ワクチン各論

予防接種について

(2009年4月 初掲載・・・2010年7月 最終更新)

 ワクチンは治療法がなく、ときに重い合併症に苦しめられる病気に立ち向かってきた人類の知恵の結晶です。「やれといわれたから受けた」ではなく、実際に病気に罹ったときと予防接種を受けたときのメリット・デメリットを比較して十分理解し、自分の子どもの健康を守るという視点で接種すべきかどうかを考えていただきたいと思います。

<従来からあるワクチン>

■ 日本脳炎ワクチン

 2005年6月に、国から全国の市町村長宛に「日本脳炎の予防接種が原因と思われる重篤な急性散在性脳脊髄炎(ADEM:アデム)の副反応が発生したため、当分の間、日本脳炎ワクチンの積極的な勧奨を差し控える」という内容の通知が出されました。「健康なヒトを守るために接種する予防接種で、重篤な副反応を起こしてはならない」という慎重な立場に立った行政判断に基づくものです。

 現行の日本脳炎ワクチンはマウス脳を使用して作成されており、一方、より副反応のリスクが低いと期待される組織培養法によるワクチンが開発中であることから、新ワクチンを供給できる体制ができたときに接種勧奨を再開する予定、とのことでした。しかし、1年くらいで供給できる予定であったこの新ワクチンの開発は足踏み状態で、認可は未定です(→2009年に再開されました)。 
 日本脳炎にかかった場合と現行のワクチン接種した場合の情報を比較しました。

自然に罹患した場合
 感染経路:ウイルス性の病気で蚊に刺されて感染。ヒトからヒトへは伝染しない。
 感染者の1000〜5000人に1人が脳炎発症。死亡率:32%、後遺症:14%
 症状:突然の高熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなど。
 最近は年間10人程度が発症する。
 かつては小児が好発年齢であったが、予防接種の開始以後は小児は減り高齢者が中心。

ワクチンを接種した場合
 有効率:約80%
 副反応:発熱:1.9%、発疹:0.3%、接種部位の発赤・腫脹:8.9%、
     急性散在性脳脊髄炎(ADEM)・・・70万〜200万接種に1回
      → 自然罹患の脳炎発症率の約1/1000(1/140〜2000) 

 なお、インターネット上で公開されている「日本脳炎ワクチンQ&A」にさらに詳しく解説されていますのでご参照ください。

 現行ワクチンは「勧奨」されなくなりましたが、保護者が希望する場合は従来どおりの予防接種法による定期接種が可能です。新ワクチンができても、定期接種年齢を過ぎている子どもは任意接種になります。その場合「自費負担」かつ「副反応発生時の補償金額は減額」となってしまいます。

2009年6月「新」日本脳炎ワクチン開始

 上記のごとく、色々ありましたが新ワクチンが接種可能となりました。

■ 新・日本脳炎ワクチン

 旧ワクチンで問題となった副反応:アデム(ADEM、急性散在性脳脊髄炎)発生率減少を目的に開発された細胞培養法による新ワクチンが当院でも接種可能になりました。
 下記Q&Aを参考にしていただき、不明な点は各自治体窓口(下記に連絡先記載)にお問い合わせください

<自治体問い合わせ先一覧>
 館林市(健康推進課)  0276(74)5155
 板倉町(保健センター) 0276(82)3757
 明和町(健康づくり課) 0276(84)3111
 千代田町(保健センター)0276(86)5411
 大泉町(保健センター) 0276(62)2121
 邑楽町(保健センター) 0276(88)5533
※ (カッコ)内は担当部署の名前です。

追記:2010年5月に「積極的勧奨再開」予定と発表されました。

<日本脳炎という病気について>
 日本脳炎はアジアで広く流行している病気で、毎年、3万5000~5万人の患者が発生しており、1万~1万5000人が死亡していると推定されています。日本でも、かつては患者が多くみられましたが、予防接種が開始されて、患者数は著しく減少しました。
 感染した人のうち、100人から1000人に1人の割合で発病するといわれています。通常6-16日の潜伏期間の後、高熱、頭痛、嘔気、嘔吐がみられます。次いで、意識障害、けいれん、異常行動、筋肉の硬直などが現れます。重症例のうち50%が死亡するといわれ、生存者の30~50%に精神障害や運動障害などの後遺症が残るといわれています。
 特別な治療法はなく、対症療法が行われます。
※ より詳しくは以下のホームページをご覧ください。
◆ 厚生労働省検疫所 「日本脳炎」
◆ 国立感染症研究所 「日本脳炎 Q&A」

■ おたふくかぜと水痘ワクチン

 水痘・おたふくかぜは幼稚園・保育園を中心に流行を繰り返しています。
 合併症のリスクや出席停止措置などを考えると、集団生活がはじまる前に済ませた方が望ましいと当院では考えております。特におたふくかぜの合併症である「ムンプス難聴」は治療法が無く、近年問題視されるようになりました。

※ 参考ホームページ ムンプス難聴のお部屋(Macでは画面構成が乱れます)

 自然罹患とワクチン接種のメリット・デメリットを比較してみました。ワクチンの副反応はゼロではありませんが、かかった場合の合併症より少ないことがわかります。
 ぜひ家族で比較検討し、接種すべきかどうか考える材料にしてください。

■ おたふくかぜ

自然に罹患した場合
 症状:有痛性耳下腺腫脹が7〜10日間。
 隔離期間:「耳下腺腫脹が消失するまで出席停止(平均9日間)」(学校保健法)
 感染期間:症状出現前後約1週間はウイルスの排泄があり流行阻止は困難。
 合併症:無菌性髄膜炎(3〜10%)、睾丸炎(思春期以降:20〜30%)
     難聴(0.1〜0.5%)罹患後1ヶ月以内に発症し治療法はない

ワクチンを接種した場合
 任意接種(自費)
 対象:1歳以上の未罹患者
 有効率: 80%(残り20%は罹っても軽く済む)
 ※ 重症の卵アレルギーは皮膚テストが必要
 副反応:無菌性髄膜炎(0.05%・・・自然罹患の1/100の確率)。
     一過性の耳下腺腫脹と発熱(数%)

■ 水痘

自然に罹患した場合
 症状:発熱&全身の水疱性発疹症。
 隔離期間:「全ての発疹が痂皮化するまで出席停止(平均7日間)」(同上)
 治療:アシクロビル内服(商品名:ゾビラックス、ビクロックス他)
 合併症:米国では細菌二次感染や肺炎の合併症で年間約100人死亡の報告あり。
  帯状疱疹(体力低下時の再活性化)
  帯状疱疹後神経痛(50歳以降の10%):
   高齢者では帯状疱疹治癒後に長期間痛くてつらい思いをする。

ワクチンを接種した場合
 任意接種(自費)
 対象:1歳以上の未罹患者
 有効率: 80%(残り20%はかかっても軽く済む)

 ※ 近年「水痘ワクチンは帯状疱疹予防に有効」であることが証明され、高齢者に接種が推奨されるようになりました。

◆ (付録)おたふくかぜ罹患により難聴となった患者さんの声

ある小児科医に届けられた女子高生からの手紙です。彼女は小さい時におたふくかぜに罹患して難聴になりました。他の仲間を励まそうと書いた文章を公開していい(たくさんの人に知ってもらいたい)と言ってくださったので、ここに紹介させていただきます。

私は現在高1で、5歳の時、おたふく風邪にかかりムンプスウイルスによって左耳が難聴となりました。

難聴になった年齢が低かったせいもあり、最初はほとんど気にしてませんでした。
(自分は聞こえなくなったんだ、という自覚はありましたが。)
でも、学年があがるに連れ友達との会話で何度も聞き直したり無視してしまうことが何度もあり、すごく難聴であることが気になり始めました。

気にすることじゃないと思っていても、やはり
(何で聞こえないんだろう)
(何で自分なんだろう・・・どうして?)
そんなことばっかり考えていました。

正直、難聴になって10年たつ今でも考えています。

私は今までいろいろな経験をしてきました。
周りのひとの声を無視してしまったことはもちろん
聞こえないことを知っている友達や先生に裏切られたことや
陸上部に所属していたのですが、リレーの大会で雑音が混じりチームの人の声が聞こえずバトンを落とし失格になったこと。
音楽のとき左側のひとの声が聞こえないこと辛くて泣いたこと・・・

もし私が難聴にならなかったら
数えきれないぐらいの「辛い」がなかったんじゃないか、
こんなに悩むことなかったんじゃないかって思います。

でも、難聴になって感じたことがあります。

ひとつは絶対に自分のことを理解してくれるひとがいることです。
中学時代、聞こえないことで悩んでいたとき相談にのってもらった先生が
「聞こえないことはハンデではなくて君の個性なんじゃないかな。まずはその個性を自分がどう受け止めるかだと思うよ。」
と言ってくれました。
すごく親身になって聞いてくれ、とても心強くて励まされました。

また、すべてとは言えないけど、障がいのある人の気持ちが少しは理解することができると思います。他人を傷つける言葉が繊細に分かると思います。

ほかにもたくさん、視点を変えたらマイナスからプラスになることがあるかもしれません。

私は将来、聴導犬訓練士になりたいと考えています。
すごくマイナーな仕事でちっぽけな夢かも知れません。
笑われたこともあります。ですが私はこの夢を絶対に叶えたいんです。
聴覚障がいのある方に携わりたいです。
この夢は、難聴でなければ抱けなかった夢だと思います。

難聴は本当に辛いです。

片耳難聴は言いかえれば、「片耳は聞こえる」ということで理解してもらえないことの方が多く
どこかで
(難聴だから仕方ない)
という一線を自分自身で引いてしまいます。

だけど、悩んで自分を閉じ込めるのも悩みながらも進んでいくのも自分次第だと思います。
きれいごとかもしれません。
でも、自分自身を含めて、難聴の方に前を見てほしいです。

同じように悩んでいる方々、

聞こえないから・・・
ではなく、聞こえないからこそできることを見つけませんか。

以前同じように難聴である人に
「失ったものにこだわるのか、残されたものを活かすのか」
という言葉をことを教えていただきました。

辛いことも必ずあると思います。

でもそれを経験し、何かを得ることができたとしたらそれは私たち難聴を抱える人にしかわからないことだと思います。
辛いけど誰にも話せないときは、インターネットで難聴者の声が載っている掲示板などを探してみてください。

きっと勇気がもらえると思います。

また、そのご家族の方、必要以上には悩まなくていいと思います。
ただ難聴のことを知りたがったり、何か助けをもとめられたらその時はゆっくり話を聞いて、支えてあげてください。

最後にお医者さんや健常者の方に難聴者の声をひとつでも多く聞いてもらえることを願います。

ムンプス難聴
 おたふくかぜ罹患後に20,000 例に1例程度(近年数千例に一人とのデータもあり)に難聴を合併すると報告されており、治療法が無く永続的な障害となります。
 おたふくかぜに罹らなければ、当然合併症の難聴も発生しませんので、ワクチンによる予防をお勧めします。
参考ホームページ
・「ムンプス難聴にかかった方および子どもたちの保護者からのメール
・「 ムンプス難聴のお部屋

■ ポリオワクチン

■ ポリオという病気について

・別名「小児麻痺」
・感染様式:経口感染
・潜伏期:約5日間
・症状:感染しても発症する(症状が出る)のは10%以下。
1)不顕性感染型(90〜95%):全く症状が出ない
2)不全型(5%):軽度の発熱、不快感、頭痛、眠気、咽頭痛
3)髄膜炎型(1〜2%):発熱、嘔気・嘔吐、項部硬直(首がこわばり痛がる)、四肢痛
4)麻痺型(0.1〜2%):足または手の弛緩性麻痺(力が入らない・動かせない)を生じ、後遺症として運動障害を残します。呼吸麻痺を起こすと死亡することもあります。

■ ポリオワクチンについて

・生ワクチン:ポリオウイルスの病原性を弱めて、症状を出さずに免疫だけつける方法
・接種回数:2回(海外では3回以上)
・副反応:
 下痢(接種後2日まで):4.1〜4.9%
 嘔吐(接種後2日まで):1.0〜1.3%
 発熱(接種後1〜3日):1.3〜1.7%(<38.5℃)、1.7〜2.0%(>38.5℃)
 麻痺:接種後4〜35日(平均15日)に弛緩性麻痺を生じる確率が1/450万接種

接触者感染(排泄されたワクチンウイルスの感染により発症)は1/550万接種
※ 接種を受けた子どもの便中には1ヶ月程度ワクチンウイルスが排泄されます。

■ ポリオ流行とポリオワクチンの歴史

 昭和35年(1960年)の北海道より始まったポリオの大流行を機にポリオワクチンの要望が高まり、輸入ワクチンによる緊急接種が行われて流行は急速に沈静化されました。
 引き続き昭和39年(1964年)には国産のポリオワクチン接種が始まり、患者発生数は激減しました。 さらに1970年代になるとポリオによる麻痺患者はほとんど見られなくなり、流行は完全に制圧されています。
 WHO(世界保健機関)によるポリオワクチン接種強化活動により、平成12年(2000年)には日本を含む西太平洋地域で、平成14年(2002年)にはヨーロッパ地域にてポリオ根絶宣言が出されました。
 しかし、アフリカ、東南アジアの一部では依然としてポリオが発生しているのが現状です。平成17年(2005年)にはインドネシアでポリオの流行が認められました。
 よって、全世界で根絶宣言が完了するまでポリオワクチン接種は今後も続けていく必要があります。

<予防接種のニューフェイス>

<これから認可されるワクチン>(準備中)

■ ロタウイルスワクチン

■ B型肝炎ワクチン

■ A型肝炎ワクチン

<予防接種関連記事>

 ネットで見つけた予防接種関連ユースを拾い読み。

■乳児の下痢 ワクチンで予防

国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦(2012.1.31:産経新聞)
 赤と白いウンチは要注意! かつての小児科医はこんな言葉で乳幼児を持つ保護者に注意を呼びかけていた。赤いウンチは血液が混じっている便で、赤痢や腸管出血性大腸菌感染症は激しい血便が出る。時には外科手術が必要になる腸重積症も血便が特徴で、これらは今でも要注意だ。白いウンチの新生児は、胆道閉鎖症という難病のこともあるが、多くは冬シーズンにみられる嘔吐(おうと)と熱を伴う乳幼児の「白色便性下痢症」。激しい下痢のため、脱水症となって点滴などによる水分補給が必要になることが少なくなく、時には生命の危険もはらみ、当直小児科医は眠れぬ夜を過ごすことが多かった。
 白色便性下痢症の原因が「ロタウイルス」と分かったのは30年ほど前。ロタウイルスは世界中いたるところで見られ、乳児の死亡原因のトップクラス。2004年には世界で約52万人の小児がロタウイルス感染症によって死亡したと推計されている。その最大の原因は体内の水分不足「脱水症」。不思議なことにロタウイルスによる白い下痢便は、海外ではほとんど見られない。わが国では、「水分をこまめにとって脱水症にならないようにする」という対処法が広く理解されるようになって重症者が減少し、便の色も白くなくなってしまった。
 今の日本ではロタウイルスによる下痢はそれほど恐れる病気ではなくなったが、まれに急性脳症などを起こすこともあり、やはり注意は必要だ。途上国では、きれいな水が手に入りにくい▽医療機関へのアクセスが悪い▽水分を与える重要性が理解されていない-などから、ロタウイルスによる下痢は依然、子供の命にかかわる病気で、その対策は、重要課題となっている。
 そこに登場してきたのがロタウイルスワクチンだ。米国で導入した当初、ワクチン接種後に腸重積症が合併しやすいとの疑いから、一時使用中止となっていたが、安全性の高い新たなロタウイルスワクチンが2種類登場した。
 WHO(世界保健機関)はロタウイルスワクチンを子供の最重要ワクチンの一つに位置づけている。フィリピンでは来年から、国家のワクチンプログラムとして赤ちゃん全員にロタウイルスワクチンを接種させるという方針を最近表明した。ウイルスに感染する前に早く免疫をつくり、下痢を防ぐか軽くすませることによって、多くの子供を救い、入院患者を少なくすることができる。医療経済的にも助かることになる。
 日本ではどうか。ワクチンで予防できる病気は予防した方がいいのはもちろんであり、ロタウイルス感染症も国内でワクチンで防げるようになったのは良いニュースだ。ことに乳幼児を抱える共働き夫婦などにとってはメリットは高いといえよう。
 だが、国の予算が限られている中、より重要度の高いワクチンをより多くの人が利用しやすくすべきだという考えも必要になる。たとえば、水ぼうそう、おたふくかぜなどで重症化したり、合併症に悩む子供は少なからずおり、大人の重症者もいる。途上国におけるロタワクチンの強いニーズと、わが国のそれとはその質にかなりの違いがあるのだ。(おかべ のぶひこ)

■ ワクチン「重症化 9割抑制」 ロタウイルス、乳幼児に胃腸炎

 冬場に小さな子どもを中心に、激しい下痢や嘔吐(おうと)を引き起こす「ロタウイルス」による胃腸炎。重症化を防ぐワクチン接種が11月から始まった。海外120カ国・地域以上で使われているタイプで、ようやく国内でも認められたと歓迎する専門家も多い。ただ接種は任意で費用が高いほか、接種できる期間も限られている。注意点をしっかり把握することが重要だ。
 冬の感染症といえば、インフルエンザやノロウイルスがすぐに思い浮かぶが、ロタウイルスも流行する。主な時期は1~4月。生後6カ月~2歳の乳幼児に多く見られ、日本では5歳までにほぼ100%の子どもが感染するといわれている。大人も感染するが症状が表れないことも多いという。
 毎年約80万人の乳幼児が受診し、このうち約10%が入院している。死亡例もある。世界では、乳幼児の下痢の30~50%程度がロタウイルスが原因と推定されており、この比率はノロウイルスを上回っている。
 主な症状は激しい下痢や嘔吐と発熱。下痢はコメのとぎ汁のような白っぽい便が特徴で、1週間ほど続くケースが多い。ただ和田小児科医院(東京・足立)の和田紀之院長は「必ずしも白い下痢便が出るとは限らない」と話す。

感染力が強く

 治療ではロタウイルス自体に効く薬は今のところない。脱水症状になるのを防ぐため、こまめに水分を補給する。下痢や嘔吐を止める薬は、かえって回復の妨げになるので服用しない。
 感染を予防するのも難しい。ロタウイルスは吐いたものやふん便に直接・間接的に触れることで経口感染する。おもちゃにウイルスが付着していることもある。感染力は強く10個以下のウイルスが口に入るだけで感染する乾燥した状態ではウイルスが10日間ほど生き残ることもある。
 厄介なのは、せっけんや消毒用アルコールにも強いこと。塩素系漂白剤や哺乳瓶用の消毒液などでしっかり消毒し死滅させる必要がある。このため、「乳幼児がロタウイルスの感染を予防するのは事実上不可能」(和田院長)との声が上がっている。
 そこで、ワクチン接種による予防が重要になってくる。世界保健機関(WHO)は世界各国に対し、ワクチン接種によるロタウイルスの予防を推奨。これを受け、既に120カ国・地域以上でワクチン接種を実施している。米国ではロタウイルスによる胃腸炎の流行をワクチンでほぼ抑え込むことに成功している。
 国内でも今冬から接種できるようになったのが「ロタリックス」というワクチン。生きたウイルスの病原性を弱めて作った。飲むタイプで、生後6週以降に1回目、同24週までに2回目を接種する。接種間隔を4週以上空ける必要がある。
 製薬会社のグラクソ・スミスクラインによると、国内で実施した臨床試験(治験)では、ワクチンを期間内に2回接種するとロタウイルス胃腸炎の発症を約8割、重症化を9割以上抑える効果があった。接種後1カ月以内にみられる副作用には、刺激に反応して不機嫌になりやすい、下痢、せき・鼻水などが報告されている。
 注意点もある。まずは費用負担。現在は任意接種のため2回で3万円近くかかる。費用の一部補助を検討している自治体もあるので、問い合わせてみるのもよいだろう。
 接種期間も頭を悩ませる要因だ。生後6~24週間は3種混合(ジフテリア・百日ぜき、破傷風)やBCGなどのワクチンを定期接種する「ワクチンラッシュ」期にあたる。小児用肺炎球菌やインフルエンザ菌b型(ヒブ)など任意のワクチン接種もこの時期だ。これにロタウイルスのワクチンを追加すると、スケジュールをどうすべきか迷う保護者も少なくないだろう。

各種同時を推奨

 小児科医らでつくる「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろう。」の会は、各種ワクチンを忘れずに接種するよう同時接種を推奨している。ロタウイルスとヒブ、小児用肺炎球菌、3種混合ワクチンなどが同時に接種できるという。「かかりつけの医者と相談し、最善のタイミングで接種を受けてほしい」と日本赤十字社医療センター(東京・渋谷)顧問の薗部友良医師は話す。
 ただ、今年3月には肺炎球菌とヒブなどの同時接種後に、乳幼児が死亡した例が報告された。厚生労働省が調査した結果、接種と死亡との間に明確な因果関係はないとされたが、不安をおぼえた保護者らが同時接種を控える動きも出ているという。
 薗部医師は「同時接種を積極的に進めている米国や欧州のデータからもワクチンは安全だ」と強調する。同時接種が嫌だからといって、ワクチンを避けるのはかえってリスクを高めることになるという。小児科医らの団体などは、任意接種では保護者の所得によって子どもの健康に差が出るとして定期接種化を国に要望している。厚労省は今後、検討する方針だ。

■ 感染症 B型肝炎(2011年11月:朝日新聞の特集)

 日本では無視され続けてきましたが、B型肝炎はワクチンで予防可能な感染症なので、この項目に入れました。

1 9歳の時「怖いと思った」(2011年11月16日)

 今回も大丈夫だった――。九州地方に住む女性(33)は、福岡県久留米市の聖マリア病院で受けた肝機能検査の結果をみて、ほっとした。
 女性の体には、B型肝炎ウイルスが潜んでいる。いまも3カ月に1度、検査のため、この病院に通う。感染を知ったのは1987年。9歳のときだ。
 38歳だった母に、市役所から電話がかかってきた。「献血(時の検査)の結果、肝炎の疑いがあるので、精密検査を受けてください」
 県内では国立小倉病院(現小倉医療センター)が肝炎の治療実績があるとわかり、慌てて駆け込んだ。B型肝炎ウイルスによる慢性肝炎を発症しており、即入院が必要と診断された。
 確かに、母は「だるい」と、よくつぶやいていた。手をついて階段を上ることもあった。全身のだるさは、肝炎の典型的な症状だ。進行すれば、肝硬変や肝がんになる可能性もある。
 家族もすぐに病院で検査を受けた。母のウイルスは、出産の際に、女性と2歳上の姉にも感染していた。
 B型肝炎は、主に血液を介して感染する。母の主治医になった天ケ瀬洋正さんは、姉妹を呼んで言い聞かせた。「自分の血液で他の人に病気をうつさないように、管理に気をつけて」。詳しい病気の仕組みが分かったわけではないが、深刻さは伝わった。「私の血は怖い、凶器みたいなものなんだ」と思った。
 「なんであんただけ。どこで(ウイルスを)もらったんかね?」。入院することを実家に伝えに行くと、伯母が母に尋ねた。祖母も、2人の伯母からもウイルスは見つからなかった。母にも心当たりはない。ただ申し訳なさそうな顔をしていた。
 母の入院で、父と小学生の娘2人の生活が始まった。慣れないうちは週末も早朝に起き、登校や出勤に間に合うようにご飯とみそ汁を支度する「リハーサル」をした。その後、3人で病院へ母のお見舞いに行った。
 家族が顔を出すと、どんなにだるそうに寝ていても、母はうれしそうに起き上がった。帰りは必ず、エレベーターまで見送りに来てくれた。自分が生涯にわたり、同じウイルスに苦しめられるなんて、当時は考えもしなかった。

2 ふすま越しに母の泣き声(2011年11月18日)

 九州地方に住む女性(33)は9歳のとき、B型肝炎ウイルスへの感染を知った。母から出産で、女性と姉にうつっていた。母は幼いころの集団予防接種で感染したと考えられるが、1987年の献血の検査で分かるまで、それを知らずにいた。
 慢性肝炎と診断された母は、小倉医療センターに3カ月ほど入院し、炎症を抑えるインターフェロン治療を受けた。女性と姉は、肝炎は発症していないが、ウイルスが体内に潜み続けている状態だった。退院した母と一緒に、女性と姉も半年おきの血液検査が必要になった。
 小学校6年生のときだった。夏の暑い日、女性は母と姉と自宅を出て、検査に向かった。長い坂道を2人から少し遅れてトボトボと下りる。「ねえ、なんで私たちだけこんな検査を?」。母の背に投げつけた。
 母は振り返ったが、黙っていた。言葉が見つからないような悲しい顔だった。「しまった」。女性は後悔したが、引っ込みがつかなかった。「そんなこと言っても仕方ない。お母さん、気にせんと行こう」。姉の言葉に救われた。
 その夜。姉と並んで寝ていた女性が目を覚ますと、ふすまの向こうで母の泣き声がした。娘たちに聞かせまいと、声を押し殺していた。「私が起きていることを、気づかせちゃいけない」。音を立てないように、頭まで布団をかぶった。ドキドキと自分の鼓動が耳に響いた。
 「お母さんが困るから、病気の話はしない」。中学、高校と進んでも、自分の病気のことは友だちに話さなかった。カバンのポケットには必ずばんそうこうを忍ばせた。けがをするとすぐ、「ちょっと保健室に行ってくる」とその場を離れ、自分で処置した。ウイルスに感染した血液を友達に触れさせないように、という配慮だった。
 「なぜ私は、この病気になったんだろう」。頭のどこかにいつも引っかかっている一番の悩みを、親友にも相談できない。人間関係はいつもベール1枚を隔てたような感じだった。
 「心よ耐えろ、苦しむな かくも苦しみ重けれど」。図書館で見つけた詩集の一節に勇気づけられた。苦しいのは私だけじゃない。心に残った言葉を、ノートに書き写すようになった。

3 彼が受け止めてくれた(2011年11月19日)

 9歳のとき、B型肝炎ウイルスへの感染がわかった九州地方に住む女性(33)は、その悩みを友だちにも打ち明けられないまま、10代を過ごした。
 慢性肝炎の治療を終えた母は、抗ウイルス薬を飲みながら、定期的に病院に通っていた。主治医の天ケ瀬洋正さんが小倉医療センターから同じ北九州市内の三萩野(みはぎの)病院に移ると、母も転院した。姉と女性が半年おきに受ける検査結果も、毎回、「異常なし」が続いた。
 「うまくウイルスと付き合っていけそうだね」。家族でそんな話をしていた2001年、超音波検査で、母の肝がんが見つかった。52歳だった。
 がんは肝臓へ養分を運ぶ門脈という血管のそばにあった。「手術で取り除くのは厳しい場所にある。5年後は分かりません」と医師は説明した。がん細胞に養分を運ぶ血管を塞ぐ治療や、がんに直接エタノールを注射し壊死(えし)させる治療を受けることにした。自宅から通いやすい大規模病院に移り、がんとの本格的な闘いが始まった。
 母は、きちんと検査を受けてきたし、薬で免疫機能が弱っているからと、好きな刺し身も控えていた。それなのに……。少し前に祖母が亡くなったときの寂しさを思い出した。「家族が増えたらいいな」。結婚を、具体的に考えるようになった。
 母のがん闘病が始まった3年後、友人の結婚パーティーで彼(33)と知り合った。おっとりした、心の温かそうな人。自然と付き合いが始まり、ドライブに出かけるようになった。
 1カ月ほどして、デート帰りに自宅まで送ってくれた車の中で、女性は病気を打ち明けた。感染の危険性も伝えた。「よく考えて、交際を続けるか、決めてね」。緊張して彼の顔を見られないまま、車を降りた。
 「そうなんだ」。彼は自然に病気のことを受け止めた。インターネットで調べたり、免疫力がテーマの本を買ったりした。成人で感染するB型肝炎は、一過性で軽くすむ場合もあるという情報も、参考にした。
 数日後、女性に電話して伝えた。「自分なりに考えた。大丈夫だから」。次のデートで、免疫力の本を女性に贈った。「優しい人だな」。彼の心遣いを感じ、女性の心は温かくなった。

4 結婚の喜びもつかの間(2011年11月20日)

 九州地方に住む女性(33)は、大学を卒業してすぐ付き合い始めた彼(33)に、B型肝炎ウイルスへの感染を打ち明けた。彼は「大丈夫」と言ってくれた。ウイルスはあらかじめワクチンを打てば、ほぼ感染を防ぐことができる。しかし、そのときは医師からの説明もなく、ワクチンを打たなかった
 付き合って半年余りたった2004年秋、彼は急に体のだるさを感じた。食欲が落ち、黄色い尿が出た。「ネットで調べた通りの症状だ」。自宅近くの病院に行くと、急性のB型肝炎と診断され、入院が決まった。
 すぐに女性に電話した。「大丈夫だから。お見舞いもいいよ」。受話器ごしに彼女の動揺が伝わってくる。ようやく、これは大ごとなんだとわかった。
 「申し訳なさすぎて、合わせる顔がない」。女性は息苦しい気持ちのまま、受話器を置いた。会いに行きたかったが、自分で家族に説明したいという彼の気持ちを尊重した。
 彼は約1カ月後に退院した。何事もなかったかのように振る舞う彼の心の広さに、大きな安心感を覚えた。「彼に苦しみを一つ背負わせてしまった。私も彼の重荷を引き受けたい」
 2人が結婚の相談を始めた頃、女性の母がふと、見晴らしのいい公園を見に行きたいと言った。「いま付き合っている人が近くに住んでいるよ。お母さん、会ってみる?」
 彼が待ち合わせの公園に着くと母は大きく手を振っていた。「可愛らしいお母さんだな」。彼と母はすぐに打ち解けた。
 母は肝がんが見つかって以来5年間、入退院を繰り返していた。「早く孫の顔を見せてあげたい」。喜ぶことが一つでも増えれば母の病状もよくなると期待した。06年夏に結婚。披露宴ではシャキッと留め袖を着た母が新婦の手を取って入場した。
 翌年の秋、最後になるかもしれないと覚悟しつつ、家族全員で温泉旅行に出かけた。朝5時ごろ、母の容体が急変した。「先生を呼んでね」。そう言った後、母の呼吸が止まった。姉と2人で、必死に人工呼吸と心臓マッサージを繰り返した。「どうしよう、どうしよう。いかないで」。旅館から病院へと救急車で向かったが、母の意識は戻らなかった。

5 乗り越える姿 娘に示せた(2011年11月21日)

 B型肝炎から進行した肝臓がんで母親を失った九州地方の女性(33)は2008年、妊娠に気づいた。半年おきに受けていた検査では、女性の肝機能に問題はなかった。だが赤ちゃんへの母子感染を確実に防ぐため、近くの産婦人科医院から大きい病院へ行くように薦められた。
 紹介状を手に福岡県久留米市の聖マリア病院に行くと、産婦人科医の前田哲雄さん(48)が担当になった。女性の生真面目さを感じ取った前田さんは、「病気のことを必要以上に深刻に考えずできるだけ普通に出産を迎えてもらおう」と決めた。
 B型肝炎の母子感染は、生まれてすぐの赤ちゃんにウイルス抗体を含む免疫グロブリンを注射し、その後計3回、ワクチン注射を打てば、95%以上の確率で予防できる。
 出産をできるだけ素晴らしい体験として記憶してほしいと、前田さんは思った。「羊水が少ないと思うかもしれないけど、ちゃんと元気に育っているからね」。不安になりそうなことを先回りして説明してくれる前田さんに、女性は信頼を覚えた。
 11月、自然分娩(ぶんべん)で長女を出産した。助産師が胸元に抱かせてくれたが、女性は喜びもそこそこに「先生、早く注射を」と声をあげていた。「慌てなくて大丈夫」。前田さんは長女を新生児室へ連れて行き、お尻に免疫グロブリンを半量ずつ、2本に分けて注射した。
 長女は生後2、3、5カ月とワクチンを受け、1歳になった秋、近くの病院で感染を防げたことを確認した。「お母さん、もう解放されていいんですよ」という小児科医師の言葉に、体中の力が抜けたような気がした。翌年には2人目の女の子を出産。この秋の1歳児健診で、次女も抗体を確認できた。
 自分の代で、母子感染の鎖を断ち切れた。「お母さん、やっと止められたよ」。娘に病気をうつしてしまった母のつらさを思いやった。
 B型肝炎に感染してよかったとは絶対に思えない。母のように、いつ肝がんに襲われるかもしれない。ただ、この苦しみに絶望するだけでなく、乗り越えていく姿を、娘たちに見せておきたいと思う。「現実を恐れずに向き合う強さを、娘たちに授けたい」。

<参考ホームページ>

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 麻疹(はしか)の合併症であるSSPEの親の会によるHPです。

 切ないです。これを読めば「予防接種はお金がかかるから罹った方がマシ」という考えは無くなるはずです。

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