■ 風邪ってなあに?
A. 「病原微生物による一過性かつ軽症の感染症」です(わかりにくい・・・)。
イメージとして咳や鼻水が出る呼吸器系の風邪が多いのですが、広く考えると嘔吐下痢など消化器系も上記の定義に当てはまるので、私は「お腹の風邪」と説明することもよくあります。
風邪の原因となる病原微生物の内訳;
9割:ウイルス
1割:細菌・その他
流行する風邪の原因のほとんどはウイルスと考えてよいでしょう。
インフルエンザを筆頭に、ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザ・ウイルス、RSウイルス、ヒトニューモメタウイルスなどなど。
細菌の中で有名なのは「溶連菌」、その他でマークすべきは「マイコプラズマ」です。
Q. なぜ子どもは風邪を引きやすいのですか?
A. 子どもは風邪のウイルスに対する免疫がないからです。
子どものとき何回も風邪を引いて免疫ができ、抵抗力がついて風邪の回数が減ってきた頃に大人になります。
基本的に全く同じウイルスの感染は受けません。しかし風邪ウイルスの種類は200以上あり、それをヒトは一生かけてこなしていくわけです。
※ 例外もあり、中には1回かかっただけでは十分な免疫ができず、反復する感染症もありますね。
(例)インフルエンザ、RS、ノロ(以上はウイルス)、溶連菌
(院長のつぶやき)毎年4〜5月には風邪を繰り返す子どもが目立ちます。毎週レギュラーメンバーのように通院してます。だいたい、4月に保育園・幼稚園に入園した子どもですね。「うちの子はどこか悪いんじゃ・・・」と心配になりますが、回数は仕方がないと開き直るしかありません。ポイントはこじれて重症化しないか注意することに尽きます。
さて、人生の中で「風邪を引きやすい時期」は3つあるそうです;
① 乳幼児期:お母さんからもらった免疫が消える生後6ヶ月頃から始まり、集団生活が始まる頃には毎週のように風邪をもらってしまうこともあります(涙)。
② 子育て期:子どもが園でもらってきた風邪を、もらってしまうんですねえ。濃厚な接触ですから。
③ 高齢期:免疫力・抵抗力が低下してくるため。こじれやすいのも特徴です。
・・・まあ、頷けます(苦笑)。
Q. 鼻風邪もヒトにうつりますか?
A. ハイ。うつらない風邪はありません。
鼻風邪も、咳の風邪も、お腹の風邪・嘔吐下痢もみんなうつります。「治癒証明書」が必要な感染症だけがうつるわけではありませんよ。
さて、うつり方は以下の3パターンに分けられます;
□ 接触感染:
病原体を含んだ唾液、眼脂、吐物・下痢便が他人に接触して侵入
(例)一般かぜウイルス(ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスなど)、嘔吐・下痢を起こすウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)
□ 飛沫感染:
病原体を含んだ唾液・飛沫がくしゃみ・咳などで飛んで他人の喉・鼻に侵入
(例)一般かぜウイルス(ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルスなど)
□ 空気感染:
病原体を含んだ飛沫核(飛沫から水分が蒸発した微粒子)が空中に長時間浮遊し、遠くにいる他人にも到達(同じ部屋にいたらアウト!)
(例)麻疹(はしか)、水痘(みずぼうそう)、結核、(インフルエンザも?)
※ 空気感染を起こす飛沫核は粒子が小さい(5ミクロン未満)のでマスクの穴を通り抜けてしまいます。つまり市販のマスクは空気感染対策として無効です。
Q. 同じ風邪を引いてもヒトにより症状が違うのはなぜですか?
A. 症状はウイルスと罹ったヒトの体調のバランスで程度が異なります。
侵入してきたウイルスの数が少なく、体力が充実していれば軽く済むかもしれませんし、ウイルスが多く、寝不足で疲れていれば重くなるかもしれません。
中には「不顕性感染」といって、罹っても症状が出ないこともあるくらいです。
Q. 子どもの体温が何℃から「発熱」と考えるべきですか?
A. 私はこんな風に考えています;
・37.5℃台前半
→ ふだん通り元気なら病的とは考えません
→ なにか症状をともなうと病的と考えます
・37.5℃台後半
→ 一応、病的と捉えます
子どもは大人より体温が高めです。はしゃぎ回った後や食事後は37℃台が当たり前。38℃以上の場合は病的ですが、37℃台では微妙ですね。
Q. 風邪薬の中身ってなんですか?
A. 「対症療法薬」です。
前述の通り、風邪の原因の9割はウイルスです。
しかし、ウイルスをやっつける薬(抗ウイルス薬)は非常に限られています。インフルエンザウイルスと水痘ウイルス、ヘルペスウイルスくらい・・・風邪ウイルスの種類は200以上ですから、数種類だけとは寂しい限り。
では病院で処方される、あるいは薬店で売っている「風邪薬」とは何でしょうか?
それは「症状を和らげる薬(対症療法薬)」です。咳、鼻水、頭痛などのつらい症状を緩和し、自然回復を待つというスタンスの薬です。だから、症状がつらくなくなったら飲むのをやめても大丈夫(私は「忘れ時が止め時」と説明しています)。
残念ながらふつうの風邪に「根治療法」「特効薬」は存在しないのが現状です。
皆さんがおぼろげに考えている「風邪薬=抗生物質」は間違いです。次項を参照してください。
Q. あれ?抗生物質は風邪に効かないの?
A. 風邪の9割には効きません。
当然出てくる疑問ですね。抗生物質は細菌をやっつける薬であり、ウイルスには効きません。
風邪の中で抗生物質が有効な病原体は・・・溶連菌とマイコプラズマくらい。この2つは「風邪の原因の1割以下」に入るわけですから、単純に考えて抗生物質の効く風邪は1割以下という計算になります。
Q. 効く薬がないなら、小児科に行く必要はないのでは?
A. いえ、そんなことはありません(苦笑)。
小児科医は病気の知識と診療経験がありますので、受診された患者さんの経過をある程度予測することができます。仕事の内容は「風邪症状を訴えて受診する患者さんを診察して、自宅療養可能か、それとも積極的な治療が必要か、あるいは病院へ紹介して入院診療が必要か」と判断することであり、その一部に「抗生物質が必要な風邪、不必要な風邪の仕分け」があると考えてください。
(院長のつぶやき)漢方薬を診療に取り入れるようになってから、私自身の考え方も少し変わりました。漢方薬を上手に使うと、明らかに症状が楽そうで早く治る感触があるのです。正直言いまして、風邪の症状を和らげる力は西洋医学の薬より漢方薬の方が上だと思います。
Q. なぜ風邪で受診すると毎回抗生物質が処方されるのですか?
A. 抗生物質の歴史と功罪を理解する必要があります(ちなみに私はめったに処方しません)。
抗生物質が登場した当初、「感染症は薬で撲滅できる」と過信される傾向がありました。実際に、死因のトップだった結核は治る病気に激変し、リウマチ熱などの合併症に悩まされてきた溶連菌も見事に治ります。
この時のインパクトが医師の間に「抗生物質を使っておけば安心」という幻想を抱かせ、それは社会全体にも広がり現在に至っているのだと思います。
しかし、人類より長い歴史を持つ細菌類が黙って退場することはありませんでした。それは細菌との長い戦いの始まりに過ぎなかったのです。
現在、「薬剤耐性菌」という細菌の反撃に遭遇しています。抗生物質の攻撃をすり抜けて生き残った細菌は、「薬の効かない菌=耐性菌」となります。それが体内で繁殖すると・・・医学には為す術が無くなりますので、新たな抗生物質を開発して対抗します。するとまた耐性菌が発生し、それに対して抗生物質を開発し・・・エンドレス!
まさにこれが現状です。中耳炎に罹って内服の抗生物質を使用しても治らず入院治療、という事例が増えてきているそうです。
この悪循環を止める最も有効な方法は「抗生物質の適正使用」(交通規則に例えれば「車の制限速度遵守」)しかありません。
溶連菌やマイコプラズマなど必要な患者さんにはしっかりと使い、ウイルス性の風邪には処方しないというストイックさが求められているのです(※)。
小児科医全体はこのように考えていますが、中には「薬をたくさん出してくれるのがよい医者」という雰囲気が医師間・患者間にまだ残っていることも否定できません。
抗生物質の予防投与(こじれて細菌性肺炎になることが心配だから初めから内服させる)は、風邪の経過や予後を変えず、効果はないと報告されています。また、風邪の後半のあおっぱな(膿性鼻汁)に抗生物質を使用しても症状の軽減効果はないという報告もあります。
(院長のつぶやき)皆さんご存じのように、私はあまり抗生物質を処方しません。必要を感じて処方すると「エッ? 今日はどうして抗生物質が出るんですか?」と逆に聞かれることもあります(苦笑)。
しかし「ウイルス性の風邪だと思います。症状を和らげて回復を待ちましょう。」と説明したにもかかわらず、「抗生物質を出してくれないんですか?」と聞いてくる患者さんが今でもたまにいます(涙)。
※ かぜ症候群の中で抗生物質が必要な感染症(カッコ内は原因菌)
・溶連菌性咽頭炎(溶連菌)
・マイコプラズマ感染症(肺炎マイコプラズマ)
・急性副鼻腔炎・蓄膿症(インフルエンザ菌、肺炎球菌)
・急性中耳炎の一部(肺炎球菌、インフルエンザ菌)
・細菌性腸炎の一部
(病原性大腸菌、サルモネラ、キャンピロバクター)
・急性喉頭蓋炎(インフルエンザ菌)、など。
Q. 「風邪がこじれる」ってどういうことなんですか?
A. 経過中に悪化・重症化することですが、医学的には2つのパターンがあります。
1週間で治るはずの風邪が、熱が下がらなくて肺炎を起こして入院!
さて、こんなとき体では何が起きているのでしょうか。実は2つのパターンがあります。
① ウイルスによる合併症:
喉・鼻などの上気道で悪さするウイルスも、時に奥に入り込んで気管支炎・肺炎を起こすことがあります。まれながら、髄膜炎や脳炎を発症することもあります(例:インフルエンザ脳症など)。
《検査》炎症の指標となる検査値(白血球数、CRP)は正常〜軽度異常にとどまります。
《治療》当然、抗生物質は無効であり、残念ながら現代医学では防ぐことは困難です。
② 細菌の二次感染:
ウイルス性の風邪で体力・抵抗力が弱っているときに、細菌がここぞとばかりに侵入して増殖し悪化する病態です。
《検査》炎症の指標となる検査値(白血球数、CRP)は異常高値となります。
《治療》細菌ですので抗生物質が有効です。
Q. 鼻水がもう何週間も出ているのですが・・・抗生物質は必要ないんですか?
A. 必要な病態もありますが、すべてではありません。
鼻水が続く場合、一番多いのが風邪の反復です。集団生活を始めた年やお兄ちゃん・お姉ちゃんが入園してお土産に風邪を持ってくるパターンが多いですね。
さて、鼻水をよく観察してください。サラサラ透明ですか、それとも色がついた青っぱなですか?
私は次のように考えています;
① サラサラ〜青っぱなを行ったり来たり → 鼻風邪の反復
② 多量の青っぱながひたすら続く → 副鼻腔炎(蓄膿症)
③ サラサラ透明な鼻水がひたすら続く → アレルギー性鼻炎
さて、この中で抗生物質が必要なのは②の急性副鼻腔炎だけです。
①の鼻風邪の状態に抗生物質を漫然と使用していると「耐性菌」が喉鼻に居座るようになります。すると中耳炎を起こしたときに薬が効かなくて治りが悪くなり、耳鼻科通院が長〜くなります。
Q. 咳が2週間以上ダラダラ続いています。風邪でよいのでしょうか?
A. いろんな病態の可能性があります。
よく相談を受ける症状です。
私は次のように考えています;
① 風邪の反復 ・・・ 一番多いパターン
② 気管支炎・肺炎 ・・・ マイコプラズマやクラミジアでは必ずしも高熱が出ませんので、気づきにくい傾向があります。この場合、どこかに症状のピークがあるのが特徴です。
③ 百日咳(※) ・・・ 咳は始まって2週間頃から悪化し、夜は「咳込み発作」が見られるようになります。
④ 喘息 ・・・ 「風邪を引くと咳が長い」「ふだんから咳が出やすい」場合に疑います。聴診器で聞くとゼーゼーと音が聞こえます。
さて、この4つの中で、抗生物質が必要なのは②と③です。
このように、抗生物質を適正使用できる小児科医が「良医」だと私は信じて診療・精進する次第です。
【トピックス】 百日咳は予防接種(DPT)で免疫をつけているので大人は大丈夫と信じられてきましたが、近年、大人で1ヶ月以上続く咳の3割は百日咳であるとされ、また百日咳患者の半分は大人であると報告されています。ワクチンの免疫は残念ながら一生もたないことが証明されました。アメリカでは「大人用の3種混合ワクチン」が開発・導入されています。日本はやはりここでも遅れています・・・。
■ 子どもの発熱と対処法
Q.熱が高いと脳に後遺症が残りますか?
A. 一般に風邪に伴う高熱(41.7℃以下)では脳障害の心配はありません。
「脳障害=意識障害」ですから、高熱の際に視線が合わない、ボーッとしていて反応が悪い、等が続いたら早めに診察を受けてください。
乳幼児では高熱のとき熱性けいれんを起こすこともありますが、短時間のもの(5分以内に止まり意識もすぐに戻るもの)なら脳障害の心配はありません。
熱の持続期間も重要です。3日以上高熱が続くときは風邪がこじれていないか、他の病気が隠れていないかのチェックが必要ですので診察を受けましょう。
★ 脳に後遺症を残す恐い病気、その名は「細菌性髄膜炎」
「高熱が続くと脳に障害が・・・」と心配になるのはこの病気の可能性があるからです。「髄膜」とは脳を覆って保護している膜の名前で、髄膜炎とはその中に細菌が侵入して増殖し、脳にダメージを与える病態です。
症状として「意識障害」「けいれん」が特徴です。
高熱でも目線がしっかりしていてコミュニケーションが取れる場合は問題ありません。
しかし、目線がうつろで呼びかけても反応が鈍い場合は危険!すぐに医師の診察が必要です。
さて、この病気の原因菌はインフルエンザ菌b型(=ヒブ)が6〜7割、肺炎球菌が2〜3割です。ヒブと肺炎球菌・・・はてどこかで聞いたことが・・・そうです、最近登場したワクチンの名前ですね。
つまり、ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種しておくと、細菌性髄膜炎は9割程度予防できることになります。実際、このワクチンを導入した国では細菌性髄膜炎の患者数が激減しています。
日本は遅れて導入され、さらに費用は自己負担・・・子どもに優しい社会とは言えません。
一日も早くこの二つのワクチンが公費負担の定期接種となり、社会で子どもを守る意識が高まることを希望する次第です。
Q.解熱剤の上手な使い方は?
A. 使用するタイミングを考えましょう。
解熱剤は病気を治す薬ではありません。高熱による体のつらさ・だるさをやわらげる対症療法薬です。発熱は体に侵入したウイルスや細菌をやっつける武器でもありますから、体が耐えられれば基本的に使う必要はないのです(武器が弱まり長期戦になるかも)。
解熱剤を使う目安は「乳幼児では38.5℃以上、学童では38℃以上、かつ子どもがぐずってつらそうなとき」です。 目標は37℃前半で、平熱まで下げる必要はありません。
※ 使用法:間隔は8時間(最低6時間)が目安、1日1〜2回(最高3回まで)。
Q. 熱が高いときは冷やす? それとも暖める?
A. 実は両方正解です。子どもをよく観察して使い分けましょう。
熱が続くとき、ずっと高熱ではなくて上がったり下がったりの波がありますね。
熱の上がり始めにブルブル震えて(悪寒)手足が冷たいときは暖かくしてあげてください。
熱が上がりきり顔が火照って手足も温かくなったら冷やすのがよいでしょう(つらそうならこのタイミングで解熱剤を使用)。おでこを冷やすと気持ちがよいのですが熱は下がりません( 赤ちゃんには窒息の危険があるので「冷えピタ」の使用は控えましょう)。脇の下や太腿つけ根など体の中心部を冷やすと熱が少し下がります。
Q. お風呂はいつから入っていいの?
A. 微熱で機嫌が悪くなければ、サッと入るのはOKです。
高熱でグッタリしているときは入浴を控えましょう。
微熱で機嫌も悪くなければ、短時間の入浴(汗を流して体を温める程度)ならかまいません。風呂上がりに湯冷めをしないよう、寒い季節は部屋を暖めておくと良いですね。
Q. 生後6ヶ月未満の赤ちゃんで注意することは?
A. 風邪以外の病気が隠れていることがありますので、早めに診察を受けましょう。
生後6ヶ月(特に3ヶ月)までの赤ちゃんが高熱を出した場合、風邪以外の病気(腎盂腎炎、髄膜炎など)が隠れていることがあります。早めに小児科医の診察を受けましょう。
この時期の赤ちゃんは体温のコントロールがまだ上手ではありませんので当院では解熱剤は処方しておりません。対症療法より診断が優先されます。
<豆知識>
☆ 発熱のメカニズム
恒温動物であるヒトの体温は脳の視床下部にある体温調節中枢で一定に保たれています。
感染症の際の発熱は、コントロールの設定温度が上がる現象で、正常の生体反応なのです。
その仕組みはちょっと複雑です;
細菌やウイルスなどの感染
↓
マクロファージなどの免疫細胞が活性化される
↓
内因性発熱物質(インターロイキン-1:IL-1など)を放出
↓
プロスタグランジンが産生される
↓
視床下部の体温調節中枢に作用して体温の設定値を上昇させる(通常41.5℃以下)
☆ 解熱剤の効く仕組み
解熱剤の多くはアラキドン酸カスケードという反応系のサイクロオキシゲナーゼという酵素の働きを邪魔することによりプロスタグランジンの産生を抑制することにより体温調節中枢の設定温度を一時的に下げることにより解熱効果が発生します。
★ 解熱剤が効かない発熱
視床下部の体温調節中枢が破壊された場合は、41.5℃以上のとんでもない高熱となる可能性があります。また、この場合はプロスタグランジンは関係しませんので、解熱剤のターゲットがなく無効です。このような病態には以下の疾患があります;
・熱産生の亢進:甲上腺機能亢進症、けいれん重積状態など
・熱放散の障害:熱中症など
・視床下部の障害:頭蓋内出血、脳炎・脳症、髄膜炎など
■ 感染症と隔離について
まず最初に、感染症にかかった際の伝染力について記します。
ふつう治れば(症状がなくなれば)ヒトにうつす力は無くなると思いこみがちですが、そう単純なものではありません。病原体の種類によっては症状出現前から(水痘、おたふくかぜ等)、そして症状が無くなってからも数週間は伝染力が残り続けるもの(感染性胃腸炎、夏風邪等)があります。
知れば知るほど、乳幼児期の集団生活の場では感染予防対策は困難であることがご理解いただけると思います。
【夏風邪】 プール熱、ヘルパンギーナ、手足口病
夏風邪の原因はお腹の中で増殖するウイルス感染です。
プール熱はアデノウイルス、ヘルパンギーナ・手足口病はエンテロウイルスが代表的ですが、原因となるウイルスは1種類ではありませんので繰り返し感染します。
発疹が出たり、目が赤くなったり・・・いつまで園を休めばいいのか正確に知りたいところですね。プール熱は「症状が落ち着いて2日間自宅安静」と学校保健法で決められていますが、ヘルパンギーナと手足口病は「感染力が無くなるまで」としか書いてありません(感染症法)。この裏事情を説明させていただきます。
ウイルス排泄期間
感染した体からウイルスが検出される期間を「ウイルス排泄期間」と呼びます。夏風邪の場合、喉から1~2週間、便からは2~4週間もウイルスが排泄され続けます。
意地悪に考えれば、最長4週間は他人への感染力ありとして隔離が必要になります。
不顕性感染
これは「感染はしたけど症状が出ない」状態です。外見上は健康そのもの。 しかし困ったことに、この「不顕性感染」状態でも他人へ感染させる力があるのです。 エンテロウイルスでは60~80%が不顕性感染でありアデノウイルスでも多いとされています。
言い換えれば、流行期には風邪が治って登園してきた友達からも、元気に過ごしている友達からもかぜをもらう可能性があるということになります。つまり症状が消えるまで患児を休ませただけでは流行拡大阻止は不可能なのです。
ではどうしたらよいか?・・・日々の感染対策に尽きます。乳幼児のオムツとそれを扱った保育者の手洗い、給食配膳係の手洗い、 幼児自身のうがい、 排便後の手洗い、 食事前の手洗いが大切です。
※ プールの消毒について
「プール熱(咽頭結膜熱)」の原因となるアデノウイルスはその昔プールの水を介して爆発的に流行したのでこの名前が付けられました。しかし、近年は水質が管理されているプールでは流行は起きていません。
現在、学校プールの水質基準は「消毒用の残留塩素が0.4~1.0mg/L」と定められています。この濃度が維持されれば、アデノウイルスは死滅し、プール熱が流行することはありません。プール熱が流行したときの残留遊離塩素濃度は0.1mg/Lくらいが多く、0.7mg/Lまで上げると流行が収まったという報告があります。
家庭の水道水の残留塩素は0.1mg/Lだそうです。
庭先でビニールプールに水道水を入れて友達みんなで遊ぶと夏風邪ウイルスをあげたりもらったりするかもしれませんね。
【感染性胃腸炎】 ノロウイルス、ロタウイルス
ノロウイルスは秋〜初冬、ロタウイルスは真冬を中心に流行する嘔吐下痢症です。それ以外の季節でも集団発赤してニュースになることもあります。
胃腸炎も「治癒証明書」を希望して来院されますが、「感染力がゼロになりました」という内容では医師は署名できません。前述した夏風邪と同じように、症状が無くなり元気になっても少ないながら感染力はしばらく残りますので。
それに不顕性感染もありますから「症状のある子どもを隔離する」だけでは感染対策は不十分で限界があります。
ウイルス排泄期間
ノロウイルス、ロタウイルスともに発症後約1週間は便の中にウイルスが排泄されます。しかし乳幼児は長引く傾向があり、1歳以下では2週間を超える確率が70%を越え、生後6ヶ月未満では最長1ヶ月半続く例もあることが報告されています。
<ノロウイルス排泄期間>(山形大学医学部:松嵜洋子先生)
| 1歳未満 | 1歳 | 2〜3歳 |
Total (n=23) |
|
| 有症期間 | 6日 | 8日 |
5.5日 |
6日 |
|
ウイルス排泄期間 |
20日 (9-47) |
16日 (5-19) |
10日 (6-18) |
16 (5-47) |
|
2週間を超える ウイルス排泄率 |
75% |
71.4% |
25% |
56.5% |
不顕性感染
不顕性感染率はノロウイルスでは30〜50%(逆に言うと感染して症状が出る人は50〜70%)、ロタウイルスで20〜30%です。
以上より、治ったと思っても感染力はゼロではない、かつ症状がない子どもの便も感染源になりうるという認識が必要です。では吐物・便対策は・・・結構大変です。
※ 参考HP:「ノロウイルスに関するQ&A」(厚生労働省)
《まとめ》夏風邪にしても、感染性胃腸炎にしても、登園再開は「感染力ゼロ」ではなく「園生活が送れる程度に体力が回復した」時点で、とご理解下さい。
もし、幼稚園・保育園に提出する書類を書くとすれば、感染力が無くなりましたという「治癒証明書」ではなく、「登園許可書」になりますね。
■ 不顕性感染率
身近な感染症の不顕性感染率を調べられた範囲でまとめてみました。前述のように、不顕性感染でもウイルス・病原体の排泄はあり、感染源になり得ますのでやっかいです。
| 感染症 |
不顕性感染率 (%) |
備考 |
| インフルエンザ | 20-30 | 新型インフルエンザ(2009 H1N1)では18%との調査報告あり(大阪の高校生) |
| ポリオ | 5-10 | 軽症の上気道炎又は胃腸炎症状の数字、麻痺が残るのは発症者の1/1000-2000 |
| 水痘 | まれ | |
| おたふくかぜ | 30-40 | |
| 麻疹 | まれ |
95%は顕性感染 |
| 風疹 | 20-50 | 30%との記載あり。成人でも15%。 |
| 百日咳 | 不明 |
14-49%と90%の記載あり。 |
| ジフテリア | 90 | |
| 破傷風 | 0 | |
| 日本脳炎 | 90 | |
| ノロウイルス | 20-50 |
20-30%と50%との記載あり。 |
| ロタウイルス | 20-30 | アメリカの実験例では32%との報告あり。年長児・学童期・成人では不顕性感染が多い。生後3ヶ月未満は不顕性感染が多い(母からの移行抗体の影響)。 |
| RSウイルス | 0 | 乳児の初感染には不顕性感染はなく、すべて発症する。 |
| 突発性発疹 | 30-40 |
30%と40%の記載あり。 |
| EBウイルス | ほとんど | |
| パラインフルエンザ | ほとんど | 幼児までにほとんどが不顕性感染を起こす。 |
| 手足口病 | 存在する | |
| ヘルパンギーナ | 多い | |
| 咽頭結膜熱(プール熱) | 多い |
不顕性感染は感染対策としては悩ましい問題ですが、人類はこれを逆手にとって「生ワクチン」を開発してきました。
「症状は出ないけど免疫ができる」画期的な予防治療法です。
■ 溶連菌性咽頭炎
□ 原因 A群β溶血性連鎖球菌(略して溶連菌)という細菌。
□ 疫学
・主に4〜15歳の小児に見られ、学童初期に最多。成人例もありますが、3歳未満にはまれ。
・無症候性保菌者(咽頭に保菌する健常者)が小児の5〜20%に存在します。無症候性保菌者からの伝播はほとんどありません。
□ 潜伏期間 2〜4日(2〜5日という記載も)・・・感染してから症状が出るまでの期間
□ 感染経路 飛沫感染(咳・鼻水・つばが飛んでヒトにうつります)、接触感染
※ 食材を介した流行もみられます(溶連菌による食中毒)。
【症状】 典型的な経過は以下の通りです(全て揃わないこともあります)。
発症日: 悪寒を持って発熱し、のどが痛くなり、頭痛、吐き気、腹痛など。
2日目: 皮膚に細かい赤い湿疹がでてかゆくなる。
3日目: イチゴ舌(舌が赤くなり表面のブツブツが目立つ)
1週間: 指先の皮がむけてくる。
・頚部リンパ節腫脹(30〜60%):下顎角や前頚部の圧痛を伴うリンパ節腫張
□ 治療
この病気は抗生物質が著効し、飲み始めると翌日から症状が改善します。ペニシリン系の抗生物質を10日間内服します。途中でやめてしまうと病気がぶり返したり、下記合併症の危険が増えますので最後までしっかり飲ませましょう。
なお、治療して一旦元気になった後に発疹が出た場合は抗生物質の副作用(薬疹・・・約5%)の可能性があります。薬を中止して当院にご相談ください。
※ ペニシリン系抗生物質アレルギーがある方は申し出てください。
□ 合併症
治ってから1〜4週間後に下記合併症を疑わせる症状が出たら受診してください。
・急性腎炎 : 血尿、乏尿、むくみ、頭痛 ・・・咽頭炎から発症まで1〜2週間(平均10日)、皮膚感染症からでは3〜6週間。
急性腎炎になっていないかチェックする目的で当院では尿検査をしています。
・リウマチ熱: 発熱、関節痛、発疹、心炎・弁膜症、舞踏病(体の一部が勝手に動く)など ・・・咽頭炎から2〜3週間(平均18日)で発症、皮膚感染症ではみられません。
【登校・登園基準】
抗生物質内服開始後、下記の条件を満たせば登校・登園が可能です。
・熱がない場合 → 治療開始後24時間以降
・熱がある場合 → 解熱後24時間以降
★ 溶連菌性咽頭炎はなぜ何回も罹るのか?
溶連菌はM蛋白(細胞膜から細胞壁側へ突出する病原因子)により130以上に分類されます。
感染すると4〜8週間でM蛋白に対する型特異的抗体が産生され、同型株による再感染は防御できるようになりますが、他の型による感染は防御できません。
従って、小児は溶連菌性咽頭炎を繰り返すことになります。13歳になるまでに、一人当たり平均3回感染を繰り返すと言われています。
★ 抗生物質(=抗菌薬)を長く飲むのは何のため?
・リウマチ熱の予防 ・・・咽頭炎発症から9日以内に抗菌薬を投与すれば予防可能。抗菌薬投与が急性糸球体腎炎の予防になるという証拠はありません。リウマチ熱の予防はペニシリン系ではデータがありますが、セフェム系での予防効果の報告はありません。
・化膿性合併症の予防
・症状の改善
・感染拡大防止
■ 感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルス)
秋から冬にかけて胃腸炎が流行します。「嘔吐下痢症」「お腹の風邪」「感染性胃腸炎」などの名前で呼ばれますが、すべてウイルスが原因の胃腸炎です。
代表的なものはノロウイルスとロタウイルスです。医療機関を受診する頻度は、①ロタウイルス(約30%)、②ノロウイルス(20〜30%)だそうです。
忘年会で生カキを食べて食中毒を起こすことが有名な秋〜冬に流行するのがノロ、乳幼児に多く脱水症で入院することもあるのがロタですね。
以下に概要を記します。
【ノロウイルス】
□ 流行時期 11〜3月
□ 疫学 乳幼児〜学童〜大人(何回も罹り、家族全滅になりやすい)
感染力が強く、極微量(数十〜100個)のウイルスで簡単に感染します。不顕性感染もあります。
□ 感染経路
接触感染(糞口感染:下痢便・吐物→ 口へ)、飛沫感染(空気感染の可能性も指摘されています)。
ヒトからヒトへ感染が広がるパターンと食中毒パターンがあり、集団発生の際は分析する必要があります。
※ ノロウイルスはRNAウイルス。
□ 潜伏期 1〜2日間(12〜48時間)
□ 重症度 軽症〜中等症
□ 症状 嘔吐(突然始まる)・下痢、筋肉痛・頭痛、発熱は少ない(20〜30%)
※ 血便になることはまれです。
□ 合併症 軽症下痢症に伴う群発けいれん、まれながら脳炎・脳症も
□ 治るまで 数日
□ 治療 経口補液、対症療法
※ 抗生物質は無効であるばかりか下痢を遷延させることもあります。
□ 感染期間 発症後少なくとも1週間は便中にウイルスが排出され感染源となります(症状消失後、数週間〜1ヶ月は便の中にウイルスが検出されるとの記載も)
□ 隔離期間
ノロ・ロタウイルスによる感染性胃腸炎は下痢が落ち着いて元気になれば登校・登園可能ですが、上の表の通り便の中にはしばらくいますので感染力はゼロではありません。
※ あえて数字で示すと・・・(「小児感染症ー最新カレンダー&マップ」中山書店、2011年発行より)
登園・登校の目安は症状消失後3日目以降でかつ発症後1週間経過
給食関係者では職場への復帰は発症後7日目以降
□ 免疫獲得 一度罹って免疫ができても半年後にはなくなってしまい、毎年罹る可能性があります。
「一家全滅」に注意が必要です。
□ 予防
・おむつ交換、トイレの後、食事前の手洗い(流水と石鹸で)
・貝の生食を避ける(85℃以上1分間以上の加熱が必要)
□ 消毒:
0.1%次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度1000ppm)を10分以上作用させることが有効です。アルコールはノロウイルスに有効ではありません。
<汚物の処理>
使い捨ての手袋やマスクを着用し、手袋は原則として1処理ごとに交換します。汚染部位はまずペーパータオルなどで覆い、0.1%次亜塩素酸ナトリウムをよく浸潤させ、10分間ほど放置した後拭き取ってゴミ袋に入れます。その後、同部位を水洗いし拭き取ってゴミ袋に入れます。最後にマスクと手袋を入れ密閉して破棄します。
<汚染された衣服・リネン類の処理>
汚物を十分に落とした後、ポリバケツなどに入れて1箇所に集め、0.1%次亜塩素酸ナトリウムに10分以上浸すか熱湯消毒した後に洗濯します。最後に手袋とマスクを廃棄します。
・次亜塩素酸ナトリウムは漂白作用があるため、色物の衣類やカーペットなどには熱湯消毒やスチームアイロン(1箇所辺り2分間)を使用します。調理器具、ドアノブなどの環境の消毒にも使用できますが、金属腐食性があるため最後に水洗いが必要です。
・次亜塩素酸ナトリウムは作り置きすると効果が低下するので、使用直前に原液から希釈する必要があります。
【ロタウイルス】
□ 流行時期 12〜4月(従来は1〜3月がピーク、近年は2〜4月にずれてきています)
□ 疫学 乳幼児が罹りやすい
※ 世界を見渡すと発展途上国を中心として1年間に約50万人の子どもがロタウイルス胃腸炎で死亡しています(日本では10人前後で基礎疾患を持つ子どもが多い)。
□ 感染経路 接触感染(下痢便・吐物→ 口感染)。空気感染の可能性も?
□ 潜伏期 1〜2日間(2〜4日という記載も)
□ 重症度 比較的重症
□ 症状 嘔吐・下痢(白色調〜レモンイエロー)、発熱
※ 大人を含めた家族発症(一家全滅)を認めた場合はロタよりノロウイルスの可能性を考えます。
※ 「白色下痢」はロタウイルスだけの症状ではなく、ほかの胃腸炎でもみられます。
□ 治るまで 1週間
□ 治療 経口補液(↓)、対症療法(抗生物質は無効)
※ かつてはミルクを薄めるとかして飲ませることがありましたが、現在は下痢があっても飲食ができるようなら通常の食事で開始した方が栄養と腸機能の回復が早い、と考えられるようになりました。
□ 感染期間 数週間〜1ヶ月間は便の中にウイルスが検出されます
□ 免疫獲得 一度罹ってできた免疫は長期間有効で、乳幼児期に罹ったヒトは大人になって罹ることはまれ(罹っても軽く済みます)。
□ 予防 おむつ交換、トイレの後、食事前の手洗い
※ 70%エタノール液で不活化されます。
冬以外の胃腸炎では細菌(病原性大腸菌、サルモネラ、キャンピロバクタなど)が原因になることもあります。発熱や血便が特徴であり、抗生物質を用いることがあります。
なお、感染性胃腸炎は下痢が落ち着いて元気になれば登校・登園可能ですが、上の表の通り便の中にはしばらくいますので感染力はゼロではありません。トイレの後(オムツの処理後も含めて)、食事の前には十分手を洗って感染予防する必要があります。
<軽症下痢に伴う反復性けいれん(軽症胃腸炎関連けいれん)>
下痢をしている乳幼児が無熱性けいれんを短時間に繰り返すことがあります。けいれんは5分以内で1日以内に複数回起こすこともまれではありません。
ロタウイルス、ノロウイルスで多く報告されています。
一般的なけいれんの治療薬は効きにくく、カルバマゼピン(商品名:テグレトール)という抗てんかん薬が有効です。
一旦落ち着けば、その後の生活の中で繰り返すことはまれであり、後遺症も残しません。
★ 嘔吐下痢の自宅療養 〜 経口補液 〜
※ 解説HP:メルクマニュアル・OS-1(大塚製薬)
嘔吐下痢の治療は「脱水予防」
残念ながらウイルス性胃腸炎に特効薬はありません。対症療法で症状を和らげ、脱水に気をつけながら落ち着くのを待つことになります。
従来は「嘔吐してグッタリすると点滴が必要」というイメージがありましたが、軽度の脱水なら次項の「経口補液」が有効であり、針を刺して泣かせる必要はありません。
「経口補液」ってなあに?
一般家庭で行われてきた水分補給を医療レベルに高めた方法です。といっても、塩分・糖分が適切な濃度に調整された経口補水液(ORS, oral rehydration solution)を少しずつ飲ませるだけ。逆に、単なる水分(湯冷まし、お茶)の補給は脱水治療とは言えません。
正式には経口補液療法(ORT, oral rehydration therapy)と呼び、点滴(静脈輸液)の一歩前の治療法に位置づけられます。点滴と比較して経口補液は安全・簡便・安価な方法ですね。
★ 経口補水療法(ORT)の歴史
ORTは当初、発展途上国におけるコレラによる乳幼児の脱水症を治療するために開発されました。1960〜1970年代に行われた研究により、ORTは点滴と同等の効果があることが証明されました。コレラに罹った子ども達の命をたくさん救ったのです。
1975年にWHOにより経口補水液の望ましい組成が発表され(WHO-ORS)、さらに2002年には組成を再調整した改訂版が発表されました。また、アメリカ小児科学会(AAP)やヨーロッパ小児栄養消化器肝臓学会(ESPGHAN)でもORTに関するガイドラインが作られています。残念ながら日本にはまだガイドラインがありません(涙)。
ORSは嘔吐下痢で失われる体液成分(水分・塩分・糖分)が吸収されやすい最適濃度で調整された飲み物です。これは「ナトリウム・ブドウ糖共輸送説〜塩分(ナトリウム)の吸収はブドウ糖の添加により促進される〜」という1950〜1960年代の基礎的な生理学の研究の成果が根拠になっています。
「経口補水液」はどこで手に入るの?
① 病院で処方・・・「ソリタ-T顆粒( T2とT3 )」
② 薬店で購入・・・「OS-1」「アクアライトORS」等
③ 自宅で作成(↓)
★ 経口補水液を自作しよう!
湯冷まし1リットルに、塩:小さじ1/2杯、砂糖:大さじ1杯を溶かす、+α(レモン汁等)
(注意)塩と砂糖の量を間違わないようにしましょう。「砂糖の方が多い」のですよ!
※ 日本の伝統的な治療食(重湯に塩を加える、みそ汁の上澄みを与えるなど)は、実は優れた経口補液法であったと近年評価されています。
※ ソリタ-T顆粒2号は梅干し様の芳香、ソリタ-T顆粒3号はサイダー様の芳香があります。飲みづらいときはカルピスなどを少し入れると飲みやすくなるようです。
スポーツドリンク、イオン飲料や他の飲みものではダメ?
市販のスポーツドリンク類は、あくまでも健康な人の喉の渇きや軽いスポーツ時の水分補給に適している飲料で、経口補水液に比べると塩分・ミネラルが少なく(WHO推奨濃度の1/2〜1/3)、糖分が多すぎて嘔吐下痢の治療には向かないとされています。水道水・清涼飲料水もナトリウム濃度が低くため、水分吸収率が悪くなります。
※生理食塩水:ナトリウム濃度がヒトの体液より高く、濃すぎてもやはり水分吸収率が低くなります。
経口補液の具体的な方法は?
嘔気・嘔吐の始まりは水分も受けつけません。数時間は様子を見て、少し落ち着くのを待ちましょう(程度が強ければ吐き気止めを使用)。
えづくのが落ち着いてきたら経口補液開始です。経口補水液をスプーンで与えましょう。一度にゴクゴク飲ませると刺激で吐いてしまいます。「口から点滴するつもり」で少量頻回に与え、徐々に増量するのがコツです。
※ もっと細かく数字で知りたい方へ・・・
□ 添付文書の記載;
「初回は約20ml投与し、嘔吐がなければ30〜60分後に20〜100ml追加し、以降数時間毎に投与」
□ 各文献より;(やりやすいと思う方法を選びましょう)
・軽度・中等度の脱水に対して、
発症4時間以内:50-100ml/kgを飲ませる
発症4時間以降:下痢や嘔吐の度に、体重10kg未満では60-120ml/回、体重10kg以上では120-240ml/回を飲ませる。
・ORSは乳児は30-50ml/kg/日、幼児:300-600ml/日、学童〜成人:500-1000ml/日を目安に飲ませる。
・ORSは下痢1回につき、体重10kg未満の小児には100ml、体重10kg以上の小児には150mlを目安に補給する。
・水様便1回につき、10ml/kgのORSを補給し、嘔吐1回につき、2ml/kgのORSを補給する。
飲ませてもまた吐いてしまうこともありますね。その時は1時間程度待って、またトライしてください。 なお、投与総量が多すぎて問題になることはまずありません。
水分がお腹に治まり吐かなくなったら固形物を再開しましょう。
経口補液の目安は数日間です。下痢が一日数回程度に減ったら終了し、好きな飲み物にかえてください。
!脱水症に注意!
嘔吐が続いて口の中が渇き、オシッコが半日近く出ていないときは脱水症が疑われ、また他の病気が隠れている可能性もあります。医師の診察を受けてください。
下痢の時、食事で気をつけることは?
従来は「下痢がひどいときは絶食」と指導されてきましたが、何日も絶食すると腸のダメージの回復が悪いことがわかり、近年は「食事は早期に再開」が世界の常識となりました。
吐き気が治まれば「好物で消化の良さそうな食事」を選んで少しずつ与えましょう。
赤ちゃんの母乳・ミルクはそのまま続けてかまいません。ただし、下痢が1週間以上長引くときは「2次性乳糖不耐症」を疑い、酵素製剤を服用したり、乳糖除去ミルクを使用することもあります。
【参考】急性胃腸炎の適切な治療を行うための7つの原則(アメリカ、CDC)
1.脱水是正には経口補水液(ORS)を使用。
2.経口補水は迅速に行う(3〜4時間以内)。
3.迅速な栄養再補給のため、脱水が是正されたらすぐに患者の年齢にあった非制限の食事を与えること。
4.授乳中の乳幼児に対しては、母乳を継続して与えること。
5.乳児用ミルクを用いている場合、薄めたミルクは推奨されず、特殊ミルクも通常は不要。
6.下痢で継続的に水分が喪失している場合、経口補水液を追加して与えること。
7.不必要な臨床検査や投薬は行わない。
嘔吐下痢の漢方療法
嘔吐下痢は漢方薬のよい適応となる病気です。
嘔気・嘔吐がつらい初期には「五苓散」が有効です。特に「水分を欲しがるけど、飲ませると吐いてしまうとき」によく効きます。水に溶かして少しずつ飲めば、吐き気が治まってくるのです。
ある小児科医は五苓散を溶いた液を浣腸のようにお尻から注入して治療するそうです。「8割の確率で嘔気が治まり、顔色が良くなって帰宅できる」と聞いています。
胃がつかえて、お腹がグルグル鳴る下痢の時は「半夏瀉心湯」がよく効きます(院長愛用薬・・・トイレから離れられるようになるのです)。
下痢が長引いて、お腹が冷えて衰弱してくるようなら、お腹を温めて回復をサポートする「人参湯」「啓脾湯」などを用います。
■ 夏風邪(プール熱、手足口病、ヘルパンギーナ)
風邪は冬の病気と考えがちですが、子どもの間では夏には夏の個性的な風邪が流行ります。インフルエンザを代表とする冬の風邪と比べると、発熱・喉の痛み・発疹が目立ち、咳があまりでなくて吐き気などのお腹の症状の方がでやすいことが特徴です。
代表的な病気はヘルパンギーナ、プール熱、手足口病の3つで、犯人はすべてウイルスです。
夏風邪の原因となるウイルス(エンテロウイルス、アデノウイルスなど)はお腹の腸の中で増殖し、増えきってから発熱などの症状を出すことが知られています。症状が消えると呼吸器系からの感染力はなくなりますが、実はお腹の中(消化管)にはしばらく居座るので、感染力がゼロになるまで数週間〜最長1ヶ月かかります。これがなかなか流行を押さえられない理由です。
各病気の特徴を概説しました。なお、典型的な症状が揃わないことがあります。また、同じウイルスが複数の病態を示すこともあるのも夏風邪の特徴です。
(例)コクサッキーA16はヘルパンギーナと手足口病の原因になる。
まれに重い合併症の報告もありますが、ほとんどが自然に治る一過性の軽い病気です。
下記症状と比べて熱が長く続いたり、他のつらい症状が目立つときは医師の診察を受けましょう。
ヘルパンギーナ
□ 原因:コクサッキーウイルス、エコーウイルスなどのエンテロウイルス(RNAウイルス)
□ 感染経路:飛沫&接触感染
□ 潜伏期:2〜4日
□ 症状:
・発熱(突然の高熱2〜4日間)
・咽頭痛
・食欲低下・嘔吐
・カラダの痛み(年長児以降で多くなる訴え)
□ 治るまで:3〜6日
□ 治療:特効薬なし(抗生物質無効)、対症療法のみ
□ 生活指導:(3疾患共通)
・水分補給:麦茶、イオン飲料などあっさりしたものを。
・喉が痛いのでのどごしの良い食べ物・飲み物を!
→ プリン、ゼリー、アイスクリーム(ほどほどに)、おじや、柔らかいうどん、豆腐、グラタン等
※ 体温より熱いもの、味の濃いもの、刺激のある味、しょっぱい・酸っぱいものはしみて痛がります。オレンジジュースなど柑橘系も嫌がります。
・入浴:高熱でぐったりしているときは避けましょう。微熱で機嫌も悪くなければ、お風呂で汗を流してすっきりするくらいはかまいません。体力を消耗するような長湯は禁物です。
□ 合併症:非常に希に髄膜炎、熱性けいれん
□ 感染対策:(3疾患共通)
トイレ・食事前後の手洗い、吐物処理・おむつ交換時の手洗い励行、タオルの区別。
さらに感染力の強いプール熱では洗濯物を家族と別にしましょう。
□ 登校・登園基準:症状がなくなるとほとんど感染力が亡くなり、元気になれば登園可能です。しかし前述の通りウイルスは便の中に約1ヶ月間居座ります。園でも感染対策を励行しましょう。
プール熱(咽頭結膜熱)
□ 原因:アデノウイルス(DNAウイルス)3型他
□ 疫学:好発時期は夏季、しかし近年の報告では通年性の傾向がでてきました。
□ 感染経路:飛沫&接触感染+めやにでうつります!
アデノウイルスは物理化学的に抵抗性が強く(4℃で数週間、-25℃で数ヶ月間感染性が失われない)、感染力も強いことが特徴です。
※ 「プール熱」という名前の由来はその昔、プールの水に溶け出した「めやに」で爆発的に流行した歴史があるためです。近年は公的に管理されたプールでは十分な塩素消毒がなされているのでプールの水を介した流行はみられなくなりました。あ、水道水の塩素濃度ではウイルスはやっつけられません、悪しからず。
□ 潜伏期:5〜7日(2〜14日という記載も)
□ 症状:
・発熱(高熱が4〜5日)・・・けっこう長い。
・咽頭痛
・結膜炎(目の充血、目やに)・
・時に嘔気・腹痛・下痢
「プール熱」≠「アデノウイルス性咽頭炎」?
プール熱の原因で一番多いのがアデノウイルス3型です。
しかし、アデノウイルス3型感染症で、典型的なプール熱(結膜充血、滲出性扁桃炎、発熱)は1/3しかありません。他は「夏風邪」と診断されていることになりますね。
結膜炎を伴うプール熱は眼脂で感染するので学校伝染病に指定されていますが、アデノウイルス感染症は学校伝染病ではありません。何かヘンですけど、法律ってこんなもん?
□ 検査所見:ウイルス感染症では例外的に白血球数・CRPなどの炎症反応が陽性になります(このため、細菌感染症との鑑別が困難な例が出てきます)。
□ 治るまで:5〜7日
□ 治療:特効薬なし(抗生物質無効)、対症療法のみ
□ 生活指導:(ヘルパンギーナの項を参照)
□ 合併症:非常に希に重症肺炎、髄膜炎、脳炎
□ 感染対策:(ヘルパンギーナの項を参照)
アデノウイルスはアルコールに抵抗性があり速乾性擦式手指消毒薬では簡単に殺菌できません。塩素系消毒薬は有効です。
□ 登校・登園基準:夏風邪の中でこのプール熱だけは別扱いです。学校伝染病に指定されており、麻疹や水痘と同じ扱い、つまり「隔離期間」が発生します。「症状消失後2日間は自宅安静」とし集団生活に戻るには医師の治癒証明が必要です。
<他のアデノウイルス感染症>
アデノウイルスには55種類の型があり、多彩な疾患を起こします。いくつか例示します;
◆ 肺炎:アデノウイルス7型が原因となる肺炎は重症化しやすいことが特徴です。ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、多臓器不全、死亡例も報告されています。日本では1995年から約5年間、全国的に流行しました。
◆ 流行性角結膜炎:幅広い年齢層にみられ、結膜充血、眼脂、眼掻痒感、羞明(かすみ)等を起こします。
◆ 腸管感染症:子どものウイルス性下痢症の原因は、①ロタウイルス、②ノロウイルス、③アデノウイルスです。下痢が主症状で、高熱、嘔吐を伴うこともありますが、一般的にロタウイルスより軽症です。
現在腸管のアデノウイルスを検出する迅速診断キットが発売されていますが、アデノウイルスによる呼吸器感染症に罹った後、数周〜数ヶ月の間便中に排泄されるため、陽性の場合も単純に判断できないジレンマが存在します。
手足口病
□ 原因:コクサッキーウイルスA16、エンテロウイルス71他・・・原因ウイルスは複数なので、何回も罹る可能性があります。
□ 疫学:幼児から学童期に多く、2歳以下が半数を占めます。
※ 大人は子どもの時に感染して免疫ができていることが多いので、罹りにくい傾向があります。
□ 感染経路:飛沫&接触感染・・・感染源は唾液、便、水疱内容物
□ 潜伏期:2〜7日(3〜5日)
□ 症状:
・発熱(約1/3にみられ、38℃以下の微熱が1〜3日間)・・・他の2つの夏風邪より勢いはありません
・発疹:手・足・口の中(時に膝・おしり)に直径数mmの水疱性丘疹
※ 皮疹は水痘のように治るときに痂皮(かさぶた)を作りません。
※ エンテロウイルス71が検出されたシーズンでは脳炎のリスクが増えます:頭痛・嘔吐・高熱・2日以上続く発熱などの場合には要注意です。
□ 治るまで:2〜7日
□ 治療:特効薬なし(抗生物質無効)、対症療法のみ
□ 生活指導:(ヘルパンギーナの項を参照してください)
□ 合併症:髄膜炎、小脳失調症、脳炎、心筋炎
※ 腸管で増殖したウイルスが血行性に中枢神経系(特にエンテロウイルス71)、心臓(特にコクサッキーウイルスA16)などに到達して発症します。
※ 1990年代(1997〜2001)にはアジアで中枢神経系合併症(脳炎)による死亡者が報告されました。1997年マレーシアで30例以上大阪でも3例死亡が確認され、1998年台湾で78例の死亡を確認。多くの例は、急激に進行する肺水腫をきたし、入院後24時間以内に死亡するという劇症型の経過をとりました。死亡例からはエンテロウイルス71が検出されています。このウイルスによる流行年は要注意!という認識が小児科医にはあります。
□ 感染対策:(ヘルパンギーナの項を参照してください)
□ 登校・登園基準:症状がなくなるとほとんど感染力が亡くなり、元気になれば登園可能です。しかし前述の通りウイルスは便の中に約1ヶ月間居座ります。排便後の手洗いを徹底させ、園でも感染対策を励行しましょう。
■ RSウイルス感染症(急性細気管支炎)
毎年寒い季節になると赤ちゃんがゼーゼーする風邪が流行ります。始まりはふつうの咳ですが、数日後には咳が悪化してゼーゼー苦しそうな呼吸となり家族を心配させるイヤな風邪です。この風邪の原因で一番多いのがRSウイルスです。どんな病気なのか、まとめてみました。
□ どんな病気?
秋から冬にかけて流行する風邪(呼吸器感染症)で、ほとんどの子どもは2歳までに少なくとも1回はRSウイルスに罹ります。初回の感染は重くなりやすい傾向があります。
1歳未満ではゼーゼーする下気道炎(喘息様気管支炎、細気管支炎、肺炎)になりやすく、少ないながら入院が必要になるほど重症化することもあります。
その後も繰り返し感染しますがだんだん症状は軽くなり、3歳以降では重症化はまれで、大人では「咳の頑固な風邪」として経過します。
□ 原因:RSウイルス(RNAウイルス)
□ 感染径路:ヒトの気道分泌物(痰、唾液)の飛沫・直接接触
□ 疫学:
・生まれたばかりの赤ちゃんも罹る・・・お母さんからもらった免疫は無効。
・みんな罹る・・・全乳児の2/3が初めての冬に罹患し、2歳までにほとんどの乳児が感染します。
・何回も罹る・・・終生免疫は成立せず、何回も罹るので繰り返し流行します。大人も罹ります。ひとシーズン内で再感染する子どももいます(回復後2〜3週で再感染可能となるそうです)。
・季節性:晩秋〜春(沖縄では夏にも流行します)。インフルエンザの流行が始まるとRSウイルス患者は減少する傾向が以前から指摘されています。
□ 潜伏期間:2〜8(通常4〜6)日間
□ ウイルス排泄期間:3〜8日間(※)・・・初感染と再感染では期間が異なるようです。
※ 乳幼児では3〜4週間も気道からのウイルス排泄が続くことが報告されています。つまり、乳児を預かる保育園では症状が落ち着いて登園してきた子ども達からも感染が広がる可能性があると言うことです。しかし、1ヶ月も園を休むことは現実的ではありませんし・・・悩ましい問題です。
□ 症状
・発熱:必発ではなく、高熱が続くことはむしろ希です。
・鼻汁:鼻水が多いのがRSの特徴です。始まりから終わりまで続き、次第に粘稠かつ多量になります。
・咳/喘鳴(ゼーゼー):炎症が喉にとどまっているときは咳だけですが長く続き「頑固な咳」です。後鼻漏(鼻が喉の奥に垂れる)が原因の咳も目立ち、起床時や臥床後にみられ、多量になると夜間睡眠中にも見られます。
乳幼児では炎症が気管支に達するとゼーゼーし、もっと奥に進行して「細気管支炎」を起こすと呼吸困難(多呼吸・陥没呼吸)に陥ることがあります。
※ 子どもがゼーゼーすると「喘息では?」と心配になります。簡単な見分け方は、喘息では気管支拡張剤(ベネトリンやメプチンなど)の吸入が有効ですが、RSによるゼーゼーでは無効なことです。ちなみに1歳未満で喘息と診断されることはほとんどありません。
<乳児期の初感染の特徴>
発熱、鼻汁、咳などの上気道炎症状ではじまり、
①(70%)数日で軽快・治癒
②(30%)数日後に喘鳴、時に呼吸困難などの細気管支炎の症状を呈します
③( 3%)重症化し入院治療が必要になります
生後1ヶ月以内の乳児が感染すると哺乳不良、不機嫌、傾眠など咳以外の症状が目立ち「無呼吸発作」を起こして重症化することがあります。
<年齢による症状の違い>
・細気管支炎 ・・・生後6ヶ月未満に多い
・喘鳴を伴う肺炎 ・・・3歳未満に多い
・喘鳴を伴う気管支炎(いわゆる喘息様気管支炎) ・・・4歳未満まで見られます
・喘鳴を伴わない肺炎 ・・・5歳未満まで見られます
(院長のつぶやき)冬季に受診する咳のひどい患者さんで、聴診器で肺雑音が聞こえると気管支炎と診断して幼児期以降であれば抗生物質を処方します。治る患者さんは細菌感染かマイコプラズマ、治らずに病院へ紹介する患者さんはたいていこのRSウイルスによる気管支炎です。
□ 合併症:
・中耳炎(30〜80%!):耳を気にするしぐさや再発熱/発熱遷延例で疑います。
・脳症
□ 診断:迅速診断キットあり・・・ただし、保険適応は入院患者のみで、外来では保険適用になっていません。
※ 症状からは流行期が重なるインフルエンザと見分けることは困難です。
□ 治療:
RSウイルスを退治する特効薬は日本にはありません(※)。「薬が効かないのがRSウイルスの特徴」と云ってもいいくらいです。咳止め、痰を切る薬、鼻汁・痰の吸引など、症状を和らげる対症療法が中心です。
呼吸困難感が強く、顔色が悪い状態では入院治療が必要となります(酸素吸入・人工呼吸管理など)。
※ リバビリンという薬が外国では発売されていますが効果の評価は定まっていません。他の抗ウイルス物質として、アンチセンス薬や short interfering RNA の臨床応用が期待されています。
□ 予防:
・手洗いの励行・・・患児の鼻汁に含まれるウイルスは皮膚や衣服、おもちゃなどの物品や器具、それらに接触した手指においても感染性を持ち続けます(物品では5時間、手指では30分とのデータ有り)。
・ワクチンは現時点ではありません(1960年代に開発されたことがありますが失敗したそうです)。
※ パリビズマブ(商品名:シナジス®)について;
特にハイリスクなのは低出生体重児、生まれつきの心臓の病気、肺の病気、免疫力が低下する病気の子どもで、早期産児では修正月齢4週間までハイリスクです。主治医から予防措置(シナジス®の筋肉注射)の説明があるはずです(適応は<医学メモ>参照)。
シナジスの有効性:入院率の減少効果として評価すると、早期産児では78%、慢性肺疾患(CLD)児では39%、重症先天性心疾患児では45%という報告があります。
□ 予後:
RSウイルスによる細気管支炎にかかった子どもはその後も風邪を引く度にゼーゼーする傾向がありますが、数年の経過で減少します。将来喘息発症の引き金になるかどうかは学会レベルでも議論中で結論は出ていません。
★ RSウイルスと似た「ヒトメタニューモウイルス」感染症
□ 原因:ヒトメタニューモウイルス(hMPV)・・・2001年に発見されたニューフェイス。RNAウイルス。
□ 疫学:小児のウイルス性呼吸器感染症の5〜10%、成人の2〜4%の原因となっています。
・好発年齢:1〜2歳(平均年齢は2歳6ヶ月)・・・血清抗体陽性率の解析より、母親からの移行抗体が消失する頃から初感染が始まり、遅くとも10歳までに一度は全員が感染を経験しています。
・流行季節:3〜6ヶ月
・集団感染:インフルエンザ、RSウイルスと同様に家族内感染・施設内感染を発生させます。
・不顕性感染率:不明
・再感染:罹っても十分な免疫を獲得できず、何度も再感染を起こし、繰り返していくうちに免疫力が強くなり軽症化していると考えられています。
□ 感染様式:飛沫感染&接触感染
□ 潜伏期:4〜6日(ウイルス排泄は1〜2週間持続)
□ 症状:ゼーゼー(喘鳴)を伴う気管支炎(いわゆる喘息様気管支炎)が一番多いパターンで、その他に上気道炎、気管支炎、肺炎が続きます。
・発熱(90%以上)・・・平均5日(RSVより長い)で高熱のため熱性けいれんを起こすこともあります。ふつう1週間程度で改善し、それ以上長引くときは細菌性中耳炎や下気道感染を疑うべきです。
・咳嗽(90%以上)・・・呼気時の笛様音(ゼーゼー/ヒューヒュー)と吸気時のゼロゼロが特徴であり、症状だけではRSV感染症と見分けるのは困難です。
以上より、臨床症状の特徴と診断については以下のように表現できそうです;
インフルエンザのような高熱の持続とRSV感染症のようなゼーゼーが一緒になった症状。乳幼児が春に喘鳴、発熱を伴う気道感染で受診し、RSウイルスが陰性の場合にhMPVを疑います、
□ 合併症:
・中耳炎(数十%、主に細菌の二次感染)
・喘息発作の悪化因子:小児ではライノウイルスが有名ですが、hMPV感染症患者の10〜15%に喘息発作の悪化が観察されています。
□ 治療:特効薬はなく、対症療法のみ。
□ 予後:(RSウイルスと入院率を比較したデータは見あたりませんでした)
・免疫不全状態(白血病、移植患者)では重症化し致死的下気道感染症に注意が必要です。
■ 伝染性紅斑(リンゴ病)
□ 原因:ヒトパルボウイルスB19(DNAウイルス)
※ このウイルスが発見されたのは1975年、そして1981年に慢性溶血性貧血患者の無形性発作、1983年に伝染性紅斑の原因であることが判明しました。
□ 疫学:
主に小児期に罹患し(5-15歳)、乳児や成人ではまれです。
季節的には冬から春にかけて多くみられます。
不顕性感染率:70〜80%と高い!
□ 感染様式:飛沫感染(気道分泌物による)、接触感染
ただし、感染力が最も強いのは紅斑出現時ではなく、その約1週間前の軽い感冒症状の時期です。
□ 潜伏期:
感染後 4〜14日(最長21日) → 発熱・倦怠感・鼻汁等。
感染後17〜18日(2〜3週間) → 伝染性紅斑や関節炎。
□ 症状:
ほっぺがりんごのように赤くなる病気です。
1〜2日後に腕、太ももにたくさんの赤い斑点が出てきてくっつく傾向があります。その後中心部から色が抜けてきて「レース編み模様」「大理石紋様」と表現されます(医学的には「網状紋理」)。皮疹は7〜10日くらいで消えます。約半数で軽度のかゆみを訴えます。20%弱で一度消失した後に日光照射や機械的刺激により発疹が再出現することがあります。
年長児以降では頭痛、関節痛、腹痛などが多く見られる傾向にあります。成人では発熱、関節痛(つらい)が認められインフルエンザ様になることがあります。
□ 合併症:
もともと溶血性貧血のある子ども → 著明な貧血発作、無形成発作
もともと免疫不全状態 → 持続感染となり貧血を主とする慢性骨髄機能不全となります
まれに脳炎・脳症、心筋炎
※ 妊婦さんが感染するとお腹の赤ちゃんに影響が出ることがあります(胎児感染 → 持続的な貧血→胎児水腫)。
妊婦さんは症状がはっきり出ないことが多いので、同居している子どもがリンゴ病になった場合は主治医の産婦人科医に相談してください。
□ 治療:特効薬はありません。かゆみが強いときはかゆみ止めを内服・塗布する程度です。
□ 家庭で気をつけること:
治りかけでも運動、入浴、日光、摩擦などの刺激で発疹の赤みが再度増すことがあります。
・入浴:熱い湯船・長湯は避けましょう。
・運動:体が温まり、また日光に長く当たると赤みが再度目立ち、長引くので控えめに。
□ 隔離の必要性:
感染力は、ほっぺがあかくなる1週間ほど前にみられる風邪症状の頃に強く、発疹が出た頃にはほとんど感染力はないとされています。つまり発疹が出てから隔離する必要性は少なく、無意味であるとの意見さえあります(その前にすでにうつしまくっている!)。
<参考資料>
「伝染性紅斑」「手足口病」の登校(園)停止に関する小児科学会の見解
学校伝染病第三類「その他の伝染病」の内容については明文化されたものはないが、伝染性紅斑、手足口病はこの範疇に含まれる疾病である。
学校保健法施行規則第19条(昭和57年改正)によると、これらの疾病による出席停止期間の基準は「治癒するまで。ただし、学校医その他の医師が適当と認める予防措置をした時、または病状により伝染のおそれがないと認めた時はこの限りでない」となっている。つまりこの法の趣旨は学校での伝染病の蔓延防止が目的であるので、その観点から検討すぺきと考える。
【伝染性紅斑】
伝染性紅斑ははヒトパルボウイルスBl9の感染症である。顔面の蝶型の紅斑に続いて、四肢に網目状(レース状)の紅斑の出現で診断される。通常感染後17〜18日後に発疹が出現する。ウイルスは感染後5〜10日に血清及ぴ気道分泌液中に陽性となるが、発疹出現の時ではウイルスの排泄はほとんどない。すでに発疹出現前に他への感染は拡大しており、発疹出現後の出席停止が本症の学校での蔓延防止に意味があるとは思えない。したがって発疹期にある患児を他への感染を理由にして登校(園)を停止させる必要はないと考える。
ただし、本症には合併症もみられることがあり、個々の症例の最終判断は主治医が決めることになる。以上の考えに基づいて地域の学校医(または医師会)で見解を統一しておくことが望ましい。
【手足口病】
手足口病はエンテロウイルスの感染であり、コクサッキーウイルスAl6型、エンテロウイルス71型による報告がほとんどである。コクサッキーウイルスA4、5、6、10型の報告もある。口腔内の粘膜疹(アフタ様)と手のひら、足の裏、膝、臀部の米粒大の水疱が特徴である。特記すぺきは中枢神経系合併症で、髄膜炎が主であるが、きわめてまれに弛緩性麻痺をおこす。ウイルスは口腔内、便中に排泄され、飛沫感染、経口感染をおこす。不顕性感染が多い。潜伏期間は3〜6日でウイルスの排泄期間は長く、咽頭からl一2週間、便から3〜5週間排泄される。本症の場合は、発症後のウイルス排泄期間が長く、実質的に登校停止で感染を予防することは困難である。また全体的にみて不顕性感染も多く症状も軽微のため、本症をもって他のエンテロウイルスと分けた特別の扱いは不要である。したがって本症の発疹期にある患児でも、他への感染のみを理由にして登校(園)を停止する積極的意味はないと考える。
ただし、本症には合併も見られることがあり、個々の症例の最終判断は主治医が決めることになる。以上の考えに基づいて地域の学校医(または医師会)で見解を統一しておくことが望ましい。
<日本小児感染症学会運営委員会>
(日本小児科学会雑誌第97巻:1993年:第8号から抜粋、下線は武井による)
<参考>
・papular-purpuric gloves and socks syndrome(ヒトパルボウイルスB19が引き起こす発疹症)
■ 突発性発疹
□ 原因:ヒトヘルペスウイルスHHV6(&7)・・・ほとんどの児が1回罹っておしまいですが、時に2回罹ることもあります。
※ 主な原因ウイルスはHHV-6ですが、HHV-7の初感染時にも一部が突発性発疹の経過をとります。HHV-6の初感染は生後6ヶ月〜2歳くらい、HHV-7の初感染時期は生後2〜4歳頃であり、一般に1回目がHHV-6、2回目がHHV-7によることが多いとされています。
□ 疫学:
・生後6ヶ月〜1歳半に多く(4ヶ月〜3歳)、発症は通年性です
・2歳までにほとんどの子どもが抗体を持つようになります(つまりみんな罹るのです)
・不顕性感染率(罹っても症状が出ないこと):20〜30%
・季節性はありません(風邪ウイルスの中では例外的)
※ なぜか保育園で流行るという現象は経験したことがありません。
□ 感染様式:接触感染
感染源は患者と既感染者の唾液で、感染経路は母親などの既感染成人からの水平感染が考えられています。既感染者の唾液腺からは生涯持続的なウイルス排泄が続くと考えられています。
□ 潜伏期:5〜15日(10〜14日)(約2週間)
□ 症状:突然の高熱で始まり、高熱が3日前後続き、熱が下がると共に赤い発疹が全身に出現します。高熱の割には機嫌がそれほど悪くならないのが特徴です。また、咳・鼻水は目立たず、便が緩くなる程度です。発疹は痒くないらしく、3日程度で自然に消えます。
※ 解熱し発疹が出る頃、1〜2日すご〜くグズリます。
なぜかわかりません。以前、3歳の子が罹り、解熱した頃案の定機嫌がすごく悪かったので、治ってから「どこが痛かったの?」と聞いてみました。でも困ったような顔をして「・・・」、本人にもわからない「身の置き所がない状態」なのでしょうかねえ。
□ 診察所見:
・喉の口蓋垂(いわゆる「ノドチンコ」)の根元両側に発赤〜粟粒大の隆起を認めます(永山斑)
・大泉門膨隆を認めることがあります(本来は髄膜炎の所見)
□ 合併症:
・熱性けいれん:熱性けいれん全体に突発性発疹が占める割合は20〜30%、との報告があります。
・脳炎・脳症:年間約100例発生し約半数の患児が後遺症を残します。また近年、有熱期に熱性けいれんを起こした後一旦けいれんが消え、解熱後に再びけいれんの群発を伴うけいれん重積型脳症例が多いことが明らかになってきました。
・劇症肝炎、心筋炎・・・解熱後の皮疹出現時に発症・・・まれながら解熱後にも重篤な合併症が出ることがあるのです。
・血球貪食症候群
□ 治療:対症療法(特効薬はありません)
□ 予後:軽症で済むことがほとんどです(高熱の割には機嫌はまあまあ)が、まれな脳症を合併すると後遺症が残る危険があります。
□ 予防:予防法はありません。
※ 突発性発疹ウイルスの再活性化
HHV6&7は初感染後体内に潜伏感染詩、免疫抑制状態で再活性化します。臓器移植後(腎移植、肝移植、造血幹細胞移植、心配同時移植など)2〜3週間語に発熱、発疹(GVHD様)を起こし、一般的には無治療で軽快します。
最近HHV-6脳炎が注目されていますが、成人例がほとんどで小児例は少ないと考えられています。
■ 肺炎マイコプラズマ
□ 原因:肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という細胞壁を有さない小型桿菌(ウイルスと細菌の中間くらいの大きさ)
□ 疫学:
・成人では肺炎を起こしやすいが、幼小児期では上気道炎症状にとどまり、肺炎の描像を摂らないことが多い・・・つまり低年齢ほど軽く済む!?
※ 昔は数年周期で流行を繰り返してました。オリンピックイヤーに一致して流行したので「オリンピック病」と呼ばれたこともありました(最近は聞かないですね)。
□ 感染様式:飛沫感染
□ 潜伏期:2〜3週間
□ 症状:乾いた咳(鼻水、痰は少ない)が止まりません。熱は出ることもある程度です。
※ 「肺炎」のイメージは高熱が続き、咳が止まらなくて苦しそう・・・が一般的ですが、マイコプラズマ肺炎では高熱は珍しく寝込むことはまれです。なので、典型的ではないという意味で「非定型肺炎」と呼ばれることがあるくらいです。
※ マイコプラズマはウイルスと異なり気道の上皮細胞を大量に破壊せず、また粘液の産生を増やさないため「乾いた咳」が特徴です。
□ 合併症:
・呼吸窮迫症候群
・(肺外発症)脳炎、心筋炎
□ 治療:マクロライド系抗生物質(近年耐性化が問題になりつつあります)
※ 参考HP:「小児におけるマクロライド系薬耐性マイコプラズマの大流行」(北里大学)
□ 予後:肺炎を発症しても、基本的に3週間程度で自然治癒します
※ マイコプラズマと似ている「クラミジア感染症」
・・・クラミジアも「非定型肺炎」を起こしますが、他のウイルス、マイコプラズマと症状だけでは区別困難です。やはりマクロライド系抗生物質が有効です。特徴を挙げますと、
① 発熱が軽度である
② 受診までの期間が長い(治るかな〜と様子を見ていたけど治らないので受診)
③ 寒性咳嗽が遷延することが多い、咽頭痛が比較的強い
④ 肺炎例は2歳未満はまれで、3歳以降徐々に頻度が高くなり、学童期に舏ると成人と同程度になる。
■ オウム病
□ 原因:Chlamydophila pisttaci
□ 疫学:日本での頻度は、2002年以降は年間50例程度(うち小児例5%以下)
□ 感染様式:鳥類(オウム、インコ>ハト)の唾液や排泄物を吸引して感染する。ヒトーヒト感染はありません。
□ 潜伏期:1〜2週間
□ 症状:高熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、関節痛→乾性咳嗽〜血痰、呼吸困難
□ 合併症:髄膜炎
□ 治療:マクロライド系、テトラサイクリン系抗生物質を2〜3週間投与
□ 予後:初期治療が不適切であると髄膜炎や多臓器不全に陥り致死的な経過をたどります
■ ネコひっかき病
※ 病気の解説HP:メルクマニュアル
□ 原因:Bartonella henselae という細菌(グラム陰性小桿菌)
□ 疫学:人畜共通感染症(ネコからヒトへ伝搬)
※ 菌が発見されたのは1980年代と最近のこと。
□ 感染様式:ネコとの接触あるいはネコによる受傷(ネコに引っかかれなくても発症することがあります)
※ ネコ・イヌの口腔内、目やに、寄生ノミにもB. henselae が存在します。
□ 潜伏期:1〜3週間
□ 症状:
・有痛性のリンパ節腫大が特徴
・他に微熱、全身倦怠感、悪心・嘔吐、頭痛、食欲不振、体重減少を伴うことがあります。
★ 原因不明の発熱の原因になることがあります!
2週間以上微熱が遷延する場合は、ペット飼育歴・イヌ・ネコとの接触歴のチェックが必要です。小児では必ずしもリンパ節腫張が見られないことがあります。
□ 合併症:
実は、典型的ネコひっかき病はバルトネラ感染症の一病型に過ぎません。他にたくさんの病型が存在します(↓)
※ 非定型的ネコひっかき病:急性脳症、不明熱、多発性肝・脾肉芽腫、髄膜炎、原因不明の心内膜炎、肺炎、胸水貯留、末梢神経炎、結節性紅斑、Parinaud眼腺症候群、血小板減少性紫斑病などなど。
□ 治療:抗生物質(マクロライド系、テトラサイクリン系)が有効です。
□ 予後:抗生物質を使用しなくても6〜12週で軽快し、一般に良性の経過を辿りますが、まれに全身に波及することがあります。
(準備中)
□ 原因:
□ 疫学:
□ 感染様式:
□ 潜伏期:
□ 症状:
□ 合併症:
□ 治療:
□ 予後:
<新聞記事より>
子どもの感染症に関する記事を拾い読み。
今さら聞けない+ マイコプラズマ(2012.2.4:朝日新聞)
(抜粋です。わかりやすい記述に感心しました。)
マイコプラズマは、究極まで無駄をそぎ落とした「最小の生命」といわれ、大きさは大腸菌の10分の1ほどしかありません。遺伝子の数も生物の中で最も少ないグループに入ります。
ふつうの細菌にある「細胞壁」がなく、細胞膜がむき出しになっているのも翁特徴です。70種以上いるマイコプラズマの仲間はみな、ウシやブタなどの哺乳類や鳥類の体内に寄生し、人間の肺や口、尿道、生殖器などからも十数種類がみつかっています。しかし、肺にいる種類以外はふつうは病気を起こさず、人間と共存しています。
マイコプラズマ肺炎で乾いた咳がでるのは、その寄生の仕方に原因があります。他の細菌やウイルスによる肺炎では、粘液やたんが混じった湿った咳が出ますが、これは人間の肺や気管支の粘膜細胞が破壊されるためです。一方、マイコプラズマの場合は細胞に付着するだけで、細胞を攻撃しません。
ところが共存していた人間の免疫系がなぜか、マイコプラズマの細胞膜の部品に刺激され、過剰反応を起こすことがあるのです。それで炎症が起き、発熱や咳の症状が出ると考えられています。
肺炎の治療には、細菌の細胞壁の合成を邪魔するペニシリンやセフェム系という抗菌薬がふつう使われます。しかしマイコプラズマには細胞壁がないので、たんぱく質や遺伝子の合成を邪魔するタイプの抗菌薬を使うしかありません。
マイコプラズマは増殖力も弱く、菌の培養による確定診断が難しいのです。このため治療開始が遅れると、咳が長引くことになります。推奨されている抗菌薬が効きにくい耐性菌が増えたことも、完治を遅らせる原因です。
さらに悪いことに、抗菌薬でマイコプラズマを殺しても、細胞膜の部品は残ります。ダニを殺虫剤で退治しても、死骸がカーペットに残っているとアレルギーが治らないのと同じで、金はいないのに炎症が続くことになるわけです。
怖いのはマイコプラズマが、肺以外の場所で炎症を起こす「肺外発症」です。ほかの感染症が合併したりして粘膜細胞が弱ると、マイコプラズマが細胞同士のすき間に入り込み、血液に乗って全身に回ります。肺炎や髄膜炎、急性膵炎、心筋炎などが起きます。
マイコプラズマはせっけんや加熱に弱いので、ほかの感染症と同様に手洗いやうがい、食材の加熱などの対策が有効です。せきやくしゃみで感染するため、咳のエチケットを守ることが大事です。
■ マスクと上手につき合う(2012/1/25:日本経済新聞)
風邪やインフルエンザの流行に、花粉症――。この時期、手放せないのがマスクだ。ただ、種類が多すぎてどれを選んでいいかわからないという人も少なくない。「うっとうしい」「化粧が落ちる」などと敬遠する人も。選び方から正しい着用法、意外な活用法まで、マスクのあれこれを調べてみた。
マスクには様々な種類がある。どんな時にどんなタイプを使うのが適しているのか、健康関連商品のインターネット通販を手がける「ケンコーコム」に聞いてみた。
◇ ◇

マスクには主に、一般マスク、機能性マスク、防じんマスクの3タイプある。風邪予防には不織布でできた使い捨ての一般マスクで十分だが、インフルエンザやノロウイルス、花粉症が流行しているときは、ウイルスや花粉対策用の機能性マスクを使ったほうがよい。新型インフルエンザが流行したような場合は、ウイルスを通さない防じんマスクが向く。
マスク選びを間違えると、使いづらさに悩むことになる。話がしづらいようであれば、平らな形のものより立体構造タイプを選ぼう。耳が痛くなる場合は軟らかいゴム、丸い形状のゴムが付いたものを選ぶといい。耳ゴムのない特殊粘着タイプもお勧めだ。
眼鏡が曇るなら、鼻当てワイヤ付きがいい。「日常的に使う予防用マスクは使い捨てにしたくない」という人は洗って陰干しできるタイプやガーゼマスクを使う手もある。サイズ選びや着用方法は図を参考にしてほしい。
女性にとって気になるのがメークだ。東京医科歯科大学非常勤講師で美容ジャーナリストの宇山恵子さんは「ノーメークでは老けて見えるのでしっかりアイメークを。眉は太めに描くと元気な印象に。鼻から下も化粧するならメークが落ちにくいタイプのマスクを選ぶといい」と助言する。「メーク前に顔に合わせてマスクを成形し、鼻や肌を圧迫しないよう整えてヒダを伸ばしておくことも大切」
マスク着用のマナーにも気をつけたい。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんは「マスクはお互いの健康を守るうえで不可欠。敬遠せず、受け入れ合いたい。ただ、人と接するときは『マスクをしたままで失礼いたします』と一言添える配慮を」と話す。
このとき、「ひどい風邪をひいているので」など、相手に不安感を与える説明は不要だ。かわりに「喉を痛めていまして」などと話すと無難だろう。接客業の人は「マスクをつけたまま○○させていただいてよろしいでしょうか?」と疑問文で声をかけると、よりソフトな印象になる。
「目上の人に会う時は、予防のために着けているなら外すのがマナー。風邪などをひいているなら丁寧にことわり、深く一礼を」。周囲に不快感を与えない心配りも大切だ。「お茶を飲むときマスクを外す場合は、新しいものに着け替えると不潔感を与えない」(西出さん)
◇ ◇
マスクといえば、「うっとうしい」と敬遠されがちだが、前向きに活用する方法もある。宇山さんは「紫外線を遮断し、肌や喉の乾燥を防ぐうえでも効果的。ついでにマスクで隠れる部分をお手入れし、“養生”しては」と提案する。マスクでパックをするつもりで美容液やリップクリームを多めになじませておく。
「目力」を鍛えることもできる。西出さんは企業の接遇研修のとき決まってマスクを利用するそうだ。「マスクで口元を隠し、目の表情だけで『笑顔』を表現する。思いを込め、顔の筋肉を動かさなければ魅力的な目の表情は生まれない。鏡でチェックしながら練習してもらっている」
マスク着用中はとかく無表情になりがちだが、口元が隠れていることを逆手にとり、このようなトレーニングをするのも一手だろう。
ますます身近になっているマスク。基本をおさえたうえで自分流に活用しても楽しい。
(ライター 西川 敦子)
■ 「風邪」予防の常識・非常識 (2011/1/18:日本経済新聞)
寒くなり、せきが出たり微熱が出たりする風邪がはやる季節になった。頻繁に使う言葉だが、「風邪」は医師が診断する病名ではない。一見同じような風邪の症状でも、原因や経過が異なる複数の病気に分かれていてそれぞれの病名で診断されるからだ。知っておきたい「風邪の常識」をまとめた。
マスクは病気が広がるのを防ぐのに役立つ
昨年11月、東京都内在住の公務員、A子さん(29)は、体がだるくのどが痛いのに気がついた。頭痛もあり熱を測ると37度程度の微熱があった。近所の薬局で購入した漢方薬を服用した。平日はマスクを着けて仕事へ行き、休日は一日中家で寝ていたところ2~3日で楽になった。熱を測ると平熱に戻っていたので治ったと思い安心した。
病名でない風邪
一般にせきやくしゃみ、軽い発熱などがあると「風邪」と言うことが多い。ただ、「風邪という病気はない」と永寿堂医院(東京都葛飾区)の松永貞一院長は説明する。
風邪にはウイルスや細菌などの病原体の感染による「感冒」と、「寒い日におなかを出したまま寝ていた」といった寒さなどの生活環境による「寒冒」がある。ほとんどが前者で、そのうちの多くの原因がウイルスだ。
風邪を引き起こすウイルスは少なく見積もっても250種類以上ある。通常、ウイルスに一度感染すると免疫ができて次に感染しにくくなるが、これだけたくさんの原因ウイルスがあるので何度も風邪を引くというわけだ。せきや発熱のような同じような症状でも季節によって流行するウイルスが異なり、冬は子供の気管支炎などの原因となるRSウイルスなどが多い。
腹痛や下痢、嘔吐(おうと)などの症状があると「おなかの風邪」といわれることも。これは感染性胃腸炎と診断される。大腸菌などの細菌のほか、冬はノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスが原因になることが多い。
これだけ多くの原因を持つ風邪。予防はどうするのか。
まず予防接種をする。ただ1つのワクチンで防げる病原体は通常1種類。インフルエンザウイルス、肺炎を起こす肺炎球菌といった重い病気を引き起こす病原体に対するワクチンはあるが、ほとんどの風邪の病原体を防ぐワクチンはそろっていない。
日常的にできる対策はやはり「マスク」「手洗い」「うがい」だ。普段からよく食べて睡眠をとるといった健康管理も欠かせない。それぞれ目的が異なるので、「何に役立つかを覚えておくと、周りで流行しているものに対して予防対策をとりやすくなる」(国立感染症研究所の安井良則主任研究官)。
マスクは、せきやくしゃみなどで感染が広がるインフルエンザなどの病気が拡大するのを防ぐのに役立つ。手洗いは感染性胃腸炎を起こす病原体を洗い流して体内に入るのを防ぐ。
うがいはのどや口の中にある病原体を洗い流したり、保湿をしたりする働きがある。ただ、「うがいだけではウイルス感染を防ぐことはできない」(安井主任研究官)ため、ほかの方法と組みあわせる必要がある。
3日続けば受診

風邪にかかってしまったらA子さんのように軽い症状の場合は、医療機関へ行かず、市販の薬を飲んだり自宅で療養したりしてよくなることもある。健康な人では、もともとの体の免疫の働きがウイルスなどを排除する。市販の風邪薬や解熱剤は鼻水や発熱など風邪のつらい症状を抑えるので、免疫を付けるのに必要な食事や休養をとりやすくなる。
ただ、市販の風邪薬は原因のウイルスや細菌をやっつける治療薬ではないので注意が必要。症状が軽くても「3日たってよくならなかったら、すぐに医療機関へ行って」と松永院長は語る。
風邪とあなどっていると、思わぬ合併症を引き起こすこともある。例えば、発熱やのどの痛みがある溶連菌感染症。早めに医療機関で抗生物質などの治療を受ければよくなるが、放っておくと腎炎などの重症になることもある。
◇ ◇
インフルエンザは高熱に
先月、本格的なインフルエンザの流行期に入った。風邪と同じようにせきが出たり発熱したりするが、どのように違うのだろうか?
インフルエンザは38度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などがある。風邪はのどの痛みやせき、鼻汁といった呼吸器の症状がメーンだが、インフルエンザは全身の症状があるのが特徴だ。また発熱もインフルエンザのほうが高くなる。
特に高齢者や小児では悪化すると肺炎や脳症を起こすことがある。ただ健康な大人では、典型的な症状ではなく軽いこともあり多くの人では特に治療をしなくても1週間ほどで自然に治る。「軽いと風邪の症状と区別が難しい」(安井主任研究官)。
「今年も大きな流行になる可能性がある。新型は健康な成人でも注意が必要。インフルエンザを疑ったら、すぐに医療機関へ行ってほしい」とけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は注意を呼びかけている。
■ 胃腸炎(2012年1月 読売新聞の特集)
(1)激しい下痢 O111抗体検出(2012年1月9日 読売新聞)
富山県内の女性(16)は、2011年4月、経験したことのない激しい腹痛と下痢に襲われた。
「最初は原因もわからず、どこかで悪いものを食べたんだろうと、軽く考えていました」と話す父(46)。だが症状は翌日になっても続き、学校を休んで、自宅でトイレに何度も駆け込んだ。大便に血が混じり、やがて出てくるのは、ほとんど血ばかりになった。
近くの診療所を受診したところ、「血便が気になるので、大きな病院で調べてほしい」と言われ、病院の救急外来に駆け込んだ。
詳しい検査を受けた結果、医師から「細菌かウイルスに感染して大腸から出血している」と告げられ、急きょ入院することになった。
入院手続きを終えて帰宅した父親は、娘が3日前に食事をした焼き肉店で食中毒が発生したとのニュースを知った。その後、娘の血液からも腸管出血性大腸菌「O111」の抗体が検出された。
腸管出血性大腸菌は、牛や鶏など家畜の腸内などに生息。加工する過程で菌が付着した肉を、十分に加熱せずに食べた場合などに感染する。菌が出す毒素(ベロ毒素)が、大腸内の粘膜を傷つけ、激しい腹痛や血便などの症状が表れる。
父親によると、娘は焼き肉店で牛の生肉のユッケを食べていた。入院後も栄養や水分補給の点滴や、痛み止めの治療を受けたが、激しい腹痛と血便はなかなか治まらなかった。
腸管出血性大腸菌の治療について、旧厚生省研究班は1997年、適切な抗生物質を早期に投与された患者は重症化しにくいとする「手引」をまとめている。東京都保健医療公社・荏原病院(東京・大田区)感染症内科部長の角田隆文さんは「発症から3日以内なら抗生物質の飲み薬を服用することで菌の量を減らせ、回復も早い」と話す。
ただし「手引」では、抗生物質が菌を破壊した際に毒素があふれ、かえって増加したとの研究結果にも言及している。抗生物質を使用するかどうかは、患者の状況などを踏まえた、主治医の判断に委ねられているという。
父親は自分でもインターネットで調べ、腸管出血性大腸菌の感染が重症化すると、命に関わる恐れがあることを知った。
「何とか、持ち直してほしい」。祈るような思いだった。
◇
2011年4月、焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」でユッケを食べた客が、腸管出血性大腸菌(O111)による集団食中毒を発症。富山県のまとめ(11年12月現在)で、富山、福井、石川、神奈川の4県で計181人の患者を出し、富山で4人、福井で1人の計5人が死亡した。
胃腸炎(2)毒素で脳症や呼吸困難も(2012年1月10日 読売新聞)
焼き肉店でユッケを食べ、腸管出血性大腸菌(O-111)に感染して2011年4月、緊急入院した富山県の女性(16)は、血尿が出て、腎臓の機能の低下もみられるようになった。赤血球が減り、血小板の数も健康な人の基準値を大きく下回った。父親(46)は担当医から、「HUS(溶血性尿毒症症候群)」と説明を受けた。
腸管出血性大腸菌が吐き出すベロ毒素が、血液中の赤血球を破壊し、血管を傷つけて血小板の減少や腎機能の低下を招き、尿毒症を引き起こすのがHUSだ。菌はO157が代表的で、O26など多くの種類がある。
東京都保健医療公社・荏原病院感染症内科部長の角田隆文さんによると、HUSには、輸血や人工透析などによって貧血や腎不全の悪化を防ぎつつ、回復を待つ治療を行う。だが毒素が脳や肺を攻撃すると、脳症や呼吸困難などを起こし、重い後遺症や命にかかわることもある。
女性は入院して3日後、病院の勧めで医療スタッフや設備が整った大きな病院に転院した。血便と激しい腹痛は続いていた。
父親が医師から受けた説明によると、5月になると、呼吸の状態を示す血液中の酸素濃度が低下し、肺には血がたまっていた。血小板が減って自然出血しやすくなり、肺の細かい血管が破れたためとみられた。
呼吸困難が続き、集中治療室(ICU)に移った。人工呼吸器を付け、輸血が続けられた。たくさんのチューブにつながれた娘の姿に、父親は涙が出そうになり、「もう覚悟しなければならないのかな」と思った。
急変に備えてそばの待機室で寝泊まりすることになったが、1日たつと、赤血球や血小板の低下が落ち着き、血中の酸素濃度も安定しはじめた。翌日にはICUから一般病棟に戻り、その後は順調に回復。しだいに普通の食事もとれるようになった。
女性は5月下旬、1か月近くの入院生活を終え退院した。その後は通院で、赤血球や血小板の数も徐々に回復し、10月には通院も不要となった。
今回の焼き肉チェーンの食中毒の被害者の中には、意識障害やけいれんを起こして亡くなった人、退院後も腎不全で人工透析を続けたり、運動機能の障害が残ったりと、後遺症に苦しむ人もいる。
父親は「牛の肉は生でも食べられると思っていたし、飲食店が出すものは安全だと信じていた。娘のあの姿を見てからは、もう食べません」と語る。
胃腸炎(3)店任せだった生肉提供(2012年1月11日 読売新聞)
富山県の焼き肉チェーンで2011年に発生した腸管出血性大腸菌(O-111)による食中毒事件で、菌のベロ毒素による溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した患者は32人、全体の17・6%に上る。従来、腸管出血性大腸菌のHUS発症率は3、4%とされるのに比べ、突出して高い。
富山県衛生研究所や国立感染症研究所などによる研究班は、12年3月までに調査結果をまとめる予定だ。
同県衛生研究所主幹研究員の綿引正則さんは「患者からは別の型の腸管出血性大腸菌O157も同時に検出された。また、菌の摂取量が多かった可能性もある。大きな被害を招いたことと関係あるのかどうか、探り出したい」と話す。
この事件を機に、食中毒の引き金となった生肉の規制も強化された。
厚生労働省が1998年に設けた生食用の食肉の衛生基準では、菌が付着しやすい肉の周囲を切り取る「トリミング」などについて定められた。
しかし実際には、基準は形骸化。少なくとも2008~10年度に基準を満たした出荷実績があるのは、馬肉や馬のレバーのみで、牛肉はゼロだった。生肉を出すかどうかは店任せなのが実態だった。
そこで厚労省と消費者庁は新たな基準を作り、11年10月に施行された。
新基準では、枝肉から切り出した肉の塊を真空パックで密閉。さらに、塊の表面から深さ1センチ以上の部分を60度で2分間以上加熱殺菌し、冷やすといった処理を経なければ、生食用と表示して販売できない。
飲食店が提供する際は、生肉は食中毒の危険性があり、抵抗力が弱い子供や高齢者などに対しては食べることを控えるよう、店頭やメニューで明記することを義務づけた。
また、厚労省の調査では、従来存在が確認されなかった牛のレバーの内部からも、腸管出血性大腸菌が検出された。このため同省は、生レバーの提供を食品衛生法で禁止することも検討している。
生レバーの規制について議論している同省薬事・食品衛生審議会「乳肉水産食品部会」委員の甲斐明美さん(東京都健康安全研究センター微生物部長)は、「魚介類の刺し身などの生食文化は日本人に根強い。だが、現時点で生の食肉の安全性が確保されていない以上、食べることを控えるのはやむを得ないのではないか」と指摘する。
胃腸炎(4)生の鶏肉にも病原体(2012年1月12日 読売新聞)
生の食肉は、腸管出血性大腸菌のほか、カンピロバクターの感染にも注意が必要だ。
カンピロバクターは鶏や牛などの腸内に生息している細菌だ。解体処理の過程で汚染された生の鶏肉や牛レバーなどから感染する。食中毒の原因病原体として、近年ではノロウイルスに次ぎ多い。
東京都内で2006年11月、専門学校生7人が、鶏の刺し身や鶏わさ、鶏のから揚げなどを飲食店で食べた後、3日の間に下痢や腹痛、発熱を訴えた。保健所が、学生たちの便を調べたところ、全員からカンピロバクターが検出された。店が通常出している鶏の刺し身などからも見つかった。
厚生労働省の食中毒菌汚染実態調査(10年度)によると、鶏のミンチ肉のカンピロバクターの汚染率は36%に上り、鶏たたきなど加工された半生の鶏肉は17%、生食用として販売されている牛レバーでも10%あった。
東京都食品安全情報評価委員会は09年に、20歳以上の1000人を対象に、生肉がどれぐらいの人に食べられているかの実態調査を行った。その結果、3か月以内に食肉を生で食べた人は40%おり、よく食べているのは、牛肉のユッケ、鶏のたたきなどが多かった。
一方、食肉を生で食べることで食中毒が起こる可能性について、「知っていた」「食肉の種類によっては知っていた」と答えたのは75%で、「食肉の鮮度にかかわらず発生することがある」ことを、「初めて聞いた」と答えた人も44%いた。
カンピロバクターに感染しても通常は1週間程度で治る。ただし、まれに感染後1~3週間で手足のまひや呼吸困難などが起きる「ギラン・バレー症候群」を発症する例も報告されており、死亡例もある。
実態調査に関わった東京医大兼任教授の中村明子さん(微生物学)は「特に抵抗力の弱い子どもが生肉を食べて、カンピロバクターに感染すると、重症化する恐れがある」と話す。
湯引きした鶏肉も、時間が短いと中まで熱が十分通っておらず、菌が検出されることがある。鶏のつみれなど鍋物などに用いられるミンチ肉も菌に汚染されている恐れがあり、中までよく熱を通すことが大切だ。菌を死滅させるには、中心部を75度以上で1分間以上加熱する必要がある。
専門学校生が06年に食中毒を起こした飲食店は、仕入れた鶏を店内で当日中にさばいており、「新鮮であれば細菌は少ない。鮮度には自信があり、自分の店は大丈夫」と誤解していた。
中村さんは「鮮度の問題ではない。鶏の生肉には病原体が存在するのが当たり前と考え、食べないことが重要です」と指摘する。
胃腸炎(5)ノロ対策 適切な手洗い(2012年1月13日 読売新聞)
関西地方の特別養護老人ホームで2005年12月、80歳代の入所者の女性が就寝中に突然、嘔吐
し始めた。翌日の昼食時には、別の入所者2人も激しく嘔吐し、さらに職員の間にも広がっていった。
3日後には、発症者が10人に達し、施設では症状からノロウイルスの集団感染の可能性があるとみて、保健所に通報。職員と入所者4人の便の検査で、ノロウイルスが検出された。
ノロウイルスは冬に流行しやすい感染力の強い病原体。少ない量でも感染する恐れがあり、発症すると、激しい嘔吐や下痢に襲われる。潜伏期間は2日前後と短く、ワクチンや治療薬はないが、通常は3日程度で自然に治る。だが、下痢などで脱水症状を起こしやすくなるため、こまめに水分補給することが大切だ。
ウイルスは、加熱が不十分な二枚貝や、感染した人の大便や吐物に潜んでいる。子供や高齢者などが多く集まる施設では、床に飛散した患者の下痢便や、吐物の衛生管理などが不十分な時、指などに付着したウイルスが口に入ることで集団感染を招く恐れがある。
腹痛や下痢が治まっても1週間程度は便にウイルスが潜んでいることもある。排便後の手洗いを徹底し、食品などを扱う時は使い捨ての手袋を着用するなどの注意が必要だ。
東京都内で11年11月中旬、老人福祉施設の職員や看護師など約50人が参加し、感染症対策セミナーが開かれた。ノロウイルスなど施設内で集団発生しやすい感染症の予防や、発生時の対策について学んだ。
実習では、便に見立てた液状の物質に特殊なクリームを混ぜ、オムツを処分する作業を体験。紫外線ランプに当てると青白く浮かび上がるクリームの性質を利用して、便に触れたかどうかが確認できる。
参加者がランプの下に手をかざすと、便が手に付着してしまっていることが多かった。また、手全体にクリームを塗った後で手洗いをしてもらった実習では、洗い残しが浮かび上がった。老健施設に勤める40歳代の女性は「自分は大丈夫と思っていたのに、意外と汚れが落とせていないので、ショックです」と話す。
講師を務めた感染管理認定看護師の森下幸子さんは「衛生管理に意識の高い介護職の人たちでさえも、なかなか難しい。繰り返し、適切な手洗いの方法を指導することが必要です」と強調する。(野村昌玄)
■ 感染症を防ぐ正しい手洗い法 指はねじるように洗う
(2011年12月20日 朝日新聞)

手にはどれくらいの細菌がいる?正しい手洗いの手順 <グラフィック・くぬぎ太郎>
12月も半ば、インフルエンザや感染性胃腸炎が流行のピークを迎える時期です。手洗いは基本の予防策の一つですが、自己流で洗ったつもりは禁物。正しい手洗い法を調べました。
◇
手で鼻や口の周りを触ることでウイルスや細菌が体内に入ることを「接触感染」と呼ぶ。インフルエンザのほか、ノロウイルスやロタウイルスによる感染性胃腸炎、腸管出血性大腸菌などによる食中毒も、手が感染の橋渡しをする病気だ。
接触感染を防ぐためには、見た目の汚れを落とすだけでは不十分。群馬県衛生環境研究所(前橋市)を訪ねた。
「まずはいつも通りに手を洗って見せて下さい」と担当者。洗い残しがないかどうか、ひと目でわかるように、ブラックライトという特殊な光に反応するクリームを両手に塗る。暗い部屋でこの光を当てると、両方の手のひらも甲も、手首までクリームで真っ白になっていた。
この状態で手を水でぬらし、泡状の液体せっけんをつけて、手のひらと甲をそれぞれ2往復ずつこすり合わせた。その後、指の間や手首をなでるように洗い、水で流した。かかった時間はすすぎも含めて30秒ほどだ。
改めて両手にブラックライトを当てると、手のひらや甲は白色がやや薄くなっていたものの、指や手首は真っ白のまま。
次は、教えられた方法で洗ってみる。手のひらから甲、指、手首へと進み、それぞれ心の中で1~10まで数えながら洗った。約2分かかった。
◇
再びブラックライトの下に手を入れると、手のひらや甲はクリームがほぼ落ちていたが、指先や指の関節の周り、しっかり洗ったつもりだった手首はまだ白さが残っていた。
「指はもっとねじり洗いするといいですよ」と言われ、片手の指1本ずつをもう一方の手で包み込んで回転させながら洗う。今度は、ほぼ完全に落ちた。洗った手はペーパータオルか、自分専用のタオルで拭くのが一番いい。自宅で常にタオルを使い分けるのは難しいが、家族の誰かが感染症にかかった時は手間を惜しまないようにしたい。
静岡県立大の内藤博敬助教(微生物学)の研究室は、人間の身の回りの物に付着する細菌の数を調べている。例えば、携帯電話なら10平方センチメートル当たり1216個、エレベーターのボタンで490個、電車のつり革からは190個という結果が出た。
見つかったのは、健康な人には病気を起こさない「一般細菌」がほとんどだったが、食中毒や院内感染の原因になる菌もわずかにいた。
内藤さんは「アルコールなどの薬剤による消毒が必要な感染症もあるが、ふだんの生活ではまずは手洗いでしっかりとウイルスや細菌を落とすことが予防の基本です」と話している。(南宏美)
◆インフォメーション
洗剤や消毒剤メーカーのサラヤが運営するウェブサイト「みんなの手洗いサイト」(http://tearai.jp/tetete/)は、イラストやクイズで、正しい手洗い法を楽しく学べる。子どもにおすすめ。杏林製薬による「ミルトンママクラブ」(http://www.miltonmama.jp/)も手洗いなど、家庭でできる感染症の対策を紹介している。
〈ニュースがわからん!〉マイコプラズマ肺炎って?(2011年11月30日:朝日新聞)

<マイコプラズマ肺炎の患者数の推移>
■マイコプラズマ肺炎が流行してるね
アウルさん 「マイコプラズマ肺炎」が流行しているようね。
A 今年の患者数は、統計のある1999年以降で最も多く、6月下旬からずっと高水準の流行が続いている。天皇陛下が感染したことでも注目されたね。
ア どんな病気なの?
A 患者のせきやくしゃみを通じて、マイコプラズマという病原体が体内に入ることで感染する。感染から症状が出るまで2、3週間。最初は熱が出たり、全身がだるく感じたりする。たんのない乾いたせきが出るのも特徴で、1カ月近く続くことがある。
ア 子どもがかかりやすいのかしら。
A うん。患者の8割は14歳以下だ。20~39歳の患者も1割いる。小さい子をもつ親世代だしね。高齢者は少ないが、かかると重くなりやすく注意が必要だ。
ア なぜ今年は大流行?
A はっきりした理由はわからない。治療で最初に使う抗菌薬の効かない「耐性タイプ」が増えていると報告されている。このため症状が長びいたり重症化したりして、大流行につながっているのでは、という見方がある。ただ「耐性タイプ」は何年も前から増えているから異論もあるんだ。
ア 薬が効かないなんて、こわいわね。
A 「耐性タイプ」と分かれば、別の抗菌薬を使って治療できる。ただ、新たに耐性ができないよう、医師の指示通りにきちんと薬をのむことが大切だ。
ア まだこれからも流行は続くのかしら?
A インフルエンザだと冬にはっきりとした流行のピークがある。でも、マイコプラズマ肺炎は年間を通じて流行し、11、12月に患者数がやや増えるのが特徴だ。国立感染症研究所は「年末まで流行が続くのではないか」とみている。
ア 気をつけなきゃ。
A 重い肺炎に進行することもあるので、せきが長びくなどの症状が出たら、すぐに受診したほうがいいよ。(南宏美)
■ 【医の手帳】子どもと感染症(2011年11月:朝日新聞の特集)
(1)新潟大学大学院医歯学総合研究所・斎藤昭彦教授(小児科学)
今年も、インフルエンザの季節がやってきました。2年前の今ごろは、2009 A/H1N1インフルエンザ(当時の新型インフルエンザ)が大流行しました。昨年のシーズン前には、その更なる流行が心配されましたが、大きな流行はなく終わりました。今年はどの型が流行するのか。その予想が難しいのがインフルエンザの特徴です。
インフルエンザは、数日間の高熱、頭痛、呼吸器症状、全身倦怠(けんたい)感、関節痛などをきたす病気です。かかるととてもつらいですし、学校などを数日間は休まなくてはいけません。肺炎、脳炎などの合併症をきたすこともあり、後遺症を残したり、死亡したりする人もいます。かかる前に、予防することが最も重要です。
インフルエンザウイルスは、感染した人のせきやくしゃみで飛び散ります。それから身を守るため、二つの重要なことがあります。一つは、外から帰った時にしっかりと手を洗うこと。水ですすいだ後、せっけんをつけ、よく泡立てた後、手のひらと甲、洗い忘れやすい指先、親指、指の間、手首を洗い、水でよくすすぎます。洗った後、きれいなタオルなどで拭き取ることも大切です。せきなど呼吸器症状のある人は、マスクを着け、他の人にうつさないよう心がけて下さい。
もう一つは、インフルエンザのワクチンです。ワクチンは、インフルエンザにかかった場合に重い症状や合併症にならないこと、そして、かからないように予防する効果もありますので、ぜひ、接種を心がけましょう。また、皆がワクチンを接種することで、様々な理由でワクチンを接種できない人たちを守ることもできます。
今年のワクチンには、昨年のワクチンと同じ三つの株が含まれており、2年前に流行した2009 A/H1N1インフルエンザ株が含まれています。流行の始まる前から接種しておくことが重要ですので、早めの接種をお勧めします。
■ ロタウイルス:冬~春に流行の感染性嘔吐下痢症、ワクチン早めに(2011年11月:毎日新聞)
ロタウイルス感染を予防するワクチン「ロタリックス」が、21日から各地の医療機関で接種できるようになる。ロタウイルスは冬から春に流行する感染性胃腸炎の主な原因となる。病気の特徴やワクチン接種の注意点をまとめた。【田村佳子】
◇重症化を予防/国の承認、生後6カ月まで
東京都中央区の熊本真由美さん(44)は7月、鹿児島県内の実家に里帰り中に、妹(41)の次男(1)のロタウイルス感染に遭遇した。幼稚園児の長男(3)が2日ほど嘔吐(おうと)・下痢を繰り返し、治ってほっとした直後に次男が朝食を吐き、ひどい下痢が始まった。
地元のこども病院を受診し、吐き気止めの点滴を受けても嘔吐。その日の夕方には別の救急病院に入院した。本人はぐったりして泣く気力もなかったという。「下痢が1日10回以下になれば退院」と言われたが回復は遅く、8日目にようやく退院できた。
その間、妹を中心に交代で看病し、熊本さんは便で汚れた衣類の消毒・洗濯、妹夫婦の弁当作りや長男の世話にも追われた。「小さな体に点滴が痛々しかった。入院中は自営業の妹夫婦の生活もめちゃめちゃだった」と振り返る。退院後に妹らも感染した。
「ワクチンがあるなら勧めたい。重症化したら本人も家族も大変です」
*
ロタウイルスの感染症は「嘔吐下痢症」とも呼ばれるように、嘔吐と下痢を繰り返す。便が白っぽくなるのも特徴だ。感染力が非常に強く10個以下のウイルスでも発症する。患者の便や吐しゃ物1グラムには最大1兆個のウイルスがあり、保護者や保育園内に感染が広がることも多い。
感染性胃腸炎の原因ではノロウイルスが有名だが、「ロタの方が症状は重い」と日本小児感染症学会の田島剛理事は話す。5歳までにほぼ全員がかかり、初めの感染時の症状が重くなりやすい。ワクチンは重症化を防ぐとされ、効果自体は約3年間続く。
WHO(世界保健機関)はロタウイルスワクチンを「すべての子どもに接種を勧める」としている。衛生状態の良い日本ではその怖さが軽視されがちだが、毎年10人弱の死亡が報告され、2万~7万人強の乳幼児が入院していると推計される。
同学会理事長の森島恒雄・岡山大学教授は「年間約1000例の急性脳炎のうち、ロタウイルスによるものは約40例。うち4%が死亡、38%に寝たきりなど重い後遺症が出ており、インフルエンザ脳症に比べても予後が良くない。ロタはけいれんを起こしやすく止めにくいこともあり、発症を防いだ方がいい」とワクチン接種を勧める。
*
ワクチン「ロタリックス」は生後6週から接種が可能。弱毒化した生ワクチンの液体1・5ミリリットルを、中4週間以上空けて2回、口から接種する。
発売元のグラクソ・スミスクラインによると、国内では約500人に臨床試験を行い、2歳までにロタウイルス胃腸炎の発生を8割、重症化を9割以上減らした。接種後30日間の副作用の報告で多かったのはぐずりや不機嫌の37件、下痢18件、せきや鼻水17件。偽薬(プラセボ)を与えられた257人と比べると、副作用が有意に違う点はなかった。接種直後に胃腸炎を発症したとみられるケースは臨床試験でも海外の利用例でもないという。また、ベルギーではロタウイルスワクチンが定期接種に導入され、8割以上が接種を受け、流行が大きく抑えられた。
注意すべきなのは、遅くとも生後5カ月までに接種開始が必要なことだ。過去に海外で使われた別のワクチンが腸重積(腸管の一部が腸管に入り込む病)を起こす可能性を指摘されたため、このワクチンは腸重積の自然発生が増える生後6カ月までしか国の承認を得ていない。それ以降は原則接種できず、接種を強行しても副作用が起きた場合に国の補償を受けられない。
また、生ワクチンの接種後4週間はほかのワクチンが接種できないため、重症化しやすい髄膜炎を防ぐためにも「日本小児科学会などが勧めるように、生後2カ月でヒブ、肺炎球菌ワクチンなどとの同時接種を行うのが標準的な方法」と森島教授は勧める。
国が行う定期接種ではないため、費用は原則、自己負担だ。病院によって多少異なるが、1回1万数千円と予想される。北海道幌加内町のように公費補助の方針を示す自治体は少ない。田島理事は「自治体や家庭の財政力によって、接種を受けられる子と受けられない子が出るのは明らかな問題。ほかの任意接種ワクチンとともに、国による無償の定期接種に切り替えるべきだ」と訴えている。
■ 乳幼児のRSウイルス感染に注意(2011.8.31 産経新聞)
2歳までに乳幼児のほとんどが感染するとされるRSウイルス。例年は秋から春にかけて流行する感染症だが、今年は7月から患者が増えているという。ただ、インフルエンザなどに比べて認知度は低く、予防するためにも、専門家は認知度の向上を課題に挙げている。(森本昌彦)
◆低い認知度
「今年は7、8月にRSウイルス感染症で入院するお子さんが非常に増えています」。昭和大学医学部小児科の水野克己准教授は話す。
RSウイルス感染症は秋から冬にかけての長い期間にわたって流行し、12~1月がピークとされてきた。昨年までは同時期にRSウイルスに感染した子供はそれほど多くなかったという。
RSウイルスについて、水野准教授は「以前に比べると増えたが、10人のお母さんに話して1人ぐらいが知っている程度です」と認知度の低さを懸念する。
事実、医薬品大手「アボットジャパン」(東京都港区)が7月に実施した調査によると、妊娠8カ月以上の妊婦でRSウイルス感染症がどのような病気かを知っていたのはわずか2・4%。名前は聞いたことがあるのは27・1%で、7割が名前すら知らなかった。乳幼児(2歳未満)を持つ母親でも同様で、どのような病気かを知っているのは3割以下。インフルエンザについては妊婦の83・7%、母親の91・2%がどのような病気かを知っており、大きく差が開いている。
こうした現状について、水野准教授は「RSウイルスは1カ月未満の子供でもかかる。妊婦さんが知っておかなければいけないウイルス感染症の一番はRSウイルスです」と警鐘を鳴らす。
◆普段から予防を
RSウイルス感染症は、なぜ乳幼児にとって危険なのか。RSウイルスは何度も感染し、悪化すると肺炎などを起こし、最悪の場合は死に至ることもあるからだ。特に重症化しやすいのは、生後6カ月以内の乳児や早産児、慢性肺疾患や先天性心疾患などの基礎疾患を持っている乳幼児とされる。
幼い頃にRSウイルス感染症が重症化し、肺などの下気道感染症になった場合は、将来的な不安もあるという。水野准教授は「長期にわたって、喘鳴(ぜんめい)(気管が狭くなり、呼吸時にゼーゼーというような音がする状態)、ぜんそくになるリスクが高くなる。小さいときにRSウイルス感染症が重症化しないようにすることが大事だ」と話す。
ただ、RSウイルスは一度感染しても持続的な免疫ができにくく、予防ワクチンや特効薬もないのが現状だ。このため、RSウイルスに感染しないよう、普段の生活で対策を取ることが重要になる。
感染を防ぐため、普段の生活での注意点として、水野准教授は、手洗い・うがいを徹底する▽接触感染を防ぐため、流行期に子供が集まる場所になるべく行かない-ことを挙げる。
また、母乳で育てることや妊娠中の積極的なビタミンD(魚・キノコなどに多く含まれる)の摂取も有効という。重症化を防ぐ手段としては「シナジス」と呼ばれる抗体製剤の投与があるが、100ミリグラムで約15万円と費用が高いのがネック。ただ、29~35週の早産で6カ月以下の新生児や乳児などは健康保険が適用され、重症化のリスクが高い早産児には投与を勧めている。
【用語解説】RSウイルス感染症
Respiratory Syncytial Virus(呼吸器合胞体ウイルス)の略で、風邪の原因となる一般的なウイルスの一つ。乳幼児が最も感染しやすいウイルスで、1歳の誕生日までに70%の乳児が初感染し、2歳までにはほとんどの乳幼児が感染するとされる。通常、健康な乳幼児が感染した場合、38~39度程度の発熱、鼻水、せきなどの症状が出て、多くは8~15日ぐらいで治まる。発熱症状がないこともある。

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