<食物アレルギー関連記事・ニュース>

 新聞記事・ネット上で見つけたニュースや経験談を拾い読みしました。

■ 石鹸アレルギー問題で疫学最終報告

(2015年1月9日 日本アレルギー学会:m3.com)

日本アレルギー学会調査、診断確実例は2111人

 日本アレルギー学会はこのほど、薬用石鹸「茶のしずく」に含まれていた食品添加物の加水分解コムギ(グルパール19S)によるアレルギー被害が相次いだ問題で、疫学調査の診断基準を満たした患者の最終報告書をまとめた。調査開始から3年近くを要し、登録された確実例は2014年10月20日時点で2111人、多くは20-40歳代の女性が占めていることが分かった。 日本アレルギー学会「化粧中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会」の報告によると、問題の石鹸は2004年に使用が始まり、2010年まで製造されていた。その間、使用者から「洗顔後に眼が腫れる」「顔に蕁麻疹が出る」などの被害が相次いで報告されたことから、回収情報が出るなどし、同特別委が被害実態を把握するため疫学調査に乗り出した。 全国270の医療機関から登録症例数を集計したところ、診断基準を満たした患者は2111人で、女性2025人、男性86人と女性が大多数を占めた。年齢は1歳の男児から93歳の女性まで幅広く、報告の半数以上は20-40歳代の女性だった。登録患者を都道府県別に見ると、製造販売を手掛ける企業の本社がある福岡県が最多の311人で、東京都が125例、北海道が124例と続いた。同調査は厚生労働科学研究費補助金による「医薬部外品・化粧品に含有される成分の安全性確保に関する研究」として行われた。

■ 「認定小児アレルギーエデュケーター」を知っていますか?(2013/12/2:日経DI)

日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会が参加を呼び掛け

 気管支喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーといったアレルギー疾患の小児患者と家族を、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士が連携してサポートする動きが広がっている。日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会(JSPIAAD)は2013年度から、これまで看護師のみを対象としていた「認定小児アレルギーエデュケーター」の受講・受験資格を薬剤師と管理栄養士にも拡大。地域における薬局薬剤師の貢献に期待が集まっている。
 吸入ステロイドの普及などにより近年、喘息の治療管理は外来診療で行えるようになった一方、喘息患者数は増加の一途をたどっている。また、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーに関しては診療ガイドラインの整備が進んだものの、長期にわたる服薬アドヒアランスの維持や、患児と家族の生活の質(QOL)向上が課題となっている。加えて、アレルギー疾患患児のサポートには、医師だけでなく看護師、薬剤師、管理栄養士といった多職種の協力が必要でありながら、十分な専門知識と技能を持つ人材が育ちにくかった。
 そこでJSPIAADは2009年度から、小児のアレルギー疾患を総合的に捉え、患者教育を担うことができる専門スタッフを「小児アレルギーエデュケーター(PAE)」と名付け、看護師を対象に養成を開始。2013年度からは受講資格を薬剤師と管理栄養士にも広げ、多職種がそれぞれの職能を生かして効果的なケアにつなげていくことを目指す。同時にJSPIAADは、PAEの養成に当たり、日本小児アレルギー学会(JSPACI)や日本皮膚科学会にも協力を呼び掛けている。

「小児アレルギー疾患のチーム医療で薬局薬剤師が果たすべき役割は大きい」

 2013年6月現在、PAEの資格を持つコメディカルスタッフは100人を超えるが、そのうち薬剤師は3人のみ。その一人であるすずらん調剤薬局(三重県亀山市)管理薬剤師の上荷裕広氏は、「外来診療の医療チームの中で、最後に患者と接するのは薬局薬剤師であることが多い。それゆえ、医療機関から見ていわば“部外者”である薬局薬剤師が、いかに医師の処方意図を汲み取り、ケアにつなげるかが重要になってくる」と、薬局薬剤師が積極的に関わる必要性を訴える。
 上荷氏は、小児アレルギー疾患のケアにおける薬局薬剤師の関わり方として、
(1)服薬状況の確認:長期服薬におけるアドヒアランスの維持や服薬拒否児への対応、
(2)吸入指導やスキンケア指導、
(3)患者情報の収集と医師へのフィードバック:治療のゴールが見えないことや、薬の副作用への不安・悩み(ステロイドフォビアなど)への対処、
(4)学校生活や地域社会への適応に関する悩みへの対処
――などを挙げる。同氏は、「アレルギー疾患の患児が薬を服用できなくなる原因には、疾患そのものや発達段階だけでなく、薬や疾患に対する保護者や地域社会の考え方が大きく影響する」とし、「患者とパートナーシップを築き、教育的支援を行っていく点で、薬局薬剤師も十分に貢献できるはず」と強調する。
 地域における薬局薬剤師の具体的な活動内容としては、喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーに関する資材(パンフレット)を薬局に置くことで、“相談できる場所”として認識してもらったり、医師会や歯科医師会と協力して、食物アレルギーやアドレナリン注射液(商品名エピペン)の正しい知識を教育現場に普及させたりするなど様々。上荷氏は、「ぜひ多くの薬局薬剤師にPAEの講習会を受講してもらい、正しい知識とコミュニケーションスキルを身に付けた上で、自信を持って地域への貢献を果たしてほしい」と話している。

■ 旧「茶のしずく石鹸」使用によるコムギアレルギーの実態(2013.12.9:MTPro)

9割に眼瞼腫脹,約半数にアナフィラキシー

 加水分解コムギ末は,従来香粧品として汎用されてきたが,近年,その一種であるグルパール®19Sを含有した旧「茶のしずく石鹸」使用者にコムギアレルギーが多発し,社会問題となった。「日本アレルギー学会 化粧品中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会」は,実態の把握に向けた全国疫学調査を実施(関連記事)。委員長の松永佳世子氏(藤田保健衛生大学皮膚科学教授)は調査結果から,臨床的特徴として,眼瞼腫脹を訴えていたのは約9割で,約半数がアナフィラキシーを起こしていたと,第63回日本アレルギー学会(11月28~30日,東京都)で報告した(関連記事)。

報告例の大半が30~60歳代女性

 松永氏によると,旧「茶のしずく石鹸」などに含まれた加水分解コムギ(グルパール®19S)による即時型コムギアレルギーの診断基準は,

(1)グルパール®19S含有香粧品の使用経験,
(2)即時型のコムギアレルギー症状,
(3)グルパール®19Sへの特異性

で,3つを全て満たすことにより確実例と診断される。
 今回の全国疫学調査によると,今年(2013)年11月現在,旧「茶のしずく石鹸」による経皮感作コムギアレルギーは,全国257施設から2,026例の確実例が報告されており,女性は96%で,多くは30~60歳代女性であるという。

約40%が花粉症・アレルギー性鼻炎の既往あり

 旧「茶のしずく石鹸」によるコムギアレルギー907症例(2013年11月1日現在)について検討すると,顕著に見られたのが眼瞼腫脹で,約9割に上った。また,アナフィラキシーが55%に上り,内訳は,ショックが25%,呼吸困難などが30%であった。
 907例のうち,アレルギー疾患既往があるのは499例に上り,うち花粉症・アレルギー性鼻炎のある者は361例であった。
 グルパール®19Sに対する特異的IgE抗体価について見ると,せっけんの使用を中止することにより抗体価の減少が見られ,誘発される症状は軽度となっていた

9割の人がせっけんを中止しコムギ摂取を継続

 原因せっけんの使用中止からコムギ摂取再開までの期間を見ると,せっけん使用中止当初からが90%を占め,2年6カ月後には96%の症例でコムギを摂取していた。継続摂取している症例のうち,41%は症状の誘発が認められておらず,20%は眼瞼腫脹など軽度の症状が見られた。

■ CDCが学校での食物アレルギーに関する初のガイドラインを発表(2013.10.31:MTPro)

 米疾病対策センター(CDC)が10月30日,学校での小児の食物アレルギーに関するガイドラインを発表した。CDCによると国家レベルでの食物アレルギーガイドラインは初めて。州や学区単位で独自のガイドラインはあるものの,食物アレルギーのリスク管理や緊急時の対応に関しては不十分な点が多く,総合的な枠組みを示す必要があったと説明している。

88%の学校に1人以上の食物アレルギー児が在籍

 同ガイドラインは2011年に制定された,米食品医薬品局(FDA)が管轄する食品安全強化法(Food Safety Modernization Act ;FSMA)における施策の一環として策定。FSMAは,食品による公衆衛生上の問題を軽減するため制定された法律で,米国では毎年食物が原因で国民の6人に1人に相当する約4,800万人が何らかの疾患にかかり,12万8,000人が入院,3,000人が死亡しているとの試算もある。
 政府機関としての初の指針となる同ガイドラインだが,法的強制力はない(voluntary)。しかし,多くの州や学区で制定されているガイドラインでは対応や内容が不完全なものも少なくないとCDCは指摘。総合的な危機管理対策が必要とその意義を説明している。
 ガイドラインによると,全米の小児の4~6%に食物アレルギーがあり,その数は1990年代後半に比べ18%増加している他,全米の88%の学校に食物アレルギーの子供が1人以上在籍している状態。また,食物アレルギーを有する子供の16~18%が学校でアレルギーの原因となる食品をうっかり食べてしまい,アレルギー反応を起こした経験があることや,学校で報告されたアナフィラキシーなど重篤なアレルギー反応の25%はそれまで食物アレルギーの診断を受けたことがない子供によるものとのデータなども紹介されている。
 CDCを所管する米国保健福祉省(HHS)長官のKathleen Sebelius氏は「食物アレルギーの治療法は存在しないが,保護者や家族が直接ケアできない教育現場においても,学校関係者が子供を食物アレルギーから守る具体的な行動を取ることができる」と関係者に積極的な取り組みを呼びかけている。

教職員,医療者だけでなく,バス運転手や施設保守関係者などの対応も求める

 同ガイドラインでは,全ての子供たちに食物アレルギーに関する教育が必要との見解が示されている他,教員や学校医や担当看護師,栄養士ばかりでなく,スクールバスの運転手や施設保守の関係者に求められる役割も記載。
 また,全ての関係者に対し,アナフィラキシーなど緊急時の自己注射用アドレナリン(商品名エピペン)の注射を行えるようにすることや日常の予防行動の1つとして食事の前後には手を洗うよう子供に声をかけることが共通して推奨されている。併せて,体育の授業や休み時間に食物アレルギーの子供を特別扱いしないことや,差別やいじめに対する学校の規則を強化するなどの取り組みも求めている。

子供の訴えも早期発見に役立つ?食物アレルギーの表現一覧

 一般的にアナフィラキシーが疑われる場合の症状として嘔吐や嗄声,呼吸困難,意識障害や唇・爪の色調変化などが挙げられているが,CDCは今回のガイドライン発表と同時に食物アレルギーが疑われる場合,子供がどのような表現で症状を訴えることがあるかを例示。子供目線での表現を知っておくことも,発症早期での発見につながるかもしれない。

舌を何かでつつかれているような気がする
舌(唇)がヒリヒリ(チクチク,ジンジン)する
舌(唇)が痒い
舌に毛が生えたような感じがする
口が変な感じ
喉にカエルがいる,喉に何か詰まっている
舌が腫れている(重い)
唇がきゅっとなった感じ
虫が中にいるような気がする(耳の痒さを表していることがある)
喉に何か詰まっている(うっとうしい)感じ
舌の奥(喉)にこぶがあるように感じる

■ 給食と食物アレルギーを考える(2013年10月 西日本新聞)

(上)東京・死亡事故の母語る 「理解深め見守りを」(2013年10月09日)

 食物アレルギーの児童が増える中、学校給食での対策が急務になっている。日本スポーツ振興センターによると、2005~08年に全国の小中学校での給食で発生したアレルギー反応事例は804件。東京都調布市では昨年12月、乳製品にアレルギーがあった小学5年女児がおかわりの際に粉チーズが入ったチヂミを誤って食べてショック死した。楽しいはずの給食で起きた悲劇を繰り返さないためにどうすればよいのか。皆さんと一緒に考える手始めに、死亡女児の母親の思いに耳を澄ませた。
 普段おかわりをしない娘が、なぜあの日はしたのだろう。ずっと疑問でした。今年のお盆にやっと納得できました。お参りに来たお友達が教えてくれました。クラスに割り当てられた給食全体をおかわりしながら残さず食べる目標がありました。チヂミは不人気で、おかわりする子が少なかったそうです。「なぜおかわりしたの」とお友達が聞くと、娘は「完食に貢献したかったから」と言ったそうです。常々、人の役に立ちたいと話していた娘らしいと感じました。
 娘は学校給食でショック死しました。でも、食べられないのは乳製品だけで家族と普通に食事を楽しんでいました。だからこそ、娘の事故を機に食物アレルギーに対し過剰な恐怖心が広がるのを心配しています。
 東京都はショック症状を和らげる注射をどのタイミングで打つかなど指針を出しました。万が一の対策は必要ですが、もっとシンプルにどうしたら食べられない食材を口にしないかを考えてほしい。詳しい献立表で担任が確認しないと給食を食べさせないルールづくりをしてほしい。アレルギーの子どもがいる家庭は何に注意しているかというと、注射の打ち方じゃなくて食べてはいけない物を食べさせないという一点に集中している。学校でも保育所でも同じだと思います
 学校の先生や教育委員会の関係者の方々が責任を感じて対策に乗り出しています。ただ、「この問題は学校がしっかりやります」と背負い込まないでほしい。保護者との情報共有や地域のお医者さんが協力することがあってよいのではないでしょうか。
 私は娘に「あなたが気をつけなさい」と言っていました。アレルギーの子どもがいるお母さんたちだってミスするし、学校の先生や栄養士の方に要求するばかりでは何の解決にもならない。分厚いマニュアルをつくる必要もない。アレルギーは特別なものではない。自分たちの身の回りに存在する普通の問題だということに社会全体が理解を深め、あらゆる大人が子どもを見守るようになってほしい。
 娘には科学者になる夢がありました。人体の構造、地震が起きるメカニズムなどに興味を持っていました。食物アレルギーの仕組みも理解して恐れてはいませんでした。「世の中の役に立つ研究をしたい」と話していました。その夢はもうかないません。
 9月に担任の男性教師が停職1カ月になる処分が出ましたが、重いか軽いか私がコメントすることではありません。憂さを晴らすとかいう話じゃない。娘を失った悲しみは変わりません。つらいことは変わらないし、何も終わりはない。東京都も文部科学省も対策を一生懸命やろうとしている。それを見守りたい気持ちだけです。 (談)

(中) 学校現場の模索 確認や注射 態勢は?(2013年10月16日 西日本新聞)

 東京都調布市の小学校で昨年12月、乳製品にアレルギーがあった小学5年女児が乳製品の粉チーズが入ったチヂミを誤食してショック死した事故は衝撃を広げた。「給食の悲劇」をいかに防ぐか-。学校現場の模索が続く。
 10月の平日、福岡市内の小学校。職員室の目立つ場所に掲示板が置かれていた。黄色地にピンクの文字で「本日のアレルゲン食品」。除マヨネーズ、くるみと書かれたカードが下げられていた。明日の欄では、えび、いか。給食の献立に使われるアレルギー原因の食材を明示しているのだ。「除」のマークが付くと原因食材を取り除いた「除去食」が用意されている意味という。
 献立によって除去食を食べるようになる児童については、給食の前日に、献立を考える栄養教諭から担任に除去食の引換券が手渡される。当日朝、担任から引換券をもらった児童は、給食の時間になると給食室に行き、調理員から除去食を受け取る。さらに、教室前方の壁には、食材まで載った詳しい献立表が張られている。級友たちはそれを見て例えば「A君は卵が入った親子丼は食べられません」と声に出して確認。A君が誤って卵入り親子丼を食べないよう配慮する。担任も卵抜きの除去食を食べているか目を光らせる。
 何重ものチェック網。考案したのは女性の栄養教諭。5年前に始めたが、参考となるひな型はなかったため、近隣の栄養教諭と相談しながら決めた。自身も給食時間になると、重い食物アレルギーのある児童のクラスを巡回する。「原因食材がある日は神経を使います。これからもアレルギーの子は増えていくと思う。しっかりやらないと…」。心配は尽きない。
 学校での食物アレルギー対策は、2008年に文部科学省が監修して日本学校保健会が発行した「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」が基本となる。全国のすべての小中学校に配布されている。
 しかし、東京都の事故を受けて今年5月に文科省が設置した有識者の「学校給食における食物アレルギー対応に関する調査研究協力者会議」は7月の中間まとめで、全国的に学校や教師によって対応に温度差があったことを指摘。「学校でガイドラインを活用しきれていない」「一部の教職員を除き意識が低かった」としている。
 ただ、ガイドラインはA4判85ページに及び、内容も専門的だ。児童・生徒の指導などで多忙な教職員が読み込む余裕がなく、医学に素人の教職員が理解するのは困難という声が現場では以前からくすぶっていた。
 食物アレルギーの誤食事故を防ぐには、原因食材を子どもが口にしないよう徹底することに尽きる。総論的な知識でなく具体的な対策が求められるだろう。有識者会議も「学校個々の状況に見合ったマニュアルづくりを促進し、すべての教職員がガイドラインの内容を理解できるよう分かりやすくまとめた資料を作成することも必要だ」と問題提起。文科省は来年3月予定の最終報告を受け、ガイドライン改訂などにつなげる方針だ。
 「牛乳が体にかかっただけでもショックを起こします。学校にはまだ相談していなくて不安です…」
 アレルギーの子がいる親の自助グループ「福岡アレルギーを考える会」(野田朱美会長)が9月、福岡市で開いた小学校入学前の子どもがいる家族を対象にした相談会。牛乳のアレルギー反応で意識が低下し命の危険もあるアナフィラキシーショックを起こす長男が来春小学校に入学するという同市の主婦(42)は涙ぐんだ。
 会場には給食の時間に毎日、学校へ息子の様子を見に行くという母親(41)の姿もあった。アレルギー原因の食材を子どもたちが口にしないようどんなに注意を払っても誤食の危険性はゼロにはならない。だからこそ、誤食した場合に備えてショック症状を和らげる自己注射薬「エピペン」を適切に処方できる態勢の構築も必要だ。「緊急時の役割分担を決めてエピペンを打つ訓練を徹底してほしい」と野田会長は母親の切実な願いを代弁する。
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【ワードBOX】自己注射薬「エピペン
 食物アレルギーによる呼吸困難や意識低下などのアナフィラキシーショックの改善には、血圧を上げるホルモン「アドレナリン」の自己注射薬「エピペン」(商品名)を30分以内に打つことが求められる。
 エピペンは通常、本人や保護者が太ももの表外側に打つ。学校では、重症の本人が打てない場合は教職員も注射できる。反復継続した医療行為ではないため医師法に問われない。緊急の人命救助なら刑事、民事責任も問われない。
 日本小児アレルギー学会は7月、アナフィラキシーショックが疑われる場合、「繰り返し吐く」「持続する強いせき」「唇や爪が青白い」などの13の症状のうち、一つでもあれば、エピペンを打つべきだという目安を発表した。

(下) 有識者会議座長・西間三馨氏に聞く 原因や治療法 まだ混沌(2013年10月23日:西日本新聞)

 ●エピペン注射 迷わずに 

 東京都調布市の小学校で昨年12月に給食を食べた小学5年の女児が、乳製品の食物アレルギーによるアナフィラキシーショックで死亡した事故が教育現場に波紋を広げている。食物アレルギーとはどんな病気なのか。どうすれば悲劇を防げるのか。アレルギー疾患に詳しい福岡女学院看護大学(福岡県古賀市)の西間三馨学長に聞いた。
 食物アレルギーの小学生は増えています。2004年の文部科学省の全国調査によると、医師に食物アレルギーと診断された児童は2・8%、アナフィラキシーを起こしたことがある子は0・15%。西日本小児アレルギー研究会で昨年、九州・沖縄など11県で調査したところ、食物アレルギーは3・56%、アナフィラキシーは0・81%でした。
 ところが、食物アレルギーの詳しい仕組みや増加の原因ははっきりしない。世界にどれだけ患者がいるかも把握できていない。分からないことが多い病気なんです。他のアレルギー疾患は、ぜんそくは気管支、アトピー性皮膚炎は皮膚と、治す標的の器官や組織が明確。薬が進歩し、治療が可能になりました。食物アレルギーは全身のどこに症状が出るか分かりません。標的がないから病気を根本的に治す薬がない。現在、一部の専門医が食物アレルギーの原因食材を子どもたちに少しずつ食べさせて、耐性を高める新たな治療法を研究していますが、まだ確立されていません。アレルギー原因の食材がたくさんあって、増えていて本当に混沌(こんとん)としているのです。
 正直言って、私を含めて専門家のほとんどが食物アレルギーで亡くなるとは思っていなかった。だから、医師でもない学校の先生が食物アレルギーのすべてを知っておかなければならないというのは酷です。調布市の死亡事故を受けて教育現場は萎縮してしまっています。ただ、ショック症状は血圧を上げる注射薬「エピペン」で改善できます。だから、学校の先生に言いたいのは、ショック症状が起きたらとにかくエピペンを打ってほしい。そこだけは覚えてほしい。
 児童にどんな症状があればエピペンを注射するのか、先生が判断するのは困難です。そこで「日本小児アレルギー学会」では7月、アナフィラキシーを疑うケースで、エピペンを使用すべき13の症状を発表しました。「意識がもうろうとしている」「声がかすれる」などが一つでもあれば、迷わず打ってください。もしエピペンを打って、アナフィラキシーではなかった場合でも、まず子どもには害はありません。
 私が座長を務める文科省の有識者会議は来年3月に、詳しい事故防止対策、緊急時の対処方法を示す予定です。食物アレルギーの子が普通に学校で過ごし、先生も伸び伸びと子どもたちと接する-。そのためにどうすればいいのか、考え続けます。 (談)
 ▼にしま・さんけい 福岡県出身、69歳。九大医学部卒。医学博士。福岡女学院看護大学長、国立病院機構福岡病院名誉院長。日本アレルギー学会理事長、日本小児アレルギー学会理事長などを歴任。2008年に日本学校保健会が発行した、食物アレルギー対策などを載せた「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」作成にも携わった。
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【ワードBOX】食物アレルギー
 西日本小児アレルギー研究会の調査では、福岡県内でアレルギーと診断された児童の割合を2002年と12年で比較すると、気管支ぜんそくは6・67%から4・50%、アトピー性皮膚炎は14・31%から12・34%に減少。一方、12年に初めて調査した食物アレルギーは3・99%、アナフィラキシーは0・90%だった。04年の文科省調査で、福岡県はそれぞれ2・80%、0・14%だった。

■ どうする食物アレルギー保育園編(2013年10月:読売新聞)

(上)「念のため」除去 給食混乱(2013年10月11日 読売新聞)

個々の作り分けに苦労

 保育園での食物アレルギー対応は難しい。学校より食事回数が多く、患者の比率も高い上、医師らの理解にも差がある。万が一の事態に備えられるか。現場から課題を考える。
 保育園の対応を煩雑にさせている要因の一つが、最新の診断法に基づかずに、料理から原因食材を除く「念のため」の除去だ。
 近畿地方の私立保育園は、園医の指示で園児の4分の1にアレルギー対応を求められている。実際に食品を食べてアレルギー反応を検査したわけではなく、血液検査の結果だけに基づく指示だ
 「ヒジキもダメ、魚介もダメなど指示が細かくて、食べられる食品が少ないほど。個々の園児の給食の作り分けに苦労しています」とこの園の栄養士は話す。
 食物アレルギーは、かつて多品目を除去する指導が主流だった。検査や診断法が進化し、厚生労働省が2011年に作成した「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」では、除去は必要最小限が基本としている。だが、専門医が少なく、いまだ「念のため」が多いのも現状だ。
 保護者が保育園側に求めるケースもある。「豆腐を食べたらかゆくなったので、豆腐を食べさせないで」。東京都内の私立保育園は今年、園児の保護者からそう求められた。医師の診断はないという。
 保育園の担当者は「東京都調布市の死亡事故以降、『念のため』と除去を求める保護者が増えた」と話す。
 ガイドラインでは、医師が診断を基に作成した「生活管理指導表」を保護者が園に提出、園側に除去を求める仕組みだ。しかし、医師に作成を頼むと自費負担が生じるなどの理由で、保護者の「自己申告」にも応じる園がある。東京都が09年に2089の保育園・幼稚園に行った調査では、食物アレルギーで医師の診断書や指示書を求めている施設の割合は66%だった。ガイドラインでも除去品目が多い場合は、必要最小限に見直すよう勧めるが、どんな給食を提供するかは保育園や地域で差がある。
 専門医と協力して事故を防ぐ動きもある。「シダックスフードサービス」(東京)は、専門医らと作成したマニュアルにそって給食を提供している。
 同社に給食を委託している、社会福祉法人「稲城青葉会」の「調布城山保育園」(東京)では、60人の園児のうち、除去食対応をしているのは3人。必ず医師の診断と指示に基づき、献立表は栄養士と看護師が二重にチェックする。除去食のトレイに子どもの名前を書き、声を出しての確認も実行。職員数が手薄になる夕方は、目が行き届かなくなりがちなので「除去食を作り分けず、対応が必要な子もそうでない子もアレルギー食材を使わない同じ献立にします」という。
 東京都立小児総合医療センターアレルギー科部長の赤沢晃さんは「『念のため除去』に追われると、本当に重症な子への対応がおろそかになり、事故を招く可能性もある。医師の適切な診断に基づく適切な除去と、献立作りを進めてほしい」と話す。

保育園と食物アレルギー
 東京都調布市の小学校で昨年12月に起きた死亡事故をきっかけに対策が始まっているが、学校に比べて複雑な対応を求められる。日本保育園保健協議会の手引によると、保育園の患者の割合(4・9%)は小学校(2・8%)より多い。昼食のほか、おやつなどもあり、子どもが隣の席の料理を口にしてしまうこともある。アレルギー症状を引き起こす食材を誤って食べる事故も頻発している。

(下)消防と緊急時の連携模索(2013年10月12日 読売新聞)

個人情報共有 コストと手間

 食物アレルギーで欠かせないのが緊急時の備えだ。重篤なショック症状が起きると、分刻みで悪化し、命にかかわる。
 厚生労働省の「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」では、自己注射薬「エピペン」を保育園で管理することに加え、行政や医療機関などとあらかじめ情報共有することを勧めている。しかし、実際には難しい。
 首都圏にある認可保育園は、乳製品や卵の重いアレルギーを持つ園児2人のエピペンを預かっている。地元自治体の消防担当部署に相談をしたら「発症した時に言ってくれればいい」と門前払いされた。
 自衛策として、園の看護師は2人の名前を記した「救急封筒」を作成。2人の健康保険証や乳児医療証、医師が作成した指示書のコピーなど書類一式を入れ、事務室の全職員がわかる場所に置いている。病院搬送する事態が起きた場合に、園児の情報を素早く伝えるためだ。「保育園数が多く、一つ一つの園と連携するのは難しいのかもしれない」とこの看護師は話す。
 消防庁は、ガイドラインができた2011年に、各自治体向けに消防機関と保育園の連携を推進するよう通知を出している。しかし、同庁は「個人情報の共有には、保護者の同意を得る必要やコストがかかる面もある。情報をどう共有して連携するのか自治体ごとに考えが違う」とする。
 昨年東京都調布市の小学校で起きた給食による死亡事故以来、変化の兆しもある。
 奈良県内の公立保育園に娘を通わせる母親(37)は、今年になって初めて自治体から「娘さんの情報を消防と共有したいが構いませんか」と問い合わせがあった。娘はエピペンを処方されていて、母親は「情報があれば素早く対応してもらえると思うのでうれしかった」と喜ぶ。
 東京都は7月に専門医とともに「食物アレルギー緊急時対応マニュアル」を作成した。2万7000部を学校や保育園、幼稚園のほか、学童保育や託児所などにも配布した。
 マニュアルでは、症状が出て5分以内に、「ぐったり」「唇や爪が青白い」といった項目をチェックして、緊急性が高いかどうかを判断する。「子どもから離れず観察する人」「エピペンを準備する人」「119番や保護者らに連絡する人」など役割分担を決め、事前に模擬訓練することも盛り込んだ。「とっさの時の判断に迷わないため、現場で備えておいてほしい」と東京都。
 専門医で作る「日本小児アレルギー学会」のアナフィラキシー対応ワーキンググループも、7月に一般向けに、エピペンが必要となる症状をわかりやすくまとめ、ホームページで公開した。
 乳幼児が早朝から長時間にわたり、生活の場として過ごす保育園は、食物アレルギーのリスクと常に隣り合わせといえる。そもそも乳幼児には、食事や症状の自己管理は不可能だ。また保育園の規模や設備などにも違いがあり、保育園の自助努力だけで誤食防止や緊急時の態勢を整えるのには限界がある。
 NPO法人「アレルギーを考える母の会」代表の園部まり子さんは「アレルギーの正しい知識を広め、現場の誰かに負担が偏らないような連携の仕組みを作る必要がある」と話している。(大森亜紀、月野美帆子、上原三和)

■ 食物アレルギーリスクの高い乳児 経口免疫寛容誘導により卵アレルギーの発生率低下(2013.9.26:MTPro)

〔米ウィスコンシン州ミルウォーキー〕ウェスタンオーストラリア大学(オーストラリア・パース)小児科・小児健康科のDebra J. Palmer博士らは,乳児を対象としたランダム化比較試験(RCT)で卵パウダーによる経口免疫寛容誘導の効果を検討し,「生後4カ月から少量の卵パウダーを食事に混ぜることで,卵アレルギーの発生を抑制できた」とする結果をJournal of Allergy and Clinical Immunology(2013; 132: 387-392)に発表した。

RCTで検討されたのは初めて

 卵アレルギーは乳幼児の食物アレルギーとして多く,オーストラリアでは1歳児の8.9%が卵アレルギーを有している。食物アレルギーは家族や医療システムにとって大きな負担となるため,食物アレルギーの発生予防に関する研究が行われている。観察研究では乳児に少量の卵を定期的に与える方法が,卵に対する耐性獲得に有効な可能性が示唆されていた。
 Palmer博士らは今回,中等度〜重度の湿疹(SCORADスコアが15以上)のある乳児86例を対象に早期からの卵摂取と卵アレルギー発生の関連について検討した。湿疹を有する乳児は食物アレルギーを発生しやすいと考えられている。なお,この関連をRCTで検討したのは同博士らが初めてである。
 今回の研究では卵パウダーを乳児49人(卵群)に,ライスパウダーを37人(対照群)に生後4カ月齢から導入した。家族に茶さじ1杯分のパウダーを固形食物に混ぜて8カ月まで与えるよう依頼した。8カ月になった時点で,両群に調理した卵を医師の監視下で与えた。さらに12カ月時点で,低温殺菌済み生卵を用いた皮膚プリックテストによるチャレンジテストを医師の監視下で実施し,卵アレルギーの有無を調べた

12カ月時の卵アレルギー発生リスクが35%低下

 その結果,12カ月時に卵アレルギーを有していた乳児の割合は,対照群の51%に対し卵群では33%と低かった(相対リスク0.65)。
 ただし今回の研究では,卵パウダー摂取開始後に,児の31%に卵パウダーに対するアレルギー反応が認められた。そのため,Palmer博士らは「湿疹を有する乳児に初めて卵を食べさせるときは慎重に行う必要がある。こうした食物アレルギーリスクの高い乳児の多くは,子宮内での曝露,あるいは母乳や周囲環境への曝露を通じて生後4カ月までに既に感受性を獲得している可能性が高い」と指摘している。
 同博士らは「今回の研究から,食物アレルギーリスクの高い乳児に生後4カ月から少量の卵を定期的に与えることにより,食物アレルギーの発生率が低下することが示された。ただし導入開始には注意が必要である」と結論付けている。

■ 食物アレルギーはいま(2013年9月:神奈川新聞)

(上)学校、再発防止へ情報共有(2013年9月16日)

 昨年12月、東京都調布市で食物アレルギーを持つ小学5年生の女児が学校給食を食べて死亡した事故を機に、県内でも食物アレルギーへの関心が高まっている。再発防止に向けた取り組みを、学校や医療の現場から報告する。
 養護教諭が叫んだ。
 「エピペンを打つので手伝ってください!」
 駆け寄った教員3人が横たわった児童の体を押さえ、注射器を太ももに突き立てた-。
 夏休み中の8月27日、相模原市南区の市立大野小学校体育館で行われた、食物アレルギーの対処法を学ぶ訓練の一コマだ。
 エピペンとは、食物アレルギーによる重い全身症状、アナフィラキシーを和らげる自己注射薬。同校にはエピペンを所持している児童を含め、食物アレルギーへの対応が必要な児童が約30人いる。
 調布での死亡事故を受け、山重ふみ子校長は食物アレルギーによる容体の変化の速さに驚いた。「こんなにも簡単に亡くなってしまうなんて」
 事故の検証結果報告書には、こう記されている。
 〈今回の事故は、女の子が担任に気分が悪いと訴えてからの14分間における対応が、生死の分かれ目になっている
 調布市の小学校も対策を怠ってきたわけではなかった。女児にはアレルギーの原因食材を使わない「除去食」を用意していた。だが、お代わりの際、誤食は起きた。
 大野小学校では誤配食と誤食を防ぐため、除去食にラップをかぶせて区別し、混入にも注意を払ってきた。調布の事故後は、献立のうち除去食が一目で分かるよう、黒板の脇に毎日張り出すことにした。担任が不在だった場合を想定したものだ。
 現場の教員からは「給食の時間は、恐怖です」との声も漏れる。

■研修会に教員殺到

 8月2日、NPO法人アレルギーを考える母の会(横浜市旭区)と県による研修会。会場の藤沢市民会館は840人もの教職員で埋まった。
 エピペンの練習キットが全員に手渡され、それぞれが太ももに繰り返し押し当てる。教員には認められているとはいえ、注射にはためらいがつきまとう。“予行演習”によって抵抗感を薄めるのが狙いだ。
 研修会で多くの時間を割いたのが、エピペンを打つタイミングの解説だ。
 ガイドラインでは「犬の遠ぼえのようなせきをしているとき」などが例示されているものの、やはり医師でなければ判断がつきにくい。壇上の昭和大学医学部講師、今井孝成医師は覚悟を促すように言った。
 「迷ったら打つ、が原則。打つタイミングは医師でも迷うものだ
 研修会は本年度6回実施され、参加者は過去最多の約2800人。受講希望は後を絶たず、来年1月の追加開催が決まった。参加者アンケートで「やはりタイミングが分からない。もう一度参加したい」との声が多く寄せられたためという。

■高まる現場の不安

 母の会にも、不安を抱く学校関係者らから相談が殺到している。園部まり子代表理事は「学校が真剣に向き合い始めた。研修などを通して、食物アレルギーの正しい理解が広がってほしい」と話す。
 だが、知るほどに対応の厳しさを痛感する学校関係者は少なくない
 子どものアレルギー情報を校内で共有できているか。エピペンがどこにしまわれているか把握しているか。症状を見極め、エピペンを打ち、119番通報と保護者への連絡をし、症状を記録する、その役割分担は-。
 藤沢での研修に秦野市から参加した私立保育園の女性看護師(33)は「看護師1人ではとても対応しきれない。マニュアルを作り、職員全員が対応できるよう研修を重ねたい」と表情を硬くした。
 食物アレルギーの診療・研究の第一人者である、国立病院機構相模原病院の海老澤元宏医師は、対策が緒に就いたばかりである点を強調し、続ける。「アナフィラキシーの対応に注目が集まっているが、求められるのは心臓が動き、呼吸をしている状態で患者を救急病院に搬送すること。学校だけでなく、行政や消防、医療機関も含めた地域全体の連携が必要だ」

調布市の小学5年生女児の死亡事故
 東京都調布市の市立小学校で昨年12月、乳製品アレルギーのあった5年生の女子児童が給食でお代わりをした際、誤ってチーズ入りの韓国風お好み焼き(チヂミ)を食べて死亡した。
 事故検証結果報告書は、
(1)調理員は配食の際、チヂミが除去食にあたることを女児に明確に伝えていなかった
(2)担任は女児がお代わりを希望した際、事前に作成されていた一覧で除去食を確認しなかった(一覧は職員室の机の中にしまわれていた)
(3)養護教諭は給食後に症状が出たにもかかわらず、アナフィラキシーを疑わず、エピペンの投与が遅れた
-など、学校側の対応の問題点を指摘している。
 担任は当初、エピペンを打つべきか尋ねたが、女児は「打たないで」と拒否したという。原因食材を口にした自覚がなかったため、持病のぜんそくの発作と思い込んだ可能性がある。

◇県内自治体でも進むマニュアル改定

 調布市の事故を受け、県内自治体でも食物アレルギーの対応マニュアルの見直しなどが進む。
 横浜市教育委員会の調査では、医師から食物アレルギーと診断されている市立小学校の児童は昨年6月末時点で5264人、全体の2・8%に当たる。ここ5年ほどは5千人前後で推移しているが、「給食の除去食対応希望やエピペン携帯者は増えており、求められる対策は多くなっている」(同市教委)。
 2011年策定の市立学校向けのマニュアルに加え、本年度中に保育所向けにも作成し、無認可園も含めて市内全保育所に配布し、研修も行う。
 相模原市教育委員会は5月に市立小中学校食物アレルギー対応検討委員会を設置し、小中学校向けマニュアルの改定に着手。校外学習や調理実習も含めて検討し、緊急時に対応できる内容に見直す。
 模擬訓練も初めて実施し、市内に109あるすべての小中学校でも訓練を実施する予定だ。
 大和市は3月に学校給食の手引を作成。市医師会や市立病院の専門医らの協力を得て、独自の調査表や、緊急時のチェックシートも作成している。

(中)医療、負荷試験で除去食減(2013年9月17日)

 血液検査のみで診断されることが多かった食物アレルギーだが、最近は実際に少量の原因食品を食べてみて、本当に症状が出るか確かめる食物経口負荷試験の重要性が認識され始めた。
 血液検査によってある程度は症状が予測できるが、実際には食べてみないと分からない。そのため、必要のない食べ物まで遠ざけている可能性があるからだ。

■医師観察下で実食

 国立病院機構相模原病院(相模原市南区)の入院病棟。初めて食物負荷試験に臨む小学4年生の女児(9)=東京都青梅市=の前に、直径8センチほどのハンバーグが置かれた。見た目は普通だが、イカ20グラムが混ぜ込まれている。
 午前10時。まずは16分の1にカットされた一切れが皿に取り分けられた。ひと口サイズだが、イカにアレルギーがある女児は恐る恐るかじるようにして食べる。
 ベッドサイドに必ず医師が付き添い、30分おきに体温や血圧などを確認する。症状が出た場合はすぐに吸入薬や注射で治療を行うためだ。
 女児は15分おきに、16分の1、8分の1、4分の1、2分の1と少しずつサイズを大きくして食べ進め、1時間かけてハンバーグ1個を完食した。

■許容量増加を確認

 女児は血液検査で牛乳、鶏卵、イカにアレルギー反応が出ていた。乳児期から症状があり、小学校入学後もほぼ毎日弁当を持参するなど、徹底して原因食品の除去を続けてきた。
 テレビ番組で相模原病院の試験を知り、「一度きちんと調べたい」と3泊4日で入院した。
 1日目は牛乳25ミリリットル、2日目はマヨネーズ10グラム、3日目はイカ入りハンバーグに挑戦し、いずれも目立った症状が出なかった。
 子どもの食物アレルギーは成長とともに耐性を獲得していくことが多い。女児は2年前に学校給食のグラタンを食べて呼吸困難になり、救急搬送された経験があった。今回の試験の結果、牛乳についても許容量が増えていることが分かった。
 付き添いの祖母(65)は「いつも孫の食物アレルギーの不安でいっぱいだった。少しでも食べられると分かって、急に気持ちが軽くなった。試験を受けて本当に良かった」とほっとした様子。女児は「みんなと一緒に給食を食べたい」と笑顔をみせた。

■全国から患者来院

 国のアレルギー研究の拠点である相模原病院は全国に先駆けて1995年から食物負荷試験を始め、累計で約2万件の実績を持つ。希望者は7年ほど前から急増し、現在は年間2千~3千件を実施。患者は全国から訪れ、いまは約2カ月待ちの状態だ。
 同院ではこの試験のほか、必要に応じて血液検査や皮膚テストを行い、総合的に診断する。食後24時間たっても症状が出なければ退院し、今度は試験でクリアした量を自宅で食べる。数週間から数カ月間続けて異常がなく、医師が問題ないと診断すれば、除去を解除する流れだ。
 これまで食物アレルギーは主に血液検査で診断されてきた。しかし近年の研究で、血液検査が陽性でも、必ずしも食物アレルギーの症状が出るとは限らないことが分かった。血液検査で卵白にクラス2(一番軽いレベルの陽性)が出た人のうち、食物負荷試験でも陽性だったのは2割弱だけだったという調査結果もある

■医師も「認識不足」

 同院の海老澤元宏医師は「食物アレルギーの診断には、専門医による食物負荷試験が不可欠。除去食を必要最小限とするためにも重要だ」と指摘する。
 除去食が多ければ栄養が偏り、子どもの発育にマイナスだ。口にできない食べ物が一つでも減れば、本人や家族の手間や精神的な負担は減る。負担は給食を提供する学校も同様で、軽減されれば誤配食、誤食といった対応のミスを減らすことにもつながる。
 その上で、海老澤医師は苦言を呈する。「たかが食物アレルギーとの認識で『血液検査が陽性だから、とりあえず除去食』と指示する医師もいる。食物アレルギーと診断されれば、普通の食生活で死につながるかもしれないという不安を抱えて暮らすことになる。医師の側も、患者や家族にとって深刻な問題だという認識をもっと持つべきだ」

◇学校生活管理指導表 相模原市は公費負担
 2008年に文部科学省が監修した「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」では、学校に食物アレルギーへの対応を希望する場合、食物負荷試験などを根拠とした医師の診断に基づき、「学校生活管理指導表」を提出するよう求めている。
 指導表の発行手数料は、診断書と同じで3千~5千円ほどかかるため、患者の経済的な負担を指摘する声もある。
 相模原市は指導表を提出しやすい環境を整えようと、11年3月から政令市では初めて発行手数料を公費で全額負担。患者は医療機関で無料で指導表の発行が受けられる。
 提出数は年々増加していたが、特に調布市の事故を受け、本年度は7月までに小中学校で160件の提出があり、前年度分(113件)を既に上回っており、普及が進んでいるという。
 なお、食物負荷試験は、県内では国立病院機構相模原病院のほか、県立こども医療センター(横浜市南区)や国立病院機構神奈川病院(秦野市)などでも実施している。「食物アレルギー研究会」のホームページでは、日本小児科学会指導研修施設における同試験実施施設も紹介している。

(下)共通理解へルール徹底(2013年9月18日)

 昨年12月、東京都調布市で食物アレルギーのある小学生が学校給食で死亡した事故を受けて、文部科学省は本年度、再発防止に向けた対策に乗り出している。同省の有識者会議の委員で、食物アレルギー診療・研究の第一人者である、国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー性疾患研究部長の海老澤元宏医師に、改善策を聞いた。

 -調布市の事故後、社会の受け止め方に変化は感じられるか。

 私たちは、食物アレルギーは死に至ることもあると以前から指摘してきたが、調布の事故後、それが現実問題として受け止められた。特に学校現場には一番影響を与えただろう。

 -文科省が今後打ち出す対策は。

 まず年度内に、小中学校を対象にアレルギーがある児童生徒への対応に関する全国調査を行う。9年ぶりの調査となる。
 学校での対策としては、2008年に文科省が監修した「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」に準拠すること。ガイドラインに基づいて学校だけでなく、市町村としてのルールを決めて対応することが重要だ。

 -地域としてのルールが必要と。

 アナフィラキシー(全身の強いアレルギー症状)発症時の対応に注目が集まっているが、要は学校現場に求められる対応は、心臓が動き、呼吸をしている状態で患者を救急病院に搬送することだ。
 そのためには学校だけでなく、行政や消防、医療機関などの地域全体でガイドラインに基づいたルールを徹底し、共通理解を持つ必要がある。

 -患者側がすべきことは。

 学校に給食の除去食などの対応を求めるならば、きちんと食物経口負荷試験を受け、学校に生活管理指導表を提出する必要がある。ただこの試験はアナフィラキシーを発症する可能性も伴うので、必ず専門施設で行うべきだ。

 -なぜ食物負荷試験が必要なのか。

 血液検査で診断していた時代もあるが、血液検査でクラス2(一番軽いレベルの陽性)が出た患者のうち、食物負荷試験でも症状が出たのはわずか1~2割だったという調査結果もある。血液検査だけでは、必要がないのに除去食を指示してしまう可能性があり、対応する患者や学校にとって全くの無駄だ。

 -食物負荷試験はいつ受けるのがよいか。

 食物アレルギーの可能性があると分かったら、遅くとも小学校入学前には食物負荷試験を受け、どれくらいの量を食べるとどんな症状が出るのか確認し、きちんと診断を受けた状態で入学するのが望ましい。相模原病院では1歳代で受ける子が一番多い。
 乳幼児期に食物アレルギーがあっても、成長とともに耐性を獲得し、3歳までには半分、小学校入学前には8~9割は治るので、定期的に試験を受けて確認する必要もある。一方、学童期になっても症状がある子は重症と考えられるので、患者も周囲も十分に注意する必要がある。

 -食物負荷試験は認知されてきたか。

 私たちの10年間の活動を通して、随分普及してきたとは思う。しかしまだ「たかが食物アレルギー」との認識で、「血液検査が陽性だからとりあえず除去食」と指示する医師もいる。食物アレルギーと診断されれば、普通の食生活で死につながるかもしれないという不安を抱えて暮らすことになり、患者や家族にとっては深刻な問題だ。認識を改め、食物負荷試験で正確に診断できる専門医との病診連携を進めなければならない。

 -食物アレルギーのある子は増えているのか。

 1980年代から増え始め、90年代も増加していたが、2000年以降は横ばいになっている。増加の理由は分かっていない。

■ ごまがアレルギー表示推奨へ(2013年8月29日:NHK)

アレルギーを引き起こすおそれがあるとして、原材料としてできるだけ表示する品目に新たにごまとカシューナッツが加えられることになりました。
特にごまは患者会からの要望が長年寄せられていた食材です。
ごまアレルギーを取り巻く現状について、報道局生活情報チームの山本未果記者が解説します。

アレルギー表示とは

これまで食品衛生法では、卵や小麦など7つの品目について、アレルギーを引き起こすおそれが大きいとして表示を義務づけてきました。
また、大豆やくるみなど18の品目については、「できるだけ表示するよう」求めています。
この「できるだけ表示する」品目に新たにごまとカシューナッツが加えられることが、消費者委員会の部会で決まりました。

ごまアレルギーの患者は

ごまはアレルギーのある人が知らずに食べてしまうと、場合によっては重い症状を引き起こす危険もあります。
消費者庁が全国の病院でアレルギー症状を起こして手当てを受けたおよそ3000の症例を調査した結果、12例がごまが原因と分かりました。
神奈川県内に住む小学3年生の男の子は1歳になる前にごまを食べるとアレルギー症状が出ることが分かりました。
母親は「症状がひどい時には本当にもうぐったり、意識もなくなって、注射と点滴で回復しました」と話していました。
アレルギー症状は年齢とともに改善することが多いといわれているため男の子は8月、ごまの入った食事を食べる検査を受けました。
しかし、まもなくじんましんと腹痛が起こり、ごまを取り除いた食事を当分続ける必要があることが分かりました。
母親は「やっぱりまだだめなんだと分かりました。そろそろ大丈夫かなって思いを打ち砕かれた感じですね」と話していました。

増えるごま加工食品

栄養価が豊富で健康にいいとして、国内のごまの消費量は年々増え続けています。
おととしの輸入量は16万4000トンとこの20年間で1.5倍になりました。香りや風味を付けるために、すった状態や練ってペーストにした状態、さらにはごま油として、目に見えない形で混ぜるケースが増えているのです。
食物アレルギーが専門の国立病院機構相模原病院の海老澤元宏医師は「すってあるようなケース、あるいはペーストになるとかなりのごまの量が実際には使われていることになる。加工品の中に練り込んで使われていると粒状のままよりも症状が出やすい」と話し、表示がなければ、患者が知らない間にごまを口にしてしまう危険性が高くなると指摘しています。

目に見えないゴマのリスク

この親子も、思わぬ食品でひやりとさせられた経験がありました。
それは「あんまん」です。
こしあんの中に、ごまが練り込まれていたのです。
この時は、「ごま」という表示があったため、食べさせる直前に気付くことができたといいます。
母親は「表示が徹底してあると私も助かりますし、将来的には自分で大きくなってからもチェックできるんですけど、やっぱりそれができないところで使われていると、食べて、何か起こってから『実は入ってた』というふうになるのがいちばん怖いです」と話していました。

加工食品メーカーの対応は

実際、ごまはいろいろな加工食品に使われています。
まんじゅう」や「かりんとう」などの菓子類やソース類のほか、カレールーのなかに風味付けとしてペースト状にしたごまが練り込まれていたり、そうめんは、仕上げの際に表面にごま油が塗られていたりする商品があります。
今回の決定についてメーカーの関係者は「原材料に本当にごまが含まれていないか精査したり、限られたスペースの中でどう分かりやすく表示すべきか検討したりと、課題は多い」と話していました。
消費者庁は、1年以内にはできるだけ表示するよう加工食品メーカーなどに求めていくことにしています。
ゴマ自体は栄養もあり人気も高い食材ですが、アレルギーがある人たちにとっては表示がなければ自分で自分の身を守ることができません。
メーカー側も協力していく姿勢が問われています。

■ 加水分解小麦含有石鹸による運動誘発アナフィラキシーの臨床経過(2013/08/07:ケアネット)

 近年、加水分解物小麦含有石鹸の使用により接触感作された、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA:wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis)が相次いで報告され、社会問題となっている。WDEIAは小麦含有食品を摂取しただけでは症状を呈さないが、小麦含有食品摂取と運動負荷が重なることで発症する即時型の食物アレルギーである。
 広島大学の平郡 真記子氏らは、加水分解物小麦含有石鹸とWDEIAの関連、およびその経過について報告した。その結果、加水分解物小麦含有石鹸の使用とWDEIAには関連がみられ、石鹸の使用中止により、加水分解物小麦への感受性は経時的に減少、治癒する可能性が示された。Allergology International誌オンライン版2013年7月25日掲載報告
 平郡氏らは、2010年1月から2011年6月に広島大学でWDEIAと診断された患者36例に対して、詳細な病歴の確認、皮膚プリックテスト、抗原特異的IgE抗体検査およびヒスタミン遊離試験を実施した。その後、患者の臨床症状の経過を調査した。
 主な結果は以下のとおり。

・患者は大部分が女性で、36例中30例は同一の加水分解物小麦含有石鹸を使用していた。
・主な症状は顔の症状と血管性浮腫であった。なお、従来のWDEIAよりも血圧低下の頻度は低かった。
・ω-5グリアジン特異的IgE抗体価よりも、グルテン特異的IgE抗体価のほうが高値であった(p<0.05、一元配置分散分析)。
・加水分解物小麦は、ヒスタミン遊離試験を実施したすべての患者で陽性であった。
・従来の小麦抗原のうち、好塩基球からのヒスタミン遊離はグルテニンで最も多かった。
・グルテンとグルテニンに対する感受性は、加水分解物小麦含有石鹸の使用中止により、減少した。

■ 牛乳アレルギーの経口免疫療法、さらに研究が必要(2013/08/05:ケアネット)

 牛乳アレルギーの小児に与える牛乳量を徐々に増やしていく、いわゆる「経口免疫療法」は、一部の小児では長期的な効果がみられるが、時間経過とともに耐性が失われる小児もいるという、新たな研究結果が報告された。今回は、小児の多くに間欠性の症状が持続的にみられ、治療の初期段階で改善が認められた後に重症のアレルギー反応が生じる場合もあることが判明した。
 経口免疫療法についてはこれまでの研究で有望性が示されていたが、今回の初めての長期研究から、さらに長期間の追跡を行う研究が必要であることが示されたと、米ジョンズ・ホプキンス小児センター(ボルティモア)の研究グループは述べている。
 研究を率いた小児アレルギー専門医のCorinne Keet氏は、「治療によって多くの小児に明らかな改善が認められているが、今回の結果から、この治療を受けた小児が後にアレルギー反応を起こす長期的なリスクについて疑問が浮上した」と指摘している。同センター小児アレルギー・免疫部長のRobert Wood氏は、「この結果は『慎重に進め』という明確なサインである。この治療法は期待されてきたが、多数の疑問点があることもわかっていた。今回の知見から、その重大な答えの一部が得られた」と付け加えている。
 今回の研究では、牛乳アレルギーの小児32人を対象とし、治療完了から3~5年間の追跡を実施した。治療終了時までに、3人を除くいずれの小児にもある程度の改善がみられ、少なくとも一定量の牛乳を摂取することが可能だった。追跡したところ、8人は長期にわたり症状のない状態を維持していたが、12人には牛乳を飲んだときに頻繁にアレルギー症状がみられ、7人は最終的に牛乳の摂取を中止したか、ごく少量に制限していた。6人には重篤なアレルギー反応が生じたと、研究著者らは報告している。
 この研究は「Journal of Allergy and Clinical Immunology」オンライン版に6月27日掲載された。

(院長のつぶやき)日本でも期待されている経口免疫療法ですが、重症例を扱う故か、100%有効かつ安全というわけにはいかないようです。危険ですのでくれぐれも患者さんが自己判断で行わないよう、お願いします。

■ 「一般向けエピペン®の適応」決定のご連絡(2013.7.24:日本小児アレルギー学会)

この度、日本小児アレルギー学会のアナフィラキシーワーキンググループにおいて「一般向けエピペン®の適応」を決定致しました。
 一つの症状だけでエピペンの適応を示すことはとても難しい作業でしたが、各国の状況を調査した上で、一般の方にも分かりやすい症状の記載・適応判断としました。
 当学会としてエピペン®の適応の患者さん・保護者の方への説明、今後作成される保育所(園)・幼稚園・学校などのアレルギー・アナフィラキシー対応のガイドライン、マニュアルはすべてこれに準拠していくことを基本とします。

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■ お好み焼きでアナフィラキシー、原因はダニ?(2013.7.2 日経メディカル)

 お好み焼きやホットケーキを食べた後に蕁麻疹や顔面腫脹などの症状が表れたり、呼吸困難を来すことがある。小麦粉の中で増えたダニの経口摂取が原因だが、小麦アレルギーと誤診されたり、原因が分からないままになっているケースも少なくない。ダニは高温多湿の環境で増えやすくなるため、夏場は特に粉類の保管状態に注意を促す必要がある。
 夕食後に全身性膨疹や呼吸困難などの症状を呈した男性。入院加療後に行われたIgE測定では原因が特定されず、はらだ皮膚科クリニック(兵庫県西宮市)を紹介受診した。精査の結果、男性はお好み焼き粉の中で増えたダニを経口摂取したことによるアナフィラキシーと診断された(症例1)。

症例1
お好み焼き中のダニによるアナフィラキシーと診断した1例(原田氏による)
47歳、男性。自宅で夕食にイイダコわさび、めかぶ、山芋、きゅうり、豚肉入りお好み焼きを食べた直後から、鼻閉、咽頭の違和感、眼の痒み、全身性膨疹、呼吸困難が出現。近医救急外来を受診し、2日間入院加療を受けて回復した。同病院皮膚科でアニサキス、マグロ、豚肉、タコの特異的IgEの検査を受けたが全て陰性で、原因が分からなかったため当院を紹介受診した。プリックテストでは小麦、タコ、わさび、めかぶ、山芋は全て陰性だったが、発症時に調理に使用したお好み焼き粉(持参)で(3+)と陽性だった。血液検査では総IgEが730 IU/mLと上昇しており、特異的IgEはヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニで共にクラス5、アシブトコナダニ、サヤアシニクダニ、ケナガコナダニでは全てクラス3と陽性だった。小麦、グルテンは陰性だった。使用したお好み焼き粉は使用期限後8カ月経過しており、顕微鏡下でお好み焼き粉に多数のダニが確認された。

 小麦粉やお好み焼き粉、ホットケーキミックスに混入したダニを経口摂取することで、アナフィラキシーを来すことがある。これらは「Oral mite anaphylaxis」または「Pancake syndrome」と呼ばれ、1993年に初めて米国で報告された。国内でも96年に初めて報告され、2000年代に入ってからは疾患の認知度の高まりも相まって徐々に報告例が増えている。ただ、アレルギー専門医や小児科、皮膚科医には認知されているものの、「小麦アレルギーと誤診されたり、原因が分からないままになっているケースも少なくない」とはらだ皮膚科クリニック院長の原田晋氏は話す。
 ダニの経口摂取によるアナフィラキシーの報告例では、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎や気管支喘息など、アレルギー性疾患の既往者が多い。これらの患者は、ダニ抗原に対する感作が成立しており、ダニを経口摂取したことでアレルギー反応が起きたと考えられている。「アレルギー性疾患の患者が増えているため、ダニの経口摂取によるアナフィラキシーも増えているのではないか」と富山大小児科の足立陽子氏は説明する。
 アナフィラキシーの原因として報告が多いのは、ハウスダストで見られる屋内塵性ダニ類のコナヒョウヒダニやヤケヒョウヒダニ、粉類や調味料などの貯蔵食品で繁殖するケナガコナダニなどだ。開封済みの小麦粉やお好み焼き粉、ホットケーキミックスなどにこれらのダニが侵入し、中で増えたと考えられている。
 農研機構食品総合研究所(茨城県つくば市)食品害虫ユニット長の宮ノ下明大氏は、「お好み焼き粉には海産物のエキスやアミノ酸などが含まれており、小麦粉よりもさらにダニが増えやすい環境になっている」と説明する。

運動誘発アナフィラキシーの報告も

 また最近、食後すぐに生じるアナフィラキシー以外の臨床像も明らかになっている。
 富山大の足立氏らは、今年5月の第25回日本アレルギー学会春季臨床大会(開催地:横浜市西区)で、ダニ経口摂取後の運動誘発アナフィラキシーの症例を報告した(症例2)。患者は当初、小麦依存性運動誘発アナフィラキシーが疑われていたが、このエピソード以降、小麦製品を摂取した後に運動しても症状がなかったこと、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニなどの特異的IgEが陽性だったこと、持参したお好み焼き粉で多数のダニが観察されたことなどから、ダニ経口摂取後の運動誘発アナフィラキシーと診断された。

症例2
ダニ経口摂取による運動誘発アナフィラキシーと診断した1例(足立氏による)
17歳、男性。自宅で夕食にうどん、するめいか、チーズと豚肉入りお好み焼き、白米を食べ、約1時間半後に日課のランニングに出掛けた。走り始めて10分程で腹痛が出現したため自宅まで駆け戻ったところ、呼吸困難、全身性蕁麻疹、両眼充血が出現し、2次救急病院に搬送された。救急外来到着時のSpO2は80%以下で、ステロイドの全身投与やβ2刺激薬の吸入などで軽快した。翌日受診した紹介医での検査では、総IgE 1008 IU/mL、特異的IgE抗体価はハウスダスト≧100(UA/mL)、小麦<0.35、ω5グリアジン 0.45、エビ 0.39、カニ<0.35、イカ<0.35だった。6歳まで喘鳴を認めていたが、以後喘息症状はなく、食物アレルギーや運動誘発アナフィラキシーの既往がないことより、小麦依存性運動誘発アナフィラキシーが疑われ、今後の食事ならびに運動制限やアドレナリン自己注射薬の所持を含めた生活指導のため当科を紹介受診した。問診により、上記のエピソード以降、小麦製品摂取後に運動しても無症状だったこと、当日同じものを摂取した弟が1年半ぶりの喘息発作を起こしていたことが明らかとなり、母親に確認したところ3カ月以上前に開封したお好み焼き粉を使用していた。残っていたお好み焼き粉を鏡検すると、多数のコナヒョウヒダニが認められ、後日の採血でコナヒョウヒダニ特異的IgE抗体は≧100だった。以上より、ダニ経口摂取による運動誘発アナフィラキシーと診断した。

 「患者は食後90分近く症状がなかったが、ランニングを始めて10分ほどで腹痛や便意、呼吸困難などを来した。こうした経過を見ると、このアナフィラキシーは運動が関与したものと考えられる。これまで小麦依存性運動誘発アナフィラキシーと診断された中にも、ダニ経口摂取後の運動誘発アナフィラキシーが含まれていた可能性がある」と足立氏は指摘する。

ダニの経口摂取を鑑別に挙げる

 ダニの経口摂取によるアナフィラキシーの診断には、まず、ダニの経口摂取でアナフィラキシーが生じることを念頭に問診を行うことが重要だ。問診のポイントは、「食べたものは家庭で調理されたものか」「使用した粉は開封後どれぐらい経っていたか」。これまでのわが国の報告例は、全て家庭での調理によるもので、多くは開封後数カ月~数年にわたって常温で保管されていた。
 ダニの経口摂取によるアナフィラキシーを疑った場合は、小麦(小麦、グルテン、ω5グリアジン)とダニの特異的IgEを測定し、小麦アレルギーを否定した上でダニに対するアレルギーを確認する。「ダニの経口摂取によるアナフィラキシーの場合、調理に使った粉を持参してもらい、顕微鏡で確認すればダニを確認できる」と足立氏は話す。
 診断にはプリックテストも有用だ。「調理に使った開封済みの粉と新品の粉でテストを行い、開封済みの粉でのみ反応があった場合には、原因としてダニを強く疑える」と横浜市立みなと赤十字病院(神奈川県)アレルギーセンター小児科医長の磯崎淳氏は話す。
 再発防止のためには、粉類を早めに使い切ること、粉類は密封した状態で冷蔵庫に保管することを指導する。コナヒョウヒダニやヤケヒョウヒダニは、約40日で成虫になり、産卵する。また、室温20~30℃、湿度60~80%の環境では繁殖力が高くなる。食品総合研究所の宮ノ下氏は、「1カ月を過ぎると子どもが生まれ、爆発的に増えるようになるため、粉類は1カ月以内に使い切るのが理想的だ。使い切れない場合、冷蔵庫のような低温環境であれば、成長や繁殖は抑えられる」と話す。
 こうした対策により、ダニの経口摂取によるアナフィラキシーを予防できる。ただし、これらの対策を行っても、自宅以外の場所などでダニを経口摂取する可能性はある。このため、横浜市立みなと赤十字病院の磯崎氏は、ダニの経口摂取によるアナフィラキシーを経験し、呼吸困難などの呼吸器症状が表れた患者に対しては、アドレナリン自己注射薬(商品名エピペン)を処方しているという。
 また、アレルギー体質の人は、ダニに感作されていることも多く、アレルギーのない人に比べてダニの経口摂取によるアナフィラキシーのリスクが高い。アレルギー性鼻炎や喘息の患者に対しては、あらかじめ粉類の保管方法などについて指導しておくのも有効と言えそうだ。

■ 「カシューナッツ」「ゴマ」アレルギー表示2品目追加へ(2013年6月5日 読売新聞)

 加工食品のアレルギー表示について、「カシューナッツ」と「ゴマ」を推奨表示品目に加える方針を消費者庁が打ち出した。
 推奨表示は義務ではないが、表示が広がれば食物アレルギーのある人が食品を選ぶ目安のひとつになる。
 表示の追加は、5月30日に開かれた消費者委員会の食品表示部会で同庁が提案した。同庁は都道府県などに対する通知案を次回の部会に提示し、年内にも表示が始まる。
 同庁は、アレルギー表示を見直すため、定期的に食物アレルギーによる健康被害の全国実態調査を実施。2011~12年度はアレルギー専門医約1000人に協力を求め、食べてから60分以内に症状が表れて、医療機関を訪れた2954例を分析した。
 カシューナッツでの発症は18例で、うち血圧低下や意識障害などを伴うアナフィラキシーショックと呼ばれるショック症状を起こしたのは5例。ゴマでは12例が報告され、アナフィラキシーショックは1例だった。カシューナッツとゴマは以前の調査でも症例が報告されていることから、表示対象品目に加えられた。
 アレルギー表示は食品衛生法などに基づき、これで対象は、義務表示が7品目、推奨表示が20品目になる。

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■ 食物アレルギーによる死亡事故はなぜ起きた?(2013年6月 日経メディカル)

 昨年末、東京都調布市の小学校で食物アレルギーの既往のある小学5年生の女児が給食後にアナフィラキシーショックを起こして死亡した。この事故を受け、文部科学省や厚生労働省、日本アレルギー学会などが、委員会を設置して再発予防のために動き始めている。

「違う、打たないで」とSさんは言った

 2012年12月20日。この日の給食のメニューには、粉チーズ入りの「じゃがいものチヂミ」が含まれていた。牛乳、乳製品によって重篤なアナフィラキシー症状を起こす可能性が高いSさんには除去食が用意されており、Sさんは調理員から直接除去食を受け取って食事をしていた。
 給食が終わりに近づき、余ったじゃがいものチヂミを担任が教室で生徒に配っていたところ、Sさんが担任に「欲しいです」と声をかけた。担任は食べても問題がないのかを確認するため「大丈夫か」と尋ねた。Sさんは、保護者が念のために持たせていた献立表でアレルギーを起こす可能性がある食べ物として印が付いていないことを示した。そこで担任は、Sさんにじゃがいものチヂミを提供し、12時57分に給食時間が終了した。
 給食から約25分後、Sさんから担任へ「気持ちが悪い」との訴えがあった。そのときSさんの顔は紅潮しており、喘息発作用に処方されていた薬剤の吸入器を口に当てて苦しそうにしていた。そのため、担任はSさんのランドセルからエピペン(一般名:アドレナリン)を取り出し、「これを打つのか」と確認をした。しかし、Sさんから「違う、打たないで」と言われたため、打たなかった。その後、13時30分に養護教諭が駆けつけ、喘息発作が強く出ていると判断し、救急車を要請するように促した。
 担任は、救急車を要請した後に栄養士に献立を確認し、Sさんの症状が食物アレルギーによるアナフィラキシーだと認識した。保護者に電話で、誤食をした後に強い喘息発作を起こしているため、救急車を要請したと伝えたところ、エピペンを打つよう求められた。
 一方、養護教諭は、Sさんが「トイレに行きたい」と言うものの、自力では立てない状態だったため、Sさんを背負ってトイレに向かい、便座に座らせた。その時点で、Sさんは呼びかけに返事をせず、顔面蒼白な状態になっていた。
 校長が13時36分に現場に駆けつけたが、Sさんは便座にもたれかかるように座っていた。呼吸をしている様子はなく、手首での脈拍は認められなかった。校長は、Sさんの右大腿部外側にエピペンを打ち、床に仰向けに寝かせた。心肺停止状態だったため、養護教諭が心臓マッサージ、担任が人工呼吸を始めた。
 13時40分ごろに救急車が到着し、校長が同乗して杏林大病院へ出発した。しかし16時29分に死亡が確認された──。
*     *     *
 この事故の経緯を読んで、どこに問題があったのか、指摘できるだろうか。
 厚労省や文科省の委員会では、具体的に数多くの問題点が取り上げられているが、ここでは、
(1)エピペンを打つタイミング、
(2)ショックへの対応、
(3)アナフィラキシーに対する教職員の認識不足、
(4)給食の提供環境
――の4点に絞って、その原因を分析してみたい。

ショックを疑ったらすぐに対処を

 Sさんの誤食事故が、死亡という最悪の結果に至ってしまった最大の原因は、学校側の初期対応のまずさにある。アナフィラキシーの発症を疑ったら、迅速かつ的確に病態を評価し、アナフィラキシーショックに至る前に適切な処置を開始しなければならない。
 アナフィラキシーは、食物や薬物などによるアレルギー反応により、蕁麻疹などの皮膚・粘膜症状、消化器症状、呼吸器症状といった多様な症状を示す病態をいう。抗原に暴露してから症状発現までの時間は短く、5~30分で発症する例がほとんどだが、まれに数時間後に現れるケースもある。
 重症度は、臨床症状によって下表のように5段階に分けられている。定義ははっきりとしていないが、アナフィラキシーが重篤化し、血圧低下、意識消失、気管閉塞といったショック症状に至った状態を「アナフィラキシーショック」と呼ぶことが多い。

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表1 食物によるアナフィラキシーの臨床的重症度(『食物アレルギー診療ガイドライン2012』より) 

 アナフィラキシーショックで死に至る原因としては、気管支痙攣や上気道の浮腫による気道閉塞(窒息)が大半を占める。アナフィラキシーを発症してからアナフィラキシーショックに至るまでの時間は、抗原によって差があるものの、食物で30分、昆虫刺傷で15分、放射性造影剤などの薬物では5分ほどと短い。アナフィラキシーを発症したからといって、必ずしもショックを起こすわけではないが、ショックに至るケースでは、その症状の進行が非常に急速だということになる。
 「アナフィラキシーでは、迅速かつ的確に病態を認識し、必要な治療を早期に開始できるかどうかが救命率向上へと繋がる」と順天堂東京江東高齢者医療センター麻酔科・ペインクリニック講座教授の光畑裕正氏は説明する。蕁麻疹や発赤などの皮膚・粘膜症状に加え、喘鳴や呼吸困難などの呼吸器症状、血圧低下が現れた場合には、直ちにアナフィラキシーショックを疑い、対処を始めることが重要となる(表2)。

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表2 アナフィラキシーの診断基準(『食物アレルギー診療ガイドライン2012』を一部改変)

 Sさんの事故でも、もう少し早い段階でアドレナリンが投与できれば、最悪の事態を回避できた可能性がある。

どのタイミングでエピペンを打つか

 では、アナフィラキシー発症後のエピペン投与は、どういったタイミングで行うべきなのか。『食物アレルギー診療ガイドライン2012』によれば、そのタイミングは、喉頭浮腫が生じたり、血圧低下や不整脈をはじめとした循環不全の徴候が見られた場合とされている。
 しかし、このエピペンの投与タイミングについては、アレルギー専門医ですら、必ずしもきちんと理解できていない、というデータもある。
 昭和大小児科講師の今井孝成氏が実施したアンケートでは、「医師がアドレナリン投与のタイミングと考えるアナフィラキシー臓器症状」として、循環器(血液低下など)と答えた回答者は74.8%、喉頭(気道閉塞感など)は70.0%にとどまっていた。
 このアンケートに回答した医師674人のうち、エピペン処方登録医師は581人(86.2%)で、2011年の1年間に自己注射薬を処方をした医師は411人(61.6%)。エピペンは、講習を受講した登録医のみが処方できる薬剤だ。つまり、エピペンを処方している医師ですら、投与のタイミングや適切な打ち方をきちんと把握していなかったことになる。「循環不全や喉頭浮腫の徴候が認められたら、アドレナリンを投与すると考えてほしい」と今井氏はアドバイスする。
 エピペンは、投与後の副反応のデメリットよりも、投与のタイミングが遅れることによるリスクのほうが極めて大きい。「定期的に患者が投与のタイミングや打ち方を正しく理解できているか、確認すべき」と今井氏は話している。

ショック時は仰臥位で下肢挙上に

 アナフィラキシーへの対応は、アドレナリン投与だけではない。初期対応において、ショックへの対処も的確に実施しなければならない。調布の事故では、立てないほど重症化しているSさんを、トイレまで背負って動かしてしまうというミスが重なっている。
 症状がショックにまで進展した場合は、まず静脈還流を増加させ、血圧を上昇させる目的で「仰臥位で下肢挙上となるトレンデレンブルグ体位をとらせるべき」と光畑氏は言う。
 その後、気道の確保や呼吸管理、循環の管理を行い、重篤な患者にはアドレナリンを大腿中央前外側45度に筋注。アドレナリンの効果が薄れて症状が悪化する前に、速やかに基幹病院へ搬送するのが基本的な対応手順となる。
 これら初期対応が的確に実施されなかった背景には、教職員の認識不足や知識不足という面があることは否めない。
 日本学校保健会は2008年、『学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン』や『学校生活管理指導表』を発行しているが、必ずしも個々の教職員にまでは知識が浸透しておらず、緊急時対応への備えが不十分であったことが指摘されている。
 事故が起きた小学校でも、食物アレルギーに関する講義やエピペンの使い方に関する研修は実施されており、教職員もエピペンを打つ重要性について把握していたものの、実際に事故が起きた際には適切な初期対応ができなかった。
 この事故を受けて、日本学校保健会は食物アレルギーに関する基本的な知識とエピペンの打ち方をより多くの教職員に伝え、初期対応の重要性を啓発する目的で、4月から全国各地で教職員向けに研修会を開催している。

患児にもしっかりと認識をさせるべき

 給食の提供システムにも改善の余地がある。事故が起きた小学校では、除去食の提供をする際、Sさん本人にどの料理が除去食であるかを伝えていなかったことが明らかになっている。
 Sさんは、常に他の児童と異なる料理の容器とトレイを使用しており、この日にトレイに並んだ料理のうち、どれが除去食なのかの判断ができていなかったと考えられる。また担任も、当日どのメニューが除去食であるのかを把握しておらず、おかわりを勧めたときに、教職員向けに配布をされていた資料の確認をしていなかったという。
 この問題に対しては、様々な対策が検討されているが、まずはどの料理が除去食であるかを、担任や児童が明確に把握できるような仕組みを作らなければならない。また、容器の色を変えて配食する際に除去食であることが目で見て分かるようにしたり、アレルギーのある児童の名前を示して給食を提供し、除去食を食べている児童がおかわりを求めたときに、誤食を防げるように配慮する工夫も必要だろう。

行政、自治体も対応を勧める

 もちろん、学校内のアナフィラキシー対策だとはいっても、すべての対策を教職員に押しつけるわけにはいかない。現実には、食物アレルギーの診断をして必要に応じて学校に除去食の用意を指示するのは医師だし、エピペンを処方して患者や患者家族に使い方を指導するのも医師の役割だ。地域の教育機関におけるアナフィラキシー対策に、積極的に関わっていく姿勢が必要があろう。
 実際、そうした取り組みを始めた地域もある。神奈川県藤沢市では、2011年度から藤沢市母子保健推進協議会にアレルギー専門部会を設置し、議論を進めている。今年4月には、乳幼児期から小・中学校時期の食物アレルギー患者に一貫性のある対応をするため『藤沢市食物アレルギー対応運用手引き』を作成し、市内の保育園や小学校に入学する子どもに運用を開始している。
 同専門部会に、地域の開業医として携わっている長後中央医院(神奈川県藤沢市)院長の鈴木誠氏は、「マニュアルを作成するだけではなく、いつ発症者が出ても的確に対処できるように、年に1回ほどシミュレーションを実施するように呼び掛けている」と話す。教育機関や保護者に、除去食への対応やアナフィラキシー対策について、的確な情報を提供することも、医師の務めの一つだ。
 死亡事故が起きた調布市では、4月10日に「調布市食物アレルギー事故再発防止検討委員会」が設置され、アナフィラキシー発症予防の方法や発症後の迅速な対応をどのように啓発すべきかなどの議論がされている。
 再発を防ぐためには、「かかりつけ医などのアドバイスを踏まえて各教育機関が緊急時のマニュアルを作成し、万が一の事態が起きた際にも適切に運用できるように体制を整えなければならない」と今井氏は言う。
 文部科学省は、5月23日から「学校給食における食物アレルギー対応に関する調査研究協力者会議」を設置し、再発予防を目的に調布の事例を検証する議論を行っている。年度末には、一定の見解がまとめられる予定だ。

■ どうする食物アレルギー(2013年6月:読売新聞)

(上)おかわり禁止の学校も(2013年6月5日 読売新聞)

苦渋の選択で誤食防ぐ

 東京都調布市で昨年12月、食物アレルギーの児童が学校給食を食べて死亡する事故が起きて以来、再発防止の取り組みが各地で始まっている。文部科学省も先週、専門家を集めて会議を開いた。学校や家庭でいま何ができるか考える。
 給食で、食物アレルギーの子どもの「おかわり」を禁止する学校が出ている
 調布の事故は、乳製品アレルギーのある女児(11)が、おかわりで粉チーズの入ったチヂミを食べて起きた。女児には粉チーズを除いた給食が配られていた。だが、おかわりのチヂミにチーズが入っていたことが見落とされた。
 この事故の翌日から、東京都内のある公立小学校では、アレルギー対応給食が出る日には、対象児童には、おかわりをさせないことにした。学校の栄養士は「おかわりすると、他の児童のおかずを誤って食べてしまうリスクがある」と説明する。
 この学校では、アレルギー原因となる卵や乳などを除いた給食(除去食)は、ほかの児童の給食とは、作る鍋も工程も別にしている。器に盛りつけて蓋をし、クラスと名前、食品名などを書いたシールを貼り付けて配膳。教室では担任が直接児童に手渡す。調理から配膳まで注意を払っているという。だが、おかわりの場面では、確認が十分にできないと判断した。
 東京都足立区では、今年1月から、区内の全小中学校を対象に、アレルギー対応給食を食べている児童・生徒は、どんなメニューであっても「おかわり禁止」にした。
 区教委の担当者は、「保護者や教員から『かわいそう』との声もある。だがその日のメニューや食材をみながら、毎日対応を変えるのはリスクがある」と、やむを得ない選択であることを強調する。
 ただ、都内の別の区の公立小学校では、事故後も従来通り、アレルギー対応給食を食べる児童のおかわりに応じている。児童と担任教師が、その料理を食べられるかどうか、献立表を入念にチェックしているという。おかわりへの対応は、学校ごとに異なっているのが実情だ。
 文部科学省が2007年にまとめた報告書では、全国の公立学校で食物アレルギーのある児童生徒は2・6%。08年には同省が監修し「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」ができた。冷蔵庫や調理器具を使い分けるなど食材の混入や誤食を防ぐ指標を示したが、おかわりについての指標はない。
 NPO法人「アトピッ子地球の子ネットワーク」事務局長の赤城智美さんは、「事故を防ぎきれない現状では、おかわり禁止はやむを得ない面もあるが、あくまで暫定的なものと考えてほしい」と指摘する。「多くの学校では、アレルギーに理解のある栄養教諭らが個人的に頑張っているのが実情。現場の仕組みを整えず、おかわり禁止だけで済ませてほしくない」という。
 文部科学省は、給食対応も含め食物アレルギーの実態調査を実施する予定で、23日に専門医らを集めた調査研究協力者会議を開いた。メンバーの一人で相模原病院アレルギー性疾患研究部長の海老沢元宏さんは「事故を防ぐには献立から配膳まで一貫したリスク管理が必要。チーズが見えない形で料理に入っているという提供のあり方も見直すべきでは」と話している。

 メモ 給食のアレルギー対応は、大きく分けて三つ。アレルギー食材を除いて作る「除去食」と、牛乳の代わりに豆乳を使うなど食材を変えて栄養価を落とさずに作る「代替食・特別食」、そして本人が家庭から持ってくる「弁当持参」だ。

(中)給食以外でも起こる事故(2013年6月6日 読売新聞)

緊急時、教職員が注射薬

 横浜市の私立サレジオ学院中学・高校で5月20日、「食物アレルギー研修会」が開かれた。
 同校は弁当持参で給食は提供していない。しかし、主幹教諭の佐々木吉勝さんは「弁当だから問題ない、と言っていられなくなった」と話す。
 これまで学校現場の食物アレルギー対策は、給食の場面ばかりが注目されがちだった。だが、修学旅行や調理実習、体験学習など様々な場面で食物アレルギー事故は起こりうる。東京都調布市での死亡事故以後、ショック症状を起こした場合の緊急時対応に関心が高まり、研修会に取り組む学校や地域が増えている。
 同校の研修会には、学内の教職員約70人のほか、近隣の私立・公立の小中高校や幼稚園からも約40人が集まった。都立小児総合医療センターアレルギー科医師の赤沢晃さんが、約2時間にわたり食物アレルギーへの対応を紹介した。
 受講者の関心が高かったのが、ショック症状を和らげる注射薬エピペンの使い方だ。
 エピペンは、医師が患者に処方する薬で、学校に備え付けられているわけではない。ただ、文部科学省が監修した「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」では、教職員全員がエピペンの管理も含めて児童生徒の情報を共有するよう求めている。緊急時には、意識が低下した児童生徒に代わって教職員がエピペンを注射することもありうる。
 しかし、学校現場では、注射を打つことに不安感が根強いのも現実だ。この日の研修会で赤沢さんは、どんな場面で打つべきか目安をアドバイスした。「児童生徒に涙目、目の周囲の発疹、ゼーゼーヒューヒューいう苦しそうな呼吸など、二つ以上の症状が出たら迷わず踏み切ること。その次に起こるのはショック症状だからです」
 そのうえで赤沢さんは「緊急時には身近にいる教職員が短時間で様々なことを判断し、対応しなければならない」と日頃から予期せぬ事態に備えておく大切さを説いた。
 横浜市内の私立校の養護教諭(57)は、嘔吐して倒れた生徒の処置を巡り、迷った経験がある。当初は感染性胃腸炎と思ったが、唇が腫れていたため食物アレルギーを疑い、救急車を呼んでことなきを得た。「エピペンを持つ生徒は年々増えている。学校全体で生徒の情報を共有し、対応したい」
 別の私立校教員(46)も、部活動の合宿で、ヒヤリとしたことがある。アレルギーのある生徒が知らずにナッツ類を食べてしまい、保護者に連絡するなど対応に追われたという。
 独立行政法人日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会は、05~08年度の4年間で学校現場で起きた食物アレルギー事故804件を分析した。教室での発生が471件と最多だったが、運動場・校庭201件、体育館・屋内運動場87件、プール、廊下、昇降口など様々な場所で起きていることがわかった。
 NPO法人アレルギーを考える母の会代表の園部まり子さんは、「アレルギーのある子どもはいつどこで倒れるかわからない。子どもの命を守るために、学校の全教職員がアレルギーに対する理解を深め、非常時にどう対応したらいいのか、正しい知識を持ってもらいたい」と話している。

(下)正しい情報伝えるカード(2013年6月7日 読売新聞)

対応、連絡先など 周りの人に

 神奈川県鎌倉市の主婦(41)は、小学1年生の長男(6)のランドセルに「食物アレルギー緊急時カード」を入れている。
 名刺大のカードで、「卵と乳製品を食べると具合が悪くなります」「ちかくの大人かおうちの人を呼んでください」といったメッセージと保護者の連絡先などが書いてある。もし長男に症状が出る事態が起きても、このカードがあれば、どう対応すべきか、アレルギーのことをよく知らない周りの子どもにも伝わるからだ。
 主婦は「カードがあれば周りの人に適切に対応してもらえる」と話す。長男は「卵と乳製品のアレルギー」と診断されている。ショック症状を和らげる注射薬「エピペン」も処方されており、カードは注射薬と一緒にランドセルに入れてある。カードを書き込むにあたり、「友達からお菓子をもらったらどうする?」などと、親子で対応法についても確認し合った。
 このカードは、市民ボランティアグループ「ALサインプロジェクト」(同県藤沢市)が作成した。代表の服部佳苗さん(41)にも食物アレルギーの息子が2人いる。「学校や家庭を一歩出れば、自分で身を守るか、周りの大人や友達に守ってもらうしかない」と2007年からアレルギーの情報をわかりやすく伝える活動を始めた。カードもその一つだ。
 ただ、こうしたカードを生かすためには、そもそも子どものアレルギーについての正しい理解が欠かせない。服部さんには、活動を知った親から「カードが欲しい」という声が届く。しかし、実際に食品を食べて反応をみる「食物経口負荷試験」を実施する医療機関などを通じてしか、カードは配布していない。服部さんは「まずは受診してほしいという思いからです」と話す。
 同プロジェクトを監修する神奈川県立こども医療センターアレルギー科部長の医師栗原和幸さんは、「正しい診断がないままに『食べられない』と思っている親子が多い」と指摘する。「かつて食べて具合が悪くなったからアレルギーだろう」「念のため、やめておこう」と必要以上に多くの食品を除去しているケースもあるという。
 文部科学省監修の「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」の中でも、「あまりに除去品目数が多い場合には、不必要な除去を行っている可能性が高いとも考えられる」と指摘している。
 正しい情報を伝えることはアレルギーに対する誤解を解く助けにもなる。NPO法人「アレルギー児を支える全国ネット アラジーポット」(東京)は、紙芝居で子どもたちにアレルギーのことを伝えている。「好き嫌いで食べられないのではなく、命に関わる大変なこと」と伝える内容だ。東京都調布市の事故以後、学校からの問い合わせが急増し、この春からは公益財団法人日本学校保健会を通じて頒布することも決まった。
 親も教師も、アレルギーのある子どもも周りの友達も。より多くの人がアレルギーについて正しく知ることが、命を守るために欠かせない。(大森亜紀、月野美帆子)

■「食物アレルギー」学べるゲーム(2013年2月22日 読売新聞)

 アレルギー症状を起こさずに、いかにバラエティー豊かなランチメニューをそろえるかを競う。遊びながら理解を深められ、子どもにも大人にも役立ちそうだ。 食物アレルギーについて学ぶカードゲーム「らんらんランチ」が日本生協連出版部から発売された。

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 開発したのは、順天堂大医学部公衆衛生学教室助教の堀口逸子さんらのグループ。厚生労働省の補助で、食物アレルギーの情報を子どもたちにどう正しく伝えるのかを研究し、その成果を商品化した。
 堀口さんは「好き嫌いで『食べない』ことと、アレルギーを起こすため『食べてはいけない』ことの違いを、患者や家族だけでなく、周りの人にも知ってほしかった」と話す。説明だけでは忘れがちなため、繰り返し遊べるゲームを考えたという。
 3~5人で遊び、使うカードは2種類70枚。小麦や卵などアレルギー症状を起こすアレルゲンが1種類ずつ書かれた「アレルゲンカード」と、ハンバーグやエビチリなど料理名が書かれた「メニューカード」がある。
 プレーヤーには、3枚ずつアレルゲンカードが配られ、そこに書いてあるアレルゲンが入った料理は食べられない。いわば患者を疑似体験するわけだ。
 プレーヤーは、メニューカードを選んだり、交換したりして、5日分のランチメニューを作る。作ったメニューが、症状を起こさずに食べられるか、和食、洋食、中華など多彩かどうかで勝敗を決める。
 すでにゲームを導入した小学校や保健所があり、「いろいろなアレルギーがあると知ることができた」「楽しかった」などの感想が堀口さんのもとに届いているという。
 価格は1箱800円(税、送料別)。日本生協連出版部へファクス(03・5778・8051)で注文できる。

■ 大人の食物アレルギー増加 乳幼児と異なる原因(2013/2/14:日本経済新聞)

 特定の食べ物が原因で皮膚や呼吸器などにアレルギー反応が出る「食物アレルギー」を成人になってから発症する人が増えている。原因となる食品の傾向は乳幼児と異なり、野菜や果物が多い。発症の詳しいメカニズムは解明されておらず、治療法は確立していないが、患者の体質に応じて症状を改善する動きが大規模病院を中心に始まっている。
 東京都杉並区に住む会社員の女性(33)は27歳の時に突然、食物アレルギーを発症した。リンゴや桃、ナッツ類を少しでも食べると呼吸が苦しくなる。「洋菓子などはアーモンドパウダーを使っていることが多く、控えざるを得ない」という。

■花粉の季節要注意

 専門医を受診し、症状を引き起こす食品は特定できたものの、発症の詳しい原因は分からないまま。「今後、別の食べ物にも反応してしまうのではないかと考えると怖い」。スギ花粉の飛散が多くなる2~3月はアレルギー反応が激しくなることが多く、2~3週間に1回通院し、症状を抑えるための薬を処方してもらっている。
 食物アレルギーは、身体が食べ物に含まれるたんぱく質を異物と認識し、防御のために過剰な反応を示すことで起きる。
食物アレルギー研究会」には、前年を大きく上回る400人超の医療関係者などが参加した(1月下旬、東京都品川区)
 厚生労働省は「表れる症状によって、皮膚疾患や呼吸器障害などに分類されており、患者数の統計は取りにくい」としているが、専門医の多くは「生活環境の変化に伴い、乳幼児とともに、大人の患者が増えているのは間違いない」とみる。
 公益財団法人日本アレルギー協会(東京・千代田)の宮本昭正理事長は10年ほど前から成人の患者が急増し、20代では1%程度の人が症状をもっているとしたうえで、「成人患者の10人に1人は原因となる食べ物を口にすると、ショック症状などの重篤な症状を引き起こしている」と指摘する。

乳幼児と成人の食物アレルギーは原因となる食べ物の傾向が大きく異なる
 厚労省研究班が2011年にまとめた「診療の手引き」によると、乳幼児を中心とした2478人に対する調査では、鶏卵が38.7%で最も多く、牛乳(20.9%)、小麦(12.1%)などが上位を占めた。

■果物・野菜が最多

 これに対し、国立病院機構相模原病院(相模原市)が実施した09~11年の患者調査(対象153人)によると、成人はリンゴや桃、梨などの果物・野菜が48.4%で最多。以下は小麦(15.7%)、エビやカニなどの甲殻類(7.2%)と続いた。ただ、発症の詳しいメカニズムが解明されておらず、なぜ果物や野菜が成人に多いのかは分かっていない。
 幼児の場合、消化機能の発達とともにアレルギー反応が減ることが多い。また、専門医らでつくる食物アレルギー研究会会長の近藤直実・岐阜大大学院教授によると、原因となる食べ物を少しずつ摂取することで体の免疫を慣らす「経口減感作療法」は牛乳などには有効だが、ナッツ類や魚介類には効果が小さい。
 成人患者の治療は難しいとされ、近藤教授は「原因や症状、治療後の反応は一人ひとり異なる。体質や特徴を把握したうえで治療を進め、生活上のアドバイスをする必要がある」と指摘する。
 大規模病院ではこうした対応が始まりつつある。
 重篤な食物アレルギーに悩む患者を受け入れている相模原病院はまず細かなアレルギー分類試験を実施。その後、問診や血液検査に加え、原因物質を皮下細胞に触れさせる皮膚検査などで詳細に調べる。例えば、リンゴでアレルギー反応が出る人でも、加熱したアップルパイなら反応が弱まることもある。原因となる食べ物を特定するだけでなく、どの程度の量で、どんなアレルギー反応が出るのかを見極める。
 同病院臨床研究センターの福冨友馬医師は「原因となる食べ物をしっかりと突き止め、それを避け続けるのが最も有効な対処法となる」と話す。間違って口にする「誤食」を防ぐための指導を徹底しているという。
 成人のアレルギーを巡っては、原因物質がまず皮膚から吸収されて抗体がつくられ、その物質を含んだ食品を食べて反応が出るケースもある。10年ごろから全国的に問題となった洗顔せっけん「茶のしずく」が代表例で、せっけんに含まれる小麦由来のたんぱく質が原因となった。
 食物アレルギーを完治させる方法はまだ確立していない。日本はアレルギーの専門医が少ないといわれており、患者の増加とともに、研究や診療体制の裾野が広がることが期待されている。
◇            ◇

■食品会社、対策進める 原料表示を強調/工場に専用施設

 食物アレルギーをもつ人が原因となる食品を知らずに食べることがなくなるよう、国は2002年、食品衛生法に基づき、加工食品のアレルギー表示制度をスタートさせた。食品メーカー各社は表示方法を工夫するとともに、製造過程での混入防止を図るなど安全対策を取っている。
 消費者庁によると、発症件数が多く、症状が重くなりやすいとして省令で特定原材料等に規定し、表示を義務付けているのは、エビ、カニ、小麦、ソバ、卵、乳、落花生の7品目。オレンジ、サケ、大豆、鶏肉など18品目は表示を推奨している。
 加工食品製造の石井食品は06年、特定原材料等とアレルギー物質の一覧表の位置を包装材の裏面から表面に変更し、消費者が商品を手にしたときに見えるようにした。09年にイラスト表示を採用して分かりやすさを改善した。
 昨年7月には京都府の工場で、特定原材料等が混入しない専用施設を稼働させた。7品目のいずれかを使う商品と全く使わない商品はキッチンや保管場所を分け、製造ラインごとに作業着や機材の色を区別。空調の吸排気や排水も独立させた。
 ハウス食品は09年から、商品に含まれる原材料の一覧表の中で、特定原材料等を赤い文字で表記。さらに特定原材料等だけを抜き出し、別枠で記載している。サントリーホールディングスは表示の対象になっていないアルコール飲料の一部でも、オレンジなど特定原材料等を含む場合は自主的に表示している。

■ 子供の食物アレルギー 代替食品は利用進まず(2013.2.18 産経新聞)

 食物アレルギーを持つ乳幼児の母親で、アレルギーに対応する市販の代替食品を利用している人は12%にとどまることが日清オイリオ(東京都中央区)の調査で分かった。
 調査は、食物アレルギー疾患と診断された0~5歳の子供を持つ母親100人に実施。子供の食事で実践していることは「アレルギーの原因物質を除去したメニューにする」が最も多く、「同じ食品を続けて食べさせないようにする」などが続いた。
 一方で、「市販の低アレルギー食品やアレルギー対応食品を活用する」は12%。代替食品は米粉で作ったパン、卵を使っていないパンやマヨネーズなどが知られていたが、実際に使った人はわずかだった。
 診断後の定期的な受診は20%にとどまり、「一度診断を受けた後は受診していない」との回答が27%に上った。神奈川県立こども医療センターアレルギー科の栗原和幸部長は「必要最小限の除去を心掛けるべきだ。症状が出ている間は、厳重に除去しながら栄養価の不足に配慮し、おいしく楽しい食事がとれるよう工夫が必要」と指摘している。

■ 食物アレルギー:修学旅行生に対応(毎日新聞 2013年02月14日)

 食物アレルギーを抱える子供たちに安心して修学旅行を楽しんでもらおうと、京都府は来年度から、アレルギー対応の食事(除去食)を提供する旅館やホテルを増やすための事業を始める。府内を訪れる修学旅行生は年間約100万人。調理法を盛り込んだマニュアル作成などに取り組む予定で、来年度予算案に約1300万円を計上した。全国的にも珍しい取り組みという。
 府健康対策課によると、宿泊施設は修学旅行を受け入れる際、事前に学校とアレルギー対応について協議する。最近は、卵や小麦粉などの原因食を使わずに、見た目には通常と変わらない料理を作る方法などが考案されているが、これまでは宿泊施設側の努力に任されていた。
 そこで同課は、管理栄養士や旅館経営者、旅行代理店などを集めたプロジェクトチームを発足させ、アレルギーのある子供も皆と一緒に食事を楽しめるような調理法やショック症状を起こした時の対応方法などを盛り込んだマニュアルを作成する。また、専門家が宿泊施設からの相談に対応する窓口の設置も計画している。
 府の保健師が、保護者の間で「修学旅行に行く子供のアレルギーが心配」との声があることを知り、発案した。同課は「多くの宿泊施設にノウハウを身につけてもらい、保護者に安心してほしい。将来は個人旅行者にも対応してもらえれば」と話す。

■ 小5女子児童、給食後に死亡… アレルギー反応か(2012年12月21日 読売新聞)

 東京都調布市の市立富士見台小学校で20日、5年生の女子児童(11)が給食を食べた後に体調を崩し、死亡していたことが警視庁調布署などへの取材でわかった。
 女子児童には食物アレルギーがあり、同署は、アレルギーの原因となる食品を取ったことによる急性反応「アナフィラキシーショック」で亡くなった疑いがあるとみて、死因を調べている。
 同署などによると、女子児童は給食後の20日午後1時20分頃、清掃時間中に体調不良を訴え、救急搬送されたが、午後4時半頃亡くなったという。
 女子児童はチーズや卵にアレルギーがあり、給食では、こうした材料を除いた特別食が提供されていた。ほかの児童の給食には、チーズ入りのメニューがあったという。

□ 女児アレルギー死、誤ってチーズ入りチヂミ渡す(2013年1月8日 読売新聞)

 東京都調布市の市立富士見台小学校で昨年12月20日、チーズなどにアレルギーのある5年生の女子児童(11)が給食を食べた後に死亡した問題で、女児がお代わりを食べる際、担任の教諭から誤ってチーズを含んだ料理を渡されていたことが分かった。
 7日夜に行われた保護者説明会で、同市教委などが経緯を説明した。
 12月20日の給食では、生地にチーズを練り込んだ韓国風お好み焼き「じゃがチヂミ」が出たが、女児用には特別にチーズ抜きのチヂミが用意されていた。説明会の出席者などによると、女児はチーズ抜きのチヂミを食べた後、お代わりを希望し、担任が誤って、女児にチーズ入りのチヂミを配ってしまったという。

□ アレルギー死、お代わりで「×印」確認怠る(2013年1月9日 読売新聞)

 東京都調布市の市立富士見台小学校で昨年12月20日、チーズなどにアレルギーのある5年生の女子児童(11)が給食を食べた後に死亡した問題で、同市は8日、女児がお代わりを希望した際、担任の男性教諭(29)がチーズ入りの料理を誤って提供していたとする調査結果を公表した。
 同日、記者会見した海東元治・市教育長は「ご遺族に心よりおわびします」と陳謝した。市教委は、医師や弁護士を含む検証委員会を設置し、再発防止策などを検討する。
 当日の給食は生地にチーズを練り込んだ韓国風お好み焼き「じゃがチヂミ」が出たが、女児用にはチーズを抜いたチヂミを1食分だけ用意。担任には1か月分の献立表が渡されており、女児が食べられない料理には「×印」が付けられていたが、確認を怠っていたため、お代わりを求められた際、女児に食べさせてはいけない「チーズ入り」だったことには気付かなかったという。

□ 女児死亡の小学校、9月にも給食アレルギー事故(2013年1月22日07時16分 読売新聞)

 東京都調布市立富士見台小学校で昨年12月、アレルギーのある5年生の女子児童(11)が給食後に死亡した問題で、昨年9月にも1年生の児童がアレルギー原因食材の卵料理を食べ、救急搬送される事故が起きていたことが、同校関係者への取材でわかった。
 学校関係者によると、昨年9月下旬、卵にアレルギーのある児童の給食に誤ってオムレツを出した。この児童はむせるなどのアレルギー反応を起こし、救急車で病院に搬送された。治療を受け、翌日は登校したという。
 同校では通常、アレルギーのある児童には原因食材を除いた特別食を作るなどしていた。児童が2学期に転校してきたばかりで、教職員と調理員の間で児童のアレルギーに関する情報が共有されていなかったという。
 この事故を受け、同校では翌10月に教職員向けの再発防止研修会を開いたが、その2か月後に死亡事故が起きた。市教委は「研修会を開きながら防げなかったのは、教職員の危機意識が低かったと言わざるを得ない」としている。

□ 自己注射薬、迷ったら打て…アレルギー女児死亡(2013年1月27日 読売新聞)

 東京都調布市の小学校で昨年12月20日、チーズにアレルギーのある5年生の女児(11)が給食の後に亡くなった。
 チーズ入り料理を食べたことによる「アナフィラキシーショック」の可能性が高い。この学校では9月にも、1年生の男児が給食後に救急搬送されていた。子供の命を救うことはできなかったのか。市教育委員会の調査結果から、問題点を検証する。

専用献立表

 「余っているよ、食べる人いない?」。5年生担任の男性教諭(29)はその日、給食時間の後半、チーズ入り「じゃがいものチヂミ」を持って教室内を回った。「ほしい」と声をかけたのが、その女児だった。
 女児は日頃からアレルギーに対応した特別食を食べているため、担任は「大丈夫か?」と尋ねた。
 「これ見ればわかる」。女児が担任に見せたのは、保護者が女児に持たせた献立表。食べられない料理にピンクの線が引かれていた。「じゃがいものチヂミ」には線がなかったので、担任はお代わりを渡した。
 だが、担任にはこの前に確認しなければならない別の資料があった。栄養士から渡された女児専用の献立表「除去食一覧表」だ。
 同校は女児にアレルギー原因食材を除いた「除去食」を提供しており、この日もチーズ抜きを1食分だけ調理して配膳。除去食一覧表では、女児が通常の「じゃがいものチヂミ」をお代わりできないことが、「×」印で示されていた。

迷ったら

 女児は給食終了から30分とたたない清掃時間中に、体調不良を訴えた。担任は女児のランドセルから、アナフィラキシーショックを抑える自己注射薬(商品名・エピペン)を取り出し、「これ打つのか」と尋ねたが、女児が「違う、打たないで」と答えたので、注射をやめた。女児はアレルギー原因食材を食べたことに気付いていなかったようだ。
 その後、養護教諭が駆け付けて救急車を要請。女児は立てない状態で、約10分後に校長がエピペンを打ったが、まもなく到着した救急隊員から「心肺停止」を告げられた。
 食物アレルギーに詳しい昭和大医学部の今井孝成講師はエピペンについて、「呼吸困難などの重い症状が出たら迅速に注射すべきだ。副作用は小さいので、迷ったら打て、と言いたい」と指摘。今井講師は「児童100人に2人程度の割合で食物アレルギー患者がおり、どこの学校で事故が起きてもおかしくない」と注意を呼びかけている。

□ 食物アレルギー、戸惑う学校…緊急用注射薬の取り扱いに差(2013年1月29日 読売新聞)

 昨年12月に東京都調布市の小学校で5年生の児童(11)が給食を食べた後に亡くなった問題で、食物アレルギーの深刻さが改めて注目された。
 緊急時の注射薬の使用をめぐって学校現場には戸惑いもある。教職員や周囲の大人もアナフィラキシーへの対処法を知っておきたい。
 「アナフィラキシーはいずれの学校でも起こりうる。事故を繰り返さないために、特別なことと思わず、日頃から学校全体で準備してほしい」
 文部科学省と厚生労働省が合同で今月11日に東京都内で開いた「アレルギー疾患に対する普及啓発講習会」。集まった教職員や保育関係者を前に、両省の担当官らが再発防止を強く呼びかけた。
 食物アレルギーを持つ子どもは珍しくない。文科省が2004~05年に児童生徒約1280万人に行った調査では、食物アレルギーを持つ割合は2・6%だった。
 このため、文科省が監修して08年に「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」がまとめられた。子どものアレルギーの情報を教職員全員で共有し、緊急時には、ショック症状を和らげる自己注射薬(商品名「エピペン」)を、児童・生徒に代わって教職員が使用するなどの対応策を促している。
 学校給食に関する著書がある東京農大学術研究員の牧下圭貴さんは「教育現場ではアレルギー対応について問題意識がやっと高まってきたところ。自治体や学校によって対応に差がある」と話す。
 特に問題なのがエピペンの取り扱いだ。文科省が10年に全国の教育委員会などに聞き取り調査をしたところ、教職員向けにエピペンの講習会を実施しているのは47都道府県のうち37にとどまった。
 教職員からは「注射をするのは怖い」という声があり、文科省は09年7月には、教職員が緊急時にエピペンを使用するのは「医師法違反にならない」と全国の都道府県教委などに通知している。しかし、依然として、「どう使っていいのかわからない」「負担になる」など戸惑う声が根強いという。
 学校での取り組みを広げるため、NPO法人「アレルギーを考える母の会」(横浜市)では、09年から神奈川県と連携し、小児アレルギーの専門医を講師に、学校でのエピペンの使い方などの研修を実施している。これまでに教職員ら3460人が参加した。
 同会代表の園部まり子さんは「自己注射薬は命を守る道具だということが、現場の先生や管理職に伝わっていない」と話す。アナフィラキシーの症状は瞬く間に進むため、救急車の到着を待っていると治療が手遅れになる可能性があることなどを専門医が具体的に説明し、自己注射薬の必要性を理解してもらっているという。
 園部さんは、「エピペンがどこに置いてあるかなどは、みんなが知っておく必要があるのに、養護教諭任せにするなど、危機感が薄い学校も多い。いざという時の備えは十分ではない」と話す。
 地域の消防との連携も欠かせない。千葉市や大阪府大阪狭山市では、エピペンを処方されている児童・生徒について、保護者の同意を得て、地域の消防機関とも子どもの情報を共有し、緊急時には迅速に対応できる救急搬送システムを作っている。
 全国養護教諭サークル協議会の舟見久子さんは、「子どもの命を守るために、日頃から二重、三重のチェックをし、緊急時に誰もが対応できるよう情報共有することが欠かせない」と話す。(大森亜紀、月野美帆子)
 アナフィラキシー 食物や薬物、ハチ毒などが原因で起こるアレルギー反応。皮膚や呼吸器など全身の様々な臓器に症状が表れ、急速に悪化するのが特徴。血圧が低下してショック症状(アナフィラキシーショック)を引き起こす場合があり、命を落とすこともある。

急激な重症化に注意…目を離さず、周囲に応援頼む

 アナフィラキシーを起こすと、命に関わる場合もある。患者や家族だけでなく、周囲も正しく理解して、適切な対処法を身に着けておきたい。

 Q 食物アレルギーでは、どんな症状が表れるのか。

 A 昭和大学医学部小児科講師の今井孝成さんが学校給食で食物アレルギーを起こした637例を調べたところ、皮膚症状が一番多く68%、粘膜症状42%、呼吸器症状30%、消化器症状11%、ショック症状が7%だった。

 Q 症状を起こさないための注意点は。

 A 祖父母らが「少量なら大丈夫」「食べられないのはかわいそう」などと、孫に原因食材を食べさせ、起こることがある。少量でも厳禁だ。原因食材を食べないだけでなく、接触にも注意したい。牛乳アレルギーの子どもが牛乳パックを使った工作で発症したケースもある。

 Q アナフィラキシーへの対応は、どうすればいいか。

 A 食物アレルギーを持つ子を預かる時は、事前に緊急連絡先や注意点を聞くなど、事故への備えをしておきたい。
 万が一、症状=表=が複数出てきたら、子どもの状態を見つつ、保護者や主治医などに連絡を取ること。アナフィラキシーは、様々な症状が出る。瞬く間に悪化することが多いので「そのうち落ち着くだろう」などと考えて一人で休ませておくと、手遅れになる可能性がある。子どもから決して目を離さず、すぐ周りに応援を頼むこと。
 「今まで症状が表れた経験がない子が急にアナフィラキシーを起こす可能性もあり、表のような症状が出たら注意してほしい」と今井さんは話す。

 Q エピペンはいつどう使うのか。

 A エピペンは、ショック症状を抑えるための注射薬。表の重症の症状などに当てはまる場合に、携帯用ケースから取り出して、太ももに打つ。効き目はすぐに表れるが10~15分しか持続しないので、すぐ救急車を呼ぶことも必要だ。
 厚生労働省は、エピペンの使い方などの対応をインターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」で発信している。

□ 給食 アレルギー対応に違い(2013年2月2日 読売新聞)

 食物アレルギーのある子どもの給食について、山口県内の市町の対応にばらつきがあることがわかった。
 給食後、子どもにアレルギー症状が出た事故を教訓に対策を講じて対応している自治体がある一方で、給食を提供していない自治体もある。専門家は「リスクはあっても、できる対応をとるべきだ」と指摘している。
 給食のアレルギー対応を巡っては、昨年12月に東京都調布市の小学校でチーズにアレルギーのある5年女児が給食の後に死亡する事故が発生。県内でも2011年度以降、児童が救急搬送されるなどの事故が少なくとも4件起きた。
 県教委によると、食物アレルギーのある子どもは、05年度に小学生の1・7%、中学生の1・6%だったが、11年度には小学生2・4%、中学生2・7%に増加している。こうした子への給食対応としては、乳製品や小麦粉などの原因食材を除く「除去食」と、魚が原因の場合に肉を提供するなどの「代替食」がある。
 読売新聞が県内全19市町教委に取材したところ、対応していたのは15市町だった。このうち、萩市は「除去食は必ず作り、可能であれば代替食も提供する」とした。周防大島町も「添加物にも反応する子は弁当を持参してもらい、それ以外は除去食を作る」態勢を整えていた。
13市町は「設備が整った新しい給食センターだけが対応している」(周南市)などと、学校によって対応が異なっていた。
 一方、光、柳井市、和木、田布施町は、
▽調理施設が狭く除去食などを作るスペースがない
▽職員が少なく対応できない▽保護者の要望がない
――などの理由で対応していなかった。

 除去食などを提供する場合、誤食の危険性が生じる。事故が起きた山口市と萩市では、代替食の食器に対象児童の名前を記したり、原因食材が混ざらないように対象児童の給食をつくる専属調理員を置いたりするなどの対策を取って対応している。萩市教委は「全員で給食を食べる時間を大切にしたい」とする。
 一方、給食対応しない学校では、アレルギーのある子どもたちは自分で原因となる食材を取り除いたり、弁当を持参したりする。
 食物アレルギーに詳しい昭和大医学部の今井孝成講師は「給食を提供しなければ事故は起きないが、周囲と同じ食事ができないことは、子どもにとって大きなストレス」と指摘。「『対応できない』と門前払いせず、できる対応について保護者と話し合うべきだ。症状が発症する危険性が高いピーナツや甲殻類を給食に出さないという方法もある」としている。
 中2の長男にアレルギーがある長門市の女性(40)は「危険を冒して給食を希望することを、疑問に思う人がいるかもしれないが、自分だけ同じものが食べられないつらさを理解してほしい」と願う。

■ 水道水や農薬に含まれる化学物質が食物アレルギーに関連

(2012/12/14:Healthday News)

 水道水の精製に用いられるジクロロフェノールと呼ばれる化学物質が、食物アレルギーの発症の一因となっている可能性のあることがわかり、研究結果が「Annals of Allergy, Asthma and Immunology」12月号に掲載された。米国アレルギー・喘息・免疫学会(ACAAI)の研究グループによると、この物質は農薬の製造にも用いられ、農薬処理された果物や野菜にも含まれている可能性があるという。研究の筆頭著者であるElina Jerschow氏は、「高濃度のジクロロフェノールを含有する農薬が食物アレルギーを引き起こす可能性がある」と説明している。
 今回の研究では、全米健康栄養調査(NHNES)に参加した6歳以上の2,200人を超える被験者について検討。1種類以上の食物に対して過敏性のある人は、アレルギーのない人に比べ、尿中のジクロロフェノール値が高いことが判明した。被験者のうち400人以上に食物アレルギーがみられ、1,000人以上に環境アレルギーがみられた。
 米ノースショア大学病院(ニューヨーク州)職業・環境医学センターのKenneth Spaeth氏は、「農薬への低レベルの曝露は誰にも日常的に起こっていることであり、特に懸念すべきである」と指摘している。免疫システムの発達は胎児期から小児期を通して続くことがわかっており、この時期に農薬に曝露することによりアレルギーのリスクが高まると考えるのは妥当だと同氏は述べ、この問題についてさらに研究を重ねる必要があるとしている。Jerschow氏もこれに同意し、「今回の研究は、食物アレルギーと環境汚染の増大が関連している可能性を示すものだ」と述べている。水道水をボトル入りの水に切り替えたとしても、農薬処理された果物や野菜などの影響のほうが大きい可能性もあると、同氏はいう。
 米国疾病管理予防センター(CDC)によると、米国では1997年から2007年までに小児の食物アレルギーが18%増加しているという。特によくみられる食物アレルギーは、乳、卵、ピーナッツ、小麦、木の実類、大豆、魚、甲殻類など。症状は軽度の発疹からアナフィラキシーと呼ばれる生命に関わる反応まで幅広い。

 Spaeth氏はこのほか、農薬曝露を軽減するために、次のことを勧めている。

・自然食品を中心とする食事を摂る
・農薬が使用されている区域、建物、庭に入らない
・家庭での農薬の使用をなるべく避ける
・地元の学校に無毒性の害虫駆除を促進する取り組み)を勧める。

■ 新生児における牛乳アレルギーの臨床的特徴

(2012.11.1:ケアネット)

 牛乳アレルギー(CMA)を疑う食物関連症状の臨床的所見は、早産児であることや消化器外科手術のような根本的要因に影響を受けると報告された。昭和大学の宮沢氏らによる報告。
 CMAは新生児における消化器症状の原因の一つである。これまで、早期乳児期におけるIgEを介したアレルギー反応とCMAとの関連は示唆されているものの、臨床的所見と発症機序は確立していなかった。Allergol Int誌オンライン版 2012年10月25日号掲載報告。
 本試験は先行研究のフォローアップとして実施された。53施設の新生児集中治療室に第2弾のアンケートが送られ、患者背景、発症年齢、臨床的所見や臨床検査の結果が回収された。

主な結果は以下のとおり。

・出生体重中央値は2,614g、妊娠期間中央値は36.9週であった。
・症例のうち、40%で生後6日以内に症状が生じ、90%で消化器症状が生じた。主な消化器症状は、嘔吐、血便、腹部膨満であった。
・特異的IgE試験、リンパ球刺激試験、および糞便中好酸球検査は、それぞれ、88%、23%、55%で実施された。その結果、陽性率はそれぞれ30%、84%、75%であった。
・食物経口負荷試験(OFC)は確定診断のために26%で実施された。
・新生児でCMAを疑う食物関連症状の臨床所見は、一般的な即時型食物アレルギーとは異なり、早産児であることや消化器外科手術のような根本的要因に影響を受けた。

(ケアネット 森 幸子)

参考文献
Miyazawa T,et al. Allergol Int. 2012 Oct 25. [Epub ahead of print]

・OITは耐性獲得を誘導する可能性のある治療で、研究段階にあるが、現時点で「食物アレルギー診療の手引き2011検討委員会」はOITを一般診療として推奨しない。
・OITにより必ず耐性獲得できるわけではなく、また治療経過中に症状が誘発されることも多く、かつ重篤な副反応も起こりうる。
・OITは専門の医師が患者及び保護者から十分なインフォームド・コンセントを得た上で、症状出現時の救急対応に万全を期し、慎重に取り組むことが強く推奨される。
・減感作状態(※)と耐性獲得は異なる状態であり、未解決や未知の問題が山積している。
(※)OITにより症状が出ない状態

を現段階で支持致します。
また、“食物アレルギー診療ガイドライン2012(JPGFA2012)”作成にあたり、現時点においては、「経口免疫療法を専門医が体制の整った環境で研究的に行う段階の治療である」と位置づけています。

平成24年2月 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会

■ [医療解説] アレルギーでショック症状… 緊急の自己注射で緩和

(2012年3月3日 読売新聞)
 アレルギーのある食物を食べたり、ハチに刺されたりした時、呼吸困難や意識消失など急激な症状が表れることを「アナフィラキシー」という。この状態になった場合、緊急に使用して症状の改善を図る自己注射薬が2011年秋に保険適用された。(針原陽子)

アレルギーによるアナフィラキシー.jpg

 関東地方の小学校に通う児童は数年前、給食を食べてすぐ、呼吸困難などの症状が出た。牛乳に対するアレルギーがあり、代替食の提供を受けていたが、おかわりの際、調理師が誤って通常食を提供したのだ。学校はすぐに保護者に連絡、駆けつけた母親が、症状を緩和する自己注射薬を使った後に病院で受診し、事なきを得た。
 アナフィラキシーは、食べ物などが体に入った時、過剰に反応するアレルギー反応の一つだ。
 食べ物やハチの毒、薬などのアレルゲン(アレルギーのもととなる物質)が体内に入ると、それを「異物」とみなして攻撃する「抗体」が作られ、目や鼻の粘膜や気管支、腸などに存在する「マスト細胞」に結合する。その後、再びアレルゲンが入ると、抗体と結合して、マスト細胞が活性化し、細胞内の神経伝達物質が血液中に放出される。
 神経伝達物質のヒスタミンは、かゆみやくしゃみ、鼻水などを誘発する。ロイコトリエンは気管支の収縮などを招き、呼吸困難、嘔吐、発疹、下痢などを引き起こす。意識消失や血圧低下などを伴う「アナフィラキシー・ショック」に陥ると、死に至ることもある。
 国立病院機構相模原病院(神奈川県相模原市)臨床研究センター・アレルギー性疾患研究部長の海老沢元宏さんによると、日本では年間約60人がアナフィラキシーショックで死亡する。半数はハチ毒が原因で、残りは食物や薬によるものか、原因不明という。
 死亡を防ぐには、症状を緩和する自己注射薬(商品名「エピペン」)を使うのが効果的だ。エピペンは、アドレナリン(別名エピネフリン)が入っており、気管支を広げて呼吸困難を改善するほか、心臓の機能を増強して血圧を上げ、ショック症状を和らげる。しびれやせき込みなど、アナフィラキシーの初期症状が出た時点で、太ももの前の外側に注射する。
 エピペンは、アメリカで30年以上前から使われている。日本では2003年、ハチ刺されに対し承認され、05年に食物や薬によるアレルギーにも認められた。しかし当初は保険がきかず、処方料なども含め1本約1万5000円と高価で、患者団体は保険適用を求めてきた。11年9月に保険が適用され、薬価は1万950円(0・3ミリ・グラム)、8112円(0・15ミリ・グラム)で、3割負担だと約3300~約2400円程度になる。
 文部科学省が児童・生徒約1280万人を対象に04~05年に行った調査では、食物アレルギーの有病率は2・6%。0・14%が、アナフィラキシーショックの経験があった。
 保険適用により、発症の可能性のある子どもにエピペンを携帯させる保護者が増えると考えられる。海老沢さんは「保育園や学校などで発症した時に備えて、保育士や教職員に対し、エピペンの安全な使い方の講習会を開くなど、対応を進めるべきだ」としている。

■ 患者を生きる:食物アレルギー(2012年1月:朝日新聞)

プロローグ〜食物アレルギー、食べて治す 牛乳や卵、専門医のもとで徐々に摂取

 食物アレルギーを、その原因となる食物をあえて食べることで治す療法の開発が進んでいる。従来は原因食物を食べないようにして症状を避ける治療が中心だったが治った例も出てきた。症例をさらに重ねて効果や安全性を確認することが期待される。食事療法なので手軽に思えそうだが、危険も伴うため、専門医のもとで行うことが鉄則だ。(長野剛)

● 重症患者の改善例も

 「う~ん。まずい」
 2月の昼下がり、病室で小学生2人が医師に見守られ、飲み慣れない牛乳を飲んでいた。2人は牛乳による食物アレルギーの重症患者で、元々は飲むと命の危険があった。
 だが、8日前に入院してから毎日少しずつ飲む量を増やし200ミリリットルを飲み干せるようになったという。
 入院当初は発作が起こるのではと怖がった小学4年の植田尚那(たかとも)君(10)も「完全に治ったら(牛乳が使われていて食べられなかった)給食のパンが食べたい。あとデザートも」と目を輝かす。
 牛乳と卵の食物アレルギー患者を対象に、神奈川県相模原市の国立病院機構相模原病院は2008年から、原因食物をとらせる治療の臨床研究を始めた。入院と薬剤費以外は病院持ちで、患者の負担は約10万円ほどだ。
 厚生労働省研究班の代表者でもある同病院の海老澤元宏医師は「必ずしも全員治るわけではないが、治癒の道が開けてきた」と語る。
 食物アレルギーで目立つのは、原因食物を食べるとじんましんなどが出る即時型で、時には呼吸困難や血圧低下などが起きて生命の危険がある激しいアレルギー反応のアナフィラキシーを起こす。
 同病院の入院治療対象はアナフィラキシーを起こす即時型で自然治癒が見込みにくい小学生以上の重症者だけだ。
 最初は原因食物を少量ずつとり、アナフィラキシーを起こす限界量を見極める負荷試験をする。1回の摂取が牛乳なら50ミリリットル、卵なら半個までになる間に症状を起こすような患者は、治療に移るため入院してもらう。
 入院では、アレルギーを抑える薬を服用しながら初日は負荷試験で見極めた限界量の2分の1~同量の原因食物をとる。10日間毎日、医師の監視下で摂取量を倍増させ、牛乳は200ミリリットル、卵なら1個まで増やす。退院後も毎日、一定量を食べながら経過観察。原因食物を含む加工品も段階的に食べていく。
 この結果、昨春に治療を受けた牛乳アレルギーの19人のうち11人は、退院3カ月後も200ミリリットルの牛乳が飲めた。元々は1~12ミリリットルでアナフィラキシーを起こした子どもたちだ。卵の12人でも、8人が卵1個分の60グラムが食べられるようになった。
 昨春からの治療で卵アレルギーが改善した横浜市の小学2年、湯次郁磨(ゆすきいくま)君(8)は18日、加熱した卵に関しては「治った」と診断された。毎日の摂取をやめても再びアレルギーが発症しないか、確認のため1カ月、卵を絶っていたがこの日、食べても症状はなかった。まだ生卵はだめだが母の佳子さん(47)は「成長すれば、親が用意したもの以外を食べる機会も増える。安心できました」と喜んだ。
 海老澤医師は「アナフィラキシーの危険がある重い食物アレルギーの子は、全国に1学年あたり1千人程度とみられる。治療体制の確立が必要だ」と話す。

●謎多く、療法手探り

 この食事療法に取り組む医療機関はほかに横浜市の神奈川県立こども医療センターや岐阜大学病院、大阪府守口市の関西医大滝井病院、国立病院機構福岡病院など。手法は必ずしも同じではない
 こども医療センターは相模原病院と違い、入院中にアレルギーを抑える薬を使わない。原因食物の増やし方もゆっくりで、入院は3週間程度と長い。治療対象も卵、牛乳に加え、ピーナツと小麦も扱う。センターの栗原和幸アレルギー科長は「将来は各病院の治療法を検討の上、標準的な療法の研究が進められるべきだろう」と話す。
 また、同センターは、アナフィラキシーを起こさないような症状の軽い患者も対象にしている。重症患者よりもはるかにゆっくりペースで、医師の指導を受け自宅で原因食物をとる療法だ。計38人のうち16人が平均6・8カ月で治癒した。「本来、人体は食べたものにはアレルギーを起こさない。食べて治す、が広く応用される可能性は大きい」と栗原さん。
 食べたものにはアレルギーが起こらない状態を経口免疫寛容と言い、ここ10年、治療で着目されている。
 理化学研究所とアレルギー食事療法のメカニズム解明に取り組む独立行政法人産業技術総合研究所の辻典子主任研究員によると近年、経口免疫寛容では、制御性T細胞という炎症を抑えるリンパ球が重要なことが、マウスの実験で分かってきた。
 腸粘膜で生まれる制御性T細胞は、アレルギーを起こしやすい免疫グロブリンE型(IgE)の生産を抑える効果が確認されている。例えば、卵に対応した制御性T細胞は、卵を攻撃するタイプのIgEの生産を抑え、卵アレルギーを防ぐ。
 ただ、IgEが多くても食物アレルギーにならない人もいるし、食事療法で治癒した患者のIgEも余り減らない。原因食物を食べることで生まれる制御性T細胞が、IgEの活性自体を抑えるなど、未知の機構でアレルギーを抑えている可能性がある。「制御性T細胞の働きを解明し、治療の向上につなげたい」と辻さんはいう。

食物アレルギーとは…
 アレルギーは、体に侵入してきた細菌をはじめとする敵を攻撃する免疫が、自分の体も攻撃してしまう現象。免疫は本来、すべての異物を攻撃するが、腸を通じて常に体内に入ってくる食物は攻撃の対象から外されると考えられており、この現象を経口免疫寛容という。何かの間違いで食物が攻撃対象から外れなかった時、過剰反応で体も攻撃されることがある。この時、じんましんができたり、呼吸ができなくなったりするなど、アレルギーの症状が起こる。

1 グラタン一さじで発作(2012年1月26日)

 こんなに静かに眠り続けるものなんだろうか――。
 神奈川県の女性(44)は12年前の出産直後、不思議な気持ちで次男を眺めた。「母乳が足りなそうなら粉ミルクを」という看護師の言いつけ通り、粉ミルクを与えた。大泣きしていた次男は、3時間以上眠り続けた。
 退院後も変だった。粉ミルクを飲ませると、おなかに力を入れて真っ青になった。女性がコーヒー牛乳を飲んだ後に母乳を与えると、額に湿疹が出た。皮膚科医に見せたが、乳児湿疹と言われるだけだった。
 事件は、生後7カ月を迎えた夏に起きた。当時住んでいた福岡県内の夫の実家で、女性はお盆料理の準備に忙しかった。泣き叫ぶ次男に母乳をあげたが泣きやまず、三つ上の長男用に作ったグラタンのホワイトソースをスプーンに一さじあげた。
 その瞬間、次男の口からよだれが、どぼどぼあふれ出した。唾液(だえき)が広がった口の周りが地図のように赤くはれあがり、拭いても狂ったように泣き叫ぶ。
 「これはおかしい」。20キロほど離れた病院に車で向かった。到着すると、皮膚の赤みはひいていた。「軽いアレルギーでしょう」と返された。
 帰宅途中、コンビニに立ち寄った直後だった。次男の額がみるみる膨れ、体全身がはれあがった。「病院に引き返そう」。次男は途中で意識を失い、血液中の酸素が不足し顔がどす黒くなった。力の抜けた次男を抱いたまま、診察室に駆け込んだ。
 医師が次男を刺激するため、体をたたきながら言った。「お母さん、駄目かもしれない」
 「起きて、起きて」。次男を抱きかかえ、何度も揺さぶった。その瞬間、「ごほっ」とせき込み、顔色が赤く変わった。医師と一緒に、北九州市の国立小倉病院(当時)に向かった。
 「食物アレルギーによるアナフィラキシーショックですね」
 初めて聞く言葉だった。2日間入院し、アレルギーを起こす食品を調べる血液検査を受けた。牛乳と卵に高い数値が出た。「今後は、これらを除去した食事を用意して下さい」と医師に言われた。
 ほとんどの食事に入っている材料だ。何を食べさせていけばいいのだろうと、途方に暮れた。(岡崎明子)

2 食事が恐怖 もう限界(2012年1月27日)

 生後7カ月でグラタンのホワイトソースを食べたのをきっかけに、神奈川県の女性(44)の次男(12)は、食物アレルギーと診断された。
 女性にとって、「食事」は恐怖の時間となった。すぐに次男専用の調理器具と食器を買い、家族と分けて料理した。体に小さな赤い発疹が出るたびに心配になり、病院に連れていき数時間様子を見ることが続いた。
 だが、アナフィラキシーショックの瞬間を見ていない家族からは理解されなかった。当時は福岡県内で、義理の両親らと同居していた。「次男に触る前は手を洗って」と言っても、「神経質に育てるな」と言われてしまう。心労も重なり、1カ月間で10キロ近くやせた。
 次男が1歳3カ月のとき、夫(45)に転勤話が持ち上がった。神奈川県内に引っ越すと、翌日から激しいせきが出るようになった。食物アレルギーに加え、小児ぜんそくとの闘いも始まった。
 年に5~6回、重い発作が起きると近所の病院に入院した。病院はアレルギー対応食を用意しないため、入院中は朝、昼、晩とお弁当を作って届けた。
 合間にアレルギーの血液検査を受けるたび、ソバやゴマ、イチゴなど、様々な食品で高い数値が出た。数値は低かったが、「牛乳や卵が駄目なら、牛肉や鶏肉も駄目だろう」と食べさせなかった。
 治療法を求め、買い集めた本や冊子の中に、アレルギーが出やすい食品の一覧表が載っていた。豚肉や、赤身の魚、野菜もトマトやナスなどは、アレルギーを起こしやすいという。
 この一覧表の教えを忠実に守った。肉はウサギとカエルと馬肉のみ。魚はタイやキスなどの白身魚だけで、料理を作った。新鮮な魚を求め、毎日漁港まで買い出しに行った。次男は常におなかをすかせていた。
 長男(15)にもつらい思いをさせた。誕生日のケーキは次男の目につかぬよう、隣の家で食べてもらった。
 もう限界だと思った。次男が3歳のとき、思い切って主治医に相談した。「どこを目標に治療しているのかわかりません」
 返ってきた医師の言葉に、絶句した。「医師を信じるか、信じないかは、宗教と同じです」

3 「実際に食べて検査」決意

 次男(12)が牛乳や卵などの食物アレルギーと診断された神奈川県の女性(44)は、食べられる食品がどんどん減り、精神的に追い詰められていた。
 次男が4歳のころ、実家の母親が録画ビデオを送ってきた。血液検査ではなく、実際に食品を食べてアレルギーの有無を確認する「食物負荷試験」という方法を、医師が紹介していた。
 近所の病院の主治医に、専門医を紹介して欲しいと頼んでみた。しかし「専門医なんていない」と相手にされなかった。
 アレルギー対応の食品を購入していた通販会社に相談すると、医療者らが集まる学術団体の「食物アレルギー研究会」を紹介された。ちょうど翌週、研究会が開かれるという。1人で東京都内の会場に向かった。
 話している内容はよくわからなかった。だが、どうやら食物アレルギーは治療できるらしい。受付で事情を話すと、国立病院機構相模原病院(相模原市)のアレルギー性疾患研究部長、海老澤元宏(えびさわ・もとひろ)さん(51)を呼んできてくれた。
 「うちの息子を、診てくれないでしょうか」
 「来週にもいらっしゃい」
 2005年2月、相模原病院への通院が始まった。これまでの経緯を話し、現在除去している食品を伝えた。「血液検査で数値が出ていない食品は、どんどん食べさせて下さい」と言われたが、怖くて試せなかった。
 ただ次男は、生後7カ月以降、一度もアナフィラキシーショックを起こしていなかった。
 「もしかしたら、良くなっているかもしれません。何が食べられて、何が食べられないのか、整理しましょう」と主治医の今井孝成(いまい・たかのり)さん(41)が提案した。
 女性の頭の中に、次男がショックを起こしたときの恐怖がよみがえってきた。とても試験を受ける気にはならなかった。
 だが夫(45)の考えは違った。「この生活を、ずっと続けていくわけにはいかない」
 次男にとっても、食事の時間は苦痛だった。幼稚園での誕生会は1人だけ部屋の隅で、椅子をテーブル代わりに家から持参したおやつを食べていた。
 「検査、受けてみる?」
 女性の問いかけに、次男は「うん」とうなずいた。

4 食べられるもの増えた

 食物アレルギーと診断された次男(12)の治療法がわからず、途方に暮れていた神奈川県の女性(44)は2005年、ようやく国立病院機構相模原病院の専門医にたどり着いた。
 次男は翌春、小学校への入学を控えていた。本当に、牛乳や卵が駄目なのか。給食開始を前に、食品を口に入れて、アレルギーの有無を調べる食物負荷試験を受けることになった。
 最も量の少ない、粉ミルク2.5グラム入りのぶどうジュースから試した。10分も経たないうちに全身にじんましんが出て、呼吸が苦しくなった。医師が急いで症状を緩和するアドレナリンを注射した。やはり牛乳は1滴でも駄目だった。卵の試験は、入学前には受けられなかった。
 06年4月、地元の公立小学校に入学した。給食は、同じメニューを牛乳や卵を使わずに自宅で調理し、持参することになった。緊急時に駆けつけられるようにと女性も登校し、図書室で待機する日々が始まった。
 困ったのは、教室の環境だった。パンの食べこぼしや、飛び散った牛乳でも、アナフィラキシーショックを起こす可能性がある。掃除が週3日しか行われないため、女性は毎日、給食後に床に掃除機をかけ、全員の机の上を拭いた。
 次男は帰宅すると、よくかんしゃくを起こした。友達も、なかなかできなかった。
 そんな次男が、ソフトボールとの出会いをきっかけに変わった。地域クラブで活躍する兄の姿に憧れ、1年生の終わりにクラブに入った。体が丈夫になるにつれ積極的になり、友達が増えた。学校も休まなくなった。
 食べられる食品も増えていった。通院の度に、コンビニのおにぎりやスナック菓子、魚肉ソーセージなど毎回違う食品を持参し、待合室で試した。アレルギーは、全くでなかった。
 5年生の夏、林間学校という関門が立ちはだかった。次男は「ママが来るなら行かない」と決めていた。宿泊先にアレルギー除去食を依頼し、地元の救急隊にも連絡して送り出した。
 1泊2日の行事を終え、バスが校門の前に到着した。無事帰宅した姿を見て、女性の目から涙があふれた。「あー、疲れた」。緊張の糸が切れた次男が、校門の前でへたり込んだ。

5 2年かけて牛乳飲めた

 国立病院機構相模原病院での治療が始まった神奈川県の女性(44)の次男(12)は、成長につれ食べられる食品が増えたが、牛乳や卵は駄目だった。
 病院では5年前から研究的な治療法として、アレルギーの原因となる食品を少しずつ食べさせ、耐性をつける「経口免疫療法」を始めていた。3年前、主治医の今井孝成さん(41)が次男にこの療法を紹介した。「おれ、絶対にやる」。1人だけ違う給食は、もう嫌だった。
 8月、入院しての治療が始まった。牛乳4ccから始め、2日目には120ccまで増えた。症状は出なかった。3日目には目標の200ccを飲んだ。やや呼吸が苦しくなったが、10日後に退院するまで飲み続けた。
 この療法は退院後も毎日、牛乳を飲み続けなければならない。牛乳の味が嫌いな次男は、お菓子でごまかしながら30分かけて飲んだ。ときにはショック症状が出て病院に運ばれた。
 耐性が出来たかどうかは、3カ月間症状が出ないことを確認後に、牛乳を2週間中断。再び飲んでみて反応を調べる。治療開始から1年後の一昨年7月、確認のため牛乳を飲んだが呼吸が苦しくなった。駄目だった。
 今井さんは「残念だけど、またがんばろう」と励ました。次男は次の日から再び、牛乳を飲み続けた。少しずつショック症状も軽くなり、昨年6月、「完全解除」のお墨付きが出た。
 その日の晩、次男は布団の中で泣いてしまった。「ここまで来られたというパパやママへの感謝と、もう毎日、嫌いな牛乳を飲まなくてもいいから」
 だが、期待していた「みんなと同じ給食」にはならなかった。完全解除でもまれにアレルギー反応が出ることがあり、学校が対応できないためだった。
 10月の修学旅行も欠席した。旅館がアレルギー対応食を用意できないため、自宅から宅配便で送った食事を食べねばならないことに、耐えられなかった。
 それでも、毎晩のアイスクリームとソフトボールという楽しみがある。アイスクリームを初めて食べたとき「こんなにおいしい物があるのか」と驚いた。1年生から続けてきたソフトボールは、主将を任されるまでになった。「ソフトがあったから、アレルギーとも闘えた」

6 情報編 食品制限しすぎに注意

 食物アレルギーは、特定の食品に過剰な免疫反応を起こし、じんましんやまぶたの腫れ、ぜんそく、鼻水など、様々な症状が出る病気だ。原因となる食品は卵、牛乳、小麦の順に多く、赤ちゃんの10人に1人は食物アレルギーを持っている。
 国立成育医療研究センターの斎藤博久(さいとうひろひさ)・副研究所長は「妊娠中にこれらの食品を控えても予防効果はない」と指摘する。成長につれ治る場合が多く、3歳児は20人に1人、小学校入学時には40人に1人程度に下がる。
 重症な場合はショック症状を起こし、亡くなることもある。「アナフィラキシーショック」と呼ばれ、命にかかわるため、適切な診断が重要だ。アナフィラキシーショックが起きた際、緊急処置に使うアドレナリンの自己注射器は、昨年9月に公的医療保険が適用された。
 アレルギー源を調べる方法には「血液検査」や「食物負荷試験」、怪しい食品を食べるのをやめて症状が改善するかを確認する「除去試験」などがある。
 血液検査は、アレルギーを起こす免疫グロブリンE(IgE)という物質の値を調べる。牛乳や卵白など「怪しい」と思う食品のIgEの量を調べ、陰性か陽性かを確認する。
 ただ、この値が陽性でも、症状が出るとは限らない。「患者を生きる 食物アレルギー」で紹介した男児のように、血液検査だけで判断すると、実際は食べられる食品まで制限してしまうことがある。
 食物負荷試験は、医師の立ち会いのもと、アレルギーが疑われる食品を摂取する量を少しずつ増やしながら、症状が出るかどうかを確認する。2006年から入院で、08年から外来での試験が医療保険の適用となった。食物アレルギー研究会のウェブサイトで、実施している医療機関名を確認できる。
 食物アレルギーを根本的に治す治療法は、まだ確立していない。連載で紹介した経口免疫療法は、まだ研究段階の治療で、実施している病院も限られる。
 国立病院機構相模原病院の海老澤元宏(えびさわ・もとひろ)さんは「この治療で生活の質は大きく上がるが、医師の指導のもと行うことが大原則だ」と話す。(岡崎明子)

取材後記
 「くれぐれも、医師のいないところで勝手にまねするような人が出ないよう、気を付けて書いて欲しい」。この取材では何人もの人に、こう、要請されました。「この手の記事が出ると、どうしても、自己流で試そうという人が出るんですよね。でも、大変危険な行為です
 それで、記事の前文にも警告めいたことを入れさせて頂きました。
 少し、違う話なのですが、治るかどうかの根拠が乏しい「民間療法」に頼ってしまう人って、多いですね。私の子どものかつての同級生の親御さんでも、お子さんのアレルギーに悩み、ある有名な民間療法で使われる「薬」を使っている人がいました。治ったかどうかは聞いていませんが、この民間療法については「効果があるとは確認できない」とする「科学」サイドからの研究論文も発表されています。アレルギーが治らなければ、この親御さんの場合、民間療法にお金を使っただけ損をした、ということになりそうです。
 「いいらしい」「治るらしい」という情報だけで、それに飛びつく、というのは時に大変危険だなぁ、と思います。もちろん、身内や自分自身が大変な思いをしているときに、いろんな情報に飛びつきたくなる気持ち自体は、部外者が否定するようなものではないとは思います。でも、例えば、「食物アレルギーでも、無理して食べたら治るらしいよ」という情報だけで、自己流で重度の食物アレルギーのお子さんに食べさせたとき、生命の危険もあり得ることは、記事にも書いたとおりです。
 何か、商談があったとして、それを受けるかどうかを判断する際、相手の実績はどうなのか、「実績」の報告が信頼に足るものなのか・・・、いろいろ、チェックすべきコトがあるかと思います。普段、仕事などで社会生活を送っていれば当然の判断が、医療情報では精査されず、鵜呑みになっていることも多いような気がします。
 今、健康食品市場は製薬市場の数分の一程度まで巨大なものになっていると聞いたことがあります。もちろん、きちんとした健康食品もたくさんあるでしょうし、筋の通った民間療法もあるんだと思います。でも、それをきちんと見極める「目」と、判断できる「心」とを持たないと、自身を守ることは出来ないんだろうなぁ、と思います。
 ご紹介した食物アレルギーの新療法はもちろん、実績が学問的に報告され、それを積み重ねる形で研究開発が行われているものです。でも、過去のきちんとした積み重ねの知識と経験がない人が行えば、リスクは間逃れないと思います。
 「編集後記」に「何を書こうかなぁ」と思いを巡らせるうちに、「キチンとしているかどうか」を判断する力は、まさに、個人の生存力を問われる部分なのかなぁ、と思い至りました。偉そうでごめんなさい。

■ 食物アレルギー「食べて治す」は注意(2012.1.24:朝日新聞)

 食物アレルギーの原因となる食物を食べて治す「経口免疫療法」と呼ばれる治療を受けても、治ったと云える患者は1〜5割程度にとどまり、重い副作用を経験する例も多いことが、厚生労働省の研究でわかった。研究班は診療指針を改訂し「現時点では一般診療として推奨しない」とした。

治癒1〜5割、副作用も・・・厚労省研究班「推奨せず」

 摂取量を増やしながら症状が出ないようにする治療法は研究段階だが、研究班の調査では少なくとも49施設が実施、1000人以上が受けていた。研究班は、卵や牛乳、小麦を摂取すると、じんましんや呼吸困難など複数の症状が出る子ども179人を治療した国立病院機構相模原病院の事例を分析。原因となる食物の目標量(鶏卵1個、牛乳200ml、うどん200g)を3ヶ月間取り続けても、アレルギー症状が出なかった患者に対し、2週間休止した後、食物をもう一度摂取して症状が出ないかどうかを確認した。
 治療開始1年後の時点で、7〜8割の患者は食べ続けている間は症状が出ない状態に持ち込めたが、休止期間後も症状が出ず「治った」と診断されたのは、卵で38%、牛乳で10%、小麦で50%。3〜5割が重い副作用を経験した。主任研究者の同病院の海老澤元宏さんは「この治療法への期待は高いが、全員が治るわけではない。副作用も重く慎重に行う必要がある」と話す。

院長のつぶやき)私はこの治療法が話題になった4〜5年前からこの事象を危惧してきた一人です。乳児期の食物アレルギーが年齢と共に食べられるようになるのと違うのです。この治療法は「食べ続けることでアレルギーを起こす免疫因子をカラの状態に維持しておく」というもので、食べるのをやめるとまた再燃する危険性が無視できません。
 一旦、食べられるようになった患者さんの中に「ほんとに治った」と「ほんとは治っていない」がいる・・・この二つの状態を検査で見極める方法はないのか・・・昨年相模原病院の医師の講演の際に質問しましたが「いろいろパラメーター解析をしているが、現時点では残念ながら見分ける方法が見つかっていない」とのことでした。

■ バーコードで成分含有を確認「アレルギーチェッカー」(2011.12.22:+D Mobile)

 ウィルモアは、iPhone向けアプリ「アレルギーチェッカー」をリリースした。カメラで商品バーコードを読み取ることで、アレルギー成分が含まれているのか確認できる。
 ウィルモアは、食品にアレルギー症状を引き起こす物質が含まれているかどうかを確認できるiPhone向けアプリ「アレルギーチェッカー」の提供を開始した。ダウンロードは無料。

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iPhone向けアプリ「アレルギーチェッカー」

 食品のバーコードを読み取ることで、表示が義務付けられているアレルゲン7品目に加え、表示が推奨されている18品目の合計25品目についてチェックが可能。栄養成分や原産地のほか、同じ製造ラインに含まれるアレルゲン、食品についても確認できる。また同じアレルゲングループに関する情報も掲載しており、気になった商品をブックマーク保存することもできる。
 使い方は、自身が気になるアレルゲンにチェックを入れ、気になる商品の一次元バーコードをカメラで撮影するだけ。アレルゲンの変更はいつでも可能で、商品名から検索することでも調べられる。
 データは随時アップデートを行い、12月22日現在ではお菓子を中心に6000商品を取り扱っている。なお、アレルゲンなどの情報は公表されているデータをもとに作成しており、データの正確性を保証するものではない。

■ 経口免疫療法の多施設臨床試験、牛乳アレルギーも(2011年8月:日経メディカル)

 食物アレルギーを食べて治す、急速経口免疫療法の多施設臨床試験が進んでいる。これまでの結果から、大部分の患者には有効であることが明らかになる一方で、一部の患者には副反応が生じることも分かってきた。鶏卵アレルギーの小児に加え、2011年8月からは牛乳アレルギーの小児を対象にした試験もスタートする。
 国内では2010年7月から、厚生労働省の研究班に参加する国立病院機構三重病院、千葉大など9カ所の病院が、急速経口免疫療法の多施設共同ランダム化比較試験を実施している。対象は、5歳以上15歳以下で寛解傾向にない鶏卵アレルギーの小児。卵白換算4g以下で症状が出る重篤な症例が対象だ。
 同試験では被験者を治療群と対照群に割り付け、治療群は入院の上、症状誘発閾値の約10分の1以下の量からアレルギー原因食物の経口摂取を始める。毎日3~5回、漸増しながら摂取。症状が出現したら必要に応じて治療を行い、その後も症状の程度に応じて可能な範囲で増量を続ける。目標量(鶏卵は60g)に達するか、増量ができない状態に達したら、それを「維持量」とし、自宅で維持量の摂取を12カ月間続ける。
 対照群は 割り付けから3カ月間は引き続き除去食を継続。3カ月時点で治療群と対照群に対して経口負荷試験を行い、症状誘発閾値などを調べる。治療群は、維持量の摂取を12カ月続けた後、2週間以上摂取を止め、その後再摂取しても症状が出現しないかを確かめる。増量のスピードなどにもよるが、入院期間は2~4週間程度。試験開始前と試験開始から3カ月時点で、被験者の皮膚反応を診るほか、血液などを採取して抗体価などを調べる。なお、この試験では割り付けから3カ月が経過したところで、対照群に対しても治療群と同じ手法で急速経口免疫療法をスタートさせている。
 2011年5月までに23人を治療群に、22人を対照群に登録。被験者の平均年齢は治療群が7.3歳、対照群が7.8歳。症状誘発閾値の中央値はいずれの群も0.8gだった。
 2011年5月までに割り付けから3カ月に達した症例の解析では、治療中止例を除き、3カ月時点での治療群の症状誘発閾値はすべての症例で上昇し、10g以上に到達。対照群では症状誘発閾値が上がった例も下がった例もあったが、いずれも5g以下で、急速経口免疫療法が症状誘発閾値を上げることが示された。これまでに維持量に到達して、維持量の摂取を続けている被験者は、治療群のうち20人、対照群のうち18人。
 開始後に治療を中止した被験者は、治療群のうち3人と対照群のうち3人(うち1人は同意撤回で中止)で、これら5人は、いずれも治療中の症状が原因で中止した。1人は増量中のアレルギー反応が強く、別の1人は維持量経過中のアレルギー反応が原因。増量中に強いアナフィラキシー症状が出て治療を中止した被験者も1人いた。残りの2人は腸炎の発症により腸管浮腫などが認められ、うち1人は好酸球性腸炎とみられる所見を呈していた。
 本試験の研究立案者である東京大学小児科の伊藤直香氏(関連記事:2009.4.16「重度の食物アレルギーが治った!」)は、「好酸球性胃腸炎は経口免疫療法中の副反応の一つとして被験者に起きる例が報告され始めている。急激に起こり、現時点で発症者の予測はできないが、宿主因子によって発症している可能性もあり、この副反応が起きやすい人の予測因子を見つけることが今後の課題だ」と話す。
 とはいえ、本試験では80%程度の患者に急速経口免疫療法が有効なのも事実。研究班は8月から牛乳アレルギーの小児に対して急速経口免疫療法の臨床研究を始める。同様の試験デザインで治療群20人、対照群20人に治療を行う予定だ。

■「茶のしずく石鹸」で小麦アレルギー(2011年6月:毎日新聞)

 通販のヒット商品「茶のしずく石鹸(せっけん)」を使っていた人が小麦アレルギーの症状を起こしていたことが分かり、製造販売元の「悠香」(本社・福岡県大野城市)が先月20日から、対象商品の自主回収を進めている。せっけんに配合された小麦由来成分が原因とみられる「運動誘発性アレルギー」とされ、67件の発症例が報告されている。どのようなアレルギーなのか。

保湿などに効果、多くの化粧品に/軽い運動で誘発

 神奈川県内の元会社員の女性(38)は5年前、茶のしずく石鹸を買って使い始めた。約2年後、目の周りがかゆくなり、鼻水が止まらなくなった。ある日、ピザを食べ、お酒を飲んだ後に買い物に行く途中、全身にじんましんが出た。顔は腫れあがり、呼吸ができないほど息苦しくなった。急性の重い全身性アレルギー反応の一つ「アナフィラキシー」だった。
 しばらく原因が分からなかったが、昨年5月、神奈川県内の国立病院でせっけんを使っていることを話すと、他にも同様の患者がいることが分かった。女性は、せっけんを使う以前はアレルギー症状がなかった。せっけんの使用をやめると顔の腫れは和らいだが、小麦アレルギーでパンなどが食べられなくなった。仕事中に症状が出ることもあり、昨年1月、仕事を辞めざるを得なくなった。「メーカーに医療費などを補償してほしい」と話している。
 広島大学病院皮膚科では昨年1年間に、食物依存性運動誘発性アナフィラキシーと診断された患者が26人いた。小麦が原因の人は22人で、問診できた17人のうち16人は「茶のしずく石鹸」を使っていた。
 食物アレルギーの専門医がいる藤田保健衛生大学病院(愛知県豊明市)でも昨年春から、同様の症状を訴える患者が愛知、三重、岐阜などから来院し、11例を数えた。いずれも同せっけんを使っていたという。
     *
 「茶のしずく石鹸」は60グラムで1個1980円などと高価ながら、CM宣伝などで売り上げを伸ばしてきた。自主回収の対象は昨年12月7日以前に販売された製品で、約4600万個に上る。小麦を加水分解した成分(小麦加水分解物)が配合されていたが、同12月8日以降に販売した新製品には使われていないという。
 日本化粧品工業連合会によると、小麦加水分解物は、酸や酵素によって人工的に分解された小麦たんぱくの一種。保湿や泡立ちをよくするなどの作用があり、94年から乳液、洗顔フォームなど化粧品に幅広く使われている。「茶のしずく石鹸」以外にはアレルギー症例の報告はないという。
 同せっけん利用者の症例を学会で発表した広島大病院皮膚科の平郡(ひらぐん)真記子医師によると、せっけんを頻繁に使うことで皮膚のバリアー機能が低くなったり、顔を洗うたびに目や鼻の粘膜に小麦加水分解物が繰り返し付着したため、アレルギーが起きた可能性が考えられるという。「小麦アレルギーを起こした人は、小麦加水分解物が入った化粧品は避けた方が良い」と話す。
 運動誘発性アレルギーは、特定の食べ物を食べて運動した後に、じんましんや呼吸困難などの症状が出る。小麦のほか、エビ、カニなど甲殻類が多い。小麦のたんぱく質は通常、胃や腸で分解されるが、運動すると消化が不十分なまま体に吸収されやすい。体が危険なものと判断して免疫機能が働き、アレルギー症状が出てしまうとみられる。
 食物アレルギー治療で知られる藤田保健衛生大医学部の松永佳世子教授は「これまでは食後に激しい運動をしてアナフィラキシーを起こすケースが多かったが、今回は散歩など軽い運動でもアレルギー症状になるケースが目立つ」と話す。「まだ気づかずにせっけんを使っている人がいて、今後アレルギーを起こす恐れが十分に予想される」とし、今使っているせっけんに小麦成分が含まれていないか、確かめてほしいと呼びかける。
 日本アレルギー学会は今回の事態を重く見て、小麦由来などの「たんぱく加水分解物」を含む化粧品の安全対策を考える特別委員会(委員長・松永教授)を結成した。日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会と協力しながら、アレルギー防止策を検討していくという。

「お客様窓口」を開設

 「悠香」はこれまで、約2万個を回収したという。同社の担当者は「お客様からの問い合わせが多く、ご迷惑をおかけし申し訳ありません。薬事法違反には当たりませんが、社会的責任を感じており、患者の方にはお見舞金を出すことを考えています」と話している。
 同社は「お客様窓口」を設けている。フリーダイヤル0120・11・2266(午前9時~午後8時)。電話が相次ぎ、つながりにくい状態だという。

厚労省など使用中止呼びかけ

 「茶のしずく石鹸」は医薬部外品で成分の安全性は厚生労働省の審査で確認されているが、人によってアレルギーが起こる成分でも、必ずしも使用が規制されるわけではない。厚労省は今回、注意喚起と副作用報告の徹底を関係業者に通知した。アレルギーがこの商品に特有のものか、爆発的に売れた商品で使用頻度や人数が多かったためか、など不明な点は多いものの、とりあえずは「12月7日以前の製品の使用は中止してください」と呼びかけている。消費者庁も「返品して新製品と取り換えるよう」呼びかけている。

患者・医師向けにQ&A公開

 国立病院機構・相模原病院臨床研究センター(相模原市)の福冨友馬医師らは、患者・医師向けにQ&Aをつくり、ウェブサイト「リウマチ・アレルギー情報センター」で公開している。症状や発症メカニズムを解説し、食物アレルギーの専門医のいる医療機関も紹介している。同サイトでは、67件の発症例は「氷山の一角」で、「報告されていない患者が少なくとも10倍以上は存在すると推測される」と指摘している。

[医療解説] 大人の食物アレルギー… 原因物質 皮膚、粘膜からも(2011年9月15日 読売新聞)

 小麦の成分を含んだ洗顔せっけん「茶のしずく」を使っていた人の一部が、小麦の食品を食べてアレルギーを発症したことがわかった。子どもの食物アレルギーと違い、大人では皮膚から吸収された物質が原因で、食物アレルギーを起こすことがある。(針原陽子)
 関東地方に住む30歳代の女性は、数年前から、パンやパスタなど小麦の入ったものを食べた後に運動すると、顔や目などにかゆみを感じるようになった。症状は徐々に重くなり、女性は2009年春に国立病院機構相模原病院(神奈川県相模原市)を受診。入院して原因を調べたところ、3年ほど前から使い始めた洗顔せっけん「茶のしずく」を原因とする小麦アレルギーと診断された。女性は「なぜせっけんが原因で小麦アレルギーに?」と驚いた。
 同病院臨床研究センターの福冨友馬医師によると、一般的な食物アレルギーは、食べ物に含まれるアレルゲン(アレルギーのもととなる物質)を口から摂取するうちに、アレルゲンを異物とみなした体の免疫が「IgE抗体」を作る。この抗体ができた後にアレルゲンが体の中に入ると、じんましんなどのアレルギー反応が起きる。鶏卵や牛乳などの子どもの食物アレルギーの多くが、このタイプだ。
 一方、大人が発症する食物アレルギーは、皮膚や粘膜からの吸収がきっかけになるタイプが少なくない。
 「茶のしずく」の場合は、洗顔するうち、せっけんに含まれていた「加水分解小麦」という小麦由来のたんぱく質が、皮膚や目・鼻の粘膜から体に吸収され、抗体ができたとみられる。せっけんを使った際に顔にかゆみなどを感じる場合や、小麦の入ったものを食べると症状が出る、食べた後に運動をすると呼吸困難など全身症状が出るなど、症状は人によって様々だ。加水分解小麦を含むせっけんは他にもあるが、アレルギーの発症例はほとんどないという。
 皮膚や粘膜を通じた吸収で食物アレルギーになる例には、医療関係者に多い「ラテックス・フルーツ症候群」がある。医療用ゴム手袋などに使用される天然ゴム(ラテックス)のたんぱく質を皮膚から吸収した人が、似たたんぱく質を持つバナナやアボカド、キウイなどを食べると、重い食物アレルギーの発作を起こすことがあるものだ。
 花粉症の人が、アレルゲンと似た成分を持つ果物などを食べて発症する「花粉・食物アレルギー症候群」の例もある。ハンノキやシラカバの花粉症の人がリンゴや桃を食べた場合、ブタクサの花粉症の人がメロンやバナナを食べた場合などの口のかゆみや腫れが典型例だ。
 福冨医師は「食品由来の成分を添加しているせっけんや化粧品は多いが、天然成分だからと過信せず、症状が出たらすぐに専門病院に相談してほしい」と話している。

「茶のしずく」による小麦アレルギー
 2010年ごろから、厚生労働省に、通信販売の洗顔せっけん「茶のしずく」によるアレルギー発症に関する医療機関からの報告が相次いだ。厚労省は同年10月、加水分解小麦成分を含む医薬部外品などの製造販売業者に対し、成分や注意事項を製品に表示するよう求める通知を出した。製造元の「悠香」(福岡県大野城市)は、同年12月、小麦成分を含まない製品に切り替え、旧製品の自主回収を行っている。

■ 被災の地から 食物アレルギー(2011年4月:朝日新聞)

上)好意のキャラメルも断る

 「出ろー!」
 家の外で声がした。
 3月11日午後3時半ごろ、宮城県石巻市の辻朗子(つじあきこ)さん(38)が自宅1階の窓から外を見ると、男性2人が避難を呼びかけて走っていた。ヒタヒタと水が迫る。少し離れて車が流れてきた。津波だった。
 高台は遠く、間に合わない。外に出るのをあきらめ、2階の子ども部屋へ。床から高さ約1メートルのベッドの上で、義母の節子さん(66)、次女の晶子(しょうこ)ちゃん(8)、三女の惺子(さとこ)ちゃん(3)と身を寄せ合った。水は2階の床上約20センチで止まった。
 その日は飲まず食わず。流れてきた別の家の屋根が自宅にぶつかり、「ギギ、ガガ」と鳴った。手動で発電できる携帯ラジオをつけっぱなしにして、一つのベッドに4人で寝た。
 翌朝、津波が引いた階段の下を見ると、冷蔵庫がドアを上にして倒れていた。無事だったコロッケや団子を出して食べた。娘たちに水分をとらせたかったが、泥まみれの氷しかない。タッパーにしょうゆと一緒に入れて泥を落とし、口に含ませた。
 14日、海上保安庁のヘリで救助された。運ばれた先の石巻赤十字病院で、先に合流していた夫の博之さん(43)と長女の朋子ちゃん(12)に偶然会えた。
 「おなかすいた」。朝方、待合室で惺子ちゃんがぐずった。前日から食べていなかった。
 「これどうぞ」。近くのお年寄りの女性が見かねてバッグからキャラメルを出してくれた。しかし、朗子さんは「ごめんなさい。食べられないんです」。
 3人の娘たちには食物アレルギーがあり、食品によってかゆみやじんましんが出る。ひどい場合は呼吸困難などを起こす心配もあり、卵や牛乳を食べていない。小麦も避け、学校に弁当を持っていく。キャラメルにもミルク成分が入っているので、危ないと思った。 「そうなの。ごめんなさいね」。女性も事情を分かってくれた。せっかく声をかけてくれたのに。申し訳ない気持ちで、その場を離れた。
 リスクがあるものは避けたい。でも、ここには食料すらほとんどない。「避難所へ行けば何かあるはず」。朋子ちゃんと晶子ちゃんが通う小学校へ向かうことにした。

中)生き抜くため、乾パン

 食物アレルギーの娘3人がいる宮城県石巻市の辻朗子(あきこ)さん(38)は、震災から4日目に一家がそろい、避難所になっている娘の小学校へ向かった。
 学校までの道は、がれきや土砂でところどころ通れなくなっていた。JR仙石線のレールの上を通り、回り道もし、4キロほど歩いた。3階にある3年1組の教室に、家族で入った。
 初日は、ふだん避けている小麦を使った乾パンを、娘たちにあげた。ほかに食べるものがなかった。朗子さんは「症状は少し出るかもしれない。でも、まず生き抜かないと」と思った。
 食物アレルギーは、ひどい場合は呼吸困難などを起こし、命にかかわることもある。怖かったが、幸い、心配した重い症状は出なかった。
 避難所で配られるパンは、ふだん自宅で食べている小麦や卵、牛乳を抜いたものと、見た目はほとんど同じ。三女の惺子(さとこ)ちゃん(3)は食物アレルギーのことがよくわからない。「なんでさとちゃんは食べられないの」と聞いてきた。
 他の避難者がカップラーメンを食べるのを見て、「つる(つるつるしためん)食べたい」とねだってもきた。朗子さんは「体がかゆくなっちゃうよ」と諭し、我慢してもらった。
 姉たちは、寝床の下に敷いた断熱用の白い段ボールを引っ張り出して、友達と一緒に「いま食べたいもの」を絵に描いて遊んだ。長女の朋子(ともこ)ちゃん(12)は、もともと好きではなかったバナナをがんばって食べた。こんな状況でも明るさを失わない娘たちに、「たくましくなったな」と驚いた。
 配給の食べ物が来ると、教室にいる人たちが「食べられるもの、先にとってよ」と譲ってくれた。教室の班長は朋子ちゃんと同学年の子の母親で、娘の食物アレルギーのことを知ってくれていた。「ありがとう」。教室の27人分の食事がまとまって入ったトレーから、野菜ジュースと、食べても大丈夫だった乾パンをもらった。
 学校に移って5日目、夫の勤め先の社宅に入れることになった。出発のとき、教室の仲間たちがおにぎりを20個も持たせてくれた。「この避難所じゃなかったら、生きていけなかったかも」。朗子さんは思った。

下)食べ物届けてくれた

 宮城県石巻市の辻朗子(あきこ)さん(38)一家は3月19日、避難所である娘の小学校から、夫の勤め先の市内の社宅に移った。
 社宅の災害対策本部にたまたまあった、食物アレルギーのある娘たちにも食べられる「わかめご飯」を8袋もらった。乾燥式で、お湯や水でもどす。
 「これでどこまで食べつなげるかな」。翌日、朗子さんが考えていた時だった。ふと携帯電話を見て、留守録に伝言が入っているのに気づいた。
 「辻さーん、探しに来たよ」
 仙台市のカフェ「ヘルシーハット」の三田久美(みた・くみ)社長(55)だった。震災前、アレルギー対応食品を扱う三田さんの店に、一家で食事に行ったり、食品を買いに行ったりしていた。
 「まさか…、来てくれたの」
 大地震以来、朗子さんからは連絡していない。仙台も被災して大変なのに、三田さんは車で救援物資を石巻市役所に届け、一家を探していた。いつもと変わらない、明るくマイペースな調子の三田さんの声だった。
 驚きが喜びになり、涙が出た。心が揺れ、メッセージの後半がよく聞き取れなかった。
 手動発電式のラジオを動かして、切れかけた携帯電話の電池を充電しようとしていたとき、三田さんが社宅に着いた。
 「やっと見つけたー」。笑顔で話しながら、段ボール箱2箱、ポリ袋2袋を次々と運び込んだ。アレルギー対応の肉じゃが、カレー、たい焼きなどがぎっしり。被災後に娘たちが「食べたいね」と言っていたものばかりだった。
 電気も通っておらず、外は真っ暗闇だった。三田さんはスタッフと避難所の小学校などをあちこち回り、一家を探し出した。朗子さんは、そう聞いても、目の前の光景が信じられなかった。感謝しかなかった。
 震災後、朗子さんは多くの困難に直面した。たくさんの人に支えられ、心強いことの方が多かった。社宅に引っ越し、学区も変わった。でも、自分たちを支え、理解してくれた人たちと、これからも一緒にいたい。
 長女の朋子ちゃん(12)は、被災前に予定していた中学校に進むつもりだ。3キロほど離れて少し遠いけれど、仲良しがたくさんいる。だから、がんばって通おうと思う。

東日本大震災:食物アレルギー対応に遅れ…66自治体調査(2011年4月:毎日新聞)

 東日本大震災の被災地で、食物アレルギーに対応した食料の備蓄や受け入れ態勢が整備されていないため、子どもを含む患者らが命の危険にさらされるケースが相次いでいる。毎日新聞が都道府県と政令市計66自治体に取材したところ、アレルギー対応食品の備蓄があるのは20自治体(30%)で、アレルギー用粉ミルクの備蓄は15自治体(23%)しかない。受け入れ態勢が整備済みなのは5自治体(8%)だった。阪神大震災や新潟県中越沖地震でも問題化したが、教訓が生かされていない形だ。

「食品備蓄」30% 「受け入れ態勢」8%

 岩手県陸前高田市で母親(45)と2人で暮らす女子高校生(17)は小麦と貝類にアレルギーがあり、小麦を含む食品で呼吸困難になったこともある。
 津波で家を流され病院に避難したが、届けられる食品はパンやカップめんなど食べられないものばかりだった。
 何日か待ったが状況は変わらず、「これしか食べるものがない」と無理にパンを食べたところ、全身に皮膚炎の症状が出た。医師に薬をもらったが、かゆくて寝られず、シーツは血だらけに。別の避難所の親戚に回ってきたおにぎりを分けてもらうなどして食いつないだ。
 ようやく状況が好転したのは先月下旬。避難所に「アレルギーの人、いませんか」という声が響いた。患者団体「盛岡アレルギーっ子サークル・ミルク」(盛岡市、藤田美枝代表)のメンバーが食品を届けに来たのだ。現在は仮設住宅に移り、症状も安定した。母親は「避難所では『これは食べられない』と言える雰囲気ではなかった。わがままととられるのも怖かった。行政にもアレルギー対応食品への認識があれば助かるのに」と嘆いた。
 同県釜石市の佐々木昌子さんは、ダウン症の長女結有(ゆうゆ)さん(7)と自閉症の長男凱(がい)君(5)がおり、凱君は小麦と卵にアレルギーがある。佐々木さんは車で寺に避難し、そこで車を津波に流された。手近にあったアレルギー対応食品を持って避難したが、すぐに尽きた。凱君は常に動き回るため避難所になじめないことから同市内にある夫の実家に移ったが、車がないため買い出しもできない。2人の子を抱えて疲労が極限に達したころ、知人から同団体の活動を聞き、対応食の援助を受けた。佐々木さんは「行政はあてにならない」とあきらめの表情だった。
 食物アレルギーは、発疹やぜんそく発作などの症状が表れ、重篤な場合は死に至ることもある。例えば小麦に強いアレルギーがある場合、普通のしょうゆを使った食品も食べられない。厚生労働省の研究班が05年にまとめた調査によると、食物アレルギーがある人の推計割合は乳児期が10%、3歳児で約5%、全体では1~2%という。【林由紀子、樋岡徹也、福永方人】

アレルギー対応食品

 食物アレルギーを持つ人のために原因となる原材料を除去した食品。食品衛生法が表示を義務づけている「特定原材料」7品目(卵、乳、小麦、ソバ、落花生、エビ、カニ)や、表示が推奨されている18品目(大豆など)が含まれていない食品が該当。災害備蓄用には湯や水を注ぐだけで調理できる米飯(アルファ米)のうち、こうした原材料が使われていないものが一般的。

■ 開けたお好み焼き粉がアレルギーの原因に(2011年3月:日本経済新聞)

 お好み焼きを自宅で調理して食べた後に、じんましんが出たり、呼吸困難に陥る――こんなアレルギー症状の報告が増えている。問題は、粉を開封した後の管理にある。密閉せず常温で何カ月も置いておくことで、粉にダニが繁殖する場合がある。
 ミックス粉などの粉製品に混入したダニの経口摂取によるアナフィラキシー(急性の全身性・重度のアレルギー反応)の症例は、「1993年に海外で初めて報告され、“パンケーキシンドローム”として問題視されている」と、聖路加国際病院皮膚科の中野敏明医師はいう。
 中野医師が経験した症例では、20代女性が自宅で開封後数カ月間常温保存したお好み焼き粉を調理・摂取後に、じんましんや下痢などのアナフィラキシー症状を発症し、救急センターを受診。患者が調理に使った粉(事故粉)からは1g当たり1万匹以上のダニが検出された。

ダニを繁殖させない注意ポイント

1.開封後、密閉しないで常温保存していたミックス粉は捨てる
 密閉しない状態で数カ月間常温に置いたものは、ダニが繁殖している可能性あり。思い切って処分しよう。容器や棚、引き出しの中に散らばった粉類もダニのすみかに。掃除機できれいにした後、しっかり水拭きして乾燥させよう。
2.開封後の粉類は密閉して冷蔵庫に保管する
 開封後の粉類の常温長期間保存はNG。輪ゴムで止める程度では、隙間からダニが入りこむ。密閉し、冷蔵保存するとダニの混入を防ぐことができる。
3.ダニアレルゲンは加熱しても壊れない
 ダニアレルゲンの中には加熱に強い性質を持つものも。アレルギーを防ぐには、食品中のダニの繁殖を食い止めることが大切だ。
 アレルギー反応には発症する「閾値(いきち)」という指標がある。コップの上端ラインを閾値とすると、ここから水があふれ出すと症状が起こる。「ぜんそくを引き起こすダニアレルゲン(Der1)の発症閾値は室内塵(じん)1g当たり10ugとされるが、事故粉からは1g当たり100ugを上回るダニアレルゲンが検出された」(中野医師)。薄力粉とお好み焼き粉でダニの繁殖性を比較した研究では、お好み焼き粉の方がダニが繁殖しやすいという結果も。「添加されている食品のアミノ酸類をダニが餌にするのでは」と中野医師は推測する。

ダニアレルギーのもとになる「コナヒョウヒダニ」

・チリダニ科。体長0.3~0.4mm。
・3~4週で卵から成虫になる。
・ほこりや人間のふけ、食べかすや粉類など、有機物ならなんでも餌にして繁殖。気温25度前後を好む。
・ダニの消化管の酵素やダニの体そのものがアレルゲンとなる。
 中野医師らと共同研究を行うITEA東京環境アレルギー研究所の白井秀治さんは、「気密性が高くリビングや寝室と台所が近接している住居は特に注意が必要。布団やカーペットに繁殖したダニが容易に台所に移動する。コナヒョウヒダニはシャープペンの芯の先ほどの大きさで、空気中にも浮遊し、袋の隙間から入りこんで増殖する」という。適度な温度と湿度があるキッチンは、ダニが好む環境なのだ。「ダニは低温環境では活動できない。開封後の粉製品はすぐに密閉し、冷蔵庫に保存することが大切」(白井さん)。
 お好み焼き粉やホットケーキミックスの他、小麦粉なども念のため冷蔵保存すると安心だ。
「これまで、小麦アレルギーで済まされていた患者も多いと思われる。思いあたる症状があったら、専門家による確定診断を受けた方がいい。その際、原因となった可能性がある粉は捨てずに持参し、皮膚科かアレルギー内科へ」と、中野医師はアドバイスする。

■ お好み焼きミックス粉はダニが繁殖しやすい

(日皮会誌:120(9),1893-1900、2010)

 お好み焼き粉のダニ繁殖性を検討した。市販のお好み焼き用ミックス粉3銘柄と薄力粉それぞれに、コナヒョウヒダニのオスとメスを各10匹ずつ添加し、培養。6週間後、ミックス粉のダニ数は薄力粉に比べて3銘柄ともに増加傾向を認め、うち1銘柄は有意に増加。ダニ抗原も増加した。

■ あなたの処方箋:食物アレルギー(2011年2月:毎日新聞)

1 負荷試験で程度見極めを

2011.2.21(毎日新聞)

 グラタンを食べた瞬間、生後7カ月の次男が激しく泣き出し、次第に顔全体が腫れあがった。「このままでは死んでしまう」。神奈川県横須賀市の母親(33)は慌てて救急車を呼んだ。
 搬送先で、呼吸困難などを伴うアナフィラキシー(急激なショック状態)と判明。血液検査の結果、牛乳、小麦、卵、大豆などの食物アレルギーと分かり、医師に食べさせないよう注意された。その後も「牛肉もだめ」「鶏肉も控えて」と指示され「何を食べさせればいいのか悩み、精神的に追い詰められた」と母親。次男は栄養を十分取れず、体格も他の子に見劣りした。
 食物負荷試験を知ったのは4歳の時。医師の立ち会いのもとで原因食材を少量ずつ食べ、症状が出るか見極める。専門病院で受けると、牛乳は1滴でだめだったが、卵黄は全く問題なし。牛肉や鶏肉も大丈夫と分かり、食べられるものが増えた。小学校高学年の今ではソフトボールチームの主将を務める。母親は「あのまま食べずにいたら、どうなっていたか」と振り返る。
 厚生労働省研究班の「診療の手引き」によると、原因食材は鶏卵、乳製品、小麦のほか、魚、果物、肉など多岐にわたる。発症を心配するあまり、食べられるものまで敬遠する人は少なくない。
 負荷試験は06年から9歳未満には保険適用となり、実施する医療機関が増えた。国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の斎藤博久副研究所長は「食べる物を制限し過ぎ、栄養失調や脳が萎縮した子もいる。ぜひ活用して」と訴える。実施医療機関は食物アレルギー研究会のサイト(http://www.foodallergy.jp/)で確認できる。

2.多くは成長につれ完治

 赤ちゃんの10人に1人が発症すると言われる食物アレルギー。体質的なものなのでずっと治らないと思われがちだが、実は成長とともに改善するケースが多い。
 東京都目黒区の女の子は1歳のとき、茶わん蒸しを食べていて顔が赤く腫れ呼吸が激しくなった。血液検査で卵アレルギーと診断された。その後母親(37)は卵を含む食品を一切食べさせず、保育園でも給食を特別に調理してもらっていた。
 3歳になったある日、間違って隣の子の給食を食べてしまった。だが症状は全く出ず、5歳になった今では普通に卵を食べている。母親は「一生治らないと思い込んでいた」と話す。
 人間の体内には免疫グロブリンE(IgE抗体)というたんぱく質が微量にある。これを作りやすい体質だと、食べ物の中にあるたんぱく質と作用して、じんましんなどのアレルギー症状を引き起こしやすい。ただし、成長して食べ物に含まれるたんぱく質を十分分解できるようになるにつれ、症状は表れなくなる。
 日本保育園保健協議会が09年、全国953の保育施設の乳幼児約10万6000人に実施した調査によると、食物アレルギーの子は1歳9・2%▽2歳6・5%▽3歳4・7%▽4歳3・5%▽5歳2・5%--と年齢とともに減っていることが分かった。
 日本小児アレルギー学会理事長で岐阜大大学院医学系研究科の近藤直実教授は「腸管機能が発達する小学校入学前後に完治するケースが多い。治る病気と理解し、専門医の指示に従った食生活を送ることが大切」と話す。

3.成人患者の注意点

 特定のものを食べて運動するとじんましんやショック症状を起こす「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という疾患がある。子どものころアレルギー体質ではなかった成人が突然かかることが多く、最近はせっけんや化粧品の成分で体質が変わったことを引き金に発症する例が相次いでいる。
 東京都小平市の女性看護師(32)は一昨年春、トーストを食べてからスポーツジムに行って汗を流している途中、突然じんましんが出て激しい腹痛と下痢に見舞われた。体を休めると症状は治まったが、以来、パスタやピザを食べて自転車通勤しても同じ症状が出るように。国立病院機構相模原病院(相模原市)を受診し、小麦による運動誘発アナフィラキシーと診断された。「過去にアレルギーはなかったのでショックだった」と女性は話す。
 なぜ突然発症したのか。この女性の場合、小麦由来成分の「加水分解コムギ末」が配合されたせっけんで毎日洗顔しており、同院の福冨友馬医師は「皮膚や粘膜が小麦成分に刺激され、アレルギーが誘発された可能性が高い」と指摘する。
 加水分解コムギ末は小麦を工業的に加工したもので、せっけんやシャンプーの泡立ちを良くする。美容師が運動誘発アナフィラキシーを発症することもある。厚生労働省は昨年10月、加水分解コムギ末を含む化粧品などについて、異常があった場合は使用をやめるよう呼び掛ける通知を出した。運動誘発アナフィラキシーと診断されたら、誤って原因食材を食べてしまった後は運動を控えたほうがいい。
 これ以外でも、若者や成人は突然食物アレルギーになることがあり、その原因食材は多様だ。厚労省研究班の診療の手引きによると、子どもは原因食材は鶏卵や乳製品、小麦が大半を占めるのに対し、20歳以上は(1)カニ、エビなど甲殻類18%(2)小麦15%(3)果物類13%(4)魚類11%(5)そば7%--の順で多い。福冨医師は「大人になって発症すると子どもより治りにくく、症状が急激に表れることも多い。食生活に一層注意が必要」と話す。

4.怖いショック症状、手放せない… 

2011年2月24日 提供:毎日新聞社

 ◇怖いショック症状、手放せない自己注射薬

 牛乳や卵などの食物アレルギーがある神奈川県の小5男子(11)は学校給食が食べられない。毎日母親(33)が作った弁当を持って登校している。弁当の袋にはいつも太いペンのような自己注射薬が添えられている。
 食物アレルギーの人は原因食材が体内に入るとスズメバチに刺されたような急激なショック状態を起こし、呼吸困難や意識障害で命を落とすこともある。特に学校生活では友達の給食が口に入ったり、こぼれた牛乳が体に触れる恐れがある。母親は「自己注射薬が手元にないと、本人が不安がる。命綱です」と話す。
 自己注射薬は国内では「エピペン」という商品名で03年から発売されている。安全キャップを外して太ももの前外側に垂直に強く押し付けると、針が出てアドレナリンを注射できる。アドレナリンには気管支を広げて呼吸困難を緩和するとともに、血圧を上げショック症状を改善する効果がある。
 エピペンは0・3ミリグラムの大人用とその半量の子ども用があり、医師の処方箋がないと購入できない。販売元のマイラン製薬によると、昨年の販売数は約2万5000本で年々増えている。ただし症状がひどいと本人が使えないため、国は08年、教職員が注射しても医師法違反にならないことを教育委員会に通知。今春からは保育士にも広げる方針だ。
 緊急時に適切に使えるよう講習会を開く医療機関もある。あいち小児保健医療総合センター(愛知県大府市)の伊藤浩明内科部長は「症状の見極めが重要で、例えば息がゼイゼイしている状態ならば使った方がいい。使用法を習熟していないと宝の持ち腐れになる。」とアドバイスする。

5.原因食材を「食べて治す」免疫療法

2011年2月25日 提供:毎日新聞社

 食物アレルギーの治療法として、食べて治す経口免疫療法が注目されている。「毒をもって毒を制す」という言葉があるが、原因食材を食べて体に耐性をつけることを目指す治療法だ。
 国立病院機構相模原病院(相模原市)では08年夏に免疫療法を始めて以来、約220人を治療した。急激なショック症状が出る人は5日間入院して治療を受け、退院後も自宅で続ける。
 病室を訪ねると、小麦アレルギーの5歳の男児がうどんを食べていた。入院初日にカボチャのケーキ約40グラムを食べて嘔吐(おうと)などの症状が出たが、この日はうどんを100グラム食べられた。母親は「コロッケを食べて救急搬送されたこともあった。こんなに食べられるなんてびっくり」。男児も「早くクッキーが食べたい」と笑った。
 免疫療法は、最初に食物負荷試験をして原因食材をどの程度食べられるか見極めた上で実施する。医師の立ち会いのもとで徐々に食べる量を増やし、症状が出たら量を減らして様子を見る。国立病院機構仙台医療センター▽神奈川県立こども医療センター▽国立病院機構三重病院▽あいち小児保健医療総合センター--などでも実施しているが、医療機関ごとに食べる量や治療期間が異なるため、厚生労働省研究班が治療法の確立などのために臨床研究を続けている。
 ただし、「すべての人が順調に改善するとは言えない」と相模原病院の海老澤元宏医師は話す。人によっては胃腸炎などの副作用を引き起こす。治療に時間がかかる人も多く、同院で免疫療法を受けた9歳の女児は牛乳を1日120ミリリットル飲めるようになるまで1年かかった。海老澤医師は「専門医に有効性と危険性の両方の説明を聞いた上で、受けるかどうかを慎重に判断してほしい」と呼び掛ける。

■ 特集:変わる食物アレルギー(2009年4月:日経メディカル)

1.重度の食物アレルギーが治った! 注目集める特異的経口耐性誘導療法

 原因食物の除去を続け、自然な耐性獲得を待つばかりだった食物アレルギーへの対処法。しかし、近年、世界では根本治療へ向けた研究が盛んに行われている。国内でも特異的経口耐性誘導療法の臨床研究が増えており、重度の食物アレルギーが治ったという症例も報告されている。

 「子供はケーキやクッキーを喜んで食べている。家族で外食することもできるようになった」――。重度の卵アレルギーだった9歳8カ月の女児の母親は、治療後の変化を報告し、泣いて喜んだ。女児は、ある臨床研究に参加し、短期間で卵が食べられるようになったのだ。
 この臨床研究を行っているのが、神奈川県立こども医療センターアレルギー科の栗原和幸氏(同科部長)と伊藤直香氏だ(伊藤氏は2009年4月から東大医科学研究所炎症免疫学分野に所属)。栗原氏らは、アナフィラキシー型の食物アレルギーを持つ学童期以降の患者を対象に、耐性を誘導して食物アレルギーを治す治療法の研究を進めている。
 これまで、食物アレルギーに対する根本的な治療法はなく、原因食物の除去を続けながら自然に耐性を獲得するのを待つしかなかった。一般に、食物アレルギー患者の約70%は6歳までに耐性を獲得するといわれている。ただし、耐性を獲得できない重度の食物アレルギー患者の中には、誤食の危険におびえながらひたすら除去を続けるケースも多く、それらの患者に対する治療法の開発が求められている。
 ここ数年、食物アレルギー患者に原因食物を食べさせて耐性を誘導するさまざまな特異的経口耐性誘導療法(SOTI)の研究が世界的に行われ、「新たな治療法になるかもしれないという期待が高まっている」と栗原氏は話す。

被検者全員が卵1個を食べられるように

 栗原氏らは、07年9月から、卵白の二重盲検食物負荷試験で明らかな症状が確認された7歳以上の患者に対して、短期間で原因食物を増量して耐性を誘導する急速特異的経口耐性誘導療法(rush SOTI)の臨床研究を実施している。神奈川県立こども医療センターでスギなどに対する免疫療法を行った経験から、食物アレルギーでも急速法のSOTIが効果的なのではないかと考えたためだ。
 rush SOTIでは、入院の上、まず乾燥卵白粉末を混ぜた飲料と混ぜていない飲料を使って二重盲検で食物負荷試験を行い、症状が出る閾値を決定。閾値以下の量から投与を開始し、1日5回を目標に、毎日漸増した乾燥卵白粉末を摂取する。乾燥卵白粉末の摂取量が一定量まで達したら、加熱卵の摂取に変更し、卵1個(加熱卵白約60g)の摂取を目指す。アレルギー症状が出た際には、必要に応じて治療を行う。
 臨床研究に参加した前出の女児は、周囲の人間が卵を割るのを見ただけで顔面の腫脹が見られるような、重度の卵アレルギーだった。嘔吐などの消化器症状や口腔内違和感を認め、卵だけでなく、ピーナッツ、イカ、タコ、エビ、カニ、メロンの除去を継続。「従来であれば、卵は一生食べさせられないような症例だ」(栗原氏)。
 入院時の抗原特異的IgE抗体検査では、卵白、ピーナッツ、エビ、カニ、イカ、タコに対する特異的IgE抗体検査はどれもクラス3以上。二重盲検食物負荷試験での症状出現閾値は乾燥卵白粉末45mgだった。
 女児は、0.5mgの乾燥卵白粉末から摂取を開始し、徐々に増量。治療開始後18日目(増量を行わなかった外泊日数を除くと13日目)に、全卵1個に相当する加熱卵白60gを食べられるようになり、30日目に退院した。治療中、頻回の膨疹と腹痛、1回の軽度喘鳴を認め、膨疹に対して1回抗ヒスタミン薬を内服したほか、軽度喘鳴に対して1回気管支拡張薬を吸入したが、重篤なアレルギー症状は認めなかった。
 栗原氏らはこれまで、卵アレルギーのある7歳から12歳の6人の患者に対してrush SOTIを実施。年齢の中央値は9歳8カ月で、症状誘発閾値の中央値は0.152gだった。治療中には、喘鳴や膨疹、下痢などの症状を認め、必要に応じて抗ヒスタミン薬(多数回)や気管支拡張薬(2人に対して合計3回)などによる薬物治療を行ったが、アナフィラキシーなど重篤なアレルギー症状はなく、「平均9日、外泊による増量中断を含めた実日数では平均12日で、全員が卵1個に対する耐性を獲得した」(伊藤氏、図1)。

図1:卵1鯉以上に対する耐性獲得までの経過.gif

図1 卵1個以上に対する耐性獲得までの経過 神奈川県立こども医療センターでrush SOTIを実施した患者6人のデータ。全員が卵1個(加熱卵白60g)を食べられるようになった。投与量は卵白量で表示(乾燥卵白粉末1gは卵白8gに相当)。

 6人とも既に治療から1年が経過したが、経過は引き続き良好だ。栗原氏らは現在、さらに症例を重ねるとともに、卵以外の食物アレルギーに対してもrush SOTIを実施している。

重症食物アレルギーへの画期的治療法になる可能性

 栗原氏らの研究結果について、独協医大小児科准教授の吉原重美氏は、「短期間で治療を実施したことや、耐性獲得が難しいとされている7歳以上を対象としていることから、自然に耐性が獲得されたのではなく、rush SOTIによって耐性が獲得されたと考えられる」と話し、「アナフィラキシーを何度も起こしているような重度の食物アレルギー患者に対する、画期的な治療法になる可能性がある」と評価する。こういった方法で耐性が誘導できることがはっきりすれば、「将来は薬物で症状を抑えながら、SOTIを行うことも必要かもしれない」(吉原氏)。
 とはいえ、rush SOTIはまだ研究の緒についたばかり。そもそもSOTIでなぜ耐性が誘導されるのかが分かっていないことに加え、「退院後は、週に2回、卵1個を摂取するように指示しているものの、いつまでどの程度の原因食物を摂取すればいいのか、よく分からない」(栗原氏)など、解決すべき課題も多い。「アナフィラキシーを起こす可能性もあり、当院では入院の上、医師が付きっきりで慎重に実施している。安易に行うと非常に危険だ」と栗原氏は話す。
 ここ数年、世界で本格化してきたSOTIの研究。国内でもいくつかの医療機関がSOTIの研究を実施しており、結果が明らかになりつつある。研究が蓄積され、有効性が示されれば、将来、食物アレルギーが当たり前に治せる日が来るかもしれない。

■補足 2009年4月17日に以下の点を補足しました。
・2ページ目最後の伊藤氏のコメントにある耐性獲得までの平均日数について、「外泊による増量中断を含めた実日数では平均12日」と補足しました。

2.食物負荷試験に初のガイドライン登場

 食物アレルギーを診断したり、原因食物の除去を解除するためには、食物経口負荷試験の実施が欠かせない。しかし、現在は限られた医療機関が独自の方法で負荷試験を行っているのが実情だ。小児アレルギー学会は、2009年4月、負荷試験の方法や実施体制の原則を示したガイドラインを発表する。

 わが国における食物アレルギーの有病率は、乳幼児で推定5~10%程度。ただし、多くのケースでは学童期ごろまでに原因食物への耐性を獲得するため、学童以降の有病率は減少し、1~2%程度と考えられている。食物アレルギーの原因食物は、新生児から2、3歳までは卵や牛乳、小麦が多く、学童以降、成人などでは甲殻類、そばなどが増える傾向にある。
 食物アレルギーの原因食物を同定する方法には、食物経口負荷試験や食物除去試験、血液中の原因食物に対するIgE抗体を測定する抗原特異的IgE抗体検査、好塩基球ヒスタミン遊離試験、皮膚プリックテストなどがあるが、最も信頼できるのが、疑われる原因食物を食べて症状が出るかどうかを判定する負荷試験だ。
 食物アレルギーの患者数は多く、複数の原因食物にアレルギーを持つ多種抗原陽性患者や重症難治患者も増えていることから、負荷試験のニーズは高い。例えば、乳幼児期にアトピー性皮膚炎があり、疑われる原因食物に対する特異的IgE抗体検査が陽性であった食物について、離乳期以降も除去を続けているような症例は少なくない。このような症例では1、2歳で負荷試験を実施して食物アレルギーの確定診断を下すとともに、栄養の偏りを防ぐためにできる限り除去を解除することが求められている
 しかし、実際は「1、2歳で負荷試験を受けている症例は少なく、確定診断を受けないまま除去を続けている症例が多い」と、あいち小児保健医療総合センターアレルギー科医長の伊藤浩明氏は話す。その背景には、多種抗原陽性患者や重症難治患者が増えていること、一般の小児科では医師数や病床数が限られているといった事情がある。

専門医の3分の1は負荷試験を実施せず

 一方、負荷試験を巡る状況は、ここ数年で変化しつつある。06年度、入院での負荷試験に保険点数(1000点)が付き、08年度には外来での負荷試験でも保険請求が認められるようになった。ある小児アレルギーの専門医は「これまでコストを度外視して、再診料だけで実施していたので、保険点数が付いて多少楽になった」と話す。保険点数が付いたことで、「負荷試験を実施する医療機関も増えているようだ」と、藤田保健衛生大小児科の宇理須厚雄氏は言う。
 ただし、ひとくちに負荷試験といっても、医師によってその実施方法にはばらつきがある。日本小児アレルギー学会が、小児アレルギー専門医480人を対象に負荷試験の実施状況について調査を行ったところ、およそ3分の1の医師が負荷試験そのものを実施していないという現状が明らかになった。また、28%の医師が原因食物を単日単回摂取させる方法を実施していた(図1)。

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図1 小児アレルギー専門医の負荷試験の実施方法と実施件数 日本小児アレルギー学会が小児アレルギー専門医480人を対象に調査を実施。06年度に1件以上単日複数回投与の負荷試験を行った専門医の割合は47.8%だった。1件以上単日単回投与を行った専門医の割合は28.4%だった。34.4%の専門医は負荷試験を実施していなかった。

 単日単回の摂取とは、到底症状が出ないと思われる微量の原因食物を含む食品を試しに摂取させて、「ここまでは食べられる」と確認し、診療の度に量を少しずつ増やしていく方法だ。「この方法は、単に除去を続けるのに比べ、『少なくともここまでは食べられる』という量を示せる点で優れた診療方法ではあるが、食物アレルギーかどうかを診断できるわけではないため、本来負荷試験には当たらない」(伊藤氏)。
 食物アレルギーの診療方法が医師により大きく異なることや、「ガイドラインを作成してほしい」という小児アレルギー専門医の声を受け、日本小児アレルギー学会は08年、食物アレルギー委員会の中に食物経口負荷試験標準化ワーキンググループ(委員長は宇理須氏)を立ち上げた。同グループが作成した『食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009』は、09年4月17日から奈良県で開催される第112回日本小児科学会学術集会で販売される予定だ。
 ガイドラインでは、負荷試験を「一定の時間間隔で漸増法により数回に分割摂取させて、症状の出現を観察する検査」と定義。食物アレルギーの診療に慣れた医師が、入院設備の整備された、または緊急入院の受け入れ先を確保した医療機関で行うこと、正確に症状が判定できるように抗ヒスタミン薬などの薬物治療を中断して行うこと、などを原則とし、「安全性と確実性を重視したガイドラインを作成した」(伊藤氏)。

図2:負荷試験の原則.gif

図2 負荷試験の原則(ガイドラインを参考に編集部で作成) 「食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009」で示される負荷試験の原則。卵での負荷試験を行う場合は、固ゆで卵が推奨されている。

 また、入院での負荷試験を行う場合のスケジュールや、外来での負荷試験を行う場合のスケジュール、同意書のサンプルなどを掲載し、「具体例を盛り込んで、使いやすくしたことが特徴だ」(宇理須氏)という。保険点数が付き、ガイドラインが整備されることで、医師にとっては従来よりも負荷試験を実施しやすい環境が整いそうだ。
 とはいえ、これで国内での負荷試験の裾野が広がり、実施件数が一気に増えると考えるのは早計だ。というのも、このガイドラインはあくまで食物アレルギーの診療経験を10年以上要する専門医が、これまでの負荷試験の方法を見直すために作られたもので、これまで負荷試験を行っていなかった医師に負荷試験の方法を周知するのが目的ではないからだ。
 宇理須氏は、「専門医が少ない東北や北海道などで、これまでより積極的に負荷試験を行う専門医が出てきて、地域の医療機関と病診連携することを期待している」と話す。
 関係者が思い描くのは、全国の各地域に専門医を擁し、負荷試験の中核となる医療機関が存在し、病診連携で一帯の負荷試験のニーズに応える――という将来像だ。

3.愛媛県で食物負荷試験が普及している理由

 低年齢での食物経口負荷試験を普及させるためには、病診連携が不可欠。しかし、実際に連携が機能している地域は限られているのが実情だ。そんな中、県を挙げての取り組みで、負荷試験のスムーズな実施を実現した地域がある。

 食物経口負荷試験を行い、不要な除去を防ぐには、病診連携が欠かせない。とはいえ、実際は患者を紹介したくても負荷試験を請け負ってくれる専門医がいなかったり、診療所が患者の囲い込みを懸念したりして、病診連携が機能しない地域が多い。
 そんな中、日常的に負荷試験の病診連携を行い、実績を挙げているのが、愛媛県だ。愛媛県松山市の高岡眼科・小児科副院長である高岡知彦氏は、負荷試験のため、これまで7人の患児を松山赤十字病院(愛媛県松山市)に紹介した。
 そのうちの1例が、生後6カ月のときに卵を食べて湿疹が出た女児だ。生後7カ月目、抗原特異的IgE抗体検査の結果、卵白でクラス4となったため卵を完全除去。2歳になっても抗原特異的IgE抗体検査では卵白に高値を示していた。
 通常、高岡氏は、1歳半になった段階で負荷試験の実施を考慮している。しかし、診療体制も診療時間も限られる診療所で、負荷試験を行うのは簡単ではない。「付きっきりということは不可能だし、アナフィラキシーや帰宅後に症状が出た場合なども、対応するのは難しい」(高岡氏)。
 この女児も抗原特異的IgE抗体検査が高値で症状が出る可能性があったことから、松山赤十字病院に負荷試験を依頼。その結果、卵白を負荷しても問題はなく、女児は卵の除去を解除することができた。
 現在、高岡氏は抗原特異的IgE抗体検査で高値を示したり、即時型症状の既往があるなど負荷試験で症状が出そうな症例はもちろん、負荷試験に不安を持っている症例についても負荷試験を依頼しており、自院では基本的に負荷試験は実施していないという。

家庭・教育・医療の連携図る

 こうしたスムーズな連携が可能になった背景には、2006年度から地域を挙げて食物アレルギー対策を進める愛媛県の取り組みがある。医師から園や学校に対して診断書や除去食を指示する連絡表を独自に作成し利用しているほか、病診連携で負荷試験を実施したり、市民向けにシンポジウムを開催するなど家庭と教育機関、医療機関の連携を図っている。きっかけは、「県の医師会のバックアップや中核となる医師が積極的に動いたことだ」(愛媛県医師会の向田隆通理事)。
 現在、県内で負荷試験を実施しているのは、県立今治病院、済生会今治病院、県立新居浜病院、西条中央病院、松山赤十字病院、愛媛大附属病院、松山市民病院、市立宇和島病院の8施設。診療所などがこれらの医療機関に負荷試験を依頼する際は、愛媛県医師会・愛媛県小児科医会が作成した負荷試験依頼書類を利用して、アナフィラキシーを含めた既往歴、血液検査の結果を伝える。
 松山赤十字病院では、05年11月から08年12月までに260症例について入院で負荷試験を実施した(図1)。そのうち、県内の医療機関から紹介を受けた症例は、約60%の155症例に上る。ちなみに松山赤十字病院ではこれ以外にも、原因食物が含まれた加工食品などを既に食べている症例について外来で負荷試験を実施している。

図1:入院での負荷試験の年齢別実施件数.gif

図1 入院での負荷試験の年齢別実施件数とその結果 松山赤十字病院では、05年11月から08年12月までに260症例の入院負荷試験を実施した。最も多いのは1歳での負荷試験だ。

 同院小児科第一部長の小谷信行氏は「抗原特異的IgE抗体検査でクラス3以上の症例はもちろん、親の不安が強い症例や症状が嘔吐だけなど判定がはっきりしない症例についても紹介を受けている」と話す。入院での負荷試験の結果、陽性だったのは約44%に当たる115症例。抗原特異的IgE抗体検査のスコア別に見ると、スコア1やスコア2でも陽性の症例がある一方、スコア4以上でも陰性だった症例もあった(図2)。

図2:抗原特異的IgE抗体検査.gif

図2 抗原特異的IgE抗体検査のスコア(RASTスコア)と負荷試験の結果 05年11月から08年12月までに松山赤十字病院で入院負荷試験を実施した260症例のうち、250症例の抗原特異的IgE抗体検査のスコア(RASTスコア)と陽性率。抗原特異的IgE抗体検査のスコアが低くても陽性だった症例もある。

 負荷試験は日帰り入院で、医師1人、研修医1人、看護師1人が担当し、酸素投与や蘇生、点滴ルートを確保した上で実施する。負荷試験で症状が出なければ、その後、「緊急時に対応できる当院の電話番号を渡した上で、家庭で量を増やしながら食べてもらい、除去が解除できた段階で診療所へ返している」(小谷氏)。
 一般的に、紹介を受けた医療機関が結果的に患者を囲ってしまい、病診連携が機能しないというケースも少なくないが、小谷氏は「患者には、『食物アレルギーの診療は行いますが、それ以外の日常診療はかかりつけ医にお願いします』と、はっきり伝える。患者を返し、役割分担をすることが重要だ」と語る。
 さらに、愛媛県での取り組みは、人材育成という波及効果をもたらしつつある。「スタートから2、3年が経ち、若手の中にも食物アレルギーをやろうという医師が出てきた」(小谷氏)。小谷氏は、「食物アレルギーでできつつある人材交流や病診連携の仕組みを、喘息などほかの疾患にも生かせれば」と意気込む。今後、愛媛県での取り組みは、別の疾患や別の地域にも広がる可能性を秘めている。

■訂正 2009年4月21日に以下の点を訂正しました。
・1ページ目最終行、愛媛県医師会理事の向田氏のお名前を「向田隆道」理事と記載していましたが、正しくは「向田隆通」理事です。関係者の皆様にお詫びいたします。

<参考になるHP>

よくわかる食物アレルギーの基礎知識(2012年改訂版)
(独立行政法人 環境再生保全機構)

 すべてを網羅している冊子です。

■ 食物アレルギーQ&A
(日本アレルギー学会)

 公式HPの中のコーナーです。とても詳しく、重箱の隅をつつくような情報までカバーしています。

 2011年3月作成。

■ 離乳食の在り方と食物アレルギーの考え方
(千葉県アレルギー相談センター)

 アレルギー支援ネットワークのHPからダウンロードできます。

 食物アレルギーに関する専門学会のHP。ダウンロード可能な資料もあります。

 特定原材料表示のミス情報・自主回収情報など。

 アレルギー患者と学校・園などをつなぐサポート活動をしている団体です。

 名前の通り、食物アレルギー児をもって途方に暮れている親をサポートする会です。