かぜ薬のお話

(初掲載:2011年11月)

 病院・医院で処方される子どものかぜ薬、市販のかぜ薬に関する素朴な疑問にお答えします。

■ かぜ薬ってなに?

 子どもが風邪を引くと医院・病院を受診し、かぜ薬を処方されます。巷の薬店にはかぜ薬が並べられて販売されています。
 さて、このかぜ薬、中身をどこまで知っていますか?

まず、敵を知る・・・かぜの正体は?

 「かぜ」の項でも記しましたので、簡単に触れておきます。
 あえて定義すれば、「かぜは一過性の軽症感染症」と云えます。
 咳・鼻・のどの呼吸器系が一般的ですが、お腹の症状を伴うこともあります。
 さて、この「感染症」の原因はなんでしょうか?
 ・・・風邪の原因の9割はウイルス、残り1割が細菌や他の病原体です。
 そして、ウイルスをやっつける薬はインフルエンザや水ぼうそうなど限られた数種類しか存在せず、その他の風邪ウイルスに効く薬はまだ開発されていません。

では「かぜ薬」ってなに?

 その正体は、症状をやわらげる対症療法薬です。
 咳がつらければ咳止め、
 鼻水が止まらなければ鼻水止め、
 下痢していれば下痢止め、
 熱がつらければ解熱剤・・・
 これらの成分を複数混ぜて作られているのが市販のかぜ薬(=総合感冒薬)の正体です。病院で処方されるかぜ薬も基本は同じですが、症状に合わせるのでムダな成分は省かれ、不必要な薬は入っていません。
 つまり、風邪の根本原因であるウイルス退治の薬ではなく、つらい症状をやわらげて自分の免疫力で治るのを待つというレベルの薬なのです。

OTC薬とは?
 市販のかぜ薬はOTC(Over The Counter)薬とも呼ばれ、カウンター越しに薬剤師に相談して購入する薬を指します。
 法律的には、医師が病院で処方する「医療用医薬品」に対して「一般用医薬品」に分類されます。
 効果と安全性が確立され、一般の人が使用可能な薬効成分が使われています。

■ かぜ薬=抗生物質ではないの?

 従来、風邪を引いて病院を受診すると、当たり前のように抗生物質が処方されてきました。しかし前項で述べたように、かぜの原因の9割はウイルス。そして抗生物質は細菌をやっつける薬であり、ウイルスには効きません。
 つまり、抗生物質が有効なかぜは1割しかないのです。ではなぜ抗生物質が処方されるようになったのでしょうか?
 そこには歴史的経緯が隠されています。

※ 市販される総合感冒薬には抗生物質は含まれていません。

抗生物質登場のインパクト

 抗生物質が無い時代は乳幼児が細菌性肺炎で命を落とすことがそう珍しくありませんでした。
 また、溶連菌感染症によりその後発合併症である急性腎炎やリウマチ熱による心臓弁膜症に悩まされていました。
 江戸時代の医学書には、診察の際「胸に手を当てて雑音が響くかどうか必ず診なさい」と書かれています。これは心臓弁膜症による心雑音を検出する方法であり、リウマチ熱がまれではなかったことを意味していると思われます。
 ペニシリンが開発され1940年代に実用化されてから感染症で命を落とす人が激減し、飲み薬の抗生物質の開発以降、溶連菌感染症による合併症も激減しました。
 「抗生物質ですべての感染症は退治できる」とその当時は考えられていました。
 その時のインパクトは大きく「風邪を引いたときは抗生物質で治療すれば大丈夫」という社会通念が出来上がるのも無理はなかったと思われます。
 「かぜ薬=抗生物質」と認識される時期がしばらく続きました。

細菌の逆襲=耐性化

 しかし、その後細菌の逆襲に遭うことになります。
 治療にかかわらず生き残った細菌は抗生物質が効きにくい「耐性菌」となり、抵抗力の落ちた病人を標的に反撃に転じたのです。
 昨今、最先端の治療を行う病院でも「多剤耐性菌による院内感染で死亡」というニュースが聞かれるようになったのは、抗生物質診療の影の部分と云えます。
 さらに、前述の如く抗生物質のターゲットとなる細菌が風邪の原因に占める割合は思ったより少なく、1割程度であることがわかってきました。
 風邪を引いた人全員に抗生物質を処方すると、9割は無駄な治療をしていることになります。

抗生物質治療の現在

 そこで耐性菌に困る医師達は「抗生物質の適正使用」をスローガンにし始めました。
 必要な細菌感染症には使用するが、不必要なウイルス感染症には処方しない、という考え方です。
 私も日々の診療でしつこく「ウイルス性のかぜだから抗生物質は必要ありませんよ」と説明しています。徐々に根付いてきた実感がある一方で、今でも「抗生物質を出してくれないんですか?」と引き下がらない患者さんが時々いらっしゃいます(実は医療関係者に多い)。
 「抗生物質信仰」は思ったより根深い現象です。

■ かぜ薬成分の有効性

 市販かぜ薬に関して「効果と安全性が確立され、一般の人が使用可能な薬効成分」と前述しましたが、実はその有効性のデータは満足できるほど存在しません。1950年代中心に許可されたので現在でも通用するデータが揃っていないという事情もあります。
 もっとも、病院で処方されるかぜ薬の有効性に関する評価も高いとは云えません。
 近年よく用いられている、臨床試験に関する論文としての権威ある「コクランレビュー」による評価を中心に列挙します;

鎮咳剤:小児の急性咳嗽に対して鎮咳薬の効果はない。
抗ヒスタミン薬(鼻水止め):かぜ症候群に対する抗ヒスタミン薬単独の効果は小児・成人ともにない。
去痰薬:肺炎患者に対し抗生剤と併用した場合に、症状の改善が早まるという効果を示す論文や、小規模の臨床試験で効果が確認されたとする論文もあるが、コクランレビューはこれらの試験には不明確な部分もあり、有益性を示す根拠としては不十分であると評価している。
気管支拡張薬:上気道炎を主体とするかぜ症候群に対して、薬理作用から考えても気管支拡張剤は無効であると考えられている。
解熱鎮痛薬:子どもの風邪薬に配合されているアセトアミノフェンは、臨床試験において 解熱作用・鎮痛作用共に有効であるとされている。

 解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン以外は無効・・・惨憺たる結果です。
 かぜ薬を飲んで楽になったと感じるのは単なる思い込み(?)。まあ、全く効かなければこれほど使用されることはないのでしょうが・・・。
 現代医学においては「エビデンス(=有効性を証明するデータ)がなければダメ」という評価がまかり通っていますが、これですべて解決するとは思えません。
 例えば私が愛用している漢方薬は古い薬なので実験データは存在せず、立場が悪くなりがちです。でも「実際に効くから1000年も生き残ってきた」実績を考慮すると、簡単に否定できるものではないと考えています。
 だって、華々しくデビューした「夢の新薬」が重篤な副作用で社会問題化することが後を絶たないではありませんか。
 日本人の体に合った歴史ある薬の方が安心して使用できるというものです。

■ かぜ薬の問題点

大人での問題点

 大人では「眠気」。
 「かぜ薬を飲むと眠くなるからダメ」という方も少なからずいらっしゃるはず。
 これは鼻水止めである抗ヒスタミン薬の成分による副作用ですので、車の運転する際には服用を控えるべきです。
 しかし逆転の発想で、この副作用を作用として捉え、睡眠薬(睡眠改善薬)として発売されている薬も存在します(ドリエル®)ので、副作用と決めつけるのは薬にとって不満があるかもしれませんね。

子どもでの問題点

 さて本題ですが、子どもに使用する市販の風邪薬に関しては使用上の注意を守れば基本的に問題ありません。
 ただし2000年以降、先進国を中心にその危険性が話題になり、アメリカでは「2歳未満の乳幼児には市販のかぜ薬は使用してはいけない」と現在は発売されていません。イギリス、カナダ、ニュージーランドでも年令設定の差はあれ、同様の状況です。
 では日本の市販薬も危険かと心配になりますが、医療事情が異なるのでイコールではありません

 アメリカにおける医療機関の利用法は「風邪を引いたら受診する」ではなく「かぜが治らなかったら受診する」というスタンスです。風邪を引いたら、まずOTC薬で様子を見るのが常識であり、その消費量の多さは日本の比ではありません。
 実はアメリカではもともと2歳以下にはかぜ薬の量の設定がありませんでしたが、慣習的に使用されてきました。さらに、アメリカのOTC薬は日本のシロップ剤の10〜20倍の濃度であり、過剰摂取による事故・トラブルが後を絶たないことが社会問題化したのです。
 そしてそのような高濃度のOTC薬は発売禁止になりましたが、一方で日本のシロップ剤のレベルは現在でも販売されているそうです(山口県薬剤師会HPより)。

 これらの事情をご理解の上で、次の表をご覧ください;
先進国におけるOTC小児用かぜ薬等に関する使用規制


2歳未満 6歳未満
12歳未満
アメリカ 使用不可 使用可(ただし米国大衆薬協会は、4歳未満への使用を自主規制)
使用可
カナダ 使用不可 使用不可 使用可
イギリス 使用不可 使用不可 使用可
オーストラリア 使用不可 使用不可 使用可

ニュージーランド

使用不可 使用不可 使用可
日本 使用可(医師の診察を優先、やむを得ない場合のみ) 使用可(保護者の指導監督の下で使用) 使用可(保護者の指導監督の下で使用)

(「OTC小児用かぜ薬等に関する要望書」薬害オンブズパースン会議:2010年、より)

 薬の濃度が違うとはいえ、日本より制限している国が多いことがわかります。

 □ アスピリン(サリチル酸系製剤)とインフルエンザ脳症

 1980年代、アメリカでインフルエンザの合併症として「ライ症候群」(インフルエンザ脳症の一種)が社会問題になり、疫学調査によりアスピリンおよびサリチル酸系薬剤との関係が指摘され、使用を控えたらライ症候群の頻度も減ったために因果関係有りとして小児への使用が禁止されました。
 日本でも15歳未満のこどもに対してアスピリンは禁止措置が取られました。
 しかしサリチル酸系薬剤である「サリチルアミド」は現在でも総合感冒薬に使用されています。

サリチルアミドを含むかぜ薬
 これらの薬はインフルエンザと水痘の可能性が否定できないときは使用を控えましょう
(例)ネオアムノール散(三和化学研究所)、ペレックス顆粒(大鵬薬品工業)、LLシロップ(三共)、グリンケンAシロップ(北陸製薬)、ネオアムノールシロップ(マルコ製薬)、レパロンシロップ(大洋薬品工業)、PL顆粒(塩野義製薬)、サラザック顆粒(大洋薬品工業)、セラピナ顆粒(シオノケミカル)、トーワチーム顆粒(東和薬品)、ヘブン顆粒(東洋ファルマー)、ホグス顆粒(大正薬品工業)、マリキナ顆粒(鶴原製薬)、リベラル顆粒(中北薬品)、ピーエイ錠(全星薬品工業)、幼児用PL顆粒(塩野義製薬)

  小児科専門医はこの辺の事情に詳しいのでまず処方することはありませんが、元々の専門が小児科以外の医師からは処方されることがありますのでご注意を。

(参考)医薬品・医療用具等安全性情報167号 平成13年6月27日

(1)はじめに
ライ症候群は,昭和38年にオーストラリアの病理学者Reyeにより最初に報告された症候群であり,主として小児において,水痘,インフルエンザ等のウイルス性疾患に罹患した後,激しい嘔吐,意識障害,痙攣(急性脳浮腫)等の急性脳症の症状を呈し,肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着,ミトコンドリア変形,AST(GOT),ALT(GPT),LDH,CK(CPK)の急激な上昇,高アンモニア血症,低プロトロンビン血症,低血糖等の症状が短期間に発現する高死亡率の病態である。
 昭和57年,米国においてアスピリンの使用とライ症候群との関連性を疑わせる疫学調査結果が報告され,厚生省(当時)では,情報提供を行い注意を呼びかけるとともに,我が国におけるライ症候群と解熱鎮痛剤の使用との関連について調査研究を実施した。
 平成10年12月,厚生省(当時)では上記調査研究の結果や米国小児科学会による総合的なレビュー等を踏まえ,アスピリン,アスピリン・アスコルビン酸,アスピリン・ダイアルミネート,サリチル酸ナトリウム,サザピリン,サリチルアミド又はエテンザミドを含有する医療用医薬品であるサリチル酸系製剤について,15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に投与しないことを原則とする使用上の注意の改訂の指示を行い,注意を喚起してきた。
(2)経緯
 その後も,解熱鎮痛剤を投与された患者で意識障害,痙攣等の脳症症状(ライ症候群と確定されないものを含む)が発生した症例が報告されているため,サリチル酸系製剤を含む解熱鎮痛剤全般について確認したところ,平成11年1月以降にアスピリン等を含有するサリチル酸系製剤が投与された小児でライ症候群症例が3例あった。また,それらのうち2例は,サリチルアミドを含有する総合感冒剤が投与されたものであった。
 以上のことから,医療用医薬品であるサリチル酸系製剤について,15歳未満の水痘、インフルエンザの患者には投与しないことが原則となっている旨,あらためて注意を呼びかけることとした。
(3)症例提示(省略します)
(4)安全対策 
 ほとんどの医療用医薬品である総合感冒剤にはサリチルアミドが配合されており,使用上の注意の「重要な基本的注意」の項に,15歳未満の水痘,インフルエンザの患者に投与しないことを原則とする旨が記載されている。
 冬季インフルエンザ流行期やその他周囲のウイルス感染の状況などから,水痘又はインフルエンザの罹患の可能性が高い場合には,当該記載に十分留意して投与薬剤を選択する必要がある。医療従事者におかれては,サリチル酸系製剤の小児に対する慎重な使用にご配慮願いたい。

 □ 過去に問題となったかぜ薬の他の成分

(Wikipediaなどを参考にしました)

□ ピリン系薬物:

 1950年代の総合感冒薬に解熱剤としてピリン系製剤(アミノピリンスルピリンなど)が多く含まれていたためショックなどのアレルギーで死亡する消費者が続出し(1959年から1965年までに38人の死者)、厚生省は1962年に製薬企業に発売停止や回収などを指示しました。

□ PPA(塩酸フェニルプロパノールアミン 、Phenylpropanolamine)問題:

 日本では別名ノルエフェドリンとも言われる交感神経作用成分のこと。日本では認可された1956年より鼻づまりなどの症状に適応がある総合感冒薬やOTCの鼻炎薬に広く含まれており、交感神経を刺激することで鼻腔毛細血管の拡張を抑えて鼻づまりなどを緩和する目的でした。
 一方米国ではPPAを服用することで食欲抑制効果があるとされ(日本では認可されていない)、食欲抑制剤として大量のPPAを服用した複数の者が脳出血(出血性脳卒中)を発症し死亡例もあったため2000年11月にアメリカ食品医薬品局 (FDA) は米国でのPPA含有製剤の自主的な発売中止勧告を発しました。
 実際のPPAは鼻腔の毛細血管のみならず心臓を通り全身の血管拡張を抑えることで巡りが早くなり、その結果脳出血のリスクが高まるとしたからです。
 日本では、2003年に厚生労働省がPPA含有製品をプソイドエフェドリン (PSE) に代替するように製薬会社に通知した事から殆どのメーカーはPPAからPSEなどに代替した製品を現在販売しています。PPA含有製品については外箱などに「PPA含有であること・投与禁忌者について・何か副作用が起きたら医師・薬剤師に相談すること」などと記載された紙が貼付されたり、同様の内容を薬剤師が購入者に伝えるなどした上で在庫限りで販売されています。

■ 市販かぜ薬の上手な利用法

 それでは、市販のかぜ薬を実際にどのように利用すべきでしょうか?
 ポイントを列挙してみます;

・生後3ヶ月から使用可能な風邪シロップも販売されていますが、2歳未満の乳幼児には、医師の診察を受けされることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させましょう。
・市販かぜ薬の使用(1〜3日間)によっても症状が改善しないときは病院を受診するようにしましょう。
・卵アレルギー、牛乳アレルギーがある場合は、配合されている成分を確認する習慣をつけましょう(実際に注意すべき薬は「食物アレルギー」の項をご参照ください)。
・定期的に使用している処方薬がある場合は、市販薬を併用して大丈夫か事前に確認しておきましょう。
・小児用シロップは飲みやすいため、誤飲に注意しましょう。

<かぜ薬の関連記事>

 かぜ薬に関するネット上の記事を拾い読みしました。

■ 多くの医師が抗菌薬を間違って使用(2013/08/27:ケアネット)New_Icon_rd_01.png

 米国の医師が抗菌薬を処方する際、60%以上の比率で最も強力な薬剤を選択していることが、新たな研究で明らかにされた。しかし、抗菌薬の効かないウイルスによる感染もあり、このような広域スペクトル抗菌薬(複数種の細菌を死滅させることができる)のうちの25%以上は無駄だという。
 米ユタ大学医学部小児科助教授のAdam Hersh氏らの研究。米国で2007年~2009年に外来受診した18歳以上の症例23万8,000件強のデータを分析した。その結果、処方された抗菌薬のうち広域スペクトル抗菌薬が61%を占め、狭域スペクトル抗菌薬は39%であることがわかった。このサンプルに基づくと、試験期間中に米国全体で1年当たり約1億100万件の外来受診で抗菌薬が処方されており、そのうち6,200万件で広域スペクトル抗菌薬、3,900万件で狭域スペクトル抗菌薬が処方されたと推定される。
 「Journal of Antimicrobial Chemotherapy」オンライン版に7月25日掲載された今回の研究は、成人の外来受診に焦点を当てたものだが、小児に対する処方パターンもほぼ同じであると、Hersh氏は述べている。「小児に処方される抗菌薬の多くは必要のないものであり、特にウイルスに起因する症状に対しては、抗菌薬はまったく役に立たない。連鎖球菌性咽頭炎や一部の耳感染症のように抗菌薬が適応となる場合でも、医師はアジスロマイシンのような広域スペクトル抗菌薬を処方することが多いが、アモキシシリン(狭域スペクトル抗菌薬)よりも効果が低い場合がある」と、同氏は述べている。
 研究共著者である米国疾病管理予防センター(CDC)およびカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の医学疫学者であるLauri Hicks氏によると、小児や成人の抗菌薬の過剰使用は深刻な問題であり、あらゆる人の健康を脅かすものであるという。同氏は、「不必要な抗菌薬の使用による最大の問題は、細菌が薬剤耐性を獲得することである。一般的な感染症が治療困難となり、抗菌薬が必要なときに効かなくなってしまう」と、説明している。
 Hersh氏は、本当に抗菌薬が必要なのか、その抗菌薬が症状に最も適した選択なのかを医師に尋ねることで、患者も役割を担うようにと要請している。

■ 豪でドンペリドン(商品名:ナウゼリン)の心室性不整脈・心停止リスクに関する注意喚起(MT Pro:2012.12.3)

 オーストラリア保健・高齢化省は12月3日発行の医薬品安全性情報で,消化管運動機能改善薬ドンペリドン(日本での商品名ナウゼリン)の重篤な心室性不整脈および突然心停止に関する注意喚起を行った。2010年にオランダの研究グループなどが報告した疫学研究から,同薬とこれらの心イベントリスクとの関連を示唆する結果が示されているためとしている。今回の注意喚起では医療関係者に対し,成人においては最小有効量から開始すること,小児には同薬を使用しないことなどが勧告された。

「小児への使用制限」日・欧に比べより厳しい内容

 安全性情報によると,2010年にドンペリドン使用と重篤な心室性不整脈および突然心停止のリスク上昇を示唆する報告が2件行われている。報告では同薬の30mg/日以上の使用,60歳以上の患者において,これらの心イベント上昇が見られた。
 同省は今回,医療関係者に向けて以下の注意喚起を行っている。
 また,ドンペリドンは小児に使用しないこと,同薬使用中に心拍異常や眩暈,動悸などの症状が見られた場合はすぐに医療機関を受診することとされている。
 なお,欧州医薬品庁(EMA)のファーマコビジランス委員会は,2011年10月に同様の注意喚起を行っているが,小児への使用に関しては「成人同様,最小有効用量で開始する」との見解が示されている。

「母乳分泌」目的の適応外使用も

 日本では添付文書上,小児への1日投与量は30mgを超えないことなどの他,「その他の注意」として「外国において本剤による重篤な心室性不整脈及び突然死が報告されている。特に高用量を投与している患者又は高齢の患者で、これらのリスクが増加したとの報告がある」が今年(2012年)7月に追加されている。
 なお,ドンペリドンには副作用としてプロラクチン上昇や乳汁分泌があることが知られており,日本や米国などで母乳の分泌を促進させるとして一部で適応外使用も行われているようだ。米食品医薬品局(FDA)は2004年ごろから,健康被害の恐れがあることから母乳分泌促進の目的で同薬を使用しないよう呼びかける警告を何度か行っている。

■ 数滴でも入院の危険性,点眼薬(プリビナ等)・点鼻薬の小児の誤飲に関する注意〜米FDA(2012.10.26:MT Pro)

 米食品医薬品局(FDA)は10月25日,市販の点眼薬や点鼻薬の誤飲による,小児の重篤な有害事象の報告があったとして安全性情報を発表した。両薬剤の中には目や鼻の充血や不快な症状を軽減することを目的として,血管収縮剤が含まれるものがある。これらの成分を誤飲することにより吐き気や嗜眠,頻脈といった症状が起こることがあり,中には入院による治療を受けた例も報告されている。

1~5歳の小児96例の報告,半数以上が入院

 今回安全性情報の対象となっている製品にはテトラヒドロゾリンオキシメタゾリンナファゾリンといったイミダゾリン誘導体が配合されている。米国では市販されていないがキシロメタゾリンを含む製品も販売されており,同様の注意が必要としている。
 これらの成分は,外用による全身への影響はほとんどないが,経口摂取すると高い割合で吸収され全身的作用を引き起こすことが知られている。FDAによると,これらの成分を含む点眼薬や点鼻薬の誤飲による小児の有害事象は1985年からこれまでに96例報告があったという。年齢は1~5歳,死亡例はゼロだが,53例が吐き気や嘔吐,嗜眠,頻脈や血圧異常,流涎,昏睡などで入院していたことが分かった。FDAの担当官は「こうした事例は実際もっと多く起こっているのだろうが,過小報告となりがち」とコメントしている。
 小児では,1~2mL程度のごくわずかな薬剤でもこうした症状が起こりうることから,誤飲を避けるため容易に手の届かない場所に薬剤を保管するよう注意を呼びかけている。また,これらの製品を誤飲した場合には中毒情報センターに電話し,救急外来を受診するよう求めている。

当該製品へのチャイルドレジスタントパッケージ適用の規定案を発表

 さらに誤飲の防止策として,FDAは消費者向けレポートで以下のようなアドバイスを行っている。

医薬品は小児の手の届く,あるいは見える範囲よりもかなり高く安全な場所に保管すること
医薬品やビタミン剤はキッチンカウンターや病気で寝ている小児の枕元など決して置かないこと
医薬品容器にチャイルドレジスタントパッケージ(CRP)がない場合,使用のたびにきちんとふたが閉まっているかどうかを確認すること
ベビーシッター,来客などが訪問してきた際には彼ら自身の財布やバッグ,コートなどに医薬品を隠した上で小児の見えないところにしまってもらう
小児は大人の真似をしたがるものなので,小児の前で医薬品を使用しないようにすること

 一方,保護者の注意だけでは小児の誤飲事故の減少は難しいとの指摘もある。今年初めには米国消費者製品安全委員会(CPSC)が一定量以上のイミダゾリン誘導体を含む点眼薬や点鼻薬にもCRPの適用を求める規定案を発表したばかり。米国などでは既に誤飲事故の多い風邪薬などに対し,CRPとしてプレスアンドターン型のキャップの使用が一般化している。

■ 乳幼児の風邪薬使用に警鐘(2011年3月:日経メディカル)

OTC薬のみならず医師の処方にも見直しの余地

 諸外国では、有効性が乏しい上、重篤な副作用を来し得ることからOTC風邪薬の乳幼児への使用を規制する動きが出ている。一方、国内では注意喚起止まりで、OTC薬と同様の成分を処方する医師も多い。
 「2歳未満の乳幼児には、OTC風邪薬を飲ませるより医師の診療を優先させるよう、購入者に情報提供すること」─。昨年末、厚生労働省が小児の用法があるOTC風邪薬(写真1)の製造販売元に対し、こんな注意喚起を行った。
 きっかけは昨年11月、薬害オンブズパースン会議(東京都新宿区)が、OTC風邪薬の6歳未満への使用禁止を求め、厚労省に要望書を提出したことだった。OTC風邪薬は、抗ヒスタミン薬や鎮咳去痰薬などを配合した医薬品。小児への使用について米国や英国などでは、症状緩和の有効性のエビデンスが十分でない上、重篤な副作用の発生や誤用・過量投与の恐れがあることなどを理由に、2歳未満もしくは6歳未満への使用を厳しく規制している(表1)。

表1:小児のOTCかぜ薬の規制に関する諸外国の対応.jpg

表1 小児のOTC風邪薬の規制に関する諸外国の対応

 だが、日本OTC医薬品協会は「国内の製品は海外に比べて成分含量が少なく、本来の用法・用量を守って服用する限りは十分安心して使える」との考えで、厚労省も「全く効果がないというエビデンスはなく、国内では副作用報告もほとんどない」(医薬食品局総務課)とのスタンス。対応は冒頭の注意喚起にとどまり、使用年齢の見直しには至らなかった。
 もっとも、厚労省の通知が出たことで、日本OTC医薬品協会などの業界団体は、今年1月、購入者に適正使用を促すミニポスターを作成、薬局・薬店に配布した。

見直すべきは医師の処方?

 乳幼児への風邪薬投与を巡る問題は、わが国の場合、OTC薬に限った話ではない。薬局・薬店で医療機関の受診を勧められたとしても、医師が同じような風邪薬を処方しているのが現状だ。抗ヒスタミン薬や鎮咳薬、去痰薬などを風邪薬と称して乳幼児に「セット処方」している医療機関は多い。
 にしむら小児科(大阪府柏原市)院長の西村龍夫氏の調べでは、風邪で医療機関を受診した患児の8割以上に抗ヒスタミン薬や去痰薬が処方されており、多くは多種類の薬剤を同時に投与されていた。

 医師が処方する風邪薬についても乳幼児の風邪に対する有効性を示すエビデンスはほとんどない(表2)。それどころか、例えば、抗ヒスタミン薬には副作用として中枢神経の抑制や不整脈、痙攣などが、鎮咳薬では呼吸抑制などがそれぞれあることが知られている。「投与するメリットがデメリットを上回ることはないと考える」(西村氏)。

表2:かぜに処方される薬剤の乳幼児に対する主なエビデンス.jpg

表2 風邪に処方される薬剤の乳幼児に対する主なエビデンス(西村氏による)

 実際、西村氏は風邪と診断した乳幼児にこれらの薬剤を処方していない。「風邪の多くは治療の有無に関係なく、数日間の経過で自然治癒する」からだ。
 にもかかわらず、わが国では長年、投薬が風邪診療の“標準治療”として行われてきた。患者は「薬をもらうことが当たり前」と刷り込まれているから、当然処方を希望する。よって、医師の処方行動も変わりにくい。
 西村氏はその一因が医学教育にあると指摘する。風邪のようなコモンディジーズの診療スキルを学ぶ機会は乏しく、「重症疾患の治療の仕方は教わっても、『どのような患者を治療すべきか?』という教育はほとんど行われてこなかった」(西村氏)。結果、治すことに重きが置かれ、投薬が優先されてしまう。
 加えて、西村氏が問題視するのは、小児科医の多くが耳や鼻を診る教育を十分に受けていない点だ。例えば、乳幼児では鼻副鼻腔炎による鼻性喘鳴を聴取することが多いが、「鼻咽頭を意識せずに聴診のみで診断すると、気管支炎や肺炎、喘息といった過剰な診断につながる。結果的に、風邪にもかかわらず抗菌薬や気管支拡張薬までもが処方されることになる」と西村氏は説明する。

救急医療にも多大な影響

 こうした治療に慣れた保護者は、子どもが風邪を引くたびに不安を抱き、「治らない」と言っては受診を繰り返す。それが時に、救急外来のコンビニ受診の一因ともなっている。
 京都府立医大救急医療学助教の安炳文氏は、風邪薬の有効性を示すエビデンスが乏しいことは認めつつも、「だからといって患者ニーズを一切無視して全く処方しないというのも、現状では保護者の納得が得にくい」と話す。保護者の求めに応じて風邪薬を通り一遍に「セット処方」することには否定的だが、症状がひどく保護者の不安が強い場合、副作用のリスクを評価した上で、症状緩和効果を期待し抗ヒスタミン薬や鎮咳去痰薬を処方することもあるという。
 「まずは、保護者の疑問や不安、ニーズを把握した上で納得いく対応をすること、そして予想される風邪の自然経過を伝えることが重要だ。説明は時間がかかるが、こうした積み重ねが、長い目で見ると救急外来の適正受診にもつながるのではないか」と安氏は話している。

■ 風邪薬は症状に合わせて選ぶのが鉄則(2008年12月:日経トレンディネット)

信頼できる専門家がいる薬局で

 寒くなり、風邪をひきやすい季節になってきた。長引かせると、つらいだけではなく、仕事などさまざまなことに支障がでてしまう。風邪薬を上手に使って、風邪を早期に撃退しよう。
 よく「風邪の“ばい菌”をもらっちゃって」などというが、これは厳密には間違いだ。風邪の大半はウイルスによって起こるので、「ばい(黴:カビ)」でも「細“菌”」でもない。「そんなことどうでもいいのでは」と言われそうだが、実はこれは風邪薬がどう効くかという話に大きくかかわってくる。
 「抗生物質」は、病気の原因となる微生物を撃退する薬だが、その大半は細菌に効くものだ。抗生物質の登場で、肺炎など、主に細菌が原因の病気は劇的に治るようになった。細菌用の抗生物質は、細菌には毒だが人間の体細胞にはほとんど影響がないため、飲めば細菌だけを撃退してくれる。
 しかし、抗ウイルス薬の開発は、難しい。ウイルスは、細菌よりもずっと小さく、人間の細胞の奥深くに入り込んで活動する。そのためウイルスを攻撃しようとすると、害は人体に及び、強い副作用が出てしまうのだ。
 長年、開発の努力は続いているが、抗ウイルス薬は、まだ数えるほどしか出ていない。抗インフルエンザ薬の「タミフル」が話題になったのも、ウイルスが原因のインフルエンザには、有効な薬がそれまでほとんどなかったからだ。
 そういうわけで、風邪ウイルスに対抗する薬は、まだ発売されていない。市販の風邪薬は、せき、鼻水、発熱などの症状を抑える対症薬か、身体を温めたり栄養を補給して身体の抵抗力を上げるものがほとんどだ。風邪薬を飲んでも、それが直接風邪を治すわけではない。
 だから、風邪薬を飲んだからといって無理は禁物だ。安心して無理をすれば、かえって悪化させることになる。風邪薬の賢い使い方は、せきなどつらい症状を抑えることでゆっくり休み、身体に備わった抵抗力が風邪ウイルスを撃退できるようにすること。また、どうしてもはずせない大事な試験や仕事があるときには、一時的に症状を抑えて乗り切るという使い方もある。この場合も長期間抑えるのは無理なので、使ったあとは、すぐに休んで悪化させないようにするのが大切だ。

■風邪薬の賢い使い方

・症状を抑えて楽になったところで身体を休めて、身体に備わった抵抗力が風邪ウイルスを撃退しやすくする。
・大事な試験や仕事など、どうしてもはずせない用事があるときに、一時的に症状を抑えて乗り切る。

どの成分がどんな症状に効く? 眠くなる成分は? 風邪薬選びの基礎知識

 風邪薬は対症薬なのだから、「風邪薬なら何でもいいだろう」と漫然と選ぶのは間違いで、自分の症状に合わせて選ぶべきだ。咳がひどいときには「○○咳止め」、鼻水が止まらなくて困るときには、「□□鼻炎カプセル」という選び方のほうが、はっきりとした効果を期待できる。ただ、風邪の症状は、せきも鼻水も微熱も……というふうに、複合的に出てくることが多い。さまざまな症状が出ているときには、総合感冒薬という選択もあるだろう。種類別に、特徴や注意点を説明しよう。

●せき・たんに効く薬

 せきがひどいときに飲む薬。せきの発作を抑える「塩酸ジヒドロコデイン」「塩酸メチルエフェドリン」「ノスカピン」、たんを排出しやすくする「塩酸ブロムヘキシン」などが入っている。せきで眠れないときや、どうしてもはずせない会議で周囲に迷惑をかけないために利用するといいだろう。

●鼻水に効く薬

 アレルギー反応を抑える「抗ヒスタミン薬」や鼻汁など粘液の分泌を抑える「ベラドンナ総アルカロイド」「ヨウ化イソプロパミド」といった薬が入っている。
 「マレイン酸クロルフェニラミン」などの抗ヒスタミン薬には、眠くなるものが多い。車の運転をする人や大事な試験を受ける人は、そういうものが入っていないものを選びたい。眠くなるものは外箱に注意書きがあることが多いが、一般人がチェックするのは難しいので、買う前に薬剤師に確認する方がいいだろう。
 なお、ベラドンナ総アルカロイドなどの鼻汁を抑える成分が入っていると、鼻だけでなく、目や喉も乾きやすくなる。加湿器を使うなど、乾燥しすぎないように気をつけよう。

●熱を下げたり、頭痛や関節痛を抑える薬

 解熱鎮痛薬と呼ばれるもので、有効成分として、「アセチルサリチル酸」「アセトアミノフェン」「エテンザミド」「イブプロフェン」などがよく用いられる。有名な「アスピリン」は、アセチルサリチル酸の別名だ。
 風邪の熱を下げたいとき、あわてて解熱薬を買いに走らなくても、もし頭痛薬や生理痛薬があれば、効能効果の欄をチェックしてみよう。鎮痛薬には、たいてい解熱効果もある。解熱薬は、どうしてもはずせない試験や会議があるときなどに、ある程度熱を下げるのに役立ってくれる。ただし、39度近くの高熱であれば、解熱薬を使う前にできるだけ早く医療機関を受診したほうがいい。
 また、解熱鎮痛薬には、胃壁を荒らすものが多い。食欲がない場合でも、牛乳やコンソメスープなどを飲んでから服用するといいだろう。

素人判断で複数の薬を飲むのは危険、様々な症状が出たら総合感冒薬を

●総合感冒薬

 せき止め、鼻水用、解熱薬などをブレンドして、多様な風邪の症状への効果をねらった薬。栄養補給にビタミンなどが含まれていることもある。
 薬には飲みあわせの問題があり、例えばせき止めと鼻水用の薬を素人判断で一緒に飲むのは危険だ。例えば、せきと鼻水がひどくて熱も少しあるなど、さまざまな症状があるときには、それらの症状に対応した総合感冒薬を利用しよう。

薬効 作用 成分
咳・痰に効く薬 咳を抑える薬 塩酸ジヒドロコデイン、塩酸dl-塩酸メチルエフェドリン、ノスカピンなど
痰を切れやすくする薬 塩酸ブロムヘキシンなど
鼻風邪に効く薬 アレルギーを抑える薬 マレイン酸クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど
鼻汁分泌を抑える薬 ベラドンナ総アルカロイド、ヨウ化イソプロパミドなど
熱を下げ、痛みを抑える薬 解熱鎮痛薬 アセトアミノフェン、エテンザミド、イブプロフェンなど

漢方薬は体質に合わせて飲むのが基本、相談に乗ってくれる専門家を見つけよう

●漢方薬

 風邪薬として、「葛根湯」や「小青竜湯」のような漢方薬を利用する方法もある。漢方薬は症状を抑えるというより、体調を整えるものなので、風邪を治すためには、対症療法の西洋薬よりもむしろあっているかもしれない。ただ、漢方薬は体質に合わせて飲むのが基本だ。
 例えば、同じような風邪の症状でも、身体が冷えやすい体質の人には身体を温めるような薬、身体が熱を持ちやすい人には、身体を冷やすような薬と使い分ける。体質の判断は難しいので、はじめて利用するときは、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談したほうがいいだろう。

信頼できるプロに相談するのがいちばん

 いずれにしても、薬の種類は多く、素人判断は難しい。似たような名前の有効成分でも、実際には全然違うものもある。薬を選ぶときには、いまどういう症状で自分はどうしたいのか、例えば試験があるので眠くなると困るといったことを、薬剤師に詳しく話して相談するのがいちばんだ。
 話をあまり聞いてくれず、特定の薬を押しつけられるようなら、別の薬局を探したほうがいい。上手な薬選びのコツは、よく相談に乗ってくれる信頼できる専門家を見つけることだ。

■ たかが風邪薬、されど風邪薬(2008年4月:日経メディカル)

―医師も投薬に悩みあり

<著者プロフィール>
竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

 今年のはじめにこんな事故があったのをご記憶でしょうか?2008年1月14日、午前9時半ころ、山形県鶴岡市の国道112号線月山第2トンネル内で高速バスの男性運転手(52歳)が意識もうろう状態に陥りました。異常に気が付いた乗客の男性がとっさにハンドルを操作して、バスは、タイヤを道路左側の縁石にこすらせ、ノッキングを起こして停車しました。乗客26人は無事だったとはいえ、一つ間違えば大惨事となるところでした。
 バス会社によると、この運転手は前日から風邪気味で前日と事故当日の朝に風邪薬を飲んだということです。事故当日の朝には37度台の熱があったそうですが、事故後の受診でインフルエンザと診断されています。
 従来から「インペアード・パフォーマンス」(気づきにくい能力ダウン)の研究を続けている東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの田代学准教授(核医学)らのグループは、このバス事故を受けて、次のような実験結果を発表し、抗ヒスタミン薬の服用と運転危険について警鐘を鳴らしています。
 実験の方法は、14名の健常若年成人男子に、抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン 6mg 複効錠:長い時間をかけてゆっくり吸収されるタイプ)とプラセボ(乳酸菌製剤)を内服させ、約2時間後に自動車運転シミュレーションシステム上で運転をしてもらい、そのときの主観的眠気、運転パフォーマンスを記録し、さらにPETを使って運転中の脳血流の変化を調べるというものです。

 実験結果は、主観的眠気の強さは、プラセボと鎮静性抗ヒスタミン薬の条件の間にほとんど差が認められませんでしたが、抗ヒスタミン薬内服時に、プラセボ内服時にくらべて、蛇行運転回数が大幅に増加し、PET画像解析の結果、安静閉眼状態と比較して運転操作中には、一次運動-感覚野、運動前野、視覚野、頭頂葉、帯状回、側頭葉、小脳、中脳、視床など、非常に多くの部位に有意な局所脳血流量増加が認められています。
 研究グループは以下のように考察をまとめています。

今回の研究では、抗ヒスタミン薬を服用した本人がはっきりした眠気を感じてはいなかったのに、運転中の蛇行運転の頻度が大きく増えていた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の運転操作中に脳の反応がとくに抑制された視覚野、頭頂葉、側頭葉、小脳などは、動きをともなう視覚情報を処理して次の瞬間の最適な動作を決めていくための情報伝達経路とだいたい一致していた。
以上のことから、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の視覚系の情報処理機能の抑制が、運転に必要な神経回路の活動を不十分なものにしてしまったために運転パフォーマンスの低下をひきおこした可能性が高いと考えられた。この研究成果は薬理学の専門誌(Human Psychopharmacology:タイトル和訳は「ヒト精神薬理学雑誌」)の2008年3月号に掲載された。
研究グループは、PETを駆使して、抗ヒスタミン薬が脳の情報伝達をブロックする強さ(脳内ヒスタミンH1 受容体占拠率)の測定も実施してきた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬の服用後の自動車運転中にブレーキペダルを踏むのが遅れること、携帯電話通話による遅れと相乗効果があることを実車運転試験によって初めて報告していた(プレスリリース2005年6月23日)。こうした研究の蓄積の結果、将来、さらに総合的な研究成果が報告されることが期待される。

 以前から抗ヒスタミン薬を服用すると眠くなるということはよく知られています。より眠くならない抗ヒスタミン剤の開発もされているわけですが、そもそも本人が感じる眠気には個人差と変動がありますから、交通事故に限らず眠気がトラブルを誘発しかねないと危惧すれば風邪薬を服用したり、処方するのも容易なことではありません。
 この実験では、風邪を引いたり、花粉症の状態の被験者ではなかったのでしょうが、実際の患者さんでは風邪で発熱していたり、花粉症で鼻水ズーズーで体内にもヒスタミンたっぷり、そのような状態自体で眠たい、倒れ込みたいというケースも少なくありません。
 20年ほど前、私の開業医時代にそのころでは人使いの荒いということで断トツといわれる某運送会社の支店が医院の近所にありました。ある日「38度あまりの熱が出ているが、これから隣の府県まで往復してこなければならない。ついては注射一発、応急処置をお願いします」という若いドライバーが駆け込んで来ました。
 点滴に鎮痛解熱薬を入れて治療をしましたが、やはり頭に浮かんだのは事故の懸念です。使ったのは抗ヒスタミン薬ではありませんでしたが、鎮痛解熱薬の添付書類にもいろいろと注意書きはあります。抗ヒスタミン薬ほどではないですが、眠気もなくはないニュアンスの記載がありました。
 そもそも薬など入れず、単に水分だけ補給しても、有熱疾患でベッドに倒れ込んでホッと一息つけば、薬に関係なく眠くなっても不思議はありません。全く水分だけのプラセボを点滴して、「ハーハーしんどいなあ」という状態で行くより、熱を下げて運転にしっかり気をつけて行ってもらった方が交通事故の確率は低いと思い、鎮痛薬を投与する対応をしました。
 先日医学雑誌の法律相談で「治療や検査のため眠気を生じる危険のある薬剤を使うときに、車で来るなといっても車で来院する患者がいる。このようなとき帰りに交通事故でも起こしたら、医師の責任はどうなる?」という質問を受けました。「車で来ているのを知っていて、そのような薬剤投与を行った場合は、法的責任を問われないともいえない」という建前論で質問に回答しました。ですが、20年ほど前の回答者自身が「帰ってさっさと養生しないのなら治療はできません」とはいえなかったことを思い返すと、たかが風邪薬、されど風邪薬、それほど簡単にすっきり回答できる問題ではありません。
 会社や個人に対して、建前でコンプライアンス(遵法性)やモラルが強く求められる一方、実際にきちっと休んだり、自重したりすると、即座に「もう明日から来なくていいから」と本音でいわれかねない時代です。
 薬もそうですが、そもそも風邪や花粉症自体も体調を不良にして、事故誘発性をはらんでいるといえばいえるでしょう。交通事故に限らず、医療事故なども医師や看護師が風邪を引いたらちゃんと休めるような環境ならば、ずいぶんと違ってくるのかもしれませんが、医療崩壊が叫ばれる今なかなか難しいものがありそうです。

■ 鎮静性抗ヒスタミン薬(2008年2月:日経メディカル)

―小児への処方は見直しを

 「日本は諸外国と比較して、小児の風邪や花粉症、アトピー性皮膚炎などに鎮静作用の強い第1世代の抗ヒスタミン薬を処方する頻度が異常に高い。子どもは副作用をあまり訴えない。医師側も使い慣れている薬をつい使ってしまうのではないか」――。こう話すのは東北大大学院機能薬理学教授の谷内一彦氏だ。
 抗ヒスタミン薬は、眠気や集中力、判断力、作業効率低下などの鎮静作用を指標にして、鎮静作用の高い第1世代と、その欠点を克服したとされる第2世代に分類されている。同氏の調査では、成人には8割近くで第2世代抗ヒスタミン薬が処方されていたが、小児では処方の7~8割が第1世代を中心とする鎮静作用の強い抗ヒスタミン薬だった。
 「鎮静性抗ヒスタミン薬は、欧米の薬理学教科書では睡眠薬としても位置付けられている。脳への移行性が国際的に問題視されており、本来小児では、より警戒しなければいけないはずだ」と谷内氏は指摘する。

脳内への移行に大きな差

 谷内氏は、各種抗ヒスタミン薬の鎮静作用の差を「脳への移行率」という形で客観的に評価するため、PETを用いて、抗ヒスタミン薬服用後の脳内H1受容体占拠率を調べてみた(表)。H1受容体占拠率の高さは、実際の鎮静作用の程度と強く相関することが分かっている。

抗ヒスタミン薬のH1受容体占拠率.gif

表 わが国で使われている抗ヒスタミン薬のH1受容体占拠率
抗ヒスタミン薬を投与後、H1受容体拮抗作用を持つ11C-ドキセピンを微量投与し、PETにより脳内におけるH1受容体占拠率を定量した。ロラタジンはセチリジンと同程度。今後論文発表予定。(出典:Yanai K. Pharmacol & Ther. 2007;113:1-15を一部改変)

 その結果、第1世代抗ヒスタミン薬のH1受容体占拠率は50%以上だったのに対し、第2世代ではおおむね30%以下であることが明らかになった。ただし、第2世代に分類されていても明確な基準はないため、薬剤間で大きな差が見られた。

■ FDAが2歳未満には市販の風邪薬を使わないよう推奨(2008年1月:日経メディカル)

2歳以上の小児に対しても注意を喚起

 米国食品医薬品局(FDA)は2008年1月17日、2歳未満の幼児や小児に対して、市販の風邪薬(充血除去薬[decongestants]、抗ヒスタミン薬、去痰薬、鎮咳薬)を用いないことを推奨すると発表した。これらの薬は風邪を治癒させる効果はない一方、死亡やけいれんを含む重篤な副作用が、まれではあるが起こるためだ。
 またFDAは、2歳以上の小児への使用の是非については、継続して検討を続ける方針。2歳以上の小児に対しても注意するよう保護者に呼びかけている。
 この決定は、2007年10月に開かれたFDAの諮問委員会における結論を受けたもの。『薬のチェック』誌29号(2008年1月)によると、この諮問委員会は、ボルチモア市の保健当局と小児科医が同年3月に行った市民請願(Citizen Petition)を受ける形で開催された。審議の結果、小児に対する市販の風邪薬の使用について、6歳未満では13対9、2歳未満では21対1で、「使うべきではない」という結論が下されていた。
 このほか、米国疾病管理センター(CDC)も2007年1月、実態調査の結果を受けて、咳止めと風邪薬を2歳未満の乳幼児に投与する際には十分な注意が必要、と注意を喚起している。

■2歳未満への咳止めと風邪薬投与に注意(2007年1月:日経メディカル)

米国CDCの実態調査で死亡例も

 抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、去痰薬、鼻粘膜の鬱血除去薬などを含む咳止めと風邪薬を2歳未満の乳幼児に投与する際には十分な注意が必要、との注意喚起が米国疾病管理センター(CDC)から出された。
 CDCは、全米監察医協会(NAME)の協力を得て、生後12カ月以下の乳児の風邪薬と咳止めに関連した死亡について調査し、報告書を2007年1月12日に発表した。調査の結果、死亡者数は2005年に米国内2州で3人と、数こそ少なかったものの、過剰摂取による有害事象の発生が十分懸念されたことから、2歳未満の患者にこれら薬剤を処方する医師に対して注意を喚起した。
 現在、米国では、市販の風邪薬や咳止めを2歳以上の小児に投与することは認められているが、2歳未満は適用範囲外だ。これら市販薬に関する臨床試験の系統的レビューで、上気道感染の症状に対する有意な効果は示されていないからだ。また2歳未満の幼児に咳止めや風邪薬を処方する場合の推奨用量も設定されていない。
 しかし日常診療では、2歳未満の小児の上気道感染の症状を一時的に緩和するために、風邪薬と咳止めがそれぞれ単独で、または同時に処方されている。そして医師から処方された、または、市販の咳止めや風邪薬を使用したことが原因と見られる2歳未満の救急部門受診者は、2004~2005年で1519人が報告されている。

血中プソイドエフェドリン値が死亡例で高値

 今回の調査は、2006年1月に監察医を対象に、電子メールを使って咳止めと風邪薬が死亡原因と判定された生後12カ月以下の乳児について報告を求めるとともに、2005年にメディアや医学雑誌取り上げられた症例についても調べた。その結果、2005年には、米国内2州で生後1~6カ月の乳児3人が、これら薬剤により死亡していたことが明らかになった。
 死亡した3人は、検視時に血中プソイドエフェドリン値が4743~7100ng/mLと高値(2~12歳の小児に推奨用量を投与した場合の9~14倍に相当)を示した。1人はプソイドエフェドリンを含む処方薬と市販薬を同時に使用していた。残る2人のうち、1人は処方薬、もう1人は市販薬のみの使用だった。また2人の患者は抗ヒスタミン薬(carbinoxamine)を含む処方薬を使用していたが、検視時には検出されなかった。このほか、デキストロメトルファン、アセトアミノフェンは2人の血中から検出された。
 なお、3人とも自宅で死亡していた。剖検により2人の患者に気道感染が認められた。3人すべてに心臓に異常はなかった。
 CDCは、毒性が懸念されること、推奨用量が示されていないこと、2歳未満の小児に対する効果を示したエビデンスは限定されていることを踏まえ、医師が2歳未満にこれらの薬剤を処方する場合には、重症の有害事象または死亡のリスクがあることを念頭に置き、過剰摂取を防ぐために、親や養育者に市販薬の使用の有無について確認し、指示された方法でのみ薬剤を用いるよう十分に説明しなければならない、とした。加えて、親や養育者は、医療提供者に相談することなく2歳未満の小児にこれらの薬剤を与えてはならず、医師などの指示を仰がねばならないとした。

米小児科学会や米胸部疾患学会も勧告

 乳幼児への風邪薬や咳止めの投与を巡っては、CDCだけでなく学会も対策を取ってきた。
 米小児科学会は1997年に声明を発表し、医師は患者の親に対して、鎮咳薬のコデインやデキストロメトルファンの乳幼児に対する効果は証明されておらず、副作用が懸念されることを知らせると共に、過剰摂取を避ける方法を説明するよう勧告している。また米胸部疾患学会(ACCP)も、2006年に咳の管理に関する臨床診療ガイドラインを発表し、医療提供者に対して、乳幼児への市販の鎮咳薬などの使用を勧めないよう勧告している。
 米食品医薬品局(FDA)は、2歳未満の小児に対するカルビノキサミンの使用には安全上問題があるにもかかわらず、多くの製品が適応年齢について不適切な表示を用いていると指摘し、2006年6月8日、FDA未承認のカルビノキサミン含有医薬品の製造を2006年9月6日までに中止させるべく強制的措置を取った。
 また、プソイドエフェドリンについて、これを原料にメタンフェタミンが製造されることを阻止するための法案(この成分を含む薬剤は薬局のカウンターの後ろに置くことを義務づけた)が施行された2006年3月9日以来、多くの風邪薬において、この成分が別の鬱血除去薬に置き換えられている。 

関連ホームページ

OTC小児用かぜ薬等に関する要望書
(薬害オンブズパースン会議)

市販のかぜ薬の問題点が整理されています。

サリチル酸系製剤の小児に対するより慎重な使用について
(医薬品・医療用具等安全性情報 No.167)

PL顆粒、ペレックス顆粒、LLシロップなどの危険性についての情報です。

添付文書情報
(医薬品医療機器総合機構:PDMA)

正式の使用方法解説書です。

くすりの情報ステーション
(クスリの適正使用協議会)

保育園とくすり
(日本保育園保健協議会)

上手なセルフメディケーション
(日本大衆薬工業協会)

市販薬に関する医薬品情報満載

おくすり一口メモ
(日本薬学会)