予防接種

予防接種について

(2009年4月 初掲載・・・2011年11月 最終更新)

 ワクチンは治療法がなく、ときに重い合併症に苦しめられる病気に立ち向かってきた人類の知恵の結晶です。「やれといわれたから受けた」ではなく、実際に病気に罹ったときと予防接種を受けたときのメリット・デメリットを比較して十分理解し、自分の子どもの健康を守るという視点で接種すべきかどうかを考えていただきたいと思います。

■ 予防接種を受けたくない人へ

 予防接種は面倒だし、接種しても100%効くわけでもないし、任意接種はお金が高いし・・・できればやりたくない! という方へ。

■ 予防接種を受けるより自然にかかる方が良いのでは?

「自然にかかること」=「最強かつ最も危険な予防接種を受けること」

 自然にかかると確かに一生免疫はもちますが、脳炎・脳症などの合併症で命を落としたり、後遺症で悩むことがあります。
 あなたのお子さんが元気に治るという保障は何もありません。
 現在のワクチンの副反応はゼロではありませんが、実際にかかった時の合併症と比較すると頻度は低く抑えられています(多かったら国が認可しません!)。

■ もし予防接種がなかったら・・・

 日本では予防接種の対象となっている伝染病の怖さを実感できませんが、これは涙ぐましい先人たちの努力の恩恵によることを忘れてはなりません。世界を見回すと発展途上国では伝染病で命を落とす子どもがまだまだ多いという現実があります。
 以下にいくつか例を挙げます。

【ポリオ】
 日本でも1960年には年間5000人以上の患者が発生しました。後述するようにその数%は重症化して命を落としたり後遺症として麻痺が残ったりしたのです。予防接種の普及により1980年に発生した患者さんが最後となりました。

【百日咳】
 1950年以前の日本では年間10万人の患者が発生し、そのうち約10%が死亡していました(ほとんど乳児と思われます)。医師の私でも想像しがたい状況ですね。
 予防接種の普及により患者数は激減していますが完璧に押さえられているわけではなく、近年成人の百日咳が社会問題となり追加接種方法の再検討が必要ではないかと議論されています。
 全世界では年間2000万〜4000万人が発祥し、20万〜40万人が死亡しています。

【日本脳炎】
 日本では1966年に2000人以上患者が発生していました。死亡率は約30%!という恐ろしい病気です。その後予防接種の普及により1992年以降年間患者数は10人以下に抑えられています。
 「日本脳炎」は日本だけに存在する病気ではありません。現在もアジア中心に発生しています(年間3〜4万人)。

■ うちの子は元気で病気知らずだから予防接種を受けなくても良いのでは?

 ふだん元気でも、その病気にかからない保障はありません。
 そして肺炎や脳炎などの合併症を起こさないという保障ももちろんありません。
 自然にかかるとまわりの子(まれにご両親)にうつしてしまいます。「うちの子」が治っても「うつされた子」に重い合併症が出ない保障はありません。

■ 予防接種はその病気にかかりたくないひとだけが受ければ良いのでは?

 それでは病気の流行は防げません。
 また、予防接種を受けたくても病気や年齢などの理由で受けられない人たちもいます。そのような人たちを守るためにも多くの人が予防接種を受ける必要があります。

■ 予防接種を受けても100%効くわけではないんでしょう?

 予防接種の効果は確かに100%ではありません。発症阻止率は80%程度です(※1)。残りの20%はかかってしまいますが症状は軽く済みます。
 また、ワクチンを接種後5〜10年経過すると免疫が弱くなりその病気にかかってしまうこともあり得ます(これも軽く済みます)。このため、2006年から麻疹・風疹ワクチンは2回接種へ変わりました。

予防接種の原点は「危険な病気から子どもを守る」という発想です。ワクチンは特効薬のない病気に対する人類の智恵の結晶です。我が子に予防接種を受けさせることは「親の責任」であり、また自分が感染源となって他人にうつすことのないよう「社会人としての責任」も問われているのです(※2)。

※1 インフルエンザワクチンのみ有効率が低い傾向があります。
※2 実際に米国では予防接種をスケジュール通り済ませていないと小学校へ入学できません。また、規定の予防接種を済ませるまで登校できないそうです。

院長のつぶやき)先日、アメリカで生活している方が受診されました。話を聞くと、小学校入学前の予防接種を受けに行ったところ7本の注射をブスブスブス・・・と打たれてビックリしたと。
 アメリカでは医療費が想像以上に高く、また時間も待たされるので、ワクチンで予防可能な病気は予防接種するもの、と自然に考えるようになるそうです。
 日本のフリーアクセス・子どもの医療費無料もメリットばかりではないのかもしれません。

 いかがでしょうか。ここまで読んできてどのように感じましたか?
 予防接種は強制されるものではありません。でも一人一人が予防可能な感染症に対してどういうスタンスをとるべきか、日本人はより理解を深めて考えるべきだと思います。
しかし日本人には

子どもが自然感染で死亡したり重篤な後遺症が残っても仕方ないと考えるが、予防接種によりそのような状態になるのは許せない。

 という考え方が根底にあるような気もします。
 ここまで来ると「国民性」ということになりましょうか。
 ワクチンの意義についてもっと知りたい方は、下記ホームページをご覧ください。

■ ワクチンを接種すると病気に罹らない?

 残念ながら、ワクチンの効果は100%ではありません.

 接種したにもかかわらず十分な抗体ができなかった場合を一次ワクチン効果不全primary vaccine failure, PVF)と呼びます。
 例えば、麻疹ワクチンによる抗体陽性率は約95%で、残りの数%は抗体ができません。インフルエンザワクチンでは約50〜70%(乳幼児では20〜30%)と他のワクチンよりも効果が低く問題視されています。

 残念ながら、一度できた免疫も一生持続しません。

 この答えは、生ワクチンと不活化ワクチンでちょっと異なります。

【生ワクチン】

 近年までは、生ワクチンで一度獲得した免疫は一生持つと考えられてきました。ところが、そうは問屋が卸さないことが判明しました。記憶されている方も多いと思われますが、2006〜7年の大学生を中心とした麻疹流行です。罹った人の内訳はワクチン未接種の人が多かったのですが、一部ワクチン接種済みの人も含まれていました。
 一度できた抗体が一定期間が過ぎると無くなってしまうことを二次ワクチン効果不全secondary vaccine failure, SVF)と呼びます。
 この”一定期間”はワクチンが標的とする病気の流行状況により左右されます。
 例えば、麻疹ワクチン接種により抗体ができても、流行が全くない状態では体が「必要ないのかなあ」と勘違いして抗体産生をさぼってしまうのです。時々小流行があると「あ、やっぱり必要なんだ」とせっせと作り始めます(これを「ブースター効果」と呼びます)。
 今までは自然感染によるブースター効果がありましたが、流行が制圧されると追加接種によるブースター効果が必要になるのですね。

※ 日本では2006年6月から、それまで1回だった麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)が、SVF対策として2回接種へ変更されました。

【不活化ワクチン】

 こちらは免疫が長持ちしないことが初めからわかっています。そのために約5年間隔で追加接種が必要とされています。
 ADEM騒ぎの後、どさくさにまぎれて日本脳炎ワクチンの3期が無くなりましたが、私はその措置を疑問に思っています。

※ 今から20年ほど前に勤務した病院では、農家の方対象に破傷風ワクチンの出張予防接種をしていました。5年間隔でずっと一生続けるのです。しかし、野良仕事が終わって一風呂浴びて一杯引っかけてから会場に集まるので、アルコールが入った体にワクチンを打ってよいのかどうか悩みました・・・。

(「小児の感染症診療の落とし穴」南江堂、2011年発行、より)

■ 罹った病気でもワクチンを打って問題ない?

 事情によりこのような状況が発生することがありますが、基本的に「問題ありません」。
 免疫が強くなるだけで、副反応の頻度や程度には影響しません。
 自然感染しても十分免疫ができない病気(ヒブ、肺炎球菌、破傷風菌)では、むしろ積極的にワクチンを接種する必要があります。
 注意すべきワクチンはBCG。結核に罹った人に接種すると普通の局所反応より早く変化が現れ(コッホ減少)、これがきっかけになり結核感染が判明することがあります。

(「小児の感染症診療の落とし穴」南江堂、2011年発行、より)

■ 定期接種と任意接種は何が違うの?

 平たく言うと「無料」と「有料」の違いですが、世界を見回すとこのような区別をしている国はまれで、有用なワクチンはすべて公費負担で行うのが理想です。

 上記の他に、ワクチンの副反応による健康被害が発生し認定された場合に補償の金額が異なります。
 また、定期接種に指定されているワクチンでも、対象期間を過ぎてしまうと任意接種扱いとなりますので注意が必要です。

★ 風邪を引いた後はどれくらい期間を空ければいいのですか?

 いわゆる「風邪」は医学的にいうと「呼吸器・消化器の一過性の軽症ウイルス感染症」と定義されます。経過が特徴的で名前がつく下記の感染症は罹患後から予防接種まで開ける間隔が決められています。

治癒後  4週間・・・麻疹
治癒後2〜4週間・・・風疹・水痘・おたふくかぜ
治癒後1〜2週間・・・突発性発疹・手足口病・リンゴ病

※ 期間の設定は「発症後」ではなく「治癒後」であることにご注意ください。

Q. それでは、ふつうの風邪の後はどれくらい空ける必要がありますか?
A. 予防接種ガイドラインには「重篤な急性疾患にかかっていることが明らかなものは接種不適当
」という文章があります。また、補足説明には「急性疾患であっても軽症と判断できる場合には接種を行うことができる」とあります。
 これをどう解釈するかにより異なる考え方が発生します。
 私は「重篤でなければ可能」と解釈して、鼻風邪や風邪の治り際で診察所見に問題がなければ接種する方針です。高熱が出た場合は解熱後1週間空けて体力の回復を待ちます。
 しかし、「急性疾患は避ける」という文言を重視すると「風邪薬を飲んでいる間はやらない」という考えも成り立ちます。
 どちらが正しい・間違いというわけではありません。その医師のスタンスということでご理解ください。

 さて、海外ではどうなっているでしょうか。いくつかご紹介します;

アメリカ】有熱・無熱にかかわらず下痢症や上気道炎罹患、急性疾患の回復期は禁忌ではない。
カナダ】上気道炎、かぜ、中耳炎、下痢症などはワクチンの免疫反応に干渉せず禁忌とはいえない。感染症回復期や39.5℃以上の熱を伴う急性期であってもワクチン応答への影響もワクチン後の副反応のリスク増大もない、と断言している。
イギリス・オーストラリア・ニュージーランド】38.0℃または38.5℃を超える発熱時は解熱するまで延期する。

 というわけで、日本より積極的な国が多いですね。

■ 生ワクチンと不活化ワクチンの違い(ちょっと詳しく)

 ワクチンは感染症を予防するもので、治療薬ではありません(念のため)。
 ワクチンには、毒性を弱めた病原体や、病原体の一部などを接種することで、ヒトの体に免疫を作らせ、感染症を未然に防いだり、感染後の症状を和らげたりする効果があります。

■ 液性免疫と細胞性免疫

 生ワクチン接種により強力な獲得免疫が得られるのは、液性免疫と細胞性免疫の二種類の免疫機構が働くためです。
 病原体が体内に侵入すると、Bリンパ球(B細胞)が病原体をターゲットとした抗体を血清中に産生し、この抗体が病原体にくっつくことにより活動性を失います。これを「液性免疫」と呼びます。
 病原体を記憶したBリンパ球の一部は「免疫記憶細胞」となり、病原体が去った後もリンパ節に残り、次に同じ病原体が侵入してきたときにすばやく抗体を産生するBリンパ球を作り出すことができるようスタンバイしています。
 さらに感染が進むと、ウイルスはヒトの体内の細胞内に侵入します。しかし、B細胞は細胞内に侵入したウイルスに対しては無力です。そこで活躍するのがTリンパ球(細胞障害性T細胞)です。細胞内で複製・産生されたウイルス蛋白の一部は細胞表面にあるMHC(主要組織適合抗原)に提示され、生体内で「感染した細胞」と認識され、細胞障害性T細胞により攻撃されます。これを「細胞性免疫」と呼びます。細胞障害性T細胞は、相手が自己の細胞であっても感染細胞と正常細胞を区別し、感染細胞のみ攻撃・排除してくれます。そしてB細胞と同様に、ウイルスタンパク質の一部(抗原)を覚えたT細胞の一部は「免疫記憶細胞」となります。

■ 生ワクチン → 「液性免疫&細胞性免疫」を獲得

 生ワクチンは病原性の弱い病原体に感染させることで、不快な症状を与えることなく、実際に感染したのと童謡の免疫効果(液性免疫&細胞性免疫)を与えようとするものであり、これにより免疫記憶が生まれ、長期にわたって同じ病原体の感染から逃れることができます。ただし、病原性が弱いとはいえ生きた病原体ですから、目根気力が弱いヒトの場合、まれに副作用が出ることがあります。

■ 不活化ワクチン → 「液性免疫」のみ獲得

 化学薬品(例:ホルムアルデヒド)などで不活化させた病原体の一部を元に作成したものであり、感染力はありません。感染が起こらないので細胞内に病原体が侵入することもなく、液性免疫は発動しますが細胞性免疫は誘導されません。そのため、ウイルス感染の際、細胞内に侵入した感染細胞に対して無力です。よって生ワクチンより副作用が少ない反面、効果が不十分となり、複数回の接種(基礎免疫&追加免疫)が必要になります。

(2009年12月掲載)

参考資料:ブルーバックス「インフルエンザ・パンデミック」(河岡義裕 著)

卵アレルギー児への予防接種

(2010年1月掲載)

「アレルギー体質=予防接種が危険」というわけではありません

 アレルギー体質があると「予防接種はアレルギー性副反応が起こりやすいのではないか?」と心配になりますね。しかし「アレルギー体質があるから全て危険である」と考えるのはアバウト過ぎます。正しい知識を持って対応しましょう。
 「定期予防接種実施要領」には以下のように書かれています;

気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、じんましん、アレルギー体質などといわれているだけでは、予防接種不適当者にはならない

 ではどういうヒトが問題になるのか?
 それは「ワクチンに含まれる成分に対してアレルギーを有する場合」です。
 この「ワクチンに含まれる成分」とは?
 答えは以下の通り;

安定剤(ゼラチンなど)や培養液成分に含まれるタンパク質(鶏卵など)
抗生物質(カナマイシン、エリスロマイシン)
チメロサール

 等を指します(ワクチンの種類により含有成分は異なります)。
 これらの成分が体に入るとショックを起こしたことがある人は、それを含むワクチンを当然接種できません。
 抗生物質を飲んだときにじんま疹が出たなど副作用が疑われるヒトは問診票にしっかり記載してください。
 接種後の局所の腫れが目立つ(肘を超えて腕全体)例では、チメロサールの皮膚テスト陽性者が多かったという報告を読んだことがありますが、重篤な全身反応は極めて希だと思います。
 実際に問題になるのは、やはり卵アレルギーですね。以下にそれについて述べてみます。

卵アレルギーと麻疹ワクチン

 しばらく前までは、麻疹ワクチン接種に伴う副反応は卵アレルギーのよるものと考えられていましたが、現在は関係ないことが証明されています。
 麻疹ワクチンを作るときに用いられるのは「ニワトリ胚細胞」というもので、何となく「=鶏卵」と同じようなイメージで捉えられてきたことが誤解の始まりです。
 実はニワトリ胚細胞に卵白成分が含まれる可能性は理論的にありません。増殖後のウイルスを精製する技術の進歩と相まって、実際のワクチン液の中に卵たんぱくは検出されないのです。
 そのためWHO(世界保健機関)の勧告や、日本のMRワクチン添付文書には卵アレルギー児に対する特別な注意勧告は記載されていません。

ゼラチンアレルギーと麻疹ワクチン

 1990年代に麻疹ワクチン接種後にじんましんやアナフィラキシーなどのアレルギー性副反応の報告が目立った時期がありました。前述の誤解から当初「卵アレルギー」が怪しいと考えられていましたが、その原因を解析したところ、安定剤として添加されていたゼラチンの増量と時期が一致していることから疑われ、1997年からゼラチンを含まないワクチンに順次切り替えられました。するとアレルギー性副反応の報告が激減!、結果的に犯人はゼラチンであることが判明しました。
 しかし、「卵アレルギー児に麻疹ワクチンは要注意」という思い込み・誤解はすぐにはなくならず、今でも接種する医師の間に亡霊のように根強く残っているのも事実です。

<(幻の)ゼラチンアレルギー>
 ところで「ゼラチンアレルギー」って最近はあまり聞きませんね。なぜ昔は話題になるほど患者さんがいたのか?実は、予防接種でゼラチンアレルギー患者を作っていたらしいのです。3種混合ワクチン(DPT)にも以前はゼラチンが含まれていました(今は除去されています)。それを繰り返し接種することにより、皮肉にもゼラチンに過敏なアレルギー体質が作られてしまった!そしてダメ押しが麻疹ワクチンの役回りだったわけです。
・・・つまり「医原病」ということ。

鶏卵成分を含むワクチン

 ウイルス増殖の際に発育鶏卵が使用されるのはインフルエンザワクチン黄熱ワクチンの2つのみ。おたふくかぜワクチンはニワトリ胚細胞を用いるので、麻疹ワクチン同様鶏卵成分は無視できます。
 報告によると、日本のインフルエンザワクチンに残存する卵白成分(オボアルブミン濃度)は0.83〜10.3ng/mLです(アメリカ製品:20〜1200ng/mL、ヨーロッパ製品:20〜650ng/mL)。
 実際に注射されるワクチン液量に換算しても、注入される卵白アレルゲン量はナノグラム単位であり、アレルギー反応を惹起する可能性は極めて低い微量に過ぎません。

 アレルギー反応を起こすには・・・
 「mg」単位レベルの量が必要です。
 「μg」でもリスクはゼロではありません。
 「ng」レベルは無視できるとされています。

注)
1g の1000分の1→1mg
1mgの1000分の1→1μg
1μgの1000分の1→1ng

卵アレルギー児にインフルエンザワクチンは接種可能か?

 というわけで、理論的には麻疹ワクチンもインフルエンザワクチンも問題なく安全に接種できそうです。
 「では実際のところどうなの?」 
 という疑問に対する厚生労働省が用意した答えは以下の通り;

小児(任意接種):「予防接種ガイドライン等検討委員会」では「卵白RASTスコア5〜6、あるいは卵摂取後のアナフィラキシー」児では接種前皮膚テスト(ワクチン希釈液を少量皮内注射し安全であることを確かめる方法)を推奨しています。つまり「注意しながらやって良し!」とのスタンスです。
高齢者(定期接種):「卵アレルギーが明確な者に対しては接種を避ける」とのスタンスです。

・・・なんと、小児と高齢者では基準が異なるのです!?

(院長のつぶやき)このダブルスタンダード状態・・・混乱の一因ですね。ご存じのように、定期接種は厚生労働省が責任を持ちますが、任意接種(小児に対するインフルワクチン)は「やるのなら自己責任でどうぞ」という及び腰の日本のワクチン行政が見え隠れします。
 まあ、10年前は一律「卵アレルギーは麻疹・おたふく・インフルエンザワクチン禁」でしたから、牛歩のスピードで世界標準に近づいてはいるようですが・・・。

最後に上記を踏まえた当院の方針を;

 卵を食べてアナフィラキシー・ショックの経験のある(あるいは予想される)子どもには、接種前に皮膚テストを行っています。
 卵を食べてもじんま疹や湿疹など皮膚症状だけの場合は、そのまま他の子どもと同じように接種しています。

■ ワクチンの緊急接種(患者と接触した際の発症予防)

 麻疹、風疹、水痘、ムンプスなどの感染症は症状が出る数日前から感染力があるので、診断された時点から隔離してもすでに感染していることが多く、意味がありません。しかし、これらの感染症にはワクチンがあり、ワクチンを接触後早期に接種することにより発症を防いだり、発症しても軽症で済ませることができます。
 下の表は「小児感染症マニュアル2007」(日本小児感染症学会編集)から抜粋したものです。


麻疹 水痘 風疹 おたふく
暴露後接種 有効 有効 有効? 無効
タイムリミット 72時間 72時間 (理論上) 当日(※)

(※)家族内暴露当日の有効率は57%

<参考> 暴露後接種に関する追加情報


麻疹 水痘 風疹 おたふく
副反応出現 7〜10日 14日〜 7〜14日 18〜21日
細胞免疫獲得 7〜10日 5〜13日 10〜14日 10〜14日
(潜伏期間) (10〜14日) (14〜16日) (16〜18日) (16〜18日)

■ ワクチンを間違って接種してしまったら

※ 「より安全な予防接種を目指して」岡田賢司先生(国立病院機構福岡病院統括診療部長)、アステラス製薬制作、より抜粋

 ワクチン接種に関しては各医療機関が万全を期してトラブル対策をしていることと思われますが、未だに「間違い接種」のニュースが後を絶ちません。「ヒトは間違いを犯すもの」という前提でチェック体制を築く必要がありますが、それは各施設にお任せするとして・・・実際に間違った場合の対応方法が記載されている小冊誌を見つけたので、ポイントを抜粋しました。

新聞記事に見る予防接種関連ミスの件数
1.医療関係者
 ・有効期限切れ(25%)
 ・ワクチンの種類間違い(19%)
 ・接種量の間違い(15%)
 (例1)DTトキソイドを0.5ml接種(本来は0.1ml)
 (例2)3歳未満児に日本脳炎ワクチンを0.5ml接種(本来は0.25ml)
 ・接種方法の間違い(9%)
 ・対象外接種(4%)
2.市町村職員・・・対象外通知ミス(23%)
3.保護者・・・思い違い(5%)

<誤接種時の医療上の対応>

過量接種

不活化ワクチン:局所反応の頻度や程度などが強くなる可能性があります。
生ワクチン:医学的に問題になることは少ないとされています。

過少接種

(例)注射針が外れた場合など
不活化ワクチン:1回目、2回目であれば不十分と考えられる量をすぐ再接種、3回目以降の追加免疫であれば原則として再接種の必要はありません。

有効期限切れワクチンの接種

 保存状態に問題がなければ、生ワクチンでは生存ウイルス量の減少に伴う力価の低下があってもその他の品質が急に劣化して重篤な副反応が発現することは考えにくいとされています。
 有効性の確保の観点からは、生ワクチンでは6週間後、不活化ワクチンでは基礎免疫終了後(DPTでは1期3回接種後、日本脳炎では2回または3回接種後)に抗体検査を行い、低い抗体価であれば再接種を考慮します。

接種間隔の誤り

・不活化ワクチン同士を規定の間隔より短い期間で接種した場合は、期待する抗体価が得られない可能性があります。この場合、次回の接種間隔を遵守して接種します。
・不活化ワクチン同士を規定の間隔より長い期間で接種した場合は、間隔にかかわらず気づいた時点で接種を行い、規定回数を確保することが重要です。
・生ワクチン接種後27日未満に不活化ワクチンを接種した場合は、干渉作用はなく有効性については医学的に支障はないと考えられます。
・生ワクチン同士を27日未満に接種するとワクチンウイルス増殖後の干渉作用により免疫を獲得できない場合もあります。kの場合、抗体価を確認し、必要に応じて再接種を考慮します。

<予防接種・ワクチンに関する新聞記事>

 ネット上で目についた新聞記事を拾い読みしました。

■ ヒブなど4種を定期一類に(2012年01月27日 キャリアブレイン )

 予防接種法改正案の今通常国会への提出に向けて検討している厚生科学審議会感染症分科会の予防接種部会(部会長=加藤達夫・国立成育医療研究センター総長)は27日に会合を開き、定期接種化を検討している7種類のワクチンの予防接種法上の位置付けを決めた。インフルエンザ菌b型(ヒブ=Hib)ワクチンなど4種類を、集団予防が主な目的の定期接種一類に、子宮頸がん予防(HPV)ワクチンなど3種類を、個人予防が主な目的の定期二類にする。
 一類に位置付けるのは、▽ヒブ▽小児用肺炎球菌▽水痘▽おたふくかぜ-の計4種。一方、二類に位置付けるHPV、B型肝炎、成人用肺炎球菌の3種類は、感染者の死亡率が一類にする4種と比べて低かったり、有効な治療法が確立されていたりするとの理由から、一類に該当しないと判断された。
 また、定期接種一類と二類の定義をめぐっては、前回の会合で、予防接種の目的を集団予防と個人予防にはっきり分けるのは難しいとの見解から、見直しを求める意見があったが、大幅な変更は見送られた。
 廣田良夫委員(大阪市立大大学院教授)は「(二類のワクチン接種の目的に、)重篤な合併症の予防という文言を入れることで、個人予防が目的だと明確になるのではないか」と提案。厚労省では、定義の文言修正を検討する。

■ ワクチンってどんな薬? (2012/1/21:日本経済新聞)

 イチ子お姉さん インフルエンザが流行してきて、小中学校で学級閉鎖(へいさ)が増えているそうよ。からすけはワクチンの予防接種(よぼうせっしゅ)をしたわよね?
 からすけ うん。でも、あのチクって痛(いた)い感じは何度やっても慣(な)れないなあ。どうして健康(けんこう)な体にわざわざ注射(ちゅうしゃ)するんだろう。

■「病気のもと」で作る予防薬

イチ子 ふつうの薬とワクチンの違(ちが)いって分かるかな。薬は病気を治(なお)すために飲むことが多いけど、健康な体に注射するワクチンは、主に病気にかかりにくくするための薬。ワクチンは細菌(さいきん)やウイルスのような「病気のもと」からつくっているのよ。
からすけ えっ? 健康な体にわざわざ病気のもとを注射するの?
イチ子 正確(せいかく)に言うと、細菌やウイルスの毒(どく)をとても弱くしたり、なくしたりしたものがワクチンよ。ワクチンを体の中に入れると免疫(めんえき)ができて、抗体(こうたい)と呼ぶ、ウイルスや細菌と闘(たたか)うたんぱく質をつくり出すの。
からすけ 免疫?
イチ子 初めてウイルスに感染(かんせん)すると病気になるけど、体はそのことを覚(おぼ)えていて、次に同じウイルスが体に入ると攻撃(こうげき)しようとするの。この体の仕組みが免疫で、それを利用したのが予防接種よ。
からすけ 毒を弱めた同じようなウイルスをわざと体に入れて、体に感染したように信じ込ませるってこと?
イチ子 そう。ワクチンで予行演習(よこうえんしゅう)をして、本物のウイルスが侵入(しんにゅう)してきたときはその成果を生かして退治(たいじ)するわけ。天然痘(てんねんとう)のように、ワクチンのおかげで地球上からなくなったといわれる病気もあるわ。
からすけ 天然痘ってどんな病気だったの?
イチ子 「悪魔(あくま)の病気」と恐(おそ)れられていた病気で、感染が広がると一度に何万人もの人が亡くなることもあったわ。天然痘の予防方法を200年前ほど前に発見したのがエドワード・ジェンナーというイギリスのお医者さんよ。

ワクチンが効くしくみ.jpg


からすけ どうやって発見したんだろう。
イチ子 当時のイギリスでは、牛痘(ぎゅうとう)という病気に一度感染した人は、牛痘に似ていてもっと重い症状の天然痘にはかからないといわれていたの。それを知ったジェンナーが牛痘のもとをわざと人に接種して、天然痘を予防する方法を考えた。それがワクチンの始まりよ。
からすけ いろんな病気をやっつけられるワクチンをもっとつくれば、だれも病気にならなくて済(す)むよね。
イチ子 ワクチンは感染症と呼ぶウイルスや細菌が原因の病気を予防する効果があるけど、感染が原因ではない生活習慣(しゅうかん)病のような病気は予防できないわ。

■増産で「新型」に備え

からすけ 僕(ぼく)の腕(うで)に点々とあるのは予防接種のあと?
イチ子 結核(けっかく)予防のBCGね。国は結核やポリオ(小児まひ)など9種類の病気のワクチン接種をすすめているわ。インフルエンザもそのひとつだけど、国が法律でインフルエンザの予防接種をすすめているのは高齢者(こうれいしゃ)だけよ。
からすけ そういえば注射していない友達もいるなあ。
イチ子 1994年までは、子どもは法律で必ず予防接種をする決まりで、学校でみんな一緒に接種していたわ。でも、予防接種をするかどうかは個人や親の判断で決める形に法律が変わったの。
からすけ どうして?
イチ子 予防接種で亡くなったり重い病気が残ったりしたことが相次いで、裁判で国の責任が認められたことが背景にあるわ。
からすけ え? ワクチンって毒を弱めているから大丈夫なんでしょ?
イチ子 ワクチンの接種は、まれに副作用(ふくさよう)が起(お)きるわ。日本で接種が認められているポリオのワクチンでは、486万回に1回はまひが起きるといわれているのよ。
からすけ 危険はゼロじゃないんだ。
イチ子 そう。ただ、日本ではポリオで1年間に約千人が亡くなったときもあったけど、ワクチンの接種で患者(かんじゃ)が急減(きゅうげん)したことも事実よ。それぞれのワクチンについて効果(こうか)と安全性をきちんと評価(ひょうか)することが大切で、国も海外の例を参考(さんこう)に専門の評価組織をつくる考えがあるそうよ。
からすけ 日本はワクチンの取り組みが遅(おく)れているの?
イチ子 ほかの先進国と比べて、国が求める予防接種の数が少ないのよ。2年ぐらい前に新型インフルエンザが大流行したときは、日本でつくれるワクチンが少なかったから慌(あわ)てて輸入したの。でも新型インフルエンザの流行を心配する人が増えたこともあって、大手メーカーが新しい技術で生産に乗り出すようになったわ。

※ 麻布高等学校の鳥越泰彦先生の話
 ワクチンの開発の歴史は、その時代の政治や社会情勢(じょうせい)を映(うつ)しています。19世紀後半の欧米(おうべい)は、世界を経済力と軍事力で支配しようとする帝国主義(ていこくしゅぎ)の時代になっていました。国民は労働者(ろうどうしゃ)として、また兵士として健康を維持(いじ)しなくてはならない存在で、植民地(しょくみんち)支配のためにも感染症(かんせんしょう)対策は必要でした。
 アジアやアフリカの植民地にはヨーロッパ人が経験したことのない風土病がありました。西アフリカのシエラレオネでは、ここを支配しようとしたイギリス人の熱病による死亡率は、現地の人々の200倍だったという統計(とうけい)もあります。感染症対策は現地の人々、また現地を支配するヨーロッパ人を救(すく)うために必要で、熱帯医学の研究を重ねたことがワクチンの開発にもつながりました。
 科学技術の歴史は政治や社会と深く関わっていることがあります。それは、科学技術が政治や社会を変えるというだけでなく、そのときどきの政治や社会が、ある科学技術の発展を強く求めているということでもあるのです。

■ 子どもの予防接種(2011年12月:読売新聞の特集)

(1)ヒブ・肺炎球菌「安全」と結論(2011年12月2日 読売新聞)

 11月10日、感染症の後遺症に苦しむ患者やその家族、小児科医らが予防接種の拡充を訴え、シュプレヒコールを上げながら都内をデモ行進した。
 ワクチンとは、感染症の原因となる病原体の毒性を弱めるなどして作った薬液のこと。注射などで接種して、病気に対する抵抗力をつけるのが予防接種だ。デモ行進では、「ヒブ(インフルエンザ菌b型)」と「小児用肺炎球菌」のワクチンを、公費で行う定期接種にすることなどを訴えた。
 二つのワクチンは、脳を覆う髄膜に細菌が感染して発症する細菌性髄膜炎を防ぐ働きがある。国内では2008年にヒブ、10年に小児用肺炎球菌のワクチンが相次ぎ発売された。いずれも自費で受ける任意接種になっている。
 細菌性髄膜炎はのどや鼻に感染したヒブや肺炎球菌が原因で起こる。年間約600人を超える子どもが発症し、約5%が死亡、20~30%に発達障害や脳の障害などの後遺症が残る。
 横浜市の会社員、中島香里さん(38)の長男、嘉克くん(6)は生後8か月だった06年5月に細菌性髄膜炎を患った。39~40度の高熱が約1週間続き、けいれんも起きた。約1か月の入院を余儀なくされ、抗生物質の点滴などを続けた。
 今でも年1回通院し、後遺症が出ていないかどうか様子を見ている。中島さんは「脳の発達に遅れが出ないかどうか心配です。ワクチンを接種できれば、感染することはなかったのに」と悔やむ。
 国立病院機構福岡病院(福岡市)統括診療部長で小児科医の岡田賢司さんは「細菌性髄膜炎は生後6か月ごろから増える。その前に必ず予防接種を受けてほしい」と強調する。
 だが、厚生労働省は今年3月、ヒブと小児用肺炎球菌の予防接種を一時見合わせた。両ワクチンを同時接種した後、死亡したという報告が相次いだためだ。
 報告を受けた厚労省は検討会で議論を重ねた。結局、「接種と死亡に明確な因果関係は認められず、ワクチン接種の安全性に特段の問題があるとは考えにくい」との結論を出した。
 4月に両ワクチンの予防接種は再開されたが、同時接種を控える保護者は少なくない。岡田さんは「同時接種が原因で死亡したという報告は海外でもない。ヒブ、肺炎球菌以外でも乳幼児期に接種が必要なワクチンは多くあり、漏れなく接種するため、同時接種を積極的に行う必要がある」と指摘する。
 様々な病気から子どもたちの命を守る予防接種。その最新事情を報告する。

(2)ポリオ「不活化」望む声多く

 東京都台東区の坪内歩ちゃん(1)は11月下旬、母親の藍さん(33)に連れられ、電車で30分かけて渋谷区のたからぎ医院を訪ねた。手足のまひを引き起こすポリオ(急性灰白髄炎)の不活化ワクチン接種のためだ。
 ポリオの予防接種には、病原性を弱めたポリオウイルスをシロップに混ぜて飲む生ワクチンと、死んだウイルスを含む溶液を注射する不活化ワクチンの2種類がある。生ワクチンは弱いながらもウイルスが生きているので、まれに接種後にポリオを発症し、まひが残ることがある。
 これに対し不活化ワクチンはその心配がない。世界では不活化ワクチンが標準だが、日本は生ワクチンを定期接種(公費負担)に使っている。
 不活化ワクチンを接種する場合、公費負担にはならない。海外から取り寄せている医療機関を探すしかなく、計4回の接種で約2万円の自己負担が必要になる。しかも健康被害が起きても、国の補償はない。
 坪内さんは悩んだが「万が一、まひが起こると怖い」と考え、不活化ワクチンの接種を決めた。自宅近くで接種できる医療機関がなく、対応しているたからぎ医院に足を運んだ。
 院長の宝樹真理さんは「遠い仙台や名古屋から来た人もいる」と言う。坪内さんは「早く、全国どこでも不活化ワクチンを安心して接種できるようになってほしい」と話す。
 国産の不活化ワクチンは製薬企業が開発中で、年内にも承認申請する。厚生労働省は審査を急ぐが、導入は早くても来年度末の見込みだ。「安全性や有効性の確認をおろそかにできない」(同省)と言う。
 患者団体などは承認までの間、海外の不活化ワクチンの緊急輸入を要望している。だが、同省は「緊急輸入は病気が流行して防ぐ手段がない時の特例措置。ポリオは流行しておらず、生ワクチンの予防効果も高い」と応じない考えだ。
 ただ、まひへの恐れから今春の全国の生ワクチン接種率は昨春より18%も落ちた。自費で不活化ワクチンを接種した人と、導入を待つ人の両方がいるとみられる。同省は「免疫のない子どもが増えるのは危険だ。不活化ワクチン導入までは生ワクチンの接種をしてほしい」と呼び掛ける。
 日本小児科学会は「何も接種しない選択が最も良くない」とし、生か不活化のいずれかのワクチン接種を勧める声明を出した。
 不活化導入を急ぐよう国に働きかける動きもある。神奈川県は今月から不活化ワクチンを独自に輸入し、希望者に有料で接種する事業を開始した。
 宝樹さんは「不活化ワクチン導入を待ち望む多くの人の声に国はすぐにでも応えてほしい」と訴える。

(3)B型肝炎 母子感染以外も(2011年12月6日 読売新聞)

 肝硬変や肝臓がんを引き起こすB型肝炎も、予防接種で防げる病気だ。
 都内に住む看護師Aさん(35)は2008年12月、当時2歳だった次女(5)の手足にぶつぶつができているのを見つけた。かかりつけ医は、手足や口の中に発疹ができる「手足口病」と診断した。通常、手足口病の発疹は数日でなくなる。だが、次女の発疹は消えず、むしろ増えていった。
 翌月、近くの病院を受診し、血液検査を受けると肝機能の数値に異常がみられた。入院して詳しく調べると、B型肝炎ウイルスに感染していることがわかった。発疹は、ウイルスによるものだった。
 B型肝炎ウイルスは、母親から感染することが多い。妊婦健診で妊婦が感染していることがわかれば、生まれてから2~5か月の間に、B型肝炎ワクチンを3回接種するなどの感染防止策が行われている。
 だが、Aさんは感染者ではなかった。「次女がなぜ感染したのか全くわからず、ショックでした」とAさん。母親が感染者でない場合、子どもにワクチンを接種させるかどうかは、保護者の判断に委ねられている。Aさんには3人の子どもがいるが、いずれもワクチンを接種していなかった。
 Aさんは夫も含めて5人家族。次女の感染経路を調べるため、家族全員が血液検査を受けたところ、長男(7)が感染していた。
 B型肝炎ウイルスは、唾液や汗、涙などから見つかることもある。長男の感染経路は不明だが、保育園などで感染し、その後、次女にうつった可能性が考えられた。
 長男と次女の主治医で、済生会横浜市東部病院こどもセンター専門部長の藤沢知雄さんは「母親以外からB型肝炎ウイルスに感染する人が目立つようになった」と指摘する。
 藤沢さんらが09年、B型肝炎ウイルスに感染した子ども57人の感染経路を調べたところ、母親からは65%で、残りは父子感染などだった。
 また近年、これまで国内になく欧米に多いタイプのB型肝炎ウイルスに感染する人が増えている。海外との交流が盛んになったことが主な要因だ。
 このタイプは急性肝炎を起こして、持続感染者(キャリアー)になるケースが少なくなく、仮に発症していなくても、他人に感染させる危険性がある。
 藤沢さんは「3歳未満でB型肝炎ウイルスに感染すると、持続感染者になりやすい。母親の感染の有無にかかわらず、ワクチンを接種できる生後2か月になったら、ぜひB型肝炎の予防接種を受けるようにしてほしい」と話している。

(4)「ロタ」対応の新ワクチン(2011年12月7日 読売新聞)

 「お子さんを横抱きにしてくださいね」
 東京都文京区にある細部小児科クリニックの診察室。院長の細部千晴さんは、そう言うと、生後4か月の杉山未来ちゃんの口の中に、少しずつ薬液を落としていった。
 この薬液は、激しい下痢や嘔吐などを伴う「ロタウイルス胃腸炎」の予防ワクチン。国内で11月に発売されたばかりの新しいワクチンだ。自費で行う任意接種で、費用は1回1万5000円程度。生後6週間から同6か月までに2回接種し、2回の接種は、4週間以上の間隔を空ける。
 未来ちゃんの母親、真紀子さん(28)は「接種できるのは今しかなく、かかって重症化すると大変なので、受けさせることにしました」と話す。
 ロタウイルス胃腸炎は、主に冬から春に流行し、5歳までにほぼ100%の子どもが感染する。
 千葉市の会社員、B子さん(34)の長男(1)は今年2月、ロタウイルス胃腸炎に感染した。預けていた保育所で嘔吐し、近くの診療所を受診して、診断された。
 ロタウイルス胃腸炎の下痢は、便が白やクリーム色で、酸っぱい臭いがするのが特徴だ。長男は、こうした水っぽい便が1週間、出続けた。1日平均10回程度。最初の頃は30分から1時間おきだった。
 B子さんは「ミルクを飲んでくれなかったため、市販の経口補水液をこまめに与えるよう気をつけました」と振り返る。
 ロタウイルス胃腸炎は、下痢や嘔吐を繰り返すため、脱水症状を起こしやすい。また、けいれんや意識障害を併発することも少なくない。重症化すると、脳症や脳炎を起こす恐れや、命にかかわる場合もある。
 日本小児救急医学会理事長で、北九州市立八幡病院長の市川光太郎さんは「この病気に対する有効な治療法はなく、自然にウイルスが体外に排出されるのを待つしかない。しかし、ワクチンを接種することで、ロタウイルス胃腸炎に感染して小児救急にやってくる患者を減らすことができる」と期待を寄せる。
 今回、発売されたワクチンは、病原体の毒性を弱めた「生ワクチン」だ。来年には、別の生ワクチンも発売される見通しだ。
 これらの予防ワクチンを接種しても100%感染を防げるわけではない。だが、感染した場合も、重症化せずに軽くて済む。
 市川さんは「ワクチンを接種しやすくするため、国には費用を助成するなどの対応をとってほしい」と訴えている。

(5)推奨スケジュールを公開(2011年12月8日 読売新聞)

 今年4月に長男を出産した千葉県習志野市の主婦、土屋利華さん(40)は予防接種の予定表を手にし、種類の多さに驚いた。
 BCGやポリオ、三種混合(ジフテリア、百日せき、破傷風)など、公費で行う定期接種のほか、自費で受ける任意接種のヒブ(インフルエンザ菌b型)、小児用肺炎球菌、B型肝炎、水痘(水ぼうそう)、おたふくかぜなどもある。
 さらに、それぞれ接種する時期や回数が決まっている。例えばヒブ、小児用肺炎球菌は通常、生後2~6か月で接種を始め、計4回接種する。三種混合は同3か月から3回、その後、12~18か月の間に1回、追加接種するのが標準的だ。
 ワクチンには、病原体の毒性を弱めた「生ワクチン」と、毒性をなくした「不活化ワクチン」がある。生ワクチンを接種すると、他のワクチンの接種までに27日以上、不活化ワクチンの場合は6日以上間隔を空ける決まりもある。土屋さんは「何回も接種が必要なワクチンがいくつもあり、スケジュールを立てるのが大変です」と話す。
 新潟大(新潟市)小児科教授の斎藤昭彦さんは「どのワクチンも重要だが、あえて順番をつけるのであれば、重症化の恐れがあるものや、地域で流行している感染症のワクチンを優先してほしい」と助言する。
 例えば細菌性髄膜炎は、子どもの場合、約5%が死亡し、20~30%に発達障害などの後遺症が残る。また、百日せきは全国的に成人の間で流行している。これらの病気を予防するヒブや肺炎球菌、三種混合のワクチンは早めに接種する。
 日本小児科学会は推奨する予防接種スケジュールを今春、同学会のホームページで公開した。
 同学会は、定期、任意を区別せず、優先度が高いワクチンを示した。生後2か月でヒブ、肺炎球菌、B型肝炎、ロタウイルス胃腸炎、同3か月から、これらの2回目と三種混合、BCG、ポリオ――とワクチンを接種していくことを勧めている。
 いずれも複数のワクチンを一度に接種する同時接種が前提だ。斎藤さんは「同時接種でワクチンの有効性が落ちたり副反応の頻度が高まったりはしない。何度も医療機関に通院する負担が軽減され、効率よく接種できる」と説明する。
 感染症で命を落としたり、重大な後遺症が残ったりするのを防ぐのがワクチンだ。子どもには早めに予防接種を受けさせたい。

■ ワクチン“後進国”なぜ(毎日新聞 2011年9月)

上 国が勧奨、8疾患のみ

 ◇おたふく風邪、副作用訴訟で任意接種に 周期的流行、今も
 「どうして、いつの間にこんなに差ができてしまったのか」。95~08年に米国の複数の医療機関で医師として働いた斎藤昭彦・新潟大教授が、帰国してまず感じたのは、先進国に比べ「日本のワクチン接種があまりにも遅れている」ことだった。
 米国では現在、B型肝炎、おたふく風邪、水痘(水ぼうそう)など13の疾患について国の責任でワクチン接種を実施し、基本的に無料だ。「米国では病院でかかる医療費が高いという事情もあり、ワクチンで防げる病気は予防接種で減らそうという意識が高い」と斎藤さん。90年代から次々にワクチン接種が増え、所定の接種を受けないと入学を拒否される場合もある。
 一方、日本のワクチン接種は、国が勧奨し公費で負担する「定期接種」と、希望者が自己負担で受ける「任意接種」に大別され、「定期接種」はジフテリア、麻疹(はしか)、日本脳炎など8疾患に過ぎない=表参照。
 8月13日に東京都内で開かれた日本小児科学会の国際シンポジウムでも、ワクチン接種がテーマの一つになった。基調講演した国立病院機構三重病院の庵原(いはら)俊昭院長は、おたふく風邪(流行性耳下腺炎、ムンプスとも)を例に挙げた。
 おたふく風邪はウイルスで感染し、耳の下が腫れ、発熱や頭痛、食欲低下などが1週間程度続く。頻度は低いが、脳の髄膜炎や難聴などの合併症を伴う。死亡はまれだが、3~6歳を中心に年間5000人前後が重い症状で入院。思春期以降に感染すると、精巣の萎縮や精子の減少が起きたり、妊婦は流産の危険性もある。
 日本では「任意接種」で、接種率は統計がないものの、「ワクチンの製造量から推定して30%程度とみられる」(庵原さん)という。
 庵原さんは「おたふく風邪のワクチン接種を1~2回行うと、発症者が約90~95%も減ることがイギリスやノルウェーなどの調査で分かっている。先進国27カ国でワクチンをしていない(任意にしている)のは日本だけ。おたふく風邪の怖さが認識されていないのではないか」と訴えた。
   *
 なぜ、重症化の恐れがある感染症でも、予防のためのワクチンが任意接種なのか。日本赤十字社医療センターの薗部友良・小児科顧問は「日本のワクチン接種が遅れたのは訴訟による影響が大きい」と見る。
 おたふく風邪は、MMR(麻疹、おたふく風邪、風疹)ワクチンの一つとして、日本でも89~93年に予防接種が義務付けられていた。しかし、接種した約1800人が発熱、嘔吐(おうと)などを伴う「無菌性髄膜炎」の被害に遭った。副作用は約1000人に1人の割合にのぼり、子供が急性脳症で死亡するケースも出た。遺族らが国やワクチンメーカーを相手取った損害賠償請求訴訟が相次ぎ、国がほぼ全面的に敗訴した。
 MMRワクチンは中止され、94年には予防接種法が改正。ワクチン接種は強制的な義務から、「予防接種を受けるよう努めなければならない」という努力義務に変わった。8疾患のワクチン接種は続いたが、接種を受けるかどうかは本人や保護者の判断に任された。
 以降、国の定期接種は高齢者向けのインフルエンザを除き、一つも増えていない。厚生科学審議会での予防接種制度の見直し論議も進むが、「財政が厳しく、定期接種を増やすと予算がかかるのがネック」(厚生労働省担当者)との事情もある。
 現在のおたふく風邪のワクチンは改良され、無菌性髄膜炎の副作用の発症率は約2000~2万人に1人の割合とされる。しかし強制でなくなったことで、かえって「接種は危ないのではないか」というマイナスイメージも残っている。
   *
 任意接種のワクチンでも、有用性を認めて積極的に接種を進めている医師もいる。
 三重県亀山市の「落合小児科医院」の落合仁院長は約20年間、おたふく風邪のワクチン接種に取り組んできた。接種した子供は約6000人にのぼる。05年には同市内で約300人がおたふく風邪になる集団感染があり、1人が難聴になった。しかし、接種した子供たちからはこれまで「難聴のような重い症状は出ていない」(落合さん)という。
 亀山市も08年度から、おたふく風邪のワクチン接種に、1人3000円の助成を始めた。同小児科医院での接種費用は8000円のため本人負担は5000円だ。同市の3歳時点での接種率は約7割と高く、落合さんは「接種率が90%になれば、流行をほぼ抑えられるのでは」と期待する。
 おたふく風邪の国内の患者数は数年ごとに流行の周期があり、02~07年では年間約43万~136万人(国立感染症研究所まとめ)。これに対し米疾病対策センター(CDC)によると、米国(人口約3億人)では昨年で約980人と極めて少ない。厚労省のまとめでは、おたふく風邪のワクチンを公費で一部助成するのは水戸市、名古屋市など61市区町村(昨年3月時点)にとどまっている。
 庵原さんは「どのワクチンでも副作用をゼロにはできない。しかし、おたふく風邪は1歳を過ぎて早めに接種すれば、間違いなく発症を相当に防ぐことができる」と国の定期接種化を求めている。【小島正美】
   *
 日本のワクチン政策は「途上国並み」といわれる。どんな病気がワクチンで防げるのか。現状を3回にわたりリポートする。

 ◇定期接種
 予防接種法に基づき、国の責任のもとで市区町村が勧奨する接種として行う。健康被害が出た場合は健康被害救済制度の対象となり、症状に応じて給付金が払われる。一方、ワクチン自体は国で承認されているものの、定期接種には組み入れられていないワクチンもある。医師や医療機関が自発的に行う任意接種で、おたふく風邪や水痘、B型肝炎などがある。任意接種で副作用が出た場合は、国の承認ワクチンなら、一般の医薬品の副作用救済制度の対象となる。「定期接種」と「任意接種」の二つがあるのは世界でも珍しい。

 ■ワクチン接種の日米比較

         (日本)(米国)

ジフテリア      ○  ○
百日ぜき       ○  ○
破傷風        ○  ○
麻疹(はしか)    ○  ○
風疹         ○  ○
ポリオ        ○  ○
日本脳炎       ○  ×
BCG        ○  ×
おたふく風邪     ▽  ○
水痘(水ぼうそう)  ▽  ○
ヒブ         ▽  ○
肺炎球菌       ▽  ○
ロタウイルス     ▽  ○
B型肝炎       ▽  ○
子宮頸(けい)がん  ▽  ○

 ○…国が公費で実施
 ▽…希望者が本人負担で行う(自治体の助成や健康保険の適用がある場合もある)
 ×…接種を実施していない

中 感染で後遺症負う恐れ

 ◇ロタウイルス、年80万人受診 1割は入院
 ◇細菌性髄膜炎、高い致死率 手足にまひも
 「その日の朝まで元気だったのに、重症化するとは思ってもみなかった」と、大阪府内の女性(32)は医師に語った。生後1歳7カ月だった長男が突然、白い便の下痢と嘔吐(おうと)を始めた。「ロタウイルス」による胃腸炎だった。自宅で処方薬を服用していたが、けいれんが起き、名前を呼んでも反応がなくなった。治療で何とか回復したものの、脳症の後遺症で左半身がやや不自由に。5歳になった長男は、現在もリハビリを続けている。
 治療に当たった大阪市立住吉市民病院の外川正生・小児科部長は「ワクチン接種が広がれば、こういう悲しいケースは減るでしょう」と話した。
 下痢を起こす感染症の原因としては、病原性大腸菌O157やノロウイルスがよく知られているが、ロタウイルスは実は、乳幼児の急性胃腸炎の最大の原因。ほとんどの乳幼児が5歳までに感染する。嘔吐や発熱が生じ、コメのとぎ汁のような白い下痢便が続くのが特徴だ。
 川崎市で小児科医院を開業する片岡正医師も以前、1歳児の患者を診た。意識がもうろうとし、口呼吸ができないほどぐったりしており、大学病院に緊急搬送した。「たかが下痢とあなどってはいけない。ロタウイルスは重症化すると脳炎を起こし要注意だ」と警告する。
 大阪労災病院の川村尚久・小児科部長によると、乳幼児に生じる脳炎、脳症の原因で最多はインフルエンザウイルス、次に突発性発疹で、3番目がロタウイルスという。国立感染症研究所によると、毎年約80万人の乳幼児が受診し、うち約1割がけいれんなどで入院し、死亡例もある。現在まで、ロタウイルスを撃退する抗ウイルス薬はない。
 米国では06年から、本格的にワクチン接種が始まった。導入前は乳幼児の入院患者が年間6万人以上いたが、導入後は約7500人と約9割減ったという。今夏に来日し、厚生労働省と情報交換した米国予防接種呼吸器疾患センターのメリンダ・ウォートン副所長は「死亡する子供が毎年数十人いたが、ワクチンの導入でほとんどなくなった」と語った。
 世界保健機関(WHO)は09年、ロタウイルスのワクチンを乳幼児の感染症防止で最重要ワクチンの一つと位置づけた。世界では既に100カ国以上がワクチン接種を導入している。一方、日本では外資系製薬会社が開発したワクチンが、今年7月に承認されたばかり。年内には使える見込みだが、公費の定期接種ではなく任意接種となる。
 ワクチンの臨床試験に携わった川村さんは「日本でもワクチン接種が徹底されれば、重症化する乳幼児は9割以上減る」とみる。定期接種にした場合でもコストは100億円程度といい、「集団感染に伴う治療費や親が仕事を休む損失を考えれば、財政面でも、ワクチン接種は国全体にプラスだ」と強調した。
     *
 乳幼児を襲う「細菌性髄膜炎」も発症すると、約3割が死亡または後遺症を負う怖い病気だが、ワクチンは定期接種ではない。
 患者や医師らでつくる「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」(大阪市)の高畑紀一事務局長は04年、3歳だった長男が突然発熱と嘔吐に苦しみ、意識を一時失った。幸い、抗生物質の投与などで回復したが、医師からは「3分の1の確率で死に、3分の1の確率で後遺症が残るところだった」と言われた。高畑さんは当時、ワクチンのことを全く知らず、「海外ではヒブワクチンの接種で感染が激減している」と聞き、さらに驚いた。
 細菌性髄膜炎を起こす主な原因菌は、細菌のヒブ(インフルエンザ菌b型)と肺炎球菌。脳の髄膜につくと発熱、頭痛、嘔吐、けいれんなどの症状を引き起こし、初期は風邪と判別しにくい。年間約1000人がかかり、知的障害や手足のまひが残る場合もある。
 守る会によると、米国や英国ではワクチン接種が導入され、細菌性髄膜炎の発症率は100分の1程度に激減し、もはや脅威とはいえない状態になっているという。同会は「ヒブワクチンの接種は世界約130カ国で行われ、デンマークでは発症がほぼゼロだ」とし、デモ行進もして定期接種化を広く訴えている。
 日本ではヒブワクチンが08年12月、小児用肺炎球菌ワクチンが昨年2月に、任意接種として始まった。多くの自治体が助成制度を設け、約9割の地域で自己負担はない。
 ところが今年3月、ワクチン接種が一時中止された。二つのワクチンの同時接種後に、全国で7人の乳幼児が死亡していたことが明らかになり、厚労省は接種の見合わせを自治体に通知。その後、専門家の検討会議で「明確な因果関係は認められない」との結論が出て、4月1日から再開された。だが、「接種率は元に戻っていない」(同省)という。
 日本赤十字社医療センターの薗部友良・小児科顧問は「両ワクチンは10年以上前から、海外で数億回も接種されているが、死亡との因果関係は認められていない。重い副作用がゼロではないが、ワクチンをしない方が子供を危険にさらす確率は高い」と指摘する。
     *
 接種による副作用のリスクと、接種しない場合の感染・重症化のリスクは、最終的には本人や保護者の判断。一方で「任意接種」のままで助成がなければ、接種の機会を狭めかねない。薗部さんは「自己負担を伴う接種では、受けられない人が出てくる。命に格差があってはいけない」と訴えている。【小島正美】

 ◇母子手帳とワクチン接種◇
 乳幼児期に接種するワクチンのうち、国が行う「定期接種」は種類や接種スケジュールが母子健康手帳に記されているが、自己負担の「任意接種」は手帳に記載がなく、行政からの情報提供も少ない。片岡正医師は「任意、定期とも疾患予防の重要度に差はない」と話している。
 母子手帳には定期接種を受けたかどうかの履歴が残るため、成人後も保管しておくと、感染症が流行した時や海外旅行などの際に役立つ。母子手帳と分離し、「予防接種手帳」などを配布している自治体もある。

下 世界標準の対策急務

 ◇家族間、性交渉での感染例も--B型肝炎
 ◇乳幼児中心に年10人前後死亡--水痘
 世界は天然痘をすでに根絶し、次いでポリオ(急性灰白髄炎、いわゆる小児まひ)やB型肝炎を制圧しようとしている。だが、「日本のB型肝炎対策は世界の水準から、あまりにもかけ離れ、途上国並みにも達していない」。済生会横浜市東部病院こどもセンターの藤澤知雄・肝消化器分野専門部長はきっぱりと言う。ワクチン接種で予防できるのに、あまり認知されていないという嘆きだ。
 日本小児科学会などによると、世界ではタイ、ベトナムなど170カ国以上が、世界保健機関(WHO)の推奨に基づき、子供たちにB型肝炎のワクチンを接種している。台湾では84年から全出生児に接種させ、子供への感染や肝がんの発症が激減した。
 日本では、B型肝炎ウイルスの持続感染者(キャリアー)は推計110万~140万人とされる。集団予防接種での注射器使い回しによる被害患者も含まれている。大半は発症しないが、10~15%の人は慢性肝炎となり、肝硬変や肝がんになる患者もいる。
 死亡者は年間5000人前後と多いが、ワクチンは「任意接種」だ。藤澤さんは「ワクチンで救える数や有効性から言えば、B型肝炎ワクチンの優先順位は高い」と語る。
 ウイルスは血液のほか唾液、尿、汗、涙からも見つかる。口移しで食べものを与えたり、歯ブラシを共有したり、傷口が触れあったりするうちに家族間で感染する恐れもある。
 母子感染を防ぐため1986年からは、妊婦の検査でウイルスが見つかった場合は、子供にワクチンを接種する事業が始まった。予防に成功しない例も約5~10%あるとみられるが、それでも母から子への感染は10分の1程度に減った。
 一方、父子感染が今も少なくない。大阪府立急性期・総合医療センターの田尻仁・小児科主任部長らは昨年、検査でB型肝炎と分かった187人の感染源を調べた。85年以前に生まれた102人のうち6人(約6%)、86年以降に生まれた85人では13人(約15%)が父子感染だった。田尻さんは「父子感染はこの30年間減っておらず、対策が放置されてきた」と指摘し、「妊婦検診に合わせ、夫も検査を実施すべきだ」と訴える。
 「肝臓病」(岩波新書)を著した順天堂大医学部の渡辺純夫教授によると、B型肝炎ウイルスは遺伝子の型からA~Hの八つのタイプがある。日本や中国、韓国はB、Cタイプが大半を占め、欧米やアフリカではAタイプが多い。最近は日本でも、思春期以降に「Aタイプ」のB型肝炎に感染するケースが目立っており、性交渉による感染が増えているとみられる。
 B型肝炎ウイルスは、エイズウイルス(HIV)よりも感染力が強い。渡辺さんは「事前にワクチン接種をしておけば、Aタイプを含め、ほとんどのB型急性肝炎は防げる」と強調する。
     *
 ウイルスで起きる水痘(水ぼうそう)も、ワクチンは任意接種のままだ。かゆみの強い水ぶくれが体中にできる。毎年、1~4歳の乳幼児を中心に約70万~90万人が感染。うち4000人前後が重症化して入院し、10人前後が死亡するとされる。
 米国では予防接種の導入で入院患者は約10分の1に減り、死亡者も約3分の1に減ったが、日本の接種率は3割前後と低い。峯真人・峯小児科院長(さいたま市)は「重症の新生児だと約2~3割が死亡する。たかが水痘と軽く見てはいけない。水痘ワクチンの安全性は高く、国の定期接種化が必要」と訴える。
 ワクチン接種の推進を訴える医師は増えている。「おおた小児科」(千葉市)の太田文夫院長らはワクチンの重要性を知ってもらうため、全国の医師とともに自費で啓発広告を掲げ、接種を呼びかけている。09年からは広島市で、風疹や麻疹(はしか)の撲滅を目指すキャンペーンを行い、マツダスタジアムや電車内に看板や広告を掲示している。
 日本小児科学会など13学会は昨年11月、「全国民が無料で予防接種が受けられるよう国策として実施すべきだ」と予防接種法の改正を厚生労働相に要望した。「予防接種で予防できるすべての疾患」について、無料化を求めた。定期接種と任意接種の区分が、他の先進国との「ワクチンギャップ」を招いているとも批判した。
 ワクチン接種のあり方を審議している厚生科学審議会予防接種部会は今年7月上旬、B型肝炎、水痘、おたふくかぜ、ヒブ、子供と成人の肺炎球菌、子宮頸(けい)がんの七つの疾患で「ワクチン接種の促進が望ましい」との意見をまとめた。七つの疾患で当初は約5000億円、その後は年間約2000億円の費用がかかるとの試算も示した。
 一方、ワクチン接種の有効性に疑問をもつグループもある。シンポジウムなどを通じワクチンの在り方を問う活動を続ける「ワクチントーク全国」(東京都)事務局の青野典子さん(保育園園長)は「ワクチンすべてに反対ではないが、結核予防のBCG接種は6カ月以内に接種すると副作用が多いという報告がある。国は副作用情報も含め、もっと情報を一般に知らせることが必要」とし、改善すべき点は多いと話す。
 ワクチンと感染症に詳しい斎藤昭彦・新潟大医学部教授は「乳児へのワクチン接種は、太ももに打つのが世界標準なのに、日本はいまだに痛みや腫れが出やすい腕の皮下に打っている。世界の標準から遅れないことが大切」とし、「国や政治がもっと積極的に国民的コンセンサスを得ながら、ワクチン接種を積極的に進めてほしい」と話した。【小島正美】

 ◇集団生活と感染◇
 保育園や学校、医療・介護施設など集団生活の場でも、B型肝炎の予防対策が問われている。厚生労働省は「口移しで食べものを与えない」「カミソリや歯ブラシを共有しない」といった注意事項を守るなど「ごく常識的な生活をしている限り、感染しない」としている。ただし過去に保育園での感染例もあり、藤澤知雄医師は「けんかなどで生じた子供の傷口から感染する場合もありうるので、優先して接種すべきだ」と主張する。キャリアーの人が差別されないような配慮も大切となる。

■ 感染症と人の戦い(2010年10月:産経新聞)

戦略的な予防接種計画を

 子宮頸(けい)がん、乳幼児の細菌性髄膜炎の原因となるインフルエンザ菌b型(Hib)、肺炎球菌のワクチンを公費負担にする機運が盛り上がり、定期接種化される可能性がでてきた。大変よいことだ。しかし、この3種類だけを定期接種にすれば安心か、というとそうではない。定期接種化が必要なワクチンはまだ数多くある。子供たちをどうやって健康に育てるかという問題は義務教育の費用と同じ。財政が厳しいなか、多少の金額が最初にかかるが、病気にかかるよりは費用対効果も高い。病気本来の姿をよく見極め医学的見地から戦略的、計画的に議論しなければならない。
 日本は“ワクチン後進国”と揶揄(やゆ)されることがある。1980年代から最近まで、日本は7種類のワクチンを導入したが、米国では18種類のワクチンを開発して実用化した。その間、日本ではワクチンに対する不信感などのため新しいワクチンを取り入れようとする雰囲気はなかった。わが国は比較的感染症の少ない、また国民性として清潔好きな国であること、諸外国と比べ医療機関へのアクセスがよく、国民皆保険のために高額な薬もふんだんに使え、「ワクチンは子供の成長のための必需品」という感覚が他国と比べ少なかったことも一因だろう。
 ワクチンは数百万~数千万人単位に接種した場合、残念ながら重症の副反応が出ることがまれにある。例えば最も副反応発生頻度が高い麻疹(ましん)ワクチンを200万人に接種すると(確率的に)ワクチンとの関連が疑われる死亡者が1人出る。しかし、それを恐れて予防接種を受けないと200万人の患者中2千人が死亡する。副反応が出てよいというわけではもちろんないが、予防接種自体をやめてしまってはいけない。
 車社会を考えてみよう。現在でも年間約5千人が交通事故死するが、車を作るのをやめようという議論にはならない。生活の必需品だからだ。さらに安全性を高めた車の開発、乗り方を考えるようになる。ワクチンは感染症から身を守るための必需品だ。ただし、完璧(かんぺき)に安全か、というと残念ながらそうではなくまれに重い副反応が生じてしまう。だからこそ、より安全性の高いものを開発し続けていく必要がある。
 これまで日本はBCGや百日ぜきワクチンで副反応の少ない優れたワクチンを世界に先駆けて開発した。水ぼうそうも大阪大学の高橋理明名誉教授が水痘ワクチンを初めて開発し世界中に広めた。天然痘やポリオも早々と根絶した。麻疹ワクチンもその導入時期は遅くはなく、決して“後進国”ではなかった。
 しかし今、海外の多くの国で広く使われながら、わが国では定期接種化されていないワクチンがある。個人の費用負担(任意接種)となっているワクチン、つまり、時に重症となる水痘▽難聴になる頻度が高いおたふくかぜ▽肝がんの原因であるB型肝炎▽副反応発生頻度を激減させるポリオの不活化ワクチン▽成人百日ぜきを予防する年長者でのDPT3種混合ワクチン-などについて、定期接種化を継続して議論し、国としての戦略を立てるべきである。子供たちはワクチンによって防げる病気から逃れる権利を持っている。それを守るのは大人たちであるのだから。

(国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦)

■ ワクチン”格差” ヒブは20年(2010年4月:産経新聞)

 子供の重い後遺症や避けられる死を、予防接種で防ごうという取り組みが広がっている。「20年遅れた」ともいわれる戦後の予防接種行政を見直すため、厚生労働省は今後2年かけて、新設した専門部会で審議する。公費の「定期接種」をきちんと受け、保護者負担の「任意接種」にも目配りしたい。(牛田久美)

 ◆発熱で感染が判明

 山口県周南市の斎藤裕子さん(36)は昨年12月、1歳9カ月の次男、伊吹(いぶき)ちゃんを細菌性髄膜炎で亡くした。
 発熱し、翌日夜には意識、自発呼吸がなくなった。当初は新型インフルエンザが疑われたが、発熱から3日後、ヒブへの感染が判明。12月1日、裕子さんの腕の中で静かに息を引き取った。「こんな怖い病気があるのか」。初めて細菌性髄膜炎を知った。
 「ワクチンを接種していれば防げたと知り、何度も自分を責めました。ただ、正しく知っていれば積極的に接種させたかといえば、『はい』と自信を持って言えない。長男は大丈夫だったし、今も『わが子に限って』と考える方は少なくないはず。これが任意接種の壁だと思います」
 裕子さんはこう話し、「具合の悪さを言葉でうまく伝えられない幼い子が多く犠牲になる病。だからこそ、早い月齢からすべての子供に機会が与えられるよう、定期接種化を強く願います」と訴える。

 ◆小児科医以外でも

 伊吹ちゃんが亡くなった原因の細菌性髄膜炎は、先ごろ承認されたヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種していれば、ほぼ防げるとされる。
 「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」副代表で、耳原総合病院小児科の武内一医師は「ヒブ、肺炎球菌ワクチンの定期接種化によって、疲弊した時間外の小児医療現場は様変わりする」と指摘する。
 これまでは突然の高熱の場合、髄膜炎の可能性も考えて診察してきた。しかし、定期接種となれば、接種歴の有無によってある程度の診療方針を見極められる。武内医師は「小児科医以外でも対応できる。医師は『念のため』と抗生物質を処方する必要がなくなる。社会から菌をなくせばお年寄りを間接的に守れることになり、それは海外のデータが示している。何より、病をなくすことで苦労や悲しみから家族を解放したい」と話す。

任意接種 公費助成する自治体も

 髄膜炎を防ぐヒブワクチンは、米国より20年遅れて平成19年に日本で承認された。今春、発売された小児用肺炎球菌ワクチンの承認は9年遅れだ。

 遅れが目立つのは、ヒブや肺炎球菌だけではない。不活化ポリオやロタウイルスでは、海外で用いられているワクチンが未承認。国内ではポリオは依然、生ワクチンが使われているために感染の事例が報告される。

「すべての子供に接種の機会を」

 やっと承認されても、その後の対応も鈍い。予防接種には、予防接種法が定める公費の「定期接種」のほか、親の判断に任される「任意接種」もある。
 ヒブワクチンは世界では133カ国で定期接種化。ようやく登場した日本では任意接種のため、なかなか広がらない。専門医によると、日本の遅れがアジアに影響し、アフリカより後進地域となっているという。
 このため、自治体の中には任意の定期接種では予防が進まないとして、公費助成に踏み切るところも多い。専門医の試算では、ヒブワクチンを定期接種化した場合の費用は332億円に対して、しなかった場合に細菌性髄膜炎を発症した患者への治療費・後遺症への介護費用は414億円。こうした損失を抑えようと、助成に乗り出した自治体は116に上る。
 こうした自治体の動きの一方で、厚生労働省は予防接種部会を新設し、2年かけて日本の予防接種を見直し、予防接種法を改正する方針だ。
 3月の会合では、17年以来控えられ、昨年再開された日本脳炎の予防接種が議題になった。ワクチンを実質的に受けられなかった「5年間のギャップ」があり、接種が急がれるが、生産量が追いつかない。「日本脳炎にかかるリスクの高い地域や、国の方針で接種の機会を逃した子供たちへの接種について情報提供する必要がある」と指摘された。
 全額公費で行われる「定期接種」が行きわたるような環境整備、保護者負担の「任意接種」にも目配りされることが求められる。

■ ”ワクチン後進国” 脱却へ(2010年3月:産経新聞)

 「ワクチン・ラグ」という言葉がある。海外で使えるワクチンが、日本では承認されない状態を表現するとともに、日本のワクチン行政そのものの20年にもわたる停滞を指摘する言葉だ。
 新型インフルエンザが日本で本格的に流行し始めた昨年8月20日。衆院選で遊説中だった舛添要一厚生労働相=当時=に、厚労省幹部から電話が入った。「大臣。約4千万人分のワクチンを輸入したいのですが」。国産のワクチン生産能力は1800万人分しかない。輸入が必要だった。
 舛添厚労相は「あと2割余分に積もう」と指示した。余裕をもって備えたいとの判断だった。かくして1126億円をかけて4950万人分のワクチンが、あたふたと緊急輸入されることになった。
 だが、厚生労働省がワクチン輸入を承認したのは1月20日。すでに海外では先立つこと3カ月、昨年10月末に同一ワクチンは承認されていた。
 結果的に11月末には流行が下火になったため、大量のワクチンが余ることにはなったが、厚労省には3カ月をかけ、ワクチンの日本人での効果と安全性を確かめるための臨床試験が必要だった。
 北海道大の喜田(きだ)宏教授(微生物学)は「問題の本質は、なぜ輸入しなければいけなかったのかということ。日本のワクチン行政は20年間停滞していた。それが今回、浮き彫りとなった」と指摘する。
  ■   ■
 「ワクチン後進国」。日本の脆弱(ぜいじゃく)なワクチン行政はしばしばこういわれてきた。
 厚労省によると、平成20年までの20年間で、米国では21種類の新たなワクチンが承認されたが、日本はわずか4種類。
 顕著な例が「不活化ポリオ(小児まひ)ワクチン」。米国では昭和62年から使われているが、23年たった今も国内では未承認だ。
 昨年承認された小児用肺炎球菌ワクチンは米国の9年遅れ。ラグが3年と比較的短かった子宮頸(けい)がん予防ワクチンも、世界的には99番目という遅さだった。
 薬害エイズなど、厚労省には薬の安全性をめぐる苦い過去がある。その経験が、新薬の承認を慎重なものにさせてきた。
 ワクチン行政に関しても同じ。喜田教授は「批判を恐れすぎてきた」という。
、ワクチンの必要性を多くの人が認識した。
 厚労省も昨年末、専門家などによる予防接種部会を新設。“ワクチン後進国”からの脱却を図ろうとしている。初会合で厚労省の上田博三健康局長はワクチン行政の遅れを認めた上で「不退転の気持ちで大改革に取り組みたい」と宣言した。
 行政の姿勢が追い風となり第一三共、武田薬品工業といった大手製薬会社もインフルワクチン製造参入に動き始めた。
 ワクチンに詳しい三重病院の庵原(いはら)俊昭院長は「ワクチンには将来の病気を予防し医療費を抑える効果がある。安全性を担保しつつ、行政がどれだけ予防医療を前向きにとらえるかが問われている」と話している。

<関連ページ>

<参考ホームページ>

KNOW-VPD!VPDを知って、子どもを守ろう

あなたの市町村はどうですか?

麻疹合併症であるSSPEのHP。

1/1000人(!)と云われるおたふくかぜの合併症。

日経トレンディネットの記事(2010年10月)

国立感染症研究所:感染症情報センターのHP。

小児科医のタネ本です(2011年版)。