■ 子どもに湿疹が・・・これってアトピー性皮膚炎?
☆ アトピー性皮膚炎が心配な方へ;お子さんの皮膚・湿疹について、いくつ当てはまりますか?
■ 乾燥肌・・・ 全身の皮膚がカサカサしています。
■ かゆい・・・ 痒くないアトピーはありません。
■ 慢性化・・・ 乳児は2ヶ月以上、それ以降は6ヶ月以上。
■ 特徴的分布・・・左右対称が基本、分布は年齢で異なります;
・乳児期:顔面・頭部 → 首 → 体へ拡大
・幼児期:全身〜特に手足の関節部に強い、
・成人 :全身〜上半身に強い
以上の4つを満たす子どもは「アトピー性皮膚炎」の可能性が大です。下記に当院で行っている診療を紹介します。特徴はアレルギー学会専門医によるガイドラインに沿った治療方針と、漢方医学の併用です。現時点では免疫抑制剤軟膏(プロトピック)は扱っておりません。
■ アトピー性皮膚炎、受診のコツ
当たり前のことですが、診療には医師と患者さんの間に信頼関係が必要です。
「聞きたいことが聞けない・・・」「こんな事を聞いたら失礼かな?」と迷っている方へ、押さえておくべきチェック・ポイントを伝授します。
1.診断名は?
・・・アトピー性皮膚炎なのか、単なるドライスキンなのか・・・
2.処方された軟膏はどこに塗るのですか?
・・・全体に広げて塗るのか、赤くなっているところだけに塗るのか・・・
3.処方された軟膏は、1日何回、何日間くらい塗るのですか?
・・・保湿剤と軟膏は塗る回数が異なります・・・
4.何日くらいでよくなりますか?
・・・よくならないのにダラダラ塗り続けるのはよくありません、再検討が必要です・・・
5.よくなったら、その後どうしたらよいですか?
・・・実はステロイド軟膏は「やめ方がポイント」です・・・
6.日常生活で気をつけることはありますか?
・・・ベースにあるドライスキンのケア方法や悪化因子について理解する必要があります・・・
以上を一度の診療で全て説明すると診療に時間がかかり過ぎてしまいますが、通院する中でポイントを少しずつでもわかりやすく説明してくれる医師がよいと思います(自省をこめて)。
1.アトピー性皮膚炎の治療方針
当院では「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」に準じた治療を行い、コントロールできない例にはオプションの治療を用意しています。以下に治療方針を紹介します。
アトピー性皮膚炎治療の3本柱
下記治療を十分行なえば約8割の患者さんの湿疹はコントロールされます。
環境整備=悪化因子回避。
・皮膚刺激因子:汚れ、汗、物理的刺激(チクチクする服・布団、髪の毛)、ストレス
・アレルゲン:乳幼児期は食物アレルギー(卵・牛乳など)が関与する場合があり、当院では症状に応じて適切な食事制限と解除方法・時期をアドバイスします。
スキンケア
皮膚を清潔に保ち、乾燥肌を保湿クリームで保護します。毎日必要です。
<スキンケアはなぜ大切か?→ 将来の喘息予防のため>
皮膚をカサカサのままにしておくと、バリア機能の低下したところからアレルゲン感作が進み、ダニ・ホコリに反応するようになると将来喘息を発症する可能性が高くなるのです(これはマウスを使った実験で証明されています)。
薬物療法(軟膏塗布)
湿疹の状態、部位、年齢により適切な強さのステロイド軟膏を使い分けます。この使用法をマスターすること(コツがあります)が湿疹コントロールへの近道です。
痒みが強い場合は抗アレルギー剤などの内服薬を併用します。
それでも良くならないときは?
漢方薬
毎日完璧にスキンケアするのはとても無理(涙)・・・という方、体質に合った漢方薬に出会うと皮膚だけでなく全体的な体調も良くなります。
プロトピック軟膏
タクロリムスという免疫抑制剤の軟膏で3歳以降に使用可能です。ステロイド軟膏ではコントロールできない湿疹が長く続き、副作用が心配な例に適用されます。
皮膚科専門医へ紹介
院長は「アレルギー学会認定専門医」ではありますが所詮小児科医。上記治療を尽くしても改善しない難治例・学童期以降の患者さんには皮膚科での治療をお勧めします。
2.アトピー性皮膚炎と食物アレルギー
アトピー性皮膚炎は「皮膚病」と「アレルギー」の2つの顔を持っているため、皮膚科と小児科で治療・説明が異なり、患者さんは混乱しがちです(これでも昔よりはよくなったんですが・・・)。
Q. アトピー性皮膚炎の原因は食物アレルギーなんでしょう?
いいえ、違います。食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は別の病気です。
ただし「アトピー性皮膚炎」は「症状」からつけた病名、「食物アレルギー」は「原因」からつけた病名なので診断名が重なっても不思議ではありません。
乳児期のアトピー性皮膚炎には食物アレルギーが合併しやすい傾向がある(30〜60%)と理解してください。
Q. どんなときに食物アレルギーの関与を疑えばいいでしょうか?
ある食物を食べた後に毎回蕁麻疹が出る、毎回湿疹が悪化する場合に疑います。
食べた後すぐに症状が出る場合(即時型反応)はわかりやすいのですが、食べた翌日〜数日後に湿疹の悪化として出る場合(遅延型反応)もあり、これはわかりにくい。
しっかりスキンケア・軟膏療法をしているのにアトピー性皮膚炎がなかなかコントロールできない場合は、悪化因子の一つとして食物アレルギーの関与を疑う必要があります。
Q. 食物アレルギーと確定するにはどんな検査が必要ですか?
血液検査
「リスト(RIST)」検査でアレルギー体質の強さ、「ラスト(RAST)」検査でどの食物に反応するのかがわかります。残念ながら症状と100%一致するほど正確な検査ではありません。ラスト検査が陽性でも症状が出ないこと、またその逆もあります。
さらにこれは即時型反応を調べる検査であり、遅延型反応は検出できないという欠点もあります。
つまり「血液検査の結果だけでは食物アレルギーの原因は必ずしも特定できない」というのが現状です。
※ 幼稚園・保育園で「アレルギーの検査をしてもらってきてください」と検査結果の提出を義務づけるところがありますが、ほとほと困っています。検査が陽性でも食べられる子どもはたくさんいますし、検査が弱陽性でもショックを起こす例もありますので。アレルギーに関しては「検査は万能、これですべてがわかる」のではありません。
食物除去・負荷試験
原始的な方法ですが、遅延型反応が疑われるときはこれが一番信頼できます。シンプルですが、なかなか大変な検査です。
疑わしい食物を最低2週間、完全に除去して湿疹が改善するかどうか観察します(除去試験)。改善したら今度は食べさせます(負荷試験)。除去による改善、負荷による悪化が明らかであれば、犯人確定!ということになります。
ただ、食事が親の管理下にある乳児期はいいのですが、いろんなものを食べるようになる幼児期以降では「2週間完全除去」は難しいですね。この場合は二重盲検法という検査を行いますが、病院に入院して行うレベルの専門的な検査です。
皮膚テスト
即時型反応を見ることができます(プリックテスト、スクラッチテスト)。
遅延型反応を見るパッチテストという方法もありますが、まだ一般的ではありません。
Q. 食事制限はずっと続けるのですか?
ほとんどの場合、その必要はありません。
乳児期に判明した食物アレルギーは離乳食が完了する頃には改善へ向かうので医師の指導のもとに徐々に解除していきます(ショックを起こしたことがある重症例は別です)。
3歳までに約5割、小学校入学までに約7割が食べられるようになります。
これに対して、幼児期以降〜大人で発症した食物アレルギーは治ることが少ないとされています。
3.アトピー性皮膚炎のスキンケアは「清潔&保湿」
日本皮膚科学会による「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」を参考に作成しました。
一度に全部達成しようとがんばると疲れてしまいますので、できるところから少しずつ始めましょう。
スキンケアの基本は「汚れたら洗う → 拭く → 保護」の繰り返しです。うまくいかないときはどれかが抜けているか方法が適切でない可能性があります。以下を読んでいただき、参考にしてください。
皮膚を清潔に保ちましょう:毎日の入浴、シャワー
入浴・シャワー:
毎日入浴して汚れを落とします。高い温度のお風呂は避けましょう(38℃程度が適切)。お湯につかるのは5分以内。上がり際に軽く水をかぶるようにすると入浴後の痒みが減ります。
湿疹がひどい場合は、暖かい季節ならシャワーのみでよいでしょう。夏は複数回シャワーを浴びるとなお良いと思われます。ただし石けんを使うのは1日1回だけにしましょう。何回も使うと脱脂されてカサカサが悪化します。
洗い方:
体を洗うとき強くこすってはダメです(掻いているのと同じ事)。ガーゼやナイロンタオル、スポンジは使わずに、よく泡立てて手のひらでそっと洗いましょう。洗髪は爪を立てずに指の腹でマッサージするイメージで洗います。
石けん・シャンプー:
洗浄力の強いものは避け、洗った後に十分すすぎましょう。石けんは普通の石けんでOKです(重症者は低刺激性石けんの使用も考慮)。よく泡立てて、泡でもむイメージで洗いましょう(泡タイプの石けんも使いやすいですね)。弱酸性のものがより好ましく、一方薬用石けんや香料の入ったものは刺激となる可能性があり避けた方が無難です。
頭髪・頭皮に石けん成分の入った全身用の洗浄料を使うと頭皮に石けんのカスが残ってしまいがちです。シャンプーを使いましょう。
入浴剤は?
保湿効果のあるものは使用可能ですが、保温効果のある製品はかゆみが強くなるので避けましょう(効能書きはあまり当てになりません)。実際に使ってみなければわかりませんね・・・。
★ 皮膚を洗うことの二面性:「清潔」になるけど「脱脂してカサカサ」にもなります
皮膚を洗うという作業には、「清潔にする」というよい面と「ドライスキンを助長する」という負の面があることを意識すべきです。
洗浄が不十分だと皮膚の汚れや過酸化脂質が刺激となって皮膚のかゆみを増すことになります。しかし洗浄力の強いボディシャンプーを多量に用いてナイロンタオルでこすると、皮膚のバリアは傷害され、カサカサになります。
<石けんに関する豆知識>
◆ 通常の石けんの特徴
① 石けんは主成分が脂肪酸のナトリウム塩であるものが多くアルカリ性、頭髪用のシャンプーは中性洗剤で脱脂力が強い性質があります。
② ヒトの皮膚のpHは弱酸性であるため、アルカリ性に傾くと角層の破壊や常在菌の消失などの生理学的異常をきたします。
③ 通常石けんとシャンプーには色素や香料、起泡剤などが含まれ、これらが刺激性を高めています。
◆ 低刺激性石けんの特徴
① ヒトの皮膚のpHに近い酸性度を有します。
② 添加物である色素、香料、抗酸化剤、殺菌剤、起泡剤などを可急的に少なくしています。
③ 基剤が低刺激性で低アレルギー性です。
④ 脱脂力を少なくしています。
皮膚の保護・保湿を心がけましょう
・入浴後・シャワー後には、カサカサしているところ、痒みのあるところに保湿剤を塗ります。体を拭くときは、ふんわりしたタオルで押すようにぬぐいます。タオルでそっと水分を吸い取るイメージです。そしてまだしっとり感が残っている5分以内に肌の潤いを封じ込めるつもりで保湿剤を塗るとより効果的です。10分後にはもとのドライスキンに戻ってしまい効果半減です。あくまでも「保湿剤」で「加湿剤」ではありません。
また、保湿効果が持続するのは数時間でそれほど長くありません。保湿ケアは最低1日2回、できれば3回必要です。女性が化粧のファウンデーションをこまめに直すように保湿剤もこまめに塗るのが理想的です。
※ 保湿剤として使用可能な外用薬の例:
ヒルドイド(=ビーソフテン)、ワセリン(=プロペト:眼科用精製ワセリン)、
アズノール軟膏、尿素軟膏(ウレパール=パスタロン、ケラチナミン)、ザーネ軟膏など。
・皮膚の状態、季節により保湿剤も使い分けます。冬は軟膏〜クリーム、夏はローション。
・軽い湿疹は保湿剤のみで改善することがあります。迷ったら十分な保湿ケアで様子観察し、悪化するようならその時点で医師の指示によるステロイド軟膏へ変更しましょう。
<保湿ケアの裏技公開!>
◆ ワセリン塗りたくり法
保湿剤であるワセリンを1日に4〜5回、十分時間をかけて塗りたくるとかゆみが減り、かきこわしが減るのでステロイドを使わなくても軽い湿疹は改善します。限界はありますが、ステロイドを使いたくない方は是非お試しください。
この方法、水仕事で手荒れが治らずアカギレがつらいお母さんの「主婦手湿疹」にも有効です。
◆ 保湿剤重ね塗り法
当院では体にはビーソフテン(=ヒルドイド)、顔にはプロペト(眼科用ワセリンで目に入っても大丈夫)を使用していますが、体のカサカサがひどい患者さんはヒルドイドだけでは満足できる保湿効果が得られません。
ビーソフテンを塗り広げた上にワセリンを重ね塗りすると、いい感じに保湿されます(これは患者さんから教えていただいた方法です)。当院ではビーソフテン・スプレー+プロペトをお勧めしています。
「保湿剤」はあくまでも「保湿」であり「加湿」ではありません。つまり、もともと潤いのないところに塗っても潤わないのです。ビーソフテン・スプレーは液体なので、この点が有利です。スプレーで保湿成分と水分を補い、さらにプロペトで覆うとベスト、ということになります。
「鼻の頭とオムツの中にスキンケアのヒントあり!」
お子さんの鼻の頭を観察してください。湿疹がないでしょう? ここは脂が多いからです。鼻以外は体から出る脂が少ないので外から補充してあげる必要があるとご理解ください。
同じように赤ちゃんのオムツの中は湿疹が軽いでしょう? ここはいつも適度の湿度が保たれているからです。そこをイメージして日々粘り強く保湿ケアに励んでください。
その他の環境整備
室内環境:
室内を清潔にして、適温・適湿(湿度50%程度)を保ちましょう。エアコンが効いている部屋は乾燥しがちです。
衣服:
着たときにチクチク、ゴワゴワするものや、きつくて締め付けられるような感じがするものは避けましょう。素材は木綿(コットン100%)がお勧めです。新しい肌着は糊がついていると刺激になるので使用前に水洗いしましょう。
子どもを抱っこするお母さんの服の素材も気になります。子どもの服に気を遣っても、お母さんの服がゴワゴワ・ザラザラしていたら子どもの皮膚は傷ついてしまいます。肌に触れても刺激にならない素材を選びましょう。
洗濯:
界面活性剤の含有量の少ないものを選びましょう(合成洗剤より粉石けんがお勧め)。洗剤が衣服に残らないようにすすぎを十分に行います。柔軟剤は薬品なので皮膚の刺激になる可能性がある一方で、ゴワゴワ感が無くなるので皮膚に優しくなる一面もあり、使い方次第。最近は吸湿性を保つ柔軟剤も発売されていますので、これを利用するのも一つの方法です。
爪・髪の毛の管理:
爪は短く切りヤスリでなめらかに整えましょう。乳幼児では手袋や包帯による保護が有用なことがあります。髪の毛先が顔や首に当たると刺激になるので工夫が必要です。
食生活上の一般的注意:
体を温める食事は控えましょう。辛い食べ物、香辛料がきいたもの、など。また、食品添加物が多く含まれている加工食品やインスタント食品、スナック菓子も控えましょう。調味料(塩・砂糖・醤油)も天然のものが望ましいと考えられています。
※ 食物アレルギーのあるお子さんは反応する食材を制限・除去する必要があります。
おもちゃを洗濯!
布のおもちゃは放っておくとダニの温床になります。1ヶ月に1回程度は洗いましょう。ぬいぐるみであれば、バケツに中性洗剤を入れて1時間浸し、もみ洗い。ネットに入れて流水で10分間すすぎ、バスタオルにくるんで脱水、しっかり乾かしましょう。
虫よけスプレー
湿疹がある場合は避けましょう。
肌に問題が無くても低刺激のものを選び、生後6ヶ月未満の赤ちゃんには使わないようにしましょう。
日焼け止め
子ども用の低刺激のものを使いましょう。
地肌に直接ではなく、保湿剤の上に重ね塗りするのがよいでしょう。
日焼け止めクリームは水で洗ったくらいでは落ちません。お風呂に入ったときに石けんで二度洗いしてしっかり落としましょう。
★ かゆみ対策の裏技「冷やす」
夜痒くて眠れなくてぐずるときどうしたらよいのか困り果ててしまいます。以下の方法は試したことがありますか?
・話しかけながら、あるいは子守歌を歌いながら肌をなでてあげる。
・小さな保冷剤を冷たすぎないようにタオルでくるんであてがう。冷たいタオルをあてがうとその時はよいのですが、皮脂が取れて後で乾燥しますのでご注意ください。
・お風呂上がりにはぬるま湯をかけて皮膚温を下げてから出るのもよいですね。
・夏場はローションタイプの保湿剤を少し冷やしてから使ってみてください。気持ちよいです。
4.軟膏の塗り方のキホン
アトピーの診療をしていて感じることは「みなさん軟膏の塗り方が甘い!」
「ステロイドが何となく怖い」というマスコミにすり込まれた恐怖心によるものでしょうか。
しっかり保湿し、適切にステロイド軟膏を使用すればとっても楽になるのに・・・そのコツを伝授します。
軟膏は薄く、そっとやさしく塗りましょう。
べとつくほど塗る必要はありません。まわりについて取れてしまうだけです。
横から見てかすかに光っているかな、という程度でOK。「表面にまぶす」「一枚薄い膜を張る」というイメージで。また、良く効くようにと力を入れてゴシゴシ塗り込むのはかき壊しているのと同じ事になりよくありません。
力の入りにくい中指と薬指を使い、指の腹でそっと塗り広げましょう。
★ 豆知識:軟膏をすり込むと効果が落ちる?
以下のようなカラクリがあります。
湿疹があるところはザラザラ〜ゴワゴワしていますね。そのデコボコした皮膚の中でも、病気の場所は凸として触れるところであり、凹んでいるところには正常な皮膚が残っています。
さて、軟膏をゴシゴシすり込むと、軟膏はどこに残るでしょう?
病気の凸の場所ではなく、健康な皮膚の凹の場所ですね。これでは効果は期待できません。
重ね塗りの順番は「保湿剤 → ステロイド軟膏」
複数のステロイド軟膏を使う場合は「弱い → 強い」が基本です。
塗り分けが難しいときは、まず保湿剤を最初に広く塗り、湿疹のある場所だけにステロイド軟膏を重ねて塗りましょう。複数のステロイド軟膏を使用する場合は「弱い → 強い」の順番で塗ります。
※ 注意:正常な皮膚にステロイド軟膏を塗ると副作用が出るだけです。ステロイドは湿疹のある場所だけにピンポイント攻撃をしましょう。
ステロイド軟膏は指示された回数を守り、良くなっても保湿ケアは続けましょう。
ステロイド軟膏は1日2回塗らないと十分な効果が期待できません。「ステロイドは怖いから」と指示された回数より少なく塗っていると湿疹が良くならず、ずっと塗り続けることになり、かえって使用量が多くなりますので副作用が心配です。
適切な強さのステロイド軟膏を塗ると3日くらいで改善に向かい、1週間以内にキレイになって止められます(ただし慢性化してゴワゴワ硬くなっているところは2週間かかります)。ポイントは「ちょっと良くする」ではなく「一度治してかゆみから解放してあげる」イメージで塗りきること。中途半端では翌日またかき壊しています。
その後も保湿ケアを続け、ドライスキンを保護して悪化を予防しましょう。
保湿剤は何回塗っても副作用はありません。特に顔は「カサついているな」と感じたらその都度リップクリーム感覚で潤いを補ってあげてください。
5.ステロイド軟膏の上手な塗り方
さて、問題のステロイド軟膏。正しい知識を持って、適切に使用すれば怖いものではありません。
ポイントはケチって少しずつ使うのではなく「必要なときはタップリしっかり塗り、治ったらやめる」というメリハリです。
Q. ステロイド軟膏のはどれくらいの量を塗ればいいのですか?
★ ステロイド軟膏の適切な量:
〜フィンガー・チップ・ユニット(Finger tip unit)〜
人差し指の先から第一関節まで5gチューブ(ロコイド、リンデロンVなど)から軟膏を出すと約0.5gとなり、これが大人の手のひら2個分の適量となります。
なお、ローションタイプは1円玉大の量で大人の手2枚分の面積が適量です。
この量なら軟膏をすり込むことなく、皮膚に均一に薄くのばして塗ることができます(思ったより多いでしょう?)。逆に分厚く塗っても効き目がよくなるわけではありません。
体全体では乳児だと5g、学童では10〜15gくらいが必要ですが、軽症の場合は実際にはその何分の一程度しか必要になりませんね。
Q. ステロイド軟膏を長く塗っていると副作用が出ませんか?
適切な強さのステロイド軟膏を適切な量塗布すれば、湿疹のほとんどは1〜2週程度でキレイになります。つまり軟膏の使用量が減ってくるのです。
メリハリをつけて治療すれば、副作用は心配いりません!
湿疹がコントロールされた状態を数ヶ月から数年維持できると、ほとんど保湿剤だけでケア可能になるケースが多く、乳児期発症の約7割が2歳までに治っていきます。
Q. ステロイドを塗っていてもよくならないんですけど・・・
指示された軟膏を塗っていても有効感がない場合は、
① 軟膏が弱すぎる
② 塗る量・回数が少なすぎる
③ 軟膏が合わない(かぶれ)
等の可能性がありますので医師にご相談ください。
ありがちなのが「塗る回数が少ない」こと。ふつう、ステロイド軟膏は「1日2回」塗るように指示されているはずです。でも、1日1回とか、3日に1回とか・・・飲み薬の回数は守るのに、なぜか軟膏は守ってくれないんですよねえ。指示通りに使わないで「効かない」といわれても困ります。
6.ステロイド軟膏の強弱ランキング
Ⅰ群(最強)
デルモベート、ジフラール(=ダイアコート)
Ⅱ群(とても強い)
アンテベート、フルメタ、トプシム(=シマロン)、リンデロンDP、マイザー、ビスダーム、ネリゾナ、パンデル
Ⅲ群(強い)
プロパデルム、リンデロンV(=ベトネベートN)、メサデルム、アドコルチン、ザルックス(=ボアラ)、フルコート、エクラー
Ⅳ群(まあまあ)
リドメックス、ケナコルトA(=レダコート)、ロコイド(=アボコート)、キンダベート(=パルデス)、アルメタ、デキサメタゾン(=オイラゾンD)
Ⅴ群(弱い)
プレドニゾロン、コルテス
※ 以上は日本の分類法です。欧米では同じ名前でも軟膏・クリーム・ローションによりさらに強度分類がされています。
※ 当院で採用している軟膏を青字で示しました。
湿疹の状態と軟膏の使い分けのコツ
これはとっても大切です。子どもは大人より皮膚が薄いので吸収がよく、一ランク弱いものでOK。迷ったらその度に確認してください。
1.強い湿疹:表面がゴワゴワしてつまむと硬い → 子どもはⅢ群、大人はⅡ群
2.弱い湿疹:赤みのある軽い湿疹、掻き壊し → 子どもはⅣ群、大人はⅢ群
3.ドライスキン:カサカサのみ → 子どもも大人も保湿剤
以上のように、子どもではⅢ群(リンデロンVクラス)以上の強い軟膏は通常使用しません。
7.ステロイド軟膏の副作用
実は副作用が出るほどステロイド軟膏を使うのは大変な作業です。強い軟膏を毎日何本も何ヶ月も使い続けなければならないのですから。
ただし長期に使用していれば可能性はゼロではありません。正しい知識を持って不安を減らしましょう。
ステロイド軟膏の副作用を誤解していませんか?
ステロイドの内服薬(全身投与)の副作用と軟膏(局所投与)の副作用を混同している。
基本的に、全身投与(内服薬・注射薬)では全身性の副作用が問題になり、局所投与(軟膏)では局所の副作用が問題になります。
もし軟膏で全身性副作用を出そうとすれば、強いタイプを毎日大量に塗りたくる必要があります。
例えば、リンデロンV(ストロング)を毎日5〜10g(1〜2本)を3ヶ月以上塗らなければ、全身性副作用は出ません。毎日20g(4本)以上使用すると確実に副腎抑制を生じます。毎日ですよ。
一方、内服ステロイド薬のセレスタミン2錠/日内服はの一番強いステロイド軟膏であるデルモベート(ストロンゲスト)10g/日塗布に相当します。怖いほど強力です。
(内服ステロイド剤の例)セレスタミン、プレドニン、リンデロン、デカドロン、など。
「アトピー性皮膚炎そのものの悪化」と「ステロイド軟膏の副作用」を混同している。
イメージとしてステロイド軟膏の副作用は皮膚が「薄く・赤く・もろく」なります。「赤ら顔」が典型ですね。
・ステロイド軟膏の皮膚への副作用
にきび、毛細血管拡張(皮膚の血管が浮き出てくる)、皮膚が薄くなる、皮膚萎縮、
多毛(うぶ毛が生えてくる)、皮膚感染症(とびひ、カポジ水痘様発疹症など)など
しかし現実には湿疹という炎症の焼け跡である肌の黒ずみ、あるいは色素脱失を副作用と思い込んでいるヒトの多いこと多いこと・・・。
・ステロイド軟膏の副作用と間違えやすいもの
色素沈着(黒っぽくなる)や色素脱失(白っぽくなる)・・・湿疹の治癒跡
皮膚のゴワゴワ・・・治療不足(塗る量が少ない、あるいは軟膏の強さが弱すぎる)
Q. ステロイド軟膏の皮膚副作用は回復しますか?
中止あるいは使用量が少なくなると、局所的副作用は6ヶ月間で半分に減少します。
ただし毛細血管の拡張の改善には1年以上必要であり、皮膚線条(妊娠線のような模様)は消えないことの方が多いようです。
Q. ステロイド軟膏を顔に塗っても大丈夫ですか?
顔面は高い薬剤吸収率を考慮して、原則としてミディアム(ロコイドなど)以下のステロイド外用薬を使用します。その場合でも1日2回の外用は1週間程度にとどめ、間欠投与に移行し、休薬期間を設けながら使用しましょう。
ステロイド軟膏による眼病変には白内障(全身投与で多い)、緑内障(局所投与で多い)があります。目の周りの湿疹が目立つ方は1回/年、眼科受診しましょう。
Q. ステロイド軟膏の副作用が出にくいコツはありますか?
顔以外の部位では、ストロングクラス(リンデロンなど)の軟膏でも週に2〜3日程度なら、1年間使用しても副作用は生じないことが報告されています。
子どもでは湿疹がほぼ完全にコントロールされた状態が数ヶ月から数年維持できると、ほとんど保湿剤だけでケアできる段階に至るケースが多いのです。そのためには、アトピー性皮膚炎を悪化させる環境因子を排除しライフスタイルを変えていく努力も必要です。
★ ステロイド軟膏を使いたくない患者さんへ
「ステロイド軟膏を使わないで治療したい」という患者さんがたまにいらっしゃいます。
お気持ちはわかります。
処方された軟膏を塗っていても一進一退で、なかなか先が見えず痒がっている子どもを目の前にすると漠然とした不安が涌いてきます。そこに「ステロイドは恐い」とささやかれると、いてもたってもいられなくなり、民間療法やアトピービジネスに引っかかってしまう・・・親心の裏返しなのですね。
「ステロイド」の正体はなに?
いわゆる「ステロイド」とはヒトの体内でつくられるホルモンです。腎臓の上に乗っている小さな「副腎」という臓器から分泌され、糖やタンパクの代謝をコントロールし、炎症を抑えるなど生きていく上で欠かせないホルモンです。
薬の「ステロイド」はこのホルモンを人工的に合成したものです。
よく民間療法やアトピービジネスでは「天然成分だから安全」と宣伝しますが、ステロイドはもともとヒトの体の中にあるものですから、そういう意味ではもっと安全ということになります。
科学的に明らかにされているステロイド軟膏の効果と副作用
ステロイド軟膏が開発されて製品として発売されるまでには5〜10年かかります。動物実験から始まり、”臨床治験”という実際にヒトに使う試験もクリアし「この病気の患者さんの60%以上に確実に有効で、副作用は問題にならない程度」と現代科学で保証されて初めて薬として世に出るのです。
さて、アレルギー学会認定専門医である私はガイドラインに従ってステロイド軟膏を使用しています。正しく使用すればとてもよい薬です。
必要以上に強い軟膏を使ったり、健康な皮膚に使用すれば副作用が問題になりますが、それは他の薬と同じ事です。皆さんがときどきお世話になる風邪薬でさえも頻度は非常に希ですがショックの副作用があるのですよ。
「副作用が恐いから使わない」は正しい選択?
「副作用が恐いからステロイド軟膏を使わない」とは「手を切るのが恐いから包丁を使わない」と同じ事だと思いませんか?
交通事故が恐いから車に乗らない、墜落が恐いから飛行機に乗らない・・・などなど、心配し始めたらキリがありません。
ステロイド軟膏は間違った使い方をすれば副作用が問題になる薬ですが正しい使い方をすれば効果抜群。信頼できる医師のもとで安心して使ってください。
医師が処方する薬とそれ以外の民間療法・アトピービジネスの違い
前述のようにステロイド軟膏は現代科学がその素症を明らかにしている薬です。効果・副作用を知りたければ医師でなくてもインターネットで調べることができます。
例)ロコイド軟膏、リンデロンV軟膏、アンテベート軟膏
さて、ステロイド軟膏は医師の処方箋がなければ手に入りません。近所の薬店では基本的に販売していません(一部弱いものはあります)。つまり、医師免許を持つプロだけが扱うことを許された薬なのです。
一方、民間療法には科学的な裏付けがありません。昔は「おばあちゃんの知恵袋」的な善意があったのですが、最近はお金が絡んできて詐欺まがいのものが増えています。100人に使って1人に効いても「驚異の効果!」と宣伝します。
社会問題化したアトピービジネスに至っては美辞麗句で誘いつつ患者家族の不安をかき立てて効かない治療を行い、悪化すれば「今はステロイドの毒が出ている、この治療法を続ければいずれよくなる」と言い続けるだけです。
振り込み詐欺に引っかかるのと同じですよ。
内服薬「セレスタミン」だけは要注意!
ただし、医師が処方する薬の中で注意すべき飲み薬が一つあります(軟膏ではありません)。
「セレスタミン」がそれです(子どもにはシロップ剤として同類の薬に「リンデロンシロップ」「デカドロンエリキシル」があります)。この薬にはステロイドが入っており、長期に飲み続けると皆さんが怖がっている全身の副作用(糖尿病、骨粗鬆症など)が出る可能性があります。
当然、対象は重症患者さんで、それも短期間の緊急避難的に使用するのみです。
ちなみに私はアトピー性皮膚炎にこれらの内服ステロイド薬を処方したことがありません。喘息発作で呼吸困難が強い患者さんや喉頭炎で喉が狭くなって苦しい状態のときのみ使用します。
驚いたことにこの薬が処方されるときに「この薬はステロイドが入っている」とキチンと説明してくれる医師がなんと少ないことか。「花粉症の薬」とか「かゆみ止め」程度の説明がほとんどです。副作用の可能性についての説明なしに内服ステロイド薬を処方する医師はいかがなものか・・・私自身、不信感を拭えません。
これらの薬を飲むと免疫力が抑制され、子どもではその期間はワクチン接種ができなくなる事がありますのでご注意を。
8.アトピー性皮膚炎の漢方治療
(2009.9.16初掲載)
当院ではガイドラインに沿った治療(スキンケア・軟膏療法・環境整備)を行ってもなかなか良くならない場合はご希望により漢方薬を処方しています。
しかし、漢方は「アトピーだったらこの薬が効く!」という単純なものではありません。なぜって、漢方医学には「アトピー性皮膚炎」という診断名・病名が無いからです。
漢方の診断名は「証」と呼ばれています。
湿疹の状態と患者さんの年齢・体質により「証」を読み取り、薬を使い分けることになります。
また、漢方には今あるつらい症状を治す「標治」と、長期投与により体質改善を図る「本治」という概念があり、状態によりこれらを単独で、あるいは組み合わせて治療に当たります。
「標治」・・・湿疹の状態により薬を選択
湿疹の状態から「証」を推察しますと以下のようになります;
1.乾燥が強い → 「血虚」の証
2.発赤が強い → 「熱証」の証
3.腫れる・ジクジク→ 「水毒」の証
4.ゴワゴワ硬い → 「瘀血」の証
実際の湿疹は1〜4が単独で見られるわけではなく、これらの要素が混じり合っています。その状態に応じて「血虚」「熱証」「水毒」「瘀血」を改善する生薬が様々な比率で入っている漢方薬を使い分けるのです。
(例)
・顔面の発赤が目立つ→「熱証」を冷ます方剤である黄連解毒湯を選択
・全身の乾燥が強いが赤みがほとんど無い→「血虚」を治す四物湯を選択
・全身の乾燥が目立つが、赤く炎症を起こしている湿疹も見られる→「熱証」と「血虚」を治す温清飲(実は黄連解毒湯と四物湯の合剤)
・ゴワゴワ硬い湿疹がたくさん→「瘀血」を治す桂枝茯苓丸加ヨクイニンを選択
<主な漢方薬>
温清飲、消風散、黄連解毒湯、四物湯、越婢加朮湯、白虎加人参湯、十味敗毒湯、柴胡清肝湯、荊芥連翹湯、当帰飲子、桂枝茯苓丸加ヨクイニン、桂枝加黄耆湯、等
「本治」・・・小児は胃腸虚弱の要素を考える
乳幼児期は食物アレルギーの関与も大きい年齢層です。その一因は西洋医学的には「消化吸収機能の未熟性による」と説明されています。漢方的には「脾虚」(胃腸機能の低下)と捉えて、これを改善する生薬入りの漢方薬を選択します。年齢が高くなると心因の関与が大きくなる傾向があります。
(例)乳児期から湿疹が続き、食が細く偏食もありやせて風邪を引きやすい
→ 小建中湯でお腹を温めて消化管の発達を促し、黄耆という生薬で皮膚を強くする目的で、2つの合剤である黄耆建中湯を選択。証に合った場合は「食欲が出て元気になり便通も良くなり湿疹も改善する」という健康的な効き方をします。
<主な漢方薬>
黄耆建中湯、小建中湯、補中益気湯、六君子湯、等
(院長のつぶやき)私は西洋医学の抗アレルギー薬を長らく使用してきましたが、かゆみがやわらぐ程度で湿疹そのものが体の中から良くなるという印象はありませんでした。一方、体に合う漢方薬が見つかると、体と皮膚の状態が改善して多少スキンケアをサボってもまあまあの状態が得られるようになることを経験し、診療に取り入れるようになりました。
■ プロトピック軟膏について
タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック)は免疫抑制剤で、学会情報・医学雑誌を読むとても有効とのこと。
「life changing drug(人生を変える夢の薬)」とも表現されています。
一方、副作用として発がんの可能性が指摘されており、当院では基本的に使用しておりません。
スキンケア(ステロイド軟膏療法を含む)+内服(抗アレルギー薬、漢方薬)でコントロール不良の場合は皮膚科受診を勧めています。
推進派の東京逓信病院皮膚科:江藤隆史先生の記述と、FDAが問題視したガンの発生に関するニュースの両方を提示します;
■ アトピー性皮膚炎とプロトピック
(小児科診療2009年7月号より)
開発秘話
茨城県の筑波山の土壌から得られた放線菌の産生する物質を分離・抽出・精製し、マクロライド系の骨格を有するため当初抗菌薬としての活性が調べられました。しかし抗菌活性は極めて乏しく、後に免疫抑制作用をスクリーニングするに至って、その当時、臓器移植領域で主要免疫抑制剤として君臨していたシクロスポリンAに勝る免疫抑制作用が実証されました。
※ 「軟膏」にできたポイントは「分子量」プロトピックの分子量は約822です。ステロイド(450〜520)に比べやや大きめで、ヒト正常皮膚からの吸収は極めて低く、アトピー性皮膚炎のような皮膚バリア機能の低下した皮膚で吸収され効果を発揮します。免疫抑制剤の先輩であるシクロスポリンAはプロトピック登場以前に外用薬として治験が行われましたが、分子量が1200とさらに大きく、アトピー性皮膚炎の皮膚でも吸収が難しいため製品化できませんでした(現在点眼薬のみ春季カタルに適応あり)。
つまり、プロトピックはちょうどアトピー性皮膚炎の治療薬に最適な分子量を偶然有していたのです。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2008(日本皮膚科学会)より
関連する箇所を抜粋すると・・・
「現時点において、アトピー性皮膚炎の炎症を十分に鎮静しうる薬剤で、その有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤はステロイド外用薬とタクロリムス軟膏(プロトピック)である。その他の外用薬では非ステロイド系外用薬があるが、抗炎症作用は極めて弱く、接触皮膚炎を生じることが希ではなく、その適応範囲は狭い。」
「顔面はタクロリムス軟膏の高い適応がある部位であり、そのガイダンスに従って使用することも積極的に考慮する」
江藤先生は1980年代からの「脱ステロイド療法」「アトピービジネス」が流行ったときはガン合併症の網膜剥離が増加し、赤鬼様顔貌の患者さんが目立ったけれど、プロトピックの登場・普及後に減ってきた印象があると記されています。
特徴
1.リンデロンV(ストロングクラス)と同等の効果
急性期の湿疹に対する局所効果はロコイドより強くリンデロンVと同等と報告されています。
2.ステロイドにない止痒効果
痒み因子(サブスタンスPやNGF)に対して抑制的に作用することが報告されています。
「日光暴露を避けるように」とされる注意事項に関しては「夜1回外用すれば、翌日の日光暴露は問題ありません」。症状が安定すれば概要回数は週2〜3回で十分となり、概要を中止するとすぐ症状の再燃が起こる傾向にあるステロイド外用薬とはこの点で異なります。
3.ステロイド外用薬のような局所的副作用はない
皮膚感染症のリスクはステロイド軟膏と同じと考えられますが、毛細血管拡張や皮膚萎縮、酒さ様皮膚炎などステロイド軟膏特有の局所的副作用はありません。
4.正常皮膚から吸収されにくい(500ダルトンルール)
前述しましたが、タクロリムスは分子量が約822であるため、正常皮膚からは吸収されにくく、アトピー性皮膚炎の皮膚でやっと吸収されるのに対し、ステロイドは分子量が450〜550と小さめで正常皮膚でも透過します。これを「500ダルトンルール」と呼びます。
プロトピック軟膏の使い方
急性期にはステロイド軟膏 → 維持期にはプロトピック軟膏
ステロイド軟膏は効くけどやめると再燃しやすい・・・この悩みを解決するのがプロトピック軟膏です。
従来はステロイド軟膏を希釈してみたり、非ステロイド軟膏を用いてみたり、スキンケアのみで押し通したり、といろいろ試行錯誤してきましたが、どれもあまいよい方法とは云えませんでした。希釈はもっともらしい方法に見えますが「多くのステロイド外用薬は1/2程度の希釈ではその作用はほとんど変化無く、1/4の希釈でもやや低下する程度と考えられ、ある希釈倍率で急激にその作用を低下させる曲線的な変化を示す」ため、副作用軽減目的としての希釈は適切な方法ではありません。
副作用
1.発がん(リンパ腫)のリスク
マウスの実験で示された0.1%タクロリムス軟膏(成人用)のリンパ腫発症のリスクは、もともとリンパ腫を発症しやすい種であること、マウスではヒトの100〜200倍もの薬物血中濃度になることなど、ヒトでの止痒ではあり得ない条件下でのデータであり、寛解維持の目的で用いられる限り発がんのリスクは全く問題ない、と言えます。
最近の報告では、
■ メラノーマ以外の皮膚がんの発生は4761名の臨床試験参加者のフォローアップスタディでは13例の報告があり、全例においてタクロリムス軟膏との関連性はないと判断された(Naylor M他、2005年)
■ 小児を含む293295人のアトピー性皮膚炎患者において、その12%にタクロリムス軟膏が使用されていたが、リンパ腫発生リスクの増加は認められず、むしろアトピー性皮膚炎の重症度の方がリスク増加に関与する主要因子である可能性が示唆された。
などがあり、発がんリスクに否定的な報告が相次いでなされています。
2.感染症のリスク
単純ヘルペス・ウイルス感染症であるカポジ水痘様発疹症のリスクはタクロリムス軟膏治療とステロイド治療で有意差がなかったと報告されています(リスクがないわけではありません)。
3.灼熱感
塗布後の灼熱感(刺激感、火照り感、掻痒感など)はタクロリムス軟膏特有の副作用で、アトピー性皮膚炎の症状が軽快すれば(つまり皮膚バリアが回復すれば)徐々に軽減してきます。
対策としては湿疹の急性期・増悪期はステロイド軟膏で消炎し、維持期にタクロリムス軟膏を導入する方法が勧められます。
なお、「こすって目に入らないか?」という患者さんの不安には、自信を持って「極薄めに目のまわりに塗れば問題ありません」と答えるべきです。
「アトピー薬使用後にがん 米で子ども46人」(2010年3月23日:共同通信社)
日本でも販売されているアステラス製薬の「プロトピック」(一般名・タクロリムス水和物)など2種類のアトピー性皮膚炎治療薬を使った米国の子どもが、2004年1月~09年1月の5年間に計46人、白血病や皮膚がんなどを発症し、このうち4人が死亡したと米食品医薬品局(FDA)に報告されていることが21日分かった。適応対象外の子どもに使ったり、長期間使い続けたりするなど、使用法が守られていないケースが多いという。因果関係は明確ではないが、発がんと関連する恐れがあるとして、FDAは近く専門家会議を開き、薬の添付文書改訂を検討する。
もう一つの薬はノバルティス社(スイス)の「エリデル」(日本未発売)。いずれも塗り薬で免疫抑制作用がある。
FDAによると、0~16歳でプロトピックを使った15人、エリデルを使った27人、両方を使った4人の計46人が皮膚がん、リンパ腫、白血病を発症した。
うち50%は、添付文書で「使うべきでない」とされている2歳未満。41%は、安全性が確立していないと注意喚起されている1年以上の長期使用。プロトピック使用後にがんになった子どもの26%は、有効成分濃度0・03%の子ども用ではなく、濃度0・1%の大人用を使っていた。
FDAは05年にも、発がんと関連する恐れがあるとして、使い方に注意するよう呼び掛けている。
(院長のつぶやき)このくすりが登場した当初、アレルギー学会で講演を聞くと、皮膚科医の先生は「皮膚科専門医が使うべき軟膏であり、皮膚病診療に不慣れな小児科医は・・・」という雰囲気でしたが、最近は「臆病な小児科医が使わないから・・・」という論調に変わってきています(苦笑)。
皮膚がんのリスクについても、最初のうちは「問題ない。アメリカでも許可されている。」だったのですが、その後アメリカのFDAが注意を喚起するに至り、積極的に勧めにくい状況です。
というわけで、当院では使用に踏み切っていません。その前に漢方薬で何とかならないかと悪戦苦闘中です。
<アトピー性皮膚炎関連記事>
ネットで見つけた記事の中で、信頼でき参考になるものをしました。
■ 資生堂、乳幼児アトピー性皮膚炎で新知見、2蛋白質が症状悪化に関与
(2011/12/05:ケアネット)Copyright:化学工業日報社
資生堂は1日、乳幼児のアトピー性皮膚炎から得た新知見を発表した。肌の炎症を引き起こした際に発現量が高まるというたん白質2種を突き止め、それぞれが異なるアプローチで皮膚の荒れる症状を悪化させていることを見いだした。アトピー性皮膚炎の乳幼児患者に同たん白発現量が多いという相関があることも確認、今後、同皮膚炎発症の指標になるとみて検討していく。
資生堂は、皮膚の炎症反応で表皮などでの発現量が高まるというたん白質SCCA1とS100A8/A9に着目。培養皮膚細胞での実験で、SCCA1は皮膚細胞の代謝過程における核分解工程を中断して不全角化を引き起こしいることを発見。さらにS100A8/A9が炎症伝達物質のサイトカインに働きかけていることも確認し、いずれもアトピー性皮膚炎の乳幼児患者の皮膚中での発現量が、健常者より有意に多いことがわかった。
同社は、アトピー性皮膚炎の乳幼児患者の症状軽減のためには、化粧品で保湿することが有用であると見込み、10月に専用スキンケアシリーズ「ドゥーエ(2e) ベビープラス」を、製薬企業マルホ経由で医療用機関などに向け発売している。今後、両たん白の発現量と乳幼児のアトピー性皮膚炎患者との相関性を見いだすことができれば、肌荒れ症状がアトピー性皮膚炎か否かを、テープストリッピングによる両たん白採取で簡便に判断できると期待している。今後、アトピー性皮膚炎患者に対し同スキンケア製品をアピールするほか、医療関連の学術機関などとさらに共同で研究を重ねて相関性を科学的に立証していく方針。
■ アトピー性皮膚炎に効く漢方(日経メディカル2011年6月〜)
☆ 幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」・・・幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。
(1)アトピー性皮膚炎の考え方と陰液を補う漢方処方
アトピー性皮膚炎は、漢方薬が処方されることが多い疾患のひとつです。ステロイド外用薬での治療中、ある程度症状が落ち着いてきたときに、「治った」と思って薬を中断し、その結果また症状が悪化する、ということがよくあります。そういう再発を繰り返すうちに、アトピー性皮膚炎を根本的に治したい、体質改善をしたい、と思うようになり、漢方薬にたどり着く人が多いように思います。
この病気の特徴は、かゆみが強いことです。寝ているあいだにも無意識に患部をかいてしまうので、皮膚の状態がわるくなり、皮膚炎が悪化します。この悪循環を断たないと、アトピー性皮膚炎はなかなか治りません。
かゆみの原因は、主に皮膚の乾燥、および皮膚のバリア機能の低下です。バリア機能というのは、外界からの刺激に対して皮膚が人体を守る免疫機能のことで、皮膚の重要な役割のひとつです。
アトピー性皮膚炎の人は、そのバリア機能が低下している、つまり皮膚がデリケートで敏感になっているようです。皮膚の一番外側にある角質層がもろくなっており、ちょっとした刺激ですぐに皮膚の末梢神経が反応するような状態です。そこにハウスダストやダニ、ほこり、花粉、細菌、排気ガス中の化学物質などが付着すると、過敏に皮膚が反応して、炎症が生じてしまいます。
さらにわるいことに、炎症そのものがバリア機能をさらに低下させます。したがって、ますます外気の刺激に過剰に反応し、皮膚炎が悪化しやすくなります。
アトピー性皮膚炎の症状は、さまざまです。肘の内側や膝の後ろが、冬の乾燥や夏の汗の刺激でかゆくなる軽度のものから、朝起きるとシーツにむけた皮膚の断片がたくさん落ちるほど皮膚の落屑(らくせつ)が激しい人、全身の皮膚が象の皮のようにごわごわと硬く赤黒くなっている人など、多種多様です。
このような症状に対し、漢方は、重症だから強い薬、軽症だから弱い薬という選び方をするのではなく、ほかの病気と同様、患者さんの体質に合わせて処方を判断します。
基本的な体質は、「陰虚(いんきょ)」体質です。体液が不足しており、肌が乾燥し、刺激に対して敏感になっています。アトピー体質と深い関係にあります。漢方は、そのアトピー体質そのものの改善を図ろうとする薬です。
漢方では「気」の流れや量を重視しますが、気の機能のひとつに「防御作用」があります。体表を保護して、病邪が体内に侵入してくるのを防ぎます。この気を「衛気(えき)」といいます。
バリア機能は、衛気そのものです。衛気が不足すると、バリア機能が低下します。アトピー性皮膚炎の人は、衛気が弱っているといえます。
陰虚症になると、この衛気の働きが弱くなります。陰虚以外にも、気虚や血瘀(けつお)、血虚、血熱、湿熱など、さまざまな証で、衛気の不足と関連し合いながら、アトピー性皮膚炎が生じます。今回は、それらのうちのいくつかを症例で紹介します。
■症例1
「10年前に一人暮らしを始めたころから、アトピー性皮膚炎になりました。顔や首が乾燥して赤くなっています。かゆみがいつもあり、とくに夜になるとひどくなります。仕事をしており、人前に出ると気になるので、ステロイド外用薬を使っています」
28歳の女性です。ステロイドは6年ほど前から使用しています。塗ると症状が軽くなりますが、塗るのをやめると再発します。顔や首は赤黒く、乾燥して皮膚が厚くごわごわしており、一見してアトピーとわかる状態です。
アトピー性皮膚炎で皮膚の乾燥が進んでいる人は、皮膚に必要な水分や養分が十分供給されていない体質です。必要な水分や養分がないために、衛気の活動が潤滑に行われていません。
このように水分や養分が不足している体質を「陰虚」証といいます。皮膚が乾燥してデリケートになっているので、かゆみが激しいのが特徴です。とくに夜間にかゆみがひどくなる傾向があります。そのほかに、皮膚がざらつく、細かく小さな皮膚片がはがれ落ちやすい、皮膚が厚くなり、しわが目立つ、などの特徴があります。いずれも水分や養分が皮膚にじゅうぶん供給されなかった場合にみられやすい症状です。水分が足りないので、熱がこもったようになります。
こういう場合は、水分や栄養などの陰液を補う漢方薬で「滋陰(じいん)」して、体質改善をすすめます。代表的な処方は、六味地黄丸(ろくみじおうがん)です。
この女性の場合は、顔の赤みやかゆみがひどかったので、最初のうちは、そのような熱の症状を緩和する効果のある黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を少し併用しました。ただし、黄連解毒湯には、からだを乾燥させる働きがあります。その結果、アトピー性皮膚炎を悪化させてしまう心配がありますので、注意深く患者さんの状態をみながら処方量を調整する必要があります。
女性は、一人暮らしを始めてから外食が増え、間食やインスタント食品も増えたとも話していました。そういう食生活の乱れが体質悪化の原因と思われます。体質形成には食事が大事であることを話し、食生活を見直してもらいました。からだにいいものを食べていれば、いい体質が作られ、変なものばかりを口にしていれば体質もわるくなるのは、当然といえます。からだは、自分が食べたものでできています。
現在1年半ほど経ちましたが、皮膚のごわごわはなくなり、赤黒かった色も消えました。すでに1年近くステロイド外用薬を塗ることはほとんどなく、保湿剤として馬油のみを必要に応じて塗るだけでコントロールできる状態になりました。
(2)ストレス性のアトピーや子どものアトピーと漢方
■症例2
「高校のころからアトピー性皮膚炎です。大学受験のころに悪化し、大学に入って症状が軽くなりましたが、就職活動の時期にまた悪化しました。現在は、首や腕、とくに手首のあたりに、アトピーの症状が出ています」
32歳の男性です。子どものころ、アトピーはありませんでしたが、高校3年の受験勉強の時期に強烈なかゆみをともなう皮膚炎が出るようになり、アトピー性皮膚炎と診断されました。大学入学とともに症状は軽くなりましたが、また就職活動の時期に症状が悪化しました。患部の皮膚は乾燥し、赤くただれていました。
現在は、首や手首の皮膚が乾燥して硬くなっています。皮膚がぽろぽろと、はがれ落ちやすく、お風呂上りやお酒を飲んだとき、疲れのたまったときなどに、かゆみが強くなります。しわにそって出血もみられます。赤黒い色をしています。就職後は、職場のエアコンによる乾燥や、人間関係による緊張のせいだと思われますが、症状はあまり軽快しないまま現在に至っています。
この男性の場合は、気血(きけつ)の流れの悪化がアトピー性皮膚炎の原因になっているようです。気血の流れの停滞が、衛気の働きにブレーキをかけています。
「気」の流れは、ストレスや緊張、不安などの精神的な要因の影響で悪化します。この男性のように、受験勉強や就職活動の時期にアトピー性皮膚炎を発症、あるいは悪化させる人は少なくありません。子どもの場合だと、親にしかられているときに、かゆみが増して、患部をかいてしまう子をみかけます。いずれも気の流れの停滞がアトピー性皮膚炎を悪化させている例です。
「血(けつ)」の流れがよくない体質の場合は、患部の色素沈着がなかなかとれず、肘の内側や膝の裏が黒ずんでいます。ステロイド剤を長期間使った影響で、皮膚が薄くなったうえに、この体質になる人もいます。
このような体質を「気滞血瘀(きたいけつお)」証とよびます。気や血の流れがわるいので、首や手首などの狭くなっている部分や、肘の内側や膝の裏などの曲がっているところに皮膚炎が生じやすくなっています。血行がよくないので、女性なら生理痛がつらい人が少なくありません。
漢方では、「理気活血(りきかっけつ)」して、この体質を改善していきます。理気のためには四逆散(しぎゃくさん)や加味逍遙散(かみしょうようさん)、活血のためには桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を使います。
この男性の場合は、ずいぶん経緯が長いので、桂枝茯苓丸と四逆散を服用してもらいました。病気が長引いている場合は、かならず血瘀を疑ってみるといいでしょう。1年以上かかりましたが、アトピー性皮膚炎はきれいになくなりました。
次は、子どものアトピーの症例です。
■症例3
「3歳の女の子です。この子は生まれてすぐにアトピーになり、0歳のころは、ほっぺたを中心に顔全体が赤くただれていました。いまは顔よりも肘の内側や膝の裏がひどく、寝るときや夜中に無意識にかくため、出血も目立ちます。皮膚炎の出ていない背中などの皮膚も、ざらざらしています」
母親が娘を連れてきました。肘の内側と膝の裏は、かなりかきむしっているようで、かき壊した出血のあとが点々とありました。皮膚は赤くただれています。首にも同じような症状が出ており、皮膚が厚くなっています。耳の下が切れています。
アトピー以外には、食欲に片寄りがあり、便が柔らかくねっとりしているとのことです。甘いものが好きで、甘いお菓子などをよく食べるそうです。
子どもは、一般に、消化器系がまだ発達していません。子どものアレルギー疾患には、この消化吸収機能の弱さが多かれ少なかれ関係しています。この体質を「脾気虚(ひききょ)」といいます。「脾」は五臓のひとつで、消化吸収機能や代謝機能をあらわします。
こういう場合は「補気建碑(ほきけんぴ)」して、おなかから丈夫にしていきます。処方は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や六君子湯(りっくんしとう)がよく効きます。この子には、補中益気湯を飲んでもらいました。
煎じ薬が苦いのか、飲むのをいやがっている、と母親から相談がありましたので、エキス剤をお湯に溶かしてゼリーにしてもらいました。そうすると、服用するようになったそうです。
子どもの場合は大人よりも治りが早い場合が多く、この子も約半年で完全に治り、漢方薬も必要なくなりました。
* * *
アトピー性皮膚炎は、職場の複雑な人間関係、多忙な生活、不安定な家庭環境、不規則な生活、食生活の乱れ、不安や悩みなどによっても悪化します。とくに子どもの場合は、家庭環境、さらに保護者自身のストレスにも敏感に反応して、かき始めたりします。ほかの病気にもいえますが、とくにアトピー性皮膚炎は、日常生活の見直しが、とても大切です。漢方薬の服用と並行して、食生活改善のアドアイスを、患者さんに一言、添えるといいでしょう。チョコレートをはじめとする動物性脂肪やファストフード、インスタント食品は、少ないに越したことはありません。
■ 続・アトピー性皮膚炎(2011年4月:読売新聞ー医療ルネサンス)
(1)詳しい説明なく治療不信
福島市の主婦(50)は2000年5月、鼻の下にかゆみを伴う赤い湿疹ができた。地元の皮膚科診療所で「接触皮膚炎」と診断された。当時はクリーニング店で働いており、作業で高温の蒸気を顔に浴びるためだと思っていた。
医師は塗り薬のほかに、飲み薬として漢方薬やビタミン剤を処方した。薬を塗ると翌日には湿疹もかゆみも消えたが、塗るのをやめて数日すると、再び湿疹が出た。2か月後にはそれも消えた。その後、クリーニング店の仕事は辞めたが、毎年夏になると湿疹が出た。薬を塗るのをやめると再び出始めるので、また塗る。そんなことを繰り返すうちに、湿疹が出続けるようになった。アトピー性皮膚炎の長男(27)も同じ皮膚科診療所に通院していた。接触皮膚炎と診断されていた自分も実は同じなのではないかと疑った。改めて病名を尋ねると、「お子さんと同じです。アレルギー体質ですから」と告げられた。自分がアトピー性皮膚炎だと初めて知った。
08年夏、それまで塗り薬で症状を抑えてきた鼻の下が突然赤みを帯び、むずがゆくなった。「なぜ赤くなったのですか?」と医師に尋ねても詳しい説明はなく、「気長に治療しましょう」と言うだけだった。
月に1~2回通院しながら、医師の指示通り毎日欠かさず薬を患部に塗るようにした。だが、昨年1月には赤みが顎の下にまで広がった。唇の周りも真っ赤になり、やけどのようにヒリヒリとした痛みも出てきた。医師は「何も塗らずそのまま我慢して、4日後にこの薬を使ってください」と塗り薬を処方した。痛みはおさまらず、保冷剤で顔を冷やしながら過ごした。
痛みに我慢できず再び駆け込むと、「更年期障害と、ホルモンバランスが悪いからです。婦人科に行ってください」。受診した婦人科診療所は「何も問題はない」と説明した。その後も同じ皮膚科に通い続けたが、「痛い時は、とにかく冷やしてください。体は繊細ですからね」と繰り返され、いつもの塗り薬と漢方の飲み薬を3種類出された。
結局、治療への不信感から主婦は転院することを決めた。「何が原因で、なぜこんな状態になったのか。全く訳が分からなかった」と当時を振り返る。
◇
昨年12月の連載「アトピー性皮膚炎」に対し、手紙やファクス、電子メールで約60件の意見や疑問をいただいた。治療への不信感や批判などが半数以上を占めた。反響を寄せた読者を訪ね、アトピー性皮膚炎の治療の課題を改めて探った。
(2011年4月19日 読売新聞)
(2)処方薬知らずに副作用
アトピー性皮膚炎の治療で地元の皮膚科診療所に通院してきた福島市の主婦(50)は、鼻の下にできた湿疹と赤いシミが半年間で、唇の周りからほおにまで広がっていた。ヒリヒリと痛み、夜もまともに眠ることができない。人目が気になるので、外出時にはマスクが欠かせなくなった。
2か月後、知人に紹介された福島赤十字病院(同市)を受診した。皮膚科部長の元木良和さんは、「酒さ様皮膚炎」と診断した。酒さ様皮膚炎は、ステロイド(副腎皮質ホルモン)治療の副作用の一つだ。
アトピー性皮膚炎の一般的な治療は、症状に応じてステロイドの塗り薬の量や強さを徐々に減らし、最後は保湿剤だけで皮膚の状態を維持することを目指す。だが、この主婦のように、長期間、量も強さも減らさないなど、不適切に塗り続けることで患部の皮膚が薄くなり、毛細血管が拡張して酒さ様皮膚炎は起きる。中高年の女性に多い。
それまで治療を受けてきた地元の皮膚科診療所は、酒さ様皮膚炎の症状が出ても「顔用」とシールが張られた容器に入った塗り薬を院内処方した。容器には薬の成分表示もなく、薬効や副作用などを記した文書も渡されなかった。主婦は「診療所は治療にステロイドを使っていることを一度も説明しなかった」と話す。
元木さんは「地元の診療所は、アトピーの治療にステロイドが必要と判断して処方し続けたのかもしれない。だが、酒さ様皮膚炎にはステロイドを中断することが必要だ」と指摘する。
主婦はステロイドの不適切な処方で酒さ様皮膚炎を招いたことや、その後の不十分な説明に納得できず、長年通院した皮膚科診療所を今年2月に訪ねた。医師は「ステロイドだけではなく、日頃の疲れやストレスも関係があると思っていた。漢方薬も併用して良くなると思った」と話した。
現在、福島赤十字病院で治療を受けている主婦は、ステロイドは使わず、入浴後に保湿クリームを患部に塗っている。顔に出ていたアトピー性皮膚炎の湿疹も治まり、赤みや痛みなどは徐々に薄らいでいる。
主婦は「薬や病気について、もっと早く、きちんと話してもらえていたなら、ここまでひどくならなかったのではないか」と悔やむ。
藤田保健衛生大学皮膚科教授の松永佳世子さんは「患者の疑問に対し、医師は症状や薬の使い方などを具体的に説明し、治療の見通しも明確に示すのが当然だ。症状が悪化して対応が難しくなったら、速やかに他の病院を紹介すべきだ」と指摘する。
(2011年4月20日 読売新聞)
(3)ステロイド20年、不信強く
いくつもの病院でステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬を中心とした標準的な治療を受けても治癒に向かわず、治療を諦める患者も少なくない。
大阪府内に住む男性(29)は、9歳からアトピー性皮膚炎に悩まされ、5か所の医療機関を転々としてきた。
発症当時は肘の内側付近に軽い湿疹ができた程度。ステロイドの塗り薬は、かゆみがある時に塗るように指導された。
良くなったり、悪くなったりする状態を繰り返してきたが、そのうち炎症の範囲は広がり、大学時代には5段階あるうち、上から2番目の強さのステロイドの塗り薬を使うようになった。
男性は25歳の時に兵庫県内で消防士に採用され、2007年秋に消防隊に配属。ところが、ほどなくして症状が悪化した。消防署内で猛烈なかゆみに襲われ、全身をかきむしりたい衝動に駆られるほどだった。仕事のストレスが影響したとみられた。
08年4月に受診した近所の皮膚科診療所は「アトピー性皮膚炎が急激に悪化する『急性増悪』の状態」と診断。それまでの、中程度のステロイドの塗り薬に加え、飲み薬も処方された。1週間ほどで赤みが薄れ、かゆみも和らいだ。引き続き、塗り薬と飲み薬を併用していたが、冬になると、全身が赤くなり、薬が効かなくなりはじめた。寝ている間にかきむしった皮膚がシーツを覆った。
10年春にはステロイドの治療への不信から、2リットルで1万円もする飲料水など、アトピーへの効用をうたう高額の飲食物や塗り薬も試した。効果はなかった。
そんな時に、ステロイドの塗り薬や皮膚の乾燥を防ぐ保湿剤を使わない治療を掲げる関西地方の病院を知り、1か月半入院した。
現在は月1回の通院。食事や運動などの生活指導が中心だが、今も体全体に赤みやかゆみが残る。起床時など1日に5~6回はかゆみが襲い、症状は良くなっていない。男性は「20年間もステロイドで治療してきたが、薬が徐々に効かなくなり悪化するだけだった。二度とステロイドは使いたくない」と話す。
男性への治療法について、九州大皮膚科教授の古江増隆さんは「アトピー性皮膚炎にステロイド剤を使う場合、飲み薬は塗り薬よりも副作用が強く、効き目も弱い。男性は急激に悪化した時点で、入院して通常の処方量よりも塗り薬を増やすなど、しっかりした治療が必要だった。それで効果が不十分な場合は免疫抑制剤の飲み薬や紫外線療法を併用すべきだ」と指摘。その上で、「生活指導だけで自然に治癒するのはごく一部にすぎない」と懸念する。
(2011年4月21日 読売新聞)
(4)症状こじれ とびひ併発
アトピー性皮膚炎の治療が不適切で、感染症をこじらせてしまうケースもある。
茨城県つくば市に住む主婦(33)の長男(4)は1歳の時、かかりつけの小児科診療所で「卵の食物アレルギー」と診断された。医師は卵を食べないよう指導し、「アトピーもありますね」と付け加えた。しかし、アトピー性皮膚炎を治療するための薬の処方や説明はなかった。
アトピー性皮膚炎では、遺伝的要因やダニ、ハウスダストなどによる刺激で、かゆみを伴う湿疹に長期間悩まされる。皮膚をかきむしって傷つけると更に悪化する。炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬と、保湿剤によるスキンケアなどが治療の中心だが、この小児科診療所では、冬場に目の周りの皮膚がカサカサしてかゆくなるなどアトピー性皮膚炎の特有の症状が出ても保湿剤を勧めるだけだった。
昨年8月、長男の腰にとびひができた。同じ小児科診療所で抗生剤と化膿止めの塗り薬を処方されたが、2日後には顔や手、背中にまで広がった。総合病院の救急外来に駆け込むと、化膿止めの塗り薬などを処方されたが、良くならず、湿疹は耳の穴まで広がった。
とびひは、肌の抵抗力の弱いアトピー性皮膚炎の人が併発しやすい感染症だ。
次々と水ぶくれやかさぶたが広がり、かゆみも伴う。治療には抗生剤を使う。ただ、ステロイドの塗り薬やスキンケアなどによる適切な治療を受けていないアトピー性皮膚炎の患者は、皮膚の炎症が抑えられず、とびひを悪化させやすい。
知人に紹介された市内の皮膚科診療所を受診すると、医師は抗生剤や抗アレルギー薬の服用に加え、「とびひだけでなくアトピーの治療も必要です」と説明。炎症の状態に応じて強さの違う4種類のステロイドを朝夜1日2回塗るよう指導した。とびひは発症から約1か月で、ようやく治った。
長男は現在、この皮膚科で抗アレルギー薬と保湿剤でアトピー性皮膚炎の治療を続けている。母親は「最初に受診した小児科診療所ではアトピーについての説明は何もなく、その治療は不要だと思っていました。とびひを併発して子どもにつらい思いをさせてしまった」と悔やむ。
東京都立小児総合医療センター・アレルギー科医長の赤沢晃さんは「アトピー性皮膚炎の患者の皮膚は刺激に弱く、とびひなどの感染症を発症し、重症化しやすい」と指摘した上で、「アトピーと感染症がともに治らず、こじれ続ける悪循環に陥る患者も多い。そのためにも日頃からアトピー性皮膚炎をしっかり治療することが必要だ」と話す。
(2011年4月22日 読売新聞)
5)Q&A ステロイドが治療の柱
アトピー性皮膚炎の治療を巡る問題点について、九大教授(皮膚科学)の古江増隆さんに聞きました。
――身近な医療機関での治療に不満を持つ患者が少なくないですね。
アトピー性皮膚炎の複雑な病態が要因です。ストレスや環境の変化などから、これまで効いていたはずのステロイド(副腎皮質ホルモン)剤ではコントロールしづらくなり、症状が急変することがあるためです。医師が十分に説明し、患者との意思疎通もしっかりしてステロイドを適切に処方することが不可欠です。残念ながらこれがうまくいっていないケースが見られます。
――治療にはステロイドが必要ですか。
ステロイドの塗り薬を柱とした薬物治療は必要です。大人の場合、患者の1割が何もせずに自然に治ります。「ステロイドを使わずに治癒できる」との指摘もありますが、いわば10人のうちの1人に着目しているだけ。残る9人は放置すると症状が悪化し、感染症の危険も高まります。
症状別にみると、軽症が70%、中等症が15%。中等症以下の85%の患者はステロイドで良くなります。残りの重症・最重症の15%の中にはステロイドが効かない体質の患者がいます。免疫抑制剤の飲み薬であるシクロスポリンの服用や紫外線療法を行います。
使っているステロイドが徐々に効果を失い、より強いものが必要となることはありません。薬の量や強さが炎症の程度に釣り合わないだけなのに、効かないと思い込む人が大多数です。
――だが、患者の中にはステロイドに対する不信感が依然としてあります。
かつての「ステロイド批判」の影響が大きい。当時、私の患者も半数がステロイドの使用を拒否しました。症状が悪化していく患者を前に、多くの医師が自信を失い、私自身も悩みました。患者の不安につけ込む悪質な民間療法も横行し、治療の現場も混乱しました。日本皮膚科学会が2000年に指針を策定して治療の方向性を整理したのも、こうした背景があります。
――指針の策定後、何が変わりましたか。
指針は、ステロイドの塗り方や治療の考え方を盛り込むなど、患者が読んでも分かりやすい内容を目指して改訂を重ねています。学会も相談会などを各地で開き、啓発活動に取り組んできました。ステロイドをかたくなに拒む患者は激減していると思います。
――医師と患者の意思疎通が不十分なケースも目立ちます。
治療は医師と患者の共同作業で、認識を共有することが重要です。どの程度の強さと量の薬を使うかや、治療の見通しが不明瞭なため患者が抱く不安に、医療側が十分応えてこなかった側面がありました。例えば「1か月でかゆみを半減し、子どもが夜泣きしなくなる」「かきむしった傷口が治り、布団に血がにじまなくなる」といった具体的な目標を示す姿勢が大切です。
(2011年4月26日 読売新聞)
■ アトピー性皮膚炎(2010年12月:読売新聞ー医療ルネサンスー)
(1)病院転々 治療まちまち
横浜市内に住む女性(27)の長女(5)は、2歳2か月でアトピー性皮膚炎を発症して以来、7か所の病院を転々とした。
赤い湿疹が首の周りに目立ち始めた2007年、最初に受診した近所の皮膚科では、「アトピーによる湿疹なのかどうか、よくわからない」と言われた。抗アレルギー剤の飲み薬と、かゆみ止めの塗り薬を出されたが湿疹はよくならず、顔や腕、足にまで広がった。
「ステロイド(副腎皮質ホルモン)を使わないとダメかな」と医師。5段階ある強さのうち、弱い方から2番目の塗り薬を使ったがよくならない。
総合病院のアレルギー科では、検査でハウスダストやダニのアレルギー体質がわかり、掃除や洗濯を徹底するよう指導された。ただし「アトピー性皮膚炎」とは診断されず、医師からは「塗り薬は何が良いですか」と逆に尋ねられた。しかたなく、前の病院と同じ強さのステロイドを出してもらった。
3か所目の病院で初めてアトピー性皮膚炎と診断された。中程度の強さのステロイドと保湿剤などを処方されたが、塗る量や塗る回数の説明はなかった。かゆい部分に適当に塗っていたところ、湿疹はほぼ全身に広がった。
アトピー性皮膚炎の治療のポイントには、ステロイドの塗り薬の使い方がある。だがステロイドを使うと副作用でかえって悪化するのではとの誤解も根強い。アトピー性皮膚炎の治療に詳しい神奈川県立こども医療センター(横浜市)アレルギー科医長の高増哲也さんは、「ステロイドの使い方に慣れていない医師は、診断にも消極的な面がある。処方する薬の効果や量が不十分なケースも多い」と、医療側にも問題があると指摘する。
女性は、インターネットや雑誌を見て、アトピーに良いと評判の無農薬野菜や無添加せっけん、洗剤などを購入するようになった。食費や洗面用具の出費は以前の3~4倍になった。
「防腐剤もなく肌に優しい」とうたったクリームは、1か月ももたない小型の容器で8000円もした。塗ると一晩で長女の皮膚は真っ赤になり、強いかゆみを訴えた。
ある皮膚科では、ステロイドも保湿剤も使わず、抗アレルギー剤の飲み薬だけを出された。かゆくて眠れない長女をあやすため、一晩中眠れなかった。
「あの頃は何が正しいのかわからず、情報に振り回され、気が変になりそうでした」と、振り返る。
(2010年12月14日 読売新聞)
(2)ステロイドの誤解を解く
長女(5)のアトピー性皮膚炎の治療のため病院を転々とした横浜市の女性(27)は2010年10月、患者の会の紹介で、神奈川県立こども医療センター(横浜市)を受診した。発症から3年。首の周りだけだった長女の湿疹は、ほぼ全身に広がっていた。
アトピー性皮膚炎は、遺伝的な皮膚の性質や、ダニやハウスダストなどの刺激で、かゆみを伴う湿疹に長期間悩まされる。生まれつき炎症を起こしやすいアレルギー体質の人に多い。
かゆみのせいで皮膚をかいて傷つけると、さらに悪化を招く。治療は、皮膚の炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬と、保湿によるスキンケア、ダニなどの刺激の除去が3本柱だ。
アレルギー科医長の高増哲也さんは、初診で2時間近くをかけ、女性の話に耳を傾けた。重症化した患者は、ステロイドに対する不安や誤解などから、適切な治療をせず、こじらせていることが多いためだ。
この女性は、ステロイドの塗り薬を使うと徐々に効果がなくなったり、皮膚が黒ずんできたりする副作用があるとの誤りを信じ込んでいた。このため、ステロイドは、よほどかゆみがひどい場合以外、使っていなかった。
高増さんは、ステロイドはもともと体内で作られているホルモンであり、体に必要不可欠な物質であること、長期間使うと皮膚が薄くなるなどの副作用があること、徐々に効果がなくなったり皮膚が黒ずんだりはしないことなど、メモに書きながら女性の疑問点と答えを整理して説明した。
そのうえで、ステロイドの塗り薬を使って1週間後の次回の診察までには、かゆみから脱却すること。以後は徐々に弱い薬に替えたり量を減らしたりし、最終的には保湿剤だけになることを目指すとの、治療の道筋を示した。
女性は「一生ステロイドを塗り続けなければならないと心配だったが、安心できた」と話す。
湿疹がひどい手首や膝には中くらいの強さのもの、皮膚が薄い顔などには1段階弱いものと、症状や部位によってステロイドを使い分ける。朝晩、シャワーを浴びさせた後、保湿剤とともにテカテカと光るぐらいに、たっぷりと塗った。3~4日で長女はかゆみを訴えなくなり、膝の赤みやゴワゴワと厚くなった皮膚も回復してきた。
高増さんは「副作用の不安でステロイドの塗り方が足りないと皮膚本来の働きを取り戻せない。きちんと治療するには、十分な量を使うことが大切」と話す。
(2010年12月15日 読売新聞)
(院長のつぶやき)初診の診察に2時間! ・・・冬は平均100人近くの患者さんを診療する開業小児科医には無理です。専門性を高めるなら現在の「薄利多売」の医療システムを変える必要があります。
(3)薬への誤解 医療側にも
北海道釧路市に住む主婦(42)の長男(12)は、1歳のころアトピー性皮膚炎を発症。ステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬を使い、症状は落ち着いていた。ところが、4歳の時に「ステロイドを使うと一生やめられなくなる」との知人の言葉にショックを受け、母親は「脱ステロイド療法」にのめり込んでいった。
脱ステロイドをうたった皮膚科では、違う塗り薬や漢方の飲み薬を出された。保湿剤も「症状を悪化させる」と、使わないよう指導された。長男の肌は乾燥し、肘や膝の関節がひび割れて体を動かすたびに痛みを訴えた。かゆみで夜も眠れず、布団のシーツは全身をかきむしった血で染まった。
「精神状態を安定させる」と、お香や体のつぼを刺激する金属製のローラーの購入を勧められ、1日に何度も試したが症状は変わらず、3か月でやめた。アトピーの原因除去をうたう別の病院では、粉薬と茶のセット2か月分約5万円を2年間支払い続けた。
主婦は2007年、札幌市内で行われていたシンポジウムに出席していた国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の医師に、すがるような思いで相談。長男は同センターに約1か月入院し、強めのステロイドの塗り薬を使って、症状はようやく治まった。今は中程度のステロイドを週2回塗っている。
同シンポにも参加していた東京都立小児総合医療センター(東京都府中市)アレルギー科医長の赤沢晃さんは、患者団体などの要望を受け、各地の講演や相談などに出向く。「地方では医療機関の選択の余地も限られている。適切な治療を知って受診する手助けをしたい」との思いからだ。
「ステロイドを使うと皮膚が黒くなると薬局で言われた」「地元で信頼できる病院はどこか」――。
2010年11月、釧路市で開かれたアレルギー患者の相談会でも、患者や保護者から悩みが相次いだ。
赤沢さんは「ステロイドの塗り薬で、皮膚の色素が抜けて一時的に白くなることはありますが、2~3年で元に戻ります」と説明。皮膚が黒くなるという不安についても、「アトピー性皮膚炎そのものの悪化によって皮膚に色素が沈着することはありますが、ステロイドの副作用ではありません」と話した。
患者側の悩みを聞くにつれ、医療側にも、ステロイドへの誤解が根強いことを痛感する。「適切な治療を患者と医師が一緒に考えていくことが必要」と話す。
(2010年12月16日 読売新聞)
(4)「民間療法」 頼みで悪化も
医療への不信感から科学的根拠に乏しい民間療法などにすがり、悪化させる患者は少なくない。
東京都内の介護福祉士の男性(38)は20歳代半ばで、アトピー性皮膚炎と診断された。ステロイドを塗っても良くならない。医師からは「ちゃんと塗らないから良くならない」と叱責されたが、塗る分量や期間を尋ねても、説明はなかった。
別の自由診療の病院では、皮膚に複数の針を刺してにじんだ血を吸引。漢方の入浴剤や飲み薬も併用し、1回で最低3万円は請求された。「毒素を出す治療。時間もかかるが必ず治る」との言葉を信じて10回以上通ったが、かゆみや湿疹は全身に広がった。
医療への不信感が募り、鍼や整体、温泉巡り、浄水器の購入、うがい薬での全身の消毒などを次々に試した。白米や肉類などで悪化すると聞いた際には、食事も制限した。転居で環境を変える「転地療法」が有効と言われ、実家のある福岡に2003年に戻った。この頃になると、かゆみで発作的に全身をかきむしるようになり、剥げ落ちた皮膚で床が真っ白になった。
転職のため07年3月、再び東京に。「自然治癒力」を引き出す治療を行うという病院では、「ステロイドを使うと死んじゃうよ」と言われ、かゆみ止めの塗り薬と、抗てんかん薬を使用したが、全身を襲う強烈なかゆみはさらに増した。
食事制限で体重は10キロ・グラム減った。体の抵抗力が落ちたせいか、約2か月後にヘルペスウイルスによる「カポジ水痘様発疹症」を発症。顔や左半身が赤い発疹に覆われ、40度近い高熱にうなされた。薬物治療で一時熱は下がったが、ぶり返すと「自然に治すしかない。家で頭を冷やして寝ればいい」と突き放された。
知人に紹介された東京逓信病院(東京・千代田区)を受診。即日入院となり、抗ウイルス薬の点滴治療などでカポジ水痘様発疹症はようやく落ち着いた。毎日2回シャワーを浴びステロイドを塗る治療を続け、アトピー性皮膚炎もよくなった約3週間後、退院することができた。
現在は体重も戻った。治療は保湿剤によるスキンケアが中心。ステロイドは湿疹が出た際に塗る。
皮膚科部長の江藤隆史さんは「適切な治療を行わない医師や、混み合った外来で十分な説明ができない点など医療側の問題もある。患者側も病気について学び、氾濫した誤った情報に惑わされないことが大切だ」と指摘する。
(2010年12月17日 読売新聞)
(5)ステロイド治療 適切に
Q&A
アトピー性皮膚炎について、金沢大皮膚科教授の竹原和彦さんに聞きました。
――どんな病気ですか
かゆみを伴う湿疹が慢性的に繰り返します。手足や体、顔など左右両方に現れます。原因は十分解明されておらず、遺伝的な皮膚の性質、ダニやペットの毛などのアレルギー物質や、汗、ほこりによる刺激、ストレスなどの多くの要因の関与が指摘されています。
――どのように治療するのですか
治療の柱は、ステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬を用いて皮膚の炎症を抑えることです。免疫抑制剤のプロトピック(塗り薬)やネオーラル(飲み薬)も近年使われます。かゆみを抑える抗ヒスタミン薬なども補助的に使われます。
――ステロイドとは?
体の中の副腎から分泌されるホルモンのひとつで、炎症を抑える働きがあります。飲み薬や注射薬、塗り薬があり、多くの病気の治療に用いられています。アトピー性皮膚炎の治療では塗り薬を用い、私は飲み薬は使いません。
――副作用は?
塗り薬では、長期に使うと皮膚が薄くなったり、血管が拡張して赤く見えたりする副作用のほか、ニキビや水いぼなどの感染症が起こりやすくなることもあります。全身に作用がある飲み薬や注射薬における、顔が満月のように丸くなる(ムーンフェイス)、骨が弱くなる(骨粗しょう症)などの副作用と、混同されることがよくあります。
――ステロイドに不安を持つ患者も多いようです
1990年代にはステロイドに批判的な報道も過熱し、副作用を恐れるあまり十分な量や塗り方をせず、悪化させる事例が増加しました。患者の不安につけこんだ悪質な民間療法「アトピービジネス」が横行し、一部の皮膚科医が「脱ステロイド療法」を掲げるなど混乱を招きました。このため日本皮膚科学会はアトピービジネス被害を調査する委員会を設け、2000年に治療指針を作成しました。
――アトピービジネスの被害は今もあるのですか?
激減しているように思いますが、依然としてあります。患者も、被害に遭わないよう注意が必要です。
――今でも治療に悩む人は多いようです
2000年当時、金沢大病院にアトピー性皮膚炎で入院する患者の60%以上が民間療法や脱ステロイド療法による悪化が原因でした。しかし最近は普通に治療を受けていたにもかかわらず、ずるずると悪化した人が65%を占めます。ステロイド剤の適切な塗り方の指導を受けていないなど、医師とのコミュニケーション不足もあると考えられます。
――患者へのアドバイスをお願いします
アトピー性皮膚炎は、しっかり治療すれば、普通の人と同じ生活を送ることが可能な病気です。諦めることなく、治療上の疑問点、ステロイドの使い方、やめる時期など納得がいくまで医師に質問してください。
(2010年12月20日 読売新聞)
■ 子どものアトピー(2010年11月:朝日新聞「患者を生きる」)
1 生後3カ月、「もしかして」
2007年の秋。札幌市の女性(42)は、疲れ果てていた。
次男(5)がアトピー性皮膚炎を発症して2年。「医師の指示を守り、症状改善にいいと思ったことはすべてやった」。でも、皮膚の赤みはひかず、次男はひどくかゆがった。
女性は毎朝5時半に起床して、家中の床にモップをかけた。アレルギーの原因になるホコリが舞い上がらないようにするためだ。
アトピーや食物アレルギーがよくなることを信じ、卵や乳製品、カニ、エビや貝類は、料理に使わなかった。無農薬の食材を通信販売で取り寄せて調理した。
朝食のあとは掃除機かけ。次男が昼寝するわずかな時間に食事日誌を開き、アトピーに関係していそうな食材を探りながら、次の献立を考えた。夕食後には再びモップがけ。翌日の食事の下ごしらえも待っていた。
それでも、次男の症状がよくなる兆しはない。夜も1、2時間おきに目を覚まし、ほおとひざをかきむしりながら「かゆいよ」と泣いた。「かかずに、トントンしようね」。そう言ってなだめるしかなかった。
夫(45)も、寝付けぬ次男を背負ってあやしつつ、うとうとすることがよくあった。
「できることはすべて、しなければいけない」。自分たちを追いつめるそんな考えが、睡眠不足の日々を支えていた。
異変に気づいたのは、生後3カ月のころ。
おなかのあたりの皮膚に赤みが出ていた。それが、2週間ほどで全身に広がった。ひじやひざの裏などの関節はかさかさになり、粉がふいたようだった。「もしかして、アトピー?」。すぐに近くの皮膚科を受診した。
診断結果は「今はまだ、アトピーかどうか診断がつかない」。処方されたステロイドの塗り薬や保湿剤を塗ると、2、3日で赤みやカサカサはうそのようにひいた。
ところが、薬をやめるとまたもとにもどった。塗ってはやめ、また塗ってはやめるの繰り返しだった。そのうち全身の赤みが増し、耳のまわりがただれてきた。
ママ友達に相談すると、「ステロイドって、使い始めたらやめられなくなるんじゃない?」と言われた。不安が増した。
塗れば効果はある。「それだけ、強い薬なんだろう」。インターネットや口コミでアトピーの情報を集めた。10カ所近い病院を転々とする、2年間の始まりだった。
2 ステロイド・食事 不安絶えず
札幌市の女性(42)は2005年10月、全身の皮膚に赤みが広がった次男(5)を連れて近くの皮膚科を受診した。医師は「アトピー性皮膚炎かどうか判断できない」としつつ、ステロイドの塗り薬などを処方した。
なぜ判断できないのか。なのになぜ、ステロイドを出すのか。説明はなかった。でも、こちらから根掘り葉掘り聞ける雰囲気ではなかった。不信感が募り、ステロイドを使わない治療法を探し始めた。
11月、漢方と食事療法を中心にした治療に取り組む市内のクリニックに行った。ここで初めて、アトピーと診断された。
「お母さんは無農薬、無添加の食材で、野菜中心の食事をとってください」。医師はそう指示した。母乳を通した影響を避けるためらしかった。クリニックの方針で、ステロイド剤の使用は中止になった。
変化はすぐに現れた。ステロイドで抑えこんでいた炎症が再発し、肌が真っ赤に。かゆみで夜、寝付けなくなった。女性と夫が交代であやす日々が始まった。これはステロイドをやめた反動、と思っていた。「いずれ治まる。いまは耐えるしかない」
次男は耳の周りの皮膚がただれてじゅくじゅくし、人なつっこい笑顔が消えた。ほっぺや耳の前あたりをかきむしった。赤くはらした腕の肌をかき崩さないよう、丸く巻いた紙をギプスのように腕にかぶせてしのいだ。
「このままだと、きっと命にかかわる」。たまらず、別の小児科に駆け込んだ。06年の春になっていた。
「まずは炎症を抑えましょう」。再び処方されたステロイド剤を使うと、症状は改善した。でも、気持ちは「治療の振り出しに戻っただけ。いつまでこれが続くの」。2カ月ほど続けるうち、あせりといらだちが募った。
そんなころ、アトピーが食事療法でよくなったという体験談が、本やインターネットに出ているのが目にとまった。授乳をやめて離乳食をあげていたころだった。
母乳を飲ませた後、次男の皮膚が真っ赤になったことがある。女性は直前にカニやエビを食べた。食べ物の成分が母乳を通じて伝わり、症状を起こしたのかと不安になった。
だったら、いまの食事からアトピーに関係しているものを除けば、ステロイドなしで治るかもしれない。そのときは希望の光が見えたように感じた。
3 増える除去食、絞れない原因
札幌市の女性(42)は06年7月、「食物アレルギーの名医」と口コミで評判だった市内の小児科を受診した。食事療法で次男(5)のアトピー性皮膚炎を治すつもりだった。
実際、食べ物がアトピーを悪化させることはある。ただ、まず皮膚の炎症を抑えてからでないと、食べ物が関係しているのかどうか、判断できない。でも女性は「食事をがんばれば、きっと治る」と信じていた。
米と小麦の除去から始まった。オートミールやアワに加え、制限のない魚や果物を中心に次男用の食事作りに工夫を重ねた。ステロイド剤はまもなく処方されなくなった。
症状は改善せず、全身の赤みが再発した。
07年3月、制限のないキウイを食べた次男の口が腫れ呼吸困難に陥った。食物アレルギーによるアナフィラキシーショックだった。
「米と小麦以外にも原因の食事があるかもしれない。もっと徹底して制限しないと」。そんな思いが強まった。自宅を念入りに掃除し始めたのもこのころだ。
5月には、別の小児科クリニックを知人に紹介された。受診すると、医師から一枚の紙を渡された。
アレルギーの原因と疑った卵、乳製品、エビ、タコ、貝類を食べないとの指導に加え、腸内環境を乱す砂糖や酸化した油、スナック菓子、果物も避けるように、とあった。
「こんなにたくさん?」。最初は驚いたが、「がまんしていればよくなる」と言い聞かせた。しかし、血液検査で反応が出た食材が次々と追加され、除去食は増え続けた。
指示を受けて毎食の献立に使った食材を食事日誌に記録した。アトピーの症状と関係ありそうな食べ物があればしばらく食べるのをやめ、影響がないか確認しながら、再び食べ始めるというやり方だった。
皮膚をどうケアすべきかについて医師の指導はなく、自由診療の別の病院から郵送される、「成分不明」の塗り薬を使った。
食事日誌とのにらみあいが続いた。しかし、症状は一進一退で、原因となる食材が絞り切れない。首筋や口の周りの赤み、ひじやひざのかき崩しはたびたび再発した。
コンニャク、マグロ、牛肉や鶏肉……。制限する食材は増える一方だった。買い物先のスーパーで突然顔がはれてから、原因物質を吸い込んだのかと思い、外出も控えた。何が原因なのか。考える気力もうせていた。
4 入院、薬漬けの不安再び
次男(5)のアトピー性皮膚炎の治療に疲れ果てていた札幌市の女性(42)は2007年11月、すがる思いで、厚生労働省が市内で開いたシンポジウムを聴きに行った。
壇上では、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)の専門医らが、アトピーや食物アレルギーの症状をコントロールするこつを話していた。
ステロイド剤や保湿剤による計画的な薬物治療、徹底的なスキンケア、ダニやホコリなど悪化要因への対策が、治療の柱になること。食事療法で食べ物を過剰に除去すると、成長の障害につながりかねないこと。
治療の羅針盤とするため学会が作った診療ガイドラインの存在を、初めて知った。
でも、薬物療法もダニ対策ももうやっている。「どう薬を使い、スキンケアをどうすればいいのか」。それが分からず、少し不満だった。
「医療や薬への不信を募らせず、ガイドラインを知って治療を選べば、子どもの症状も変わります」。シンポの最後に講演した患者団体「アレルギーを考える母の会」の園部(そのべ)まり子代表(56)が会場に呼びかけた。その声は力強く、表情は明るかった。
講演を終えた園部代表に、夫と駆け寄った。「とにかく話を聞いて欲しい。食事療法で、食べられるものがほとんどないんです」
行き過ぎた除去食療法で栄養が不足し、皮膚炎を悪化させたり、成長障害を起こしたり――。園部さんは、そんな子どもの相談例をたくさん耳にしていた。
講演していた同センターの大矢幸弘(おおやゆきひろ)アレルギー科医長への相談を勧められた。札幌から800キロ以上離れた東京での治療になるが、迷いはなかった。「すぐ行こう」。夫も賛成してくれた。食事療法の効果に、夫も疑問を感じていた。
2カ月後の08年1月、センターに入院。治療内容はこれまでと全然違っていた。
清潔な肌を保つため、1日に3回入浴し、ステロイドの塗り薬を皮膚が隠れるほど厚く塗り広げる。効果はすぐに表れ、皮膚は2、3日でつるつるになった。
ところが、かつて抱いていた罪悪感が女性の中でまたふくらみ、不安になった。「このままステロイド漬けになるのでは」。夜の病室でぐっすり眠る次男の顔を見ながら、ひとり、涙を流した。
5 丁寧なケアで肌なめらかに
札幌市の女性(42)は08年1月、東京の国立成育医療センターに入院した次男(5)のアトピー性皮膚炎が落ち着いたことにほっとした。同時に、たっぷり塗るステロイド剤への不安が募った。やめられなくならないか。
「心配なことはありますか」。そんなとき、大矢幸弘医師から声をかけられた。
うまくいかなかった食事療法、ステロイド剤への恐怖。たまっていた思いをぶつけた。大矢医師はしかったり、笑ったりすることなく、耳を傾けてくれた。
「アトピーは、努力が報われる病気です。症状に応じて段階的にステロイドを減らせば、再び量が増えるようなことは、まずありません」。大矢医師の言葉が心にしみた。話し始めて、2時間近くたっていた。
アトピーの治療では、強い炎症がいったん治まっても丁寧なスキンケアを続けて肌のバリアを保ち、ダニなどの悪化要因を減らす必要がある。大矢医師は、家族と納得いくまで話し、治療への理解を深めてもらうことを入院の大きな目的に位置づけていた。
言葉通り、必要とするステロイド剤は順調に減り、最初は毎日だったのが2日おきに。
皮膚がきれいになり、食物アレルギーの影響も見極めやすくなった。血液検査や皮膚テストの結果を目安に、避けた食べ物を段階的に再開し、症状が出ないかを確かめた。
1カ月の入院を終え、もうすぐ3年たつ。
「はい、次は顔」。女性の声に、浴室の次男がぎゅっと目を閉じた。ふわふわに泡立てたせっけんで、目の周りを回すように洗う。ひざやひじにも丁寧にせっけんを伸ばし、指の腹でもむようにしっかり洗った。
入院中に指導を受けたスキンケア法での入浴は、今も欠かさない。体液がにじみ、寝付けぬ夜を夫婦であやした日々がうそのように、肌はなめらかだ。ステロイド剤は、皮膚がかさついたときに使うことが月に1度あるかないか。食物アレルギーの除去食も、いまは乳製品や甲殻類、貝類くらいだけだ。
アトピー性皮膚炎などのアレルギー性の病気は、症状をコントロールしながらうまくつきあう病気だ。不安を受け止めてくれて、納得いくまで治療法を助言してくれる医師との出会いがよかったのだと感じる。
次男はあと1年あまりで小学生。学校給食に備えて、じっくり除去食を減らしていこう。女性はそう思っている。
6 食べ物の影響、まず皮膚症状抑えて
アトピー性皮膚炎を患う小さな子どもは、じんましんや呼吸困難などのショック症状を起こす食物アレルギーにも、苦しむことが多い。これは、特定の食べ物を体が異物とみなして免疫が過剰に働いて起こる。
国立病院機構相模原病院の海老沢元宏(えびさわ・もとひろ)アレルギー性疾患研究部長らの研究では、同病院でアトピーと診断された乳児の70%以上が食物アレルギーも起こしていた。
「患者を生きる 子どものアトピー」<1>~<5>で紹介した母親のように、アトピーによる湿疹などの症状も徹底した食事制限で治る、と考える人は多い。食物アレルギーが関係しないアトピー性皮膚炎も少なくなく、「区別して考えることが大切」と海老沢部長。
両者の関係については、まだよくわかっていない。国立成育医療研究センターの大矢幸弘アレルギー科医長によると、乳児期にアトピーなどで湿疹ができ、皮膚のバリアが弱まると、皮膚を通して体内に入った食物の成分やホコリが異物と認識され、アレルギー反応を引き起こすことがあるという説が、最近では有力になっているという。
食物アレルギーが疑われる場合でも、まずは皮膚の症状を抑え、バリア機能を回復させる必要がある。厚生労働省研究班による「食物アレルギーの診療の手引き2008」では、ステロイドの塗り薬やスキンケアといったアトピーの治療をしても症状が改善しない場合、食物アレルギーの影響を疑い、原因の食物を絞り込むとしている。
血液を採って、食物の成分と反応をしないか調べたり、専門医の監視のもとでその食べ物をとって症状を調べる「食物負荷試験」をしたりして、取りのぞく食物を判断する。
ただ、アレルギーの症状を起こさなくても血液検査に反応することがあるので、注意が必要だ。血液検査だけでなく食物負荷試験などの結果をもとに、最小限の食事制限にとどめるのが原則だ。
食物アレルギーが関係しないアトピーも、ダニ、ホコリ対策など家庭での取り組みを続けることが大切だ。
小さな子どもは、自分ではうまくスキンケアができない。「1日2、3回、よく泡立てたせっけんでもみ洗いしてあげて欲しい。継続したスキンケアや掃除などの環境整備は、お子さんの肌をつるつるに保つための出発点です」と大矢医師はいう。
■ 大人のアトピー(2010年11月:朝日新聞「患者を生きる」)
1 顔の湿疹 薬で一時消えた
平日の午後5時半、さいたま市内のスポーツクラブの受付に、近くの街に住む荻野美和子(おぎの・みわこ)さん(31)の声が響く。
「こんにちは」「お疲れ様でした」
半袖にハーフパンツのユニホーム姿で、利用者にロッカーの使い方を説明したり、冗談を交わしたり。エアロビクス講師の経験もある荻野さんは、いつも笑顔だ。
「お客様に顔を見られる受付の仕事なんて、あの頃を思うと信じられません」
2006年10月、全身を包帯でくるまれて病院のベッドにいた。重症のアトピー性皮膚炎で、炎症が全身に広がっていた。
もともと、アレルギー性の病気にかかりやすかった。生後数カ月で湿疹ができた。1歳ごろには気管支ぜんそくを患い、小学生まで入退院を繰り返した。次第にぜんそくは治まり、アトピー性皮膚炎の症状が出始めた。
アトピーは、持って生まれた体質や肌の性質、環境要因などが合わさって起こるとされる。乾燥などで肌のバリアが壊れ、かゆみを伴う湿疹が慢性的にできるのが特徴だ。
口の周りやひじ、ひざの内側がかゆく、遊んでいる拍子に腕をピンと伸ばすと、ひじの内側の肌が割れてあかぎれになった。
病気がちでも、興味のあることに次々に挑戦した。踊りが好きで、小学2年からバレエを始め、高校ではエアロビクスも始めた。
症状を強く認識したのは高校2年の時。米国に滞在するためパスポート用の写真を撮ると、顔の赤みや湿疹が際だって見えた。「こんなひどい状態じゃ行けない」。近所の皮膚科医院にかけこんだ。ステロイドの塗り薬と飲み薬を処方され、使っているうち、かゆみが消えて顔の湿疹もきれいになっていった。
大学時代の前半は、化粧もしたし、アトピーについてさほど深刻には悩まなかった。しかし、そんな生活は長くは続かなかった。
2 ステロイド、効かなくなった
埼玉県の荻野美和子さん(31)は、子どもの頃からアトピー性皮膚炎を患っていた。高校2年から近所の皮膚科医院に通い始め、アトピーの代表的な治療薬であるステロイドの塗り薬などの処方を受けた。薬を使ううちに症状は落ち着き、アトピーに悩まない大学生活を満喫していた。
ところが、3年生のころから、肌の状態がまた、徐々に悪くなっていった。口の周りやひじ、ひざなどが、子どものころと同じがさがさの状態に戻っていった。
ステロイドを広範囲に使うのは気が引けたので、昔と同じように、ひじやひざの内側など、その日一番炎症がひどい部分にできるだけ薄くすりこんだ。かゆみは治まらない。我慢できず、ついひっかくので、まだら模様にかさぶたができた。座るときに擦れるお尻と太ももの境目は皮膚から体液がにじみ出た。
「このままいったら、私の肌はどうなっちゃうんだろう」。焦りと不安が募った。
同じころ、生活は多忙を極めていた。
高校から始めたエアロビクスに磨きをかけ、地元のスポーツクラブで講師として、週5本のレッスンを担当するようになっていた。大学3年の11月には、同級生に先がけて就職活動を開始。スポーツ関連業界や金融関係など、様々な業種を受けた。
アトピーを除けば、緊張感のある充実した毎日だった。就職活動は順調に進み、4年の春に3社から内定を得た。けれども、肌はいっこうに良くならず、だんだんゾウのようにゴワゴワになっていった。
友人から「どうしたの?」と心配されるたび、「そんなにひどいのか」とショックだった。「ステロイドは怖い薬だから、やめたほうがいいのでは」と話す知人もいた。
肌がごわつくのは、ステロイドの副作用かもしれない。自分でもそう考えるようになった。それに、皮膚科の塗り薬がきかないほどアトピーが悪化してしまったとも思った。だんだん薬に手が伸びなくなり、家に閉じこもる日が増えていった。
「ステロイドがダメなら、何に手を付けたらいいんだろう」。高価な健康食品も試したが続かなかった。インターネットで情報を探していた大学4年の2月、漢方治療院のホームページを見つけた。「アトピーが治った」という手記がずらりと並んでいた。その時は、希望の光が見えた気がしていた。
(院長のつぶやき)問題点その1:「皮膚科に通院しても治らない」
3 ステロイド中止 みるみる悪化
埼玉県の荻野美和子さん(31)は、大学4年だった9年前、悪化するアトピー性皮膚炎に悩んでいた。ステロイドの塗り薬でも良くならず、次第に薬を使わなくなっていった。
大学4年の2月、インターネットで見つけた漢方を専門にする診療所を家族と一緒に訪ねた。待合室に「ステロイドは出しません」という張り紙があった。「いつかは分からないけれど、絶対に治る」と話す院長の言葉が心強かった。
ステロイドを完全にやめ、自宅での漢方治療が始まった。煎(せん)じ薬を入れた風呂に1日2時間つかる。上がったら、漢方薬の軟膏(なんこう)を全身に塗った。3カ月目ごろからは朝晩、「根っこの味」がする煎じ薬を飲んだ。
肌は、みるみる悪化した。
全身がたまらなくかゆい。体中にひっかき傷とあかぎれができた。皮膚がつっぱり、布団の中でひざを伸ばすのに10分かかった。顔や首から体液がしみ出して、1日に何十枚もタオルをぬらした。
太陽の下で自分の肌を見つめるのが怖くて、一日中カーテンを閉めてベッドに横たわった。夏でも寒く、空気に触れると刺されるように痛い。企業の内定はすべて辞退した。
肌は、表面のバリアが壊れた状態で外から刺激を受けると内側に炎症を起こす司令塔の細胞が集まり、かゆみの指令を出す。かくことでさらにかゆくなる悪循環が起きていた。
診療所は遠方のため通えず、診察は電話だった。いつも同じ薬が届いた。母の裕子(ゆうこ)さん(62)は「肌も見ないで、治療と呼べるのかな」と感じた。でも娘に「病院、変えてみない?」と促すと、「私の信じている治療を否定するの」と、すごい剣幕で返された。もう何も言えなかった。
それから2年余り。改善の兆しは見えず、荻野さんも悩み始めていた。自宅は自営業で、家族の働く気配も伝わってくる。ずっと家にいることに罪悪感が募った。
改めて面接を受け、事務職の仕事を始めた。全身の炎症は続いていた。出勤前に1時間早く起きて肌をかき尽くし、「今日は行けるかな」と毎朝考えた。仕事中にどうしてもかゆくなったときは、トイレでかいた。
漢方を始めて5年半が過ぎた2006年。もう一度、家族から都内の病院の受診を促された。「うん、行ってみる」。今度はそう答えた。もう疲れていた。
(院長のつぶやき)問題点その2:漢方でも治らない。
ただ、漢方薬は皮膚の状態により細かく処方を変えていきます。よくならないのに同じ薬を使い続けることはあり得ません。この漢方治療院、怪しいですね。
4 即入院 再びステロイド治療
埼玉県の荻野美和子さん(31)は、漢方でアトピー性皮膚炎を治そうとしたが、5年半たっても改善しなかった。家族の勧めで2006年10月、東京逓信病院を受診した。
皮膚科部長の江藤隆史(えとうたかふみ)医師が示した治療は、あれほど嫌ったステロイドの塗り薬を使う普通の方法。「魔法の病院かもしれない」という期待は、すぐに裏切られた。「ステロイド治療は受けません」と言って帰宅した。
だが、迷った。
漢方を信じた5年半を無駄にしたくない一方、「このままでは良くならない」とも感じていた。会社も休みがちで、両親の支えがなければ生活ができない。心も体も疲れきっていた。新しい治療を探す気力は残っていない。目の前の治療にすがるしかなかった。
覚悟を決め、東京逓信病院に連絡した。
炎症とかき壊しを繰り返した荻野さんの肌は、ゴワゴワに分厚くなり、体液もにじみ出る重症の状態だった。即、入院が決まった。
仕事を休み、10月17日から入院した。朝夕2回シャワーを浴び、上がると看護師が全身に薬を塗る。薬の塗り方や量は、高校生の頃とは全く違っていた。
まず保湿剤を塗り、炎症を抑えるステロイドを肌にたっぷりと乗せて広げた。さらに、傷の治りを助ける軟膏(なんこう)(亜鉛華<か>軟膏)を塗った白い布を重ね、その上に包帯を巻いた。顔には弱めのステロイドを塗った。さすがに恥ずかしくて病院の売店に行けなかった。
数日後、全身にあったひっかき傷が閉じ始めた。パンパンだった手足の腫れも引いた。かさぶたや痛んだ皮膚がはがれて、その下に普通の肌ができていた。
3日目ごろから、背中にはステロイド剤が不要になり、保湿だけになった。顔は、ステロイドより副作用の少ないタクロリムス軟膏に変わった。このころにはシャワーから上がっても、肌がつっぱらなくなった。物を取るために腕を伸ばしても、肌がきしまない。
「みんなこんなに快適な生活をしているのか」としみじみと思った。
8日目に退院した。まだ肌に赤みは残っていたけれど、腫れやゴワつきがなくなり、なめらかな肌に戻っていた。
翌朝から仕事に復帰した。自宅から駅まで約10分。バレエをやっていた頃のように、胸を斜め上に引き上げ、背筋をスッと伸ばして歩いた。もう太陽が怖くなかった。
(院長のつぶやき)この江藤先生の講演を何回か聞いたことがあります。他の皮膚科医は「プロトピックは皮膚科専門医が使いべき薬で、他の科の医師は手を出すべきではない」という論調が多い中、江藤先生は「どんどん使ってください。小児科医が臆病になりプロトピックを使わないなんて患者さんが不幸ですよ」という意見で、とにかく話が面白い先生です。
5 悩む人のため闘病経験生かす
重症のアトピー性皮膚炎で入院治療を受けた荻野美和子さん(31)は、8日間で快適な肌を取り戻した。その後も月1回、定期的に通院した。強い症状は治まり、「新しい自分」になった気がしていた。
2007年1月、あらためて就職活動を始めようと、就職支援塾に通い始めた。就職難の中で勝ち取った内定を辞退し、アトピーに悩んでふさぎ込んだ5年半を取り戻したかった。でも、過去を振り返るうち、アトピーが切っても切り離せない存在だと気づいた。「悔やみながら生きるのはやめよう」
経験を生かそうと思った。アトピーは、5年半もかけて闘病するような「難病」ではないことを、同じ境遇にいる人たちに伝えたかった。本を調べ、東京都内に拠点を置く患者会の一つ、NPO法人・日本アレルギー友の会に連絡した。事務局長の丸山恵理(まるやま・えり)さん(50)に面会して闘病体験を話すと、すぐ療養相談員に採用された。
相談員を始めた当初、自分の体験を伝えようと、力が入ることもあった。だが、最近は聞き役に徹している。「そうですね。つらいですね」と耳を傾けることで、患者の気持ちが少し和らぐ気がする。
もう一つ、できるだけイベントに参加して、きれいになった自分の肌を見てもらうようにしている。いくつも言葉を重ねるより、それが一番「届く」と感じている。
肌のケアは今も日課だ。状態がいいときは、市販のローションなどで保湿する。少し乾燥するときは保湿剤の白色ワセリンを、炎症が出そうな時は、弱めのステロイドの塗り薬やタクロリムス軟膏(なんこう)を使う。手荒れがひどければ、白い綿の手袋をはめて外出する。
毎日のケアは「みんなが毎日歯磨きをするのと一緒」だ。最近は、肌の状態を見て自分で判断し、炎症が起こる前にふさわしい処置を選べるようになった。
闘病中もずっと近くにいてくれた大学時代の同級生(31)と、09年に結婚した。今は夫と愛犬と一つ屋根の下で暮らす。
10月31日、友の会が主催するアトピー性皮膚炎の講演会が都内であった。荻野さんは司会進行役をした。グレーのスーツ姿で、数十人の参加者に向け、20代の青春時代を暗く過ごした自分の体験を紹介。「同じ患者だから分かることがあると思います。電話を下さい」と、力を込めて言った。
6 情報編 薬の強さ・量 症状に応じて
アトピー性皮膚炎の患者は、厚生労働省の2008年患者調査によれば全国に約35万人いる。年代別では10歳未満が全体の3割と多いが、20代以上も6割を占めている。
アトピーは、生まれ持った体質や環境要因などが合わさり、肌のバリアーとしての機能が弱まって起こる。九州大の古江増隆(ふるえますたか)教授(皮膚科)は「発症には受験や就職活動、仕事などのストレスも影響している」と話す。
バリアーが弱まった状態で刺激が体内に入ると、肌の内側に炎症を起こす司令塔役の細胞が集まって周囲に指令を出し、かゆみや腫れなどにつながると考えられている。
治療の基本は保湿だ。症状は、軽ければ保湿剤などを塗ってバリアーを回復させると治まる。だが、司令塔細胞が結集する段階まで進むと、保湿だけでは太刀打ちできない。ステロイドやタクロリムスの塗り薬は、この司令塔の働きを抑えることが確認されている。
ステロイドはホルモンの一種で、誰もが体内に持っている。治療ではこの成分を外から補う。塗り薬は強さが5段階あり、症状や部位に合わせて使い分ける。強い薬から徐々にランクを落とし、塗る頻度を減らしていく。
適度な強さの薬を、適量、適切な期間使うことが大切だ。塗ってもよくならない場合は、薬の強さが合っていない、塗る量が足りないといった理由が考えられる。
かゆみが治まっても皮膚が黒ずむ、厚くゴワゴワする場合は、炎症が続いている可能性がある。司令塔役をしっかり抑え込まないと、少しの刺激で炎症がまた強まる。東京逓信病院の江藤隆史医師は「ステロイドをきちんと使えば、ほとんどの人が保湿だけでよい状態の肌を保てるようになります」と話す。
肌からしみ込んだステロイド薬は皮膚内の分解酵素で代謝され、血液中にはほとんど移行せず、皮下にたまることもないという。ただ、まれに塗った場所が多毛になったり、皮膚が薄くなったりすることがある。これらはいずれも薬をやめれば治まる。
タクロリムス軟膏(なんこう)は、ステロイドに比べて副作用の心配が少ないとされる。顔などに使うが、塗ったときにヒリヒリと灼熱(しゃくねつ)感を覚えることがある。強さは1段階だけだ。
自身も患者という日本アレルギー友の会の丸山恵理事務局長(50)は「医師の助言を理解して治療を進めるために患者も正しい知識を持つことが大切」と話す。
■ 古くて新しい「夏から保湿」のワザ(2010年8月16日:nikkei WOMAN Online)
シンガポールでお世話になっている歯科医に、先日おもしろい話を聞いた。「シンガポールは一年中湿度が高いので、乾燥しないと思っている人が多いんですが、実はエアコンをつけて生活する時間が長いせいか、口の中が乾燥して唾液が少なくなっている人が多いんですよ」。
それは、体感としてなんとなく分かる。来たばかりばかりのころは、体にも“湿気”がたまる感じがしていたけれど、このところ、逆に体の潤い不足を感じることが多くなってきたのだ。周りでも、「最初は、日本から持ってきた化粧品が重く感じて、さっぱり系の化粧品に切り替えたけど、このところまた物足りない感じ」「なぜかのどが乾燥しやすくて、いつも飴を持ち歩いている」「日本の冬のような乾燥感はないけれど、確実にシワは増えている気が……」などなど、潤い不足を実感している人がけっこういる。
もちろん、どんな年代の人でも、前よりは歳を重ねているわけなので、潤いが徐々に減り、しわもちょっとずつ増えていくのは仕方がない。エアコン、それから、強烈な紫外線の影響も大きいだろう。一年中夏暮らしの私たち、潤い補給にも十分に気をつけないとまずそうだ。
そんなことを考えていて、ふと思い出したのが「夏の終わりから、肺の潤いを補うものを積極的に食べる」という中医学の養生法のこと。これは、乾燥の季節である秋に備えての知恵だと思っていたが、それだけではなく、夏は潤いが失われやすいので、それをリセットするという意味合いもあることに気づいた。最近でこそ、美容の世界では「夏から保湿」なんてことが言われるようになったけれど、実は、中医学では何千年も前から「夏から保湿」がジョウシキだったわけだ。
もちろん、保湿といっても肌だけのことではない。けれど、肌の自然な潤いは体の中から生まれてくる。特に、肌は肺とのつながりが深いので、「肺を潤す」ことは肌の潤いを補うことにつながる。ついでに言えば、肺は大腸と「表裏」の関係にあるので、肺が潤えば腸も潤い、乾燥型の便秘の予防にもなる。便秘をしていると肌の調子が悪くなる、ということから考えても、肺ー大腸ー肌というのは、なんとなく納得できる関係だと思う。
ちなみに、中国で秋が始まるころによく食べられている「潤肺(じゅんぱい)」の食材は、梨、白キクラゲ、百合根、杏仁など。白い食品が多いのが特徴だ。秋に旬を迎える穀類や野菜をちゃんと食べ、加えてこういった食材も適度に取り入れて、乾燥に弱い肺を守り、肌の潤いもキープしていこう。秋に起こりやすい声がれや空咳の予防にもなるはず。
こんなふうに「季節に合わせて養生する」ことは、アンチエイジングの第一歩となる。そして、自分の体の弱点に目を向けることも大切だ。例えば、しわ・たるみ系の老化は気(エネルギー)の不足が大いに関係するし、しみ・くすみ系は血のめぐりの悪さと切っても切れない関係にある。つまりは、自分のカラダに合わせたケアをすること=アンチエイジング、ということになるわけだが、もうひとつ、中医学には「エイジングをつかさどる臓器」があり、その臓器をいたわることがアンチエイジングにつながる、という考え方がある。次回は、その独特の考え方と知恵について紹介しよう。

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