■ 食物アレルギーってなあに?
特定の食材を食べるとつらい症状が出る状態を「食物アレルギー」と呼びます。
「○○を食べたらじんま疹が出た・・・もう一生この子は卵が食べられないのかしら?」
ご安心下さい。乳幼児期に多い食物アレルギーは治ることが多く、一生制限しなければならないことはまれです。一方、年長児以降に始まった場合は一生食べられないことも多く、正確な知識が必要です。
食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関係
二つは別の病気です。でも合併することがあります。乳児期では、食物アレルギーの90%以上がアトピー性皮膚炎を併発し、一方、アトピー性皮膚炎の約20%(重症例ではさらに高率)が食物アレルギーを合併しています。
アレルゲン食品の特徴と経過
・乳幼児期に多いもの(治りやすい) :卵、牛乳、小麦
・年長児以降に多いもの(治りにくい):魚介・甲殻類、ナッツ類、ソバ、果実
※ 耐性化率(食べられるようになる率)の数字いろいろ;
・1年でおよそ三割程度の人が除去を解除できたり、少しずつ摂取を開始できるようになったりします(二村昌樹先生)。
・食物アレルギー有病率は乳児が圧倒的に多く、単純に云えば3歳までに70〜80%、6歳までに80〜90%が耐性獲得に至ります(勝沼俊雄先生)。
食品
発症年齢
耐性化率
ピーナッツ
2歳
20%
樹木ナッツ
3〜5歳
不明
甲殻類
5歳〜成人
不明
牛乳
1歳以下
85%
鶏卵
1歳以下
55〜80%
魚
2歳〜成人
不明
大豆
1歳以下
85%
小麦
1歳〜成人
85%
ゴマ
幼児〜成人
20%(幼児)
アレルギー反応には2つの種類:即時型と遅延型
即時型:食べた後すぐに蕁麻疹(〜喘鳴・ショックなど全身症状)が出る場合
遅延型:食べた翌日〜数日後に湿疹の悪化する場合
乳児アトピー性皮膚炎において、卵・牛乳・ピーナツ・小麦・大豆などによる食物負荷試験では、陽性率(症状が出る率)は即時型70%、遅延型25〜50%と報告されています。
大豆、米、肉類は遅延型反応の方が多く認められます。
診断のための検査:ラスト(RAST)法(次項も参照のこと)
食物に対する即時型アレルギー抗体の有無を検出する血液検査です(遅延型アレルギーは検出できません)。ラスト陽性でも症状が出ないことがありますので、ラスト陽性のみを除去食の根拠としてはいけません。あくまでも「確認のための参考の検査」とお考えください。
※ 他に皮膚テスト(プリック、スクラッチ)もありますが、当院では行っておりません。
※ 遅延型アレルギーを検出する検査には「抗原特異的リンパ球刺激試験 Lymphocyte Stimulation Test, LST」がありますが、研究レベルでのみ行われています。
■ 食物アレルゲンと検査
最初に白状してしまいますが、アレルギー検査は皆さんが期待するほど役に立ちません。症状と検査結果の一致率は100%には遠く及ばないのです。
「保育園で食物アレルギーの検査結果を提出するように言われました」と受診される方が後を絶たず小児科医は困っています。素人の方が「検査が陽性だから食べられない」と単純に判断してはいけません。逆に「検査が陰性だから食べられる」と単純に判断してもいけません。
実はアレルギー検査結果の判読には専門知識が必要です。一般の方にはかえって混乱のもととなり得ます。例えば・・・
・実際は食べても症状が出ないのに検査が陽性だからずっと制限している。
・検査が弱陽性だから食べて大丈夫と思いこみ、子どもがショックを起こしてしまった。
などなど。検査の読み方が間違っているために子どもにつらい思いをさせてはいけません。
以下を読んでいただき、検査の必要性と評価は医師の判断で行うべきであることをご理解ください。
Q. アレルギーの血液検査にはどんなものがありますか?
代表的なのは「IgE抗体」と「ラスト(RAST)検査」です。
・IgE抗体・・・アレルギー体質の強さがわかります。
・ラスト(RAST)・・・ひとつひとつの抗原(=アレルゲン:卵や牛乳などの食材のほか、ダニやホコリ、花粉など)にどれくらい反応しやすいかがわかります。
Q. 食べ物でラスト検査が陽性に出たら、危ないから食べない方がいいの?
「ラスト検査陽性=食べたら100%症状が出る」わけではありません。
前述のようにラスト検査の評価方法は単純ではありません。
強陽性の場合は症状が出る確率が高くなりますが、無症状のこともあります。逆にラストのスコアが低くてもショックを起こすことがあり安心はできません。
さらに、ラスト・スコアの評価は年齢や食べ物の種類により異なります。
【例1】(年齢による違い)下図は牛乳アレルギーについて、「ラスト値」と「症状の出る確率」をグラフ化したものです(プロバビリティカーブ=可能性曲線)。青は1歳以下、赤は1歳台、緑は2歳以上を表しており、年齢により症状の出る確率が異なることがわかります。

(「食物アレルギーの診療の手引き2011」より)
オレンジの点線部分・・・X軸のラスト値3(牛乳のIgE抗体価3.0UA/mL)のところを見てください。症状を誘発する可能性は1歳未満の児では約90%、1歳児では約50%、2歳以上では約30%でと成長に伴い同じラスト値でも症状が出にくくなっていくことが読み取れます。
(注)このグラフのラスト値の単位は「UA/mL」であり、患者さんに渡される検査結果の「スコア」とは異なります。
【例2】(年齢による違い)卵アレルギーではスコア2(弱陽性)の場合、食べて症状が出る可能性は・・・
1歳未満で約80%、1歳台では約70%、2歳台では約50%と低下していきます。
【例3】(アレルゲンの種類による違い)同じスコア4(中等度陽性)であっても、食べて症状が出る可能性は・・・
卵:98%、牛乳:95%、小麦:74%、大豆:16%
なんと大豆ではラスト陽性でも症状が出ない人の方が圧倒的に多いのです。
Q. 卵を食べると翌日湿疹が悪化して痒がるんですけど、ラスト検査はマイナスでした。卵アレルギーじゃないと安心していいの?
ラスト検査が陰性でも卵アレルギーがないとは言えません。
ラスト検査は「即時型」と言って食べてから2時間以内に症状が出る反応を検出する検査であり、数時間後~翌日以降に出る「遅延型」反応は検出できません。
残念ながら遅延型アレルギー反応の検査は一般化しておらず、医師の管理下に食物除去負荷試験を行い症状出現の有無で診断しているのが現状です。
■ 食物アレルギーの治療
食物アレルギーの治療目標は、もちろん「食べられるようになること」。
でも、従来は「原因アレルゲンを除去して食べられるようになるのを待つ」という消極的な方法しか選択枝がありませんでした。
アレルギーを勉強しはじめた頃(約20年前)から、私は食物アレルギーに関してひとつの疑問を持ち続けてきました。
食べられることへの近道は、
① アレルゲンを少しずつ食べてみる
② アレルゲンの完全除去を続ける
のどちらが正解なのか?
アレルギー学会に参加しても、食物アレルギーに関する書物を読んでも答えは得られません。
しかし近年、大きな動きがありました。
それは「経口免疫療法」。
アレルゲンを積極的に食べさせることにより、食べられるようにする方法。
つまり、①が正しかったという結論です。
まだ標準法が定まらず、複数の専門施設で試行錯誤が繰り返されている状況ですが、徐々に形になりつつあるのを感じます。
今後に期待したいと思います。
除去食療法
さて、現在のところ食物アレルギー治療の基本は原因食物の除去です。
この治療法の目的は2つあります。
① 食べるのをやめることで、現時点で食べ物が原因で起きている症状をよくすること
② 再び食べ始めたときに症状が出ないようにすること
食物アレルギーでは、消化管にアレルギー性炎症が起きています。炎症の原因となる食べ物を食べないようにすると、消化管の炎症が治まります。すると、消化管についた傷がふさがって抗原となる食べ物が吸収されにくくなるので、感作の記憶は消えていないものの、食べても大丈夫になります。
除去する食物は、症状を中心に検査結果を参考にして医師が判断します。
※ 繰り返し申しますが、「何となく心配だから・・・」とか「アレルギー検査で陽性だから・・・」という理由だけで除去することは正しい方法ではありません。
食べるとすぐにじんま疹が出るタイプ(即時型)はわかりやすいのですが、1日〜数日後に湿疹が悪化するタイプ(遅延型)は犯人捜しが難しい。
このような場合は「食物除去負荷試験」を行います。
【食物除去試験】怪しいアレルゲン食材とその加工品を2週間完全に除去
除去により皮膚症状が改善したら、アレルギーの可能性大です。次の負荷試験へ進みます。
【食物負荷試験】除去していたアレルゲン食材をふつうに食べさせる
負荷により皮膚症状が悪化したら、アレルゲン確定。
とまあ、シンプルで原始的な方法なのです。
アレルゲンが決定したらその食材を除去します。そのものだけではなく、その食材が少量でも含まれている加工品なども一切除去するのが基本です。
(例)卵アレルギーなら生卵はもちろん、天ぷらの衣などにも卵を使ってはダメ、市販のビスケットなどのお菓子も卵入りのものはダメ。
不足する栄養分は他の食材で補う必要がありますので、素人判断ではなく、医師・栄養士の管理下で行ってください。特に複数の食材を除去する場合は管理栄養士の指導が必須です。
(例)牛乳を除去する場合のカルシウム補給など。
除去食解除
乳児期に判明した食物アレルギーは年とともに改善へ向かうので、適切な時期に解除可能です。ただ、この「適切な時期」の設定には専門的知識が必要です。
なお、 食品の除去・解除は危険(栄養障害・ショック)を伴うことがあり、必ず医師の管理下で行ってください。
軽症例:皮膚症状(蕁麻疹や湿疹の悪化)のみ
1歳のお誕生日から離乳食が完了する頃を目安に解除を開始します。
加工品 → 加熱調理品 → アレルゲンそのもの、の順で少しずつ試していきます。
重症例:皮膚症状+全身症状(ゼーゼー、ショックなど)
解除に際して食物負荷試験が必要です。定期的に血液検査(乳幼児では3〜6ヶ月、幼児以降は6〜12ヶ月間隔)を施行し、ラスト値が減少したのを確認後に入院して行います。
解除順番の例
| アレルゲン | 負荷食品名 |
| 卵 | (固ゆで卵黄)→ パン・クッキー類 → カステラなどのケーキ類 → 練り製品 → ハンバーグなどのつなぎ → 固ゆで全卵 |
| 牛乳 |
ペプチドミルク(E赤ちゃん®、MA-mi®、アイクレオHI®)→ ケーキ類 → 牛乳つなぎ食品 → ヨーグルト →(普通ミルク)→(普通フォローアップミルク)→ 牛乳 |
| 小麦 | (みそ・しょうゆなど)→ 低アレルギー小麦を用いた焼き菓子 → うどん → パン |
| 大豆 | (みそ・しょうゆなど)→ 豆腐 → きなこ → 大豆煮豆 |
| 魚類 |
かつおぶしなどのだし汁 → ツナ缶・サケ缶 → 小魚 → 干物 → フカ → 白身魚 |
| ゴマ | 黒ゴマ(粒)→ ゴマ油 → 炒りゴマ(粒)→ すりゴマ |
解除の際の注意点
・解除を試みるときは体調がよい時を選んで行うのが基本です。体調が悪いと腸の消化分解機能がうまく働かず、蛋白質が十分に分解されないまま吸収されて症状が出やすい傾向があるためです。
・食べた後すぐにはしゃいだり、運動をしたり、お風呂に入ったりすると症状が出やすくなるので、30分くらいの間はおとなしくさせて様子を見ましょう。
一応、食べられるようになったけど・・・
解除が進み、食べられるようになったけど、抗原食物に触れたり、触れた手で顔などを触ったときに肌や眼が赤くなる、腫れるといった症状がある場合は、まだ要注意。
この場合、消化管能力の成長により食べられているだけで、抗原食物に対するアレルギー反応生は消失しているわけではありません。発熱したときや解熱鎮痛剤を飲んでいるとき、下痢・軟便などのお腹の調子が悪いとき、口内炎や歯肉炎があるときなどに食べるとアレルギー症状が出る可能性が高い状態と認識すべきです。
期待される「経口免疫療法」
近年注目されている治療法です。
乳幼児期発症の食物アレルギーは加齢とともに治って食べられる可能性の方が圧倒的に高いのですが、小学校に入学する頃になってもアナフィラキシーを起こす重症例も存在します。
そのような患児がこの治療法の対象となります。
具体的には入院の上、症状が出ても対応可能な医療環境下で積極的に抗原食物を食べさせ、短期間で一定以上の抗原食物を食べられるようにします。
残念ながら成功率は100%ではありません。副作用も報告されています。
また、治療が成功した場合も、一時的に食べることができるようになっただけなのか、本当にアレルギーが出なくなったのか判断が難しい面があり、自宅でも治療として一定期間無理をしても食べ続ける必要があります。
複数の小児アレルギー専門医両機関が取り扱っていますが、まだスタンダードの方法を模索している状況です。
(例)関西医科大学滝井病院、神奈川県立子ども医療センターアレルギー科、国立病院機構相模原病院小児科、あいち小児保健医療総合センター、千葉こども病院アレルギー科、群馬大学小児科
■ 牛乳アレルギー
牛乳(=ミルク)は生後最初に気づくことの多い食物アレルギーであり、鶏卵に次いで2番目に多い原因アレルゲンです。
一口に牛乳アレルギーと言っても症状の程度は様々で、ショックを起こす重症例から生の牛乳以外は飲み食べしても症状が出ない軽症例まで存在します。即時型アレルギー症状では呼吸器症状が比較的多いことが特徴です。また、重症例では牛乳に触れたり、牛乳成分入りの入浴剤でも症状が出たり、牛乳を沸かした湯気を吸い込んで喘息発作がでることもあります。この際は集団保育や学校現場などでも対応が必要となります。
治療の基本は症状が出る食品を食べない除去食療法です。医師の指示のもと、重症度に応じて適切な食物除去を行い、除去により不足する栄養を代替食品で補う方法です。
牛乳アレルギーは3歳までに50%、6歳までに90%が治りますので、一生制限が必要となることはまれです。適切な時期に食物除去を解除していきます。
ただし、牛乳アレルギーは卵アレルギーと比較すると耐性獲得(治ること)が遅い傾向があり、ラスト値が低くてもショックを起こす例があることに注意します。最近では、小学校入学時期になっても遷延する重症の牛乳アレルギー児が増加しています。
牛乳中のアレルゲンについて
牛乳を放置しておくと、沈殿物と上澄み(乳清)に分かれます。主なアレルゲンとして、沈殿物には「カゼイン」、乳清には「βラクトグロブリン」が存在します。加熱してもアレルゲン性は低下しません(耐熱性)。
一口に牛乳アレルギーと云っても、乳清に反応する人と、カゼインに反応する人がいます。チーズはほとんどカゼインの成分でできていて乳清は入っていません。従って、「牛乳を飲むとダメだけどチーズは大丈夫」という人がいるわけです。
※ 牛乳アレルギーの方が注意すべき医薬品(番外編の「食物アレルギー児が注意すべき薬」も参照);
下痢止め、整腸剤の一部はカゼインを原料としているので注意が必要です。
(例)タンナルビン®、ラックビー®、ビオスリー®、エンテロノン-R®等
・・・これらの薬剤は当院で処方されることはありません。
※ 歯科で使用されるフッ素製剤の一部にもカゼインが含まれるため、必ず歯科医師に確認しましょう。
牛乳アレルギーで注意すべきポイント
アレルギー食品表示;
牛乳は特定原材料として法律により市販加工食品への表示を義務づけられています(ただし「牛乳」ではなく「乳」とのみ表示)。しかし、食堂や食品売り場でつくられた料理・総菜、ファーストフード、レストランには表示義務がないので注意が必要です。
※ その他の添加物:乳酸カルシウム、乳化剤、乳糖
牛乳とは関係が無く、食べても問題ありません。
「乳糖」は本来糖質なのでアレルゲンとはならないはずですが、原料が牛乳であり乳成分が微量(0.3%)残るため、重症の牛乳アレルギー児(ラスト値5〜6では要注意)では症状が出ることがあります。
牛乳アレルギー用ミルク;
治療として牛乳を除去することはカルシウムの摂取不足につながるため、アレルギー用ミルクによる代替が必要となります。MA-mi®、ニューMA-1®、ミルフィーHP®などがあります。これらは牛乳アレルギー児の離乳食にも利用可能です。 大豆乳(ボンラクト®、ソーヤミール®)も使用可能ですが、大豆アレルギーを引き起こす危険性がありお勧めできません。
※ ペプチドミルク(ペプチドミルクE赤ちゃん®、アイクレオHI®)はアレルゲン性が残っており治療用ミルクとしては使用できませんが、除去食解除の際には利用可能です。
乳製品・ヨーグルト;
乳酸菌の力である程度牛乳たんぱくを分解していますが、アレルギーを抑制するだけの効果はなく、牛乳アレルギーでは利用できません。チーズは乳蛋白が濃縮される(牛乳の約7倍)ので強い反応が出る可能性が大です。一方、バターは主として乳脂肪分で、蛋白質含有量は牛乳の約1/5と少なくなります。
「粉乳」には牛乳の約10倍の乳たんぱくが含まれる可能性があり、注意が必要です。
※ マーガリンは乳製品?
・・・植物油に水素を添加し、脱脂粉乳を少量(ふつう0.3%)添加してある食品ですので、牛乳アレルギーの方は症状が出てしまうことがあります。
他の動物の乳、牛肉は?
・牛乳アレルギー児の90%はヤギ乳に反応して症状が出ます。
・牛肉の主なアレルゲンは血清アルブミンで、加熱により反応性が低下します。牛肉を食べて症状の出る人は牛乳アレルギーの約10%で、残りの90%は無症状です。
牛乳アレルギーの除去食品と代替食品
牛乳入り食品をアレルゲン性の強弱順に並べ、その代わりになる食品を例示した表です。いろいろな書籍で作られていて比較すると微妙に異なるのですが、この表が一番整理されていると思われます。
この表は、制限食を解除する際にも利用します。
医師の管理の下、一番下の欄の食品少量から開始し、症状が誘発されたら中止してまた数ヶ月後にトライし・・・これを繰り返しているといずれ症状が出ないときが訪れます。その後は量と回数を増やし、その食品がクリアできたら同じレベルの種類を増やし、その欄を制覇したら次の強度の食品を試す・・・この粘り強い繰り返しで解除を進めることになります。
| 抗原の強さ | 除去食品 |
代替食品 |
|
最も強い (一次食品) |
牛乳、生クリーム、粉ミルク、練乳 |
アレルギー用ミルク(ニューMA-1®、MA-mi®、ミルフィーHP®、エレメンタルフォーミュラ®等) ココナッツミルク |
|
強い (半生加工品) |
バター、ヨーグルト、チーズ、プリン、ババロア、チョコレート、アイスクリーム、ミルクセーキ |
菜種マーガリン、A-1ソフトマーガリン、綿実ショートニング、果汁シャーベット、かき氷、寒天よせ、アレルギー用チョコレート |
|
やや強い (加熱加工品) |
つなぎにカゼイン含有食品(ハム、ソーセージ)、 シチュー、グラタン、 ケーキ、 カルピス、乳酸菌飲料 |
アレルギー用ハム、ソーセージ、 アレルギー用シチュー、アレルギー用ミルクで手作り 牛乳不使用で小麦、ベーキングパウダーで手作り、 自家製ジュース、調整豆乳(牛乳混入なし) |
|
弱い (含有量少加熱加工品) |
焼き菓子(クッキーなど)、パイ、ワッフル、ドーナツ、ウエハース |
もち、かしわもちなど牛乳不使用の和菓子類、牛乳不使用の小麦、ベーキングパウダーで作った自家製菓子、ソーダクラッカー、せんべい |
|
弱い (含有量微少加熱加工品) |
食パン、ゼラチン、キャラメル、粉末ジュース | 牛乳抜き食パン、寒天、カラギーナン、アレルギー用キャンディー、氷砂糖、自家製の天然果汁 |
(「食物アレルギー児のための指導マニュアル」診断と治療社、2008年発行より)
<参考> 新生児-乳児消化管アレルギー
■ 卵アレルギー
鶏卵(以下卵)は食物アレルギーの中で最も多い原因アレルゲンで、0歳児の食物アレルギーの5〜8割を占めると言われています。
一口に卵アレルギーと言っても症状の程度は様々で、ショックを起こす重症例から生卵以外は食べても症状の出ない軽症例まで存在します。即時型アレルギー症状では、皮膚症状(77%)、消化器症状(32%)、呼吸器症状(24%)の順で多く見られ、消化器症状が比較的多い特徴があります。
治療の基本は症状が出る食品を食べない除去食療法です。医師の指示のもと、重症度に応じて適切な食物除去を行い、除去により不足する栄養を代替食品で補う方法です。
卵アレルギーは3歳までに50%、6歳までに70%が治りますので、医師と相談の上、適切な時期に食物除去を解除していきます。ただし重症例は危険を伴いますので、入院の上、食物負荷試験を行います。
卵の中のアレルゲンについて
・ 鶏卵のアレルゲンは主に卵白(白身)に存在し、「オボアルブミン」「オボムコイド」「リゾチーム」などが主犯格です。卵黄(黄身)がアレルギーを起こす力は実は弱いのですね。
・「オボムコイド」は耐熱性アレルゲンと呼ばれ、加熱しても分解しません。残念ながら、オボムコイドのラスト検査陽性者は卵を加熱調理しても症状の出やすさは変わりません。
※ 卵アレルギーの方が注意すべき医薬品;(当院で処方されることはありません)
リゾチームは「塩化リゾチーム」として風邪薬の一部に使用されていますので注意が必要です。
(処方薬の例)レフトーゼ®、ノイチーム®、アクディーム®・・・いわゆるジェネリックにも多数あり、薬剤名を挙げるとキリがありません・・・。
病院処方薬の他に、市販のかぜ薬にも含まれているものあり要注意!
卵アレルギーで注意すべきポイント
・アレルギー食品表示;卵は特定原材料として食品衛生法によりスーパーなどで市販される加工食品への表示を義務づけられています。しかし、食堂や食品売り場でつくられた料理・総菜、ファーストフード、レストランには表示義務がないので注意が必要です。アヒル卵、ウズラ卵も表示対象ですが、魚卵や爬虫類の卵は対象外です。
・ゆで卵を食べて症状が出る人は、生卵を食べて症状が出る人の半分です。
・卵黄:生卵から卵黄だけ取り出すと卵白の混入が避けられないため、卵黄だけを使用した食品や調理も除去の対象とすべきです。
・鶏肉と卵白は交差反応しないので別のアレルゲンと考えます。鶏肉を食べて症状が出る人は卵アレルギー児の5%以下です。肉類は加熱による低アレルゲン化が起こりやすく、食肉の多くは加熱調理して摂取されるためアレルギー症状は出にくいとされています。鶏肉アレルギーの患者さんは他のトリの肉にも反応する可能性が指摘されていますが、やはり加熱調理により低アレルゲン化する傾向があります。
・ニワトリ以外の鳥の卵(ウズラ、ダチョウ、アヒル、カモ、七面鳥・・・)は鶏卵と交差反応を起こします。反応の強さは鶏卵より弱い傾向がありますが、鶏卵と同じレベルの除去が必要です。
・魚卵と卵白は交差反応しないため、別のアレルゲンと考えます。魚卵に反応する鶏卵アレルギー児は希です(イクラでは3〜5%)。
・加工食品に添加されている「卵殻カルシウム」には卵の成分が微量混入している可能性がありますが、焼成・未焼成ともにアレルギー反応を起こすことは希で無視できるレベルです。ただし、鶏肉を食べると症状が出る過敏な方はやめておいた方が無難でしょう。
・重症例では卵に触れたり舐めただけでも症状が出ることがあります。
Q. マヨネーズの原料は「卵黄」だから大丈夫?
A. いいえ。
生の卵黄に脂と酢を加えてできるマヨネーズですが、生の卵黄と卵白を厳密に分けることは不可能なので卵白も混入します。卵黄成分が油で守られたようになって長期保存が可能となりますが、アレルゲン性は強いのです。アイスクリームも同様に、卵黄が主原料ですが卵白も混入しています。
ただし、マヨネーズは酢(酢酸)と混じり合って変性しているため、生卵よりも食べられる可能性が高い食品ではあります。
Q. 卵アレルギーの子どもが注意すべき予防接種は何がありますか?
A. 麻疹ワクチンとインフルエンザワクチンです(理論上は安全ですが)。
麻疹ワクチンに関しては、1990年代にアレルギー性副反応が多発して問題になりましたが、その原因は卵成分ではなく添加物のゼラチンであることが判明しました。重症の卵アレルギー児の中にはゼラチンにも反応する患者がいたということですね。現在製造されているワクチンからは除去されていますので問題ありません。
ワクチンに含まれるオボアルブミン(卵白アレルゲン)でアナフィラキシーを引き起こす濃度は600ng/回(ワクチン濃度としては1200ng/ml)以上と云われています。一方、麻疹ワクチンに含まれるオボアルブミンの濃度は1ng/ml以下、最近(2010年時点)の国産のインフルエンザワクチンに含まれるオボアルブミン濃度は10ng/ml以下です。つまり、理論上副反応は起こらないことになり、安全と考えられます。
少なくとも鶏卵でアナフィラキシーなど重篤な症状を起こさない児では、普通に接種して差し支えありません。微量でもアナフィラキシーを起こすような重症者では、接種に際して事前に皮膚テスト、プリックテスト、分割接種なども考慮します。どれも完全なものではないので、有事の際に対応可能な体制で行うことが必要です。
※ 予防接種総論「卵アレルギー児への予防接種」もご参照ください。
卵アレルギーの除去食品と代替食品
卵入り食品をアレルゲン性の強弱順に並べ、その代わりになる食品を例示した表です。いろいろな書籍で作られていて比較すると微妙に異なるのですが、この表が一番整理されていると思われます。
この表は、制限食を解除する際にも利用します。医師の管理の下、一番下の欄の食品少量から開始し、症状が誘発されたら中止してまた数ヶ月後にトライし・・・これを繰り返しているといずれ症状が出ないときが訪れます。その後は量と回数を増やし、その食品がクリアできたら同じレベルの種類を増やし、その欄を制覇したら次の強度の食品を試す・・・この粘り強い繰り返しで解除を進めることになります。
| 抗原と強さ | 除去食品 |
代替食品 |
|
最も強い (一次食品) |
生卵、鶏卵料理(ゆで卵、卵焼きなど)、ウズラ卵 |
魚介類、豚肉、牛肉、大豆食品 |
|
強い (半生加工品) |
マヨネーズ 卵使用ドレッシング
茶碗蒸し、ミルクセーキ ババロア、カスタードプリン、アイスクリーム |
アレルギー用マヨネーズ フレンチドレッシング ノンオイルドレッシング フローズンヨーグルト ミルクプリン、卵抜きアイスクリーム、フルーツシャーベット |
|
やや強い (加熱加工品) |
練り製品(ちくわ、はんぺん)
つなぎ類(ハム、ソーセージ、ハンバーグ)
衣類(天ぷら、フライの衣)
ケーキ、カステラ、卵ボーロ |
卵不使用練り製品、片栗粉、サクサク粉、タピオカ粉などで手作り 卵不使用ハム、ソーセージ、ハンバーグ、つなぎにレンコンや片栗粉使用の自家製ハンバーグ 卵除去の衣(水溶きホワイトソルガム、水溶きサクサク粉、雑穀粉+大和芋のすりおろし) 重曹やベーキングパウダーと小麦や雑穀で作ったケーキ |
|
弱い (含有量少加熱加工品) |
焼き菓子(クッキーなど)、菓子パン、ドーナツ、今川焼、瓦せんべい |
重曹やベーキングパウダーと小麦や雑穀で作った卵抜きクッキー・マフィン・スコーン、菓子パン、ドーナツ、きびだんご、よもぎだんご、ようかん、おはぎ、わらびもち、しょうゆせんべい |
|
弱い (含有量微少加熱加工品) |
中華麺、パスタ(麺類つなぎ)、パン、ロールパン |
卵抜き自家製中華麺、卵不使用のパスタ、卵抜き自家製パン、フランスパン |
(「食物アレルギー児のための指導マニュアル」診断と治療社、2008年発行より)
<こんなものにも注意!>
・外食用サラダ・・・乾燥防止の予防スプレー
・表面の光沢・・・味付け海苔、一部の和菓子、菓子パン
・卵白で濁りを取る・・・こんにゃく、メープルシロップ、はちみつ、コンソメスープ、果実酢、みりん
・製造ラインで混入・・・パン、菓子パン、ベビーフードなど
・その他の卵・・・しらす干し(お腹がオレンジのもの)
■ 小麦アレルギー
小麦アレルギーは食生活の欧米化とともに増加し、近年の調査では卵、牛乳に次いで第3位となりました。軽症者とショックを起こす重症者が別れるのが特徴です。
食物アレルギー治療の基本は症状が出る食品を食べない除去食療法です。医師と相談しながら適切な除去食療法を行い、それにより不足する栄養を代替食品で補い、食べられるようになるのを待ちましょう。
<まめ知識>
・小麦のラスト検査値は当てになりません。強陽性でも症状が出ないことがある一方で、弱陽性でもショックなど強い症状を起こすことがあります。
<ちょっと詳しく> 小麦のラスト検査の読み方の注意
穀物のタンパクには構造が似ていて交差抗原性を有するものが多く含まれます。そのため、米・小麦・トウモロコシ・ソバ・雑穀類といった多種穀物に対して、同等のIgE抗体価を示す患者さんがいます。こうした患者さんは、どの穀物に対しても即時型アレルギー症状を呈することは少なく、抗体価のみを食物制限の根拠とすることは避けるべきです。症状が真実です。
・小麦の主なアレルゲンは①グルテンと②食塩水可溶性のたんぱく質です。グルテンはグリアジンとグアニンという2つの蛋白質が網目状になったのもの。耐熱性で煮ても焼いてもアレルゲン性が低下しません。ただし、しょうゆ・みそ(※)、酢などの調味料は発酵によりタンパク質が分解されてアレルゲン性が低下しており早めに利用できます。
※ しょうゆ・みその小麦含有量については醸造過程で蛋白がアミノ酸まで分解されているためアレルゲン性はほとんどなく、制限の必要はないと報告もあります。
・小麦はグルテンの含有量により、少ない方から薄力粉・中力粉・強力粉に分けられます(下図参照)。うどんは薄力粉や中力粉で作られますが、パンは強力粉です。スパゲティ製品に含まれるグルテンの量はうどんとほぼ同じですが、症状の出方はスパゲティの方が軽い傾向があります。ですから、制限解除の際に試す順番は、スパゲティ→ うどん→ パンがお勧めです。ただし、食べる量も影響しますのでご注意を。

(2011.6.4:朝日新聞より)
・パスタの原料であるデュラム小麦は一般のパン小麦と同じ仲間でアレルゲン性も同じです。
・小麦アレルギーの人が他の穀物(大麦、ライ麦など)を食べて症状が出る可能性は約20%と高くありません(大麦・ライ麦は小麦表示の対象外)。オーツ麦(オートミールなど)はグルテンを含まず、小麦アレルギーでも利用しやすい食品です。キビ、ホワイトソルガムもグルテンを含有しておらず、小麦粉の代わりになり、アレルギー用の食品にも多く用いられています。
・小麦アレルギーでは小麦粘土による湿疹(接触皮膚炎)が出ることがあります。粘土状になったものは湿疹程度で済みますが、小麦粉に水を混ぜるときに粉が舞い散ると、それを吸い込んで喘息発作を起こすことがあります。図工などでこれを使用する場合は代替の粘土が必要となります。
Q. 小麦アレルギーでは麦茶は飲めないの?
A. 麦茶の成分は小麦ではなく大麦なので、基本的には大丈夫ですが例外もあります。
麦茶の原料は小麦ではありません。大麦です。小麦アレルギーの人が麦茶を飲んでも基本的には無症状ですが、大麦アレルギーも合併している人(約20%)は症状が出ます。重症の小麦アレルギーでは要注意、と書いてある本もあります。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
・小麦アレルギーは食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因となることがあります。これは不思議な病気で、小麦を食べただけでは症状は出ません。運動しただけでも症状は出ません。でも小麦を食べて数時間以内に運動をすると全身じんま疹、呼吸困難・喘息発作、血圧低下や意識障害など重い症状を起こすのです。乳幼児期に発症する小麦アレルギーと異なり、小麦ラスト検査(※)も全例陽性にはなるわけではありません。
※ 原因蛋白は小麦成分の中の「ω-5グリアジニン」という物質です。ラスト検査は2009年秋から保険適応となる予定です。より詳しく知りたい方はこのページ下端の<医学メモ>の項目をご参照ください。
2010年に「茶のしずく石けん」(製造販売元:悠香)の使用により数十人の患者さんが発生し、問題になりました(新聞記事の項参照)。また、プロテニス選手のノバク・ジョコビッチ選手もこの病気が疑われ、運動前に小麦を食べないようになってから調子が上向いて2011年ウィンブルドン初制覇に至ったと報道されました。
・ベーカリー喘息(Baker's asthma):パンを製造する過程で小麦粉が舞い上がり、それを吸い込んで喘息発作を起こす病気です。不思議なことに、小麦を食べても症状は起きません。
Q. 小麦アレルギーはないのにお好み焼きでじんましん〜アナフィラキシーを起こしたと聞いたのですか?
A. 犯人は小麦ではありません。開封後の保管中に繁殖したダニ成分を食べた事によるアレルギー反応です。
この「お好み焼き粉・ミックス粉」によるアレルギー反応(パンケーキシンドローム)は10年ほど前から時々アレルギー学会でも報告されています。
小麦アレルギーの代替食品
主食として
ビーフン、雑穀めん:あわめん®、ひえめん®、きびめん®、米パン(A-カットパン®、おっ米パン®、グルテンフリー米粉パン®冷凍便)
※ 米パンに注意!・・・上記以外の市販されている米パンは純粋に米粉から作っているものではなく、小麦グルテンを含むので小麦アレルギーの人は食べると症状が出ます。米粉パン専用のホームベーカリーと米粉が市販されています(↓)。
(例)「もちつきベーカリー」(三洋電機)、小麦ゼロ米粉パンミックス(グルテンの代わりにグアガム使用)。
小麦粉として
米粉(上新粉、白玉粉)、雑穀粉(あわ、ひえ、きび、ソルガム、アマランサス等)
でんぷん(片栗粉、くず粉、タピオカ粉)
アレルギー用のカレー・シチューのルウ(ひえ粉)
調味料
米みそ、米しょうゆ、雑穀みそ、雑穀しょうゆ、米酢、果実酢(りんご酢、白梅酢、ワインビネガーなど)
小麦アレルギーの除去食品と代替食品
(「食物アレルギー児のための指導マニュアル」診断と治療社、2008年より)
| 抗原の強さ | 除去食品 | 代替食品 |
|
<強い> 強力粉中力粉加工品 |
パン、パン粉 麺、麩、パスタ、餃子、春巻き、ワンタンの皮 |
ご飯、もち、米パン、さつまいも、じゃがいも、米パン粉、コーンフレーク、 あわめん(ラーメン風)、きびめん(スパゲッティ風)、ひえめん(うどん風)、ビーフン、キヌアスパゲッティ、ホワイトソルガム麺 |
|
<やや強い> 薄力粉加工品 |
焼き菓子(クッキーなど)、天ぷら、フライの衣、ドーナツ、カスタード
練り製品のつなぎ 麦飯 |
上新粉、ホワイトソルガム、雑穀粉、ひえ粉、あわ粉、きび粉、キヌア粉、アマランサス粉、サクサク粉、タピオカ粉、ホワイトソルガム粉、いも粉、くず粉、ワイルドオーツ粉、キャロブパウダーなどで手作り かたくり粉、サクサク粉、 タピオカ粉ご飯、雑穀 |
|
<弱い> 含有量少加熱加工品 |
小麦含有の調味料(しょうゆ、みそ)
穀物酢 ケチャップ 小麦胚芽油 麦茶 |
米しょうゆ、あわしょうゆ、ひえしょうゆ、きびしょうゆ、こーりゃんしょうゆ、キヌアしょうゆ、いわししょうゆ、米みそ、ひえみそ、あわみそ、きびみそ、キヌア みそ米酢、りんご酢、ぶどう酢、梅酢、白梅酢 アレルギー用ケチャップ、アレルギー用ソース オリーブ油、なたね油、大豆油、サフラワー油 緑茶、紅茶、ウーロン茶 |
<こんなものにも注意!>
・麦芽糖は大麦、じゃがいも、トウモロコシから作られていることが多いので確認が必要です。
・雑穀麺にはタピオカ粉、キヌア麺にはトウモロコシが添加されたものもあります。
・水飴は小麦胚芽が使用されていることもあります。
・シナモンなど粉末の香料に小麦粉が混入していることがあります。
小麦制限解除の例
(必ず医師の指導下で行ってください)体調の良いときにアレルゲン性の弱いものから少量で始め、症状が出なければ量を増やし、十分量を食べても症状が出なくなることを確認後に次のステップへ進みます。
① 調味料(醤油など) → ② オーツ麦 → ③ 大麦 → ④ 低アレルゲン小麦 → ⑤ うどん
■ 大豆アレルギー
大豆は古くは卵・牛乳とともに3大アレルゲンの一つでしたが、食生活の変化により近年小麦にその座を明け渡し、現在は第10位です。
大豆アレルギーは3歳までに約80%が治ると言われています。
大豆アレルギーの症状は多様です。即時型ではアナフィラキシーを誘発することもあれば、口の中の症状だけのこともあります。遅発性のじんま疹や紅斑(赤い斑点)、翌日に湿疹が悪化するなどの非即時型の経過をとることも多いのも特徴です。
食物アレルギー治療の基本は症状が出る食品を食べない除去食療法です。医師と相談しながら適切な除去食療法を行い、それにより不足する栄養を代替食品で補い、食べられるようになるのを待ちましょう。
<まめ知識>
・大豆アレルゲンは熱抵抗性(加熱調理してもアレルゲン性は弱くならない)ですが、発酵により著減し、納豆、みそ、しょうゆなどは自然の低アレルゲン食品となっています。ただし、しょうゆでもアトピー性皮膚炎の悪化をきたす患者さんも存在します。
・納豆菌で発酵した納豆は豆腐よりアレルゲン性は低い傾向にあります。
・大豆油には蛋白残存量が少なく、症状を誘発することは希です。大豆油で症状が出る患者さんは他の油(エゴマ、しそ油、菜種油)を使用しましょう。なお、紅花油、綿実油、ひまわり油、ごま油などはリノール酸の割合が高く、多価不飽和脂肪酸のバランスが悪い(→ アレルギー炎症を悪化させる)ので避けましょう。
・小豆、ソラマメ、エンドウ豆、インゲン豆など他の豆類とは交差抗原性をもつと思われますが、十分評価されていません。可能であれば経口負荷試験で個別に評価します。
※ 大豆はアレルゲンとなりうる蛋白質の種類が多く、加熱や調理による抗原性の変化がまだ十分に解明されておらず、食品の形態によっても吸収や消化の受け方が異なるため一律の対応ができないという難しさが存在します。例えば、豆乳だけに反応する例、豆腐だけに反応する例、納豆で遅発型アナフィラキシーを起こす例(次の項目)等。
不思議な「納豆による遅発型アナフィラキシー」
納豆を食べて5〜14時間後にアナフィラキシー(じんま疹の他に嘔吐/腹痛や呼吸困難など複数の症状を生じる状態)を発症する人がいます。大豆ラストを調べてもなぜか陰性で、原因は発酵食品の納豆に新たに発生したアレルゲンによる特殊な遅発性アナフィラキシーとされています。ふつうアナフィラキシーは即時型反応ですが、納豆は吸収されるまでに時間がかかるので遅れて出ると考えられています。
花粉症に伴う豆乳アレルギー
大豆アレルギーに花粉症を合併する人の中に、豆乳を飲んで口腔アレルギー症候群(口の中が痒くなる)やアナフィラキシーを起こす人がいます。ラスト検査では大豆は陰性のことが多く、皮膚テストでは全例陽性を示します(反応は豆腐で弱く豆乳で強い)。
大豆アレルギーの除去食品と代替食品
(「食物アレルギー児のための指導マニュアル」診断と治療社、2008年より)
| 抗原の強さ | 除去食品 | 代替食品 |
|
最も強い (一次食品) |
大豆、枝豆、おから 湯葉 サラダ油、大豆油 油揚げ、生揚げ ピーナツ |
鳥卵、魚介類、肉類、乳製品 麩類など しそ油、えごま油、ぶどう油、なたね油、米油、オリーブ油など大豆油が混入していない油 使用可能な油で自家製 |
|
強い (半生加工品) |
ショートニング、マーガリン きなこ
市販のルウ スナック菓子 |
綿実ショートニング、A-1ソフトマーガリン(なたね油使用) はったい粉(関東では大麦、関西では裸麦、地方によってはトウモロコシやきびが原料)、キアヌ焙煎粉 使用可能な油で自家製ルウ せんべい、揚げていない菓子、大豆油以外の油で自家製 |
|
やや強い (加熱加工品) |
豆腐、納豆 クリーンピース、小豆、インゲン豆、もやし 豆乳 |
鶏卵、魚類、肉類、乳製品、麺類など いもあん、コーリャン(赤飯、あん風) 牛乳 |
|
弱い (含有量少加熱加工品) |
みそ
しょうゆ |
大豆ノンみそ(大麦、食塩)、米みそ、雑穀みそ 大豆ノンしょうゆ(小麦、食塩、カラメル)、米しょうゆ、いわししょうゆ、いかしょうゆ |
|
弱い (含有量微少加熱加工品) |
ハム、マッシュポテト、ソース
カステラ アイスクリーム |
大豆蛋白の入っていない本物のハム、A-1ソフトマーガリンで料理、大豆ノンソース(大豆ノンしょうゆが含まれるため小麦アレルギーには不可) 大豆油以外の油で手作り 大豆レシチンの入らない本物のアイスクリーム、自家製アイスクリーム |
<こんなものにも注意!>
・冷凍野菜はカッと野菜の補グレをよくするために油の使用がある場合もあります。
・くずでん粉は大豆が除去食品の場合使用できないことがあります。
大豆制限解除の例
(必ず医師の指導下で行ってください)体調の良いときにアレルゲン性の弱いものから少量で始め、症状が出なければ量を増やし、十分量を食べても症状が出なくなることを確認後に次のステップへ進みます。
① 調味料(味噌など)→ ② 納豆→ ③ 豆腐→ ④ 煮豆→ ⑤ きなこ
※ 大豆食品豆知識:
豆乳は大豆を水で膨らませてすり潰し、搾り取った液を加熱してつくられます絞りかすが「おから」で、豆乳をにがりで凝固させると豆腐になります。枝豆は未成熟な大豆、きな粉は大豆を煎って粉にしたもの。大豆レシチンは多くの食品に乳化剤として使用されています。
■ 魚アレルギー
日本は魚介類の摂取量が多く、魚介類アレルギーも卵、牛乳、小麦のアレルギーに次いで多く存在します。特に成人になり頻度が増加する傾向にあります。
乳幼児期発症例では年齢と共に部分的に治る例も多い一方で、学童以降や成人発症例では治る率は低いとされています。
アレルゲンは魚の筋肉中に含まれる「パルブアルブミン」という物質と、骨と皮にたくさん含まれている「コラーゲン」です。
実際にはほとんどすべての魚にアレルギーを示す患者さんがいる一方で、ある特定の魚だけに反応し他の魚は摂取可能であるという場合も少なくありません(理由の詳細は不明)。というわけで一律に「魚は全部ダメ!」と制限するのは問題で、「注意しつついろんな魚を試してみる」のが現実的な対応です。
・サバ、サケが多く、マグロ、タラ(外国で多い)でも報告があります。
・魚肉のアレルゲンと魚卵のアレルゲンは一般に交差抗原性に乏しく、イクラがダメならサケもダメというわけではありません。
・一般に鶏卵アレルギーのある人が魚卵のアレルギーを持っている割合は3〜7%と報告されており、多くはありません。
・発症パターンは「アトピー性皮膚炎の悪化因子」が多く、即時型症状で発症することもあります。乳児期は症状が明らかでもラスト検査は陰性のことがあります。
★ サバアレルギーの正体
・・・実は答えが2つあります。
① ヒスタミン中毒
サバやアジなどは鮮度が落ちると魚に含まれるヒスチジンから痒み物質のヒスタミンがつくられ、食べるとじんましんが出る「サバ中毒(あるいはヒスタミン中毒)」を起こすことがあります。これは特定の人に起こる魚アレルギーではなく誰でも症状が出る可能性があり、どちらかというと食中毒系ですね。
② アニサキスのアレルギー
鮮度のよいサバなのにアレルギー症状が出てしまったときに疑います。
たまたま食べたサバにアニサキスが寄生していたのです。
アニサキスはアジ、サバ、サンマ、ハマチ、イカなどに寄生します。加熱してもアレルギーを起こすことがあります。アレルギーの血液検査で、サバは陰性、アニサキスは陽性に出ることで診断できます。
食生活のヒント
・くん製、缶詰の加工過程でアレルゲン性が低下しやすく、かつおぶし(「かつおだし」から試しましょう)、マグロのツナ缶、シーチキン、サケ缶などは魚アレルギーでも早期から利用できるます。干物も生魚よりアレルゲン性が低下しています(しかしヒスタミンなどの仮性アレルゲンが増えて痒みを訴えることがあります)。ただし、乳児期、発症初期、重症例では「かつおだし」に対しても反応することがあるので昆布だしなど他のだしで代用しましょう。
・缶詰や干物でも症状が出なくなったら、魚を調理して少し試しましょう。ポイントは「旬の魚であること」「鮮度がよいこと」で、調理方法として「二度茹で・三度茹で(その都度煮汁を捨てる)」「圧力釜で炊く」などです。
※ パルブアルブミンは水に溶けやすい性質がありますので、食塩水での「水さらし」が製造過程で行われる練り製品(かまぼこやちくわなど)はパルブアルブミンも減っています。一方、コラーゲンは水溶性ではないので、練り製品でも減ってはいないのですが、熱処理に弱いのでアレルギー症状は起きにくくなっています。
イクラアレルギー
近年、魚卵(特にイクラ)摂取による幼児の即時型アレルギー反応が問題となっています。初発年齢は2〜3歳に最も多く認めます。
主要アレルゲンはbeta'-componentとlopovitellinで、タラコ、カズノコ、トビコ、シシャモなどとの間で交差反応性が認められており、摂取の際は注意が必要です。タラコやシシャモは加熱して食べるためか、イクラほどアレルギーが多くありません。
魚卵アレルギー患者は約40%に魚、甲殻類アレルギーを示します。
また、魚アレルギーのないイクラ・アレルギーも存在します。
魚卵と鶏卵はアレルゲンとして関係ありません。
■ 甲殻類(えび、かに)、軟体類(イカ・タコ)、貝類アレルギー
すべてに共通する主なアレルゲンは「トロポミオシン」(Tropomyosin:TM、約37kDa)という筋性蛋白で熱や酸に対して変化しにくく、水溶性で煮汁にも簡単に溶け出る性質があります。
血液検査(ラスト検査)をするとエビとカニはほとんど同等の抗体価を示す傾向があります(一致率65%)が、陽性でも症状を認めない患者さんも存在します。
軟体類・貝類にも含まれるトロポミオシンは甲殻類のトロポミオシンとは微妙に異なるため、甲殻類との一致率は17.5%にとどまります。
このため、確定診断・制限は明らかな誘発症状がある場合に限定すべきです。
エビアレルギー
・小児期から20歳代での発症が多く、食べて60分以内に起こる即時型反応が多く、中にはショックを起こすほどの重症例もあります。治りにくく一生食べられないことが多いのが現実です。
・エビアレルギー患者の2/3はカニアレルギーもあり甲殻類には注意が必要ですが、軟体類(イカ、タコ)・貝類(アサリ、フジツボなど)にも反応するのは約20%と決して高くはありません。
・魚類は摂取可能な場合が多く、別々の食物アレルギーとして対応します。
・軽症例で制限解除を考えるときはエビせんべいや干しエビから試しますが、あくまでも主治医と相談してからにしてください。
・海苔やしらす干しの中に小エビ(アミ)が混ざっていたり、すり身の原材料の魚がエビを食べていたり、海産物には微量のエビアレルゲンが混入していることがありますが、実際にこれらによるアレルギー症状を経験した人は少ないようです(ゼロではありません)。
■ ソバアレルギー
・ソバアレルギーは頻度は0.2%と多くないものの、一旦発症すると重症化してショックを起こしやすいため、食品衛生法により「特定原材料」に指定されて加工食品では表示が義務づけられています。一生もので治る可能性はないと考えて対応する必要があります。なお、ソバは学校給食では使用されていません。
・食べたときに出る主な症状は、
① 蕁麻疹(37%)
② 喘鳴(26%)
③ ショック(4%)
・多くは幼児期以降にそばを食べることで発症します。
・ソバは食べて症状が出るだけではなく、吸い込んでも症状が出るという特徴があります。喘息を合併している患者さんが「ソバ殻枕」を使うと夜間の喘息発作の原因になりますので避けましょう。また、ゆでたソバの湯煙でも喘息発作を起こすことがあります。
・ソバのアレルゲンは水溶性で耐熱性であり、加熱調理後もそのアレルゲン性は弱くなりません。アレルゲンとして約17kDaのアレルゲンCや24kDaの蛋白質が知られています。ソバアレルゲンは小麦や米など他の穀物と交差反応することはありません。
<ソバアレルギーの思わぬ落とし穴>
・ふりかけの隠し味にソバ粉が使われている例
・蕎麦屋でうどんを頼んだが、そばと同じナベで茹でたためにソバ成分が混入した例
・卵ボーロやクレープなどのお菓子にも使用されていることがある
<小麦アレルギーの人はソバを食べられない?>
ソバを打つときには小麦粉を同時に使う場合が多いので、小麦アレルギーの人はソバで症状が出ることがありますので要注意です。
■ ピーナッツ(落花生)アレルギー
・米国ではピーナッツは4歳以降の食物アレルギーの中で最も多い食物抗原であり、ショックを起こしやすく死亡例も年間数十人と多いため社会的に注目されています。
・ピーナッツはアレルギー食品表示制度の特定原材料(表示義務食品)に指定されています。ピーナッツオイル、ピーナッツバターも対象です。クルミは表示推奨食品ですが、その他のナッツ類は表示制度の対象外です。
・多くの場合一生治りません(食べられません)。例外的に乳幼児期発症例に希ながら治る人もいると報告されています。
・ピーナッツのラスト検査で14UA/mL以上の場合は、100%食べると症状が出ます。
・ピーナッツアレルゲンとしてAra h 1、Ara h 2、Ara h 3などの約17〜64kDaの蛋白質が知られています。熱抵抗性であり、ピーナッツ油が微量残っていてもショックを起こすことがあります。
・ローストピーナッツではアレルゲン性が生より3倍以上に高まり(※1)、これらを利用したピーナッツバター、菓子類、料理にはさらに注意が必要です。
・近くで食べたピーナッツの粉を吸い込んで喘息発作を起こした例もあります。食べた場合は消化されますが、吸い込んだ場合はそのまま血液の中に入るのでより症状が激しくなります。
・ピーナッツアレルギーの人が他の「ナッツ類」に反応する確率は20〜40%と多く、しかし分類上近縁の大豆などの「豆類」に反応するのは1%のみ(※2)で、誘発される症状も軽いと報告されています。
注意すべき食品
ピーナッツはソース、ドレッシング、バター、ピーナッツオイルなどに用いられており、食べるだけではなく接触や吸い込むことによっても症状が出ることがあります。店頭で販売されているサラダやサンドイッチ、スナック菓子などにも隠し味として含まれていることがあり注意が必要です。
ピーナッツの殻にもアレルゲン性があるので、保育園や幼稚園で豆まきに使用する際には殻の微粉で症状が出る可能性があります。
※1:ビーナッツアレルゲンと加熱処理の不思議:
ピーナッツは高熱処理をすることによりメイラード反応を起こし生のピーナッツより抗原性が強くなり、消化酵素にも抵抗性を増すと報告されています。このことは、「ゆでる」「揚げる」といった比較的低い温度で調理される中国よりも、より高温の「煎る」調理法の欧米の方がピーナッツアレルギーが多い理由と考えられています。
※2:ピーナッツと大豆は親戚?
ピーナッツは植物学的にみるとマメ目マメ科に属し、大豆・インゲン・エンドウ・小豆などと近縁種になります。しかし、ピーナッツアレルギーの患者で大豆などのマメ目マメ科植物に反応するのは15%以下であり、分類上の「目」が異なる他のナッツ類(クルミ、カシューナッツ、ピスタチオなど)に対しては20〜30%がアレルギー反応を認めると報告されています。なぜなんでしょう?
ちなみにナッツ類の植物学的分類は・・・・
・バラ目マメ科:ピーナッツ
・バラ目バラ科:アーモンド
・クルミ目クルミ科:クルミ
・ムクロジ目ウルシ科:カシューナッツ、ピスタチオ
・ブナ目カバノキ科:ヘーゼルナッツ
・タデ目マンサク科:ハシバミ
・・・だそうです。
<ナッツアレルギー>
ナッツ類:アーモンド、ヘーゼルナッツ、くるみ、ブラジルナッツ、マカダミア、ココナッツ、クリなど。
ピーナッツ同様、幼児期にアレルギー症状を発症し、一生続き、症状も重篤になる傾向があります。
ピーナッツの多くは2〜4歳、ナッツ類の多くは4〜5歳が初発年齢です。
ナッツ間の交差反応性は50%以上と高率です。つまり、上記のナッツのうち一つと反応する人は50%以上の確率で他のナッツを食べても症状が出るので注意が必要です。
カシューナッツは同じウルシ科に属するピスタチオと強く交差反応します。同様にクルミは同じクルミ科に属するペカンと強い交差抗原性が認められます。しかし、これらナッツもナッツ全体に交差反応することはほとんどありません。
※ ナッツアレルギーのラスト検査の読み方の注意
カシューナッツアレルギー患者は、同じウルシ科に属するピスタチオだけに高い交差抗原性を示し、クルミアレルギー患者は同じクルミ科のペカンナッツだけに強く交叉反応します。したがって、ピーナッツやナッツ類アレルギーにおいて、各種ナッツ特異的IgE抗体は個別に評価することが必要です。
一方、全ての豆類やナッツ類に同等のIgE抗体価を認める場合、植物の糖タンパクに共通な構造をとる糖鎖(Cross-reacting Carbohydrate Determinant, CCD)を認識するIgE抗体が存在することが多いとされています。CCD特異的IgE抗体は、ヒスタミン遊離能が低くてアレルギー症状を誘発しにくいことが知られており、多くの場合針のナッツアレルギーとは診断されません。こういった患者さんを安易に多種ナッツ類アレルギーと診断することは、患者さんの食生活を大きく脅かすことに繋がるため、負荷試験を含めて十分な根拠を持った判断が求められます。
■ 米アレルギー
・小麦と違い、ショックのような激しい反応はほとんどみられません。しかし、即時型・遅延型ともにアトピー性皮膚炎の悪化因子となる患者さんが増えています。
・血液検査で米のラスト(RAST)陽性でも炊いたご飯では症状が出ないことが多く、下記低アレルゲン米は米によって明らかにアレルギー症状が出る場合に限って使いましょう。
・アワ、ヒエ、キビなどの雑穀は米との共通抗原性があり、ラスト(IgE抗体)が陽性になることが多いのですが、食べたときの症状は穀物によって違いがあることが多く、除去が必要かどうかは症状の出方を観察しながら決めていきます。一方で、代替食として日常的に使用するメリットはないという意見もあります(同志社大学:伊藤節子先生)。
・代替食品として米の中のアレルゲンたんぱくを酵素分解した低アレルギー米「ケアライス®」、米の蛋白を物理的に除去した「A-カット米®」、米蛋白(グロブリン分画)を減少させた「ゆきひかり米」などが利用できます。
※ コメの代替食品例;
ケアライス®(ホリカフーズ):加水分解酵素処理後に食塩水による洗浄を行ったもの
A-カット米®(越後製菓):超高圧処理後の急速減圧により細胞壁に小孔をあけ、塩水で洗浄したもので、米タンパク質の約95%が除去されている。
AFTライス®(パールライス):米の主要アレルゲンであるグルテリンが少ない品種を使用し、さらにアルカリ処理後に食塩水洗浄を行い、低アレルゲン化をはかったもの。
(注)2011年11月現在、ネット検索でAFTライスの入手先が見つかりません・・・。
※ この3種類ともにレトルトパックで市販されており、電子レンジでチンすれば食べることができるので便利。ただし、価格はふつうの米の2〜3倍と割高です。
ゆきひかり:加工はされていないけれどアレルギーの出にくい品種。ふつうの米で軽く症状が出る程度の子どもにお勧めです。
■ ゴマアレルギー
ごまは近年健康志向から食品での利用が増加しており、英国、イスラエルではゴマアレルギーに対する警告が出され、欧州、カナダ、オーストラリアでは食品ラベルの表示義務食品になっています。
最近の乳幼児アトピー性皮膚炎でもラスト(RAST:特異的IgE抗体)の陽性率が高くなっています。しかし、症状と検査の相関は必ずしも高くありません。ラストのクラス4でも食べて症状が誘発されるのは50%程度で、ラストが陽性であっても実際に食べて症状が出るとは限らないのが悩ましいところです。
ごまの主要アレルゲンは「ビシリン」という物質で、熱耐性です。より詳しくは、Ses i 1〜7という種子内貯蔵蛋白質が知られています。このうちSes i 3はピーナッツの主要アレルゲンであるAra h 1と80%の相同性を有しており、ライムギやヘーゼルナッツ、キウイフルーツ、クルミなどと共通抗原性があると云われています。
ゴマは堅い種皮のままでは消化されないこともあり症状は出にくいのですが、給食でも提供されるセサミトーストのような大量にゴマを含んだ食品では誘発されることもあります。
ごまを一度に大量摂取するすりごま、ごまペーストには注意が必要です。
黒ごまは白ごまより蛋白含有が少なく、利用する場合は黒ごまから粒で開始します。
■ イモアレルギー
・ジャガイモアレルギーは、とくに多種類の食物抗原についてアレルギーを示す乳児例において比較的高い頻度に見られます。
・加熱した抗原についても反応します(耐熱性)。
・即時型の反応が出現する可能性もあります。
・交差抗原性ははっきりしていませんが、サツマイモ、里芋やヤマイモなど、ほかのイモ類にもアレルギーを示す場合があります。
・乳児期早期では実際にアレルギー症状を起こす場合でもラスト検査は陰性であることも多く、診断が難しいのが現状です。
・予後に関するデータは少ないのですが、あまり長期間の除去を要する例は少なく、鶏卵や牛乳に比べても早期に耐性を獲得する場合が多い傾向があります。
・ジャガイモを除去する場合、これが原料となる片栗粉も除去する必要があります。
■ 果実・野菜アレルギー
果実アレルギーは大きく2つに分けられます。
全身症状が誘発される「クラス1」、口の中の症状に限定される「クラス2」。どちらかというと、クラス2の方が患者さんが多い印象があります。
① クラス1食物アレルギー:
母乳を介して、または果物を食べることにより直接感作されたタイプ。
アナフィラキシーを含む全身症状を誘発します。乳児期はバナナが多く、大きくなるとキウイフルーツ、モモ、オレンジなど。重症例では、揮発した果汁や加工食品に含まれるものでも反応することがあります。
乳児期に発症した果物アレルギーは、しだいに耐性獲得する(つまり食べられるようになる)ことがありますが、幼児期以降に症状が見られる場合、耐性獲得の可能性は低くなります。
② クラス2食物アレルギー:
花粉症を先に発症し、それと交差抗原性のある果物アレルゲンに反応するようになったタイプで口腔アレルギー症候群(次項参照)と呼ばれます。花粉-食物アレルギー症候群(Pollen-food allergy syndrome, PFS)とも呼ばれます。ラテックス(ゴム)アレルギーに伴って発症するラテックス-果物症候群(Latex-fluits syndrome)も知られています。
OASによる果物アレルギーは、生の果物だけに反応し、加熱・加工された果物には反応しません。
OASでは花粉症が先行することが多いのですが、小児では先にOASが発症し、花粉症の症状は数年後に始まることもあります。花粉症が続く限り自然治癒は期待できません。
以上を表にまとめると・・・
| サイズ |
(クラス2) 口腔アレルギー症候群 |
(クラス1) 食物アレルギー即時型反応 |
| 感作経路 |
<経気道感作> 気道粘膜で花粉抗原による感作が起こり、その後に果物・野菜抗原に交差反応性を起こす |
<経腸管感作> 食物抗原が腸管粘膜に達して感作が成立
|
| 発症者の特徴 | 花粉症に罹患している成人または年長児 | アレルギー素因があり、消化機能が未熟な乳幼児 |
| 抗原の安定性 | 熱や消化酵素に対し不安定 | 熱や消化酵素に対し安定 |
| 症状 | 口腔粘膜に限局する症状が主 | 口腔粘膜以外にも症状あり |
| 診断法 | 皮膚試験(prick to prick test) | 食物負荷試験(二重盲検法) |
| 治療 |
原因食物除去療法 加熱すれば食べられる場合もある(セロリ、モモなど以外) |
原因食物除去療法
|
リンゴなどの果実アレルゲンは熱に不安定であり、一部(セロリ、バナナ、モモ)を除き加熱などの調理により症状は出にくくなります。そのためジャムやママレード、缶詰めなどのように熱処理・酸処理を加えると接種可能な場合が多いのです。
ラスト(特異的IgE抗体)検査はクラス1では有用ですが、クラス2では陰性のことがしばしばあり、その場合は新鮮な果汁を用いた皮膚プリックテストで診断します。
★ まぎらわしい「仮性アレルゲン」
野菜・果物中にはヒスタミンなどの薬理活性物質(いわゆる仮性アレルゲン)が含まれているものがあります。ヒスタミン類が直接体に作用してじんま疹などの症状が誘発されることもありますが、これは免疫反応を介さない(IgE抗体は検査しても陰性)のでアレルギーとは呼びません。
代表的なものに、サバによるヒスタミン中毒があります(魚アレルギーの項参照)。古くて過剰に発行したチーズによるチラミン中毒も知られています。ヤマイモはアセチルコリンを含む代表的な食品であり、アセチルコリンは血管拡張作用があるため、とろろ芋を食べると口の周りが赤くなるのですね。中には本物のヤマイモアレルギーの人もいますが、こちらはIgE抗体が陽性になりますので検査で鑑別可能です。
症状として、食べた直後に口周囲の痒みや赤みなどアレルギー様の軽い症状がみられますが、1時間以内には消失します。大量に食べると全身じんま疹や頭痛、喘息発作が起こることもありますが、一般的に厳密な除去は必要ないことがほとんどです。
アクの強い野菜類はたっぷりの塩水でゆでるなど基本通りのあく抜きを行ってから調理しましょう。
| 仮性アレルゲン | 食品 |
| ヒスタミン | ナス、ほうれん草、トマト、エノキ茸、鶏肉、牛肉、サバ類 |
| チラミン | チーズ、ニシンの塩漬け、パン酵母 |
| セロトニン | トマト、バナナ、キウイフルーツ、パイナップル |
| アセチルコリン | ナス、トマト、筍、サトイモ、ヤマイモ、クワイ、マツタケ |
| トリメチルアミンオキサイド | カレイ、タラ、スズキ、タコ、アサリ、ハマグリ、エビ、カニ |
□ 口腔アレルギー症候群(OAS, oral allergy syndrome)
どんな病気ですか?
新鮮な野菜や果物を食べた直後に口の中や喉の違和感・痒みなどを生じる病気です。
<OASの歴史>
比較的新しい病気(病名)です。
1987年Amlot(英)、1988年Ortolani(伊)が病気の概念を提唱しました。花粉症患者に合併することが多い食物アレルギーで、2001年Sampson(米)が米国のガイドラインにてOASを定義しました。
原因は?
果物・野菜の成分に対するアレルギー反応です。花粉症をもっている人に多い傾向があります。その理由は、果実や野菜のアレルゲンと花粉のアレルゲンの間には共通する部分があるため(交差抗原性)。
この抗原の正体は、野菜や果物が病原体や環境変化などのストレスから自らを守ろうと分泌している蛋白質です。特徴として熱や酸や消化酵素に対して不安定なものが多く、分解されて構造が変わると抗原性がなくなる傾向があります。したがって、野菜や果物を生で食べると症状が出る人でも加熱調理すると症状が出なくなったり、缶詰めや加熱殺菌されたジュースなどを食べても症状が出ないこともあります。
また、下の表のように花粉症の種類と反応する果実・野菜の種類に関連があるのも特徴です。
(代表例)
ブタクサ花粉・・・メロン、バナナ、スイカ、キュウリ、ズッキーニ
スギ花粉 ・・・トマト
カモガヤ花粉・・・ジャガイモ、トマト、メロン、スイカ、オレンジ
シラカバ花粉 ・・リンゴ、サクランボ、ナシ、モモ
☆ より詳しく知りたい方へ・・・「口腔アレルギー症候群:関連する原因花粉の植生と食物」(Phadia社)
よくある病気ですか?
花粉症のある大人の30〜70%に認められます。
どんな症状が出ますか?
原因食物を食べて15分(多くは5分)以内に接触した場所にアレルギー症状が出ます:口唇・口内・喉の粘膜にチクチクした刺激感、痒み、ヒリヒリ感、イガイガ感、つっぱり感など。
一過性で消えることがほとんど(85%)ですが、まれにさらに強い症状(皮膚症状、鼻粘膜・眼球粘膜症状、喘息様症状、呼吸器症状、血圧低下)へ進行する例もあります。
※ なぜ口・喉の症状だけが多いの?
前述のようにOASの原因となる野菜・果物抗原は消化酵素により分解されると抗原性を失う特徴があります。生で食べても一旦口や食道を通過してしまうと胃酸や胃の消化酵素に出会い、成分が活性を失ってそこから下部の消化器の症状は出なくなるのです。
どんな検査で診断されるのですか?
症状の出る食材のラスト検査(アレルギー血液検査)が陽性に出れば確定しますが、陰性でも否定できません。疑わしい場合は食材に針を刺し、それを皮膚に刺して反応を見る”プリック-プリック・テスト”が有用です。
※ アレルギー症状が明らかなのになせラスト検査が陰性なの?
OASに関与するアレルゲンは加熱や加工に不安定で、容易にIgE抗体結合能を失う性質があります。さらに粗抗原に含まれるタンパク質が少ないため、ラスト検査で陰性になることがあるのです。
原因果物・野菜は全く食べられないのですか?
これらのアレルゲンは加熱すると反応性が低下します。例えば皮を剥いたばかりのリンゴを食べると喉がムズムズしても、リンゴジャムは全然平気という場合がほとんどです。
また、胃酸や消化酵素で分解されてアレルゲン性が低下するので、食べた後の全身症状は起きにくい傾向にあります(ゼロではありません)。
治りますか?
まだ歴史の浅い病気なので数十年後に治るかどうかのデータがありません。原因食物を控えて生活するほかないようです。また、関連する花粉の飛散時期には症状が出やすい傾向がありますのでご注意を!
【ラテックス・フルーツ症候群】
天然ゴムのラテックスにアレルギーのある人が、バナナ、クリ、アボガドなどの果物や野菜を食べたときに激しいアレルギー反応(アナフィラキシー)を起こす病気です。
上記OASと異なり、口腔症状にとどまらず全身症状が出るのが特徴です。これらの抗原は消化酵素で分解されにくく、吸収されて全身症状が出やすい傾向があるからです。
■ 食肉アレルギー
即時型食物アレルギーの調査における肉類の占める割合は1.8%と少数派です。
食肉のアレルゲン成分は哺乳動物間で相同性の高い「血清アルブミン」と呼ばれる蛋白質と考えられています。アルブミンは加熱処理で抗原性が低下しますので、アレルギーがあっても十分に加熱調理すれば食べられることが多いようですが、逆に不十分な加熱調理は症状が誘発されやすいとも言えます。
牛肉アレルギー
ラスト検査で牛肉が陽性の子どものほとんどは生牛肉では症状が誘発されますが、加熱調理した牛肉では症状は認められなくなります(例外あり)。
牛肉の抗原は肉に残っているウシの血の成分(ウシ血清アルブミン)とウシガンマグロブリンで、ともに加熱により低アレルゲン化が起こりやすいと考えられます。
鶏肉アレルギー
ラスト検査で卵が陽性の場合、鶏肉のラストも陽性になる例によく遭遇しますが、実際には鶏肉を食べても症状を認める例はまれです。
鶏肉は調理により加熱されるため抗原性が低下していると考えられます。
豚肉アレルギー
豚肉によりアレルギー症状を呈する例は少なく、牛肉、鶏肉にアレルギーのある場合の代替食品としてよく利用されます。
<番外編>
食物アレルギーの周辺情報を集めました。
◆ アレルギー物質特定原材料についての表示
2002年4月に食品衛生法が改正され、容器包装された加工食品1g中に特定原材料(卵、牛乳、小麦、そば、落花生、2008年よりエビ、カニ)が数μg以上含まれている場合にはアレルギー表示が義務づけられるようになりました。 特定原材料 (表示義務) 特定原材料に準ず (表示の推奨)
特定原材料などの名称
卵、乳、小麦、エビ、カニ
ソバ、落花生
アワビ、イカ、イクラ、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、クリミ、サケ、サバ、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マツタケ、モモ、ヤマイモ、リンゴ
ゼラチン
注意すべき点として、表示はあくまでも濃度を基準になされており、表示義務以下の抗原濃度であっても、1食分摂取するとアナフィラキシー反応を起こす量に達し症状が発現する場合もあります。
原材料名の表示の順番は、含有量の多いもの順になっています。材料にこの7品目が含まれていても、代わりの呼称があったり(=代替表記)、明らかに含まれていることがわかる食品(=特定加工食品)は省略してもよい場合があるので注意が必要です。
(例)「乳」では、代わりに生乳、成分調整牛乳、バター、チーズ、脱脂粉乳、れん乳、発酵乳などの代替表記でもよく、生クリーム、ヨーグルト、アイスミルク、ラクトアイス、ミルクなどの商品は乳製品であることが明らかなので、あえて「乳」の文字は入れずに省略してもよいことになっています。
表示の仕方にも、「個別表示:個々の材料を列記し必要な項目に(〜を含む)と表示」と「一括表示:原材料名を列記し、末尾に(材料の一部に〜を含む)と表示」のどちらも許されていますので、前者ではアレルギー物質の含まれる量が推察できますが、後者では個別の量はわかりにくい点に注意が要ります。
このルールを施行後、結構「表示漏れ」のトラブルが相次いでいます。その情報を知りたい方は下記HPをご参照ください;
以上の表示義務は包装された加工食品には適応されますが、例外があります;
・店頭で調理して売られている総菜
・レストランなどの調理済み食品
・パッケージが小さい食品やばら売りの食品
には表示義務はありませんので注意してください。
◆ アレルギー食品の入手先情報
(「食物アレルギーの基礎知識」診断と治療社、2011年発行より)
昔はアレルギー対応食品を探すのが大変でしたが、現在はネット通販で入手できる時代になりました。会社の名前をクリックするとそのHPへ移動します。
□ ヘルシーハット(宮城県)
【問合わせ先】022-292-0355
【取り扱い】アレルギー食品全般。
□ 東北日本ハム(山形県)
【問合わせ先】0120-68-1186
【取り扱い】特定原材料7品目不使用のハム、ベーコン、ソーセージ、ウィンナー、ハンバーグ、ミートボール、米粉パンなど。
□ 米工房ひろおか(埼玉県)
【問合わせ先】048-882-2942
【取り扱い】お菓子、パン、低アレルギー米、雑穀、調味料、冷凍食品など。
□ 辻安全食品(東京都)
【問合わせ先】0800-8000-399
【取り扱い】自社のオリジナル製品を中心に食品だけでなく生活全般のアイテム。
□ アレルギーケア・ショップ ハッピーフレンズ(東京都)
【問合わせ先】03-5679-0930
【取り扱い】アレルギー食品のみでなく生活全般。
□ らでぃっしゅぼーや(東京都)
【問合わせ先】0120-831-375
【取り扱い】アレルギー食品全般。会員制宅配サービス。
□ 永谷園(東京都)
【問合わせ先】0120-919-454(お客様相談室)
【取り扱い】特定原材料5品目不使用のレトルトカレー(アンパンマンシリーズ他)、ふりかけなど。
□ キューピー(東京都)
【問合わせ先】0120-14-1122
【取り扱い】ベビーフード「よいこになあれ」シリーズ(特定原材料7品目不使用の瓶詰、レトルト、おやつなど)。
□ 自然食品の店 小平マナ(東京都)
【問合わせ先】042-341-2908
【取り扱い】雑穀、冷凍食品、お菓子、パン、ケーキなど。
□ シェ・ワタナベ(静岡県)
【問合わせ先】055-923-0141
【取り扱い】特定原材料7品目除去のケーキ。
□ 越後天風(新潟県)
【問合わせ先】0120-36-4050
【取り扱い】A-カットご飯、A-カットパン。
□ げんきタウン(大阪府)
【問合わせ先】050-3580-1976
【取り扱い】お菓子、粉、ケーキミックス、ふりかけなど。ただし、製品のすべてがアレルギー対応ではありません。
□ もぐもぐ共和国(大阪府)
【問合わせ先】06-6969-5558
【取り扱い】アレルギー用食品のみならず生活全般。
□ Apt-Cake(アプトケーキ)(徳島県)
【問合わせ先】088-668-7489
【取り扱い】アレルゲン除去のケーキ(個人対応、予約販売)。
□ 中野産業(香川県)
【問合わせ先】0120-05-1345
【取り扱い】ホワイトソルガムとその加工品(冷凍食品、お菓子、麺)
◆ アレルギー料理ブック
□ 子供が喜ぶ食物アレルギーレシピ100(海老澤 元宏監修)成美堂出版、2009年発行
□ アトピッ子のお料理ブック(2)(小倉英郎、小倉由紀子著)女子栄養大学出版部、2003年発行
□ アトピッ子料理ガイド(アトピッ子地球の子ネットワーク編)コモンズ、2002年発行
□ アレルギーっ子の安心レシピ大百科(千葉友幸著)家の光協会、2009年発行
□ アトピー・アレルギー料理ブック(梅崎和子著)明石書店、1992年発行
□ アトピー料理BOOK(梅崎和子著)新泉社、1988年発行
□ アレルギーっ子のためのおいしい毎日ごはん(オレンジページ)、2006年発行
□ 食物アレルギーを持つ子のヘルシーレシピ(独立行政法人環境再生保全機構)、2007年発行
□ アトピーにも安心100%米粉のパン&お菓子(陣田靖子著)家の光協会、2006年発行
(おまけ)食物アレルギー関連の絵本
□ げんちゃんのふしぎなおやつ(落合順子著)自費出版、1999年発行
□ ちかちゃんのきゅうしょく(光元多佳子著)かもがわ出版、2007年発行
□ ふしぎの山のしんりょうしょ(佐藤のりこ著)東京新聞出版局、2007年発行
□ むっちゃんのしょくどうしゃ(國本りか著)芽ばえ社、2002年発行
◆ 母乳と牛乳の違い
育児用ミルクは牛乳から作られていることをご存じですか?
牛乳を母乳成分に近づけるよう加工・調整したのが育児用ミルクです。
人間は哺乳類ですから、ヒトの赤ちゃんはヒトの乳、つまり母乳を飲むのが自然であり、赤ちゃんにとって最適・最良の食品であることは明らかです。
さまざまな理由で母乳があげられない場合は育児用ミルクを使うことができますが、母乳があげられる環境であるにもかかわらず、育児用ミルク(つまり牛乳)を選択するのは残念なことです。
以下に母乳と牛乳の違いを各項目別に比較してみました。結構違いますね。
タンパク質
カゼインと乳清蛋白質に分けられます。母乳ではその割合は4:6、牛乳では25:5と含有比率が大きく異なります。カゼインが多いと消化されにくく、母乳の方がお腹に優しいことがわかります(育児用ミルクではカゼインを除去して比率を母乳に近くなるように調整されています)。
また、母乳中には新生児・低出生体重児に必須と考えられているタウリンが含まれています。
脂質
脂質の中の必須脂肪酸は n-6系多価不飽和脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸など)とn-3系多価不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸など)からなり、n-6/n-3比は母乳で5〜6であり、その比が狂うと種々の障害をを起こすため、調整粉乳ではこの値に近くなるよう作られてます。
糖質
母乳中の糖質の大部分は乳糖であり、牛乳の2倍含まれています。乳糖は生理的にブドウ糖よりすぐれています。また母乳にはオリゴ糖も含まれており、これはビフィズス菌の増殖因子でもあります。
電解質(ミネラル分)
母乳の濃さ(浸透圧)は牛乳の1/3程度です。薄いこと(ナトリウムやカリウムが少ない)により腎臓への負担が軽くなっているのです。牛乳はその他のミネラル分(カルシウム、リンなど)も多く、育児用ミルクでは母乳に近い値に調整されています。
(院長のつぶやき)乳の濃さの違いはその動物の育児形態によると読んだことがあります。濃い乳は赤ちゃんが自分で移動できて水分補給も可能な動物(ウシの赤ちゃんは生まれてすぐに歩けます)、薄い乳は赤ちゃんが自立できないので頻回に授乳が必要な動物に合わせたものだそうです。なるほど。
抗アレルギー効果
母乳中には分泌型IgAを代表とする乳児の消化管の免疫抵抗力を高める物質がたくさん含まれています。ビフィズス菌増殖効果のあるオリゴ糖が多く、また殺菌効果のあるトランスフェリン、TGF-βという物質はIgA抗体の産生を促します。このように母乳は腸管の炎症を防ぎ、腸内環境を整え、抗アレルギー効果を発揮します。
発展途上国では乳児期の急性胃腸炎・脱水で命を落とす率が高く問題になっています。母乳栄養児の方が重症化率が低く抑えられることが報告されています。
※ お母さんが食べたものはどのくらい母乳中に出るのでしょう?
薬のテキストでは「飲んだ量の1/100」と書いてある本が多いのですが、伊藤節子先生(同志社大学教授)が「母乳中に移行する抗原量は摂取量の1/10万〜1/100万にすぎない」と書かれています。
★ 母乳研究は現在も日進月歩であり、今後も赤ちゃんの体に有利な物質が新発見され続けることでしょう。
◆ 赤ちゃんに食物アレルギーが多い理由
アレルゲンは基本的にタンパク質であり、分子量1万〜7万程度がアレルゲンとして認識される大きさといわれています。ここで、ヒトが食べたタンパク質の行方を確認してみましょう。
タンパク質(肉・魚・卵・大豆・乳)
↓ 胃内での消化 ・・・胃液(胃酸&ペプシン)による
ポリペプチド
↓ 十二指腸での消化 ・・・膵液(トリプシン、キモトリプシン)
ジペプチド
↓ 小腸での消化 ・・・ジペプチダーゼ、オリゴペプチダーゼ
アミノ酸
とこんな感じです。アミノ酸まで分解されて吸収されると分子量が小さいのでアレルゲンとして認識されません。つまりアレルギー反応を起こせないのです。
しかし赤ちゃんは消化吸収能力が未熟であり、アミノ酸まで分解されることなく大きな分子のまま吸収されてしまいがちです。すると、アレルギー反応を起こす可能性が出てくるのです。乳児では消化酵素の量が成人の1/7程度(特にトリプシンなど膵液の酵素が少ない)だそうです。
また、2歳までは消化管を守っている分泌型IgA抗体の量が成人より少ないことも一因と言われています。
◆ 食物アレルギーは予防可能?
現時点で明らかな効果のある方法は残念ながらありません。
食物は本来、ヒトにとって異物です。それを進化の過程で長い時間をかけて消化・吸収できるシステムを作ってきたのです。これを専門用語で免疫寛容と呼びます。しかし、異物と認識してしまうと排除するシステムが働くようになります。これを感作と呼びます。食物アレルギーの予防とは、感作を避けて免疫寛容を誘導することに他なりません。
近年の検討でわかってきたことを列挙します;
① 妊婦・乳児に対して予防的な食物除去は勧められない。
妊婦に食事制限をして食物アレルギー児の発症が減少したと結論づける報告はありません。妊娠中の母親はバランスのよい食事を摂取し、受動喫煙を含めた禁煙を心がけるべきです。
乳児の栄養法に関しては、欧米や日本の指針において、両親・兄弟に食物アレルギーを有するハイリスク児に対して、高度加水分解乳(MA-1®、MA-mi®、ミルフィー®)のみが推奨されています。
② 生後4ヶ月間は母乳栄養が好ましい。
母乳栄養はアレルギー疾患の抑制効果を認めています。
③ 適切な時期に離乳食(食物の経口摂取)を開始する。
現在、日本の離乳指導は生後4〜5ヶ月頃からとされていますが、アレルギー疾患の予防の面からもその時期が適当であり、鶏卵や牛乳の開始を遅らせるなどの対応は推奨されません。
この根拠として、Prescottらは、経口摂取した食物による免疫寛容には適切な時期があるとし、おおむね生後3〜7ヶ月を tolerance induction window とし、この時期より以前でも以後でも感作が促進されるというモデルを提唱しています(2008年)。
④ 経皮感作を予防するために皮膚のバリア機能を良好に保つ。
これは比較的新しい考え方です。食物アレルギーの原因は食べたからではなくドライスキン〜湿疹のある皮膚から吸収された微量の食物アレルゲンがメインであるという考え方です。つまり食物アレルギーを予防するには湿疹知らずの皮膚を保つべくスキンケアに精を出す必要があるのです。
食物アレルゲンをある程度の量で経口的に摂取した場合には免疫寛容が誘導されるのに対して、経皮的に微量に摂取した食物アレルゲンに関しては感作が成立するというLackらの学説(2008年)に基づいています。
☆ 話題の「衛生仮説」とは?
衛生状態がよくなって感染症が減ったためにアレルギーが増えたという学説です。
1989年にイギリスのStrachanという学者が、生活水準や衛生環境の向上による幼少期の感染の減少がアレルギー疾患増加の原因であると報告しました。その機序として、エンドトキシン(細菌が出す毒素)はアレルゲンに対してアジュバント(補助)として作用しTh1細胞を誘導しますが、衛生環境の改善などでその暴露量が減ったことにより、アレルギー反応を起こすTh2細胞が誘導されやすくなったためと推論したのです。
<食物アレルギーに関する記事>
新聞記事・ネット上で見つけたニュースや経験談を拾い読みしました。
■ 患者を生きる:食物アレルギー(2012年1月:朝日新聞)
プロローグ〜食物アレルギー、食べて治す 牛乳や卵、専門医のもとで徐々に摂取
食物アレルギーを、その原因となる食物をあえて食べることで治す療法の開発が進んでいる。従来は原因食物を食べないようにして症状を避ける治療が中心だったが治った例も出てきた。症例をさらに重ねて効果や安全性を確認することが期待される。食事療法なので手軽に思えそうだが、危険も伴うため、専門医のもとで行うことが鉄則だ。(長野剛)
● 重症患者の改善例も
「う~ん。まずい」
2月の昼下がり、病室で小学生2人が医師に見守られ、飲み慣れない牛乳を飲んでいた。2人は牛乳による食物アレルギーの重症患者で、元々は飲むと命の危険があった。
だが、8日前に入院してから毎日少しずつ飲む量を増やし200ミリリットルを飲み干せるようになったという。
入院当初は発作が起こるのではと怖がった小学4年の植田尚那(たかとも)君(10)も「完全に治ったら(牛乳が使われていて食べられなかった)給食のパンが食べたい。あとデザートも」と目を輝かす。
牛乳と卵の食物アレルギー患者を対象に、神奈川県相模原市の国立病院機構相模原病院は2008年から、原因食物をとらせる治療の臨床研究を始めた。入院と薬剤費以外は病院持ちで、患者の負担は約10万円ほどだ。
厚生労働省研究班の代表者でもある同病院の海老澤元宏医師は「必ずしも全員治るわけではないが、治癒の道が開けてきた」と語る。
食物アレルギーで目立つのは、原因食物を食べるとじんましんなどが出る即時型で、時には呼吸困難や血圧低下などが起きて生命の危険がある激しいアレルギー反応のアナフィラキシーを起こす。
同病院の入院治療対象はアナフィラキシーを起こす即時型で自然治癒が見込みにくい小学生以上の重症者だけだ。
最初は原因食物を少量ずつとり、アナフィラキシーを起こす限界量を見極める負荷試験をする。1回の摂取が牛乳なら50ミリリットル、卵なら半個までになる間に症状を起こすような患者は、治療に移るため入院してもらう。
入院では、アレルギーを抑える薬を服用しながら初日は負荷試験で見極めた限界量の2分の1~同量の原因食物をとる。10日間毎日、医師の監視下で摂取量を倍増させ、牛乳は200ミリリットル、卵なら1個まで増やす。退院後も毎日、一定量を食べながら経過観察。原因食物を含む加工品も段階的に食べていく。
この結果、昨春に治療を受けた牛乳アレルギーの19人のうち11人は、退院3カ月後も200ミリリットルの牛乳が飲めた。元々は1~12ミリリットルでアナフィラキシーを起こした子どもたちだ。卵の12人でも、8人が卵1個分の60グラムが食べられるようになった。
昨春からの治療で卵アレルギーが改善した横浜市の小学2年、湯次郁磨(ゆすきいくま)君(8)は18日、加熱した卵に関しては「治った」と診断された。毎日の摂取をやめても再びアレルギーが発症しないか、確認のため1カ月、卵を絶っていたがこの日、食べても症状はなかった。まだ生卵はだめだが母の佳子さん(47)は「成長すれば、親が用意したもの以外を食べる機会も増える。安心できました」と喜んだ。
海老澤医師は「アナフィラキシーの危険がある重い食物アレルギーの子は、全国に1学年あたり1千人程度とみられる。治療体制の確立が必要だ」と話す。
●謎多く、療法手探り
この食事療法に取り組む医療機関はほかに横浜市の神奈川県立こども医療センターや岐阜大学病院、大阪府守口市の関西医大滝井病院、国立病院機構福岡病院など。手法は必ずしも同じではない。
こども医療センターは相模原病院と違い、入院中にアレルギーを抑える薬を使わない。原因食物の増やし方もゆっくりで、入院は3週間程度と長い。治療対象も卵、牛乳に加え、ピーナツと小麦も扱う。センターの栗原和幸アレルギー科長は「将来は各病院の治療法を検討の上、標準的な療法の研究が進められるべきだろう」と話す。
また、同センターは、アナフィラキシーを起こさないような症状の軽い患者も対象にしている。重症患者よりもはるかにゆっくりペースで、医師の指導を受け自宅で原因食物をとる療法だ。計38人のうち16人が平均6・8カ月で治癒した。「本来、人体は食べたものにはアレルギーを起こさない。食べて治す、が広く応用される可能性は大きい」と栗原さん。
食べたものにはアレルギーが起こらない状態を経口免疫寛容と言い、ここ10年、治療で着目されている。
理化学研究所とアレルギー食事療法のメカニズム解明に取り組む独立行政法人産業技術総合研究所の辻典子主任研究員によると近年、経口免疫寛容では、制御性T細胞という炎症を抑えるリンパ球が重要なことが、マウスの実験で分かってきた。
腸粘膜で生まれる制御性T細胞は、アレルギーを起こしやすい免疫グロブリンE型(IgE)の生産を抑える効果が確認されている。例えば、卵に対応した制御性T細胞は、卵を攻撃するタイプのIgEの生産を抑え、卵アレルギーを防ぐ。
ただ、IgEが多くても食物アレルギーにならない人もいるし、食事療法で治癒した患者のIgEも余り減らない。原因食物を食べることで生まれる制御性T細胞が、IgEの活性自体を抑えるなど、未知の機構でアレルギーを抑えている可能性がある。「制御性T細胞の働きを解明し、治療の向上につなげたい」と辻さんはいう。
<食物アレルギーとは…>
アレルギーは、体に侵入してきた細菌をはじめとする敵を攻撃する免疫が、自分の体も攻撃してしまう現象。免疫は本来、すべての異物を攻撃するが、腸を通じて常に体内に入ってくる食物は攻撃の対象から外されると考えられており、この現象を経口免疫寛容という。何かの間違いで食物が攻撃対象から外れなかった時、過剰反応で体も攻撃されることがある。この時、じんましんができたり、呼吸ができなくなったりするなど、アレルギーの症状が起こる。
1 グラタン一さじで発作(2012年1月26日)
こんなに静かに眠り続けるものなんだろうか――。
神奈川県の女性(44)は12年前の出産直後、不思議な気持ちで次男を眺めた。「母乳が足りなそうなら粉ミルクを」という看護師の言いつけ通り、粉ミルクを与えた。大泣きしていた次男は、3時間以上眠り続けた。
退院後も変だった。粉ミルクを飲ませると、おなかに力を入れて真っ青になった。女性がコーヒー牛乳を飲んだ後に母乳を与えると、額に湿疹が出た。皮膚科医に見せたが、乳児湿疹と言われるだけだった。
事件は、生後7カ月を迎えた夏に起きた。当時住んでいた福岡県内の夫の実家で、女性はお盆料理の準備に忙しかった。泣き叫ぶ次男に母乳をあげたが泣きやまず、三つ上の長男用に作ったグラタンのホワイトソースをスプーンに一さじあげた。
その瞬間、次男の口からよだれが、どぼどぼあふれ出した。唾液(だえき)が広がった口の周りが地図のように赤くはれあがり、拭いても狂ったように泣き叫ぶ。
「これはおかしい」。20キロほど離れた病院に車で向かった。到着すると、皮膚の赤みはひいていた。「軽いアレルギーでしょう」と返された。
帰宅途中、コンビニに立ち寄った直後だった。次男の額がみるみる膨れ、体全身がはれあがった。「病院に引き返そう」。次男は途中で意識を失い、血液中の酸素が不足し顔がどす黒くなった。力の抜けた次男を抱いたまま、診察室に駆け込んだ。
医師が次男を刺激するため、体をたたきながら言った。「お母さん、駄目かもしれない」
「起きて、起きて」。次男を抱きかかえ、何度も揺さぶった。その瞬間、「ごほっ」とせき込み、顔色が赤く変わった。医師と一緒に、北九州市の国立小倉病院(当時)に向かった。
「食物アレルギーによるアナフィラキシーショックですね」
初めて聞く言葉だった。2日間入院し、アレルギーを起こす食品を調べる血液検査を受けた。牛乳と卵に高い数値が出た。「今後は、これらを除去した食事を用意して下さい」と医師に言われた。
ほとんどの食事に入っている材料だ。何を食べさせていけばいいのだろうと、途方に暮れた。(岡崎明子)
2 食事が恐怖 もう限界(2012年1月27日)
生後7カ月でグラタンのホワイトソースを食べたのをきっかけに、神奈川県の女性(44)の次男(12)は、食物アレルギーと診断された。
女性にとって、「食事」は恐怖の時間となった。すぐに次男専用の調理器具と食器を買い、家族と分けて料理した。体に小さな赤い発疹が出るたびに心配になり、病院に連れていき数時間様子を見ることが続いた。
だが、アナフィラキシーショックの瞬間を見ていない家族からは理解されなかった。当時は福岡県内で、義理の両親らと同居していた。「次男に触る前は手を洗って」と言っても、「神経質に育てるな」と言われてしまう。心労も重なり、1カ月間で10キロ近くやせた。
次男が1歳3カ月のとき、夫(45)に転勤話が持ち上がった。神奈川県内に引っ越すと、翌日から激しいせきが出るようになった。食物アレルギーに加え、小児ぜんそくとの闘いも始まった。
年に5~6回、重い発作が起きると近所の病院に入院した。病院はアレルギー対応食を用意しないため、入院中は朝、昼、晩とお弁当を作って届けた。
合間にアレルギーの血液検査を受けるたび、ソバやゴマ、イチゴなど、様々な食品で高い数値が出た。数値は低かったが、「牛乳や卵が駄目なら、牛肉や鶏肉も駄目だろう」と食べさせなかった。
治療法を求め、買い集めた本や冊子の中に、アレルギーが出やすい食品の一覧表が載っていた。豚肉や、赤身の魚、野菜もトマトやナスなどは、アレルギーを起こしやすいという。
この一覧表の教えを忠実に守った。肉はウサギとカエルと馬肉のみ。魚はタイやキスなどの白身魚だけで、料理を作った。新鮮な魚を求め、毎日漁港まで買い出しに行った。次男は常におなかをすかせていた。
長男(15)にもつらい思いをさせた。誕生日のケーキは次男の目につかぬよう、隣の家で食べてもらった。
もう限界だと思った。次男が3歳のとき、思い切って主治医に相談した。「どこを目標に治療しているのかわかりません」
返ってきた医師の言葉に、絶句した。「医師を信じるか、信じないかは、宗教と同じです」
3 「実際に食べて検査」決意
次男(12)が牛乳や卵などの食物アレルギーと診断された神奈川県の女性(44)は、食べられる食品がどんどん減り、精神的に追い詰められていた。
次男が4歳のころ、実家の母親が録画ビデオを送ってきた。血液検査ではなく、実際に食品を食べてアレルギーの有無を確認する「食物負荷試験」という方法を、医師が紹介していた。
近所の病院の主治医に、専門医を紹介して欲しいと頼んでみた。しかし「専門医なんていない」と相手にされなかった。
アレルギー対応の食品を購入していた通販会社に相談すると、医療者らが集まる学術団体の「食物アレルギー研究会」を紹介された。ちょうど翌週、研究会が開かれるという。1人で東京都内の会場に向かった。
話している内容はよくわからなかった。だが、どうやら食物アレルギーは治療できるらしい。受付で事情を話すと、国立病院機構相模原病院(相模原市)のアレルギー性疾患研究部長、海老澤元宏(えびさわ・もとひろ)さん(51)を呼んできてくれた。
「うちの息子を、診てくれないでしょうか」
「来週にもいらっしゃい」
2005年2月、相模原病院への通院が始まった。これまでの経緯を話し、現在除去している食品を伝えた。「血液検査で数値が出ていない食品は、どんどん食べさせて下さい」と言われたが、怖くて試せなかった。
ただ次男は、生後7カ月以降、一度もアナフィラキシーショックを起こしていなかった。
「もしかしたら、良くなっているかもしれません。何が食べられて、何が食べられないのか、整理しましょう」と主治医の今井孝成(いまい・たかのり)さん(41)が提案した。
女性の頭の中に、次男がショックを起こしたときの恐怖がよみがえってきた。とても試験を受ける気にはならなかった。
だが夫(45)の考えは違った。「この生活を、ずっと続けていくわけにはいかない」
次男にとっても、食事の時間は苦痛だった。幼稚園での誕生会は1人だけ部屋の隅で、椅子をテーブル代わりに家から持参したおやつを食べていた。
「検査、受けてみる?」
女性の問いかけに、次男は「うん」とうなずいた。
4 食べられるもの増えた
食物アレルギーと診断された次男(12)の治療法がわからず、途方に暮れていた神奈川県の女性(44)は2005年、ようやく国立病院機構相模原病院の専門医にたどり着いた。
次男は翌春、小学校への入学を控えていた。本当に、牛乳や卵が駄目なのか。給食開始を前に、食品を口に入れて、アレルギーの有無を調べる食物負荷試験を受けることになった。
最も量の少ない、粉ミルク2.5グラム入りのぶどうジュースから試した。10分も経たないうちに全身にじんましんが出て、呼吸が苦しくなった。医師が急いで症状を緩和するアドレナリンを注射した。やはり牛乳は1滴でも駄目だった。卵の試験は、入学前には受けられなかった。
06年4月、地元の公立小学校に入学した。給食は、同じメニューを牛乳や卵を使わずに自宅で調理し、持参することになった。緊急時に駆けつけられるようにと女性も登校し、図書室で待機する日々が始まった。
困ったのは、教室の環境だった。パンの食べこぼしや、飛び散った牛乳でも、アナフィラキシーショックを起こす可能性がある。掃除が週3日しか行われないため、女性は毎日、給食後に床に掃除機をかけ、全員の机の上を拭いた。
次男は帰宅すると、よくかんしゃくを起こした。友達も、なかなかできなかった。
そんな次男が、ソフトボールとの出会いをきっかけに変わった。地域クラブで活躍する兄の姿に憧れ、1年生の終わりにクラブに入った。体が丈夫になるにつれ積極的になり、友達が増えた。学校も休まなくなった。
食べられる食品も増えていった。通院の度に、コンビニのおにぎりやスナック菓子、魚肉ソーセージなど毎回違う食品を持参し、待合室で試した。アレルギーは、全くでなかった。
5年生の夏、林間学校という関門が立ちはだかった。次男は「ママが来るなら行かない」と決めていた。宿泊先にアレルギー除去食を依頼し、地元の救急隊にも連絡して送り出した。
1泊2日の行事を終え、バスが校門の前に到着した。無事帰宅した姿を見て、女性の目から涙があふれた。「あー、疲れた」。緊張の糸が切れた次男が、校門の前でへたり込んだ。
5 2年かけて牛乳飲めた
国立病院機構相模原病院での治療が始まった神奈川県の女性(44)の次男(12)は、成長につれ食べられる食品が増えたが、牛乳や卵は駄目だった。
病院では5年前から研究的な治療法として、アレルギーの原因となる食品を少しずつ食べさせ、耐性をつける「経口免疫療法」を始めていた。3年前、主治医の今井孝成さん(41)が次男にこの療法を紹介した。「おれ、絶対にやる」。1人だけ違う給食は、もう嫌だった。
8月、入院しての治療が始まった。牛乳4ccから始め、2日目には120ccまで増えた。症状は出なかった。3日目には目標の200ccを飲んだ。やや呼吸が苦しくなったが、10日後に退院するまで飲み続けた。
この療法は退院後も毎日、牛乳を飲み続けなければならない。牛乳の味が嫌いな次男は、お菓子でごまかしながら30分かけて飲んだ。ときにはショック症状が出て病院に運ばれた。
耐性が出来たかどうかは、3カ月間症状が出ないことを確認後に、牛乳を2週間中断。再び飲んでみて反応を調べる。治療開始から1年後の一昨年7月、確認のため牛乳を飲んだが呼吸が苦しくなった。駄目だった。
今井さんは「残念だけど、またがんばろう」と励ました。次男は次の日から再び、牛乳を飲み続けた。少しずつショック症状も軽くなり、昨年6月、「完全解除」のお墨付きが出た。
その日の晩、次男は布団の中で泣いてしまった。「ここまで来られたというパパやママへの感謝と、もう毎日、嫌いな牛乳を飲まなくてもいいから」
だが、期待していた「みんなと同じ給食」にはならなかった。完全解除でもまれにアレルギー反応が出ることがあり、学校が対応できないためだった。
10月の修学旅行も欠席した。旅館がアレルギー対応食を用意できないため、自宅から宅配便で送った食事を食べねばならないことに、耐えられなかった。
それでも、毎晩のアイスクリームとソフトボールという楽しみがある。アイスクリームを初めて食べたとき「こんなにおいしい物があるのか」と驚いた。1年生から続けてきたソフトボールは、主将を任されるまでになった。「ソフトがあったから、アレルギーとも闘えた」
6 情報編 食品制限しすぎに注意
食物アレルギーは、特定の食品に過剰な免疫反応を起こし、じんましんやまぶたの腫れ、ぜんそく、鼻水など、様々な症状が出る病気だ。原因となる食品は卵、牛乳、小麦の順に多く、赤ちゃんの10人に1人は食物アレルギーを持っている。
国立成育医療研究センターの斎藤博久(さいとうひろひさ)・副研究所長は「妊娠中にこれらの食品を控えても予防効果はない」と指摘する。成長につれ治る場合が多く、3歳児は20人に1人、小学校入学時には40人に1人程度に下がる。
重症な場合はショック症状を起こし、亡くなることもある。「アナフィラキシーショック」と呼ばれ、命にかかわるため、適切な診断が重要だ。アナフィラキシーショックが起きた際、緊急処置に使うアドレナリンの自己注射器は、昨年9月に公的医療保険が適用された。
アレルギー源を調べる方法には「血液検査」や「食物負荷試験」、怪しい食品を食べるのをやめて症状が改善するかを確認する「除去試験」などがある。
血液検査は、アレルギーを起こす免疫グロブリンE(IgE)という物質の値を調べる。牛乳や卵白など「怪しい」と思う食品のIgEの量を調べ、陰性か陽性かを確認する。
ただ、この値が陽性でも、症状が出るとは限らない。「患者を生きる 食物アレルギー」で紹介した男児のように、血液検査だけで判断すると、実際は食べられる食品まで制限してしまうことがある。
食物負荷試験は、医師の立ち会いのもと、アレルギーが疑われる食品を摂取する量を少しずつ増やしながら、症状が出るかどうかを確認する。2006年から入院で、08年から外来での試験が医療保険の適用となった。食物アレルギー研究会のウェブサイトで、実施している医療機関名を確認できる。
食物アレルギーを根本的に治す治療法は、まだ確立していない。連載で紹介した経口免疫療法は、まだ研究段階の治療で、実施している病院も限られる。
国立病院機構相模原病院の海老澤元宏(えびさわ・もとひろ)さんは「この治療で生活の質は大きく上がるが、医師の指導のもと行うことが大原則だ」と話す。(岡崎明子)
●取材後記
「くれぐれも、医師のいないところで勝手にまねするような人が出ないよう、気を付けて書いて欲しい」。この取材では何人もの人に、こう、要請されました。「この手の記事が出ると、どうしても、自己流で試そうという人が出るんですよね。でも、大変危険な行為です」
それで、記事の前文にも警告めいたことを入れさせて頂きました。
少し、違う話なのですが、治るかどうかの根拠が乏しい「民間療法」に頼ってしまう人って、多いですね。私の子どものかつての同級生の親御さんでも、お子さんのアレルギーに悩み、ある有名な民間療法で使われる「薬」を使っている人がいました。治ったかどうかは聞いていませんが、この民間療法については「効果があるとは確認できない」とする「科学」サイドからの研究論文も発表されています。アレルギーが治らなければ、この親御さんの場合、民間療法にお金を使っただけ損をした、ということになりそうです。
「いいらしい」「治るらしい」という情報だけで、それに飛びつく、というのは時に大変危険だなぁ、と思います。もちろん、身内や自分自身が大変な思いをしているときに、いろんな情報に飛びつきたくなる気持ち自体は、部外者が否定するようなものではないとは思います。でも、例えば、「食物アレルギーでも、無理して食べたら治るらしいよ」という情報だけで、自己流で重度の食物アレルギーのお子さんに食べさせたとき、生命の危険もあり得ることは、記事にも書いたとおりです。
何か、商談があったとして、それを受けるかどうかを判断する際、相手の実績はどうなのか、「実績」の報告が信頼に足るものなのか・・・、いろいろ、チェックすべきコトがあるかと思います。普段、仕事などで社会生活を送っていれば当然の判断が、医療情報では精査されず、鵜呑みになっていることも多いような気がします。
今、健康食品市場は製薬市場の数分の一程度まで巨大なものになっていると聞いたことがあります。もちろん、きちんとした健康食品もたくさんあるでしょうし、筋の通った民間療法もあるんだと思います。でも、それをきちんと見極める「目」と、判断できる「心」とを持たないと、自身を守ることは出来ないんだろうなぁ、と思います。
ご紹介した食物アレルギーの新療法はもちろん、実績が学問的に報告され、それを積み重ねる形で研究開発が行われているものです。でも、過去のきちんとした積み重ねの知識と経験がない人が行えば、リスクは間逃れないと思います。
「編集後記」に「何を書こうかなぁ」と思いを巡らせるうちに、「キチンとしているかどうか」を判断する力は、まさに、個人の生存力を問われる部分なのかなぁ、と思い至りました。偉そうでごめんなさい。
■ 食物アレルギー「食べて治す」は注意(2012.1.24:朝日新聞)
食物アレルギーの原因となる食物を食べて治す「経口免疫療法」と呼ばれる治療を受けても、治ったと云える患者は1〜5割程度にとどまり、重い副作用を経験する例も多いことが、厚生労働省の研究でわかった。研究班は診療指針を改訂し「現時点では一般診療として推奨しない」とした。
治癒1〜5割、副作用も・・・厚労省研究班「推奨せず」
摂取量を増やしながら症状が出ないようにする治療法は研究段階だが、研究班の調査では少なくとも49施設が実施、1000人以上が受けていた。研究班は、卵や牛乳、小麦を摂取すると、じんましんや呼吸困難など複数の症状が出る子ども179人を治療した国立病院機構相模原病院の事例を分析。原因となる食物の目標量(鶏卵1個、牛乳200ml、うどん200g)を3ヶ月間取り続けても、アレルギー症状が出なかった患者に対し、2週間休止した後、食物をもう一度摂取して症状が出ないかどうかを確認した。
治療開始1年後の時点で、7〜8割の患者は食べ続けている間は症状が出ない状態に持ち込めたが、休止期間後も症状が出ず「治った」と診断されたのは、卵で38%、牛乳で10%、小麦で50%。3〜5割が重い副作用を経験した。主任研究者の同病院の海老澤元宏さんは「この治療法への期待は高いが、全員が治るわけではない。副作用も重く慎重に行う必要がある」と話す。
(院長のつぶやき)私はこの治療法が話題になった4〜5年前からこの事象を危惧してきた一人です。乳児期の食物アレルギーが年齢と共に食べられるようになるのと違うのです。この治療法は「食べ続けることでアレルギーを起こす免疫因子をカラの状態に維持しておく」というもので、食べるのをやめるとまた再燃する危険性が無視できません。
一旦、食べられるようになった患者さんの中に「ほんとに治った」と「ほんとは治っていない」がいる・・・この二つの状態を検査で見極める方法はないのか・・・昨年相模原病院の医師の講演の際に質問しましたが「いろいろパラメーター解析をしているが、現時点では残念ながら見分ける方法が見つかっていない」とのことでした。
■ バーコードを読み取って成分含有を確認できる「アレルギーチェッカー」(2011.12.22:+D Mobile)
ウィルモアは、iPhone向けアプリ「アレルギーチェッカー」をリリースした。カメラで商品バーコードを読み取ることで、アレルギー成分が含まれているのか確認できる。
ウィルモアは、食品にアレルギー症状を引き起こす物質が含まれているかどうかを確認できるiPhone向けアプリ「アレルギーチェッカー」の提供を開始した。ダウンロードは無料。


iPhone向けアプリ「アレルギーチェッカー」
食品のバーコードを読み取ることで、表示が義務付けられているアレルゲン7品目に加え、表示が推奨されている18品目の合計25品目についてチェックが可能。栄養成分や原産地のほか、同じ製造ラインに含まれるアレルゲン、食品についても確認できる。また同じアレルゲングループに関する情報も掲載しており、気になった商品をブックマーク保存することもできる。
使い方は、自身が気になるアレルゲンにチェックを入れ、気になる商品の一次元バーコードをカメラで撮影するだけ。アレルゲンの変更はいつでも可能で、商品名から検索することでも調べられる。
データは随時アップデートを行い、12月22日現在ではお菓子を中心に6000商品を取り扱っている。なお、アレルゲンなどの情報は公表されているデータをもとに作成しており、データの正確性を保証するものではない。
■ 経口免疫療法の多施設臨床試験、牛乳アレルギーも(2011年8月:日経メディカル)
食物アレルギーを食べて治す、急速経口免疫療法の多施設臨床試験が進んでいる。これまでの結果から、大部分の患者には有効であることが明らかになる一方で、一部の患者には副反応が生じることも分かってきた。鶏卵アレルギーの小児に加え、2011年8月からは牛乳アレルギーの小児を対象にした試験もスタートする。
国内では2010年7月から、厚生労働省の研究班に参加する国立病院機構三重病院、千葉大など9カ所の病院が、急速経口免疫療法の多施設共同ランダム化比較試験を実施している。対象は、5歳以上15歳以下で寛解傾向にない鶏卵アレルギーの小児。卵白換算4g以下で症状が出る重篤な症例が対象だ。
同試験では被験者を治療群と対照群に割り付け、治療群は入院の上、症状誘発閾値の約10分の1以下の量からアレルギー原因食物の経口摂取を始める。毎日3~5回、漸増しながら摂取。症状が出現したら必要に応じて治療を行い、その後も症状の程度に応じて可能な範囲で増量を続ける。目標量(鶏卵は60g)に達するか、増量ができない状態に達したら、それを「維持量」とし、自宅で維持量の摂取を12カ月間続ける。
対照群は 割り付けから3カ月間は引き続き除去食を継続。3カ月時点で治療群と対照群に対して経口負荷試験を行い、症状誘発閾値などを調べる。治療群は、維持量の摂取を12カ月続けた後、2週間以上摂取を止め、その後再摂取しても症状が出現しないかを確かめる。増量のスピードなどにもよるが、入院期間は2~4週間程度。試験開始前と試験開始から3カ月時点で、被験者の皮膚反応を診るほか、血液などを採取して抗体価などを調べる。なお、この試験では割り付けから3カ月が経過したところで、対照群に対しても治療群と同じ手法で急速経口免疫療法をスタートさせている。
2011年5月までに23人を治療群に、22人を対照群に登録。被験者の平均年齢は治療群が7.3歳、対照群が7.8歳。症状誘発閾値の中央値はいずれの群も0.8gだった。
2011年5月までに割り付けから3カ月に達した症例の解析では、治療中止例を除き、3カ月時点での治療群の症状誘発閾値はすべての症例で上昇し、10g以上に到達。対照群では症状誘発閾値が上がった例も下がった例もあったが、いずれも5g以下で、急速経口免疫療法が症状誘発閾値を上げることが示された。これまでに維持量に到達して、維持量の摂取を続けている被験者は、治療群のうち20人、対照群のうち18人。
開始後に治療を中止した被験者は、治療群のうち3人と対照群のうち3人(うち1人は同意撤回で中止)で、これら5人は、いずれも治療中の症状が原因で中止した。1人は増量中のアレルギー反応が強く、別の1人は維持量経過中のアレルギー反応が原因。増量中に強いアナフィラキシー症状が出て治療を中止した被験者も1人いた。残りの2人は腸炎の発症により腸管浮腫などが認められ、うち1人は好酸球性腸炎とみられる所見を呈していた。
本試験の研究立案者である東京大学小児科の伊藤直香氏(関連記事:2009.4.16「重度の食物アレルギーが治った!」)は、「好酸球性胃腸炎は経口免疫療法中の副反応の一つとして被験者に起きる例が報告され始めている。急激に起こり、現時点で発症者の予測はできないが、宿主因子によって発症している可能性もあり、この副反応が起きやすい人の予測因子を見つけることが今後の課題だ」と話す。
とはいえ、本試験では80%程度の患者に急速経口免疫療法が有効なのも事実。研究班は8月から牛乳アレルギーの小児に対して急速経口免疫療法の臨床研究を始める。同様の試験デザインで治療群20人、対照群20人に治療を行う予定だ。
■「茶のしずく石鹸」で小麦アレルギー(2011年6月:毎日新聞)
通販のヒット商品「茶のしずく石鹸(せっけん)」を使っていた人が小麦アレルギーの症状を起こしていたことが分かり、製造販売元の「悠香」(本社・福岡県大野城市)が先月20日から、対象商品の自主回収を進めている。せっけんに配合された小麦由来成分が原因とみられる「運動誘発性アレルギー」とされ、67件の発症例が報告されている。どのようなアレルギーなのか。
保湿などに効果、多くの化粧品に/軽い運動で誘発
神奈川県内の元会社員の女性(38)は5年前、茶のしずく石鹸を買って使い始めた。約2年後、目の周りがかゆくなり、鼻水が止まらなくなった。ある日、ピザを食べ、お酒を飲んだ後に買い物に行く途中、全身にじんましんが出た。顔は腫れあがり、呼吸ができないほど息苦しくなった。急性の重い全身性アレルギー反応の一つ「アナフィラキシー」だった。
しばらく原因が分からなかったが、昨年5月、神奈川県内の国立病院でせっけんを使っていることを話すと、他にも同様の患者がいることが分かった。女性は、せっけんを使う以前はアレルギー症状がなかった。せっけんの使用をやめると顔の腫れは和らいだが、小麦アレルギーでパンなどが食べられなくなった。仕事中に症状が出ることもあり、昨年1月、仕事を辞めざるを得なくなった。「メーカーに医療費などを補償してほしい」と話している。
広島大学病院皮膚科では昨年1年間に、食物依存性運動誘発性アナフィラキシーと診断された患者が26人いた。小麦が原因の人は22人で、問診できた17人のうち16人は「茶のしずく石鹸」を使っていた。
食物アレルギーの専門医がいる藤田保健衛生大学病院(愛知県豊明市)でも昨年春から、同様の症状を訴える患者が愛知、三重、岐阜などから来院し、11例を数えた。いずれも同せっけんを使っていたという。
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「茶のしずく石鹸」は60グラムで1個1980円などと高価ながら、CM宣伝などで売り上げを伸ばしてきた。自主回収の対象は昨年12月7日以前に販売された製品で、約4600万個に上る。小麦を加水分解した成分(小麦加水分解物)が配合されていたが、同12月8日以降に販売した新製品には使われていないという。
日本化粧品工業連合会によると、小麦加水分解物は、酸や酵素によって人工的に分解された小麦たんぱくの一種。保湿や泡立ちをよくするなどの作用があり、94年から乳液、洗顔フォームなど化粧品に幅広く使われている。「茶のしずく石鹸」以外にはアレルギー症例の報告はないという。
同せっけん利用者の症例を学会で発表した広島大病院皮膚科の平郡(ひらぐん)真記子医師によると、せっけんを頻繁に使うことで皮膚のバリアー機能が低くなったり、顔を洗うたびに目や鼻の粘膜に小麦加水分解物が繰り返し付着したため、アレルギーが起きた可能性が考えられるという。「小麦アレルギーを起こした人は、小麦加水分解物が入った化粧品は避けた方が良い」と話す。
運動誘発性アレルギーは、特定の食べ物を食べて運動した後に、じんましんや呼吸困難などの症状が出る。小麦のほか、エビ、カニなど甲殻類が多い。小麦のたんぱく質は通常、胃や腸で分解されるが、運動すると消化が不十分なまま体に吸収されやすい。体が危険なものと判断して免疫機能が働き、アレルギー症状が出てしまうとみられる。
食物アレルギー治療で知られる藤田保健衛生大医学部の松永佳世子教授は「これまでは食後に激しい運動をしてアナフィラキシーを起こすケースが多かったが、今回は散歩など軽い運動でもアレルギー症状になるケースが目立つ」と話す。「まだ気づかずにせっけんを使っている人がいて、今後アレルギーを起こす恐れが十分に予想される」とし、今使っているせっけんに小麦成分が含まれていないか、確かめてほしいと呼びかける。
日本アレルギー学会は今回の事態を重く見て、小麦由来などの「たんぱく加水分解物」を含む化粧品の安全対策を考える特別委員会(委員長・松永教授)を結成した。日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会と協力しながら、アレルギー防止策を検討していくという。
「お客様窓口」を開設
「悠香」はこれまで、約2万個を回収したという。同社の担当者は「お客様からの問い合わせが多く、ご迷惑をおかけし申し訳ありません。薬事法違反には当たりませんが、社会的責任を感じており、患者の方にはお見舞金を出すことを考えています」と話している。
同社は「お客様窓口」を設けている。フリーダイヤル0120・11・2266(午前9時~午後8時)。電話が相次ぎ、つながりにくい状態だという。
厚労省など使用中止呼びかけ
「茶のしずく石鹸」は医薬部外品で成分の安全性は厚生労働省の審査で確認されているが、人によってアレルギーが起こる成分でも、必ずしも使用が規制されるわけではない。厚労省は今回、注意喚起と副作用報告の徹底を関係業者に通知した。アレルギーがこの商品に特有のものか、爆発的に売れた商品で使用頻度や人数が多かったためか、など不明な点は多いものの、とりあえずは「12月7日以前の製品の使用は中止してください」と呼びかけている。消費者庁も「返品して新製品と取り換えるよう」呼びかけている。
患者・医師向けにQ&A公開
国立病院機構・相模原病院臨床研究センター(相模原市)の福冨友馬医師らは、患者・医師向けにQ&Aをつくり、ウェブサイト「リウマチ・アレルギー情報センター」で公開している。症状や発症メカニズムを解説し、食物アレルギーの専門医のいる医療機関も紹介している。同サイトでは、67件の発症例は「氷山の一角」で、「報告されていない患者が少なくとも10倍以上は存在すると推測される」と指摘している。
[医療解説] 大人の食物アレルギー… 原因物質 皮膚、粘膜からも(2011年9月15日 読売新聞)
小麦の成分を含んだ洗顔せっけん「茶のしずく」を使っていた人の一部が、小麦の食品を食べてアレルギーを発症したことがわかった。子どもの食物アレルギーと違い、大人では皮膚から吸収された物質が原因で、食物アレルギーを起こすことがある。(針原陽子)
関東地方に住む30歳代の女性は、数年前から、パンやパスタなど小麦の入ったものを食べた後に運動すると、顔や目などにかゆみを感じるようになった。症状は徐々に重くなり、女性は2009年春に国立病院機構相模原病院(神奈川県相模原市)を受診。入院して原因を調べたところ、3年ほど前から使い始めた洗顔せっけん「茶のしずく」を原因とする小麦アレルギーと診断された。女性は「なぜせっけんが原因で小麦アレルギーに?」と驚いた。
同病院臨床研究センターの福冨友馬医師によると、一般的な食物アレルギーは、食べ物に含まれるアレルゲン(アレルギーのもととなる物質)を口から摂取するうちに、アレルゲンを異物とみなした体の免疫が「IgE抗体」を作る。この抗体ができた後にアレルゲンが体の中に入ると、じんましんなどのアレルギー反応が起きる。鶏卵や牛乳などの子どもの食物アレルギーの多くが、このタイプだ。
一方、大人が発症する食物アレルギーは、皮膚や粘膜からの吸収がきっかけになるタイプが少なくない。
「茶のしずく」の場合は、洗顔するうち、せっけんに含まれていた「加水分解小麦」という小麦由来のたんぱく質が、皮膚や目・鼻の粘膜から体に吸収され、抗体ができたとみられる。せっけんを使った際に顔にかゆみなどを感じる場合や、小麦の入ったものを食べると症状が出る、食べた後に運動をすると呼吸困難など全身症状が出るなど、症状は人によって様々だ。加水分解小麦を含むせっけんは他にもあるが、アレルギーの発症例はほとんどないという。
皮膚や粘膜を通じた吸収で食物アレルギーになる例には、医療関係者に多い「ラテックス・フルーツ症候群」がある。医療用ゴム手袋などに使用される天然ゴム(ラテックス)のたんぱく質を皮膚から吸収した人が、似たたんぱく質を持つバナナやアボカド、キウイなどを食べると、重い食物アレルギーの発作を起こすことがあるものだ。
花粉症の人が、アレルゲンと似た成分を持つ果物などを食べて発症する「花粉・食物アレルギー症候群」の例もある。ハンノキやシラカバの花粉症の人がリンゴや桃を食べた場合、ブタクサの花粉症の人がメロンやバナナを食べた場合などの口のかゆみや腫れが典型例だ。
福冨医師は「食品由来の成分を添加しているせっけんや化粧品は多いが、天然成分だからと過信せず、症状が出たらすぐに専門病院に相談してほしい」と話している。
【「茶のしずく」による小麦アレルギー】
2010年ごろから、厚生労働省に、通信販売の洗顔せっけん「茶のしずく」によるアレルギー発症に関する医療機関からの報告が相次いだ。厚労省は同年10月、加水分解小麦成分を含む医薬部外品などの製造販売業者に対し、成分や注意事項を製品に表示するよう求める通知を出した。製造元の「悠香」(福岡県大野城市)は、同年12月、小麦成分を含まない製品に切り替え、旧製品の自主回収を行っている。
■ 被災の地から 食物アレルギー(2011年4月:朝日新聞)
上)好意のキャラメルも断る
「出ろー!」
家の外で声がした。
3月11日午後3時半ごろ、宮城県石巻市の辻朗子(つじあきこ)さん(38)が自宅1階の窓から外を見ると、男性2人が避難を呼びかけて走っていた。ヒタヒタと水が迫る。少し離れて車が流れてきた。津波だった。
高台は遠く、間に合わない。外に出るのをあきらめ、2階の子ども部屋へ。床から高さ約1メートルのベッドの上で、義母の節子さん(66)、次女の晶子(しょうこ)ちゃん(8)、三女の惺子(さとこ)ちゃん(3)と身を寄せ合った。水は2階の床上約20センチで止まった。
その日は飲まず食わず。流れてきた別の家の屋根が自宅にぶつかり、「ギギ、ガガ」と鳴った。手動で発電できる携帯ラジオをつけっぱなしにして、一つのベッドに4人で寝た。
翌朝、津波が引いた階段の下を見ると、冷蔵庫がドアを上にして倒れていた。無事だったコロッケや団子を出して食べた。娘たちに水分をとらせたかったが、泥まみれの氷しかない。タッパーにしょうゆと一緒に入れて泥を落とし、口に含ませた。
14日、海上保安庁のヘリで救助された。運ばれた先の石巻赤十字病院で、先に合流していた夫の博之さん(43)と長女の朋子ちゃん(12)に偶然会えた。
「おなかすいた」。朝方、待合室で惺子ちゃんがぐずった。前日から食べていなかった。
「これどうぞ」。近くのお年寄りの女性が見かねてバッグからキャラメルを出してくれた。しかし、朗子さんは「ごめんなさい。食べられないんです」。
3人の娘たちには食物アレルギーがあり、食品によってかゆみやじんましんが出る。ひどい場合は呼吸困難などを起こす心配もあり、卵や牛乳を食べていない。小麦も避け、学校に弁当を持っていく。キャラメルにもミルク成分が入っているので、危ないと思った。 「そうなの。ごめんなさいね」。女性も事情を分かってくれた。せっかく声をかけてくれたのに。申し訳ない気持ちで、その場を離れた。
リスクがあるものは避けたい。でも、ここには食料すらほとんどない。「避難所へ行けば何かあるはず」。朋子ちゃんと晶子ちゃんが通う小学校へ向かうことにした。
中)生き抜くため、乾パン
食物アレルギーの娘3人がいる宮城県石巻市の辻朗子(あきこ)さん(38)は、震災から4日目に一家がそろい、避難所になっている娘の小学校へ向かった。
学校までの道は、がれきや土砂でところどころ通れなくなっていた。JR仙石線のレールの上を通り、回り道もし、4キロほど歩いた。3階にある3年1組の教室に、家族で入った。
初日は、ふだん避けている小麦を使った乾パンを、娘たちにあげた。ほかに食べるものがなかった。朗子さんは「症状は少し出るかもしれない。でも、まず生き抜かないと」と思った。
食物アレルギーは、ひどい場合は呼吸困難などを起こし、命にかかわることもある。怖かったが、幸い、心配した重い症状は出なかった。
避難所で配られるパンは、ふだん自宅で食べている小麦や卵、牛乳を抜いたものと、見た目はほとんど同じ。三女の惺子(さとこ)ちゃん(3)は食物アレルギーのことがよくわからない。「なんでさとちゃんは食べられないの」と聞いてきた。
他の避難者がカップラーメンを食べるのを見て、「つる(つるつるしためん)食べたい」とねだってもきた。朗子さんは「体がかゆくなっちゃうよ」と諭し、我慢してもらった。
姉たちは、寝床の下に敷いた断熱用の白い段ボールを引っ張り出して、友達と一緒に「いま食べたいもの」を絵に描いて遊んだ。長女の朋子(ともこ)ちゃん(12)は、もともと好きではなかったバナナをがんばって食べた。こんな状況でも明るさを失わない娘たちに、「たくましくなったな」と驚いた。
配給の食べ物が来ると、教室にいる人たちが「食べられるもの、先にとってよ」と譲ってくれた。教室の班長は朋子ちゃんと同学年の子の母親で、娘の食物アレルギーのことを知ってくれていた。「ありがとう」。教室の27人分の食事がまとまって入ったトレーから、野菜ジュースと、食べても大丈夫だった乾パンをもらった。
学校に移って5日目、夫の勤め先の社宅に入れることになった。出発のとき、教室の仲間たちがおにぎりを20個も持たせてくれた。「この避難所じゃなかったら、生きていけなかったかも」。朗子さんは思った。
下)食べ物届けてくれた
宮城県石巻市の辻朗子(あきこ)さん(38)一家は3月19日、避難所である娘の小学校から、夫の勤め先の市内の社宅に移った。
社宅の災害対策本部にたまたまあった、食物アレルギーのある娘たちにも食べられる「わかめご飯」を8袋もらった。乾燥式で、お湯や水でもどす。
「これでどこまで食べつなげるかな」。翌日、朗子さんが考えていた時だった。ふと携帯電話を見て、留守録に伝言が入っているのに気づいた。
「辻さーん、探しに来たよ」
仙台市のカフェ「ヘルシーハット」の三田久美(みた・くみ)社長(55)だった。震災前、アレルギー対応食品を扱う三田さんの店に、一家で食事に行ったり、食品を買いに行ったりしていた。
「まさか…、来てくれたの」
大地震以来、朗子さんからは連絡していない。仙台も被災して大変なのに、三田さんは車で救援物資を石巻市役所に届け、一家を探していた。いつもと変わらない、明るくマイペースな調子の三田さんの声だった。
驚きが喜びになり、涙が出た。心が揺れ、メッセージの後半がよく聞き取れなかった。
手動発電式のラジオを動かして、切れかけた携帯電話の電池を充電しようとしていたとき、三田さんが社宅に着いた。
「やっと見つけたー」。笑顔で話しながら、段ボール箱2箱、ポリ袋2袋を次々と運び込んだ。アレルギー対応の肉じゃが、カレー、たい焼きなどがぎっしり。被災後に娘たちが「食べたいね」と言っていたものばかりだった。
電気も通っておらず、外は真っ暗闇だった。三田さんはスタッフと避難所の小学校などをあちこち回り、一家を探し出した。朗子さんは、そう聞いても、目の前の光景が信じられなかった。感謝しかなかった。
震災後、朗子さんは多くの困難に直面した。たくさんの人に支えられ、心強いことの方が多かった。社宅に引っ越し、学区も変わった。でも、自分たちを支え、理解してくれた人たちと、これからも一緒にいたい。
長女の朋子ちゃん(12)は、被災前に予定していた中学校に進むつもりだ。3キロほど離れて少し遠いけれど、仲良しがたくさんいる。だから、がんばって通おうと思う。
東日本大震災:食物アレルギー対応に遅れ…66自治体調査(2011年4月:毎日新聞)
東日本大震災の被災地で、食物アレルギーに対応した食料の備蓄や受け入れ態勢が整備されていないため、子どもを含む患者らが命の危険にさらされるケースが相次いでいる。毎日新聞が都道府県と政令市計66自治体に取材したところ、アレルギー対応食品の備蓄があるのは20自治体(30%)で、アレルギー用粉ミルクの備蓄は15自治体(23%)しかない。受け入れ態勢が整備済みなのは5自治体(8%)だった。阪神大震災や新潟県中越沖地震でも問題化したが、教訓が生かされていない形だ。
「食品備蓄」30% 「受け入れ態勢」8%
岩手県陸前高田市で母親(45)と2人で暮らす女子高校生(17)は小麦と貝類にアレルギーがあり、小麦を含む食品で呼吸困難になったこともある。
津波で家を流され病院に避難したが、届けられる食品はパンやカップめんなど食べられないものばかりだった。
何日か待ったが状況は変わらず、「これしか食べるものがない」と無理にパンを食べたところ、全身に皮膚炎の症状が出た。医師に薬をもらったが、かゆくて寝られず、シーツは血だらけに。別の避難所の親戚に回ってきたおにぎりを分けてもらうなどして食いつないだ。
ようやく状況が好転したのは先月下旬。避難所に「アレルギーの人、いませんか」という声が響いた。患者団体「盛岡アレルギーっ子サークル・ミルク」(盛岡市、藤田美枝代表)のメンバーが食品を届けに来たのだ。現在は仮設住宅に移り、症状も安定した。母親は「避難所では『これは食べられない』と言える雰囲気ではなかった。わがままととられるのも怖かった。行政にもアレルギー対応食品への認識があれば助かるのに」と嘆いた。
同県釜石市の佐々木昌子さんは、ダウン症の長女結有(ゆうゆ)さん(7)と自閉症の長男凱(がい)君(5)がおり、凱君は小麦と卵にアレルギーがある。佐々木さんは車で寺に避難し、そこで車を津波に流された。手近にあったアレルギー対応食品を持って避難したが、すぐに尽きた。凱君は常に動き回るため避難所になじめないことから同市内にある夫の実家に移ったが、車がないため買い出しもできない。2人の子を抱えて疲労が極限に達したころ、知人から同団体の活動を聞き、対応食の援助を受けた。佐々木さんは「行政はあてにならない」とあきらめの表情だった。
食物アレルギーは、発疹やぜんそく発作などの症状が表れ、重篤な場合は死に至ることもある。例えば小麦に強いアレルギーがある場合、普通のしょうゆを使った食品も食べられない。厚生労働省の研究班が05年にまとめた調査によると、食物アレルギーがある人の推計割合は乳児期が10%、3歳児で約5%、全体では1~2%という。【林由紀子、樋岡徹也、福永方人】
※ アレルギー対応食品
食物アレルギーを持つ人のために原因となる原材料を除去した食品。食品衛生法が表示を義務づけている「特定原材料」7品目(卵、乳、小麦、ソバ、落花生、エビ、カニ)や、表示が推奨されている18品目(大豆など)が含まれていない食品が該当。災害備蓄用には湯や水を注ぐだけで調理できる米飯(アルファ米)のうち、こうした原材料が使われていないものが一般的。
■ 開けたお好み焼き粉がアレルギーの原因に(2011年3月:日経)
お好み焼きを自宅で調理して食べた後に、じんましんが出たり、呼吸困難に陥る――こんなアレルギー症状の報告が増えている。問題は、粉を開封した後の管理にある。密閉せず常温で何カ月も置いておくことで、粉にダニが繁殖する場合がある。
ミックス粉などの粉製品に混入したダニの経口摂取によるアナフィラキシー(急性の全身性・重度のアレルギー反応)の症例は、「1993年に海外で初めて報告され、“パンケーキシンドローム”として問題視されている」と、聖路加国際病院皮膚科の中野敏明医師はいう。
中野医師が経験した症例では、20代女性が自宅で開封後数カ月間常温保存したお好み焼き粉を調理・摂取後に、じんましんや下痢などのアナフィラキシー症状を発症し、救急センターを受診。患者が調理に使った粉(事故粉)からは1g当たり1万匹以上のダニが検出された。
ダニを繁殖させない注意ポイント
1.開封後、密閉しないで常温保存していたミックス粉は捨てる
密閉しない状態で数カ月間常温に置いたものは、ダニが繁殖している可能性あり。思い切って処分しよう。容器や棚、引き出しの中に散らばった粉類もダニのすみかに。掃除機できれいにした後、しっかり水拭きして乾燥させよう。
2.開封後の粉類は密閉して冷蔵庫に保管する
開封後の粉類の常温長期間保存はNG。輪ゴムで止める程度では、隙間からダニが入りこむ。密閉し、冷蔵保存するとダニの混入を防ぐことができる。
3.ダニアレルゲンは加熱しても壊れない
ダニアレルゲンの中には加熱に強い性質を持つものも。アレルギーを防ぐには、食品中のダニの繁殖を食い止めることが大切だ。
アレルギー反応には発症する「閾値(いきち)」という指標がある。コップの上端ラインを閾値とすると、ここから水があふれ出すと症状が起こる。「ぜんそくを引き起こすダニアレルゲン(Der1)の発症閾値は室内塵(じん)1g当たり10ugとされるが、事故粉からは1g当たり100ugを上回るダニアレルゲンが検出された」(中野医師)。薄力粉とお好み焼き粉でダニの繁殖性を比較した研究では、お好み焼き粉の方がダニが繁殖しやすいという結果も。「添加されている食品のアミノ酸類をダニが餌にするのでは」と中野医師は推測する。
ダニアレルギーのもとになる「コナヒョウヒダニ」
・チリダニ科。体長0.3~0.4mm。
・3~4週で卵から成虫になる。
・ほこりや人間のふけ、食べかすや粉類など、有機物ならなんでも餌にして繁殖。気温25度前後を好む。
・ダニの消化管の酵素やダニの体そのものがアレルゲンとなる。
中野医師らと共同研究を行うITEA東京環境アレルギー研究所の白井秀治さんは、「気密性が高くリビングや寝室と台所が近接している住居は特に注意が必要。布団やカーペットに繁殖したダニが容易に台所に移動する。コナヒョウヒダニはシャープペンの芯の先ほどの大きさで、空気中にも浮遊し、袋の隙間から入りこんで増殖する」という。適度な温度と湿度があるキッチンは、ダニが好む環境なのだ。「ダニは低温環境では活動できない。開封後の粉製品はすぐに密閉し、冷蔵庫に保存することが大切」(白井さん)。
お好み焼き粉やホットケーキミックスの他、小麦粉なども念のため冷蔵保存すると安心だ。
「これまで、小麦アレルギーで済まされていた患者も多いと思われる。思いあたる症状があったら、専門家による確定診断を受けた方がいい。その際、原因となった可能性がある粉は捨てずに持参し、皮膚科かアレルギー内科へ」と、中野医師はアドバイスする。
■ お好み焼きミックス粉はダニが繁殖しやすい
(日皮会誌:120(9),1893-1900、2010)
お好み焼き粉のダニ繁殖性を検討した。市販のお好み焼き用ミックス粉3銘柄と薄力粉それぞれに、コナヒョウヒダニのオスとメスを各10匹ずつ添加し、培養。6週間後、ミックス粉のダニ数は薄力粉に比べて3銘柄ともに増加傾向を認め、うち1銘柄は有意に増加。ダニ抗原も増加した。
■ あなたの処方箋:食物アレルギー(2011年2月:毎日新聞)
1 負荷試験で程度見極めを
2011.2.21(毎日新聞)
グラタンを食べた瞬間、生後7カ月の次男が激しく泣き出し、次第に顔全体が腫れあがった。「このままでは死んでしまう」。神奈川県横須賀市の母親(33)は慌てて救急車を呼んだ。
搬送先で、呼吸困難などを伴うアナフィラキシー(急激なショック状態)と判明。血液検査の結果、牛乳、小麦、卵、大豆などの食物アレルギーと分かり、医師に食べさせないよう注意された。その後も「牛肉もだめ」「鶏肉も控えて」と指示され「何を食べさせればいいのか悩み、精神的に追い詰められた」と母親。次男は栄養を十分取れず、体格も他の子に見劣りした。
食物負荷試験を知ったのは4歳の時。医師の立ち会いのもとで原因食材を少量ずつ食べ、症状が出るか見極める。専門病院で受けると、牛乳は1滴でだめだったが、卵黄は全く問題なし。牛肉や鶏肉も大丈夫と分かり、食べられるものが増えた。小学校高学年の今ではソフトボールチームの主将を務める。母親は「あのまま食べずにいたら、どうなっていたか」と振り返る。
厚生労働省研究班の「診療の手引き」によると、原因食材は鶏卵、乳製品、小麦のほか、魚、果物、肉など多岐にわたる。発症を心配するあまり、食べられるものまで敬遠する人は少なくない。
負荷試験は06年から9歳未満には保険適用となり、実施する医療機関が増えた。国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の斎藤博久副研究所長は「食べる物を制限し過ぎ、栄養失調や脳が萎縮した子もいる。ぜひ活用して」と訴える。実施医療機関は食物アレルギー研究会のサイト(http://www.foodallergy.jp/)で確認できる。
2.多くは成長につれ完治
赤ちゃんの10人に1人が発症すると言われる食物アレルギー。体質的なものなのでずっと治らないと思われがちだが、実は成長とともに改善するケースが多い。
東京都目黒区の女の子は1歳のとき、茶わん蒸しを食べていて顔が赤く腫れ呼吸が激しくなった。血液検査で卵アレルギーと診断された。その後母親(37)は卵を含む食品を一切食べさせず、保育園でも給食を特別に調理してもらっていた。
3歳になったある日、間違って隣の子の給食を食べてしまった。だが症状は全く出ず、5歳になった今では普通に卵を食べている。母親は「一生治らないと思い込んでいた」と話す。
人間の体内には免疫グロブリンE(IgE抗体)というたんぱく質が微量にある。これを作りやすい体質だと、食べ物の中にあるたんぱく質と作用して、じんましんなどのアレルギー症状を引き起こしやすい。ただし、成長して食べ物に含まれるたんぱく質を十分分解できるようになるにつれ、症状は表れなくなる。
日本保育園保健協議会が09年、全国953の保育施設の乳幼児約10万6000人に実施した調査によると、食物アレルギーの子は1歳9・2%▽2歳6・5%▽3歳4・7%▽4歳3・5%▽5歳2・5%--と年齢とともに減っていることが分かった。
日本小児アレルギー学会理事長で岐阜大大学院医学系研究科の近藤直実教授は「腸管機能が発達する小学校入学前後に完治するケースが多い。治る病気と理解し、専門医の指示に従った食生活を送ることが大切」と話す。
3.成人患者の注意点
特定のものを食べて運動するとじんましんやショック症状を起こす「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という疾患がある。子どものころアレルギー体質ではなかった成人が突然かかることが多く、最近はせっけんや化粧品の成分で体質が変わったことを引き金に発症する例が相次いでいる。
東京都小平市の女性看護師(32)は一昨年春、トーストを食べてからスポーツジムに行って汗を流している途中、突然じんましんが出て激しい腹痛と下痢に見舞われた。体を休めると症状は治まったが、以来、パスタやピザを食べて自転車通勤しても同じ症状が出るように。国立病院機構相模原病院(相模原市)を受診し、小麦による運動誘発アナフィラキシーと診断された。「過去にアレルギーはなかったのでショックだった」と女性は話す。
なぜ突然発症したのか。この女性の場合、小麦由来成分の「加水分解コムギ末」が配合されたせっけんで毎日洗顔しており、同院の福冨友馬医師は「皮膚や粘膜が小麦成分に刺激され、アレルギーが誘発された可能性が高い」と指摘する。
加水分解コムギ末は小麦を工業的に加工したもので、せっけんやシャンプーの泡立ちを良くする。美容師が運動誘発アナフィラキシーを発症することもある。厚生労働省は昨年10月、加水分解コムギ末を含む化粧品などについて、異常があった場合は使用をやめるよう呼び掛ける通知を出した。運動誘発アナフィラキシーと診断されたら、誤って原因食材を食べてしまった後は運動を控えたほうがいい。
これ以外でも、若者や成人は突然食物アレルギーになることがあり、その原因食材は多様だ。厚労省研究班の診療の手引きによると、子どもは原因食材は鶏卵や乳製品、小麦が大半を占めるのに対し、20歳以上は(1)カニ、エビなど甲殻類18%(2)小麦15%(3)果物類13%(4)魚類11%(5)そば7%--の順で多い。福冨医師は「大人になって発症すると子どもより治りにくく、症状が急激に表れることも多い。食生活に一層注意が必要」と話す。
4.怖いショック症状、手放せない…
2011年2月24日 提供:毎日新聞社
◇怖いショック症状、手放せない自己注射薬
牛乳や卵などの食物アレルギーがある神奈川県の小5男子(11)は学校給食が食べられない。毎日母親(33)が作った弁当を持って登校している。弁当の袋にはいつも太いペンのような自己注射薬が添えられている。
食物アレルギーの人は原因食材が体内に入るとスズメバチに刺されたような急激なショック状態を起こし、呼吸困難や意識障害で命を落とすこともある。特に学校生活では友達の給食が口に入ったり、こぼれた牛乳が体に触れる恐れがある。母親は「自己注射薬が手元にないと、本人が不安がる。命綱です」と話す。
自己注射薬は国内では「エピペン」という商品名で03年から発売されている。安全キャップを外して太ももの前外側に垂直に強く押し付けると、針が出てアドレナリンを注射できる。アドレナリンには気管支を広げて呼吸困難を緩和するとともに、血圧を上げショック症状を改善する効果がある。
エピペンは0・3ミリグラムの大人用とその半量の子ども用があり、医師の処方箋がないと購入できない。販売元のマイラン製薬によると、昨年の販売数は約2万5000本で年々増えている。ただし症状がひどいと本人が使えないため、国は08年、教職員が注射しても医師法違反にならないことを教育委員会に通知。今春からは保育士にも広げる方針だ。
緊急時に適切に使えるよう講習会を開く医療機関もある。あいち小児保健医療総合センター(愛知県大府市)の伊藤浩明内科部長は「症状の見極めが重要で、例えば息がゼイゼイしている状態ならば使った方がいい。使用法を習熟していないと宝の持ち腐れになる。」とアドバイスする。
5.原因食材を「食べて治す」免疫療法
2011年2月25日 提供:毎日新聞社
食物アレルギーの治療法として、食べて治す経口免疫療法が注目されている。「毒をもって毒を制す」という言葉があるが、原因食材を食べて体に耐性をつけることを目指す治療法だ。
国立病院機構相模原病院(相模原市)では08年夏に免疫療法を始めて以来、約220人を治療した。急激なショック症状が出る人は5日間入院して治療を受け、退院後も自宅で続ける。
病室を訪ねると、小麦アレルギーの5歳の男児がうどんを食べていた。入院初日にカボチャのケーキ約40グラムを食べて嘔吐(おうと)などの症状が出たが、この日はうどんを100グラム食べられた。母親は「コロッケを食べて救急搬送されたこともあった。こんなに食べられるなんてびっくり」。男児も「早くクッキーが食べたい」と笑った。
免疫療法は、最初に食物負荷試験をして原因食材をどの程度食べられるか見極めた上で実施する。医師の立ち会いのもとで徐々に食べる量を増やし、症状が出たら量を減らして様子を見る。国立病院機構仙台医療センター▽神奈川県立こども医療センター▽国立病院機構三重病院▽あいち小児保健医療総合センター--などでも実施しているが、医療機関ごとに食べる量や治療期間が異なるため、厚生労働省研究班が治療法の確立などのために臨床研究を続けている。
ただし、「すべての人が順調に改善するとは言えない」と相模原病院の海老澤元宏医師は話す。人によっては胃腸炎などの副作用を引き起こす。治療に時間がかかる人も多く、同院で免疫療法を受けた9歳の女児は牛乳を1日120ミリリットル飲めるようになるまで1年かかった。海老澤医師は「専門医に有効性と危険性の両方の説明を聞いた上で、受けるかどうかを慎重に判断してほしい」と呼び掛ける。
■ 特集:変わる食物アレルギー(2009年4月:日経メディカル)
1.重度の食物アレルギーが治った! 注目集める特異的経口耐性誘導療法
原因食物の除去を続け、自然な耐性獲得を待つばかりだった食物アレルギーへの対処法。しかし、近年、世界では根本治療へ向けた研究が盛んに行われている。国内でも特異的経口耐性誘導療法の臨床研究が増えており、重度の食物アレルギーが治ったという症例も報告されている。
「子供はケーキやクッキーを喜んで食べている。家族で外食することもできるようになった」――。重度の卵アレルギーだった9歳8カ月の女児の母親は、治療後の変化を報告し、泣いて喜んだ。女児は、ある臨床研究に参加し、短期間で卵が食べられるようになったのだ。
この臨床研究を行っているのが、神奈川県立こども医療センターアレルギー科の栗原和幸氏(同科部長)と伊藤直香氏だ(伊藤氏は2009年4月から東大医科学研究所炎症免疫学分野に所属)。栗原氏らは、アナフィラキシー型の食物アレルギーを持つ学童期以降の患者を対象に、耐性を誘導して食物アレルギーを治す治療法の研究を進めている。
これまで、食物アレルギーに対する根本的な治療法はなく、原因食物の除去を続けながら自然に耐性を獲得するのを待つしかなかった。一般に、食物アレルギー患者の約70%は6歳までに耐性を獲得するといわれている。ただし、耐性を獲得できない重度の食物アレルギー患者の中には、誤食の危険におびえながらひたすら除去を続けるケースも多く、それらの患者に対する治療法の開発が求められている。
ここ数年、食物アレルギー患者に原因食物を食べさせて耐性を誘導するさまざまな特異的経口耐性誘導療法(SOTI)の研究が世界的に行われ、「新たな治療法になるかもしれないという期待が高まっている」と栗原氏は話す。
被検者全員が卵1個を食べられるように
栗原氏らは、07年9月から、卵白の二重盲検食物負荷試験で明らかな症状が確認された7歳以上の患者に対して、短期間で原因食物を増量して耐性を誘導する急速特異的経口耐性誘導療法(rush SOTI)の臨床研究を実施している。神奈川県立こども医療センターでスギなどに対する免疫療法を行った経験から、食物アレルギーでも急速法のSOTIが効果的なのではないかと考えたためだ。
rush SOTIでは、入院の上、まず乾燥卵白粉末を混ぜた飲料と混ぜていない飲料を使って二重盲検で食物負荷試験を行い、症状が出る閾値を決定。閾値以下の量から投与を開始し、1日5回を目標に、毎日漸増した乾燥卵白粉末を摂取する。乾燥卵白粉末の摂取量が一定量まで達したら、加熱卵の摂取に変更し、卵1個(加熱卵白約60g)の摂取を目指す。アレルギー症状が出た際には、必要に応じて治療を行う。
臨床研究に参加した前出の女児は、周囲の人間が卵を割るのを見ただけで顔面の腫脹が見られるような、重度の卵アレルギーだった。嘔吐などの消化器症状や口腔内違和感を認め、卵だけでなく、ピーナッツ、イカ、タコ、エビ、カニ、メロンの除去を継続。「従来であれば、卵は一生食べさせられないような症例だ」(栗原氏)。
入院時の抗原特異的IgE抗体検査では、卵白、ピーナッツ、エビ、カニ、イカ、タコに対する特異的IgE抗体検査はどれもクラス3以上。二重盲検食物負荷試験での症状出現閾値は乾燥卵白粉末45mgだった。
女児は、0.5mgの乾燥卵白粉末から摂取を開始し、徐々に増量。治療開始後18日目(増量を行わなかった外泊日数を除くと13日目)に、全卵1個に相当する加熱卵白60gを食べられるようになり、30日目に退院した。治療中、頻回の膨疹と腹痛、1回の軽度喘鳴を認め、膨疹に対して1回抗ヒスタミン薬を内服したほか、軽度喘鳴に対して1回気管支拡張薬を吸入したが、重篤なアレルギー症状は認めなかった。
栗原氏らはこれまで、卵アレルギーのある7歳から12歳の6人の患者に対してrush SOTIを実施。年齢の中央値は9歳8カ月で、症状誘発閾値の中央値は0.152gだった。治療中には、喘鳴や膨疹、下痢などの症状を認め、必要に応じて抗ヒスタミン薬(多数回)や気管支拡張薬(2人に対して合計3回)などによる薬物治療を行ったが、アナフィラキシーなど重篤なアレルギー症状はなく、「平均9日、外泊による増量中断を含めた実日数では平均12日で、全員が卵1個に対する耐性を獲得した」(伊藤氏、図1)。

図1 卵1個以上に対する耐性獲得までの経過 神奈川県立こども医療センターでrush SOTIを実施した患者6人のデータ。全員が卵1個(加熱卵白60g)を食べられるようになった。投与量は卵白量で表示(乾燥卵白粉末1gは卵白8gに相当)。
6人とも既に治療から1年が経過したが、経過は引き続き良好だ。栗原氏らは現在、さらに症例を重ねるとともに、卵以外の食物アレルギーに対してもrush SOTIを実施している。
重症食物アレルギーへの画期的治療法になる可能性
栗原氏らの研究結果について、独協医大小児科准教授の吉原重美氏は、「短期間で治療を実施したことや、耐性獲得が難しいとされている7歳以上を対象としていることから、自然に耐性が獲得されたのではなく、rush SOTIによって耐性が獲得されたと考えられる」と話し、「アナフィラキシーを何度も起こしているような重度の食物アレルギー患者に対する、画期的な治療法になる可能性がある」と評価する。こういった方法で耐性が誘導できることがはっきりすれば、「将来は薬物で症状を抑えながら、SOTIを行うことも必要かもしれない」(吉原氏)。
とはいえ、rush SOTIはまだ研究の緒についたばかり。そもそもSOTIでなぜ耐性が誘導されるのかが分かっていないことに加え、「退院後は、週に2回、卵1個を摂取するように指示しているものの、いつまでどの程度の原因食物を摂取すればいいのか、よく分からない」(栗原氏)など、解決すべき課題も多い。「アナフィラキシーを起こす可能性もあり、当院では入院の上、医師が付きっきりで慎重に実施している。安易に行うと非常に危険だ」と栗原氏は話す。
ここ数年、世界で本格化してきたSOTIの研究。国内でもいくつかの医療機関がSOTIの研究を実施しており、結果が明らかになりつつある。研究が蓄積され、有効性が示されれば、将来、食物アレルギーが当たり前に治せる日が来るかもしれない。
■補足 2009年4月17日に以下の点を補足しました。
・2ページ目最後の伊藤氏のコメントにある耐性獲得までの平均日数について、「外泊による増量中断を含めた実日数では平均12日」と補足しました。
2.食物負荷試験に初のガイドライン登場
食物アレルギーを診断したり、原因食物の除去を解除するためには、食物経口負荷試験の実施が欠かせない。しかし、現在は限られた医療機関が独自の方法で負荷試験を行っているのが実情だ。小児アレルギー学会は、2009年4月、負荷試験の方法や実施体制の原則を示したガイドラインを発表する。
わが国における食物アレルギーの有病率は、乳幼児で推定5~10%程度。ただし、多くのケースでは学童期ごろまでに原因食物への耐性を獲得するため、学童以降の有病率は減少し、1~2%程度と考えられている。食物アレルギーの原因食物は、新生児から2、3歳までは卵や牛乳、小麦が多く、学童以降、成人などでは甲殻類、そばなどが増える傾向にある。
食物アレルギーの原因食物を同定する方法には、食物経口負荷試験や食物除去試験、血液中の原因食物に対するIgE抗体を測定する抗原特異的IgE抗体検査、好塩基球ヒスタミン遊離試験、皮膚プリックテストなどがあるが、最も信頼できるのが、疑われる原因食物を食べて症状が出るかどうかを判定する負荷試験だ。
食物アレルギーの患者数は多く、複数の原因食物にアレルギーを持つ多種抗原陽性患者や重症難治患者も増えていることから、負荷試験のニーズは高い。例えば、乳幼児期にアトピー性皮膚炎があり、疑われる原因食物に対する特異的IgE抗体検査が陽性であった食物について、離乳期以降も除去を続けているような症例は少なくない。このような症例では1、2歳で負荷試験を実施して食物アレルギーの確定診断を下すとともに、栄養の偏りを防ぐためにできる限り除去を解除することが求められている。
しかし、実際は「1、2歳で負荷試験を受けている症例は少なく、確定診断を受けないまま除去を続けている症例が多い」と、あいち小児保健医療総合センターアレルギー科医長の伊藤浩明氏は話す。その背景には、多種抗原陽性患者や重症難治患者が増えていること、一般の小児科では医師数や病床数が限られているといった事情がある。
専門医の3分の1は負荷試験を実施せず
一方、負荷試験を巡る状況は、ここ数年で変化しつつある。06年度、入院での負荷試験に保険点数(1000点)が付き、08年度には外来での負荷試験でも保険請求が認められるようになった。ある小児アレルギーの専門医は「これまでコストを度外視して、再診料だけで実施していたので、保険点数が付いて多少楽になった」と話す。保険点数が付いたことで、「負荷試験を実施する医療機関も増えているようだ」と、藤田保健衛生大小児科の宇理須厚雄氏は言う。
ただし、ひとくちに負荷試験といっても、医師によってその実施方法にはばらつきがある。日本小児アレルギー学会が、小児アレルギー専門医480人を対象に負荷試験の実施状況について調査を行ったところ、およそ3分の1の医師が負荷試験そのものを実施していないという現状が明らかになった。また、28%の医師が原因食物を単日単回摂取させる方法を実施していた(図1)。

図1 小児アレルギー専門医の負荷試験の実施方法と実施件数 日本小児アレルギー学会が小児アレルギー専門医480人を対象に調査を実施。06年度に1件以上単日複数回投与の負荷試験を行った専門医の割合は47.8%だった。1件以上単日単回投与を行った専門医の割合は28.4%だった。34.4%の専門医は負荷試験を実施していなかった。
単日単回の摂取とは、到底症状が出ないと思われる微量の原因食物を含む食品を試しに摂取させて、「ここまでは食べられる」と確認し、診療の度に量を少しずつ増やしていく方法だ。「この方法は、単に除去を続けるのに比べ、『少なくともここまでは食べられる』という量を示せる点で優れた診療方法ではあるが、食物アレルギーかどうかを診断できるわけではないため、本来負荷試験には当たらない」(伊藤氏)。
食物アレルギーの診療方法が医師により大きく異なることや、「ガイドラインを作成してほしい」という小児アレルギー専門医の声を受け、日本小児アレルギー学会は08年、食物アレルギー委員会の中に食物経口負荷試験標準化ワーキンググループ(委員長は宇理須氏)を立ち上げた。同グループが作成した『食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009』は、09年4月17日から奈良県で開催される第112回日本小児科学会学術集会で販売される予定だ。
ガイドラインでは、負荷試験を「一定の時間間隔で漸増法により数回に分割摂取させて、症状の出現を観察する検査」と定義。食物アレルギーの診療に慣れた医師が、入院設備の整備された、または緊急入院の受け入れ先を確保した医療機関で行うこと、正確に症状が判定できるように抗ヒスタミン薬などの薬物治療を中断して行うこと、などを原則とし、「安全性と確実性を重視したガイドラインを作成した」(伊藤氏)。

図2 負荷試験の原則(ガイドラインを参考に編集部で作成) 「食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009」で示される負荷試験の原則。卵での負荷試験を行う場合は、固ゆで卵が推奨されている。
また、入院での負荷試験を行う場合のスケジュールや、外来での負荷試験を行う場合のスケジュール、同意書のサンプルなどを掲載し、「具体例を盛り込んで、使いやすくしたことが特徴だ」(宇理須氏)という。保険点数が付き、ガイドラインが整備されることで、医師にとっては従来よりも負荷試験を実施しやすい環境が整いそうだ。
とはいえ、これで国内での負荷試験の裾野が広がり、実施件数が一気に増えると考えるのは早計だ。というのも、このガイドラインはあくまで食物アレルギーの診療経験を10年以上要する専門医が、これまでの負荷試験の方法を見直すために作られたもので、これまで負荷試験を行っていなかった医師に負荷試験の方法を周知するのが目的ではないからだ。
宇理須氏は、「専門医が少ない東北や北海道などで、これまでより積極的に負荷試験を行う専門医が出てきて、地域の医療機関と病診連携することを期待している」と話す。
関係者が思い描くのは、全国の各地域に専門医を擁し、負荷試験の中核となる医療機関が存在し、病診連携で一帯の負荷試験のニーズに応える――という将来像だ。
3.愛媛県で食物負荷試験が普及している理由
低年齢での食物経口負荷試験を普及させるためには、病診連携が不可欠。しかし、実際に連携が機能している地域は限られているのが実情だ。そんな中、県を挙げての取り組みで、負荷試験のスムーズな実施を実現した地域がある。
食物経口負荷試験を行い、不要な除去を防ぐには、病診連携が欠かせない。とはいえ、実際は患者を紹介したくても負荷試験を請け負ってくれる専門医がいなかったり、診療所が患者の囲い込みを懸念したりして、病診連携が機能しない地域が多い。
そんな中、日常的に負荷試験の病診連携を行い、実績を挙げているのが、愛媛県だ。愛媛県松山市の高岡眼科・小児科副院長である高岡知彦氏は、負荷試験のため、これまで7人の患児を松山赤十字病院(愛媛県松山市)に紹介した。
そのうちの1例が、生後6カ月のときに卵を食べて湿疹が出た女児だ。生後7カ月目、抗原特異的IgE抗体検査の結果、卵白でクラス4となったため卵を完全除去。2歳になっても抗原特異的IgE抗体検査では卵白に高値を示していた。
通常、高岡氏は、1歳半になった段階で負荷試験の実施を考慮している。しかし、診療体制も診療時間も限られる診療所で、負荷試験を行うのは簡単ではない。「付きっきりということは不可能だし、アナフィラキシーや帰宅後に症状が出た場合なども、対応するのは難しい」(高岡氏)。
この女児も抗原特異的IgE抗体検査が高値で症状が出る可能性があったことから、松山赤十字病院に負荷試験を依頼。その結果、卵白を負荷しても問題はなく、女児は卵の除去を解除することができた。
現在、高岡氏は抗原特異的IgE抗体検査で高値を示したり、即時型症状の既往があるなど負荷試験で症状が出そうな症例はもちろん、負荷試験に不安を持っている症例についても負荷試験を依頼しており、自院では基本的に負荷試験は実施していないという。
家庭・教育・医療の連携図る
こうしたスムーズな連携が可能になった背景には、2006年度から地域を挙げて食物アレルギー対策を進める愛媛県の取り組みがある。医師から園や学校に対して診断書や除去食を指示する連絡表を独自に作成し利用しているほか、病診連携で負荷試験を実施したり、市民向けにシンポジウムを開催するなど家庭と教育機関、医療機関の連携を図っている。きっかけは、「県の医師会のバックアップや中核となる医師が積極的に動いたことだ」(愛媛県医師会の向田隆通理事)。
現在、県内で負荷試験を実施しているのは、県立今治病院、済生会今治病院、県立新居浜病院、西条中央病院、松山赤十字病院、愛媛大附属病院、松山市民病院、市立宇和島病院の8施設。診療所などがこれらの医療機関に負荷試験を依頼する際は、愛媛県医師会・愛媛県小児科医会が作成した負荷試験依頼書類を利用して、アナフィラキシーを含めた既往歴、血液検査の結果を伝える。
松山赤十字病院では、05年11月から08年12月までに260症例について入院で負荷試験を実施した(図1)。そのうち、県内の医療機関から紹介を受けた症例は、約60%の155症例に上る。ちなみに松山赤十字病院ではこれ以外にも、原因食物が含まれた加工食品などを既に食べている症例について外来で負荷試験を実施している。

図1 入院での負荷試験の年齢別実施件数とその結果 松山赤十字病院では、05年11月から08年12月までに260症例の入院負荷試験を実施した。最も多いのは1歳での負荷試験だ。
同院小児科第一部長の小谷信行氏は「抗原特異的IgE抗体検査でクラス3以上の症例はもちろん、親の不安が強い症例や症状が嘔吐だけなど判定がはっきりしない症例についても紹介を受けている」と話す。入院での負荷試験の結果、陽性だったのは約44%に当たる115症例。抗原特異的IgE抗体検査のスコア別に見ると、スコア1やスコア2でも陽性の症例がある一方、スコア4以上でも陰性だった症例もあった(図2)。

図2 抗原特異的IgE抗体検査のスコア(RASTスコア)と負荷試験の結果 05年11月から08年12月までに松山赤十字病院で入院負荷試験を実施した260症例のうち、250症例の抗原特異的IgE抗体検査のスコア(RASTスコア)と陽性率。抗原特異的IgE抗体検査のスコアが低くても陽性だった症例もある。
負荷試験は日帰り入院で、医師1人、研修医1人、看護師1人が担当し、酸素投与や蘇生、点滴ルートを確保した上で実施する。負荷試験で症状が出なければ、その後、「緊急時に対応できる当院の電話番号を渡した上で、家庭で量を増やしながら食べてもらい、除去が解除できた段階で診療所へ返している」(小谷氏)。
一般的に、紹介を受けた医療機関が結果的に患者を囲ってしまい、病診連携が機能しないというケースも少なくないが、小谷氏は「患者には、『食物アレルギーの診療は行いますが、それ以外の日常診療はかかりつけ医にお願いします』と、はっきり伝える。患者を返し、役割分担をすることが重要だ」と語る。
さらに、愛媛県での取り組みは、人材育成という波及効果をもたらしつつある。「スタートから2、3年が経ち、若手の中にも食物アレルギーをやろうという医師が出てきた」(小谷氏)。小谷氏は、「食物アレルギーでできつつある人材交流や病診連携の仕組みを、喘息などほかの疾患にも生かせれば」と意気込む。今後、愛媛県での取り組みは、別の疾患や別の地域にも広がる可能性を秘めている。
■訂正 2009年4月21日に以下の点を訂正しました。
・1ページ目最終行、愛媛県医師会理事の向田氏のお名前を「向田隆道」理事と記載していましたが、正しくは「向田隆通」理事です。関係者の皆様にお詫びいたします。

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