが加わっておいしくなります。つまり、すっきりさわやかに発散させたいときに使っているのです。
 漢方薬の中にも薄荷が入っているものがいくつかあります。代表的なお薬は、加味逍遥散(かみしょうようさん)です。加味逍遥散は、よく更年期のいらいらやのぼせに用いますが、この中の薄荷は、胸の中のもやもやした熱を発散させ、冷まします。滋陰至宝湯(じいんしほうとう)にも薄荷が含まれていて、咳(せき)が出るときの胸の熱を冷まします。
 薄荷は、揮発成分が主なので、もし煎じ薬で使う場合は、最後5分くらいに入れたほうがよいです。薄荷の良い香りとともにすっきりした味が広がり、もやもやした感じがとれてきます。

セリ(当帰)

 セリ科の植物ですが、正確には、食用のセリとは少し違います。セロリもセリ科ですので、似た香りがします。当帰は主に血を補います。婦人科系の漢方薬には、必ず入っていると言っても過言ではありません。また、血の巡りが関係した頭痛にもよい生薬だとされています。当帰が入っているものは、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)など、血を補う方剤に入っています。
 ミントティーが大好きな友人には、最近ストレスがたまっているようですので、加味逍遥散もお薦めしました。さらにストレスを発散させて、人生を楽しめるといいですね。
 このような漢方構成生薬の効果を知っておくと、より漢方薬が飲みやすく、飲むのが楽しくなるかもしれません。

漢方薬は受験生の味方

 春は桜咲く季節ですが、ご家族やお友達に、残念ながら桜が散ってしまった方や、今年受験生という方もいらっしゃるのではないでしょうか。よく、「頭の良くなる漢方薬はありませんか?」と聞かれるのですが、残念ながらご期待に沿えるほど天才になれる漢方薬はありません。でも、能力を最大限に発揮し、効率よく勉強できるようになる漢方薬はあります。
 Cさんは、17歳の高校3年生です。5月頃から受験勉強に集中できなくなり、その頃から気分が沈み、ひどくいらいらするようになりました。家族にも突然怒ったり、泣いたりするようになりました。ご本人は初めての診察で、家にいるだけでいらいらする、志望する大学はあるが無理ではないかという不安と勉強が進まないいらいら感で、ますます勉強が進まない、すると、より焦りが募る、という悪循環を繰り返していると話してくれました。そこで柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)エキス、寝る前に桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)エキスを処方しました。7日後には、いらいら感がややとれて、塾のテキストを開く気になってきました。1か月後には、2時間集中して勉強できるようになり、半年後には、第1志望の大学に合格しました。
 Dさんは、18歳の浪人生です。もともと緊張すると下痢をしやすかったのですが、受験生になってその傾向が強くなり、漢方外来を受診しました。勉強すると疲れてしまう、昼間に眠くなりやすい、食事は年齢の割にたくさん食べられない、おなかが張りやすい、などの症状がありましたので、啓脾湯(けいひとう)エキスを処方しました。服用開始後2週間で、下痢の回数が減り、緊張も改善しました。2か月ほどで、下痢はほとんど消失、食事の量も増えて気力も充実してきました。そして、無事に第1志望の大学に合格しました。
 この他に、受験生のお母さんで、心配性のあまり、お子さんの受験をひかえて怒りっぽくなってしまった、という方に、抑肝散(よくかんさん)エキスを処方して、家庭の雰囲気がよくなった、ということもありました。受験生が勉強に集中するためには、家庭の雰囲気も大事ですよね。
 もちろん、漢方薬だけでいろいろな問題が解決するわけではありません。でも、漢方で体調を整えるお手伝いができ、精神的に落ち着いてベストが尽くせるようにすることができる、という場合はあります。また、受験生には、心身の健康管理が第一ですから、もし気になることがあったら、医師に相談してみてはいかがでしょうか。適度な運動と睡眠など、養生もお忘れなく。

漢方医 『華岡青洲』

 漢方医学、というと、穏やかな印象を持たれることが多いようですが、日本の漢方医学が更なる発展を遂げた江戸時代中期から末期には、様々な疾患に漢方薬が用いられ、激しいともいえる治療が行われていました。華岡青洲は、そのような漢方医の一人です。
 華岡青洲は、1846年のウィリアム・モートンによるエーテル麻酔手術公開実験に先立つこと約40年の1804年に、世界で初めて全身麻酔下での乳がん手術に成功した医師として有名です。華岡青洲は非常に優れた漢方医でもありました。この手術に使われた全身麻酔薬が漢方薬でした。漢方薬で全身麻酔なんて!と思われるかもしれません。通仙散(つうせんさん)という、蔓陀羅華(まんだらげ)を主薬に、草烏頭(そううず)、白芷(びゃくし)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、南星炒(なんせいしゃ)という6種類の生薬を配合した漢方薬でした。
 私と華岡青洲の出会い(正確には、華岡青洲の創製した処方ですが)は、漢方を勉強し始めて初めて受け持った入院患者さんに始まります。脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)の手術後の患者さんで、手術後の足の痛みと手術の傷がなかなか治りませんでした。そこで、帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう)という漢方薬を使ったところ、1週間ほどで傷がふさがり、足の痛みも良くなりました。その後、やはり青洲創製の十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)や紫雲膏(しうんこう)を使って、その効果に驚きました。私の中では最も尊敬する漢方医の一人です。

 「内外合一、活物窮理」(ないがいごういつ、かつぶつきゅうり)

 これは、専門領域だけでなく総合的に幅広い見識を持ち、物事の真理や本質を見抜き追求することが大切だと説いた言葉で、青洲の理念を表しています。現在では、通仙散自体は用いられていませんが、この理念はどのような医学分野にも通じるものです。そして、患者さんのためにベストを尽くすという意味も込められていると思います。ある治療法がよくわからないからといって排除するのではなく、効果があるのなら積極的に治療に取り入れなければなりませんし、逆に、実際の臨床経験を科学的に証明していくことも必要です。私にとっては、医師としての姿勢を教えてくれる言葉です。
 以前おすすめした有吉佐和子の「華岡青洲の妻」では、青洲という男性にすべてをかけた2人の女性が主人公になっています。背景に、青洲の動物実験の様子や、医学に対する真摯(しんし)な姿勢も丁寧に描かれています。単なる嫁姑の争いを超えた献身をみると、そこまで愛する男性に出会えたことに対して羨ましささえ感じるほどです。和歌山弁の柔らかさと相まって、濃厚な味わいの作品です。ドラマや映画にもなっていて、こちらもおすすめです。
 学生時代、米ボストンのハーバード大学を訪問した際に、エーテルドームというエーテル麻酔を記念した建物を見学して、近代医学の素晴らしさに期待と希望を抱いたものでした。しかし、華岡青洲のことは大学でも教わりませんでした。本来は日本にも世界に誇るべき医学とその歴史があります。漢方医学もその一つです。このような歴史も含めて、皆さんに漢方のことをもっと知って頂けたら、と思います。

水分とりすぎにも注意!

 だんだん夏らしい陽気になってきました。暑くなってきて汗をかくと、のどが渇きます。これは、体が水分を必要としているということですから、水分を取るのは大切ですし、暑い中、汗をかいた後の麦茶はおいしいですよね。
 ところで、世間では、のどが渇かなくても水分をたくさん取るのが健康によいのだと言われているようですが、本当にそうでしょうか。答えは、NOです。飲み過ぎは健康に良くありません。特に、「テレビで○○さんが、水分をたくさん取って血液をさらさらにしましょう、って言っていたから、がんばって飲んでたんです」と言われると、がんばった患者さんのことがお気の毒になりますし、そんな無責任なことを言うなんて、と憤りもするわけです。そこで、今回は、水分の上手な取り方と、水分のバランスを良くする漢方薬のお話をしたいと思います。
 「水分を取ると血液がさらさらになる」という信仰は、本当に多くの方々に信じ込まれています。もちろん脱水は良くありません。しかし、脳梗塞や心筋梗塞の予防法としては、水分を取れば取るほど効果的というわけではありません。人の体内の血液の濃さは、水分取取が少なければ尿量を減らし、水分摂取を多くすれば尿量を増やすことで一定の範囲に調節されます。水分を必要以上に取っても、通常は尿回数が増えるだけで、血液はさらさらにはなりません。また、脱水を防ぐのであれば、タンパク質をしっかり取るなどして栄養状態を改善し、血液の質を良くすることを、水分を取るよりも優先して行うべきです。
 「水中毒」という言葉を聞いたことがありますか? 水を過剰に飲むことによって、腎臓が尿を作る能力の限界を超えてしまい、水中毒になってしまいます。体内のナトリウム、カリウムなどの電解質(でんかいしつ)のバランスが悪くなり、けいれんが起こったり、意識がなくなったりします。急激に起こると命にかかわることまである「病気」です。水分の取りすぎは、そんな危険さえあるのです。
 漢方外来には、尿回数が非常に多いとか、尿もれ、夜間尿などの排尿異常を訴えていらっしゃる患者さんが多いのですが、お話をよく聞くと、明らかに水分の取り過ぎで悪くなっていることが多いのです。そこで、毎日の食事以外の水分摂取量、毎回の排尿の時間と1回排尿量を数日間つけてみると、1日2000ml以上の水分を取って、結果として1日尿量が2000~3000mlという人がいます。 1回排尿量が200mlとすると、排尿回数は10~15回になります! 夜、トイレに慌てて行こうとして転んだり、骨折したりする方もいらっしゃいます。また、夜、トイレに起きると、眠りが浅くなる原因にもなります。
 さらに、冷たい水分だとその影響はもっと深刻です。夏は、冷たい麦茶を飲む、というのが日本の家庭の習慣になっています。外出先から帰ってきて飲むのは体に必要なので良いのですが、冷房が利いた部屋にずっといて、汗もかいていないのに漫然と飲むことは確実に体を冷やします。胃腸の調子が悪くなったり、頭痛がしたり、体が重くなったりという症状が表れるのです。例えば、冷たい飲み物を控えただけで頭痛が改善した患者さんは少なくありません。
 このように、水分の取りすぎが原因の場合には、水分を減らしていただくだけで、症状がずいぶん改善することが多いです。まずは、水分を一気に飲まないこと、無理して飲まないことです。のどの渇きが異常にあって水分を取ってしまう場合には、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)や五苓散(ごれいさん)など、その人に合わせた漢方薬を用い、より早く体のバランスを整え、のどの渇きを抑えることで症状が改善することが多いです。
 漢方医学では、漢方薬を使うよりも養生を優先すべきといわれています。養生なくして、漢方薬だけで健康を取り戻すことはできません。この夏、水分の取り方も考えてみられてはいかがでしょうか。

不妊と漢方

 女性の社会進出に伴い、結婚年齢・出産年齢が上がっています。そこで、初産の高齢化を警告するさまざまな知識を広げようという動きが高まってきました。特に重要とされているのが、卵子の老化つまり加齢によって不妊になる、ということです。35歳以上の妊娠が高齢出産と定義されているため、35歳をひとつの節目と考えて「35歳までは大丈夫」と思う人が多いようですが、卵子が妊娠する能力は、33歳から下がり始めると言われています。このような女性の体に関する平均的な知識を知ることは重要です。また、閉経してしまうと妊娠することはできなくなってしまいますので、ある程度の年齢制限はあると思います。しかし、個人差が非常に大きいのも事実です。
 今回は、漢方と不妊についてお話ししたいと思いますが、特に私の外来でのお話に限定させて頂きたいと思います。というのは、不妊を専門にされている先生方も多く、医師によっては治療方針が異なることがあるからです。
 漢方外来には、妊娠を希望されたり、妊娠に備えて体調を整えたいと希望されたりして多くの女性が受診されます。また、数年の不妊治療に疲れ果てて受診されたり、排卵誘発剤やホルモン剤の使用による不快感を訴えて受診されたりする方もいらっしゃいます。そんな方の心身のバランスを整えるのが漢方薬です。患者さんにはよく「土台をつくる」という言い方をするのですが、いくら不妊治療をしても、もともとの体調がよくないと妊娠が継続できなかったり、治療による副作用が大きく出てしまったりします。そこで、「土台をつくる」ことによって状況を改善するわけです。
 私の外来では、患者さんの気が進まなければ、あえて詳しい状況などは聞かないようにしています。その状況によるストレスが心身にどんな影響を与えているのか、感じた症状を中心に聞き、自分の不調に気づいてもらえるようにしています。例えば、義父母から孫の話をされるたびに息苦しくなるとか、友達が出産したと聞くと、おなかが痛くなるとか、繊細な女性の体はいろいろなストレスを感じると身体症状がおこりやすいのです。妊娠・出産というのは、人生最大の身体的ストレスとも言えますから、どんとした土台をつくっておかないと、その後に来る子育てというたいへんな仕事をこなすことはできません。産科の不妊治療と並行して受診される場合も多いですし、いったん不妊治療はお休みして漢方で元気になろうという方もいらっしゃいます。漢方治療は、その方が自分で考えた人生なら、それに寄り添っていこうという姿勢で行います。ひとを好きになるのに年齢制限はないのと同じく、子供を欲しくなる気持ちにもある程度までは年齢制限はありません。実際、私の外来にも40歳代で結婚して妊娠を希望され、出産した人もいます。
 Aさんは、39歳の女性です。結婚して5年たちますが、子どもができないため、産科で不妊治療中でした。排卵誘発剤を投与されたところ、ひどいめまいと頭痛が出現し、日常生活にも支障を来したため、いったん不妊治療を中止し、漢方外来を受診しました。手足の冷えがひどく、気血の巡りが非常に悪かったため、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)エキスを処方し、頭痛時の頓服(とんぷく)として呉茱萸湯(ごしゅゆとう)エキスを処方したところ、服用して2日で頭痛とめまいが消失しました。その後も漢方薬の服用を継続し、1年後に自然妊娠し、自然分娩しました。
 すべての方がこのように妊娠できるとは限らないのですが、心にも体にも余裕ができると妊娠しやすくなることは確かだと思います。漢方では体調や心の状態に余裕をつくる治療を心がけているのです。具体的なお話はまた別の回にしたいと思います。

暑い夏にはビール?

 日に日に暑さが増してきました。皆様、いかがお過ごしでしょうか? 夏の暑い日に仕事が終わって、みんなでビールを飲むとおいしいですよね。私は、最近は糖質制限をしているので、あまりたくさんは飲まないようにしていますが、先日、お仕事で大阪に行った際に、ベルギービールフェアに行ってきました。特にホワイトビールがおいしくて、2杯もおかわりしてしまいました。また、ビールのクイズ大会で勝ち進み、お気に入りのビールのグラスを頂いてご満悦でした。
 ベルギーのホワイトビールは、大麦麦芽、ホップ、水、酵母を基本原料に、麦芽にしない生の小麦を用い、コリアンダーの種とオレンジピール(オレンジの皮)で風味付けをしています。コリアンダーの種もオレンジピールも漢方で使う生薬の仲間です。ベルギーのビールは主に修道院で造られて発展してきました。ヨーロッパの修道士はその昔は医師も兼ねていて、薬草の知識も豊富でした。ヨーロッパと中国は陸続きですから、当然、知識の交流はあったのだと思いますが、同じような使われ方をする薬草が多いのには驚きます。
 コリアンダーの種は胡荽子(こずいし)といい、胃の調子を整え、気の巡りを良くします。漢方では、食欲不振や皮膚疾患に用います。コリアンダーという名は、ギリシャ語で南京虫という意味のコリスに由来します。コリアンダーはカメムシくさいとよく言われますよね。ピクルスやカレー粉、ソーセージにもよく使われています。同じお酒なら、ジンにも使われていることが多いです。コリアンダーの種は古代ギリシャ・ローマ時代から医薬の一つとしてよく使われ、消化不良や腹痛、めまいの他、中世には媚薬(びやく)としても有名だったそうです。ヨーロッパから中国に伝わったといわれていますが、日本では匂いが好まれなかったため、普及しなかったようです。オレンジピールは、ウンシュウミカンの皮である陳皮(ちんぴ)と同じく、気の巡りを良くします。また、食欲を増進させる作用もあります。このように生薬としての効果からみてみると、夏ばてによる食欲不振によさそうです。
 適量のビールは気血の巡りを良くしてくれるのかもしれません。暑気払いもいいですが、くれぐれも飲み過ぎにはご注意ください。水分や栄養もしっかり取って厳しい夏を乗り切りましょう!

案外多い2人目不妊 産後は休もう

 1人目はできたのに、2人目がなかなかできない、という方が案外多いです。これは、最初のお子さんを出産した後、十分な休養を取らなかったために体力を消耗してしまったり、子育てにより疲労が蓄積したりすることによる部分が大きいのです。
 私自身も産後の無理がたたって、頻繁に頭痛やめまい、動悸(どうき)が起こるようになりました。月経前のイライラもひどくなり、産後もっとしっかり休めばよかった、夫にもっと家事を分担してくれるように頼むなど、自分の負担を減らす努力をもっと積極的にすればよかったと後悔しました。漢方薬がなかったら、産後も仕事を続けることは難しかったかもしれません。
 2人目不妊を避けるためには、そういうわけで、初産後の休養とその後の養生が最も重要なのです。でも、仕方なく無理をしてしまった方には漢方薬も良いかもしれません。

産後3週間はしっかり休みましょう!

 特に産後3週間は無理をすると腎気が元に戻らず、様々な不調を起こすと言われています。出産というのは非常に腎気を消耗するのです。産後はしっかり休んで腎気を養わなければなりません。また、骨盤が開いた出産後すぐに起き上がることは体によくありません。産後3週間で、お産で開いた骨盤が元の位置に戻ってきますが、その前にたくさん歩いてしまうと骨盤が開いたままの状態になってしまい、元に戻りにくくなります。すると、バランスが崩れた状態になりますから、腰に負荷がかかり、不調の原因になります。
 産後ゆっくり休もうとすると、どうしても周囲の協力と理解、そして実際に助けてくれる人が必要になります。現代は核家族化が進んでいますから難しいかもしれませんが、自治体によっては介護の方を派遣してくれる制度などを設けているところがありますので、事前に態勢を整えておくことも必要です。ご家族で産後の態勢についてよく話し合って下さいね。

腎気を補う漢方薬

 十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)など、気血を両方補うお薬が効果的です。このような濃い漢方薬が胃にもたれるという場合には、六君子湯(りっくんしとう)や人参湯(にんじんとう)などで脾(ひ)を立て直すとよいでしょう。また、産後便秘になった場合は、骨盤の血液の循環をよくし、お通じをよくする漢方薬を併用するとより効果的です。
 桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)などが良いかと思います。むくみが気になる場合には、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が良いかもしれません。気血の流れを改善しつつ補う治療が産後の体の回復を促してくれるでしょう。 
 漢方薬はお手伝いをするに過ぎません。自分の体のことをよく知り、良い状態に整えていくことは、妊娠するためだけでなく、楽しく健康的な生活をするために重要なのです。

腎気を補う漢方薬
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
六君子湯(りっくんしとう)
人参湯(にんじんとう)
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

不妊と漢方 土台づくり

 先回、女性の妊娠する能力や不妊症についてお話ししたところ、いろいろなご質問を頂きました。今回は、漢方薬を服用する際に皆さんが疑問に思われること、不妊治療に漢方薬を実際にどのように使うのか、などについてお話ししたいと思います。

催奇形性のお話

 不妊に漢方を服用する場合、最も気になるのが催奇形性です。妊娠した場合でも母体血中濃度が上昇しないものほど胎児には安全であるという考えから、複合薬剤である漢方薬は理論的には比較的安全ではないかと考えられています。実際、漢方薬によって催奇形性を認めたという報告はありません。しかし、特に器官形成期(妊娠2か月)には胎児は催奇形性という点ではもっとも敏感になるため、薬剤は漢方薬といえどもできる限り必要量投与し効果が得られたら中止することにしています。妊娠がわかった時点で特にお困りの症状がなければ、いったんお薬を中止すれば、まず問題ないと思います。よくわからない場合はかかりつけ医や専門医にご相談下さい。

治療の第一は心身の土台をつくること

 家の土台がぐらついていると、ちょっとした台風や地震でぐらついて壊れてしまいます。人間の心身もこれと同じです。疲れがたまっていたり、ストレスが多くて心身に余裕がなかったりすると、些細(ささい)なことも気になりますよね。漢方医学の場合、土台がしっかりしていることを「気が充実している」と言います。気が足りない気虚(ききょ)の症状の中に、些細なことが気になりくよくよする、音に敏感、びっくりしやすい、などがあります。現代社会はいろいろな意味で複雑ですから、気を遣うことが多く、気の流れが異常になる気鬱になりやすいのです。この状態が長く続くと消耗して、気虚になります。
 このような観点から、まずは気を充実させ、流れを整えます。気の流れが滞った気鬱(きうつ)には、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)や香蘇散(こうそさん)、四逆散(しぎゃくさん)などが適応になります。気が足りない気虚の状態には、六君子湯(りっくんしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などが効果的です。とはいうものの、個人差が大きいです。どのように心身のバランスが崩れているのかを知ることが重要です。
 不妊は大きく、デリケートな問題です。でも、妊娠、不妊治療という言葉にとらわれて無理をし、ストレスをため込むのは心身に非常な負担となります。患者さんが漢方治療を通じて自分の体や心の状態を知り、人間は自然の一部であるという基本的な事実を再認識し、どうしたらご自分が最も穏やかで余裕を持っていられるのかを考えられればよいな、と思います。

暑い夏、水分の効果的な取り方

 以前、水分、特に冷たい水分の取りすぎは良くないというお話をしたところ、どのように水分を摂取したらよいのかというご質問を頂きました。一番大切なことは、脱水もしくはなりかけているときと、そうでないときとでは違うということです。また、脱水になってしまってからの対処と、脱水になりにくい体を作る方法は異なります。以上のことを踏まえてお話ししたいと思います。

脱水になってしまった場合

 意識がはっきりしないような重度の脱水状態に対してはもちろん点滴やその他の治療が必要ですので、すぐに病院で診察を受けるべきであることは言うまでもありません。
 重度ではない脱水状態の場合、ただのお水を飲むことは効果的ではありません。WHO (世界保健機関)や欧米諸国におけるガイドラインでは、経口補水液(Oral Rehydration Solution : ORS)を飲むことによって脱水の改善を行う経口補水療法(Oral RehydrationTherapy : ORT)が薦められています。ORT は、開発途上国でコレラなど感染性の下痢によって命を落としていた多くの患者を救うために、WHOが1970 年代にORSを開発したのが始まりです。その組成は、水1リットルに対して、ブドウ糖20g、塩化ナトリウム(食塩)3.5g、炭酸水素ナトリウム(重曹)2.5g、塩化カリウム1.5gの割合で溶解したものです。家庭で作る場合には、水1リットルに対して砂糖大さじ4と1/2、食塩小さじ1/2、果汁少々を加えることで簡便にORSを作ることが出来ます。また、より身近なものとして重湯があります。重湯はデンプン(体内で分解されてブドウ糖になります)と少量の食塩を含み、理にかなった水分補給食品であるといえます。ブドウ糖液よりも血糖値の急激な上昇がないという点でも、小児や高齢者、糖尿病の患者さんに適しています。
 脱水症状や下痢の場合には、大腸で十分な水分吸収が出来ません。ところが小腸では、糖と食塩すなわちナトリウムイオンとブドウ糖が同時にあると水も吸収される仕組み(共役転送系)があるので、大腸の水分吸収が十分でなくても小腸から水分と栄養分を補給できるのです。
 重症の脱水であっても、治療をして状態が安定した後はORTに切り替えることも推奨されています。点滴に比べて簡単な方法で水分と電解質の摂取バランスを取ることができるからです。
 また、ORSを飲む際には少しずつ飲むことも大切です。一度に大量に取ると、胃腸に負担をかけてしまうので吐いたり吐き気がしたりすることが多いからです。

脱水でない場合

 脱水でない場合にはORSを飲む必要はありません。のどが渇いたとか、汗をたくさんかいたときには水分を多めに取るようにします。お味噌汁は、適度に塩分を取ることができ、蒸し暑い日本では良い水分補給方法です。
 脱水を防ぐ対策としては、タンパク質をしっかり取るなどして栄養状態を改善し、血液の質を良くすることが重要です。

夏ばてに漢方

 栄養状態を良くすることが重要とわかっていても、暑いとつい、そうめんやお茶漬けで済ませてしまいがちですよね。夏の食欲不振は胃などの消化管に余分な水である湿(しつ)がたまってしまい、胃腸機能が悪くなることによって起こることが多いのです。ですから、湿を取り去って食欲を増すような漢方薬を服用するとよい場合があります。胃苓湯(いれいとう)、五苓散(ごれいさん)、二陳湯(にちんとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、清暑益気湯(せいしょえっきとう)などを症状や体質に合わせて使います。
 養生と漢方薬で夏に負けない体をつくりましょう。それでも脱水になったら効果的に水分や電解質がとれるORSを飲むことで、ひどい脱水になるのを予防し、楽しく夏を過ごしましょう。

妊娠中の漢方  つわりに良い漢方薬

 妊娠のことを「おめでた」といいますよね。私の同級生は、「患者さんにおめでとうといえる」という理由で産婦人科医になりました。そんなおめでたい妊娠ですが、自分の体がどんどん変化していくわけですから、妊婦さんにとってはおめでたいばかりでなく、たいへんなできごとです。特に吐き気や嘔吐(おうと)をともなう「つわり」は非常につらいものです。
 つわりは、症状や期間の個人差が非常に大きく、全く症状が出ない方から、つわりのために脱水や低栄養になってしまう方までさまざまです。一般的に、妊娠初期の4~5週目あたりに始まります。2~3か月間続いた後、だんだんとおさまってきて、4か月頃に終わる方が多いのですが、出産直前まで症状が続く方もいます。症状がひどかったり長く続いたりするような場合には、食事摂取ひいては栄養状態に影響を及ぼしてしまいます。つまり、吐き気や嘔吐により食事が取りづらくなったり、逆に食べるとおさまるつわりの場合には食べすぎてしまったりします。安定期に入るとゆっくりと症状は落ち着いてきます。出産すれば終わるとわかっていてもつらいものです。
 もし、まったく食事や水分の取れない状態であれば、かかりつけの産婦人科を受診しましょう。脱水になると、だるさや吐き気がますますひどくなりますので、場合によっては点滴などが必要な場合もあるからです。

つわりに良い漢方

 つわりを軽くして最低限の栄養や水分を取れるようにできる漢方薬が昔から知られてきました。
 小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)は、半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)、茯苓(ぶくりょう)の3つの生薬からできているシンプルな漢方薬です。半夏はテンナンショウ科カラスビシャクの根茎で、胃の調子を整えて嘔気を止め、湿(しつ)を取り去り、むくみを改善する作用があります。生姜には同じく吐き気を止める作用があります。茯苓には、むくみを去ると同時に、水が必要な部分に水を運び、水の偏りを改善する作用があります。
 小半夏加茯苓湯に厚朴(こうぼく)、蘇葉(そよう)を加えた方剤が半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)です。厚朴、蘇葉を加えることによって気の巡りがよくなり、つわりで沈みがちな気分を発散させてくれます。
 小半夏加茯苓湯に陳皮(ちんぴ)と甘草(かんぞう)を加えたのが二陳湯(にちんとう)です。陳皮は胃の調子を良くし、むくみを改善する作用があります。
 むくみがひどい場合には五苓散(ごれいさん)が良いかもしれません。
 これらの漢方薬を服用する際には、冷やして飲むと吐き気があっても飲みやすく、効き目も良いと言われています。
 無理をしないようにリラックスして過ごせる環境をつくることも、つわりの改善には重要です。つわりを和らげ、十分に栄養を取って、おなかの赤ちゃんに快適な環境をつくってあげましょう。

つわりの症状などに用いる漢方薬
小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
五苓散(ごれいさん)

子どもの便秘

 便秘に悩むお子さんが増えているようです。私は小児外科医だった頃、術後の患者さんたちのお通じをいかによくするかが大きな課題の1つでした。排便指導はもちろん食生活改善、運動指導などもしていたのですが、漢方薬も有効である場合が多くありました。そして、その延長で特に病気ではない子どもたちの便秘にも関わっていました。特に腸などに異常がないのにどうして便秘になるのでしょうか。年齢によってその原因は異なるようです。

乳児期

 生後半年は、便が軟らかいので、お乳を飲んでおなかがふくれると反射で便が出ます。この時期に便秘がある場合は、腸に何らかの異常があることを強く疑います。小児科や小児外科を受診することを強くおすすめします。
 離乳食が進んで便が固くなると、排便時に痛みを感じて便秘になる子がいます。この痛みを防ぐために、便の固さを食生活の改善やお薬で調節します。
 漢方薬も良い補助になります。例えば、大建中湯(だいけんちゅうとう)や小建中湯(しょうけんちゅうとう)には膠飴(こうい)という、麦芽糖とデキストリンを含んだ生薬が入っていて腸内環境を整えながら便を適度な固さにすると言われています。

幼児期

 トイレットトレーニングを開始するのが早すぎると、便秘になりやすいと言われています。子どもはストレスを感じると、便意を感じたときに骨盤の筋肉を緩めることができなくなってしまいます。このことが便秘の習慣を作ると言われています。排便をストレスと感じないように、いやがることがない環境作りが大切です。そのためにはトイレを楽しい場所にするように好きなアニメのキャラクターを貼るとか、トイレの歌を歌いながらトイレに行くなど、工夫してみるとよいと思います。緊張しすぎてしまう体質の子には抑肝散(よくかんさん)などの緊張を取る漢方薬が有効である場合があります。

学童期

 学校で排便をするのがいやだとか、排便を友達に知られたくないなどの環境的な要因がより複雑になってきます。排便に対するネガティブなイメージを変える必要があります。先日、金沢市で開かれたワールドコンチネンス企画のイベントを少しお手伝いさせていただいたのですが、その時、子どもの排便を明るくする活動に取り組まれている村上八千世さんとご一緒させていただきました。村上さんの「うんこダスマン体操」などは親子でできて楽しい体操です。小学校で普段は強面(こわもて)の先生が一緒にやってくれたことがきっかけになって学校で排便ができるようになった子もいるそうです。
 学童期の緊張しやすいお子さんでは、いったん便秘の習慣がついてしまうと、直腸が拡張してしまって、ますます便意を感じにくくなってしまいます。この悪循環を断ち切るためには浣腸(かんちょう)や、場合によっては摘便を行う必要がありますが、これがかえってストレスになる場合も多いので、医療者との相談が必要です。漢方薬は,抑肝散(よくかんさん)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)、大承気湯(だいじょうきとう)などを使いますが、個人差が大きくなってきますし、時期によって使い分けた方が効果の上がることが多いです。
 このように原因や症状には時期も含めて非常に個人差があり、その子に合った治療や対処が必要です。困ったら、小児科や小児外科で相談することが大切です。

■ ドクター柴原の漢方塾(2011年11月〜読売新聞の特集)

柴原 直利 (しばはら なおとし) Shibahara Naotoshi
富山大学和漢医薬学総合研究所漢方診断学分野 教授
生年月日:1960年10月11日

 ・・・とってもわかりやすく解説されています。

「体がだるい」 という症状(1) 倦怠感と気虚(ききょ)

 「体がだるい」という症状は誰もが経験したことのあるものではないでしょうか? 風邪を引いて熱がある時に体がだるいと感じた人、過労のためか寝ても疲れが取れずに朝からずっと体のだるさを感じている人、午前中は元気だが夕方になると体がだるくなる人など、様々な形の「体がだるい」があると思います。最近、中高生を中心とした若者がよく「だるい」と口にしていますが、この「だるい」は「体がだるい」とは違っているようです。では、体がだるいと感じた時は病気なのでしょうか?
 体がだるいという症状は、医学的には「倦怠感(けんたいかん)」と呼ばれ、貧血や低血圧、肝臓や腎臓の障害、あるいは肺炎など、多岐にわたる病気でもみられる症状です。しかし、その一方で、様々な検査を行ったにもかかわらず、異常が見当たらず、「体に異常はありません」と言われることが多い症状であることも事実です。「では、この体のだるさの原因は何でしょう」と聞くと、精神的なものが原因であるとの意味で、「気のせいではないでしょうか?」と言われてしまうこともあります。
 漢方の外来にも、この「体のだるさ」を主な訴えとして受診される方が多くおられます。では、この体のだるさを漢方医学においてはどのように考えているのでしょうか? 確かに「気」のせいなのですが、いわゆる「気のせい」ではなく、漢方医学では「体がだるい」という症状を「気」の異常による症状と考えます。
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 漢方医学の考え方の一つに「気(き)・ 血(けつ)・ 水(すい)」という考えがあます。この三つの要素が過不足ない状態で体を巡ることによって体の恒常性を維持していると考えられています。この三要素の中の一つである「気」の不足が体のだるさと関係しています。「気」とは元気、気力、気分、やる気の気であり、気は体に存在する根源的なエネルギーと考えられています。この気が不足した状態、つまり、体のエネルギー欠乏状態を漢方医学では「気虚(ききょ)」と呼んでいます。体のだるさは、この気虚の代表的な症状です。
 この世に生まれ出た後、人は呼吸や食事、飲水によって体を維持しています。理科の授業で勉強したと思いますが、人は呼吸によって酸素を体に取り込み、飲食物を消化・吸収することによって水分やタンパク質などを体に取り込んでいます。漢方医学が発生した2000年以上前には酸素やタンパク質というものは分かっていなかったので、漢方医学では、人は胃腸などの消化管を通して飲食物から、肺を通して空気から気を取り入れていると考えたのです。
 胃腸の調子が悪かったり、肺の病気があったり、あるいは飲食物や空気が十分な気を含んでいなかったりすると、気の取り込みが不足して十分な気の量を維持できなくなってしまい、気の量が不足してしまいます。この気の量の不足が気虚という状態です。胃の調子が悪いと、次第に体がだるくなることがあると思います。これは、胃腸から吸収される気が少なくなったために気虚を生じた結果、体がだるいという症状がみられるのです。
 一方、気の消費過多によっても気の不足である気虚が生じます。気は体の中で常に消費されていますが、いわゆる「気を使う」ことが消費過多を引き起こすことがあります。上司との旅行、あるいは夫や妻の実家へ行った後などに体がだるくなった経験を持っている方もおられると思います。このように気虚という病態は様々な要因で生じますが、多かれ少なかれ、気虚という状態になると体がだるいという症状がみられます。

「体がだるい」 という症状(2) 気虚を改善する方法とは・・・

 前回は「体がだるい」という症状は、漢方医学では「気虚(ききょ)」という状態でみられる症状であると書きました。それでは、この気虚という状態になった時、どのようにすればよいのでしょうか?
 人は胃腸などの消化管を通して飲食物から、肺を通して空気から気を取り入れているので、体の中にあるべき気の量が不足した時には、取り入れる気の量を増やす必要があります。
 では、どのようにして気の取り込みを増やすのでしょうか?
 「気虚」を改善する方法は、その原因によって異なります。気は空気や飲食物から取り込むので、原料である空気や飲食物に気が含まれていないと、取り込みは悪くなってしまいます。
 近年は規制強化もあって公害と認定されるような空気の汚れが少なくなっています。しかし、都市部から脱出して緑豊かな自然の中を散歩したりすると、何となく元気になったと感じる人もいると思います。森林浴の効果も同様で、漢方医学的には、良い気を多く含む空気から取り込む気が増えたことにより気虚の改善に関係したのだと思われます。飲食物においても空気と同じです。
 最近は、科学技術の発達に伴い、様々な食品が栽培されるようになり、「旬」ではない食品が大量に市場に出ています。栄養素という面では、ハウス栽培の野菜と天日を浴びて無農薬で育った野菜に違いはないと思います。しかし、漢方医学的には、天日を浴びて育った野菜の方が良い気を含んでいると考えます。干物も同様で、工場内で作られた物よりも天日干しの方が良い気を含んでいると考えています。このように、生活環境や食生活も気虚の発症に関係していますので、少し変えることで気虚が改善されることもあります。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 では、胃腸の調子が悪くなったために気虚となった時はどうでしょうか? 
 体がだるいので、元気が出るようにとステーキや焼き肉を腹いっぱい食べればよいと考える人もいると思います。しかし、どんなにおいしい高価な食事を取っても、胃腸の調子が悪いので気を取り込むことが出来ず、気の量は増えません。
 かえって胃腸の調子が悪化してしまい、改善すべき気の取り込みがますます減ってしまいます。胃腸への負担を減らす必要があるのです。
 昔から、風邪を引いたり、胃腸の調子が悪くなったりして元気がなくなると、「おかゆ」を食べていました。今でも、どんなの病気であっても、入院した際に食欲がない時にはおかゆが出されることが多いと思います。おかゆでは元気が出ないと考える方もいると思いますが、胃腸が弱っている時にはあっさりした物がよいのです。しかし、あっさりしたおかゆであっても、それを腹いっぱい食べるとやはり調子が悪くなってしまいます。胃腸の調子が悪い時には胃腸への負担を考えて、「こってり」ではなく、「あっさり」とした食事を腹八分目に取ることが重要なのです。
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 このように、体のだるさを感じた時には、安易に大丈夫とは考えず、暴飲暴食を避けて胃腸を休める、天日を浴びて育った野菜中心の食事を取り、ゆっくりと深呼吸をするなどで良い気を取り込むことが重要です。生活面に気をつけることで体のだるさが改善しない時には、不足した気を補う作用がある漢方薬(補気薬)が用いられます。
 気虚に使用される漢方薬には様々なものがありますが、その多くのものに人参(にんじん)、いわゆる朝鮮人参や黄耆(おうぎ)が入っています。特に朝鮮人参は気を補う代表的な生薬です。中国の古書である「神農本草経」では、生命を養う目的の薬に分類されていますので、市販されている多くの滋養強壮剤に朝鮮人参が用いられているのも、うなずけます。

「イライラ」は性格? イライラを改善する食生活と漢方薬

 現代の日本はストレス社会とも言われており、8割以上の人がストレスを感じているとも報告されています。しかし、まったく同じ事象に対してもストレスを感じる人と感じない人がいることも事実ですし、ストレスを与えている側の多くはストレスを与えたいと考えているわけではありません。つまり、ストレスとなるか否かは、受け取る側の問題となります。
 このように、多くの人が様々なストレスを感じながら生活しているわけですが、ストレスに対する反応は人それぞれで異なります。今回のテーマである「イライラ」は、ストレスを強く感じている人にみられる症状とされています。上司や部下、家族に対して、あるいは、メディアから流れる情報に対してイライラすることもあると思います。では、イライラするのは性格でしょうか。
 「イライラする」という症状を訴えて病院を訪れた際、異常がなければ、心療内科や神経精神科への受診を勧められる、あるいは年齢にもよりますが、更年期症候群を疑われて婦人科や泌尿器科を勧められることが多いと思います。一方、漢方医学ではこの「イライラ」という症状を、治療を進める上での非常に重要な症候と考えています。気血水の「気」が逆行して循環している状態を気逆(きぎゃく)と呼び、イライラはその存在を示す重要な症状です。イライラした人が顔を真っ赤にして怒っている姿を想像してみて下さい。その姿が漢方医学で言う気逆の典型的な姿です。では、イライラすると感じる人は、どのように対処すればよいのでしょうか。
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 漢方医学では、イライラする感情は、下へ降りるべき気が降りられずに上へ昇ったために生じると考えます。食生活では、肉食を減らして野菜中心とするとともに、香辛料を控えることが重要です。これは、香辛料には気を上に昇らせる働きのあるものが多いからです。さらに、就眠時間を早めるなど、生活リズム全般をゆっくりとしたリズムに変えることも、イライラの解消となります。また、呼吸についても、太極拳のようにゆっくりとした呼吸にすることで、気の上昇が改善します。
 このような方法ではイライラが改善しない、あるいは生活を変えることは出来ないという人は、漢方薬で改善することも可能です。桃核承気湯(とうかくじょうきとう)や抑肝散(よくかんさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)といった漢方薬はイライラを主とした気逆に対して使用される代表的な漢方薬です。イライラするのは単なる性格と考えるのではなく、気逆の症状、つまり、体に歪(ゆが)みが生じた結果であると考えるべきだと思います。イライラに対処することは、単に人間関係を円滑にするだけではなく、体の歪みを是正することにもつながります。

イライラ解消の漢方薬
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
抑肝散(よくかんさん)
加味逍遙散(かみしょうようさん)

【参考:漢方薬に関する詳細は、QLife漢方(キューライフ)へ】

「のどがイガイガする」という症状を改善するには・・・

 人が「咽喉(のど)」と表現する部分には、咽頭(いんとう)や扁桃腺、リンパ節、気管、食道、甲状腺など様々な臓器や器官があります。咽喉に感じる症状は、これら臓器や器官の異常で生じることが多く、咽頭炎や扁桃腺炎の際には「咽喉の痛み」、気管支炎では「痰(たん)のからみ」、逆流性食道炎では「咽喉の焼ける感じ」、食道疾患では「食事摂取時の違和感」、甲状腺が腫大している際には「咽喉の腫れや圧迫感」といった症状が自覚されます。
 一方、咽喉の症状を自覚するにもかかわらず、病的な状態が認められない方も多くおられます。このような症状は、古くはヒステリー球や咽喉頭神経症と呼ばれたもので、近年では咽喉頭異常感症と診断されます。「咽喉がつまる」はその代表的な症状ですが、「咽喉に何か引っかかっている」や「咽喉が圧迫される」「咽喉が狭くなってのみ込めない」「咽喉がイガイガする」「何となく咽喉の感じが、いつもとは違う」といった表現で訴えられる方もおられます。
 この「咽喉がつまる」は、漢方医学では明らかに病的な状態にあることを示す症状と考えます。気血水の「気」の流れが悪くなって停滞してしまった状態を気鬱(きうつ)と呼び、「咽喉がつまる」はその代表的な症状です。「咽喉がつまる」との症状は、2000年ほど前に、既に中国で書かれたとされる『傷寒雑病論(金匱<きんき>要略)』に記されています。その婦人雑病篇には、「婦人、咽中炙臠(しゃれん)あるが如きは、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)之を主(つかさど)る女性で、咽喉に炙(あぶ)った肉片があるように感じる者には半夏厚朴湯を用いる」とありますので、「咽喉のつまり」は非常に古くからみられた症状なのです。
 では、咽喉がつまるといった違和感を自覚する際にはどうすればよいのでしょうか。まず病院を受診して病的な状態の有無を診てもらう必要があります。病的な状態がみられない時には、抗不安薬や精神安定剤を投与されたりします。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 これら薬剤が有効なこともありますが、漢方薬が有効なこともあります。先に記した半夏厚朴湯はその代表的漢方薬ですが、咽喉のつまり(咽中炙臠)に対して用いられる漢方薬はこれだけではなく、抑肝散(よくかんさん)や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、香蘇散(こうそさん)なども有効なことがあります。咽喉のつまりという症状は、気鬱という体の歪(ゆが)みが生じてきていることを示すサインです。
 さらに進行して病的な状態となる前に治療した方がよいのではないかと思います。

<咽喉のつまり(咽中炙臠)に対して用いられる漢方薬>
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
抑肝散(よくかんさん)
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
香蘇散(こうそさん)

【参考:漢方薬に関する詳細は、QLife漢方(キューライフ)へ】

皮膚の乾燥は体質?

 師走という時期とともに湿度が低下し、皮膚が乾燥してきたと感じている人もいるかと思います。皮膚の乾燥はかゆみを生じる要因にもなることから、加湿器を使用したり、保湿剤を塗布したりする方も多いのではないでしょうか。また、皮膚はかくことによってかゆみが生じることから、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患をお持ちの方は、皮膚瘙破(そうは)予防ためにも、湿度が気になる時期だろうと思います。
 しかし、環境としての湿度の低下のみによって皮膚の乾燥が生じるのではありません。皮膚が乾燥するか否かは、個々の皮膚の状態によって大きく異なるのです。最近では美肌の指標として皮膚水分量が用いられるようになり、女性であれば、ご自身の皮膚水分量を測定して憂鬱(ゆううつ)になっている方もいるのではないでしょうか。皮膚が乾燥している人の中には、「皮膚の乾燥は体質だから諦めている」と言われる人もいます。本当に皮膚の乾燥は体質なのでしょうか。
 皮膚の乾燥が体質であるかどうかという問題には、体質という言葉の定義が大きく関係しますので即答できませんが。少なくとも皮膚の乾燥は、その時点における体の状態を反映しているものであり、治療よって変えることが可能な症状であると言えます。
 では、どのようにして皮膚の乾燥感を改善するのでしょうか。漢方医学では皮膚の乾燥も体の状態を把握するための非常に重要な症状です。気血水の一つである「血(けつ)」が不足した状態を「血虚(けっきょ)」と呼び、体が必要とする血の量を維持するのに十分な血を産生できない、あるいは血が過剰に消費されるなどの状態によって生じます。
 血虚では皮膚の乾燥以外にも、顔色が悪い、眠れない、毛髪が抜けやすい、眼が疲れる、めまい感、爪の異常、こむら返り、手足のしびれといった様々な症状がみられます。これらの中でも皮膚の乾燥は血虚の非常に重要な症候です。皮膚の乾燥を体質と考えて諦めている方は、一度、漢方薬を試してみる価値があると思います。
 皮膚の乾燥に対して用いられる漢方薬には、四物湯(しもつとう)や温清飲(うんせいいん)、当帰飲子(とうきいんし)などがあります。特に四物湯は、血虚の治療に用いられる代表的治療薬、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、地黄(じおう)という四つの生薬で構成されていて、この四つの生薬には血を補う作用があります。
 漢方薬の使用に際しては、処方を構成しているすべての生薬が非常に重要で、一つの生薬だけを使用することはほとんどありません。これは、一つの生薬だけで効果を得るには多くの量が必要になり、副作用が生じる可能性があるので、他の生薬とともに少量ずつ用いることで、副作用を減らしていると考えられています。

<皮膚の乾燥に対して用いられる漢方薬>
四物湯(しもつとう)
温清飲(うんせいいん)
当帰飲子(とうきいんし)

【参考:漢方薬に関する詳細は、QLife漢方(キューライフ)へ】

【人参(にんじん)】

 ウコギ科(Araliaceae)のオタネニンジンPanax ginseng C.A.Meyer(Panax schinseng Nees)の細根を除いた根又はこれを軽く湯通ししたもの

 主な薬理

 人参は、病後の体力低下、疲労倦怠を主訴とする補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯や、胃腸疾患に適用される人参湯、六君子湯に配合される生薬です。
 人参単独では、以下に示す抗疲労作用、副腎皮質ホルモン様作用、コルチコステロン分泌亢進作用が報告されています。

【黄耆(おうぎ)】

 マメ科(Leguminosae)のAstragalus membranaceus Bunge又はAstragalus mongholicus Bungeの根

 主な薬理

 黄耆は、関節の痛みを主訴とする防已黄耆湯、また病後の体力低下、疲労倦怠を主訴とする補中益気湯、十全大補湯、黄耆建中湯に配合される生薬です。
 なお黄耆は、補気薬として使われていますが、日本漢方においては体表の鬱滞(発汗異常や浮腫)を治します。
 一方、中医学では益気固表(気虚による多汗、風邪を引きやすい状態を改善する)と補中昇陽(脾胃気虚による胃下垂、脱肛などの内臓諸器官の下垂、頭痛への栄養供給不足によるめまい、視力、思考能力低下を改善する)の他、浮腫、尿量減少や関節や筋肉の疼痛、痺れ、片麻痺を改善します。
【出典:QLife漢方(キューライフ)「生薬辞典」より引用】

「めまい」 の原因と漢方薬

 今回のテーマは「めまい」です。めまいという言葉は外来診療でも頻繁に聞かれる症状です。一口にめまいと表現されますが、実際には、横になって安静にしているのに床や天井がグルグルと回った、立ち上がった時にクラッとした、朝礼で急に倒れた、歩いている時にグラッとした、体がフワフワと宙に浮いた感じがしたなど、めまいという言葉には様々な内容のものが含まれています。
 天井が回るようなめまいは前庭神経や三半規管などの異常でよくみられる症状で、難聴や耳鳴りがみられることもあります。立ち上がった時や朝礼で生じるめまい、あるいは「貧血を起こして倒れた」と表現されるめまいの多くは「起立性めまい」と呼ばれるもので、脳へ充分な血液を送るだけの血圧を維持できない場合にみられます。
 「貧血を起こした」の貧血は医学的な意味での貧血ではありませんが、鉄不足などによる医学的な貧血も、めまいの原因になります。また、歩行時のめまいは「浮動性めまい」と呼ばれ、脳幹や小脳の異常、あるいは高血圧などの際によくみられる症状です。めまいを感じた時には、まずは医療機関を受診する必要があります。
 めまいの原因が特定された場合には適切な治療により改善することも多く、西洋薬に漢方薬が併用されることもあります。

原因不明の「めまい」には・・・・・・

 その一方で、めまいを感じているのに、原因がみあたらないこともあります。このような場合には漢方薬が頻用されます。漢方医学では気血水の一つである水(すい)が偏在した状態、つまり、本来は水のたまらない場所に水がたまった、あるいは水のあるべき場所から水がなくなった状態を水毒(=水滞)と呼んでいます。めまいは、この水毒の重要な症状です。
 水毒では、めまい以外にも,身体が重い、ズキズキとした拍動性の頭痛、頭が重い、車酔いしやすい、むくみや手のこわばり、尿の異常などの症状もみられます。
 めまいに対して用いられる漢方薬には,沢瀉湯(たくしゃとう)や真武湯(しんぶとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)などがあります。特に「回転性めまい」には沢瀉湯「浮動性めまい」には真武湯「起立性めまい」には苓桂朮甘湯がよく用いられ、効果をあげています。
 めまいに頻用される漢方薬を構成する生薬の中心となるのが、「利水薬」と呼ばれるもので、沢瀉(たくしゃ)や茯苓(ぶくりょう)、(じゅつ)、猪苓(ちょれい)などがあります。
 これらの生薬は水の偏在を調整するので、時には尿量が増えることもあります。しかし、利尿薬ではありませんので、時には尿量が減ることもあります。
 漢方薬は、その漢方薬の適した病態の方には有効ですが、異なっているとまったく効きませんので、自分には効いたからといって、友人に薦めるのはやめるべきです。

めまいの治療に用いられる漢方薬
沢瀉湯(たくしゃとう)
真武湯(しんぶとう)
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

【参考:漢方薬に関する詳細は、QLife漢方(キューライフ)へ】

冷え症は症状なの?(1)

 人の感覚は十人十色で、おいしかったからと友人に薦められて行ったレストランで,その友人の味覚を疑ってしまったという経験をされた方もいるのではないでしょうか。気温に対する感覚も同じで、隣に座っているのに、一人は上着を脱ぎ、もう一人はコートを着ようかと迷っているということもあるのではないでしょうか。
 このように、他の人は冷たさを感じないような温度にもかかわらず、体全体、あるいは手足や腰などが冷たく感じる状態を「冷え症」と呼んでいます。冷えは秋から冬になると多くなる症状で、最近では冷房の関係もあって夏に冷えを自覚する方もいます。
 また、足が冷えて眠れない、手が冷たいので握手をするのも嫌がられる、腰が冷えるのでカイロを使っている、体全体が冷えるので部屋の中でも厚着していたいなど、冷えを感じる場所やその程度は様々です。これを読んでいる人の中にも、「そう言われれば、自分も足が冷たい」「夜は靴下をはかないと眠れない」、あるいは「冬にはカイロは手放せない」と思っている人がいるのではないでしょうか。
 冷え症という言葉を国語辞典で引くと、「冷え性:冷えやすい体質。特に、腰から下が冷えること。女性に多い。」と記されています。冷えや冷え症という言葉は、一般には広く受けいれられています。しかし、西洋医学では冷えという症状を重視しません。膠原病(こうげんびょう)や更年期症候群などでは冷えを症状としてとらえていますが、冷えそのものを治療の対象とすることはありませんし、治療薬もありません。
 では、漢方医学ではどうでしょうか。
 漢方医学の古典には、手足厥寒(けっかん)や腰中冷(ようちゃくれい)、厥冷(けつれい)、厥逆(けつぎゃく)、腹中寒気など、二十に余る「冷え」に関する言葉が記されています。つまりこれは、漢方医学では非常に古くから冷え症を治療の対象ととらえていたことを示しています。国語辞典の引用として「冷え性」という言葉を使いました。国語辞典には冷え性と冷え症が併記されていて、冷え性の方が一般的なようです。しかし、漢方医学では冷えを治療対象として、あるいは治療薬選択の上での非常に重要な症状と考えていますので、冷え症という字が用いられているのです。
 冷え症は、冷えるという症状そのものが生活の幅を狭くしますし、冷えることから生じる痛みや不眠などを考えると、明らかに生活の質を損なっていると思われます。冷え症は改善すべき症状であり、改善可能な症状であると認識すべきなのです。次回は、冷え症の改善方法についてです。

冷え症は症状?(2) 冷え症の改善方法

 冷え症は遺伝だから仕方がないと諦めている方もおられます。確かに、冷え症には遺伝的な要因も関係していますが、より密接に関係しているのは環境要因、つまり、生活習慣です。これまでの生活習慣の積み重ねによって冷え症となっていることを考えると、その改善には生活習慣を見直すことが重要です。
 便利になった生活では体を動かさなくなっていますので、買い物には歩いて行く、エレベーターなどはなるべく使わない、炊事や洗濯、掃除に手間をかけるなど、普段の生活の中に体を動かすという意識を取り入れることが必要です。食生活では、体を冷やす冷性食物(果物や葉菜、果菜)を少なくして、温性食物(肉や魚、根菜、豆類)を多くすることが必要です。サラダや刺し身という調理方法は、冷え症という観点からは良いとは言えません。
 加熱した物の方が体を温めます。また、調味料では、砂糖や酢は体を冷やすとされています。入浴方法にも見直す点があります。最近はシャワー浴が多いようですが、これでは体の芯は温まりません。また、熱い風呂にサーッと入るという方法では、芯が温まらずに表面だけが熱くなって発汗しますので、かえって冷えてしまいます。少しぬるめの温度にしてゆっくりと温まるという入浴方法が良いとされています。半身浴や足浴も有効です。

冷え症を改善する漢方薬・・・

 では、冷え症に有効な治療薬はないのでしょうか。
 西洋薬には冷え症を効能としているものはありませんが、漢方薬は冷え症に対して非常によく使用されています。冷え症を漢方薬で治療する際には、体のどの部位に冷えを感じているかが重要になります。

体の全体が冷える→ 附子(ぶし)や乾姜(かんきょう)という生薬が中心となる四逆湯(しぎゃくとう)や茯苓四逆湯真武湯(しんぶとう)、附子理中湯(ぶしりちゅうとう)など。
手足が冷える→ 血の巡りが悪くなったお血という病態であることが多く、その治療薬である桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)などが使用されます。
足だけが冷える&顔はのぼせる→ 漢方医学では「上熱下寒」と呼び、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)や加味逍遙散(かみしょうようさん)、温経湯(うんけいとう)などが用いられます。
足は冷えるが、のぼせはない八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)といった漢方薬が用いられます。

 このように、冷え症のタイプによって使用される漢方薬は違ってきます。
 冷え症は、冷えという症状自体が苦痛なだけでなく、痛みやしびれ、あるいは不眠の原因にもなる可能性がありますので、改善すべき症状です。その改善には、生活習慣の見直しとともに、適切な漢方薬の服用が有効です。

冷え症を改善する漢方薬
四逆湯(しぎゃくとう)
茯苓(ぶくりょう)四逆湯
附子理中湯(ぶしりちゅうとう)
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
加味逍遙散(かみしょうようさん)
温経湯(うんけいとう)
八味地黄丸(はちみじおうがん)
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)

【参考:漢方薬に関する詳細は、QLife漢方(キューライフ)へ】

■ 漢方のちから(2011.7月〜産経新聞の特集)

(1)被災地で 不安、高血圧 …複数症状に対応

2011.7.26

 「余震が来ると、ドキドキしてきて怖くて落ち着かなかった。ずっと手に汗握る感じで、夜勤の仕事も集中できなかった」
 福島県立医科大学付属病院(福島市)の看護師、二丹(にたん)玲子さん(41)は、東日本大震災から数日たっても不安で落ち着かない状態が続いていることを、同病院性差医療センターの渡辺久美子副部長に相談した。二丹さんはもともと少し血圧が高く、この時期も上が140、下が100と中等から軽症の高血圧だった。

肺塞栓予防にも

 不安や動悸(どうき)、高血圧の症状があることから、渡辺副部長は柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を二丹さんに処方した。1日3回飲み続けたところ、5日目ぐらいに動悸がなくなり、血圧も上が120、下が70と正常値まで下がった。「漢方を飲むことで次第に大丈夫と思えるようになった。血圧も下がって、体調もいい」と二丹さん。
 渡辺副部長は「柴胡加竜骨牡蛎湯は、不安や不眠症状がある高血圧症に効果があるとされており、二丹さんの症状にぴったりだと思った。震災後、同様の症状がみられた外来の人にも処方したが、この人にもよく効いた」と振り返る。
 二丹さんのように複数の症状がみられる場合、西洋薬では、不安な気持ちをとるには抗不安薬、高血圧には血圧降下剤と別々の薬を処方することになる。一方、漢方は1剤で複数の症状への効果・効能が見込まれるものも多い。例えば風邪をひいたときに飲む葛根湯(かっこんとう)は、肩こりや冷え、湿疹の症状にも効果がある。
 渡辺副部長は震災後、同病院の関連医療機関の手伝いで避難所で生活する被災者の健康チェックも担当した。そこでよく処方したのが桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)だ。狭い場所で長時間同じ姿勢でいることを強いられる避難所では、エコノミークラス症候群(肺塞栓(そくせん))の発症が心配されていた。特に津波に遭い、泳いで逃げる途中にさまざまな障害物にぶつかり、打撲や外傷を負った人たちは、発症のリスクが高い。桂枝茯苓丸は更年期でのぼせやめまいなどの症状のある人によく使われる薬だが、打撲や腰痛、皮下出血などの症状にも効果がある。

闘うためのアイテム

 また、体力が落ちている高齢者に補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、子供の下痢や嘔吐(おうと)に五苓散(ごれいさん)もよく処方した。もちろん、西洋薬の方が良い症状の場合には西洋薬を処方した。渡辺副部長は「ゲームに例えれば、西洋薬も漢方も闘うためのアイテム(武器)の一つ。たくさんアイテムがある方がより最適の治療法を見つけやすい」とし、「人間には自然治癒力がある。漢方は体全体の体調をととのえることで、その人の治る力を引き出してあげていると思う」と考えている。

 代替医療の一つとされる漢方だが、西洋薬にはない効能を持つものもある。近年は症状をみながら西洋薬と漢方を使い分ける医師も増えている。医療の現場で漢方がどう使われているか、月1回リポートする。

品薄で半数が「困った」

 東日本大震災で一部の漢方製剤工場が被災、約1カ月間、漢方薬が供給不足になった。
 これを受け、医師の会員制コミュニティーサイト「メドピア」が、漢方の品薄状況によって受ける影響を調査したところ、回答した医師約2500人のうち、「困っている」と答えたのは約半数の1200人に上った。「かなり困っている」は1割程度だが、中には「大建中湯(だいけんちゅうとう)がなくなってイレウス(腸閉塞)が再発した患者がいた」と答えた医師もいた。漢方薬の効果に懐疑的な医師もまだ多いが、利用している人には不可欠な薬であることが浮き彫りになった。

(2)開腹手術後の合併症予防 ガイドラインでの推奨が課題

2011.8.30

 地域に根差したがん患者同士の交流を行っている「がん患者会シャローム」(埼玉県杉戸町)の会員、田中美代子さん(60)=仮名=は11年前に乳がんを発症、乳房の全摘手術をした。2年後、おなかの筋肉や脂肪を利用する「腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)」による乳房再建術を受け、この半年後に腸閉塞(イレウス)の一歩手前とみられる「亜イレウス」の症状に見舞われる。おなかが張り、腸がむくむく動くのが見え、激痛に襲われた。しかし、医療機関を受診してもそのときは診断がつかず、「少し様子をみましょう」と医師に「大建中湯(だいけんちゅうとう)」を処方される。
 田中さんは「飲み始めてすぐに薄紙をはぐように痛みが消えていった。あのときの痛みは本当にひどく、生きた心地がしなかった。大建中湯に命を救われた思いだった」と振り返る。

◆西洋薬にない効果

 大建中湯は日本の医療用漢方薬の中で最も多く使われている。手術後の癒着による腸閉塞の予防や腹部膨満感・吐き気の改善のために処方されることが多い。
 金沢医科大学腫瘍内科学の元雄良治(もとおよしはる)教授は「大建中湯を処方し、劇的に効果があった患者さんを私もたくさんみてきた。大建中湯には腸管の壁の浮腫を取ったり、腸管の血流を増加させたりする薬理効果が分かっている。腸閉塞の予防に効果がある西洋薬はなく、今のところ大建中湯が唯一の薬といえる」と指摘する。
 腸閉塞は開腹手術後の合併症として最も恐れられているものの一つだ。消化器系がんの患者の中には「がんの痛みよりも手術後の腸閉塞の痛みの方が耐えられなかった」という人もいるほどだ。

◆高質データが必要

 腸閉塞の通常の治療は、イレウス管と呼ばれるチューブを鼻から入れ、閉塞している部位にたまった腸の内容物を吸引する方法がとられる。患者にとってはかなりつらい治療だが、治療を行うには救急時にエックス線技師や看護師の協力が必要など医療側の負担も大きい。「大建中湯投与後、イレウス管の治療をしなくてもよくなった患者さんは多い。患者さんの苦痛が少ないだけでなく、医療側の負担が減る意味も大きい」と元雄教授。
 ただ、必ずしも全ての医師が開腹手術後に大建中湯を処方するわけではない。その理由の一つに、医師が治療の参考とする「診療ガイドライン」で治療法として推奨されていないことがある。
 ガイドラインで推奨されるには、ランダム化比較試験(RCT)で効果が確認されるといった、エビデンス(科学的根拠)グレードの高い臨床データが必要だ。大建中湯については現在、10を超える臨床試験が行われており、結果次第では今後、診療ガイドラインで推奨される可能性もある。
 元雄教授は「大建中湯は近年、基礎医学的にその作用機序が明らかにされてきている。既に臨床で広く用いられているとはいえ、それを裏付けるエビデンスが得られることを期待したい」と話している。
                  ◇

エビデンス評価8件

 診療ガイドラインとは、臨床医と患者が適切な医療について決断を下せるように支援する目的で、診療の根拠や手順についての情報を専門家の手で分かりやすくまとめた指針のこと。
 日本東洋医学会によると、日本国内で発行された診療ガイドライン528件のうち、漢方に関する記載があるものは51件あるが、引用論文が存在するなどエビデンスに基づいているものは8件だった。通年性アレルギー性鼻炎では「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」、気管支ぜんそくでは「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」が、それぞれ評価で最も高いA(行うことを強く推奨)がつけられている。

(3)がんのサポート外来 “次の一手”が患者の救いに

2011.9.27

 日本初のがん専門医療機関として70年前に開設されたがん研有明病院(東京・有明)。今も国内有数のがん治療・研究の拠点である同病院の総合内科内に「漢方サポート外来」ができて5年になる。同病院で治療中の患者はもちろん、他の医療機関からの患者の紹介も多く、これまで治療を受けた患者は2千人に達する。

「がん証」

 診療を担当する消化器内科の星野恵津夫部長は「手術、放射線、抗がん剤を組み合わせた集学治療で、多くのがんは治るようになってきた。しかし、それらを駆使しても治らないがんも多い。また、命は助かっても長期間治療の後遺症に苦しむ患者さんは少なくない。西洋医学に限界を感じたとき、漢方が“次の一手”として役立つことは多い」と説明する。
 同外来を訪れる患者の訴えは、だるさ▽食欲不振▽不眠・不安▽冷え▽吐き気▽夜間頻尿▽下痢・便秘▽腹部膨満▽放射線治療後の口腔(こうくう)乾燥▽抗がん剤による味覚異常や手足のしびれ▽乳がんホルモン療法中のホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)-など多岐にわたる。共通するのは、こうしたさまざまな症状によって気力と体力が低下し、元気がないということだ。「この特殊な状態を私は『がん証(しょう)』と呼んでいるが、これは体が機能失調を起こした状態であり、“補剤”と呼ばれる漢方薬で改善する」と星野部長。
 補剤とは、人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、当帰(とうき)、茯苓(ぶくりょう)などの生薬が配合された漢方薬のこと。このような漢方薬は10処方ほどあるが、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)▽人参養栄湯(にんじんようえいとう)▽補中益気湯(ほちゅうえっきとう)-の3つは「三大補剤」と呼ばれ、がん患者に頻用される。適切な補剤を用いると、胃腸と精神の働きが回復して、快食・快眠・快便となり、患者の多くはがんの治療に前向きになるという。
 星野部長は、患者の状態によって三大補剤を段階的に使い分ける。

□ がんと診断された当初、精神的ストレスにより不眠や不安、いらいらなどの精神症状が前面に出た第1段階では補中益気湯
□ がんが進行し、さまざまな治療の影響もあって、気力のみならず体力も低下した第2段階では十全大補湯
□ がんがさらに進行し、少し歩いても息が切れ、せきなどの呼吸器症状を伴う第3段階では人参養栄湯を処方する。
□ 一日のほとんどを寝て過ごし、下痢や冷えが強く、全身衰弱が進んだ最終段階の患者には茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)を用いる。

総力戦で臨む

 がん専門医の中には、漢方を使うことに否定的な医師もいる。一方で、漢方を用いる医師の中には、西洋医学的な治療を否定し、漢方のみの治療に切り替えるよう勧める医師もいる。星野部長は「がんに対しては“総力戦”で臨まなければいけない。そのため、がん診療専門医は西洋医学と漢方医学の両者の利点と欠点に精通している必要がある」と指摘する。
 ただ、残念ながら西洋医学を基本にした医学教育を行っている日本では、漢方と西洋医学の治療法を十分使いこなせる医師は少ないのが現状で、漢方もできる医師の育成が急務となっている。(平沢裕子)
                   ◇

【用語解説】証(しょう)

 西洋医学ではインフルエンザや高血圧など病名に基づいて薬を処方するが、漢方では患者の「証」を推定して漢方薬を処方する。証は、患者の体質・病状・他覚的な所見を合わせたパターン(類型)のこと。例えば、総合感冒薬は「かぜ」という病名に対する薬だが、漢方では葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、麦門冬湯(ばくもんどうとう)などを体質や症状をみながら使い分ける。よく使われるのが「虚証」と「実証」で、虚証はきゃしゃな体形ですぐ疲れるタイプ、実証はがっしりして元気がありあまっているタイプのことをいう。

(4)“秋バテ”に 西洋薬で治せない症状に対応

2011.10.25

 夏の終わり頃に出てくる夏バテの症状が秋口になってもよくならず、ずるずると引きずる“秋バテ”。
 ダイナメディカル根津クリニック(東京都文京区)の定形(さだかた)綾香院長は「猛暑の後に急に涼しくなるなど寒暖の差が激しかった今年は、秋バテとみられる患者さんの受診が例年より多い」と指摘する。

エネルギー不足

 秋バテは夏バテと同じように、だるい▽疲れやすい▽食欲がない▽食べられない▽やる気が起きない▽寝汗をかく-などが主な症状。夏の終わり頃から症状があったものの、「夏バテかな。涼しくなればよくなるだろう」と放っておき、10月を過ぎても症状がとれないことで、「もしかしたら何か別の病気では?」と心配になって受診するケースが多いという。
 症状があっても血液検査などで異常が出るわけではない。このため、西洋医学では治療の手段がなく、夏バテ・秋バテの西洋薬はない。そもそも夏バテ・秋バテは高温多湿の日本の夏だから出てくる症状といえる。
 人間の体は、暑いときは汗を出すことで体温を下げるようにしているが、湿度が高いと汗が出にくくなり、体温調節がうまくいかなくなる。また、夏は皮膚の血流が増加する分、消化器への血流が少なくなる。その結果、胃の活動が鈍くなり、消化吸収機能が衰える。食欲不振や食べられないなどの症状が出るのはこのためだ。
 さらに、節電で室内温度を例年より高く設定せざるを得なかった今年は、熱中症予防のためもあり、冷たい飲み物やアイスクリームで涼をとった人も多い。冷たい飲み物は、体の中から温度を下げるのに手っ取り早い手段とはいえ、ただでさえ弱っている胃腸を刺激し疲れさせることで、体全体の疲労感やだるさを引き起こすことになる。
 「秋バテは、漢方では『気虚(ききょ)』や『水毒(すいどく)』という状態で、体内をめぐるエネルギーが不足したり、水分を取り過ぎたりすることが原因で起こると考えられている。これらに対応する代表的な漢方薬として補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や六君子湯(りっくんしとう)があるが、症状や体質によって処方は異なるため、自己判断せず、専門医を受診してほしい」と定形院長。

冬も続く?

 補中益気湯は気虚を治す代表的な補剤で、昔から体力や気力をつける薬と考えられてきた。最近では、新型インフルエンザの感染予防にも効果があることが臨床試験で示されている。
 また、六君子湯は胃弱や食欲不振の人に使われ、体力が低下したやせ形の中高年女性に使うとよく効くとされる。この漢方も実際に効果はあっても、なぜ効くのかよく分かっていなかった。しかし、最近の研究で食欲増進に関係のある消化管ホルモン「グレリン」の分泌量を増やすなどの作用があることが分かってきた。
 秋バテは漢方薬で対応できるとはいえ、長い間症状を放置していた場合、どうしても回復に時間がかかる。定形院長は「秋バテのまま冬を迎えると、風邪をひきやすく治りにくいなど体調不良が続くことになる。本格的な寒さになる前の今の時期に、しっかり体を元に戻し冬に備えるようにしてほしい」とアドバイスする。
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【用語解説】医療用漢方薬

 病医院で処方されるのは「医療用漢方製剤」だが、漢方薬は薬局でも買える。例えば、「葛根湯(かっこんとう)」という名前が同じなら、医療用漢方製剤も薬局の漢方薬も成分の構成は同じ。違うのは生薬(しょうやく)(動植物などの天然に存在する薬効を持つ産物から有効成分を精製することなく用いる薬)の量で、医療用の方が多めとなっている。
 医療用漢方製剤は健康保険が適用されるため、基本的には3割負担で済む。保険の対象は148種類。
 市販の漢方薬を使う場合、西洋薬との併用で副作用が起こるものもあり、治療中の病気のある人は必ずかかりつけの医師に相談することが必要だ。

■ 幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」(日経DIオンライン)

蕁麻疹に効く漢方 2011. 7. 21
蕁麻疹の考え方と湿熱型蕁麻疹に効く漢方

 蕁麻疹は、突然発生する皮膚の病変です。なんらかの刺激を受けて発生する場合が多く、赤くふくれる膨疹(ぼうしん)は、とにかくかゆいのが特徴です。ふつうは長くても数時間程度で消えてしまいます。この蕁麻疹、さまざまな原因で生じますが、最近、ストレスによる蕁麻疹が増えているように思います。心配ごとが募ったり、イライラが続いたりすると現れる蕁麻疹です。
 一般に、蕁麻疹は、サバや猫の毛、アスピリンなどによるアレルギー性蕁麻疹、下着のあたるところなどに出る機械性蕁麻疹、紫外線の刺激による日光蕁麻疹、汗などの刺激によるコリン性蕁麻疹、こたつやストーブの刺激による温熱蕁麻疹、冷風や冷たい床との接触による寒冷蕁麻疹などが、よくみられます。
 もうひとつ、このところ多いように思われるのが、心因性蕁麻疹です。ストレスや緊張が大きな負担となると、からだに蕁麻疹ができてしまいます。子どもでもストレスを抱えていることが少なくないようで、このタイプの蕁麻疹にかかる場合があります。
 以上は、原因別にみた蕁麻疹の種類です。西洋医学では、どのタイプの蕁麻疹に対しても抗ヒスタミン剤や抗アレルギー薬を処方するのが一般的ですが、漢方では、蕁麻疹の根本原因である患者さんの体質、つまり「証」に合わせ、さまざまな漢方薬が処方されます。
 いちばん多いのが、体内に熱や湿気が過剰に存在している体質です。証は、「湿熱(しつねつ)」証です。熱も湿気も健康の維持には適量必要なものではありますが、それが多すぎると体調不良や病気の原因となります。
 そして最近増えているのが、「気滞血瘀(きたいけつお)」証です。気や血の流れがわるい体質です。ストレスや緊張、不安、イライラなど精神的な要因の影響で、蕁麻疹が生じます。
 「気血両虚(きけつりょうきょ)」証の蕁麻疹もあります。疲れたときに、蕁麻疹が出やすいのが特徴です。
 寒冷蕁麻疹の場合は、上のいちばん多いタイプとは逆に、冷えが体調悪化に影響しやすい体質です。冷えと余分な湿気が体内に存在する「寒湿(かんしつ)」証です。
 以上のような体質の人に、なんらかの刺激が引き金となって、蕁麻疹が発生します。

 蕁麻疹という病変そのものは「風邪(ふうじゃ)」です。急に生じたり変化したりする病変を風邪といいます。蕁麻疹が出ているときは、この風邪に対処した処方も必要となります。
 一回きりの蕁麻疹や、ごくまれに蕁麻疹が出る程度でしたら抗ヒスタミン剤で対処できますので、漢方薬のお世話になることは少ないでしょう。しかし、蕁麻疹の原因を特定できる場合はそれほど多くなく、実際には原因不明の蕁麻疹が全体の7割以上といわれています。再発を繰り返す場合は、漢方薬で体質改善するといいでしょう。
 基本的には上記の証に合わせて漢方薬で体質改善をすすめつつ、蕁麻疹が発生したときには風邪(ふうじゃ)に対応した漢方処方を服用する、というやり方がいいのかもしれません。しかし現実的には、蕁麻疹発生時のかゆみや発赤の改善には西洋薬を使い、蕁麻疹が繰り返し生じるという事態を根本的に改善していくために漢方薬を飲む、という方法が効果的な薬の使い方だと思われます。

症例1
「学生のころから、ときどき蕁麻疹が出ます。魚介類や紫外線など、とくに思い当たる特定の原因はないのですが、なんとなく鮮度のよくないものを食べたときや、疲れがたまっているとき、汗をかいたときなど、さまざまな要因が重なり合ったときに出るような気がします。赤い蕁麻疹が全身に発生して、かゆくてたまりません」

 汗の刺激、着ている洋服の化学繊維の刺激、季節の変わり目などの要因も関係しているかもしれません。最初は、腕の内側や太ももの内側など、軟らかいところに赤いポツポツとしたものができます。そのうち、赤くふくらんだ部分がつながって地図状に広がることもあります。強いかゆみとともに、ほてるような熱感があります。口が苦く、ねばるような感覚があります。舌を見ると、濃い赤色をしていました。舌の表面には、黄色い苔がべっとりと付着していました。このところ頻繁に発生するので、なんとかしたい、とのことです。
 膨疹が赤い、かゆみが強い、舌苔が黄色い、などの症状から、蕁麻疹の背後に「熱邪(ねつじゃ)」の存在が考えられます。また、蕁麻疹のふくらんだ部分が地図状に広がる、舌苔がべっとりしている、などの点から、「湿邪(しつじゃ)」も関係しています。これら両方の病邪を合わせて「湿熱」といいます。
 湿熱の場合、口がねばる、口が苦い、口が渇く、食欲不振、吐き気、便秘あるいは下痢、ねっとりとした便が出る、すっきりと排便しない、尿の色が濃い、イライラしやすい、などの症状がみられます。いずれも、湿っぽく、熱っぽい症状です。
 湿熱タイプの蕁麻疹には、清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)や小柴胡湯(しょうさいことう)が使われます。これらの漢方薬で、過剰な熱や湿気を捨て去ります。この患者さんには清上防風湯を飲んでもらいました。
 効果は、すぐにあらわれました。漢方薬の服用をはじめてから、ぴたっと蕁麻疹が出なくなりました。
 一般に、アレルギー性蕁麻疹、機械性蕁麻疹、日光蕁麻疹、コリン性蕁麻疹、温熱蕁麻疹の人には、この体質の場合が多くみられます。
 この証に用いられる処方はいくつかあり、もし熱邪のほうが湿邪よりも勢いが強いようなら、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などの処方が効果的です。逆に湿邪のほうが熱邪よりも強いようなら、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)あたりの処方が適しています。蕁麻疹の状態や、それ以外の患者さんの自覚症状を細かく聞き取って判断してください。

症例2
「就職活動をするようになってから、蕁麻疹が出るようになりました。ときどき急に全身がかゆくなり、掻いた部分にみみずばれができます。イライラしたり、将来のことが不安になったりすると、かゆくなるような気がします」

 蕁麻疹は、イライラしたときや、心配ごとがあるときだけでなく、緊張が続いているときや、逆に緊張がとれて一安心したときにも発生します。一日のうちでは、夜間に出ることが多いように思います。蕁麻疹は、やや黒っぽい赤色をしており、下着で圧迫されるような場所にできやすいようです。繰り返し同じ場所がかゆくなり、同じ場所をかいているうちに、色素沈着が生じて肌が褐色になっているところもあります。舌は暗紅色をしています。
 この女性は蕁麻疹以外にも、就職活動をするようになってから、生理痛もひどくなりました。頭痛や肩こり、便秘、不眠などの症状も出ています。希望する就職先からなかなか内定が出ないストレスが原因だと思っていたようですが、ストレスがこんなに体調に影響するものだとは知りませんでした。
 この患者さんの証は、「気滞血瘀(きたいけつお)」証です。気の流れがよくない気滞症と、血(けつ)の流れがわるい血瘀証の両方を兼ね備えた証です。ストレスや緊張、不安、イライラなど精神的な要因の影響で、蕁麻疹が発生しています。
 気と血とは関係が深く、「気は血の帥(すい)、血は気の母」といわれています。気は血に滋養してもらって、初めてじゅうぶん機能し、また血は気の働きによって、初めて全身をめぐることができるからです。したがって、どちらかの流れがわるくなると、もう一方の流れもわるくなり、気滞血瘀証が生まれます。
 この証の場合は、気血の流れをサラサラにすることにより、根本的な病気の治療を進めます。処方は、加味逍遙散(かみしょうようさん)や、理気処方と活血処方とを合わせて処方します。加味逍遙散は、理気処方としてよく使われますが、補血作用がある当帰(とうき)や芍薬といった生薬が配合されており、血の流れを調整する働きもあります。
 この患者さんの場合は、補血する必要がなかったので、加味逍遙散ではなく、理気作用の強い四逆散(しぎゃくさん)と、活血作用の強い桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を合わせて服用してもらいました。結果は良好でした。

症例3
「蕁麻疹が、繰り返し発生します。病院では、慢性蕁麻疹と診断されました。薬を飲むと症状は治まりますが、しばらくすると再発します。食べ物のアレルギーかもしれないと思い、気にしていますが、とくに食べ物との関係はないようで、疲れたときに出やすいと思います」

 もともと疲れやすく、元気のないタイプです。胃腸は丈夫ではなく、軟便ぎみで、食欲もあまりありません。生理の量も少なめです。肌は乾燥ぎみで、つやがありません。蕁麻疹の色は薄めの赤色です。舌をみると、赤みが薄く、白っぽい色をしていました。
 元気がない、疲れやすい、などの症状から、この人の証は「気虚(ききょ)」です。同時に、肌につやがなく乾燥していることや、生理の量が少ないことなどから、「血虚(けっきょ)」証でもあります。すなわち、この人の証は「気血両虚(きけつりょうきょ)」証です。
 先の症例2で、気と血とは関係が深いという話をしました。症例2は、それぞれの流れがわるくなって体調が悪化したケースですが、今回は、それぞれの量が不足して病気になった例です。
 こういう場合は、漢方薬で気血を補って、慢性蕁麻疹を治していきます。代表的な処方は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。
 補中益気湯は、補気処方として多用される処方ですが、なかに補血薬の当帰が配合されています。この処方は、気血の相互関係にもとづいて組まれた処方といえます。したがって、今回の場合、補中益気湯だけを服用してもらいました。もし、乾燥がすすみ、かゆみが強いようなら、補血作用を強めるために、四物湯(しもつとう)などを一緒に飲んでもらうといいでしょう。
           *      *      *
 蕁麻疹、とくに慢性蕁麻疹は、西洋薬と漢方薬を併用することで治療効果を高めやすい病気です。膨疹やかゆみを抑える対症療法は抗ヒスタミン剤などの西洋薬を使い、根本的なアレルギー体質の改善には漢方薬を用いて、慢性蕁麻疹の根治を図るといいでしょう。
 なかには、長期間にわたり西洋薬の服用を続けており、早く西洋薬をやめたいという気持ちから、漢方の服用をはじめると同時に自己判断で西洋薬の服用をやめてしまい、症状を悪化させてしまう人もいます。対症治療の効果については、漢方薬は抗ヒスタミン剤などに大きく及びませんので、そのあたりはきちんと患者さんに説明をして、両方を併用してもらってください。

アトピー性皮膚炎に効く漢方
アトピー性皮膚炎の考え方と陰液を補う漢方処方

 アトピー性皮膚炎は、漢方薬が処方されることが多い疾患のひとつです。ステロイド外用薬での治療中、ある程度症状が落ち着いてきたときに、「治った」と思って薬を中断し、その結果また症状が悪化する、ということがよくあります。そういう再発を繰り返すうちに、アトピー性皮膚炎を根本的に治したい、体質改善をしたい、と思うようになり、漢方薬にたどり着く人が多いように思います。
 この病気の特徴は、かゆみが強いことです。寝ているあいだにも無意識に患部をかいてしまうので、皮膚の状態がわるくなり、皮膚炎が悪化します。この悪循環を断たないと、アトピー性皮膚炎はなかなか治りません。
 かゆみの原因は、主に皮膚の乾燥、および皮膚のバリア機能の低下です。バリア機能というのは、外界からの刺激に対して皮膚が人体を守る免疫機能のことで、皮膚の重要な役割のひとつです。
 アトピー性皮膚炎の人は、そのバリア機能が低下している、つまり皮膚がデリケートで敏感になっているようです。皮膚の一番外側にある角質層がもろくなっており、ちょっとした刺激ですぐに皮膚の末梢神経が反応するような状態です。そこにハウスダストやダニ、ほこり、花粉、細菌、排気ガス中の化学物質などが付着すると、過敏に皮膚が反応して、炎症が生じてしまいます。
 さらにわるいことに、炎症そのものがバリア機能をさらに低下させます。したがって、ますます外気の刺激に過剰に反応し、皮膚炎が悪化しやすくなります。
 アトピー性皮膚炎の症状は、さまざまです。肘の内側や膝の後ろが、冬の乾燥や夏の汗の刺激でかゆくなる軽度のものから、朝起きるとシーツにむけた皮膚の断片がたくさん落ちるほど皮膚の落屑(らくせつ)が激しい人、全身の皮膚が象の皮のようにごわごわと硬く赤黒くなっている人など、多種多様です。
 このような症状に対し、漢方は、重症だから強い薬、軽症だから弱い薬という選び方をするのではなく、ほかの病気と同様、患者さんの体質に合わせて処方を判断します。
 基本的な体質は、「陰虚(いんきょ)」体質です。体液が不足しており、肌が乾燥し、刺激に対して敏感になっています。アトピー体質と深い関係にあります。漢方は、そのアトピー体質そのものの改善を図ろうとする薬です。
 漢方では「気」の流れや量を重視しますが、気の機能のひとつに「防御作用」があります。体表を保護して、病邪が体内に侵入してくるのを防ぎます。この気を「衛気(えき)」といいます。
 バリア機能は、衛気そのものです。衛気が不足すると、バリア機能が低下します。アトピー性皮膚炎の人は、衛気が弱っているといえます。
 陰虚症になると、この衛気の働きが弱くなります。陰虚以外にも、気虚や血瘀(けつお)、血虚、血熱、湿熱など、さまざまな証で、衛気の不足と関連し合いながら、アトピー性皮膚炎が生じます。今回は、それらのうちのいくつかを症例で紹介します。

症例1
「10年前に一人暮らしを始めたころから、アトピー性皮膚炎になりました。顔や首が乾燥して赤くなっています。かゆみがいつもあり、とくに夜になるとひどくなります。仕事をしており、人前に出ると気になるので、ステロイド外用薬を使っています」

 28歳の女性です。ステロイドは6年ほど前から使用しています。塗ると症状が軽くなりますが、塗るのをやめると再発します。顔や首は赤黒く、乾燥して皮膚が厚くごわごわしており、一見してアトピーとわかる状態です。
 アトピー性皮膚炎で皮膚の乾燥が進んでいる人は、皮膚に必要な水分や養分が十分供給されていない体質です。必要な水分や養分がないために、衛気の活動が潤滑に行われていません。
 このように水分や養分が不足している体質を、「陰虚」証といいます。皮膚が乾燥してデリケートになっているので、かゆみが激しいのが特徴です。とくに夜間にかゆみがひどくなる傾向があります。そのほかに、皮膚がざらつく、細かく小さな皮膚片がはがれ落ちやすい、皮膚が厚くなり、しわが目立つ、などの特徴があります。いずれも水分や養分が皮膚にじゅうぶん供給されなかった場合にみられやすい症状です。水分が足りないので、熱がこもったようになります。
 こういう場合は、水分や栄養などの陰液を補う漢方薬で「滋陰(じいん)」して、体質改善をすすめます。代表的な処方は、六味地黄丸(ろくみじおうがん)です。
 この女性の場合は、顔の赤みやかゆみがひどかったので、最初のうちは、そのような熱の症状を緩和する効果のある黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を少し併用しました。ただし、黄連解毒湯には、からだを乾燥させる働きがあります。その結果、アトピー性皮膚炎を悪化させてしまう心配がありますので、注意深く患者さんの状態をみながら処方量を調整する必要があります。
 女性は、一人暮らしを始めてから外食が増え、間食やインスタント食品も増えたとも話していました。そういう食生活の乱れが体質悪化の原因と思われます。体質形成には食事が大事であることを話し、食生活を見直してもらいました。からだにいいものを食べていれば、いい体質が作られ、変なものばかりを口にしていれば体質もわるくなるのは、当然といえます。からだは、自分が食べたものでできています。
 現在1年半ほど経ちましたが、皮膚のごわごわはなくなり、赤黒かった色も消えました。すでに1年近くステロイド外用薬を塗ることはほとんどなく、保湿剤として馬油のみを必要に応じて塗るだけでコントロールできる状態になりました。

ストレス性のアトピーや子どものアトピーと漢方

症例2
「高校のころからアトピー性皮膚炎です。大学受験のころに悪化し、大学に入って症状が軽くなりましたが、就職活動の時期にまた悪化しました。現在は、首や腕、とくに手首のあたりに、アトピーの症状が出ています」

 32歳の男性です。子どものころ、アトピーはありませんでしたが、高校3年の受験勉強の時期に強烈なかゆみをともなう皮膚炎が出るようになり、アトピー性皮膚炎と診断されました。大学入学とともに症状は軽くなりましたが、また就職活動の時期に症状が悪化しました。患部の皮膚は乾燥し、赤くただれていました。
 現在は、首や手首の皮膚が乾燥して硬くなっています。皮膚がぽろぽろと、はがれ落ちやすく、お風呂上りやお酒を飲んだとき、疲れのたまったときなどに、かゆみが強くなります。しわにそって出血もみられます。赤黒い色をしています。就職後は、職場のエアコンによる乾燥や、人間関係による緊張のせいだと思われますが、症状はあまり軽快しないまま現在に至っています。
 この男性の場合は、気血(きけつ)の流れの悪化がアトピー性皮膚炎の原因になっているようです。気血の流れの停滞が、衛気の働きにブレーキをかけています。
 「気」の流れは、ストレスや緊張、不安などの精神的な要因の影響で悪化します。この男性のように、受験勉強や就職活動の時期にアトピー性皮膚炎を発症、あるいは悪化させる人は少なくありません。子どもの場合だと、親にしかられているときに、かゆみが増して、患部をかいてしまう子をみかけます。いずれも気の流れの停滞がアトピー性皮膚炎を悪化させている例です。
 「血(けつ)」の流れがよくない体質の場合は、患部の色素沈着がなかなかとれず、肘の内側や膝の裏が黒ずんでいます。ステロイド剤を長期間使った影響で、皮膚が薄くなったうえに、この体質になる人もいます。
 このような体質を「気滞血瘀(きたいけつお)」証とよびます。気や血の流れがわるいので、首や手首などの狭くなっている部分や、肘の内側や膝の裏などの曲がっているところに皮膚炎が生じやすくなっています。血行がよくないので、女性なら生理痛がつらい人が少なくありません。
 漢方では、「理気活血(りきかっけつ)」して、この体質を改善していきます。理気のためには四逆散(しぎゃくさん)や加味逍遙散(かみしょうようさん)、活血のためには桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を使います。
 この男性の場合は、ずいぶん経緯が長いので、桂枝茯苓丸と四逆散を服用してもらいました。病気が長引いている場合は、かならず血瘀を疑ってみるといいでしょう。1年以上かかりましたが、アトピー性皮膚炎はきれいになくなりました。

 次は、子どものアトピーの症例です。

症例3
「3歳の女の子です。この子は生まれてすぐにアトピーになり、0歳のころは、ほっぺたを中心に顔全体が赤くただれていました。いまは顔よりも肘の内側や膝の裏がひどく、寝るときや夜中に無意識にかくため、出血も目立ちます。皮膚炎の出ていない背中などの皮膚も、ざらざらしています」

 母親が娘を連れてきました。肘の内側と膝の裏は、かなりかきむしっているようで、かき壊した出血のあとが点々とありました。皮膚は赤くただれています。首にも同じような症状が出ており、皮膚が厚くなっています。耳の下が切れています。
 アトピー以外には、食欲に片寄りがあり、便が柔らかくねっとりしているとのことです。甘いものが好きで、甘いお菓子などをよく食べるそうです。
 子どもは、一般に、消化器系がまだ発達していません。子どものアレルギー疾患には、この消化吸収機能の弱さが多かれ少なかれ関係しています。この体質を「脾気虚(ひききょ)」といいます。「脾」は五臓のひとつで、消化吸収機能や代謝機能をあらわします。
 こういう場合は「補気建碑(ほきけんぴ)」して、おなかから丈夫にしていきます。処方は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や六君子湯(りっくんしとう)がよく効きます。この子には、補中益気湯を飲んでもらいました。
 煎じ薬が苦いのか、飲むのをいやがっている、と母親から相談がありましたので、エキス剤をお湯に溶かしてゼリーにしてもらいました。そうすると、服用するようになったそうです。
 子どもの場合は大人よりも治りが早い場合が多く、この子も約半年で完全に治り、漢方薬も必要なくなりました。
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 アトピー性皮膚炎は、職場の複雑な人間関係、多忙な生活、不安定な家庭環境、不規則な生活、食生活の乱れ、不安や悩みなどによっても悪化します。とくに子どもの場合は、家庭環境、さらに保護者自身のストレスにも敏感に反応して、かき始めたりします。ほかの病気にもいえますが、とくにアトピー性皮膚炎は、日常生活の見直しが、とても大切です。漢方薬の服用と並行して、食生活改善のアドアイスを、患者さんに一言、添えるといいでしょう。チョコレートをはじめとする動物性脂肪やファストフード、インスタント食品は、少ないに越したことはありません

過敏性腸症候群に効く漢方
過敏性腸症候群の考え方と処方例

 快食、快眠、快便は元気のバロメーターだとよく言われます。おいしく食べて、ぐっすり寝て、すっきり排便できていれば、まずは健康だと言えるでしょう。毎日、朝の目覚めがさわやかで、三度の食事の前にはちゃんとおなかがすいて、健康的なウンチがスキッと出てくれれば、体調だけでなく、気分も爽快です。
 ところが腸の調子がよくないと、バナナ状のウンチがスッキリと出る……とはなかなかいきません。慢性的に下痢ぎみだったり、逆に便秘症でコロコロとウサギの糞のような便しか出なかったり、あるいはガスがたまって下腹がパンパンに張ってしまったり。
 過敏性腸症候群(IBS)は、腸、主に大腸の運動や分泌の機能異常により生じる病気の総称です。検査をしても一般に異常は見つかりませんが、便通や下腹部の不調が現れます。通勤や通学の途中でお腹が痛くなって途中下車する、いつ下痢に襲われるか心配で急行電車に乗れない、会議中や授業中にお腹が痛くなるなど、生活や仕事に支障をきたす場合も少なくありません。
 一般には症状によって交替型(不安定型)、下痢型、便秘型、ガス型、分泌型などに分類されます。交替型は下痢になったり便秘になったりするタイプで、分泌型とは強い腹痛のあと粘液が排泄されるタイプです。
 現代医学的には、腸の運動をつかさどる自律神経系の異常や、精神的なストレス、不安、過度の緊張などが原因と考えられています。暴飲暴食やアルコール類の飲みすぎ、喫煙、不規則な生活、過労などが原因となる場合もあります。大腸の蠕動(ぜんどう)運動が盛んになりすぎたり、大腸が痙攣したりしてしまうと、下痢や便秘、ガスがたまるといった症状が現れます。
 漢方では、過敏性腸症候群になりやすい証(しょう)には、主に以下のようなものがあると考えています。
 一つ目は「脾気虚(ひききょ)」証です。消化器系の機能が弱い体質です。体力的にも丈夫でない人が多く、ちょっとしたことで下痢や便秘になりやすいタイプです。消化不良ぎみです。こういう体質の人には、胃腸機能を丈夫にする漢方薬を使って治療を進めます。
 二つ目は「脾胃不和(ひいふわ)」証です。ストレスや、食生活の乱れ、冷えなどの影響で、下痢や吐き気が生じやすくなっている体質です。ちょっとしたストレスや刺激でも胃腸が変調を起こしやすい体質なので、こういう場合は漢方薬で鎮静、整腸、健胃していきます。
 三つ目は「肝気横逆(かんきおうぎゃく)」証です。ストレスや情緒変動の影響で気の流れが悪くなっています。そのために自律神経系が失調しやすく、便秘や下痢が生じやすくなっています。漢方薬で気の流れを調えて治療していきます。
 四つ目の証は「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」といいます。もともと消化器系が丈夫でないために肝(自律神経系など)の機能を制御できず、ちょっとした緊張や不安で体調を崩しやすい体質です。心身のバランスが安定しにくい体質ともいえます。漢方では、消化器系の機能を高めつつ、ストレスを和らげていきます。

 まずは「肝気横逆」証で交替型の過敏性腸症候群の症例からみていきましょう。

■症例1
「お腹の具合が良くなく、下痢と便秘を繰り返します。常に腹部に不快感があり、下痢に悩まされる日が何日間か続いたと思うと、今度は便秘になります。しばらく便秘の状態が続いたあと、また下痢になります」

 下痢のときは、急にお腹が痛くなって下痢になります。便秘のときは、お腹が張って苦しい状態が続きます。排便したくてもなかなか出ません。やっと出ても、コロコロとしたウサギの糞のような便が申し訳程度に出るだけで、残便感がのこります。
 普段からストレスを感じやすくてイライラしやすく、ストレスが強いときに便通の調子も良くないように思います。
 この人の証は「肝気横逆」です。ストレスの影響を受けて気の流れが滞っており、そのために自律神経系が不安定になっています。その影響で大腸の蠕動運動が盛んになったり衰えたり、あるいは大腸が痙攣したりして便秘や下痢が生じ、交替型の過敏性腸症候群になっているようです。過敏性腸症候群で一番多くみられる証だと思われます。肝(かん)は五臓六腑のひとつで、自律神経系や情緒をつかさどる機能です。
 このような場合は、漢方薬で気の流れを調えていきます。気の流れが落ち着けば自律神経系も安定し、便通も安定していきます。
 この証に用いる代表的な処方は逍遙散(しょうようさん)です。イライラや、怒りっぽいなど、熱証が強いようなら、加味逍遙散(かみしょうようさん)がいいでしょう。
 この人には加味逍遙散を服用してもらいました。4カ月ほどで下痢の症状がなくなりましたが、まだときどきコロコロした便が出るとのことでしたので、それ以降は四物湯(しもつとう)を一緒に飲んでもらい、その3カ月後にはすっかり体調がよくなり、漢方薬もやめてもらいました。
 過敏性腸症候群で便秘をしている場合は、大腸の動きが弱っている場合が多いので、一般の下剤を使っても排便せず、かえっておなかが痛くなるだけに終わる場合もあります。通便作用がある地黄(じおう)や当帰(とうき)を含む四物湯あたりでやさしく対応してみるといいでしょう。逆に下痢ぎみならば、五苓散(ごれいさん)などを少し併用する場合があります。

下痢型やガス型の過敏性腸症候群への漢方

■症例2
「下痢型の過敏性腸症候群に悩まされています。ちょっとした緊張や不安でお腹が痛くなり、すぐトイレに行きたくなります。電車のなかや会議中など、いつどこで便意を催すかわからないので心配です」

 この患者さんは、もともとそれほど胃腸は丈夫ではありませんでしたが、大学受験のときにプレッシャーで頻繁に下痢をするようになりました。試験前や試験中にお腹が痛くなり、すぐ便意を感じることが多くなりました。就職してからも、通勤電車のなかで急に腹痛に襲われることが多く、我慢できずに途中下車して駅のトイレに行くことがしばしばあります。
 休日は、何ともありません。ふつうの便が出ます。寝ている間も腹痛は起こりません。便意で目覚めることもありません。
 この人の場合、緊張や不安、ストレスなどによる心理的な動揺が、下痢をする、しないという体調の変化に大きく影響しているのが特徴です。会社のストレスをあまり感じない休日や、ストレスを忘れていられる夜間には下痢になりません。
 漢方では、心と体の関係を重視します。例えば五臓の肝(かん)は、肝臓だけでなく、自律神経系や情緒活動をつかさどる機能ですが、この肝の機能バランスが失調すると、情緒不安定、イライラ、憂うつ感、めまいなどの症状がよく出現します。
 この人は、肝の状態が不安定なようです。それが、もともと丈夫でないという消化器系をつかさどる五臓の脾の機能を低下させ、ちょっとした緊張や不安で下痢しやすい体質になっているのでしょう。
 このような証を「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」といいます。もともと消化器系が丈夫でないために肝の機能を制御できず、ちょっとした緊張や不安で体調を崩しやすい体質です。心身のバランスが安定しにくい体質ともいえます。
 こういう場合、漢方では消化器系の機能を高めつつ、ストレスを和らげていきます。処方は、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)などを使います。桂枝湯の芍薬の配合量を増やした処方ですが、そうすることにより、消化吸収機能を高めつつ、自律神経系を安定させてくれます。
 もし、疲れやすい、食欲にムラがあるなどの症状があれば、小建中湯(しょうけんちゅうとう)がいいでしょう。これは桂枝加芍薬湯に膠飴(こうい)を加えた処方で、消化吸収機能がさらに補われます。

子宮内膜症に効く漢方
気血(きけつ)の流れの改善を目指す

 子宮内膜症は、もともと子宮の内側にしか存在しないはずの子宮内膜が、卵巣や子宮の外側などにもできてしまう病気です。その部分が生理の度に、普通の生理と同じように、剥がれては出血を繰り返すため、次第にお腹のあちこちで炎症や癒着が生じてきます。
 激しい生理痛が主な症状ですが、ホルモン療法や外科手術を受けても再発しやすく、生理の度に痛みが強くなる場合も多く、患者さんの中には「体質から改善したい」と漢方薬を服用する人が増えています。
 漢方では、子宮内膜症は気血(きけつ)の流れが悪い体質の人に生じやすい病気と捉えています。気血の流れの停滞は、痛みや出血、炎症と深い関係にあります。冷え症などとも関係があります。

 子宮内膜症になりやすい証(しょう)には、主に以下のようなものがあります。
 一つ目は「血瘀(けつお)」証です。血(けつ)の流れが悪い体質です。「卵巣がはれている」「チョコレート嚢胞(のうほう)がある」と病院で言われた人には、この血の流れが悪い体質がよく見られます。血とは血液や栄養のことです。こういう場合は漢方薬で血の流れをサラサラにして治療を進めます。
 二つ目は「気滞(きたい)」です。精神的なストレスや過度の情緒変動が気の流れを阻害し、その結果、子宮内膜症が発生・悪化します。免疫系やホルモン内分泌系の機能の異常とも関係しています。この場合は漢方薬で気の流れを改善することで、子宮内膜症を治療していきます。
 三つ目は「血虚(けっきょ)」の証です。癒着などの影響で血液や栄養が十分に行き届かなくなると、痛みや炎症が生じます。漢方薬で血を補い、病態の改善をしていきます。
 四つ目は「寒邪(かんじゃ)」、つまり冷え症の体質です。冷えは、痛みや免疫力低下、炎症の拡大、婦人科系の機能の低下との関係が深いので、子宮内膜症の悪化の原因となります。お腹を温めると楽になるという人は、漢方薬で冷え症の改善を進めます。
 これら以外に自律神経系や生殖機能と関係が深い五臓の「肝(かん)」や「腎」の機能が乱れた証や、体液の流れがよくない「痰飲(たんいん)」の証などもみられます。

 子宮内膜症を悪化させる要因として、不摂生な生活、過労、睡眠不足、喫煙、大気汚染物質や食品添加物などの影響もあるといわれています。いずれも気や血の流れを悪くして、上記のような体質につながっていくものと思われます。
 まさに現代人は子宮内膜症にかかりやすい環境に生きているといえますが、日常生活ではできるだけ悪化要因を遠ざける努力も必要でしょう。

気血(きけつ)の流れの改善を目指す

 まずはチョコレート嚢胞がある子宮内膜症の症例をご紹介しましょう。

■症例1
「もともと生理が重い方でしたが、ここ数年、生理痛がさらにひどくなってきました。市販の鎮痛剤が効かないこともあり、心配になって婦人科を受診したところ、子宮内膜症と診断されました。右の卵巣に5センチ大のチョコレート嚢胞があるとのことで、手術をすすめられています」

 31歳の女性です。生理前から重い下腹部痛があり、生理が始まると同時に激しい痛みに襲われます。冷や汗が出るほどの痛みです。生理3日目くらいまではレバー状の血のかたまりが混じりますが、それを過ぎると出血量が少なくなり、生理痛も楽になります。
 生理の周期は28日で安定しています。生理痛以外には、便秘、手足の冷え、のぼせ、肩こりなどの症状があります。
 チョコレート嚢胞は卵巣内の血の塊です。子宮内膜が卵巣の内部にできると、普通の生理と同じような子宮内膜の増殖と出血が卵巣のなかで繰り返され、次第にその部分に血がたまっていきます。それが古くなるにつれて茶色い粘稠なチョコレート状になるため、チョコレート嚢胞とよばれています。チョコレート嚢腫(のうしゅ)とよばれることもあります。大きさが5センチを超えて破裂や茎捻転の可能性が高い場合は手術が勧められます。
 この女性の証は「血瘀(けつお)」証です。血(けつ)の流れが滞ることにより、生理痛が生じ、チョコレート嚢胞が発生しています。手足の冷え、のぼせ、生理が始まると同時に発生する激痛、レバー状の血の塊、肩こりなども、血流の停滞による症状と考えられます。
 このような場合は、血の流れを改善する漢方薬で体質改善をすすめます。桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)が代表的な処方です。
 この女性の場合は、漢方薬の服用を始めてから3回目の生理あたりから生理痛が楽になりました。レバー状の血の塊もほとんど出なくなりました。チョコレート嚢胞は2センチまで小さくなり、手術はしないで経過観察をすることになりました。
 もし、のぼせや便秘がひどい場合は、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)がいいでしょう。逆に、軟便、食欲不振などの症状があれば、芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)などの処方を使います。

■ 漢方・鍼灸(2010年11月:読売新聞の特集)

(1)原因複雑で慢性 得意分野

 横浜市の北脇節子さん(88)は70歳代の半ばから腰痛に悩み、整形外科でほぼ毎週、痛み止めの注射を繰り返していた。
 今年亡くなった夫の認知症が悪化した2005年ごろ、介護のイライラや不安が募るにつれ、北脇さんの腰痛もひどくなった。
 痛み止めの注射もきかず、痛みでいすに座れないため食事もろくに取れない。食欲も落ち、眠れなくなった。医師には「年だから仕方ない」、「心の問題」とさじを投げられた。
 06年春、昭和大横浜市北部病院(同市都筑区)のペインクリニック外来を受診した。痛み治療の専門外来で、局所麻酔薬の注射や、ひざや腰を動きやすくする理学療法、飲み薬や張り薬などによる治療を行う。
 北脇さんのように痛みが長く続き、不眠やイライラなどほかの症状もある場合は、注射や鎮痛薬だけでは症状を抑えることが難しいことがある。同外来の世良田和幸さん(麻酔科教授)は、こういった場合、漢方や針治療を積極的に活用している。
 漢方は、「気(生命のエネルギー)」、「血(栄養を運ぶ液体)」、「水(血以外の体液)」がバランス良く、全身を滞りなく流れることで健康が保たれるという考えが基本になっている。患者の訴えを聞き、舌や脈、おなかの状態を診察して、1人1人の状態に合った薬を選ぶ。
 世良田さんが診たところ北脇さんは気や血の巡りが悪く、冷えの症状があった。胃腸も弱り、足もむくんでいた。慢性痛の患者は、長引く緊張や、非ステロイド系消炎鎮痛薬の長期使用で、胃腸の働きが悪くなっていることが多い。
 北脇さんはまず、血行を良くし冷えをとる「疎経活血湯」と、胃腸の調子を良くする「麦門冬湯」、むくみをとる「六味丸」を使った。症状の変化に応じて漢方の種類を変え、半年間治療を続けた。
 治療前は、朝起きるなり、同居の長女(56)に「痛い、痛い」と訴えていたのが、2週間目ごろから精神的にも落ち着き、座って食事ができるほどにまで痛みも軽くなった。その後も、かゆみや痛みなど体の不調を感じると、世良田さんの外来で漢方治療を受けている。
 世良田さんは、「漢方にはいわゆる『鎮痛薬』と呼ばれる薬はないが、体質を整えることで痛みを楽にする。原因が複雑で様々な症状を伴う慢性痛の治療は、漢方が得意とする分野です」と話している。

(2)打撲、骨折に早く効く

 漢方の効き目は穏やかでゆっくりとしたイメージだが、打撲や骨折による急な痛みに対し、すぐに効果を発揮するものもある。
 東京都北区の主婦(77)は2008年5月、自宅の台所で転び、床に置いた缶ビールのパックに、右の脇腹を強く打ち付けた。お尻も床で強く打った。
 声も出ないほどの痛みで、しばらく起きあがれなかった。連休中だったため、湿布薬を張って様子をみたが、痛みは引かず、打った場所は青くなってきた。衣服が触れただけでも痛むため、緩いゴムのズボンで過ごし、連休明けに近くの赤羽牧洋記念クリニック(東京・北区)を受診した。
 打撲による痛みには、非ステロイド系消炎鎮痛薬の飲み薬や張り薬、腫れを抑える飲み薬(消炎酵素剤)を一般に使う。
 漢方を積極的に取り入れている同クリニックでは主に、漢方の「治打撲一方」を用いている。
 打撲の場合、腫れによる炎症に加え、内出血が長引くと、血が滞って痛みが慢性化しやすい。「治打撲一方」には、内出血をひかせる作用のある「川骨」や便の排出を促す「大黄」など7種類の生薬を含む。血の巡りを良くすることで内出血をひかせる働きがある。
 主婦は「治打撲一方」を1日3回服用した。翌日ぐらいから痛みが軽くなり、5日後の診察では、腫れが引いているのが確認できた。普段通り、ぴったりしたジーンズもはけるようになった。今は「痛みは全く残っていません。毎日自転車で元気に出かけています」と笑顔で話す。
 一見してわからない程度の軽い打撲であれば、血流を良くする「桂枝茯苓丸」を使う。ひどい内出血を伴うほどの強い打撲の場合は、「大黄」を多く含む「通導散」や「桃核承気湯」を用いることもある。
 また、骨折している場合には、これらに加え高齢者の滋養強壮に用いられる「八味地黄丸」を併用することが多い。
 このほか、突然ふくらはぎがけいれんする、こむら返りには、「芍薬甘草湯」で、痛みが早く引く。
 なお、治打撲一方や通導散、桃核承気湯は、「大黄」の副作用で、下痢を伴う場合がある。
 同クリニック副院長の東儀洋さん(整形外科医)は、「けがの痛みに漢方を使えば、鎮痛だけでなく、回復も早くなる傾向があります。症状を長引かせないためには、けがの直後から漢方を使うのが望ましいでしょう」と話す。

(3)「心地よい刺激」 ひざ楽々

 神奈川県厚木市の主婦(64)は、ひざの軟骨がすり減って痛む変形性ひざ関節症に悩んでいた。整形外科で、ひざの骨の動きをなめらかにするヒアルロン酸注射や水を抜く注射を定期的に受けるが、すぐにまた水がたまってしまっていた。肩こりもひどい。
 2007年6月、別の病気で市内の病院を受診した際に、医師で針きゅう師の資格も持つ東海大病院講師(東洋医学科)の荒井勝彦さんを知った。同年11月から伊勢原市の同大病院鍼灸外来へ、通院を始めた。
 針きゅうは、針やお灸を使い、症状に応じたツボを刺激する。使う針の太さや刺す場所、深さなどは様々ある。
 この主婦は2週間に1回1時間、針治療を受けている。ひざの周囲や頭頂部、肩に、直径0・2ミリの細い針を、深い場所では2、3センチの深さまで刺す。針に電極のクリップを止め、弱い電気(低周波)を流したり、電気の熱で温めるお灸を使ったりすることもある。
 針は使い捨てで、太さは、採血に使う注射針の5~10分の1ほど。まず刺したい場所にプラスチックの管を当て、その中に針を通して刺す。
 「当たっているかしらと感じる程度の心地よい刺激」と、主婦。以前は歩くと、ひざがむくんで痛みが増し、外出もおっくうだった。今はむくむことがなく、電車に乗って映画も見に行けるようになったという。整形外科への通院は4週間に1回に減った。
 荒井さんによると、針きゅう治療は、針の刺激やお灸の熱によって、脳から痛みを抑える物質の分泌を促し、血流を良くして痛み物質を洗い流すと考えられている。
 治療の対象は、幅広い。痛みに関しても、整形外科で診る筋肉や関節の痛みから、頭痛やストレス、原因不明の痛みまで様々だ。
 同外来の患者のほとんどは、整形外科や内科の治療を受けている。そこでは、十分な治療効果がないため、針きゅうはこれらを補完する治療という位置づけだ。
 針きゅうは、長い歴史があるが、どのような働きで症状を改善するのか、科学的にはわかっていないことが多い。欧米を中心に、様々な痛みへの効果を確かめたり、痛みにどのように働くのかを調べたりする大規模研究が行われている。
 針きゅう治療は、医師の同意書があれば保険がきく場合があるが、原則は自費になる。施設によって差はあるが、平均1回3千円から4千円程度だ。

(4)がん治療のつらさ 和らぐ

 太陽が照りつける焼けた砂浜を素足で歩くような、しびれや痛み。東京都江戸川区の小田住昭子さん(65)は、乳がんの抗がん剤治療を終えた後も、副作用に悩まされ続けた。
 2008年3月、国立がん研究センター中央病院(東京・築地)で、右乳房の一部を切除。手術の前に、がんを小さくする目的で、タキソール(一般名パクリタキセル)などによる抗がん剤治療を受けた。
 タキソールは乳がん治療でよく使われる抗がん剤で、手や足のしびれや痛みの副作用を伴いやすい。いったん症状が出ると、治療をやめた後も続くことが多いのがやっかいだ。
 小田住さんは治療を始めて間もなく、指先や足の裏にしびれや痛みが起きた。手術を終えて退院した後も症状は改善するどころか、次第に手足全体に広がった。ロボットのようにぎこちない歩き方になり、ペンを持つのも一苦労だった。
 09年2月、がんの痛みを和らげる治療を行う同病院緩和医療科を受診した。同科では、薬では十分に緩和できない症状に針きゅうを併用しており、小田住さんも受けることになった。
 抵抗力が落ちているがん患者への感染の危険性を考え、同科では、針を刺さずに、皮膚の上をなでたりこすったりする「接触針」という方法を用いる。担当の針きゅう師鈴木春子さんは、「体調を整え、つらい症状を和らげるのが目的。優しいはりでリラックスしてもらう」と話す。
 小田住さんは、「おきゅうのもぐさの香りと、おなか全体がじわっと温かくなっていく感じがとても気持ちいい」と話す。治療を始めてしばらくすると、痛みやしびれの範囲が狭まってきた。今は症状は多少残っているが、「階段も手すりなしで大丈夫。指も動きやすくなり手芸も書道も楽しめる」と笑顔をみせる。
 同病院緩和医療科長の的場元弘さんによると、がんの肺転移や胸に水がたまる息苦しさ、リンパ節転移によるむくみ、モルヒネの副作用による便秘、寝たきりでの筋肉痛など、薬による治療が難しい場合、針きゅう治療を取り入れている。
 的場さんは、「西洋医学では医療機器の進歩もあって、患者の体に直接触れる行為が失われがち。針きゅう治療の、手で患者の体に触れる、なでるといった行為そのものが、患者にとって癒やしになっている一面もあるのでしょう」と話している。

(院長のつぶやき)痛いところに手をあてて和らげる・・・「手当て」の語源です。

■ 漢方のちから 今、医療現場で(2010年5月:産経新聞の特集)

(1)胆道閉鎖症治療に「インチンコウトウ」

■肝臓の線維化抑制に期待

 原因不明の小児難病の一つ、胆道閉鎖症。かつては10歳まで生きられなかった病気だが、手術後の経過によっては長期生存する患者も増えている。ただ、経過が順調にみえても突然肝不全を起こし、肝移植が必要になる患者もいる。
 肝不全が起こる原因の一つが肝臓の線維化で、これを抑える効果があるかもしれないと、手術後に使われているのが漢方薬の「インチンコウトウ」だ。日本国内ではスタンダードな治療法で、最初に使い始めたのは順天堂大大学院医学研究科総合診療科学の小林弘幸教授(小児外科)。動物実験で肝臓の線維化を抑制するという論文をみつけたのがきっかけだ。

◆子供が元気になった

 肝線維化を抑える合成薬はない。日々患者と接する中で治療に限界を感じていた小林教授は「ひょっとしたら人にも効くかも」と考え、肝機能に軽い異常がみられた3歳から23歳の患者18人に投与。1カ月後、患者の母親から「子供が本当に元気になった」と喜ぶ声が次々と寄せられる。小林教授は「学校から帰ってくるとぐったりしていた子供が遊びに行くようになったというんです。それほど効くとは思ってなかっただけに、正直びっくりした」と当時を振り返る。
 母親らの声に押され、臨床試験を実施。3年間フォローしたデータでは、肝臓の線維化を示すマーカーが下がっていることが確認された。この結果をまとめた論文は2001年に海外の医学雑誌に掲載され、高い評価を得た。
 小林教授は「インチンコウトウが患者のQOL(生活の質)向上に役立っているのは間違いない」と言うが、一方で「胆道閉鎖症の治療で最も大事なのは肝臓の線維化を防ぐこと。インチンコウトウが実際に肝臓の線維化を抑えているかどうかはまだ分からないことも多く、厳密な臨床試験で確認する必要がある」と指摘する。

◆新薬開発に利用を

 今も小林教授の元には海外の医師からもインチンコウトウについて問い合わせるメールが届く。海外では日本で使っているような医療用漢方薬が手に入らないため、数種類の薬草を取り寄せて処方している医師もいるという。
 小林教授は「臨床での漢方のデータはまだ少ないが、合成薬と同等かそれ以上の効果がみられる漢方がいくつかある。また、漢方で得た成果を合成薬に取り入れることで画期的な新薬ができる可能性も。特に肝臓に効く良い薬はないだけに、日本発の薬として開発を進めてほしい」と期待を寄せている。(平沢裕子)
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 現在、医師の8割以上が日常の診療で処方している漢方薬。西洋医学の合成薬に比べ、「体に優しい」「効き目が穏やか」というようなイメージを持つ人が多いが、最先端医療の現場でも漢方がなくてはならない薬となっている。漢方の最新事情を紹介する。
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【用語解説】胆道閉鎖症
 肝臓と十二指腸を結ぶ胆道が閉鎖している病気。出生後すぐに肝臓と腸を直接つなぐ葛西式手術を行う。手術後、黄疸(おうだん)がなくならない場合は肝移植が勧められる。また、経過が良い場合でも肝線維化が進み、肝硬変となることが多い。日本では出生1万人に1人の割合で発症、患者数は約3千人。

(2)クローン病に「大建中湯」

米で有効性確認の試験も

 今、製薬企業の多くで画期的な新薬が生み出せなくなっているといわれる。日本だけでなく海外でも同様の状況といえるが、海外の研究者が熱い視線を注いでいるのが日本の漢方だ。中でも医学研究で最先端をいく米国で、日本の漢方「大建中湯(だいけんちゅうとう)」を臨床に使うための研究が急ピッチで進められている。
 大建中湯は日本の医療用漢方の中で最も多く使われている漢方。これまでに分かっている臨床効果として、手術後の腸閉塞(へいそく)の予防や腹部膨満感・吐き気の改善などがあり、手術後の入院日数短縮にも貢献している。構成生薬はショウガ、ニンジン、サンショウ、麦芽糖とすべて食品としても用いられているもので、重篤な副作用がほとんどないのも特長だ。

 ≪国際的な評価≫

 日本では大腸がんや子宮頸(けい)がんなどの手術後に使われることが多いが、米ではクローン病など炎症性腸疾患の治療での効果も期待されている。クローン病は発症の原因が不明のため、根本的な治療法はない。特効薬として米で1998年、日本では02年から使われ始めた抗体医薬は高い効果があるものの副作用も強く、1年以上継続して使えるのは10人中3人程度。副作用で抗体医薬が使えない人、長期使用で効果がなくなった人には治療法がないのが現状だ。
 大建中湯のクローン病での治療効果を検証している旭川医科大学外科学講座の河野透准教授(消化器病態外科学)は「大建中湯は腸管の血流を増やし、炎症抑制効果がある。クローン病を根本的に治すわけではないが、ベースとして使うことで従来の薬を使う頻度を減らすほか、炎症の再発防止ができるかもしれない」と手応えを感じている。
 河野准教授は5月、米国の大腸肛門外科医学会でこれまでの研究成果を発表、学会賞を受賞した。欧米の医学界では漢方はあくまでもハーブや鍼灸(しんきゅう)などと同じ代替補完医療の一つで、西洋医薬と同等の評価がされてこなかった。それだけに漢方の研究が国際的な医学学会で学会賞を受賞するのは画期的なことだ。こうした研究結果を踏まえ、米国の食品医薬品局(FDA)は大建中湯を使った二重盲検試験を認可した。現在、試験が行われているところで、有効性が期待されている。

 ≪国策として守る薬≫

 一方、長年、医療現場で漢方を使ってきた日本。昨年、政府の行政刷新会議の事業仕分けで、漢方を公的保険適用外にする結論が出されたことは記憶に新しい。患者や医師らから批判の声が上がり保険継続となったものの、漢方に対する政府の理解の低さが浮き彫りになった格好だ。
 河野准教授は「漢方の価値が日本国内でも正しく認識されていないのは残念なこと。ただ、漢方は日本から海外に発信できる唯一の薬で、国策としてこの医療を守り、研究を進める必要がある。日本人はこれまで海外の薬で多くの恩恵を受けてきたが、そのお返しとして今度は日本から漢方を世界に伝える責任がある」と話している。

【用語解説】クローン病
 口から肛門までの消化管に炎症や潰瘍(かいよう)を起こす原因不明の難病。主な症状は腹痛と下痢。10~20代の若者に多くみられ、男女比は2対1と男性に多い。日本の患者数は約3万人。先進国に多く、米国とヨーロッパで100万人の患者がいる。

(3)新型インフル予防に「補中益気湯」

 ■西洋医学も治せぬ患者に

 漢方を処方している医師の多くが「漢方薬を飲んでいると風邪をひかない」という印象を持っている。では、本当に漢方は風邪の予防に役立つのだろうか?
 これを初めて臨床で確かめた研究が昨年12月、英の医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』オンライン版に掲載された。厳密にいえば、対象とした病気は風邪ではなく、豚由来の新型インフルエンザ(H1N1)。昨年9月からの2カ月間、東京都板橋区の愛誠(あいせい)病院で漢方薬の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲んだ群179人と飲まない群179人で、感染に差があるかを調べた。結果は、飲んだ群では1人、飲まない群では7人の感染で、有意差があった。
 研究を行った帝京大医学部外科の新見正則(にいみまさのり)准教授は「思っていたよりもはっきりと差が出たので私自身もびっくりした」と振り返る。

中止後も感染なし

 補中益気湯を選んだのは、補中益気湯は元気をつける薬で、免疫力を上げるとの動物実験も報告されていたからだ。飲む飲まないは本人の希望に任せたものだが、飲んだ群のうち14人は「苦くて飲めない」などの理由で1週間で服用を中止した。「補中益気湯は元気があり余っている人が飲むと、時々違和感が生じる。中止した人たちもその後感染していないことから、この人たちは既に十分元気と考えれば漢方的には納得できる結果だ」と新見准教授。
 臨床研究で結果の信頼性が最も高いとされるのは、薬を飲む飲まないを本人の意思と関係なく無作為に割り付け比較する「ランダム化比較試験(RCT)」だ。

 今回の研究は無作為ではないだけに、信頼性をさらに高めるためにRCTを行うことが期待されるが、新見准教授は「抗がん剤のように副作用も強く値段も高い薬は、RCTで科学的エビデンス(証拠)を追求する必要があるだろう。でも漢方は副作用がほとんどなく、しかも安い。もちろん、この結果をもって補中益気湯がインフルエンザの予防に有効だと結論しようとは思っていないが、信じる人が飲めばそれでよい」というスタンスだ。

試してみる価値

 新見准教授は英・オックスフォード大学大学院での留学から帰国した約10年前、「漢方なんていらない」と考えていた。それが血管外科医として患者を診るうちに西洋医学では治せない多くの患者に遭遇、西洋医学の限界を感じる。これらの患者に漢方を処方したところ、4人に3人に症状の改善がみられ、喜んでもらえるようになった。
 新見准教授は言う。「西洋医学で治る病気は西洋医学で治療した方がよいが、西洋医学で治らない症状や訴えを持つ患者さんは漢方を試してみる価値がある。漢方嫌いの医師はまだ多いが、困っている患者さんが漢方の恩恵を受けられるように、必要性を理解してほしい」(平沢裕子)
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 ■組み合わせで効果アリ

 漢方は複数の生薬が組み合わさることで効果があることを新見准教授は動物実験で証明、学会誌『Transplantation(2009)』に掲載された。12生薬からなる柴苓湯(さいれいとう)は心臓移植後のマウスの拒絶反応を抑える効果がある。そこで柴苓湯から一生薬を抜いた柴苓湯を12種類作り、移植後のマウスに与え、拒絶反応が起こるまでの日数を調べた。結果は12種類すべてで本来の柴苓湯のような効果がみられず、薬として12生薬すべてが必要なことを裏付けた。

(4)めまいや動悸に高い効果

 ■更年期障害の精神神経症状に「加味逍遙散」 

 漢方薬の使用頻度が他の診療科より高いといわれる産婦人科。特に更年期のさまざまな症状に対して漢方は古くから使われていることもあり、「更年期障害の緩和はホルモン剤より漢方で」と考える女性は多い。長い使用経験からその効能は科学的にも証明されていると思われがちだが、更年期障害に対する漢方の効果を比較試験などで示したデータは、実はほとんどないのが現状だ。

臨床試験で確認を

 弘前大学大学院医学研究科の水沼英樹教授(産婦人科学)は「これまでの漢方に関する発表論文は『使ってみたら効いた』というものばかり。科学的根拠がはっきりしないので、私自身は患者に漢方を積極的に使うことを躊躇(ちゅうちょ)していた」と打ち明ける。
 どちらかというと漢方に対して距離をおいていた水沼教授だが、更年期の精神神経症状(イライラや不眠、抑鬱(よくうつ)、不安など)に対して、漢方薬の「加味逍遙(かみしょうよう)散」がどれだけ効果があるのかを探るため、28施設に協力を呼びかけ、ホルモン補充療法(HRT)との比較試験を実施した。医療用漢方メーカーの担当者から「漢方が効かないというのなら、本当に効かないのか臨床試験で確認してほしい」と言われたことがきっかけという。
 加味逍遙散は、「当帰芍薬(とうきしゃくやく)散」「桂枝茯苓(けいしぶくりょう)丸」とともに3大婦人漢方薬として定評がある。更年期障害の中でも主に精神神経症状を訴える場合に用いられてきた。
 HRTは閉経前後に急激に減少する女性ホルモンのエストロゲンを補う治療法。ほてりやのぼせ、冷えには高い効果があるが、精神神経症状での効果は4割ほどとされる。

偽薬との比較を検討

比較試験は、更年期障害と診断された閉経後の女性103人が対象。これらの女性を加味逍遙散、HRT、併用(加味逍遙散+HRT)の3グループに無作為に分け、抑鬱、不安、不眠の症状が4週後、8週後にどれだけ改善したかを比較検討した。結果は加味逍遙散にHRTと同等の効果があることが確認された。
 特にめまいや動悸(どうき)、イライラについては加味逍遙散の方が効果が高かった。一方、発汗や中途覚醒(かくせい)ではHRTの方が効果があった。また、HRTでは胸のはりや出血などの副作用が出た人がいたが、漢方ではこうした副作用はなかった。ただ、今回の試験ではプラセボ(偽薬)群をおいていないため、効果が漢方の薬効によるものなのか、薬を飲んだ“プラセボ効果”によるものなのかは分からない。
 結果を受け、水沼教授は加味逍遙散とプラセボによる比較試験を企画している。プラセボ用の薬は見た目も味も加味逍遙散とそっくりのものを作り、参加者にはどちらを飲んだのか分からないようにする。水沼教授は「更年期障害と漢方の研究はやっと端緒についたところ。効果が確認できれば漢方の中のどの成分が効いているのか探ることも必要だろう」と話している。
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【用語解説】更年期
 女性の閉経をはさむ前後約10年間を指す。この時期に起こるのぼせや発汗、頭痛、イライラなどの症状が日常生活に支障をきたすほどつらい場合、更年期障害として治療の対象となる。欧米では更年期女性の約30%がHRTを受けているが、日本では数%。その背景に漢方の利用があるとみられ、「女性の健康とメノポーズを考える会」のアンケート(平成18年)では、更年期症状の緩和に漢方を使ったことのある人は176人中77人おり、更年期女性の半数近くが漢方を利用していた。

(5)認知症の周辺症状に「抑肝散」

 ■「持ち越し効果」介護負担も軽減

 現在、日本に約220万人の患者がいるとされ、高齢化に伴い増え続けている認知症。主な症状には、記憶力や判断力の低下などの「中核症状」と、抑鬱(よくうつ)や不眠、妄想などの「周辺症状」がある。
 中核症状は患者本人にとって大きな問題だが、患者を介護する家族にとっては周辺症状の方がより深刻な問題といえる。お金を盗られたと思いこむ物盗られ妄想、あちこち歩き回って家に帰れなくなる徘徊(はいかい)、昼夜逆転し夜中に騒ぐ…。こうした問題行動を含む周辺症状が在宅での治療を困難にする最大の原因にもなっている。
 周辺症状に対してはこれまで、主に抗精神病薬が使われてきた。不眠や不安の解消に高い効果があるためだ。しかし、認知症患者では転倒や死亡のリスクが高まることから、米国で2005年、認知症患者に抗精神病薬を使うのを控えるべきだとする勧告が出された。日本でも使う場合は慎重さが求められている。

涙ながらに感謝

 こうした中、注目されているのが漢方薬の「抑肝散(よくかんさん)」だ。もともと小児の夜泣きや疳(かん)の虫など精神的興奮に対して使われていた薬だが、20年以上前から認知症患者にも使われている。
 国立長寿医療研究センター病院(愛知県大府市)の鳥羽研二院長も、以前から臨床の場で抑肝散を処方していた。あるとき、患者の家族から「これまで母を殺して自分も死のうと思っていたが、抑肝散で母の症状が落ち着いた。これでまた母の面倒を見ていく気がおきました」と、涙ながらに感謝されたことがあった。「そうか、こんなに効くことがあるのか、と。それならきちんと治験をやった方がよいと思った」と鳥羽院長。

 東北大学などで行った比較試験で有効性が確認される中、さらに効果を深く検証するため、関東の20施設でクロスオーバー試験を実施。認知症患者106人をABの2群に分け、8週間の試験期間のうち、A群は前半4週間、B群は後半4週間に薬を服用してもらい、効果を検証した。両群とも薬を飲むことで症状の改善が見られたが、前半に服用したA群では薬を止めた後も4週間効果が持続しており、「持ち越し効果」があることが確認された。
 持ち越し効果によって薬を飲まなくてもよい期間ができるのは、副作用の軽減につながるので、患者にとっては大きなメリットだ。また、抑肝散は独特の苦みがあることなどから飲むのを嫌がる患者もいる。こうした患者に薬を飲ませるのは介護者にとっての大きな負担だが、休薬期間ができれば負担軽減にもなる。 

さらなる研究を

 ただ、周辺症状は介護者の対応が変わることでも大きく改善される。抑肝散で患者が落ち着いたことで、介護者のイライラも減り、患者への対応が変わったことが持ち越し効果となった可能性もある。薬そのものに持ち越し効果があるといえるのか難しい面もある。
 鳥羽院長は「高齢者の医療・福祉は日本が世界に先駆けて開発した知識や制度も少なくない。漢方についてもさらに研究を進め、世界に広める必要がある」と話している。(平沢裕子)
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 ■アイスと混ぜ服用しやすく

 独特の苦味やにおいのある漢方薬は、その飲みにくさが治療継続の足かせにもなっている。特に粉薬の抑肝散は服用後に粉が舌や歯にくっつき、飲むのを嫌がる患者も少なくない。
 ジオ薬局伊賀店(岡山県高梁市)の薬剤師、甲〆(こうじめ)慎二さんは、漢方薬と補助食品の飲み合わせを実験。抑肝散ではアイスクリーム、ヨーグルト、チョコクリーム、ピーナツクリーム、はちみつと合わせることで、かなり飲みやすくなった。甲〆さんは「アイスは冷感で味覚を鈍らせる効果も。どの食材も食べる直前に混ぜるのがポイント。ただ、認知症では服用の無理強いは禁物で、嫌がるときは時間をずらすなど工夫を」とアドバイスする。

(6) 抗がん剤の副作用軽減「六君子湯」「牛車腎気丸」 

 ■世界へのエビデンス発信期待

 人口の高齢化で増え続けているがんの罹患(りかん)数。がんの治療でつらいのが、抗がん剤によって起こるさまざまな副作用だ。漢方薬には抗がん剤の副作用軽減に効果があるとされるものがいくつか報告されている。中でも注目されているのが、吐き気や食欲不振など消化器症状を改善するとみられる六君子湯(りっくんしとう)だ。

 ◆食べる喜び再び

六君子湯は約500年前に処方が確立したもので、胃弱や食欲不振の人に使われてきた。体力が低下したやせ形の中高年女性に使うとよく効くとされる。しかし、なぜ効くのか。その作用機序がよく分かっていなかったこともあり、これまでは漢方に詳しい少数の医師が細々と使っていた程度だった。
 それが平成11年、グレリンという食欲関連ホルモンが発見されたことで、食欲調節メカニズムの解明が進み、六君子湯になぜ効果があるのかも少しずつ説明できるようになった。グレリンは主に胃から分泌されるホルモンで、食欲増進に関係のある唯一の消化管ホルモンといわれる。抗がん剤を使うとグレリンの分泌量が減ることが分かっており、食欲不振となる原因の一つと考えられている。

 ネズミを使った実験では、六君子湯にグレリンの分泌量を増加させたり、脳の中のグレリン受容体を増やしたりする作用があることが分かっている。これらの結果を踏まえ、埼玉医科大学総合医療センター消化器・肝臓内科の屋嘉比(やかび)康治教授は今、抗がん剤で食欲不振となった患者に六君子湯を飲んでもらい、食欲がどれだけ回復するかをみる臨床試験を行っている。「食欲は生きる意欲や幸福感につながるもの。とくにがん患者さんにとって、食べられるようになるかどうかは命に直結する。食欲回復に効果がある六君子湯の有効性を科学的に証明したい」と屋嘉比教授。

 ◆46施設で効果検証

 一方、大腸がん患者に投与される抗がん剤「オキサリプラチン」の末梢(まっしょう)神経障害に牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)が効果があるかどうかを検証する二重盲検(にじゅうもうけん)の第3相試験が、厚生労働科学研究費を得て今年度から全国46施設で、九州大学消化器・総合外科の掛地吉弘准教授を研究代表者に行われている。末梢神経障害にはしびれなどの症状があるが、中には水に触れるだけで痛いという人もいる。抗がん剤を減量すれば症状は軽減するが、それではがんを抑える効果が損なわれる可能性がある。

 同大教授で日本癌(がん)治療学会の前原喜彦理事長は「これまで漢方は西洋薬のような比較試験が行われておらず、本当に効果があるのか分からない面も多かった。今回の比較試験では見た目も味も全く同じ偽薬を対照薬として使っており、有効性が証明されれば世界に向けても発信できるエビデンス(科学的根拠)となる。抗がん剤の副作用に悩まされている人は世界中にいるだけに、いい結果を期待している」と話している。
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【用語解説】二重盲検
 薬効のないプラセボ(偽薬)を薬だと偽って投与されたとき、患者の病状がよくなることがある。これを「プラセボ効果」というが、薬の本当の有効性を検証するにはプラセボ効果を除去する必要がある。プラセボ効果を除去するために考えられた試験方法が二重盲検。薬を処方する医師と患者の両方に、薬効がある「被験薬」と薬効のない「プラセボ」のどちらを使っているか分からないようにして薬の効果を確かめる。漢方薬では大建中湯(だいけんちゅうとう)でも二重盲検の比較試験が行われている。