花粉症

スギ花粉症について

(最終更新:2011年7月)

■ はじめに

スギ花粉症について、よく聞かれる質問と当院での治療について記します。

参考ホームページ:

まずはよく聞かれる質問から。

Q. 花粉症を疑ったら「何科」へ行けばいいんですか。たけい小児科・アレルギー科では大人も診療しているのですか?
A. ムムム・・・難問です。
「どの症状が一番つらいか」を基準に小児科(20歳以上は内科)・アレルギー科・耳鼻科・眼科などから選択なさるのがよいと思います。
例えば、鼻汁・鼻閉がつらいなら耳鼻科、目のかゆみ・充血・むくみがつらいなら眼科、頭痛・咳嗽他色々な症状があるときは小児科・アレルギー科へ。
私は元々小児科医なので子どもの花粉症を中心に診療しています。20歳までOKです。
当院の特徴といえば、西洋医学の治療を一通り行ってもよくならない場合は漢方療法も取り入れていることでしょうか。それでも良くならないときは、上記のごとく専門科に誘導しています。
申し訳ありませんが、当院では大人は原則として診療しておりません
血圧が高いと使えない薬とか、他に通院していて治療中で薬の飲み合わせが心配とか、ハードルがたくさんあるので診療に時間がかかりがち・・・その結果子どもの診療時間を圧迫してしまうのです。ご了承ください。

ではスギ花粉症の基礎的知識と当院での治療について以下に記してみます。

■ スギ花粉症の基礎知識

【疫学】
日本の国土面積は約7割が森林です。思ったより多いですね。
その森林のうち18%がスギ林であり、計算すると日本の国土全体の12%がスギ林ということになります。このため日本における花粉症の7割はスギ花粉症です。

ところ違えば病気も違います。
日本では花粉症といえばスギ花粉症が頭に浮かびますが、外国では・・・アメリカでは花粉症といえばブタクサ花粉症、ヨーロッパではシラカバ花粉症といった具合です。
なぜかと言えば、そこにはスギが無いから。

スギ花粉症が日本の国民病と呼ばれて久しくなりますが、現在では30歳以上の実に30%以上がスギ花粉症になっているそうです。なんと3人に一人!
花粉症は長い期間にわたって花粉を吸い続けることで発症する病気です。以前は成人後の発症が多かったのですが、近年子どものスギ花粉症も目立ってきました。

院長のつぶやき)私も1歳児の診療経験があり低年齢化を実感しています。花粉症のために子どもが春先に外で遊べないなんて・・・おかしな世の中になってしまいました。そういえば、日光のサル軍団も花粉症で悩んでいるとニュースで言ってましたね。

【症状】
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ・・・これらが揃うとほぼ花粉症といって間違いないでしょう。
風邪との違いは「かゆみ」だと思います。
皮膚・耳のかゆみや喉のイガイガ感〜咳、じんましん、微熱が出る方もいます。

【診察所見】
鼻腔(鼻の中)を覗くと、粘膜(下鼻甲介)が腫れて迫り出してきています。
症状の強い時期は赤く腫れ上がっています。

【検査・診断】
上記症状・診察所見で疑い、検査で確認します。
皮膚テスト:皮膚を少し傷つけたところにアレルゲンのエキスを垂らし、赤くなるか反応をみる検査です(当院では行っておりません)。
鼻粘膜抗原負荷試験:鼻の粘膜にアレルゲンをしみ込ませたものを貼り付け、反応をみる検査です。
主に耳鼻科で行う検査であり当院では扱っておりません。
※ アレルギーかどうか判断が難しいときは鼻汁の好酸球(アレルギーで悪さをする細胞)が増えているか調べることもあります。
血液検査IgE、RAST(ラスト)
IgEはアレルギー体質の強さを判定し、RASTはスギ花粉など特定のアレルゲンに反応しやすいかどうかがわかります。

院長のつぶやき)「なんちゃって花粉症
花粉症の時期に「鼻が止まらないので調べて欲しい」という患者さんが多く来院しますが・・・検査結果は何も陽性に出ないことを少なからず経験します。聞くと症状は1週間で治まったとのこと。つまり風邪ですね。
眼症状(目のかゆみ・充血)があれば花粉症にまず間違いないと思いますが、鼻症状だけの時は1〜2週間治療を優先して様子観察し、症状が続くようなら検査をお勧めします。

Q. スギの季節をスギても(過ぎても)症状が消えないのですが・・・?
A. 他の花粉にも反応している可能性があります。
5月のゴールデンウィークを過ぎても花粉症症状が続く方はヒノキ花粉症の合併が疑われます(スギ花粉症患者の70〜80%!)。それ以降、夏が近づいても続くときはカモガヤ、ハルガヤ、オオアワガエリ等のイネ科花粉症も疑われます。
また、一年中くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの鼻炎症状が続く方はダニ・ホコリが原因のことが多いですね(他にガ・ゴキブリなどの昆虫類、ペットの毛、カビなどのこともあります)。

口腔アレルギー症候群
「果実野菜過敏症」とも呼ばれ、特定の野菜や花粉を食べたときに口の中にアレルギー反応(喉のかゆみ、腫れなど)を起こす病気です。
花粉症に合併することが多く、花粉症とともに増加傾向です。
原因となる食物は、リンゴ、モモ、サクランボ、キウイフルーツ、パイナップル、メロン、バナナ、スイカ、イチゴ、ブドウなどの果実の他、ナス、ニンジン、トマト、セロリなどの野菜のこともあります。
ときに重い症状(呼吸困難、血圧低下、意識障害)を引き起こすケースもありますので注意が必要です。

■ 一般的治療(西洋医学)

 花粉症の治療は結構単純です。
 アレルゲンである花粉を避ける生活を心がけ、症状が出た場合は抗アレルギー剤を内服し、つらい症状が残るときは局所療法を併用します。それでもダメなときはステロイド内服をすることになりますが、そこまで重症の患者さんはめったにいません(少なくとも当院では)。

1.アレルゲン回避

アレルギー疾患治療の基本は悪化因子であるスギ花粉を身の回りから排除することです。
マスク、ゴーグル着用、洗濯物を外に干さない、花粉のつきにくい服の生地を選ぶ、帰宅後服についた花粉を払ってから家に入る、洗顔・洗眼・鼻うがい・・・等々、患者さんであれば既にご存じのことと思います。

スギ花粉の飛散パターン(まず敵を知りましょう)
 朝  :スギは開花して花粉を放出
 午前中:スギ林周辺から都市部まで飛散が拡大
 昼〜3時頃:スギ飛散のピーク
 夕方 :その後一旦減りますが日没前後にもう一山(気温が下がり上空の花粉が降りてくる)
花粉の飛散が増える条件
・天気が良くて気温が高くて乾燥している日
・風が強い日
・前日が雨のとき(地面に落ちた花粉が再び舞う)

Q. 花粉防止グッズの効果はほんとにあるんですか?
A. あります(完璧ではありませんが)。
マスク:鼻に入る花粉数は、普通のガーゼマスクでは約1/3、花粉症用マスクでは1/6に減少
メガネ:目に入る花粉数は、普通のメガネで2/3、花粉症用メガネ(ゴーグルタイプ)で1/3に減少
(以上は「最新花粉症治療法」大久保 公裕 先生 著、2008年講談社発行より抜粋しました)
※ シーズン中は可能であればコンタクトレンズの使用を控えましょう。花粉が目とコンタクトの間に入ってかゆみが増すことがあります。

花粉症:マスクと眼鏡の効果.jpg

2.薬物治療

一度症状が出てしまったらアレルギー反応を抑える薬を使うことになります。

① 抗アレルギー剤内服

小児適応のある(=子どもに使用可能な)抗アレルギー剤は以下の通り;
・シロップ製剤:ザジテン、ゼスラン他
・散剤:ザジテン、セルテクト、アレジオン(3歳以上)、クラリチン(3歳以上)他
・錠剤・カプセル:アレグラ(7歳以上)、クラリチン(7歳以上)他

などが代表的です。
抗アレルギー剤は毎年のように新薬が発売される進歩のめざましい分野です。小児適応はありませんが上に示した他にもたくさんの種類があります。それだけ患者さんが多いということですね。

Q. 花粉症の薬って眠くなるんですよねえ。眠くならない薬はないんですか?
A. あります。
確かに抗アレルギー剤の代表的な副作用に「眠気」があります。
最近の抗アレルギー剤開発は「眠くならない薬」が主流です。
そして、飛行機のパイロットに使用を許可(海外)されている薬剤が2つだけあります。
それは「アレグラ」と「クラリチン」。
私は大人に対してはまずこの薬剤を選択します。特に仕事や車の運転で眠くなると困る方。
アレグラは1日2回内服。
クラリチンは1日1回でOK(口の中で溶ける錠剤もあります)

院長のつぶやき)この二つの薬、確かに眠気は少ないのですが効果はそれなりでしょうか。重症患者さんにはこれだけでは治療が間に合わないことを多く経験します。漢方薬は眠気どころか目が覚めるので私はこちらの方が好きですけどね。

Q, 鼻づまりに効く飲み薬はあるんですか?
A. あります。
以前はステロイド点鼻しか方法がありませんでしたが、最近ようやく出てきました。
オノンキプレス(=シングレア)は成人用錠剤に限りアレルギー性鼻炎に適応があり、鼻水より鼻づまりに効く数少ない薬です。しかし小児用製剤は喘息用で、残念ながら現時点では花粉症・アレルギー性鼻炎に適応がありません。

院長のつぶやき)鼻づまりには漢方薬の方が効くと思います。西洋医学の薬は子どもに使えない、授乳婦に使えないなど制約が多くてまことに使いづらい・・・トラブルを回避したいという腰が引けた製薬会社の姿勢が見え隠れします。

最近のトレンド「初期療法
抗アレルギー剤を症状の出る1〜2週間前から開始し、シーズン中使用を続けて軽く済ませる方法です。
上品な治療法ですね。
確かに一度ひどい症状が出てしまうと強い薬を使わなくてはならないので、毎年悩んでいる方にはお勧めです。具体的には花粉症情報が始まる2月初めが目安でしょうか。

② 局所療法
内服薬では症状が抑えきれないときに症状のある場所に直接薬を投与します。
抗アレルギー剤とステロイド剤があります。

点眼:抗アレルギー剤:インタール、ザジテンほか
    ステロイド剤: フルメトロン、リンデロン(0.02%と0.1%の2種類)ほか
点鼻:抗アレルギー剤:インタール、ザジテンほか
    ステロイド剤: リノコート、フルナーゼ、アルデシンほか

上記薬剤は当院採用のものですが、このほかにもたくさんの種類が発売されています。
ステロイド点眼薬リンデロンなど)は1週間以上使用していると緑内障などの副作用が出る可能性がありますので、手放せない状態が続く重症患者さんは眼科通院をお勧めします。

③ ステロイド全身投与(内服)
例)セレスタミン、プレドニン、リンデロン、デカドロン
①+②でもコントロールできない重症例には内服ステロイドを使用します。
でも、これは副作用をにらみながらの必要最低限の量・期間(最長1週間)が原則です。
むやみに長期内服を続けていると副作用で体がボロボロになります。

ステロイド全身投与(内服・注射)の副作用
成長障害骨粗鬆症(骨がもろくなる)、胃潰瘍易感染性(感染症に弱くなる)、糖尿病

院長のつぶやき)私は①+②でよくならないときステロイドに手を出す前に漢方薬を試しています。体に合う漢方が見つかるとステロイド使用を避けることが可能です。「卒業式の写真撮影でグシャグシャの顔を残したくない」という場合はその時だけ頓服するようセレスタミンを処方することはあります。

ステロイドの注射(ケナコルト)
ケナコルトという白濁した液を注射すると1ヶ月くらい効果が持続します。
花粉シーズンに1〜2回受診すれば済むので、その手軽さから普及していますが・・・
しかし、強いステロイドでありこれに依存するとやはり上記の副作用が心配になります。
アレルギー学会専門医は「悪魔の薬」としてこの薬を忌み嫌っています。

3.減感作療法(免疫療法)

上記の①②③は花粉症を根本的に治す治療ではありません。症状を和らげてやり過ごす対症療法です。
一方、減感作療法はスギ花粉を症状が出ない程度の少量ずつ体に入れることによりアレルギー反応を起こさないようにする治療であり、根本療法と言えます。
従来行われてきた方法は皮膚にスギのエキスを薄めて定期的に注射する方法ですが、近年新しい方法が注目されています。それは・・・

舌下減感作療法
従来の皮下注射法は効果はあるのですが数年以上通院する必要があり、また副作用として強いアレルギー反応が生じる危険性があります。
こうした欠点を補うべく開発されたのが「舌下法」です。
口の中に花粉エキスを落として体に吸収させます。パンなどに花粉エキスをしみ込ませてしばらく舌下に置いておく方法もあります。簡単ですね。
現在は臨床治験中ですが、いずれ認可される日が来るでしょう。

院長のつぶやき)昨年秋のアレルギー学会では花粉症に関するシンポジウムでよく耳にした治療法で、その注目度がわかりました。認可されれば私も試してみたいです。

4.その他(外科療法、民間療法)

レーザー治療:鼻粘膜(下鼻甲介)をレーザーで焼いてアレルギー反応を起こす場所を減らす方法です。耳鼻科の外来で行います。効果は1シーズンしか持たないので毎年受ける必要があるそうです。子どもでは7〜8歳頃から可能とのことです。

Q. 民間療法は効くんですか?
A. 効くこともあります。
病院で提供する治療は科学的検証(基礎実験・動物実験・臨床試験)を経て有効率何%(60%以上が最低条件)、副作用は何%とデータが出され、「薬として有用である」と判断されて初めて認可され、処方できるようになります。当然、危ない副作用がわかれば認可されません。
一方、民間療法はそのような科学的検証はなされておらず、経験談として伝えられてきました。
昔は「おばあちゃんの知恵袋」的な善意に基づく治療が多く存在し、全てを否定するものではありませんが、近年は金儲け目的の悪徳業者も絡んでいることもあるので注意が必要です。
極端なことを言えば、100人中1人しか効いていないのに「花粉症が治った!」と宣伝しているかもしれません。副作用が出ても「今は毒が出ているだけ、いずれ快方に向かう」と誤魔化していることあるようです。
ちなみに、民間療法で健康被害の訴えが一番多いのはあの有名な「ク○レラ」だそうです。

■ 花粉症の漢方治療

私は自分自身が花粉症患者であり、以前は西洋医学の抗アレルギー剤(眠くならないアレグラ)を使用していましたが、効果は十分とは言えず点眼・点鼻薬が手放せませんでした。漢方医学に出会ってから自分に小青竜湯を試したところよく効きました。眠くならないし、なにより点眼・点鼻薬に手が伸びなくなり効果を実感しました。
その後漢方の勉強を進めると、花粉症に効く漢方薬はたくさんの種類があって患者さんの体質・体調(漢方では「」と呼びます)により使い分ける必要があることを知りました。

その人に合う漢方薬は「花粉症」とか「アレルギー性鼻炎」などの西洋医学の病名で決まりません。
」で決まるのです。つまり「証」が漢方医学の診断名ということであり、同じ花粉症でも「証」が異なれば効く漢方薬も異なります。
つまり、「全ての花粉症患者さんに小青竜湯が効くことはあり得ない」ことを理解する必要があります。

私は以下の薬を使い分けています:

小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯、葛根湯加川キュウ辛夷、麻黄湯、越婢加朮湯、柴朴湯、麻黄附子細辛湯、麦門冬湯、柴胡桂枝湯、など


まず、漢方的に冷えている「寒証」と炎症で熱を持っている「熱証」で使用する方剤が異なります。
小青竜湯はスタンダードになりつつありますが、体力が無く消化器系が弱い患者さんには合いません(胃が重くなったり夜眠れなくなったり)。慢性的に鼻づまりがつらい方には葛根湯加川キュウ辛夷、目の症状がつらいヒトには越婢加朮湯、咳を伴うときには柴朴湯や麦門冬湯などを試し、使用感・効果を確認しながら修正して、一番合う漢方薬を患者さんと一緒に探します。

麻黄」について
小青竜湯・葛根湯加川キュウ辛夷・麻黄湯・越婢加朮湯には「麻黄」という生薬が含まれており、この薬効が大きなポイントです。
眠気を飛ばし、つらい鼻閉を和らげてくれるのはこの「麻黄」です。
しかし切れのよい薬は一方で副作用に注意が必要になります。
心臓疾患・高血圧・高齢者には適しません。また、胃の悪い人にも合いません

自分に合う漢方薬が見つかると幸せになれますよ。

★ 「花粉症に漢方」関連記事より

漢方は花粉症にはどうですか?

2010/4/5(日本経済新聞)

Q 55歳女性です。毎年、この時期になると花粉症によるくしゃみや鼻水で憂うつです。今年は花粉の飛散量が少ないようで、症状はそれほどひどくはありませんが、それでも点鼻薬は欠かせません。現代医薬品には過敏な体質で、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)という漢方薬を服用しました。服用を続けたら食欲がなくなり、時々胃が痛みます。漢方薬があっていないのでしょうか。どんな漢方薬が私には向いているのか、教えてください。

 A 中高年になっても花粉症や鼻アレルギーで困っている人はそれほど珍しくありません。

 漢方治療では花粉症とか鼻アレルギーといった病名で薬を決めるのではなく、あくまで体質や症状を診て、患者さんごとに漢方薬を決めます。
 質問者の女性は身長155センチメートル、体重48キログラムで、血圧は正常。冷え症で、5月ごろまでは湯たんぽやカイロのような暖房器具を入れないと足が冷えて眠れないようです。
 冬場はいつも首筋がスースーするためマフラーを欠かすことができず、冷たい風にあたると垂れてくるほどの鼻水が出て、胃腸も弱く、現代医薬品に対しては薬物アレルギーがあるそうです。このような場合は麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)という漢方薬をまずお薦めします。
 もし、2週間程度服用して胃腸にさわるようなら、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)を試して下さい。
 そのほか、人参湯(にんじんとう)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)なども考えられます。一度、漢方の専門家に診察してもらうとよいでしょう。
 小青竜湯は花粉症の薬としてとても有名ですが、どちらかというと若い年代で胃腸の弱くないタイプの人に使います。
 花粉症の時期が終わっても、その人にあった体質改善の漢方薬を服用していると、次の年からの症状が緩和されます。

(北里大学東洋医学総合研究所所長 花輪壽彦)

漢方による花粉症対策2011

金子 達先生(金子耳鼻咽喉科クリニック 院長)

小青竜湯、葛根湯加川芎辛夷、麻黄附子細辛湯が基本 咳が強い場合には五虎湯や神秘湯などの使用か併用を

2011年は前年の2~5倍以上の花粉飛散が予測されている

 金子先生は花粉症の現状と来年の花粉飛散予測に触れた後、漢方による花粉症対策について解説された。 アレルギー性鼻炎は過去10年間で有病率が10%も上昇しており、その中でも花粉症、特にスギ花粉症が中心となって 増加している。花粉症は間もなく人口の約半分までに有病率が達することから、国民にとって最もポピュラーな疾患で あり、言い換えれば“国民病”ともいえる。
 スギ花粉は北海道と沖縄など南方を除き、全国的に2月から4月にかけて飛散する。3月末頃から5月の連休まではヒ ノキの花粉と重なる。スギ花粉症患者のうち半数以上はヒノキの花粉症も併せ持っているといわれている。5月の連休 明けまで症状があれば、ヒノキの花粉症も合併していると考えられる。
スギ花粉以外にも初夏から夏にかけてイネ科の花粉、初秋から秋にかけてブタクサなどのキク科などの雑草の花粉が日本では有名で ある。
 今年の夏は記録的猛暑であり、特に7月から8月にかけては高温が続いた。一般的にこの時期に高温が続くと、翌年の花粉が増加すると いわれている。また2005年以降、あまり多くのスギ花粉が飛散していないため、スギに余力があり、よほどの大雪が続くようなことがない 限り、2011年は前年の2~5倍以上の大量の花粉飛散が予測されている(図1)。
 花粉症は、2週間ないし1週間以上、くしゃみ、鼻水(水様鼻漏)、鼻閉が続いた場合に、まず考えてみる。風邪であれば1週間程度で黄 色の膿性鼻汁になるなど変化がみられる。2週間以上続く風邪はまずあり得ない。またスギ花粉症の場合は、目のかゆみや充血などの アレルギー性結膜炎も多いため、併せてこのような症状が現れたら確実である。
 ひとつここで耳鼻科以外の先生方へ注意すべき点を述べる。膿性鼻汁は単純にアレルギー性鼻炎ではなく、抗菌薬などの投与が必要 である副鼻腔炎であることが多いことから、鼻汁の性状に留意する必要がある。

眠気を抑え効果を増強させる漢方薬と抗ヒスタミン薬の併用療法が有用

 治療は、軽症では患者の好みや特徴を考え、抗ヒスタミン薬、漢方薬それぞれ単独治療で良いと考える。花粉飛散が増加した際の対 応がむしろ大変で、多剤併用療法をとることになる。
 漢方単独で攻める場合は、麻黄剤の量を増加させる必要があるが、麻黄による消化器症状、興奮や不眠などの副作用の発現頻度も 多少増加する。
 このため漢方単独よりも抗ヒスタミン薬と麻黄剤との併用が有効である。またステロイドの点鼻や抗ヒスタミン薬の点眼などの併用も、 非常に有効な手段である。
 抗ヒスタミン薬増量は眠気を増加させるが、麻黄を含む漢方薬は眠気を抑えて効果を増強させる使い勝手の良い方剤である。患者 個々の体調や鼻炎の性状に合わせて漢方を併用すれば、有効性が増加し、QOL改善に大きく貢献できるものと考える。一方、漢方薬は 効果発現が比較的早く、眠気予防効果があるものの効果持続時間は短いため、抗ヒスタミン薬を用いて、これをカバーすれば、理想の 併用療法となる。
 今シーズンはスギ花粉の大量飛散が予想され、花粉症患者も増加することが考えられることから、治療には漢方薬と抗ヒスタミン薬と の併用療法を推奨する。
 アレルギー性鼻炎に頻用される漢方薬としては、小青竜湯、葛根湯加川芎辛夷、麻黄附子細辛湯、神秘湯、五虎湯、麻杏甘石湯、苓 甘姜味辛夏仁湯、辛夷清肺湯、越婢加朮湯などがある。
 まず、小青竜湯をアレルギー性鼻炎の第1選択薬と考える。特に鼻汁、くしゃみ、鼻閉に有効で、軽度の咳にも効果がある。粘性のある 鼻汁があり、やや副鼻腔炎傾向や感冒の合併には葛根湯加川芎辛夷を処方する。冷え性傾向が強く、高齢者など新陳代謝が低下して いる症例には麻黄附子細辛湯が適応となる。
咳が強い場合は、五虎湯や神秘湯などを単独使用するか併用する。五虎湯は咳が多い若くて元気な症例に用い、喘息などにも効果が ある。神秘湯は鼻汁、鼻閉がある程度あり、咳は少しでも神経質なタイプに有効である。
 なお、副鼻腔炎に対しては、抗菌薬と漢方薬の併用療法が原則的で効果が期待できる。頻用される漢方薬は、葛根湯加川芎辛夷、辛 夷清肺湯、荊芥連翹湯などである。
花粉症に多く用いられる漢方薬の副作用としては、麻黄剤の有効成分であるエフェドリンによるものがある。主な症状は不眠、どきどき する、興奮、血圧上昇、発汗過多、排尿障害などである。また、甘草を多く含む処方では、甘草の有効成分であるグリチルリチンにより、 体がだるくなる、むくむなどの症状が現れることもある。
 用法に関しては食前にこだわることなく服用することが大切である。小児で服用が難しい場合は、蜂蜜などに溶かして投与したり、湯で 練って口中に塗布したりしている。小学生以上は漢方薬に効果があることを理解すれば、進んで服用するようになる。
 最後に、金子先生は、「漢方は患者の体質に合わせた投薬が必要だが、基本的には西洋医学的診断をベースに『寒熱』に留意して行 えば良いと考える。麻黄剤を使用できない患者には同剤を含まない苓甘姜味辛夏仁湯、辛夷清肺湯を用いる。これらを踏まえ、花粉症 に対しては、まず小青竜湯から試すことを勧める」と結んだ。

(文責:協和企画)

連 載 ---季節の漢方(7)『花粉症』のお話---

2005.2.10(監修:大野クリニック院長・大野修嗣先生)(文:メディカルライター・広瀬敦夫)
 2月3日は「節分の日」でしたが、皆様も豆まきをされて邪気を払われ、立春を迎えられましたでしょうか?節分とは「季節を分ける」ことで、季節の始まりを示す立春、立夏、立秋、立冬の前日はいずれも節分だそうです。最近、節分の日に「恵方を向いて太巻きを食べる」という風習が流行っていますが、2月14日のバレンタインチョコと同じで、海苔屋さんの宣伝のために考えられたそうです。日本には年中色々な行事がありますが、その季節毎に街が彩られるのは、見ているだけでもとても楽しいものです。
 さて、今回は花粉症に対する漢方治療のお話です。
 花粉症や通年性鼻炎(アレルギー性鼻炎)に対して漢方薬は有用な治療手段です。『鼻アレルギー診療ガイドライン2002年版』(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会編)には、(カッコントウ)、柴朴湯(サイボクトウ)、小柴胡湯(ショウサイコトウ)、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)が紹介されています。
 この中でもツムラ小青竜湯は通年性鼻アレルギーを対象に二重盲検比較臨床試験が実施されており、有効性が評価されています。2003年には第40回日本臨床生理学会総会において花粉症に対する小青竜湯の臨床効果が報告されています。2週間の投与で、くしゃみ・鼻汁・鼻閉の程度が有意に改善し、眠気の程度が治療前よりも有意に改善したということです。
 小青竜湯は比較的即効的で、ヒスタミン作用の阻害や好酸球浸潤の抑制作用があり、しかも、脳内ヒスタミンH1受容体に影響を及ぼさないため眠気を誘発しないことが以前から知られています。
 近年、花粉症の初期療法としての小青竜湯の有用性を示唆する研究成果がツムラ医薬評価研究所より報告されました。小青竜湯が抗原感作段階に作用し、Th2移行を妨げている可能性を基礎実験により示したもので、今後、更に小青竜湯のアレルギーの進展・発症抑制に対する作用機序の解明が進むよう期待されます。
 花粉症の患者さんの漢方治療を考える場合、先ず「麻黄剤」小青竜湯、大青竜湯(ダイセイリュウトウ)が使えるかを判断し、次に「利水剤」小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)、(トウキシャクヤクサン)を中心に選択するか、「温補剤」麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)、で温めるとよいのかを選択するとよいそうです。
 患者さんの中にはどうしても西洋薬では眠気やその他の副作用が出てしまい漢方治療を求められる方もいらっしゃると思います。「麻黄剤」が使えそうであれば小青竜湯がファーストチョイスです。もしも、小青竜湯で効果が今ひとつの場合には、大青竜湯類似処方を考えます。この場合、2つの処方を組み合わせるわけですが、目の痒み、くしゃくしゃの鼻を目標に麻黄湯(マオウトウ)+越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)、咳の方が強く現われている場合には麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)+桂枝湯(ケイシトウ)とするとよいそうです。
 さらに、症状が激しい場合には、上記の「麻黄剤」に抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤などを併用すると、眠気を回避しながら効果的だそうです。
 小青竜湯など「麻黄剤」で胃部不快感が出る場合や冷えがある場合(陰虚証)には、苓甘姜味辛夏仁湯などが適応します。苓甘姜味辛夏仁湯は「小青竜湯の裏処方」とも呼ばれ、胃に優しい生薬で構成されています。ご参考になれば幸です。

■ スギ以外の花粉症

 春のスギ花粉症以外にも花粉症は存在します。
 5月にはスギ・ヒノキの飛散は終了しますが、その後も症状が続く場合、あるいは新たに症状が悪化する場合はイネ科(カモガヤ・ハルガヤ・オオアワガエリなど)の花粉症が疑われます。
 8月になるとイネ科花粉も終息しますが、秋になって症状が出る人は雑草系の花粉(ブタクサ・ヨモギなど)の花粉症が疑われます。
 他にも、地域によりいろいろな花粉症が報告されています。また、外国では日本にない花粉症もあります。「所変われば花粉も変わる」ですね。
 協和醗酵のHPに写真入り(小さくて見づらいけど)で紹介されています;

スギ以外の花粉症
夏〜秋の花粉症

<花粉症・アレルギー性鼻炎関連記事>

関連記事を拾い読みしました。

■ スギ花粉、放射性物質の付着は大丈夫? (2012/1/20:日本経済新聞)

 今年もスギ花粉症の季節が近づいてきた。花粉量は平年並みかやや少なめと予想されているが、東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で、放射性物質を含む花粉を吸い込み被曝(ひばく)することに不安の声もある。国は「線量は低く被曝の心配ない」と発表、専門家もマスク着用など例年通りの花粉症対策を取るよう呼びかけている。

4人に1人が症状

 東京都内に住む会社員のN美さん(45)は昨年初めて花粉症にかかった。市販の花粉症治療薬を飲んで何とかやり過ごしたが「今年は原発事故の影響も心配なので、徹底した予防対策を取るつもり」。花粉が鼻から入るのを防ぐマスク、目を守るゴーグルをそろえ、耳鼻咽喉科も予約した。
 花粉症は細菌などから身を守る免疫システムが過剰に働いて起こるアレルギー症状。スギ花粉がアレルギーの原因物質となり、体内でヒスタミンなどの物質が放出されて粘膜などを刺激し、くしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどをつらい症状を招く。
 国民の約4人に1人が花粉症に悩まされている。「30~40歳代の発症が多いが、近年は小学生も増えている」(東京医科大学耳鼻咽喉科の北村剛一講師)。有病率はこの10年で約10ポイント増えた。
 今年の花粉量は平年並みかやや少なくなると環境省は予測している。非常に多かった昨年より全国的に少ない見込みだ。気になる放射性物質の量については、林野庁が福島県内87カ所のスギ花粉を調べ、昨年12月に中間報告を公表した。
 雄花の中の花粉に含まれる放射性セシウム濃度が最も高かったのは浪江町内のスギで1キログラム当たり25万3000ベクレルだった。これを基準に試算すると、花粉を吸い込んだ際に受ける放射線量は、大人で毎時0.000192マイクロ(マイクロは100万分の1)シーベルトだった。同庁は東京・新宿で観測される放射線量(毎時約0.053マイクロシーベルト)を示しながら「人体への影響はないレベルだ」とした。
 独自の研究報告もある。首都大学東京の福士政広教授は12月23日に、東京・奥多摩地区の杉林5カ所で調査。放射性セシウム濃度は花粉1キログラム当たり50~200ベクレルと福島県内の花粉よりもさらに低く、「影響があるとは考えにくい」(福士教授)と指摘する。
 ただ低線量でも体内で被曝するのは事実で、その健康影響ははっきり分かっていない。東京大学アイソトープ総合センターの桧垣正吾助教は「気になる人はマスクなどで花粉を吸い込まない工夫をするとよい」と助言する。原発事故直後に飛散した放射性物質は花粉の外部にくっついていたが、今年はスギが取り込んだ放射性物質が花粉に移行している。このため「花粉の大きさを通さないマスクで十分に防げる」(桧垣助教)。

清浄機で除去可能

 東大は事故直後にマスクで放射性物質が防げるか本郷キャンパス(東京・文京)内で実験。マスク外側で放射性物質がとどまるのを確かめた。放射性セシウムは直径3マイクロメートル以上の物質にくっつきやすい。スギ花粉は約30マイクロメートルあり、花粉対策用マスクの着用や空気清浄機で取り除けるという。
 マスクやゴーグルのほかにはどんな予防策があるのか。最も重要なのは花粉に触れないこと。晴れて気温が高い日や雨が上がった翌日などに飛びやすいのを頭に入れておこう。都市部では昼前後や日没後などが花粉が多い時間帯なので不要な外出は避ける。携帯電話でその日の花粉情報を得るなどうまく利用しよう。
 表面がつるつるした素材のコートや帽子などでガードするのも有効だ。家に帰ったら玄関先で花粉を払い落とし、屋内に持ち込まない。洗顔はしっかりとする。「せっけんで洗った後のすすぎが不十分だと花粉が皮膚にとどまり逆効果のこともある」(理化学研究所の石井保之チームリーダー)ためだ。鼻を洗浄するのも効果がある。
 薬は症状の緩和が期待できる。ヒスタミンの働きを抑える薬と鼻づまりが強い場合などに使うロイコトリエン拮抗薬が代表だ。抗ヒスタミン薬のうち第1世代は眠気を誘う成分が入っているタイプもある。眠くならない第2世代も出ており、病院で処方されるのはこちらが中心だ。薬は花粉が飛ぶ1~2週間前までに服用し始めるのがコツだ。

2012年の花粉症対策.jpg

 症状が改善しないときは病院でアレルギー検査を受けるのも手だ。重症だと分かれば、「3~5年をかけて根本的に治療する免疫療法なども検討する」と東京医科大の北村講師は話す。現在はスギ花粉から抽出したエキスを注射しているが、舌下に含ませて吸収する臨床試験が進んでおり、順調なら数年後にも実用化する見通し。このほかに過敏になった鼻粘膜をレーザーで焼く手術もある。早めの対策で花粉シーズンを乗り切りたい。

(吉野真由美)

■ 秋の花粉症… ブタクサ、ヨモギでも発症(2011年8月 読売新聞)

 花粉症といえば春のスギがまず思い浮かぶが、別の植物の花粉も症状を引き起こす場合がある。これからは、ブタクサやヨモギといった草花の花粉症シーズン。だれもがいつ発症するかわからないだけに、秋の花粉症についても知っておこう。 
 「小学4年生くらいから秋になると体調を崩し、風邪だと思っていました」
 千葉県船橋市の保健師、高橋友子さん(42)がブタクサの花粉症とわかったのは20歳の時。そういえば、自宅裏の空き地には雑草が茂っていた。同じころ、スギやヒノキの花粉が飛ぶ春にも症状が出始めた。高橋さんは「秋は春ほどひどい症状ではないが、マスクをして用心している」という。

秋に花粉症の主な原因となるブタクサとヨモギはキク科の雑草で、ブタクサは特に関東地方に多いといわれる。例年8月下旬から花粉が飛び始め、9月中にピークを迎えて10月まで続く
 千葉大耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学教授の岡本美孝さんによると、地域差はあるものの日本人の1~2割程度がブタクサやヨモギの花粉に反応する抗体を持っており、そのうち一部の人が発症する。知らずに群生地に入って花粉を大量に吸い込み、顔が腫れ上がるなどのショック症状が出た例もあるので注意が必要だ。
 秋は、野山での紅葉狩りや河川敷でスポーツを楽しむ時など、花粉に触れる機会が増えがち。目のかゆみや鼻水など気になる症状があったら、医療機関で検査し、原因を知っておくことが大切だ。

スギ花粉も、秋の飛散が最近注目されている。NPO花粉情報協会によると、10月半ばから12月上旬くらいまで観測され、日によってはブタクサやヨモギをしのぐほど。春ほど量は多くないが、連日飛ぶようなことがあると、症状が出る人もいる
 同協会事務局長の佐橋紀男さん(東邦大理学部訪問教授)が、船橋市で毎年行っている調査によると、秋にスギ花粉の飛散が多かった翌年は、春の飛散数も多くなる傾向にある。佐橋さんは「地球温暖化の影響か、秋でも気温が高くなる日があり、いわゆる狂い咲きのような形で花を咲かせてしまうことが増えたのではないか」と話す。
 症状が重く生活に支障が出る場合は、薬を使った治療がある。春のスギ花粉症と同じで、抗ヒスタミン剤の服用が主となる。
 ブタクサやヨモギの花粉症患者の中には、特定の食べ物で口にかゆみを感じる口腔アレルギー症候群を発症する人もいる。メロン、スイカ、セロリ、ニンジンなどが原因で起きる。のみこむとショックを起こす場合もあるので、かゆみを感じたら無理に食べてはいけない。火を通して食べられるものは通せば、症状は出ないといわれている。
 岡本さんは「ブタクサやヨモギは花粉の飛散距離が数十メートルと短いので、一番の予防法は近づかないこと。それでも症状のひどい人は、早めに受診して治療を受けてほしい」としている。

■ あなたの処方箋:蓄のう症(2011年3月:毎日新聞)

1 花粉症などとの合併が増加

 横浜市内に住む会社員の女性(35)は今年1月、インフルエンザを発症した際、ひどい鼻づまりに悩まされた。鼻汁やたんは濃い黄色で、医師は「急性副鼻腔(びくう)炎(蓄のう症)を併発」と診断。女性は「常に不快なにおいを感じ、食べ物の味もいつもと違った」と振り返る。インフルエンザの回復とともに鼻の症状も消えた。
 鼻の周りには、副鼻腔と呼ばれる大小の空洞がある。蓄のう症は、空洞の内側を覆う粘膜に炎症が生じた状態で、正式には副鼻腔炎と呼ばれる。代表的な症状は、鼻づまりや黄色や緑色の粘り気の強い鼻汁、のどの後方にたんが下がってくるような感覚だ。「蓄膿(ちくのう)」の名の通り、空洞に膿(うみ)がたまるため、臭気を発したり、うみが骨を圧迫し、頭や鼻の付け根、ほお、目などに痛みを感じることも多い。1カ月以内に症状が消える急性の症状を繰り返すうちに慢性に移行する。
 鼻は、吸い込んだ空気を温めて加湿し、空気中のほこりを取り除く機能を果たす。鼻や空洞の内部を覆う粘膜の表面には繊毛があり、ほこりを吸着した鼻汁をベルトコンベヤーのように少しずつ送り出し体外に排出する。
 八尾和雄・神奈川歯科大教授(耳鼻咽喉(いんこう)科学)によると、風邪などで粘膜が腫れると繊毛機能が低下し、鼻汁が排出されずにたまる。そこに外部から混入した細菌が感染・増殖し、鼻汁がうみになる。粘膜の腫れやうみで、空洞と鼻をつなぐ穴(自然口)がふさがると空気が通らなくなり、慢性化する。八尾教授は「生活環境や栄養状態の向上で免疫力が高まり、風邪などに続いて起こる単純な蓄のう症は減った一方、花粉症などのアレルギー性鼻炎と合併して発症する人が増えている」と指摘する。

2 早期なら投薬や空洞洗浄で完治

 鼻周辺の空洞(副鼻腔(びくう))の粘膜に炎症が起き、うみがたまる蓄のう症(副鼻腔炎)。急性の場合の治療は、抗生物質や消炎剤などの内服が主流だ。
 耳鼻咽喉(いんこう)科専門、神尾記念病院(東京都千代田区)の神尾友信院長は「最近は蓄のう症に有効な抗生物質が増えている」と話す。投薬により粘膜の腫れがひくと、うみは自然に排出される。並行して、鼻腔内と空洞をつなぐ小さな穴(自然口)などからノズルを入れ、空洞内に生理的食塩水や抗生物質を注いでうみを洗い流す処置をすることもある。聖路加国際病院(東京都中央区)の柳清・耳鼻咽喉科部長は「慢性化していても、空洞の洗浄で治る例がある」と指摘する。
 東京都府中市の地方公務員、大下敏隆さん(48)は昨年2月、倦怠(けんたい)感と鼻の中の不快な臭気を感じ、左のほおの裏側にある空洞の蓄のう症と診断された。二つの病院で治療を受け、抗生物質を延べ約4カ月半服用したが、ほおの違和感はなくならない。医師には内視鏡を使った手術を勧められた。
 「手術は避けたい」と悩み、知り合いの医師の紹介で、10月に柳医師の治療を受けた。空洞の洗浄を1週間に1回、計8回にわたって受け、服薬も続けた。症状は改善し、12月には空洞内のうみが消え、治療は完了した。大下さんは「洗浄は手術に比べ楽で、経済的負担も軽い。高い洗浄技術を持つ医師に出会え、感謝している」と話す。
 しかし、一般的には、慢性化するほど投薬や洗浄の効果は出にくい。神尾院長は「鼻の調子が悪くてもすぐには病院に行かない人が多いが、慢性化や重症化を防ぐには、早期発見、早期治療が大事。早めに耳鼻科を受診して」と呼び掛ける。

3 重症なら手術、通院できる場所で

 投薬や鼻周辺の空洞(副鼻腔(びくう))の洗浄でも症状が改善しない重症の場合は、手術での治療が必要になる。全身麻酔をかけ、医師が鼻の穴から直径4ミリの内視鏡を入れ、モニターに映った患部の画像を見ながら、鉗子(かんし)類で腫れた粘膜を切除したり、空洞と鼻の穴をつなぐ小さな穴(自然口)を広げるなどして、空気の通り道を確保する。以前は、歯茎から広く切開し、病変部の粘膜を根こそぎとる手術が一般的だったが、神奈川歯科大の八尾和雄教授(耳鼻咽喉(いんこう)科学)は「現在は、元々の形態や機能をできる限り温存する方法が主流で、患者さんの負担も減った」と説明する。
 東京都港区に住む会社員の女性(38)は一昨年から昨年にかけて頻繁に風邪を繰り返し、体の不調に悩まされた。頭が重く、息苦しいうえ、片頭痛もあった。近所の病院で蓄のう症と診断され、抗生物質を服用したが治らない。やがて嗅覚(きゅうかく)が鈍り、カレーを作っていても匂いがしなくなった。総合病院の耳鼻咽喉科に駆け込むと、レントゲンの画像から、鼻の穴の天井にある匂いを感じ取る粘膜が腫れでふさがっていることが分かった。
 女性の場合、左右の鼻の穴を隔てる壁が片側に曲がり、ぜんそくとアレルギー性鼻炎の既往症もあることが蓄のう症の慢性化につながっていた。昨年9月に入院し、曲がった壁の軟骨と骨の一部、さらに粘膜が腫れた鼻内の突起の一部を切り取るとともに、うみを洗い流す手術を受けた。退院後もかさぶたがとれるまで数回通院し、約1カ月後に完治した。女性は「両方の鼻が通り、料理はもちろん、花や風の匂いも感じられる。以前より集中力が増し、ぜんそくも軽くなった」と喜ぶ。
 手術の入院期間は通常、1週間前後。聖路加国際病院(東京都中央区)の柳清・耳鼻咽喉科部長は「鼻の手術は術後の処置がとても重要で、不十分だと癒着が起きる。手術は退院後も週に1度、最低1カ月は通えるところで受けるのが望ましい」と話す。日帰り手術を勧める病院もあるが、柳医師は「無理ができないので奥の方の患部を取りきれず、再発につながるケースもある」と指摘する。

4 子どもは早期治療で慢性化防いで

 東京都中央区に住む中学1年の女子生徒(13)は09年11月、高熱と頭痛、片目のひどい腫れと痛みを訴えて緊急入院した。診断は、細菌による化のう性の炎症(蜂窩織炎(ほうかしきえん))。視神経に悪影響を与える恐れがあり、すぐに手術を受けた。まゆの下を切開して10日間ほどうみの排出用の管を差し、抗生物質の点滴もした。高熱のためほとんど食事をとれず、体重は5キロも減ったが、目の後遺症はなく回復した。
 炎症の引き金となったのは、目の近くの空洞(副鼻腔(びくう))で起きた蓄のう症だった。母親は「医師に聞いて驚いた。もっと早く病院に連れていけば」と悔やむ。女子生徒は時々、急性の蓄のう症になることがあった。発熱の数日前も緑色の鼻汁が出たが、すぐに止まったため、治ったと思い込んだという。
 一般的に、子どもは急性の蓄のう症にかかりやすい。鼻周辺の空洞が未発達で、細菌やウイルスが入り込みやすいからだ。耳鼻咽喉(いんこう)科専門、神尾記念病院(東京都千代田区)の神尾友信院長によると、主な症状は鼻づまりと鼻汁。口呼吸やいびき、注意力や記憶力の低下などから、家族が気付くことも多い。神尾院長は「子どもの場合は抗生物質の効果が出やすい。成人性の慢性蓄のう症への移行を防ぐには、早期の発見・治療が大事」と指摘する。顔面の骨が発育中のため、原則として15歳以下では鼻の手術はしないという。
 特に新生児や乳幼児では、上あごの骨の骨髄炎につながることもある。神奈川歯科大の八尾和雄教授(耳鼻咽喉科学)は「鼻の換気が蓄のう症の予防になる。鼻用の吸引器を使ったり、口で吸ってあげたりして、鼻汁がたまらないよう気を付けて」と話す。

■ 花粉症対策レポート(2011年2月:朝日新聞)

1.花粉のシーズン到来! 早めの治療開始が症状を抑える

 晴れた平日の午後。東京・銀座のオフィスビルの一画にある慶友銀座クリニック。耳鼻咽喉科とアレルギー科を掲げています。待合室は、目が真っ赤に充血している人、ティッシュを手放せない人、マスクをしている人でいっぱい。いよいよ花粉のシーズンが本格的に始まったのです。
 「1月中ごろから、花粉症の症状を訴える患者さんが増えてきました」。慶友銀座クリニック 院長の大場俊彦さんは、そう語ります。花粉症を発症する人たちにとって、本当にイヤーな季節がやってきました。「むずむずする」「違和感がある」と訴える患者さんたち。すでに、クリニックに診察に来ている人も少なくないそうです。
 この花粉症は、最近の30年で急速に患者が増えました。正確な患者数は分かっていませんが、人口の30%近いという調査結果もあります。特に、今年は、花粉症の原因となるスギ花粉が昨年の10倍以上という予測もあります。例年より重症化する患者さんが増えるだけでなく、新たに発症する方も少なくないでしょう。
 花粉症の症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまりという鼻の3症状。そして目の激しいかゆみや充血、涙目。さらにはのどのかゆみ、皮膚のかゆみやただれ、全身の倦怠感といった症状が出る人もいます。
 くしゃみや鼻水といった症状は、一見風邪の症状と似ています。風邪との違いはひっきりなしに出るくしゃみと、水のようなさらさらした鼻汁です。風邪の場合は、黄色く粘っこい鼻汁が出ます。もちろん、風邪薬を飲んでも花粉症の症状は治まりません。

銀座慶友クリニックの大場俊彦さん
 銀座慶友クリニックの大場さんの話:「市販の薬も効きますよ。でも、やはり耳鼻科の先生を受診してください。鼻の構造から鼻づまりが起きやすかったり、副鼻腔炎などの別の鼻の病気が隠れていたりするかもしれませんから。それに、きちんと先生と相談することで、症状に合ったお薬が出せます。花粉の飛散に合わせて段階的に薬の強さを変えていくことができます。花粉症の薬には、眠気を誘う副作用が出る患者さんもいて、そうした相談も専門の医師なら受けられます。」

スギ花粉前線(日本気象協会)

2.今年は10倍? 重症化すると…

 今年は、例年に比べ、圧倒的に多数の方々が花粉症で苦しむのではないか、と言われています。花粉症の原因となるのは圧倒的にスギ花粉ですが、その量が昨年の10倍以上にもなると言われているからです。
  ピークは、スギの花が咲く2月から4月にかけて。後を追ってヒノキの花粉が3月中旬から5月にかけて飛散します。
 環境省が昨年12月に発表した予測によると、スギ、ヒノキの花粉の飛散量は全国の8割の地点で多くなるとのことです。

 環境省は12月24日、来春のスギ、ヒノキの花粉の総飛散量の予測(速報)を発表した。観測地点がある全国の8割以上の地域で飛散量が多く、花粉症の症状が重くなる恐れがあるという。同省は早めの予防対策を呼びかけている。
 夏の日照時間が長かった東日本と近畿では、例年に比べると総飛散量が1.1~2倍になる。一方、中国、四国、九州は7月の日照不足と大雨の影響で、多くが例年の5~8割程度に減る。
 花粉の飛散量は1平方センチメートル当たり2千個を超えると、重症化する人が多くなるとされる。北海道や鹿児島県など一部の地域をのぞき、その水準を超える予測だ。
http://www.asahi.com/health/news/TKY201012240432.html

元々の環境省データはこちら
 昨シーズンは花粉の量が例年より少ない年でした。その昨年と比べると、特に東海地方や近畿地方の一部では、10倍以上になる地域があると予測されています。
  また、関東から北の地方と西日本でも、昨シーズンの2倍から6倍になると地域が多いという予測です。
 飛散量に影響を与えるのは、前年の夏の気候。気温が高く、日射量が多いと花粉の数が多くなるのです。 昨年夏の暑さは「酷暑」と言われるほどひどいものでしたね。その酷暑がスギの花粉を育てたのです。
 飛散開始時期は冬の気温と関係します。冬の初めに気温が低く、その後気温が高い場合が最も開花が早くなるのです。
 首都圏の場合、「飛散開始日」は2月初旬と予測されていますが、これは「1平方センチメートルあたりの花粉数が連続して1個以上となった初日」のことで、あくまで観測上のもの。敏感な人は1月ごろから症状が出ているようです。
 さて、花粉が飛びやすい気象条件というのがあります。(1)晴れて、気温が高い日(2)空気が乾燥して風が強い日(3)雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いた後です。
 また、花粉の多い時間としては、正午前後と日没後。
  お昼前後は、午前中に飛んだ花粉が気温が高くなって都市部にまで来る時間帯。上空にあがった花粉が、日の落ちた後に地上に落ちてくるためと考えられています。
 環境省は、リアルタイムで花粉の飛散状況を監視するシステムを1月31日から始めています。

 「花粉の飛ぶ量が多くなると、これまで症状の出なかった人に症状が出るほか、すでに症状がある人はより重くなる傾向があります」と話すのは、慶友銀座クリニック院長の大場俊彦さんです。
 花粉症は、アレルギー源である花粉に曝露すればするほど、症状が重くなります。
  くしゃみの回数が増えるほか、鼻水がひっきりなしに出てきます。さらに問題なのは鼻づまり。鼻の粘膜の炎症が進み、鼻がふさがってしまうのです。すると鼻呼吸が困難になって、口呼吸をするしかない状態に。充血や眼のかゆみなど、眼の症状も同様に炎症が進んでひどくなります。
 症状がひどくなると、どうなるのか。アスパラクラブで、会員の皆様にアンケートを行ったところ、3408人の方からいただいたご回答のなかから、「花粉症でつらかったエピソード」をご紹介します。
「不眠になり、不機嫌になって家庭不和」(女性、60代、富山県)
「夜布団に横になることができず、座って寝たことがあった」(女性、50代、東京都)
など、とにかく鼻や目の症状で夜眠れない!という方がたくさんいらっしゃいました。
寝不足から昼間の仕事にも支障があるなど、日常生活への影響が大きいようです。
 また、「大学入試の朝、くしゃみで鼻血にまみれながら入試に挑みました」(女性、50代、愛知県)
「くしゃみ、鼻水が止まらず、主催していた会議が成立せず関係者に迷惑をかけてしまった」(男性、50代、茨城県)という方も。
 花粉症シーズンを少しでも快適に乗り切るには、こうなってしまう前、症状がまだ出てないか軽い段階で、早めに治療を始めることポイントです。

銀座慶友クリニックの大場俊彦さん
銀座慶友クリニックの大場俊彦さんの話:「快適な生活を送るためには、何よりも早めに治療を始めることです。症状が軽い段階で治療を始めれば、弱い薬で効果が出ることが多いのです。症状がひどくなると、弱い薬では効かなくなり、効果も高い代わりに副作用も強い薬を使わなければなりません。しかし、眠気を催す副作用から、業務で運転なさる患者さんなどには使えない場合も多いのです」

3.対策の基本は? 花粉を避けるグッズの紹介

 花粉症の人にとってはにっくき花粉。 花粉症は、原因になる花粉を吸い込む量が増えれば増えるほど症状が重くなると考えられています。症状を少しでも抑えるためには、薬を飲むことと同時に、花粉そのものを寄せ付けないということも重要です。
 花粉は晴れて風の強い日や、雨が降った翌日などが特に多く飛びます。天気予報で花粉情報を欠かさずチェックしましょう。
 外出時に、マスクやめがねで鼻や口、目を保護するのはとても効果があります。 つばのついた帽子や、ポリエステルなどの表面がなめらかな素材の服も効果的です。逆に、ウールやフリースなどは花粉が多くついてしまうので、避けた方が良いようです。
 マスクをするだけで、鼻の中に入る花粉の量が3分の1になると言われています。花粉症用のマスクや、顔にフィットした立体型、また不織布素材のマスクが効果が高いといます。
 アスパラクラブで実施した花粉症アンケートでも「マスクのあるなしではかなり症状の出方が違う」(女性・40代)など、外出時のマスクを多くの方が実践していました。
 一方で、
「少年野球の審判で、帽子・メガネ・マスク姿で誰だか分からないと言われた」(男性・50代)
「メイクが崩れる」(女性・30代)などといった不満の声もありました。
 1月中旬から「花粉症対策コーナー」を設置した東急ハンズ銀座店の濱野知祥さんによると、「最近は、目立たずに防ぎたいというニーズに応えたグッズが多いですね」と言います。
 同店では約100種類のグッズを展開しています。そんなかでやはり大きな面積を占めているのがマスク関連。素材や形に工夫を凝らしたものや子供用、かわいらしい柄のついたマスク、携帯するときのケースなどが並びます。なかでも人気なのが、「見えないマスク」です。
 鼻の穴の中に、小さなフィルターを入れる「ノーズマスク」と呼ばれる商品や、効果は未知数ですが、鼻の周りや中にクリームを塗って、花粉が入るのを防ぐと謳う商品もあり、コンスタントに売れているそうです。
 さて、アンケートのなかには、「鼻の中を水洗い、すぐに楽になりました」(男性・60代)という方もいらっしゃいました。
 「鼻うがい」と呼ばれる方法で、鼻の中の花粉を洗い流すのですが、あまり頻繁にやったり、水道水で行うと、粘膜を傷つけて、余計症状が重くなる場合があるので、注意しましょう。鼻うがいをする場合は、生理食塩水(0.9%の塩水)で行いましょう。
 マスクで鼻や口は覆っても、外出時には体や服に花粉がついてしまいます。その花粉を家の中にそのまま持ち込まないことも大切です。
 家に入るときは、玄関の外で服や髪の毛、持ち物についている花粉をよく払うこと。布団や洗濯物はなるべく室内に干す、窓をむやみに開けない、空気清浄機を使うといった対策も効果があります。
 東急ハンズで見つけたのは、掃除機のノズルに差し込んで、服や髪についた花粉をすいとるグッズ。棒に突起と、小さな穴がたくさんがついていて、髪の毛や衣類、カーテンなどを吸い込まず、ほこりや花粉だけが吸い取れるようになっています。
 また、衣類や布団にスプレーすることで表面を滑らかにし、花粉を付きにくくする商品などもありました。
 もちろんこまめな掃除も効果的です。ただ、掃除機の場合は排気で花粉を巻き上げてしまう可能性があるので、濡れぞうきんなどで拭き掃除をする方が良いようです。

■ 髙島系子の「カラダが教えてくれる食生活」(2010年2-3月:nikkei WOMAN Online)

花粉症と「風邪」の意外な関係(2010年2月26日)

 春一番を皮切りに、強い風が吹き荒れる春。中医学では、この「風」は春という季節の象徴と考えている。「風は外だけでなく、体の中でも吹き荒れる」なんて考えるところが独特だ。こじつけみたいに思えるかもしれないが、春にイライラしやすいのも、頭に血が昇りやすいのも、この「体の中の風」のせいなのである。

黄耆(おうぎ)」というマメ科の植物

 もうちょっと詳しく説明しよう。体の中の風は、自然界の風と似たような症状を起こす。特徴は、「突然起こる」「体の上のほうに症状が現れやすい」「変化しやすい」ということ。イライラや頭に血が昇りやすいという状態も、この条件にぴったりと一致する。これらの症状は、「酸味」のある柑橘類で、春特有のイライラを撃退実はダイエットに最適の春、「苦味」で余計なものを「出す」「下げる」紹介したように、体の中のエネルギーである気のめぐりが、春のエネルギーに揺さぶられて起こるのだけれど、もっとダイレクトに、外界の「風」が体の中に入ってきて起こる病気がある。それは何か?
 答えは、「かぜ」。そう、鼻水や咳や熱が出たりする、あのかぜのことである。「なんだか言葉遊びみたい」と思うかもしれないけれど、かぜを「風邪」と書く理由に思いを馳せると、案外納得がいくと思う。
 今では、かぜはウイルスが引き起こすものだと誰もが知っているが、それが分からなかった時代にも、ちゃんと対処法は存在していた。「風のような症状を引き起こす邪(じゃ)が体内に入ってきた!その邪を追い出せば病気は治る」と考えたのだ。それがかぜ=風邪の語源なのである。
 外界から体内に侵入して、風のような症状を引き起こす邪を、中医学では風邪(ふうじゃ)と呼ぶ。ここではかぜとの混同を避けるために、風の邪、と呼ぶことにする。さてこの風の邪、なにもかぜを引き起こすウイルスのことだけを指すわけではない。実は、花粉症の原因である花粉も、風の邪のひとつなのである。

花粉症を軽くする、防衛力アップ作戦

 さて、ここからが今回の本題。花粉が風の邪のひとつだとしても、「追い出す」のは、そう簡単なことではない。けれど、考えてみてほしい。花粉がたくさん飛んでいても、まったく症状を起こさない人もいる。そして、花粉症であっても、必ずしも花粉量が多い年に症状がひどくなるというわけでもない。「どういうわけか今年は去年より楽」という年もあれば、その逆もあるはずだ。その理由は、体の中の“防衛力”の違いにある、というのが、中医学の考え方だ。
 この防衛力には、衛気(えき)という名前がついている。体のエネルギーである「気」の一種で、総元締めは呼吸器である「肺」である。肺が、衛気というバリアを、しっかりと体表面(鼻や口、目も含む)に張りめぐらせていれば、かぜもひきにくいし、花粉症の症状も出にくくなる、というわけだ。もちろん、その防衛力アップの味方となる食べ物や薬も存在する。代表格は「黄耆(おうぎ)」というマメ科の植物。
 日本では、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」や「帰脾湯(きひとう)」などの漢方薬に配合されているため、「薬」という扱いになっているけれど、シンガポールや中国では食品扱いで、よくスープの素などにも入っている。このほか、「苦手な季節で分かる『体の癖』」で紹介した冬の養生や、ごく一般的な健康法、つまり、たっぷり睡眠をとるとか、栄養のバランスに気をつけるとか、そんなことも大いに役に立つ。
 ただ、残念ながらこういった予防対策は、症状が出てからではちょっと遅い。花粉が飛び始めたら、できる限りの「追い出し作戦」と症状緩和に努める必要がある。そのためには、自分の花粉症の症状が「熱タイプ」か「冷えタイプ」かを見極めることが大切だ。次回は、そのチェック法とそれぞれの対策を紹介したい。

■ 「寒」と「熱」、花粉症タイプで対処法が違う(2010年3月5日)

寒タイプ、熱タイプ、それぞれに合った対処法を…

 前回のコラムで花粉症の予防対策について紹介したが、そうこうしているうちに花粉が本格的に飛び始めたようだ。シンガポールで迎える2度目の春、これからどんどん暑くなる一方だが、花粉症のことを考えると、この暑さもなんだかありがたく思えてくる。そう、東京にいたころは私も花粉症に悩む一人だった。それでも、「朝晩、目や鼻がムズムズする」という程度で済んでいたのは、やはり中医学的な対策が功を奏していたのだと思う。
 さて、具体的な対処法に入る前に、ちょっとおさらいを。前回、花粉症もかぜも、外界から体内に侵入して自然界の風のような症状を引き起こす「風の邪」によるもの、という話を書いた。この「邪(じゃ)」という概念について、もう少しだけお付き合いいただきたい。
 「邪」とは、体にヨコシマな影響を与える気候の変化や、病理物質(ウイルスや細菌、花粉なども含む)、というふうに考えると分かりやすい。そしてこの邪は「風」ばかりでなく、寒、暑、湿、燥、火(熱)という性質を持ったものもある。ちなみにこの6つ、ひっくるめて「六淫の邪(ろくいんのじゃ)」なんて呼ばれていて、それぞれ単独で働くばかりでなく、コンビを組んで体に悪さをしたりもする。例えば、風+寒、風+熱、湿+熱、といった具合だ。
 ただし、この邪というのは、必ずしも外因そのものを指すわけではない。「どんな邪によるものか?」は、あくまでその人に現われた症状によって判断されるので、もともと持っている体質素因や、そのときの体の状態も当然絡んでくる。そのあたりも含めてのタイプ分けだということはぜひ理解しておいてほしい。
 さて、花粉症に最も関係が深いのは、「風+寒」と「風+熱」の邪である。ここでは「寒タイプ」と「熱タイプ」として紹介しよう。
寒タイプ」の症状として典型的なのは、「水のようにサラサラとした鼻水が止まらなくなる」ということ。放っておくとたら~り、なんてこともあるので、とにかくティッシュが手放せない。まだ外も寒く、花粉の飛散が始まったばかりの今は、こういう症状から始まる人も多いだろう。くしゃみは出るが、目のかゆさなどはあまりない。
 一方の熱タイプ」は、目の充血やかゆみが強いのが特徴。鼻水は粘りが強くて、ときに黄色っぽくなることもある。鼻づまりもかなりひどい。症状が長期化したときや、体にもともと熱がこもっている人に起こりやすい症状だ

「寒タイプ」は温め、「熱タイプ」は熱をこもらせない対策を

 なぜ、こんなタイプ分けが必要かというと、「寒タイプ」か「熱タイプ」かによって、対策がまったく違ってくるからだ。寒タイプは、その名前と症状からも分かるように、ある種の冷えが原因となっている。だから、まずは体を温めることが大切。風邪の引き始めと同じように、しっかり着込んで(特に首筋をガード)、温かいものをとることを心がけよう。
 「守る」だけでなく、花粉という風の邪を追い出す手だても必要だ。ここで思い出して欲しいのが、「味で分かる食物の“効き目”、『辛味』は“よぶんなもの”を追い出す」で紹介した辛味食材。体を温めて軽く発汗させる生姜、ネギ、紫蘇、山椒などが大いに役立つはず。ただし、辛味の中でも唐辛子のような刺激物は、鼻粘膜や結膜の炎症を悪化させるため、寒タイプでも避けたほうが無難。なお、このタイプの症状は、体の中の防衛力(衛気)の低下(前回のコラム参照)とも深い関係にあるので、寝不足や過労などを避けることも心がけて。
 一方の熱タイプは、必要以上に体を温めると、かえって目のかゆみや鼻づまりがひどくなることがある。冷たいものは「衛気」を作り出す消化器の働きを低下させてしまうので、熱タイプとはいえあまりとらないほうがいいのだが、体を温めすぎる食べ物、例えば唐辛子などはてきめんに症状を悪化させる。
 熱を体にこもらせないために、まずは旬の野菜をたっぷりとることを心がけよう。セロリ、ゴボウあたりは特によい。ミントティーや菊花茶、緑茶などを温かくして飲むのもおすすめ。また、紫蘇も「温性」ではあるけれど、痰を切る作用があるので、このタイプにも向いている。
 花粉症の漢方薬としては、「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」がよく知られているが、この薬は熱タイプには合わないのでご注意を。「麻黄(まおう)」というエフェドリンの原料でもある生薬が比較的たくさん入っていて、温めて発汗させる作用が強いため、寒タイプの鼻水なら1包飲んだだけでぴたりと止まることもあるのだが、熱タイプの人が飲むと、とたんに目のかゆみが強くなったり、のどが渇いてしかたがなくなったりする。
 なお、熱タイプには、体の熱を冷ましながら軽く発汗させる「銀翹散(ぎんぎょうさん)や「辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)」などがよく使われるのだが、そのときの体に合ったものを選ぶために、漢方薬を服用するときはやはり専門家にきちんと相談を。
 そもそも「寒熱」をきちんと見極めるのは意外に難しい。最初は寒タイプの症状が出ていても、だんだん温かくなるにつれて、熱タイプの症状に変わってくることも多いので、「私の症状は寒」と決めつけることのないようにしたい。まずは、じっくりと自分の体が発する「声」に耳を傾けよう。花粉症は季節限定の症状ではあるけれど、この機会に自分の体と向き合うことは、別の機会にも必ず役立つはずだ。

■ 患者を生きる:アレルギー性鼻炎(2010年3月:朝日新聞)

1 息苦しさ

 東京都の派遣社員、伊藤ゆみさん(42)=仮名=は2007年12月、エジプト旅行に向かう飛行機の中で突然、がまんできない息苦しさに襲われた。
 のしかかるような重さが頭に響き、鼻づまりもひどい。気圧の差で耳の奥が「ツン」としたときのような不快感が続き、呼吸も満足にできない。
 これまでは、鼻炎の症状が重くなる花粉の季節でも、病院で処方された薬を飲めば、鼻の通りは良くなっていた。だが、今回はどの薬も効かない。「どうなってしまったんだろう」。不安で、押しつぶされそうだった。
 機内では口呼吸でしのいだが、地上に降り立っても回復しなかった。ギザのピラミッド、アブシンベルの大神殿、考古学博物館。せっかくの観光地なのに十分楽しめない。ルクソールの神殿や王家の谷を訪ね、ナイル川を豪華船で下るクルーズも、甲板で盛り上がる家族を横目に、船内にこもりがちだった。
 帰国後、息苦しさはいくぶん和らいだが、鼻づまりや頭の重さは残った。勤めていた都市銀行では、為替業務を担当する職場にいた。海外から送金された輸出製品の代金を国内メーカーなど顧客企業に入金する。
 仕事の経験が周囲に認められ始めた時期だった。立場は賞与も出る待遇に切り替わり、責任もやりがいも感じていた。
 「花粉が飛び交う季節に、つらくなるのはいつものこと」。いま、治療のために時間をさくことはできない、と思った。かかりつけの東京厚生年金病院(新宿区)から、最後の手段として処方されていたステロイド剤の飲み薬を使うことにした。
 その薬は、副作用の眠気が強かった。顧客とは億単位の送金をめぐるやり取りもある。一円の間違いも許されず、集中力をとぎれさせるわけにはいかない。ますます重くなる頭痛と薬による眠気のどちらをとるか。自分の中で、苦しい駆け引きが続いた。
 鼻声での顧客との電話のやりとりが気になった。ストレスと緊張で、症状はさらに悪化しているようだ。秋の決算期を過ぎた08年12月、東京厚生年金病院に駆け込んだ。
 ハウスダストや花粉によるアレルギー性鼻炎に見舞われたのは、これが初めてではない。子どものころから、ずっと悩まされてきた。治療も、もう十分すぎるというくらい、続けてきた。

2 嗅覚の記憶が抜ける

 ハウスダストや花粉によるアレルギー性鼻炎に悩まされてきた東京都の伊藤ゆみさん(42)=仮名=の症状とのつきあいは長い。記憶をたどれば、幼稚園に通う頃からすでに鼻声で、いつも鼻がつまっていた。
 アレルギー性鼻炎の診断を最初に受けたのは小学生のころ。両親ともに鼻炎を抱え、子供心に「こんなものだろう」とあきらめていた。近くの耳鼻科で、根本的な治療法となる「減感作療法」をした覚えもある。
 アレルギーの原因物質をわざと一定期間ごとに皮下注射して、鼻づまりの原因になる過剰な免疫反応が起こらないようにする方法だ。だが、治療が終わるまで2年以上の通院が必要。当時、症状の改善が感じられるまで、通院が続かなかった。
 鼻炎や花粉症のつらさが身にしみるようになったのは、短大を出て旅行会社に就職してから。配属は航空券や現地の宿泊先を組み合わせ、企画した海外旅行を販売する営業部門だった。たばこを吸う人が多く、鼻づまりが悪化するのがわかった。みけんにのしかかるような、鈍い痛みがやっかいだった。
 当時はバブル景気の絶頂期で、取引先からの電話は鳴りっぱなし。終電での帰宅も珍しくなかった。たくさんの人とやりとりする仕事は性には合ったが、時間に追われた。
 症状は眠気の弱い子供用の市販薬でしのぐなど、工夫を重ねた。職場近くの耳鼻科にも通った。処方された点鼻薬は良く効いた。
 だが、薬をやめると、すぐに症状が現れた。一進一退だった。
 仕事にうちこむ日々でなによりの息抜きは、仕事を通じて広がった世界への海外旅行だ。スペイン、ドイツ、カンボジア。訪れた国は20カ国以上にのぼる。
 色鮮やかな街角の風景が印象に残る。黄金色に輝くタイの寺院。シンガポールでは、赤や黄色の彩り豊かなランの花や極彩色の鳥たちが迎えてくれた。
 ところが、旅先で出会った料理や花の香りがわからない。香辛料が利いたトムヤムクンや香草を乗せたグリーンカレーの味はわかっても「どんな香りがするの」。いつも、旅をともにした家族や友人にたずねた。嗅覚(きゅうかく)の記憶だけが抜け落ち、損をした気分だった。
 その後、旅行会社を退職。知人から「いい医師がいる」と紹介を受け、1999年1月、本格的な治療を決意した。

3 手術で世界が一変

 長年、ハウスダストや花粉によるアレルギー性鼻炎に悩まされてきた東京都の伊藤ゆみさん(42)=仮名=は1999年1月、鼻の内視鏡手術で知られ、都内で医院を開いていた足川力雄(あしかわりきお)医師(故人)の診察を受けた。
 当時、花粉症患者の急増が注目を集めていた。「日帰りでよくなる新しい手術があれば、受けてもいいな」。そう期待した。
 ところが、診察した足川医師は意外なことを言った。「あなたの場合、日帰りで治療できるレベルじゃない。すぐに大きな病院でちゃんと手術した方がいい」
 東京厚生年金病院(新宿区)を紹介された。石井正則(いしいまさのり)・耳鼻咽喉科(じびいんこうか)部長が診察すると、鼻炎による粘膜の腫れが慢性化して空気の通り道をふさぎ、副鼻腔(ふくびくう)と呼ばれる空洞と鼻との通路もふさがっていた。
 この通路が閉じてしまうと、内部で細菌が繁殖して副鼻腔炎を起こしやすくなる。悩まされ続けた頭痛は、この空洞に起きた慢性副鼻腔炎が原因だった。
 鼻炎の原因は家庭のホコリやダニ、花粉に対する強いアレルギー反応だった。さらに、左右の空気の通り道を隔てる壁が曲がる「鼻中隔湾曲症」があり、鼻閉を起こしやすくなっていた。
 まず、鼻中隔湾曲症と副鼻腔炎の手術。さらに当時、アレルギー性鼻炎の治療に導入され始めていた超音波メスで、腫れた粘膜を焼く手術が必要だと説明された。
 「大がかりな手術は絶対いやだ」。伯父がやはり慢性副鼻腔炎で、唇の裏側を大きく切って副鼻腔の炎症部分を除く手術を受けていた。術後の痛みのつらさを聞いていた。
 「手術では切ったり、縫ったりするんですか」。質問に、石井医師は鼻閉を治すために鼻の軟骨を削り、傷口を1針縫うこと、腫れた粘膜や副鼻腔炎の治療には内視鏡を使うので、縫う必要はない、と答えた。
 医学の進歩に驚いた。同時に、手術への不安を受け止めてもらえた、と感じた。
 手術は2度に分け、それぞれ1週間と3日間入院した。最初の手術が終わると、効果はすぐに表れた。鼻がすっと通る。これまで経験したことのない感覚だった。
 退院の前後で世界は一変した。街を歩くと飲食店から漂う香りが、うれしくて仕方がない。見慣れた風景が、彩り豊かな街に変わったようだった。

4 迷わず再手術

 超音波メスで腫れた粘膜を焼き固め、鼻の通りをよくする手術を1999年に受けた伊藤ゆみさん(42)=仮名=は、症状が劇的に改善した。だが、退院して数カ月後の診察で、粘膜が再び腫れる兆しが見つかった。
 伊藤さんが受けた超音波メスやレーザーを使った手術は出血量が少なく、日帰りの手術ですむことも多い。半面、1年程度で粘膜がもとにもどってしまうことがある。
 伊藤さんの場合、手術前ほど症状が悪化することはなかったため、粘膜の腫れを抑える飲み薬や点鼻薬で様子を見ていた。
 しかし、3年ほどたって鼻づまりが強まった。銀行に勤め始め、症状が急に悪化したエジプト旅行から1年たった2008年12月、東京厚生年金病院(新宿区)に駆け込んだ。
 「苦しかったでしょう」。CT検査の結果を見た石井正則・耳鼻咽喉(いんこう)科部長は言った。粘膜の腫れで完全に鼻がふさがり、重度の慢性副鼻腔(ふくびくう)炎も起きていた。「すぐに手術したほうがいいですね」
 鼻づまりと頭痛に耐えることを考えれば、再手術に迷いはなかった。だが、短期間で戻ってしまうのはもう、いやだ。
 「新しい機械を使いましょう。今度は粘膜を焼くのではなく、削り取ります。効果が長持ちする可能性が高いです」。石井医師のすすめで、新たに普及しつつあった「シェーバーメス」での手術を受けることになった。前の手術で効果を実感していたので、もう一度受けることへの不安はなかった。
 シェーバーメスは、腫れた粘膜を特殊な器具で薄く削り取る。出血は粘膜を焼く超音波メスよりは多いが、傷の治りがわりと早く、効果も持続しやすい、と聞いた。
 東京厚生年金病院では粘膜が腫れた鼻炎だけの場合、手術とその後の出血へのケアも含めて数日間の入院をするのが一般的だ。伊藤さんは副鼻腔炎の治療もあったので、10日間の入院が必要だった。
 勤め先の同僚に話すと、「鼻づまりで入院までするの?」と驚かれた。自分としては一刻も早く治して、仕事に集中したかった。長期休暇の日程を調整し、入院のための休みを確保した。
 3度目の入院。手術室で全身麻酔が効き始めるまで、医師らと軽口をかわすほど気持ちは落ち着いていた。しかし、術後の痛みは、前回の手術ほど軽くはなかった。

5 香り感じ気持ち新たに

 ハウスダストや花粉によるアレルギー性鼻炎に悩まされてきた東京都の伊藤ゆみさん(42)=仮名=は2008年12月、東京厚生年金病院(新宿区)で鼻の粘膜を薄く削り取る手術を受けた。
 10年近く前に受けた超音波メスで粘膜を焼く治療より長い、10日間の入院治療だった。腫れた粘膜の治療だけなら数日間の入院で済むが、伊藤さんの場合、副鼻腔(ふくびくう)炎の手術もあったため、長めの入院になった。
 伊藤さんにとって意外だったのは、術後の痛みが思っていたより強かったこと。上あごが歯を抜いた後のように熱っぽく、清潔を保つため鼻に入れた器具が傷口に触れると、痛みがはしった。
 でも退院後、徐々に痛みは消えていった。かわりに、鼻が通るさわやか感がよみがえってきた。手術後1年たっても経過はいい。いまは2カ月に1度の通院で、飲み薬はほとんど必要なくなった。唯一、続けている点鼻薬も花粉症の季節が終われば、さらに減らしてゆく予定だ。
 「もう、再発はこりごり」。伊藤さんは以前にも増して、鼻炎の予防に気を配るようになった。花粉の季節、通勤中は必ずマスクをして、外出から帰ったら花粉を落とす手洗い、うがいは欠かさない。ほこりっぽい場所は避け、部屋では加湿器をつける。
 それでも、花粉の多い晴れた日やホコリの多い場所で鼻にムズムズ感が走ると不安になる。「きれいな粘膜です。順調、順調」。受診のとき、石井正則・耳鼻咽喉(いんこう)科部長からのそんな言葉を聞くと、ほっとする。
 昨春。手術後初めての海外旅行で、母とモスクワに行った。タマネギなどの野菜を煮込んだボルシチから広がる甘い香り。オーブンで蒸し焼きにした鶏肉から立ち上るバターのにおいが、街をただよっている。
 「おいしそうなにおい」「あら、わかるようになったの。よかったわね」。なにげない会話に、うれしさがこみ上げてきた。
 きっと、健康な人から見ればささいなことなんだろう。でも、空気が鼻をすっと抜けていくのを感じる朝、新たなスタートラインに立ったような思いになる。仕事にも集中できるようになった。
 出勤前のひとときや、仕事のあいまに楽しむコーヒー。鼻の奥にしみこむ香りが、気持ちを前向きにしてくれる。

6 情報編 体質改善

 アレルギー性鼻炎は、体外からの異物(抗原)を攻撃する免疫のしくみが、鼻の粘膜で過剰に働いて起こる。
 独協医科大の馬場廣太郎(ばばこうたろう)名誉教授らが耳鼻咽喉(いんこう)科医と家族を対象に実施した全国調査によれば、2008年のアレルギー性鼻炎の有病率は約39%。ダニやハウスダストによって一年中鼻炎を起こす通年性の鼻炎は約23%、花粉などで特定の季節に発症する季節性の鼻炎(花粉症)は約30%で、10年前に比べ、通年性は約5ポイント、花粉症も10ポイント増えた。
 両方にアレルギー反応を起こす患者も多い。「患者を生きる アレルギー性鼻炎」で紹介した伊藤ゆみさん(42)=仮名=もハウスダストと花粉の両方が鼻炎の原因だった。
 日本医科大の大久保公裕(おおくぼきみひろ)准教授は「花粉を出すスギの増加や気密性の高い住宅の増加に加え、食生活の変化や衛生環境の向上で抗原に対する免疫反応が過敏になっている可能性がある」と説明する。
 症状を抑えるには、薬による治療が中心だ。「眠気の少ない薬や服用回数が少なくてすむ薬が登場し、使い勝手は格段に良くなった」と東京厚生年金病院の石井正則耳鼻咽喉科部長。鼻づまりやくしゃみなど症状や重症度、抗原の種類に応じて治療薬を使い分けるという。
 粘膜の腫れが慢性化して、薬でも鼻づまりが治まらない重症例や、鼻中隔湾曲症の治療が必要な場合は、手術の対象になる。シェーバーメスで、腫れて戻らなくなった粘膜を除いたり、レーザーで焼き固めたりして鼻の通りをよくする。
 ただ、薬や手術はいずれも対症療法。症状を起こすもとになるハウスダストや花粉を避ける努力が欠かせない。
 根本的な治療法となるのが、抗原に過剰に反応する体質を改善する減感作療法だが、定期的な通院を2年以上続ける必要があるのが欠点だ。そこで、花粉のエキスを口の粘膜から吸収させる「舌下減感作療法」という手法の研究が進められている。
 1回2分間、エキスを含むパンの切れ端を舌の下に置くだけ。注射の場合に比べて通院回数が半分ほどですむ。日本医科大と東京都は09年、この方法でスギ花粉症患者142人のうち、7割で症状が改善したとする研究結果をまとめた。アレルギー性鼻炎の新たな治療法として期待されている。